
旧NISAはどうする?
「一般NISA」の
賢い出口戦略

2025年の日本における賃上げ動向は、連合(日本労働組合総連合会)の春季生活闘争(春闘)において、歴史的な高水準を記録しました。
連合の最終集計によると、定期昇給分を含む賃上げ率は平均5.25%に達しました1)。
5%を超える水準は2年連続であり、連合の結成(1989年)以降では、1990年・1991年に次いで3番目の高さです。
また、石破首相は2025年1月の施政方針演説で、「賃上げこそが成長戦略の要」と明言し、物価上昇を上回る賃上げによって、国民の所得と経済全体の生産性向上を図ると表明しました2)。
また、内閣府「令和7年度 年次経済財政報告」では、米国トランプ政権の関税リスク等に言及されているものの、「我が国において、賃金と物価の好循環は回り始め、定着しつつある。」と指摘3)しており、労使双方の合意と政府の後押しによる賃上げが着実に定着へと向かう流れになっているといえます。
このように国内で賃上げが浸透しつつあるなか、働いている人達はそもそも「会社からの報酬」に満足しているのでしょうか。
ミライ研では、2025年1月に全国1万人規模の調査を行い、そのうち約7,600人の勤労者における「金銭的報酬4)」に対する満足度を調査しました。
アンケート調査では、勤労者の報酬水準への満足度を5段階(とても満足・満足・どちらでもない・不満・とても不満)で調査しました。
すると、報酬に満足している人の割合は全年代で21.6%にとどまり、不満を持つ33.5%に比べて少ないことが分かりました。
年代別では、若年層ほど満足度が高く、18~29歳は「満足」の回答割合が、「不満」の回答割合を上回る結果になりました。一方で、年代が上がるにしたがって、報酬満足度は減少傾向となりました(60代を除く)。
年収が高ければ、報酬満足度は上がるのでしょうか。
個人年収別で分析したところ、図表2のとおり、年収1,000万円付近までは、年収と満足度は比例して上昇していました。
しかしながら、「とても満足」「満足」の割合は年収1,000万円の層で頭打ちとなり、それ以上では、ほぼ横ばいとなりました(ただし、「とても満足」の回答者は増加しました)。
勤労者が報酬に満足している/いない原因は、単に金額の問題だけでなく、人事評価や業務内容など様々な要因が複雑に絡み合っていることが考えられます。
しかしながら、年代では40-50代における報酬満足度は低く、年収別では年収1,000万円程度で「満足」と答えた割合が横ばいになっている傾向が見て取れました。
次回は、報酬に対して「とても満足」「程度」との回答者を「満足している群」、「不満」「とても不満」との回答者を「不満がある群」と称し、この両者の「家計行動」の違いを考察していきます。
上記の記事に加え、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)より
勤労者は金銭的報酬に満足しているのか −満足度向上のカギは金融教育と退職金水準の把握?−
を資産のミライ研究所のHPに掲載しています。
是非、ご覧ください。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第209回】 勤労者は金銭的報酬に満足しているのか①
2025.10.08
2025.10.01
2025.10.01
前回に続き、単独ローンを利用している世帯とペアローンを利用している世帯の違いを確認していきます。今回は住宅ローンの利用方法についてです。
まず、金利形態については、単独ローンかペアローンかによらず、変動金利が約6割、固定金利が約3割、変動金利と固定金利の組み合わせが1割弱となっていました(図表1)。ペアローンであれば、「一方は変動金利、もう一方は固定金利」と金利形態を組み合わせることも検討の余地があるように思われますが、それでもやはり「より利率の低い変動金利」を選択した人が多かったものと思われます。
また返済比率も、金融機関の審査基準に多い「3割くらい*」までに収まっている割合が、単独ローンで92.8%、ペアローンで90.3%とほぼ同水準でした(図表2)。ただしその内訳は、単独ローンが、「返済比率2割くらい(42.3%)>1割くらい(31.8%)>3割くらい(18.7%)」であるのに対し、ペアローンは、「2割くらい(43.8%)>3割くらい(23.7%)>1割くらい(22.8%)」と高い比率にやや偏りがみられました。
次に世帯年収を3つの区分に分けて借入金額の中央値を比較したところ、いずれの世帯年収区分においてもペアローンが単独ローンの約1.3倍となっていることが分かりました(図表3)。
その結果、「頭金割合」と「借入期間」には単独ローンとペアローンで差が生じています。住宅を購入した時の保有金融資産額(図表5)の分布には大きな差がみられなかったものの、頭金ゼロ・1割の比率は、単独ローン61.9%、ペアローン70.0%と差が出ています(図表4)。おそらく、頭金の“実額”自体は同程度であったとしても、借入金額が大きい(≒物件金額が大きい)分、頭金の“割合”としては小さくなっているものと思われます。
さらに顕著な差が出ているのが、借入期間です。いずれも「借入期間35年」の選択が最も多くなっていますが、単独ローン50.4%、ペアローン57.9%とペアローンの方が多くなっています。また、35年未満の割合は、単独ローン47.1%、ペアローン34.2%と大きく異なり、ペアローンにおいては、36年以上が7.9%にものぼりました(図表5)。
つまり、ペアローンの方が「より高額な物件」を「借入期間をより長期化させて」購入する傾向がみられました。
高額で長期化したペアローンは、不動産価格が高騰する中で希望の物件を手に入れるための“策”かもしれません。しかし、「長期の借入れ」には「ゆとりのある返済計画」が不可欠です。なぜならば、長い期間の間に自分自身も周囲の環境も変化していくからです。自身や家族の意思で変化するだけではなく、予期せぬ出来事で住宅ローン借入時に想定していたのライフプラン・マネープランが大きく変化する可能性もあります。さらに近年では、年功序列の見直しや雇用の流動性の高まりなど、かつてのように「年を重ねれば、自然と収入が増えていく」ことや「退職時には、まとまった額の退職一時金が受け取れる」といった従来的な雇用慣習も変わりつつあります。
その結果、「最初は返済がきつくても、徐々に収入が上がって楽になるはずだ」や「退職金での繰上返済も視野に入れた返済計画」といった、借入当初に期待していたことも“当てが外れる”可能性があります。そのような場合、家計いっぱい・期間いっぱいで借り入れているほど、調整を行う余地は少なくなってしまいます。住宅ローンを借りる際には、家計にも心にも「ゆとりのある返済計画」となるよう、借入条件を検討する目線も重要です。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第208回】「高額」「長期化」しやすいペアローン②
2025.10.01
住宅ローンの借入形態には、1人で借りる「単独ローン」と夫婦やパートナーと2人で借りる「ペアローン」の2つの方法が代表的な借り方としてありますが、近年、不動産価格の高騰や共働き世帯の増加を背景に、ペアローンの利用が増加しています。ミライ研のアンケート調査でも、ペアローンの利用が高まっていることが分かっています(図表1)。
では、単独ローンを利用している世帯とペアローンを利用している世帯で、世帯属性や住宅ローンの利用形態に違いはあるのでしょうか。
まず、就労状況について確認をしたところ、自身・配偶者ともに有職者のいわゆる“共働き世帯”の割合は、ペアローンでは85.9%と当然ながら高いものの、単独ローンでも58.8%と半数を超えており、共働きでありながら単独ローンを選択している世帯も少なくないことが分かりました。
(注)図表2のうち、単独ローンの配偶者・パートナーはいない世帯については、その大半が「子どもがいない世帯」であり、住宅ローンを利用して購入する物件の間取りや金額、購入タイミングも二人以上世帯とは異なってくることが想定されるため、以降のペアローンとの比較分析においては除きます
次に、住宅ローン借入時の年齢については、単独ローンもペアローンも30歳代での借入れが最も多く、半数を超えています(図表3)。次に多い年代は、単独ローンでは40歳代(24.0%)、ペアローンでは20歳代(注:18-29歳を指す)(28.8%)となっており、ペアローンの方が若い世代の利用が多いことが分かります。おそらく、「一人の収入では希望の物件に手が届かないけれども、二人の収入であれば手が届く」という理由でペアローンを利用するケースがあるものと考えられます。
さらに、「現在の世帯年収」と「住宅を購入した当時の保有金融資産額」については、分布に若干の差はあるものの、世帯年収は「700万円以上~1,000万円未満」、住宅購入時の金融資産は「1万円以上500万円未満」の層がいずれも最も多くなっていました(図表4、5)。
これらの結果から、
ことが分かります。持っているお財布の大きさはそれほど変わらないということであれば、住宅ローンの利用方法についても、違いは見られないのでしょうか。その点については、次回のコラムでお伝えします。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第207回】 「高額」「長期化」しやすいペアローン①
2025.09.24
2025.09.17
これまでのコラムでは地域ごとでの住居選択や借入方法の特色を見てきました。今回は住宅ローンが与える家計への影響や影響軽減のための工夫、最後に各地域の特色をまとめてみたいと思います。
まず、住宅ローンの返済比率(年収に対する年間返済額の割合)について見てみましょう。調査結果によると、どのエリアでも「世帯年収の3割以下」に収まっている世帯が多数派ではあるものの、約5人に1人は「4割以上」の返済比率となっており、家計への負担が大きい世帯も一定数存在しています【図表1】。
特に近畿圏では、他のエリアと比べて返済比率が高い傾向が見られました。これは、前回のコラムでも解説した通り、近畿圏では他エリアと比較して若いうちに住宅を購入する傾向が強いことから、結果的に返済比率が高くなっていることが考えられます。
次に、返済期間についてです。全国的に「35年以上」の返済期間を設定している世帯が4割を超えており、長期化の傾向が顕著です【図表2】。特に、3大都市圏以外の地域では「36年以上」の返済期間を選択する割合が1割を超えており、都市部よりも長期ローンを選ぶ傾向が強いことがわかります。
これは、住宅価格の上昇に伴い、月々の返済額を抑えるために返済期間を延ばすという工夫が広がっていることを示しています。家計への負担を軽減するための現実的な選択として、長期ローンが浸透している様子がうかがえます。
ここまでの調査結果をもとに、各地域の住宅購入・住宅ローンの傾向をまとめてみましょう。
首都圏
<傾向のポイント>
近畿圏
<傾向のポイント>
中京圏
<傾向のポイント>
その他地域
<傾向のポイント>
住宅価格の上昇や金利の変動が続く中で、住宅ローンの組成内容はますます複雑になってきています。今回の調査からは、ペアローンの利用増加や返済期間の長期化は首都圏だけではなく、地域による強弱はあるものの全国的な傾向であり、生活者が自分たちのライフスタイルや家計の収支に合わせて工夫し、柔軟に対応している姿が浮かび上がりました。
これから住宅ローンを検討する方にとっても、すでに借入をしている方にとっても、今一度「自分たちの暮らしのウェルビーイング追及にとって最適な返済計画とは何か」をしっかりと見つめ直すことが一層重要になってくるのではないでしょうか。
より詳細な調査データについてはこちらのレポートをご覧ください。
コラム執筆者
桝本 希(ますもと のぞみ)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2015年三井住友信託銀行入社。奈良西大寺支店にて、個人顧客の資産運用・承継コンサルティングに従事。2019年よりIT業務推進部にてシステム開発・保守業務に携わった後、22年より現職。ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する調査研究・情報発信を行う。ウェルビーイング学会会員。
【第206回】エリアで見る住宅ローンのリアル③
2025.09.17
2025.09.12
三井住友信託銀行が企業年金のお客さまを対象に発行しております「年金コンサルティングニュース」に、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の清永研究員が「勤労者は金銭的報酬に満足しているのか−満足度向上のカギは金融教育と退職金水準の把握?−」のタイトルで記事を寄稿しました。是非、ご覧ください。
レポート
2025.09.12
前回のコラムでは、全国的に住宅価格が上昇していること、そして住宅ローンの借入額も高額化・長期化している傾向についてご紹介しました。今回は、ミライ研が実施した調査結果をもとに、エリア別の住宅ローン利用実態について詳しく見ていきます。
まず、住宅購入者の年代についてです。調査対象は、過去5年以内(2020年~2025年)に住宅ローンの借入を開始した方々です。どのエリアでも、20代・30代の若い世代が過半数を占めており、住宅購入の中心層となっていることがわかります【図表1】。
特に近畿圏では、20代での住宅購入が約4割と、他の地域よりも若年層の割合が高い傾向が見られました。地元に就職し、親族が近くに住んでいるなど、将来的にもその地域に住み続ける意向が強い方が多いと考えられます。こうした地域性は、住宅購入のタイミングにも影響を与えていそうです。
メディアでは「新築マンションの分譲平均価格○○万円超え」といった報道が目立ちますが、実際の住宅購入者が選んでいる住居形態は「戸建て」が圧倒的多数でした【図表2】。
首都圏ではマンションの割合が比較的高いものの、全体で見ると約7割が戸建てを選択。首都圏以外では8割以上が戸建てという結果となっており、報道でよく目にする「新築マンション」は、実際には少数派であることがわかります。土地付きの住宅を選ぶことで、将来的な資産形成や家族構成の変化にも柔軟に対応できるという点が、戸建て人気の背景にあるのかもしれません。
次に、住宅ローンの借入形態について見てみましょう。単独ローンとペアローンの利用状況を比較したところ、首都圏ではペアローンの利用が約3割と最も高い結果となりました【図表3】。
ただし、ペアローンの利用は首都圏に限った話ではなく、中京圏やその他の地域でも約2割が利用しており、全国的に一定の広がりを見せています。一方で、近畿圏では単独ローンの利用が約9割と非常に高く、先ほどの若年層の購入傾向と合わせて、「若いうちから一人でローンを組む」という価値観が根付いている可能性も考えられます。
最後に、金利形態の選択傾向についてです。3大都市圏(首都圏・近畿圏・中京圏)では、変動金利を選ぶ方が7割を超えており、借入時点での金利の低さを重視する傾向が強く見られました【図表4】。
一方で、3大都市圏以外の地域では、変動金利の選択率が約6割にとどまっており、固定金利を選ぶ方が比較的多い傾向にあります。これは、住宅価格が3大都市圏と比較して押さえられているため、ゆとりある借入計画が立てやすいことや、長期的な返済計画を重視する、といった地域性が反映されている可能性も考えられます。
今回は、住宅購入者の年代や住居形態、住宅ローンの借入方法、金利タイプの選択傾向について、エリア別にご紹介しました。地域によって住宅購入のスタイルや価値観が異なることが、調査結果からも明らかになっています。
次回のミライコラムでは、年収に対する返済比率や返済期間の違い、そして各地域の傾向をまとめた分析をお届けします。住宅購入を検討されている方にとって、より具体的な判断材料となる内容ですので、ぜひご覧ください。
コラム執筆者
桝本 希(ますもと のぞみ)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2015年三井住友信託銀行入社。奈良西大寺支店にて、個人顧客の資産運用・承継コンサルティングに従事。2019年よりIT業務推進部にてシステム開発・保守業務に携わった後、22年より現職。ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する調査研究・情報発信を行う。ウェルビーイング学会会員。
【第205回】 エリアで見る住宅ローンのリアル②
2025.09.10
近年、住宅市場を取り巻く環境は大きく変化しています。特に首都圏では、住宅価格の高騰や住宅ローンの借入額の増加が話題となることが多く、メディアでも頻繁に取り上げられています。しかし、こうした動きは首都圏に限った話ではありません。
国土交通省が公表する「不動産価格指数」によると、住宅価格は全国的に上昇傾向にあり、地方圏でも価格の上昇が確認されています【図表1】。これは、都市部への人口集中や土地の希少性といった構造的な要因に加え、好立地の獲得競争激化や人件費、資材費などを含む建築コストの上昇も影響していると考えられます。
実際に、同じく国土交通省が公表する「建築費指数」を見ると、2020年以降、木造・鉄筋コンクリート造を問わず、建築費が急激に上昇していることがわかります【図表2】。資材価格の高騰や人件費の上昇、さらには物流コストの増加など、複合的な要因が住宅価格に転嫁されている状況です。
こうした背景のもと、住宅購入にかかる費用も年々増加しています。住宅金融支援機構のデータによれば、土地付注文住宅の平均購入価格は首都圏で約5,680万円、マンションでは約5,801万円と、いずれも6,000万円に迫る水準となっています【図表3】。
住宅価格の上昇に伴い、住宅ローンの借入額も増加傾向にあります。加えて、返済期間も長期化する傾向が見られ、35年のローンを選択するケースが一般的になってきています。こうした状況の中で、住宅ローンの借入実態は地域によってどのような違いがあるのでしょうか。
今回、ミライ研では、住宅ローンの借入実態をより詳細に把握するため、過去5年以内(2020年~2025年)に住宅ローンの借入を開始した方を対象に調査を実施しました。調査では、全国を以下の4つのエリアに分類し、それぞれの住宅購入の概要やローンの借入方法などを分析しています。
【4つのエリア】
・①首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)
・②近畿圏(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県)
・③中京圏(愛知県・静岡県・岐阜県・三重県)
・④その他(上記以外の地域)
この調査では、住宅ローンの借入額や返済期間、金利タイプの選択傾向、ペアローンの活用割合など、生活者の実態に即した多角的な視点から分析を行っています。特に注目すべきは、首都圏とその他地域における固定金利と変動金利の選択傾向の違いやペアローン利用率に関する部分です。
次回のミライコラムでは、今回の調査結果をもとに、エリア別の住宅ローンの特徴や傾向について詳しくご紹介します。住宅購入を検討されている方や、将来的な資産形成を考えるうえで、地域ごとの実態を知ることは後悔しない住宅ローン活用のヒントになるはずです。ぜひご期待ください。
コラム執筆者
桝本 希(ますもと のぞみ)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2015年三井住友信託銀行入社。奈良西大寺支店にて、個人顧客の資産運用・承継コンサルティングに従事。2019年よりIT業務推進部にてシステム開発・保守業務に携わった後、22年より現職。ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する調査研究・情報発信を行う。ウェルビーイング学会会員。
【第204回】 エリアで見る住宅ローンのリアル①
2025.09.03
2025.09.01
東京証券取引所(東証)の市場改革が進んでいます。2022年4月の東証の市場区分再編を契機に、TOPIXの投資対象としての機能性を高める見直しが始まり、第一段階の見直しが2025年1月末に完了しました。
指数としてのTOPIXは、もともと東証一部の全上場会社を構成銘柄としていました。市場区分再編後は各社の選択によりプライム市場とスタンダード市場に分かれたものの、TOPIXの構成銘柄は据え置かれました。TOPIXの第一段階の見直しは流通株式時価総額100億円未満の銘柄の除外を目的としたものです。2022年10月から該当銘柄の段階的なウェイト低減を実施し、25年1月にTOPIXからの除外が完了し、2022年4月に約2,200だった銘柄数は、2025年1月末には約1,700になりました。
これに続く第二段階の見直しでは、構成銘柄はプライム市場に加え、スタンダード市場、グロース市場の銘柄も対象となります。また、定期入替制も導入されます。銘柄の選定基準は、年間売買代金回転率は追加基準(TOPIXの構成銘柄でない銘柄)が0.2以上、継続基準は0.14以上、浮動株時価総額の累積比率※は追加基準が上位96%以内、継続基準は上位97%以内です。初回の定期入れ替えは2026年10から四半期ごとに8段階でウェイトを低減する形で行います。第二段階の見直し完了時(2028年7月)には約1,200銘柄と、2022年4月比で半数近く減少し、2025年1月末比で500銘柄減少する予定です。その後の定期入れ替えは、年1回、毎年8月最終営業日を基準に10月最終営業日に行われます【図表1】。
※市場で自由に売買されている株式の時価総額の大きい企業から順に並べたときに上位から何%にあたるかを示した比率
TOPIXを投資対象としたETF(上場投資信託)や年金信託などの連動資産は、約110兆円(2024年3月時点)※と莫大な金額です。仮にTOPIXから除外となれば、これら巨額資産から売却されるため、株価下落が懸念されます。一方、新たにTOPIXの構成銘柄に選定される銘柄には、相応の買い需要が発生することから株価上昇期待が高まります。
TOPIX構成銘柄のうち、選定基準のボーダーライン上にある銘柄が今後もTOPIXに残り続けるためには、何らかのコーポレートアクション(有価証券の価値に影響を与える企業の財務上の意思決定)が必要になりそうです。選定基準の1つである浮動株時価総額の累積比率については、3市場の全銘柄の浮動株時価総額合計の上位97%以内に位置していることが選定の条件になります。浮動株時価総額を増やすには、政策保有株式など安定株主の保有分を減らすことも今後の選択肢として挙げられます。
東証は、4月22日に「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を開催し、グロース市場に上場する企業が、継続的に高い成長を実現するための施策を公表しました。グロース市場を活性化させることが目的で、ポイントは以下の2点です。
1点目は、「高い成長を目指した経営」の働きかけです。これまでスタートアップ企業において、新規株式公開後に企業価値が高まらず、結果的に上場自体が目的になってしまう、いわゆる「上場ゴール」問題が指摘されてきました。この問題への対応として、企業には上場後の成長状況を分析し、想定通りの成長ができていない場合にはその要因や対応策を具体的に開示するよう求める仕組みです。さらに、これら開示を年1回以上、継続的な実施を求めていることから、上場後の成長が思わしくないグロース企業には大きなプレッシャーになると考えられます。
2点目は、上場維持基準の見直しです。現行では「上場10年経過後から時価総額40億円以上」としている基準を、「上場5年経過後から時価総額100億円以上」と大幅に引き上げます。時価総額100億円という規模は、機関投資家の投資対象となることも念頭に置いて定められた基準です。上場企業は基準を充足するために、これまで以上に株価(時価総額)の上昇や合従連衡なども意識することになるとみられます。また、機関投資家による投資先企業へのエンゲージメント(対話)を通じて、経営への提案や、非効率な経営には議決権行使などで経営への働きかけが増えることも考えられます。こうした厳しい基準を設けることで、グロース市場全体の底上げにつながっていくと想定されます【ご参考:図表2】。
コラム執筆者
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
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【第203回】 スペシャル寄稿コラム③
2025.08.27
2025.08.21
2025.08.21
【トピック】
・金融教育の受講経験率は若年層ほど高く、18-29歳では約半数が経験。20代前半では、6割以上が金融教育受講経験あり
・若年層における金融教育受講時期は中学・高校がメイン
・学習内容は、 1位:家計管理、2位:資産形成、3位:ライフデザイン。教育が家計行動に一定の効果をもたらしている
・企業型DCの加入経験がある人は、金融教育受講経験率がおよそ3倍
レポートレポート文章
2025.08.21
令和7年度の税制改正大綱で、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛け金の上限引き上げや、退職所得控除*1の適応に関するルール変更が盛り込まれました。
大きな改正点は、iDeCoの掛け金の上限引き上げです【図表1】。第1号被保険者は掛け金を最大で月額7.5万円(現行:最大6.8万円)、第2号被保険者は最大で月額6.2万円(現行:最大2.3万円)まで拠出できるようになりました。2024年12月の制度改正に続く掛け金の上限の引き上げとなります。国民年金基金連合会の資料によると、2024年12月の新規加入者数は7万2168人と前年同月比で約2倍となっており、掛け金の引き上げなどを受けた影響がでているようです。
一方、注意点も指摘されています。iDeCoを退職金より先に「一時金」で受け取る場合の税制も改正されています【図表2】。現行は、iDeCoを一時金で受け取ってから、5年以上期間を空けて退職金を受け取ると両方(iDeCoと退職金)で退職所得控除を受けられます。今回の制度改正案では、この退職金受け取りまでの5年の間隔が10年に延ばされます。iDeCoの受け取りは原則60歳以降のため、退職所得控除を両方で利用するには最低でも70歳以降に退職金を受け取る必要があり、現状で利用できる人は限られそうです。
NISA(少額投資非課税制度)では2024年の制度改正後、年間の口座開設数*2(証券会社10社)が2023年比で約1.5倍になりました。そのためiDeCoでも制度改正による加入者数の増加が期待されます。今回のiDeCoの掛け金増額などを受けて投資家の視野が広がれば国民の資産形成はより充実していきそうです。
同じく老後の資産形成として利用されている個人年金保険とはどのような違いがあるのでしょうか。
iDeCoは、国の制度に基づく私的年金です。掛け金は全額所得控除の対象で、運用益は非課税*3となり、受け取る際には「公的年金等控除」や「退職所得控除」が適用されるなど、税制面で強みがあります。自ら運用商品を選び、時間を味方につけた資産形成ができる仕組みとなっており、老後の資金準備の方法の一つに位置づけられます。一方、金融商品の特徴やリスクをよく理解した上で活用するのはもちろんですが、資金は原則60歳まで引き出せないことや、定期預金で運用した場合はインフレ下において資産の価値が目減りする場合があるなど、注意すべきこともあります。
個人年金保険は保険会社が提供する商品です。iDeCoほどの税制優遇ではないものの、保険料の一部が「生命保険料控除」として所得控除の対象になります。また、途中での解約が可能であることや、契約内容によっては万が一のときの保障があるなど保険と貯蓄を兼ね合わせたものとなります。運用は主に保険会社に任せるため、運用状況などの細かいチェックといった手間が減ることや、資産運用に不安がある人に向いているとされています。ただし、途中解約時には運用に関わらず解約返戻金が払込額を下回る場合があることや、契約時点で受け取る年金額を決める定額型保険はインフレとなった場合、資産の価値が目減りする可能性もあり注意が必要です。
【図表3】はiDeCoと個人年金保険を比較したものです。税制優遇や資産形成を重視するのであればiDeCo、保障や計画的な受け取りを重視するのであれば個人年金保険がより適していると言えそうです。また、併用することも可能であり、両者のメリットを補完し合いバランスよく老後の資金を積み立てていくことで、有効的に活用することができそうです。
コラム執筆者
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
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【第202回】スペシャル寄稿コラム②
2025.08.20
同じ三井住友トラストグループの資産運用会社である「三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社」の方にご登場いただき、運用会社の視点から「NISA」や「iDeCo」の活用について、3回シリーズで詳しく語っていただきます!!
金融庁が6月17日に公表した「NISA口座の利用状況調査(2024年12月末時点(確報値)」によると、2024年の新NISA(少額投資非課税制度)での買付額は成長投資枠が12兆4,143億円、つみたて投資枠が4兆9,677億円でした【図表1】。
2024年の国内株式市場において、新NISAはどの程度影響したのでしょうか。日本証券業協会の調査*1によると、新NISAでの2024年中の国内株式の買付け割合は38%でした【図表1】。また、2024年中の新NISAにおける売却状況のアンケート*2で、1銘柄も売却していない人は成長投資枠が75.3%、つみたて投資枠が83.2%でした。これらの数字を用いて推計すると新NISAで国内株式が約5兆円買い越されているということです。
約5兆円とはどの程度の規模なのでしょうか。日本取引所グループの投資部門別株式売買状況(東証・名証)によると、2024年の委託内訳では個人が約2兆円、証券会社が約0.2兆円の売り越しとなっています【図表2】。これらの売り越し額と比較しても約5兆円の買い越しは、2024年の国内株式市場の支えになっていたと言えるでしょう。
日本証券業協会の調査*1によると、成長投資枠における2024年1月から12月累計ベースでの株式買い付け額上位10銘柄のうち、9銘柄が国内株式となりました【図表3】。業種別では、情報通信、銀行、食品、輸送用機器、卸売、電気機器、医薬品、鉄鋼、サービス、機械が各1銘柄ずつとなりました。また、高配当銘柄が多いなど、株主還元や経営の安定性が重視されており、個別銘柄ごとにNISAによる影響にはバラつきがあるとみられます。
今後も、成長投資枠での資金流入の勢いは加速していくのでしょうか。日本証券業協会の調査によると2025年のNISAの口座開設件数は毎月10万口座以上の増加が続いており、堅調な資金流入が期待されます。一方で投資信託協会の「2024年 投資信託に関するアンケート調査(NISA、iDeCo等制度に関する調査)」によると、NISA制度(成長投資枠)の利用意向は活用に消極的な割合が依然4割以上あります【図表4】。同調査では、NISAでの金融商品の購入を検討するきっかけとして、若年層を中心に「手取り収入が増えたら」、「金融や投資の勉強をして理解できたら」、「金融機関窓口などで、専門知識をもつ人に教えてもらえたら」などが挙げられています。政府が掲げる金融教育の充実や、賃上げによる実質賃金の増加が実現できれば、NISAの活用に消極的な層が減少してくことで投資資金の流入が加速する可能性も高まりそうです。
コラム執筆者
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
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【ご留意事項】
【第201回】 スペシャル寄稿コラム①
2025.08.13
読者のみなさまのおかげをもちまして、本コラムも今回で第200回を迎えることができました。
第1回のリリースは2020年3月。テーマは「人生100年時代とは?」でしたが、爾来、様々なテーマについて書き継がせていただき、200回目に辿り着くことができました。
とはいえ、「200」という数字それ自体は、ただの通過点にすぎません。しかし、積み重ねてきた「回数」とコラムをお読みいただいた「時間」を考えますと、これはミライ研にとって大きな“資産”です。今後も100回、200回と継続して発信していくことで、株式投資なら“長期保有”、積立投資なら“複利の力”を活用するイメージで、本コラムも、更に少しずつ価値を育ててまいりたいと思います。
節目の回としまして、今回は、シニア期における「住まいの選択肢」についてお届けします。
現役時代を終え、シニア期に入ると、現役時代とは様変わりして、住まいで過ごす時間が急増するといわれています。会社勤めをしていた勤労者を例にとると、通勤時間は片道1時間、勤務時間は平日9時~18時勤務であれば、通勤時間+勤務時間で1日11時間は家外で活動していたわけです。1週間だと住まいで133時間、家外で55時間となります。これが、住まい時間のみの168時間に切り替わるのがシニア期の特徴の1つといえます。シニア期に入り、住まい時間が長くなることで、住まいに求めることや、今後の住まいについて考えておきたいポイントにも変化が生じてきます。
例えば、現役時代に住まい選びの起点は、結婚、子どもの誕生や成長など、同居する家族の増加に伴う物理的な対応や生活領域の拡張への対応が多く、自宅の購入動機としても「家族構成の変化」が上位にランキングされます。
一方で、シニア期になると、子どもの独立などにより世帯構成人数は減少傾向に転じます。子ども部屋を与えたい、リビングダイニングはみんなが集えるようにできるだけ広くとりたい、といった現役時代に叶えた「家族の夢」も、世帯人数が少なくなると、日常で活用するスペースは限られてきますし、管理や掃除の手間も相応にかかってきます。また、そういうしんどい状態が今後も続いていくとすれば、今の住まいは終の棲家(ついのすみか)として相応しいのか、という「シニア期の住まいの選択・住まいの悩み」が生じてきます。
シニア期の住まいを考えるポイントの1つは健康寿命です。健康寿命とは医学的な見地では、日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間と定義されています。健康的に自立して生活できる上限の年齢ということですが、厚生労働省が公表している2022年の日本の健康寿命は男性が72.57歳、女性が75.45歳で、世界でもトップクラスです。一方、日本の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳ですので、平均寿命から健康寿命を引いた差分(男性で8.5年、女性が11.6年)は、周囲に支えられながら生活していく期間(要支援・要介護期)だといえます。ライフタイムは80歳半ばまで伸びてきているものの、その終盤の約10年前後は、健康面や意思判断面で周囲から支援を受けて生活している、これも実相の1つです。
ライフタイム終盤の生活までを踏まえると、住まいに求めることにも変化が生じています。【図表1】は、シニア期において住まいを考えるポイントを例示していますが、「自立度が低下しても住み続けられるか」「介護が必要になったときにどうするか」は、健康寿命と関連した検討ポイントです。「住居の維持管理」「同居家族の有無」はシニア世帯の経済面への不安を現わしていると思われます。「人生の最後をどこで迎えたいか」は主観的ですが、人生最後のQOL(生活の質)の問題としてとても大切な検討ポイントといえます。
住まいへのニーズは、住む人の健康状況によっても大きく変化します。自立した生活が営めている時期と、身体機能や意思判断機能が低下してきた時期とでは、「どこで暮らしたいか」という気持ちにも変化が生じると考えられます。
【図表2】は、2021年に内閣府が公表した調査結果ですが、60歳以上の男女1367人に対して、身体機能が低下した時の住まいについて尋ねたものです。どの年齢区分においても「自宅に留まりたい」の比率が50%を超えており、とりわけ70-74歳では62.4%に達しています。一方で、「子供の住宅へ引っ越したい(同居したい)」はどの区分においても比率が小さく、日本が核家族社会であることを実感します。「高齢者用住宅へ引っ越したい」は60-64歳では17.4%と相応の比率を示していますが、80歳以上では5%未満で少数派になっています。逆に、「老人ホームへ入居したい」の比率は、60-64歳では11.8%ですが、年齢の上昇と合わせて増加し、80歳以上では19.9%と5人に1人は老人ホームを希望する結果となっています。これは、看取りまで対応ができる介護型老人ホームの利用が広がってきたことも背景として考えられます。
また、希望する住まい形態を年齢ごとに点検してみると、高齢になればなるほど「現在のまま、自宅に留まりたい」を望む比率が多くなっています。具体的には、60-64歳で31.8%だった比率は徐々に高まり、80歳以上では43.8%に達しています。
身体機能が低下した時の住まいに関して、高齢になればなるほど「現状のまま自宅に留まりたい」が増えていく背景としては、身体機能への自信がなくなってくることに加え、家屋の構造・配置・収納など頭に入っている「現在記憶」をずっと活用していきたい、言い換えますと、記憶のアップデートを行わないで日常生活を続けていきたい、という気持ちが、「できるだけ自宅に変化を加えずにこのままで」という回答に表れていると考察しています。
自宅のリフォーム、子供の住宅への転居、高齢者向け住宅への住み替え、老人ホームへの入居など、シニア期における住まいの選択肢は、従来と比較すると格段に広がっています。しかし、シニア期は加齢との競争です。一般的には、高齢化とともに身体機能だけでなく認知能力、判断能力も少しずつ低下していきます。そうなると、「住処を変える」というイベントは、それまで獲得している生活情報を一部(もしくはほぼ全部)無効化し、新たに情報をインプットし、その情報を理解して判断を下しながら、適切な日常生活を行っていくことを否応なく強いるイベントになります。「こちらの選択肢が合理的だ」と思ったとしても「果たして適応できるだろうか」という不安が生じることで、判断や行動自体がとても面倒に思えてくるかもしれません。
【図表3】は、シニア期における住まいの検討をフロー図にしたものですが、こういった選択肢や判断から連なる次の選択肢への判断などを考えると、シニア期の住まいの選択は、合理的な判断ができ自分の環境を変化させることに心理的な拒否反応が少ないであろう50-60歳代において、将来の自身の状態を想定しつつ検討に必要な情報を摂取し、「(自分にとっての)住まいの選択肢、およびその時点での住まいの判断」が行えるようにしておくことが、本当に大切になってきたといえます。
シニア期の住まいの有り様について、自分なりの準備を進めるためには、判断材料となる情報をインプットしておくことが必要です。また、生活者をサポートしていく金融機関従事者や住宅業界従事者は、適切な情報提供が行えるように、日本の住まいに関する環境や置かれている状況について十分に把握・整理・点検しておくことが求められてきています。
コラム執筆者
丸岡 知夫(まるおか ともお)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)、『「金利がある世界」の住まい、ローン、そして資産形成』(金融財政事情研究会、2024)がある。
【第200回】
2025.08.06
2025.08.05
一般財団法人ゆうちょ財団が発行している機関誌 季刊『個人金融』の2025年夏号に、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の清永研究員が「ファイナンシャル・ウェルビーイング実現に向けた老後資産形成・資産活用計画策定の方向性」のタイトルで記事を寄稿しました。是非、ご覧ください。
レポート
2025.08.05
2025.08.01
前回のコラムでは、資産形成のための税制優遇制度である、DC(企業型DC/iDeCo)とNISAそれぞれの利用状況と、この1年での利用状況の変化をみてきました。
今回は、両制度の“両立状況”にフォーカスをあてて、皆さんの資産形成の状況をより詳細に分析してみたいと思います。
まず、DCを利用している人・利用していない人のNISA利用率を確認します。
特にDCは、会社が運営する企業型DCと、個人で加入するiDeCoがあり、加入の動機や利用の自由度なども異なることから、「企業型DC・iDeCoのいずれか加入」「企業型DCに加入」「iDeCoに加入」の3ケースで比較します。
すると、DCを利用していない人のNISA利用割合が15.9%にとどまるのに対し、「企業型DCまたはiDeCo」利用者は60.1%がNISAも利用していました。
また、会社の制度である「企業型DC」の利用者では、約5割がNISAを利用、自ら能動的に申し込む「iDeCo」利用者では約7割と更に高いことが分かりました。
続いて、NISAを利用している人のDC利用率や利用意向を確認します。
なお、企業型DCは会社が用意している制度であるため、自ら申し込むiDeCoに関する利用率・利用意向を分析しています。
NISAを現在利用している人におけるiDeCoの利用割合は、50代までは年齢が上がるにしたがって増える傾向にあります。
iDeCoは所得控除などの税制優遇があるものの、60歳まで途中引き出しができない制度であり、資産を引き出す自由度が低いことが若年層の利用率に影響しているかもしれません。
一方で、「(現在利用していないが、)利用意向がある層」も含めると、一転して若年層の方が高い傾向になっていました。18~29歳でNISAを利用している若年層において、「iDeCoを利用している/利用意向がある」人の割合は51.9%に上ります。
iDeCoの注目の高まりは、法改正なども契機になっていると推察できます。
2024年11月までは、会社員や公務員の方がiDeCoを始める際に、企業・団体に「事業主証明書」という書類を準備してもらう必要がありましたが、2024年12月からは本証明書の提出が原則不要になったため、iDeCoの申し込みが手軽になりました。
また、同時期の法改正により、iDeCoに拠出できる掛金額の上限が見直されるなど、税制優遇の効果を享受できる規模も大きくなったといえます。
国民年金基金連合会より発表された情報によると、2024年12月には、前年同月比 200%を超える 72,000人がiDeCoに加入、加入者総数は2025年5月時点で366万7,361人となっており、iDeCoの注目度もますます高まっているといえます。
では、これらの制度の両立はどのように考えればよいのでしょうか。
制度の利用方法に唯一解はありませんが、各制度の特徴をふまえた、一つの考え方をお示しします。
DCは一般的に税の優遇範囲が広いものの、原則60歳になるまで引き出せない制度です。一方で、NISAは税の優遇が運用益に対する非課税のみですが、引き出しに関する制約がない制度です。
これらの特徴を踏まえると、主に老後資産はしっかりと“鍵”の掛かっているDCを活用して税優遇の恩恵も受けつつ実践し、少し先でも使うかもしれないお金は“鍵”をかけないNISAでやっていくスタイルが考えられるでしょう。
また、年齢が上がるにつれ、①自身の将来のマネープランがだんだん実感をもって把握できるようになる、②鍵がかかっている残り期間(60歳以降受け取りまでの期間)は短くなっていく、③所得が多くなれば所得控除のインパクトも大きくなる、ことなどを踏まえ、DCの割合を増やしていく、ということもひとつのアイデアとして考えられます。口座に入れるお金の量を、それぞれウエイト調整していくイメージです。
DC/iDeCoやNISAの資産形成制度は、利用者のすそ野が着実に拡大してきています。
この両制度は、どちらを利用するのが良いのかという議論が見受けられますが、どちらも両立している人が相応にいること、またその割合は増えてきていることが分かります。
両制度は“ライバル関係”ではなく、お互いの長所と留意点を補い合える“友達関係”と捉えて、上手に活用することが、「令和の資産形成」における新常識かもしれません。
上記の記事に加え、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)より
DC/iDeCoとNISAはライバル?友達? ーNISA利用者の約4割が、iDeCoも利用、もしくは利用意向ありー
を資産のミライ研究所のHPに掲載しています。
是非、ご覧ください。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第199回】DC/iDeCoとNISAはライバルではなく友達?②
2025.07.30
2025.07.28
最近、日本では資産形成に取り組む人が少しずつ増えてきています。
背景には、長寿化などに伴う将来のお金の不安や、物価の上昇などがあり、「お金の備えは自分でしっかりしておこう」と考える人が増えているようです。
この流れを後押ししているのが、「NISA」や「確定拠出年金(DC)」といった税制優遇制度です。
日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査(2024年)」によると、有価証券への投資について検討したり、興味・関心を持ったきっかけは「投資に関する税制優遇制度(NISA・確定拠出年金)があることを知った」が42.2%とトップでした。特に、20代~30代は「投資に関する税制優遇制度があることを知った」が62.3%、両制度がすそ野拡大に大きな影響を与えていることが伺えます。
そこで今回は、これらの税制優遇制度(企業型DC/iDeCo、NISA)の利用状況を、ミライ研が行ったアンケート調査結果から確認していきたいと思います。
まずは、DC(企業型DC/iDeCo)とNISAそれぞれの利用状況を確認してみます。
アンケート調査対象である約1万人のうち、資産形成に関する税制優遇制度を何らか利用している割合は26.6%となり、およそ4人に1人の割合であることが分かりました。
制度別では、DCが12.6%(グラフ上のオレンジ+青)、NISAが21.5%(青+緑)となっており、NISAによる資産形成実践者が相対的に多いことが分かります。
また、DCとNISAを両立している人は全体の7.6%(青)となりました。
これらの制度の利用・両立状況は、この1年間でどのように変化したでしょうか。
1年前の2024年1月に調査したデータと比較したところ、どの年代でも「未利用者」が減少しており、税制優遇制度を活用した資産形成が進んでいることが分かります。
特に、「DC・NISA両立」の割合がどの年代でも増えていることも特徴です。
現在資産形成に取り組んでいる人は、年間どのくらいの金額の資産形成を行っているのでしょうか。
年代別に分析すると、どの年代でも「1年あたり1万円~50万円」が最多になっています。
一方で、平均額を見ると、全年代の平均は年間123万円であり、単純計算で月額10万円程度が資産形成に回っていることになります。これは50代に向けて年代が上がるにしたがって若干増加していきます。
いかがでしょうか。
DCやNISAなどの税制優遇制度は、この1年で利用が進みました。
両制度とも、投資を始める人にとって税金面でのメリットがある制度であり、かつ最近では両制度とも制度改正※により内容が充実してきています。これらの改正も、利用者の伸びにつながっているものと思われます。
次回は、両制度を“両立している人”にフォーカスを当てて分析してみます。
※参考
◆NISAについて(金融庁)
◆DCの法改正について(厚生労働省)
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第198回】 DC/iDeCoとNISAはライバルではなく友達?①
2025.07.23
2025.07.17
2025.07.17
【トピック】
・金融リテラシー度が「良好」な人は9割が資産形成に取り組み
・金融リテラシー度が「良好」な人の利用率No.1はNISA
・金融リテラシー度が「良好」な人の6割は老後不安なし
・金融リテラシー度が「良好」な人ほど、ウェルビーイング度も高い傾向
レポートレポート文章
2025.07.17
前回に続き、今回は住宅ローンの「借入のかたち」について詳しくみていきます。
まず、住宅ローン利用経験者に借入形態をお伺いしたところ、全年代では「単独ローン」が71.4%と大多数を占め、「ペアローン」は9.4%でした【図表1】。しかし、年代別にみると、20歳代・30歳代はいずれもペアローン比率が20.6%となっており、他の年代に比べて約2倍の水準となっており、若年層を中心にペアローンの活用が広がっていることが分かります。
実際、2024年1月にミライ研が実施した前回調査では、ペアローン利用率は、20歳代で16.5%、30歳代で18.6%でした。今回の結果はそれをさらに上回っており、住宅購入における「協力型」の借入れがより一般的になってきている様子が伺えます。
次に、単独ローン、ペアローンそれぞれの借入金額についてみてみましょう。
単独ローンでは、「2,000万円以上〜3,000万円未満」が最も多く32.5%、次いで「1,000万円以上〜2,000万円未満」が30.8%でした【図表2】。借入金額の中央値は約2,341万円で、前回調査(2,373万円)とほぼ同水準です。
一方、ペアローンでは、「2,000万円以上〜3,000万円未満」が21.3%、「3,000万円以上〜4,000万円未満」が21.1%と、より高額な借入れが目立ちます【図表3】。借入金額の中央値は約3,419万円で、前回の2,833万円から大きく上昇しており、高額化が伺える結果となりました。
こうした背景には、「理想とする住まいを手に入れるために、夫婦・パートナー双方が協力して借入れを行う」というスタイルが、特に若い世代で広がっていることがあると思われます。
ただし、注意が必要なのは、足元では住宅ローン金利が上昇傾向にあるという点です。こうした環境下では、「現在の家計状況や世帯の希望をもとに、借入内容を決める」だけではなく、「今後続く住宅ローンの返済と世帯の将来のライフプランの兼ね合い」も見据えた借入れ設計が、より一層求められます。
上記の記事に加え、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)より
令和の“住まい”と住宅ローン事情(2025年)を資産のミライ研究所のHPに掲載しています。
是非、ご覧ください。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第197回】令和の”住まい“と住宅ローン(2025年)③
2025.07.16
前回のコラムでは、「住まいを買うか、借りるか」という選択について、ミライ研のアンケート結果をもとにご紹介しました。今回は、住宅を「買う」と決めた人たちが、どのように住宅ローンを活用しているのかを見ていきます。
ミライ研のアンケート調査によると、持ち家を購入した人のうち、住宅ローンを「利用している(返済中)」と回答された方が32.1%、「利用していた(返済完了)」が46.3%、「利用していない」が21.5%でした【図表1】。つまり、住宅ローンを利用した経験がある人は、全体の約8割にのぼります。この傾向は、過去5回のミライ研調査とほぼ同じ水準です。
では、その住宅ローンの中身はどうなっているのでしょうか。
まず、住宅購入時の頭金の割合(住宅購入代金のうち、借入ではなく現金で支払う割合)をみてみると、最も多かったのは「頭金ゼロ(頭金なし)」で28.7%、次いで「1割くらい」が22.1%でした【図表2】。特に住宅の一次取得者が多い30代※では、「頭金ゼロ」が42.8%、「1割くらい」が24.2%と、6割以上が頭金をほとんど用意せずに購入していることがわかりました。
※国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査報告書」より
次に、返済期間についてみると、全年代では返済期間35年が31.0%と、最も多くなっています【図表3】。さらに20代では、35年以上が14.4%と、借入期間の長期化が伺えます。
さらに、金利形態については、「変動金利」が61.2%と最も多く、「固定金利」が33.6%、「変動金利と固定金利の組み合わせ」が5.2%でした【図表4】。
ただし、この流れも足元では転換期に差し掛かっているかもしれません(詳しくは、金利上昇がもたらす住宅ローン利用の変化−転換局面にある家計の選択−をご覧ください!)
次回は、借入金額について詳しく見ていきます。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第196回】令和の”住まい“と住宅ローン(2025年)②
2025.07.09
ミライ研では今年も、「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)を実施しました。全国1万人を対象に行ったこの独自アンケート調査の結果をもとに、令和の“住まい”と住宅ローン事情(2025年)を公表しておりますが、本コラムでは、その調査結果の一部をご紹介します。
近年、「住まい」に関する話題といえば、不動産価格の高騰に注目が集まっています【図表1】。しかし加えて、家賃もじわじわと上昇を続けています【図表2】。住宅を「買う」にしても「借りる」にしても、以前よりも住まいに係る費用は確実に増えているのが現状です。では、こうした状況の中で、世の中の人は「買う」ことを選んでいるのでしょうか。それとも「借りる」ことを選んでいるのでしょうか。
今回の調査で、現在のお住まいについて、「持ち家(自己所有)」、「賃貸」、「その他(親世帯の住居(実家)に同居など)」の3つの選択肢でお伺いしたところ、【図表3】の結果となりました。
全年代では、持ち家が45.3%、賃貸が38.3%、その他が16.4%という結果となりました。しかし年代別に確認してみると、20代では持ち家は17.8%ですが60代では73.8%と、年齢が上昇するにつれて持ち家率が上昇していることが分かりました。
また、持ち家の方に対して、「住宅を購入した年齢」についてお伺いしたところ、最も多かったのは、30~34歳(20.9%)、次いで29歳以下(18.0%)でした【図表4】。つまり、およそ3人に1人は34歳までに住宅を購入しているということになります。さらに、約4人に1人は相続・譲渡などで保有したので、「購入」はしていないと回答しました。
このように、年齢を重ねるにつれて「買う」ことを選択する人が増えていることが、ミライ研の調査からみえてきます。では、価格が高騰する中で、世の中の人はどのようにして住宅を購入しているのでしょうか。次回は、住宅購入の手段として欠かせない住宅ローンについて、詳しく見ていきます。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第195回】令和の”住まい“と住宅ローン(2025年)①
2025.07.02
2025.07.01
2025.07.01
2025.07.01
前回のコラムでみたとおり、公的年金の受給額を「イメージできていない」比率が全年代で58.6%と約半数を占めています。年齢が高くなるにつれて公的年金の受給額がイメージできる割合は高くなりますが、50歳代でも「イメージできていない」比率が多数派となっています【図表1】。
公的年金の受給額をイメージできている人について受給額の感想をみると、金額が「想定よりも少なかった」または「想定よりもやや少なかった」と感じる人の割合が半数以上となっています【図表2】。
公的年金額の把握経路によって、公的年金額に対するイメージが異なります。FP相談、公的年金シミュレーター、所属企業の人事部・年金基金への確認で年金額を把握している人は、「少ない」との感想にあまり偏っていない一方で、新聞やテレビ、インターネットの報道・ニュースやねんきん定期便から年金額をイメージしている人は、「少ない」との感想に偏っています【図表3】。
なお、「ねんきん定期便をもとに年金額をイメージしている」と回答した人の約1/3が50歳未満となっていました【図表4】。50歳未満のねんきん定期便には、これまでの加入実績に応じた年金額しか記載がなく、今後の加入状況に応じた年金額の記載がありません。50歳未満のねんきん定期便は、実際に受け取れる金額よりもかなり少ない金額を記載しているため、年金額が少ないというイメージ形成につながっている可能性があると思われます。公的年金シミュレーターでは今後の加入状況に応じた年金額がシミュレーションできますので、公的年金シミュレーターの普及が望まれます。
また、会社勤めの方にとって、「退職金・企業年金」がある場合には、これもリタイア後の収入を支える柱の1つです。【図表5】のとおり、勤め先の退職金・企業年金について、約半数が「制度」としては知っており認知度は高いようです。一方で、退職金・企業年金の「支給水準」のイメージは、40歳代までは3割程度、50歳代でも4割弱と高くないことがわかりました。公的年金は「ねんきん定期便」などで個人別に通知されるので、認知している割合が高くなっていますが、退職金・企業年金に関しては、従業員が支給水準を含めて「知っておく・調べておく」取り組みや、企業が従業員に「伝える」取り組みが望まれます。
ここまでの調査結果から考察すると、「老後資金」が「お金の不安」のトップになっている背景として、
・老後の生活費水準がわからない
・公的年金額の水準がわからない・または少ないと認識している
・主に若年層は「公的年金は貰えるかどうかがわからない」と感じている
・世代を問わず、退職金・企業年金の水準が知られていない
といった課題が見えてきます。
老後資金不安を払拭するためには、公的年金について「学び」、公的年金シミュレーターで年金額を「把握」することや、退職金・企業年金がある場合にはその水準を「把握」すること、そして、老後の生活費の想定を持ち、資金計画を立てることが重要になってくるものと考えられます。
コラム執筆者
杉浦 章友(すぎうら あきとも)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
2010年、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。三井住友信託銀行に入社し、企業年金の制度設計・数理計算業務に従事。厚生労働省へ出向し年金に関する公務に従事。2022年10月よりミライ研主任研究員。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、AFP、日本年金学会会員、ウェルビーイング学会会員。翻訳書として『図表でみる世界の年金OECD/G20インディケータ(2019年版)』(明石書店、2021年、岡部史哉(監修)らとの共訳)がある。
【第194回】令和の老後不安事情②
2025.06.25
2025.06.25
【トピック】
・約3人に1人が住宅ローンに“後悔”
・長期間返済を続けているほど、後悔を抱えている人が多い
・後悔している人のうち、およそ3人に1人は「借入金額を少なくすればよかった」
・長期間返済を続けているほど、「借入期間を短くすればよかった」と後悔
・約5人に1人は「ペアローンではなく単独ローンにすればよかった」
レポートレポート文章
2025.06.25
2025.06.19
2025.06.19
三井住友信託銀行が企業年金のお客さまを対象に発行しております「年金コンサルティングニュース」に、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の杉浦主任研究員が「従業員エンゲージメント向上の鍵を握る!?『金融リテラシー』」、清永研究員が「DC/iDeCoとNISAはライバルではなく友達?」のタイトルで記事を寄稿しました。是非、ご覧ください。
レポート
2025.06.19
ミライ研が2025年1月に実施したアンケート調査の結果では、お金の不安の1位は、年代を問わず「老後資金」となっています【図表1】。なお、同様の調査を毎年、過去6回にわたり実施していますが、この傾向に変わりはありません。
老後資金不安があると回答した人にその理由を複数回答で選択いただいたところ、【図表2】のとおり、年齢層を問わず「老後の生活費の水準がわからないから」との回答が多数ありました。また、若年層では「年金額の水準がわからないから」「年金を貰えるかどうかがわからないから」との回答が多数ありましたが、それらの回答は年齢が上がるにつれて減少傾向が見られました。(なお、公的年金制度について、現行制度が続いたとしても、昨年の財政検証結果からは「年金を貰えるかどうかがわからない」という状況にはならないとミライ研では考えています。)
ミライ研では、「(リタイア時に準備しておきたい)老後資金」は「老後の生活費総額」と「老後の収入総額」の差額【図表3】と想定しています。
アンケート調査では、各項目について深掘りしています。
まず、「老後資金」(公的年金のほかに、自分で準備しておく金額)として必要な金額をたずねると、どの年代においても4割から5割の方が「わからない、見当がつかない」と回答しています【図表4】。
また、老後の生活費の想定に関してたずねたところ、回答者の約半数(49.0%)が「わからない・答えたくない」と回答しています【図表5】。リタイアへの意識が高まってくる50歳代でも「わからない・答えたくない」比率が5割程度あり、年齢が高くなっても「想定できていない」比率が減少していない点が特徴といえます。
なお、50歳代・60歳代に「現時点の生活費」と「老後生活費(見込み)」をたずねています【図表6】。現時点の生活費が25万円以上の区分においては、老後生活費の見込みを現時点の生活費のおおよそ7~8割程度と想定していることが確認できました。リタイア後の生活費について「現時点の生活費から極端に減らさなければいけない」という意識ではないようです。
次に、老後の「収入」についての意識を見てみると、柱である「公的年金」については、公的年金の受給額を「イメージできていない」比率が全年代で58.6%と約半数を占めています。年齢が高くなるにつれて公的年金の受給額がイメージできる割合は高くなりますが、50歳代でも「イメージできていない」比率が多数派となっています【図表7】。
ここまで、老後資金に不安を持つ人が約半数であることと、その理由が、老後に関するお金がわからないためであることを見てきました。
次回は、年金や退職金といった、収入面について更に深掘りします。
コラム執筆者
杉浦 章友(すぎうら あきとも)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
2010年、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。三井住友信託銀行に入社し、企業年金の制度設計・数理計算業務に従事。厚生労働省へ出向し年金に関する公務に従事。2022年10月よりミライ研主任研究員。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、AFP、日本年金学会会員、ウェルビーイング学会会員。翻訳書として『図表でみる世界の年金OECD/G20インディケータ(2019年版)』(明石書店、2021年、岡部史哉(監修)らとの共訳)がある。
【第193回】令和の老後不安事情①
2025.06.18
「金利がある世界」に戻りつつあるなかでの、住宅ローン利用に「家計としてどのような選択をするか」をミライ研のアンケート調査から紐解くシリーズの第3回目です。今回は、返済比率について確認します。
前回のコラムでは、借入金額の高額化には一定の歯止め、また借入期間はこれまでとは異なりより短い期間で借りる戦略への転換が伺える結果を確認しました。では、今回の本題である返済比率を確認します。2021年までは、返済比率1~3割が全体の約90%を占めていました。しかし、2022年以降、返済比率4割以上が徐々に増加し、2024年には44.0%と半数近くに達しています(図表1、2)。
ここまでの調査結果から、2024年の金利上昇以降、家計の住宅ローン利用に変化の兆しがみられました。その選択に絶対的な正解はなく、住宅購入や住宅ローンの返済以外の他のライフイベントも考慮したうえで、自身の家計にとっての正解を見つけていくことが求められます。
そのためには、まずは家族と話し合い、お互いの将来の目標や希望を共有することが大切です。さらには、外部からのアドバイスも上手に活用することも求められます。例えば、ファイナンシャルプランナーや住宅ローンの専門家に相談することで、より具体的なプランを立てるサポートを受けることも可能です。定期的に家計の見直しを行いながら、金利上昇に慌てないミライの家計をプランニングすることが重要です。
ここまでのコラムの内容に加えて、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)より
金利上昇がもたらす住宅ローン利用の変化 ー転換局面にある家計の選択ー
をミライレポートに掲載しています。
是非、ご覧ください。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第192回】金利上昇がもたらす住宅ローン利用の変化③
2025.06.11
2025.06.10
【トピック】
・年収1,000万円付近までは、年収と報酬満足度は比例して上昇。それ以上では、満足度は横ばい
・職場で金融教育の受講経験がある人は、ない人に比べて、報酬満足度が高い人の割合が1.7倍
・退職金の水準を把握している人は、そうでない人に比べて、報酬満足度が高い人の割合が1.9倍
・年収700万円以上で報酬に不満がある人における金融リテラシーの自己評価は、約4割が「低い」と回答
レポートレポート文章
2025.06.10
「金利がある世界」に戻りつつあるなかでの、住宅ローン利用に「家計としてどのような選択をするか」をミライ研のアンケート調査から紐解くシリーズの第2回目です。今回は、借入金額と借入期間について確認します。
前回のコラムでは、頭金ゼロからの変化について触れましたが、頭金との関連が高い借入金額について確認します。世帯年収700万円未満と700万円以上に分けて確認をしたところ、いずれの年収区分においても、過去35年で借入金額中央値は徐々に増加しています。特に、2021年~2024年の借入金額中央値が大きく伸びており、4,000万円以上の借入れも一定割合を占めるようになったことが分かります(図表1)。首都圏を中心に不動産価格の上昇が続いており、その価格上昇に追随したことが大きな要因の1つと考えられます。
では、今後も借入金額は高額化し続けるのでしょうか。足元5年を確認すると、2022・23年に、借入金額中央値はピークアウトし、高額化の流れにも歯止めがかかった可能性があることが分かりました(図表2)。
実際に、住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(2024年10月調査)」においても、融資率(融資額÷住宅価格)が50%以下の割合が、前回までの調査と比べて増加しています。これは、物件価格の高騰に追随するのではなく、自身の家計に合った借入金額や物件を選ぶ層も出てきていることを示しているのではないかと思われます。
まず、過去からの動向を確認すると、借入期間35年以上は、1990年までは9.0%でしたが、2021年~2024年には46.4%に増加し、約5倍になりました。長期間で貸し出す住宅ローンも整備され、その需要も併せて伸びてきた結果といえます(図表3)。
これについても直近5年を確認すると、2023年までは、借入期間35年が全体の4~5割を占めており、また借入期間36年以上が2020年の1.2%から2023年の21.0%と大幅に増加していました。
しかし2024年は、借入期間35年が減少(23.6%)し、「借入期間20年以上~25年未満」「借入期間30年以上~35年未満」が増加していました(図表4)。
他の条件が同じ場合、借入期間を長くすると1回あたりの返済額は抑えられますが、支払う利息の総額は増えます。今後、金利が上昇していくと想定しているケースでは、借入期間を長くして目先の返済額を抑えるのではなく、総コストを抑える戦略に移行している可能性があります。
では、その結果としての返済比率はどのように変化しているのでしょうか。その点については、次回のコラムでお伝えします。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第191回】金利上昇がもたらす住宅ローン利用の変化②
2025.06.04
1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本の住宅ローン金利は「低下局面」を経て「金利なき時代」が長く続きました。しかし、2024年に日本銀行がゼロ金利政策を解除したことで、「金利がある世界」に戻りつつあります。このような状況下で、住宅ローンの利用についてミライ研のアンケート調査で確認をしたところ、「家計としてどのような選択をするか」に変化の兆しがみられました。
まず、過去35年の流れを確認すると、金利なき時代を経て、変動金利を選択する人が大幅に増加しました(図表1)。1990年までの借入れのうち、変動金利は24.1%でしたが、2021年~2024年には60.4%と約2.5倍に伸びています。
しかし、足元5年をみると「変動金利人気」から変化が見られます。2023年までは、変動金利が6割以上と「金利なき時代」のトレンドが続いていましたが、2024年には変動金利が50.0%に減少しています(図表2)。それに対し、「固定期間31年以上」や「全期間固定」といった、長期の固定金利の選択が増加しています。
金利上昇の流れを受け、「今後、上昇が予想される変動金利」ではなく「歴史的には低水準の長期固定を利用し、長期的にお得な選択をしたい」という心理がうかがえます。
頭金とは、住宅購入価格から住宅ローン借入額を引いた、現金で支払う部分のことを指します。かつては、「頭金を2~3割準備する」というのが一般的な考え方でしたが、借入金利が下がるにつれて「頭金をゼロ・1割にして、借りられるだけ借りる」という考え方が主流となりました。
実際、ミライ研の調査においても、1990年までは、頭金がゼロ・1割のケースが28.1%、2・3割のケースが56.0%でしたが、2021年~2024年では、頭金がゼロ・1割のケースが59.8%、2・3割のケースが24.1%と逆転しています(図表3)。
しかし、頭金の割合についても足元5年を確認すると、2020年~2023年までは、頭金ゼロ・1割が半数を超えて主流派でしたが、2024年は、頭金ゼロ・1割が44.9%と減少し、2割以上が増加しています(図表4)。
これも先ほどの金利形態同様、今後の金利上昇を考慮して「借入金額を減らす=頭金を増やす」といった行動をとる人が出始めたと考えられます。
「変動金利・頭金ゼロ戦略」も、金利上昇に伴って転換が生じているものと思われます。次回は、借入金額・期間について確認します。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第190回】金利上昇がもたらす住宅ローン利用の変化①
2025.05.28
前回のコラムでは、ミライ研が毎年1月に実施している「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」の結果から、NISAの認知度と利用率がこの1年で一定程度進んでいることを見てきました。
今回は、NISAをすでに利用している人に加えて、現在NISAを利用していない方の「利用意向」まで含めて分析してみます。
ミライ研の調査では、NISAを利用していないと回答した人に対し、「NISA制度を今後利用しますか」と聴取しました。
すると、「利用済み+利用意向者」の総和は伸びている(30.8%⇒34.1%)ことが分かりました。
一方で、「利用しない・おそらく利用しない」旨の回答者も顕著に伸びている(29.0%⇒36.7%)ことが分かります。
NISAを利用するのかしないのか、この1年である程度はっきりさせた人が相当程度いることが伺えます。
さらに、このデータを年代別に分析すると、18-29歳以下のNISA検討とNISA利用が最も進み、かつ、60代の「利用しない」層が顕著に多くなっていることが分かりました【図表2】。
この1年では、NISAを「利用する」にせよ「利用しない」にせよ、世間の皆さんの意向がはっきりしてきているということが分かりました。
ミライ研の分析では、この意向に大きく関係していそうなのが、「金融教育の受講経験」や「ライフプランニング」であることが分かりました。
続いては、この金融教育とライフプランニングの実践状況とNISAの利用意向についてみていきましょう。
【図表3】のとおり、どこかしらの“場”で、金融教育を受けた経験がある人は、NISAの利用済+利用意向ありの割合が、未経験者に比べて大きくなっていました。
特に、実際にNISAを活用できる年齢に達しているであろう、「短大生・大学生・大学院生・専門学校生」や「社会人」のタイミングで教育を受けた層は、NISA利用率が顕著に高い傾向がみられます。
また、【図表4】のとおり、「ライフプランを立てている人」は、そうでない人に比べて顕著にNISAの活用が進んでいます。
自身の長期的な“家計のあり姿”を描くことで、そのプラン実現に向けたアクションとして「NISAを活用した資産形成」が選ばれているものと推察されます。
また、ライフプランを立てていない人は、NISAの利用意向について「どちらともいえない」ではなく「利用意向なし」が最多の6割となっています。
ライフプランを立てていない方は、NISAのように長期的な目線で資産形成をするようなものに「関心を持っていない」ということが見て取れます。
2024年の「NISA元年」を終えて、国民のNISAに関する意識や行動が大きく変化したことが分かりました。
ここまでの調査結果から考察すると、NISAへの関心は、金融リテラシー関連の情報に接する機会を持つこと、ならびに将来のことに目を向けることが、大きなきっかけの一つになっていることが伺えます。
豊かな人生を送るにあたり、NISAの利用は「マスト」ではありませんが、お金に関する“学び”を得ることや、自身の将来設計を立ててみることが、「人生の経営者」として長期で有利な資産形成制度を活用するマインドの醸成につながっているものと思われます。
上記の記事に加え、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)より
NISAの認知・利用事情 ~NISA元年を終えて、世間への浸透度はどう変化した?~
を資産のミライ研究所のHPに掲載しています。
是非、ご覧ください。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第189回】NISAの認知・利用事情②
2025.05.21
2025.05.19
【トピック】
・ローン返済世帯の共働き率は、単独ローン世帯58.8%、ペアローン世帯85.9%
・「返済比率は世帯年収の3割まで」が主流だが、ペアローンでは高い比率に偏り
・ペアローンの借入金額は、単独ローンの「1.3倍」
・およそ4割は、夫婦・パートナーで平等に金額を借り入れている
レポートレポート文章
2025.05.19
2024年に「新しいNISA」が始まり、1年が経過しました。
この1年で、NISAに関するメディアの露出も増え、皆さまの周りにも、NISAを「知っている」や「使っている」人も増えたのではないでしょうか。
そこで、本コラムでは、世間におけるNISAの認知度はどれくらい広がったのか、利用はどのくらい進んだのかを、ミライ研のアンケート調査も交えて検証してみたいと思います。
まずは、金融庁のデータで、NISA口座数の推移を見てみましょう。
口座数はこの1年で約2,125万口座から約2,560万口座へ約436万口座(約21%)増加しました。まさに、国民の「貯蓄から投資へ」のマインドチェンジが伺える結果ではないでしょうか。
ちなみに、2024年の新しいNISA制度の開始は、振り返ると2022年11月に岸田内閣から発表された「資産所得倍増プラン」の第1の柱に「家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡充や恒久化」が謳われたことが契機でした。
この資産所得倍増プランでは、NISA口座数を2022年当時の1,700万口座から、5年間で3,400万口座に倍増させる目標が掲げられています。
ここからは、ミライ研が毎年1月に実施している「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」の結果をもとに、NISAの「口座数」だけでは見えない、国民のNISAに対する認知・利用がどのように進んだのかを分析しました。
まず、「資産形成のための制度」としての認知度を確認しました。
アンケート回答者に「制度として知っているもの」を複数回答で選択いただいたところ、【図表2】のとおり、NISA制度の認知度が6割と圧倒的な結果になりました。
資産形成の制度における認知度は、NISA制度がトップ、次いでiDeCo(個人型確定拠出年金)、財形・社内預金等が続いています。
一方で、どの年代においても「この中にはひとつもない」との回答が約3割程度存在し、認知度の格差があることが伺えます。
この1年でその認知度ならびに利用状況はどのように変化したのでしょうか。
ミライ研が、2024年1月に実施した調査データと時系列で比較すると、NISAの「認知度」は、全体で14.3%の伸びとなり、どの年代も10%以上の上昇、「利用者」は7.0%の上昇となりました【図表3】。
年代別では、特に60代の認知度・利用率が1年で最も伸びていることが分かります。すでに利用者が多かった30代は、相対的に伸びが少ないものの、利用率は依然トップの状態です。
次に、保有する金融資産額と利用率・利用意向をクロス分析しました【図表4】。
これを見ると、18-29歳の一部を除き、どの年代も「資産額」が多いほど「NISA利用者/利用意向者」は多い傾向であることが分かります。
年代間を比較すると、若年層は資産が少なくてもNISA利用が進んでいます。グラフを見ると、資産額500万円未満の18-29歳の利用率と、資産額1,000万円~2,000万円の60代の利用率がほぼ同じであることが分かります。
いかがでしょうか。NISAの認知度は全体で6割、利用率は2割を超える水準になっており、国民に一定程度浸透してきていることが分かります。
また、若年層では資産が相対的に少なくても、おそらく積立投資でコツコツ資産形成を実践していそうだということが分かりました。
次回は、NISAを利用していない人の「意向」にもフォーカスを当ててみます。
上記の記事に加え、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)より
NISAの認知・利用事情 ~NISA元年を終えて、世間への浸透度はどう変化した?~
を資産のミライ研究所のHPに掲載しています。
是非、ご覧ください。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第188回】NISAの認知・利用事情①
2025.05.14
「ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略」の連載も今回が最終回です。令和において、世帯構造の変化やライフスタイルの多様化が一層顕著になっています。「家計のウェルビーイング(家庭の経済面で安心感のある良い状態)」とは、各世帯が自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることで、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが経済的に安心し、多様な幸せを実現している状態とされます。「ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)」という言葉で表されることが増えています。
一人ひとりのFWBを向上させていくポイントは、①ライフプランやマネープランの作り方、金融商品・サービスなどの情報や知識を金融経済教育で習得し、自身の家計に応用するスキルも身につけること(FWB向上のための金融リテラシーの習得)、②金融リテラシーを活用し、家計において実際の金融行動に踏み出すことが挙げられます。
金融リテラシーを生活術として身につけ、中長期的な視点で生活設計、家計管理、資産形成に取り組むことが一層重要になります。
では、FWBを向上させるうえで、中長期的な視点で家計を考えるとはどういうことでしょうか。ライフプラン表やキャッシュフロー表の作成などによる「将来の家計キャッシュフローの見える化」は効果的な取り組みですが、家計のウェルビーイングを高めるにはマインドセット(考え方、姿勢)も重要です。
例えば、ミライ研で一般的な勤労者世帯における平均的な生涯収入を試算したところ、約3.8億円となりました。生涯収入は、(図表1収入欄)掲載の式でイメージできます。これは、人生において使えるお金のボリュームともいえます。人生の支出面における大きな影響として、住宅購入費用、教育関連費用、老後生活費用を考えてみます(図表1支出欄)。平成から令和にかけて住宅価格は大幅に高騰し、教育関連費用も相当な規模感で推移しています。老後生活費用の平均的な目安は約1.4億円となっています。
こうして俯瞰してみますと、FWB向上へのマインドセットはシンプルになります。生涯収入は「人生の財布の大きさ」を表します。一方、人生には様々なイベントが生じますが、イベント数が増えるからといって「人生の財布(=生涯収入)」が自然と増えるわけではありません。基本ルールは「何にどれくらいのお金を振り分けるか」とです。
(図表2)ケース①は、生涯収入を3.8億円とした場合、ローンで0.5億円の自宅を購入するケースです。「人生の財布の大きさ」は決まっていますので、自宅購入に0.5億円を振り分けると、教育関連費用、介護費用、老後生活費用などその他のイベントに振り分けられる金額は3.3億円となります。
ケース②は住宅購入に1.0億円を振り分けていますので、住宅購入以外のイベントで使える分は2.8億円に減っています。至極「当然」ではありますが、これが「中長期目線で生涯収入をライフイベントへ振り分ける」ということであり、「住宅購入」「住宅ローン」「教育関連費用」「老後生活費用」といったイベントに対し、個々に目を凝らしつつも全体を「ひとつながりのマネープラン」として考えるということです。現在、住宅価格の高騰により家計に占める住宅購入費用の割合は大きくなっていますので、将来の老後生活費用の減少を招く恐れもあります。
見方を変えると、我々は「生涯収入を元手(もとで)として、自身の人生を経営していく経営者」ともいえそうです。住みたいエリアに心地よい住まいを構える、パートナーや家族と生活を共にする、趣味にこだわる、地域での信用を得る、学びの楽しさを感じ、自身のキャリアを社会に還元し役立てるなど、長寿化とともに選択肢と可能性が広がっています。こういった「満足できる自分なりの生き方の追求」と「ウェルビーイングの向上」は非常に密接につながっており、これを実現していくことが「人生の経営」になります。それを支えるのが経営資源(=生涯収入)であり、枯渇(資産寿命が尽きる)しないようにコントロールすることが必要です。
将来への見通しは、若い年代では10年ぐらい先までのイメージが多いと思いますが、中高年代へと進む中で、より遠くまで見通しが利くようになり、その解像度も高まると思われます。そうなれば、お金の不安が先に立つので「老後資産はなかなか使えない」というネガティブなマインドセットから、「今の見通しであればやっていける」という自信を感じることで「老後のウェルビーイングのためにこれも実現しよう」というポジティブなマインドセットへの転換が期待されます。
コラム執筆者
丸岡 知夫(まるおか ともお)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)、『「金利がある世界」の住まい、ローン、そして資産形成』(金融財政事情研究会、2024)がある。
【第187回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑫
2025.04.30
2025.04.25
【トピック】
・住宅価格は首都圏だけでなく全国的に上昇傾向
・ペアローン利用は首都圏で約3割、3大都市圏以外で約2割
・住宅ローンの返済設定期間はどのエリアでも35年以上が約半数
・ペアローン利用、返済設定期間の長期化は全国的な傾向
レポート要約
2025.04.25
これまで、日本におけるファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)を高める考え方や具体的な取り組みについて解説してきました。今回は海外の金融経済教育の取り組みとFWBの動向に目を向けてみます。
21世紀における金融経済教育の変遷を振り返ると、2008年のリーマン・ショックにより「個人家計の脆弱性」が明らかになったことが大きな転換点でした。リーマン・ショックを機に各国で個人家計のレジリエンス(頑丈さ、抵抗力)を高める観点で「金融リテラシーの重要性」が改めて認識されました。また、経済協力開発機構(OECD)において、2008年5月に金融経済教育に関する情報共有・分析を目的として「金融経済教育に関する国際ネットワーク(OECD/INFE)」が設立され、現在、約130ヵ国が加盟しています。OECD/INFEは、2012年4月に「個人のFWBを向上させるために必要な知識、態度、行動の総体が『金融リテラシー』である」と定義し、金融経済教育の指針として「金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」を作成しました。同原則は同年6月のG20ロスカボス・サミットにて承認されています。
さらに新型コロナウイルス拡大によって、「個人家計の脆弱性」が再び強く認識されたことを受け、OECD/INFEは2022年6月に「Policy handbook on financial education in the workplace」(職場における金融教育の実施手引き)を公表しました。この中で、個人家計の「短期・長期の予期せぬ収入減への抵抗力」と「経済的な満足度(FWB)」を向上させる取り組みにおいて「職場は、家計の意思決定者を含む成人人口の大部分に金融教育を届けることができるうってつけのチャネルでもある」として、職場での金融教育の重要性が指摘されています。
国際的にも金融経済教育によって個人のFWBを向上させる取り組みが進展していますが、特に英国の取り組みは、日本の「資産所得倍増プラン」や「資産運用立国実現プラン」のモデル施策の1つともいわれます。
英国では、2020年1月に英国の公的機関である金融年金サービス局The Money&Pensions Service(以下MaPS)が今後10年間の戦略をまとめた「The UK Strategy for Financial Wellbeing 2020-2030」(FWB向上に向けた英国の国家戦略2020-2030)を公表しています。その内容は、「家計の健全な国/国民は、個人・地域社会・産業界そして経済にとってよいものである」という信念のもと、5分野において「すべての人々が、そのお金と年金を最大限に活用できるようになる」ための、大規模な変革に向けた数値目標と、それらが実現した時の成果を示しています(図表1)。
現在、MaPSは金融機関や調査研究機関と連携し、英国民に向けたさまざまな金融サービスを展開しています。
米国では2003年に金融リテラシー教育委員会(FLEC)、2010年には消費者金融保護局(CFPB)が設立され、連邦政府が先頭に立って国民への金融経済教育を推進しています。2015年にはCFPBから国民のFWBに関する報告書が提出され、「FWB向上には知識やスキルに基づく行動が重要である」点が強調されています。1980年代から確定拠出年金である401(k)や個人退職勘定(IRA)などの年金制度を中心に個人家計の資産形成支援が進み、現在、401(k)は米国民の約3人に1人である約1.1億人が、IRAは約7人に1人となる約5千万人が利用しています。
英国・米国は日本に先んじて個人のFWB実現や向上を国家施策に掲げて金融経済教育を推し進めてきています。その一方で、提供されているサービスや情報は幅広いものの、国民一人ひとりの取り組み状況には濃淡があり、FWBの向上に関心が薄い層の金融教育体験や金融行動の促進策が課題です。
日本では2024年に、国民一人ひとりのFWBを高めることをミッションとする金融経済教育推進機構(J-FLEC)が設立され、官民一体での取り組みが始まりました。
取り組みの中核となる「資産所得倍増プラン」では2022年の公表時に2つのKPIが掲げられています。1つは、今後5年間でNISA総口座数(一般・つみたて)の倍増(1,700万口座から3,400万口座へ)、もう1つはNISA買付額の倍増(28兆円から56兆円へ)です。
日本でも「国民一人ひとりへの金融経済教育の提供方法や利用しやすい商品・サービスの提供、FWBに資する金融経済教育内容の探求」といった課題が指摘される一方、ウェルビーイング学会内にFWB分科会が創設され、FWB向上への研究がスタートしました。今後、各国の知見も踏まえ、各家計のウェルビーイング(=FWB)、国民全体のFWB向上に、本当に役立つ金融リテラシーの普及や、知識を活用した金融行動の実現が期待されます。
コラム執筆者
桝本 希(ますもと のぞみ)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2015年三井住友信託銀行入社。個人の資産運用・承継コンサルティングに従事。22年より現職。ファイナンシャル・ウェルビーイングに関する調査研究・情報発信を行う。ウェルビーイング学会会員。
【第186回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑪
2025.04.23
ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)を高めるための「学ぶ」「把握する」「相談する」「行動する」の4つのステップのうち、近年では学生時代から「学ぶ」環境が整いつつあります。
2017年・18年・19年の学習指導要領(文部科学省が定めている教育課程の基準)改訂に伴い、中学校、高等学校の「家庭科」「社会・公民科」を中心に、金融や経済に関する内容が拡充されました。特に高等学校家庭科では、従来からライフプランや家計管理、消費者教育の内容が含まれていましたが、今回の改訂でFWB向上に必要な知識をより幅広く学べる科目になりました。
金融経済教育推進機構(J-FLEC)も、小学校低学年から大学生まで、各年齢に応じた学習教材を提供しています。資産のミライ研究所(以下、ミライ研)が全国の1万人を対象に実施したアンケート調査で「お金の授業・教育を受けた時期」について聞いたところ、最も多い層が「現在18-20歳の方が高校生の時」でしたが、それでも19.2%にとどまります(図表1)。環境整備が進んだことで、今後、この数値自体は増加していくことが期待されます。
一方で、学生時代の「学び」を、自身のFWB向上につなげるための課題も見えてきています。
1点目が、学校で金融について学ぶ時間は必ずしも十分でない点です。授業時間には当然ながら制約があり、「金融」以外にも学ばなければならない科目・内容があります。指導要領改訂により中身は充実しましたが、その全てを理解し、自分ごと化する時間が確保できているとは言えません。
2点目は、「金融教育」が、ともすれば「投資推奨教育」に偏きがちではないかという点です。FWB向上のためには、「人生で実現したいこと」や「自分にとってのウェルビーイング」を明確にしたうえで、それらを実現するために、家計の中で上記4つのステップに取り組むことが重要です。投資はその取り組みの中の1つの手段にすぎず、投資に取り組むだけで全てが解決し、ウェルビーイングになれるわけではありません。
金融教育の土台には「将来、どのようなこと・状態を実現したいのか」というライフプランが必要であり、そのうえで、①必要となる資産(ヒト・モノ・お金)を考え、②それを形成する手段として、投資に限らず、さまざまな金融商品・サービスについて学ぶという全体像への理解を、教え手と受け手の双方が持つことが望まれます。
3点目は、学生時代の学びを継続していく点です。高校生以下の年代は、保護者世帯の扶養家族として生活しているため、「お金を稼ぐ」や「家計を管理する」経験が乏しく、実感がわかない学習内容もあるかもしれません。そういった点も踏まえ、学生時代に受ける授業は「金融教育の入り口」だと認識し、継続して学んでいく習慣を身に付けることがポイントとなります。
では、継続的に学ぶためにはどうすればよいでしょうか。まずは「家族でお金について会話すること」です。ミライ研のアンケート調査によると、世代の異なる家族とお金について「会話している・たまに会話している」と回答したのは、26.4%とおよそ4人に1人にとどまりました。しかし今後は、子供が学んできたことを家庭に還元し、さらには家族のライフプランや資産形成計画を一緒に「把握」し、「行動」を(疑似)体験しながら将来に向けた実践力を身に付けていく、という家庭での取り組みが進むことが期待されます。加えて、この取り組みは、今まで金融教育を受けたことのない大人にとっても、新たな気付きを得る機会になります。家族全体のウェルビーイングを高めることにもつながるはずです。
学生時代は確かな基礎を築いたうえで、社会人になった後は職場における金融教育の機会を活用することが最も身近で有用です。第184回でもポイントとして示したように、近年、従業員のFWB向上を目的とした企業の取り組みが増えてきています。資産形成に関する各種会社制度の活用はもちろん、金融教育機会への参加や自身のライフプラン・マネープランに合わせて図表2にあるような金融知識を、外部の知見も活用しながら習得し続けることが、家計のFWB向上にとって大切になるでしょう。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第185回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑩
2025.04.16
2025.04.15
【トピック】
・資産形成に取り組んでいる人の年間資産形成額平均は123万円
・税制優遇制度(企業型DC/iDeCo、NISA)は、およそ4人に1人が利用
・DC利用者は約6割がNISAも利用
・NISA利用者のiDeCo関心も若年層を中心に高い
レポートレポート
2025.04.15
2025.04.14
今回は「職場におけるファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)」について考えてみます。
日本の労働力人口は約6,900万人(総務省統計局 2023年)、そのうち雇用者数は約6,000万人であることから、単純計算をすれば、労働人口のおおよそ9割は「給与をもらって生活している人」といえます。では、この給与をもらう場所、つまり「職場」においてFWBを高めることはできるのでしょうか。
職場において従業員のFWB向上をサポートする仕組みの代表例は、企業型確定拠出年金(DC)制度です。企業型DC制度を導入している企業は着実に増えており、2024年3月末時点で5万2千社を超え、加入者も830万人を超えています。
企業型DCは、将来受け取るDCの資産を従業員自身が運用する制度です。そのため、企業型DC制度を導入している企業では、法令上、従業員に対して必要かつ適切ないわゆる「投資教育」を実施することが「事業主の責務」とされています。
では、企業型DCが従業員個人のFWB上につながるのでしょうか。(図表1)は、ミライ研の1万人アンケート調査において、「DCを活用している」と答えた767人と回答者全体を比較したものです。これを見ると、DCを活用している人の方が、社会人になってから「金融教育を受けた」という割合が高く、自身の「ライフプラン策定」も進んでいます。また、「自分の退職金額の把握」にもつながっており、回答者全体の約3倍の人が「積立投資を実践している」と回答しています。企業型DCがDC加入者の「金融リテラシー向上」と「資産形成の実践」を促進しているといえるでしょう。
従業員に対して企業が提供するFWB向上の支援策には、DCを筆頭に、財形貯蓄、給与天引きでの積み立て投資度、職場つみたてNISAなど様々なものがあります。これらの制度の特徴は「積み立てが給与天引き」であり、従業員の手間がかからない形になっていることです。資産形成の基本は、収入からあらかじめ資産形成に回すお金を先取りし、残りのお金で家計のやりくりをする「先取り貯蓄」ですが、これらの制度は先取り貯蓄を仕組み化した有効な資産形成手段といえます。
なぜ、企業は従業員のFWB向上を支援しているのでしょうか。
企業経営の目線では、昨今、「ウェルビーイング」への注目度が高まっています。労働力が希少な社会になり人材確保が課題となるなか、従業員に働きがいをもっていきいきと働いてもらうことが重要なアジェンダとなっています。
従業員のウェルビーイング向上に関する取り組みは様々なかたちで行われていますが、忘れてはいけないのが、従業員の「経済面での充足度」です。もちろん、給与の引き上げなども従業員の経済的な充実の重要な要素です。しかし、ウェルビーイングに寄与するのは報酬額などの「客観的な水準」に加えて「今の収入で何とかやっていける」という「主観的な感情」が大きな役割を果たしていることが分かっています。従業員がキャリアプランだけでなく、ライフプランやマネープランについても主体的に考え、資産形成を促すことにより、経済的な不安を解消することが、ひいては従業員のウェルビーイング向上につながります。
ミライ研の調査データで興味深いものをご紹介します。
(図表2)は、2022年に行ったミライ研の調査において、会社員・公務員に対し「資産形成に関する福利厚生制度(財形貯蓄や企業年金、持株会、社内預金など、貯蓄・運用のための制度)の充実度が就職先選定に影響したか」をお伺いしたものです。調査結果をみると、20代では37.6%、30代では29.9%が「影響した」と回答しています。若い世代ほど、就職先の選定に際して「資産形成をサポートしてくれる福利厚生制度の充実」が重視されている傾向がうかがえます。これは、企業の人材確保策において、家計の資産形成支援(FWB向上のサポート)が、若い世代にとって大きな魅力のひとつになっていることを裏付けています。
さらに、企業の中には、これらを人的資本経営における「従業員のFWB向上にむけた取り組み」として、有価証券報告書や統合報告書などで投資家に開示している企業も増えています。
ここまで取り上げた資産形成の支援策以外にも、各種融資制度(住宅・教育など)、持株会ほか株式報酬制度、iDeCo+、団体保険、健康保険制度なども、FWBにつながる会社の支援策といえます。企業に勤めている皆さんは、職場で行われている金融教育機会への積極的な参加に加えて、有利な各種の会社制度を理解したうえで、それらを賢く活用することが、「家計のウェルビーイング」を高めることにつながるものと思われます。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第184回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑨
2025.04.09
ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)は、「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることにより、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られる状態」のことです。第179回では、FWB度が高い人の特徴として、金融教育を受け、収支を把握し、ライフプランを立て、公的年金の受給水準を知り、必要に応じて専門家に相談し、資金準備をしているといった特徴が挙げられました。人生の三大費用ともいわれる「住居購入、子供の教育、老後生活」のうち、今回は「老後」にスポットを当ててみましょう。
ミライ研の調査によると、老後資金に不安があるという人は約半数に達しています(図表1)。お金の不安のうち老後資金不安は年代を問わず悩みのトップとなっています。確かに、何歳まで生きるかわからない老後に向けて不安を持つこと自体は、人の「さが」ともいえるものですが、だからこそ公的年金があります。就職すると親元を離れることも多く、高齢者を家庭内だけで支えるのは難しい世の中になっています。公的年金は、老後への備えを個人や家庭だけで行うのではなく、みんなでみんなを支え合う仕組みにしたものです。
現役期に保険料を支払うと、直接的には年金をいま受け取る人の資金になりますが、保険料を納めることにより、年金を受け取れる「権利を買っている」側面もあります。厚生年金保険では給与や賞与の水準に応じた保険料となっており、支払った保険料が多いほど、受取額も多くなる仕組みになっています。
個々人の寿命を予測することは難しいですが、国民全体の寿命は国が推定しており、集団で見れば比較的安定しています。国民全体で支え合う公的年金は、生涯受け取れることや、ある程度インフレに対応した金額を受け取れることを考えれば、老後の重要な収入源といえます。インフレや長寿の環境において、公的年金への期待は高まっており、公的年金について学ぶことが老後資金不安の解消に重要と思われます。
しかし、年金についての授業・教育を受けたことがあるという人は、ミライ研の調査によれば6.2%(図表1)で、1割にも満たない割合です。私の学生時代を思い返しても、年金の授業を受けた記憶はありません。多くの人にとって、年金は「学ぶ」段階から課題があるといえそうです。また、公的年金の金額がイメージできている人は全体の41.4%(図表1)と少数派であり、「把握」にも課題があります。
公的年金の金額水準をイメージできている人に対して、その金額についてどう思ったか尋ねると、思ったより「少なかった・やや少なかった」と答える人が多数派(52.5%)でした。なかでも、ライフプランを立てていない人は、ライフプランを立てている人に比べて、公的年金の額に対して「少なかった・やや少なかった」と感じる割合がかなり高くなっています(図表2)。
将来の年金受取額を把握する方法として、ねんきん定期便を挙げる人もいますが、50歳未満のねんきん定期便に記載されている年金受取額は過去の保険料支払記録に基づく金額であり、将来の保険料は考慮されていません。人によっては、老後に受け取る金額よりもかなり少ない金額が記載されていることに注意が必要です。
ねんきん定期便についている二次元コードをスマートフォンで読み取れば、「公的年金シミュレーター」を使って、今後の就労等を踏まえた老後の年金受取額を簡単に試算できます。手元にねんきん定期便がなくても、スマートフォンやパソコンで「公的年金シミュレーター」と検索すれば、アクセスできます。公的年金シミュレーターという名前ですが、専用のアプリのインストールやユーザー登録、パスワードが不要で、働き方・暮らし方を変えた場合や受け取り始める年齢を変えた場合の年金額も簡単にWeb上で試算できる、手軽で有効なツールです。
内閣府の調査によると、公的年金シミュレーターの認知度は8.4%です。ミライ研の調査でも、公的年金シミュレーターを使って年金額を把握している人は3.9%にすぎません。使ったことがない方は、これを機に活用してみてはいかがでしょうか。
なお、会社によっては退職金や企業年金がある場合もあります。退職金について、制度内容を知っている人の割合は48.4%ですが、給付水準まで知っている人の割合は35.5%にとどまります。
老後資金に不安を持つ人は多いですが、FWB向上のためには、年金について学び、年金や退職金などの額を把握し、必要に応じて専門家に相談して、老後に備える行動をとることが重要です。
コラム執筆者
杉浦 章友(すぎうら あきとも)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
2010年、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。三井住友信託銀行に入社し、企業年金の制度設計・数理計算業務に従事。厚生労働省へ出向し年金に関する公務に従事。2022年10月よりミライ研主任研究員。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、AFP、日本年金学会会員、ウェルビーイング学会会員。翻訳書として『図表でみる世界の年金OECD/G20インディケータ(2019年版)』(明石書店、2021年、岡部史哉(監修)らとの共訳)がある。
【第183回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑧
2025.04.02
2025.04.01
2025.03.26
【トピック】
・持ち家購入時、住宅ローン利用は約8割
・20歳代・30歳代の2割がペアローンを利用
・世帯としての当初借入額、「単独ローン<ペアローン」
・金利形態は、借入額3,000万円が分水嶺
レポート
2025.03.26
2025.03.26
【トピック】
・老後資金不安の理由は、老後の生活費や年金額がわからないから
・若年層は「公的年金は貰えるかどうかがわからない」と回答
・公的年金額の把握経路によって公的年金額へのイメージが異なる
・ライフプランを立てていると、年金額と想定とのギャップは小さい
・年代を問わず、退職金・企業年金の水準が知られていない
レポート
2025.03.26
ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)向上にむけた「①学ぶ」「②把握する」「③相談する」「④行動する」の4つのステップのうち、前回までに「③相談する」まで確認し、「ライフプラン表&キャッシュフロー表」が完成しました。今回は「④行動する」のステップについてです。このステップでは、①ライフプラン表&キャッシュフロー表に基づいた資産形成の実践と、②家計への影響が甚大な“不測の事態”への備えに着目します。
資産形成の実践では、ライフプラン表&キャッシュフロー表の策定により、今後の家計における保有資産目標額と、それを準備していく時間軸が明確になりました。次は、「どのような手段・金融商品で準備を進めるか」が検討の要点となります。
家計の資産形成手段は、「貯蓄」と「投資」の2つに大別できます。貯蓄は、自国通貨の預貯金で資産を蓄積していくことです。投資は、貯蓄以外の資産にお金を投じることです。
「投資」というと、デイトレーダーのように一日に何度も株式などを売買するようなイメージが浮かぶかもしれませんが、家計の資産形成手段としての投資では、「長期・分散投資」で積み立てるのが原則です。インフレ基調の経済見通しにおいては、長期・分散投資によって「資産の運用リスク(投資対象のリターンの振れ幅)」をコントロールしつつ、運用成果により家計資産の伸びを支えていくことが、「家計行動の基本」になっていくと考えられます。2024年より制度が拡充された少額投資非課税制度(NISA)の利用者が急拡大していますが、資産形成のための有効な制度としての利用が期待されます。
他方で、家計の保有資産を目標額に着実に近づけるのであれば、「運用リスクはとらず、貯蓄で準備するべきでは」という考え方もあります。その場合、「目標額の未達リスク」に留意する必要があります。
例えば、
というケースで考えてみます。
10年後の到達金額は、「元本360万円+預貯金の金利(累積額)」ですが、足元の預金金利水準では目標額の400万円には届きそうにありません。運用リスクは取っていないものの目標額には到達できず、結果として本来の目的である「思い描いたライフイベントの実現」が危うくなることになります。「貯蓄するか、投資するか」を検討するうえでは、理解しておきたい「リスク」の1つです。
家計に負債がある場合、資産と負債のバランスを把握することも重要です。日本銀行の政策金利引上げ以降、家計の負債として代表的な住宅ローンの金利も徐々に上昇しており、特に変動金利型ローンの利用者にとっては金利上昇による家計への負担増が懸念されます。「資産を形成する」ことと同じくらい「負債をどう減らしていくか」も、「金利がある世界」においては重要度が増しています。
ミライ研のアンケート調査でも住宅ローン返済中の世帯(1,218世帯)の67.2%が「金利が上昇したら、ローン返済に何らかの変更を検討する」と回答し、手段として「一部繰り上げ返済」が最も多く選ばれました(※)。
一部繰り上げ返済は、手数料無料かつオンラインで手続きできるようになっている金融機関が多いため、比較的手軽に取り組めます。ただし、「返済負担が減少すれば、その分、資産形成できる」ともいかないようです。図表1のように、「繰り上げ返済経験があるものの、将来の生活設計・資金計画の検討はない人(114人)」では、「住宅ローン返済があるものの、資産形成には取り組んでいる」との回答が34.5%にとどまります。将来計画がないと、ローン返済と資産形成の両立は難しい傾向があります。
繰り上げ返済を行う際は、「返済負担がどの程度、減少するかの見通し」だけでなく「家計の余資を返済に使うことの影響」をライフプラン表&キャッシュフロー表に反映させ、計画を再策定することが大切です。
(※)詳細は、ミライレポート『「金利がある世界」はくる?こない?−住宅ローン金利が上昇したとき、あなたならどうする?−』をご覧ください
「行動する」のステップでもう1つ考えておきたいのが、”不測の事態”への備えです。例えば、死亡、病気・ケガによって働けなくなる状況などは、ライフプランに織り込みづらいものの、万が一発生すると、その後のライフプランや資産形成の計画に大きな影響を及ぼします。このようなケースに対応するには、保険の活用が一般的です。保険料を支払うことで、不測の事態が生じた際に大きな保障を得るようにしておけば、その後のライフプランなどへの影響を抑えることができます。社会保障や勤務先の各種福利厚生制度における保障内容を確認したうえで、不足分は個人の保険でカバーするのが、望ましいでしょう。
次回は、社会保障のなかでもとりわけ家計にとって影響の大きな「年金」を解説します。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第182回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑦
2025.03.26
2025.03.26
2025.03.19
ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)向上における「①学ぶ」「②把握する」「③相談する」「④行動する」の4ステップのうち、「把握する」は「足元の家計収支」と「将来のライフプラン」を自分ごと化する手続きでした。今回は「将来のライフプラン」について確認します。
ライフプランとは、今後10~20年の間に「いつ」「どのような」ライフイベントを実現したいか計画することです。その際、「子供の進学」「自宅のリフォーム」といった具体的なイベントを挙げるだけでなく、「自身(および家族)としてのウェルビーイング」の観点からもライフイベントを検討しましょう。
米ギャラップ社は、ウェルビーイングを、「キャリア」「ソーシャル」「フィジカル」「コミュニティ」「ファイナンシャル」の5つの構成要素で定義しています。家族としてより良い状態となるために、「キャリア:どのように時間を使うか」「ソーシャル:他人とどのように関係構築するか」「フィジカル:どのような健康状態を目指し、それを維持するか」「コミュニティ:自身の過ごす空間とどのように関わるか」という観点からも、ライフイベントやありたい姿のイメージを膨らませてみるとよいと思われます。
例えば「趣味の時間をより充実させるため、自分で時間をコントロールできる仕事に転職する」や「地域との関わりをより深める目的で、家族で地域のボランティア活動に参加する時間を増やす」といったことも考えられます。それらを織り込むことで、家族全体のウェルビーイングを高めることができます。
ライフイベントや目的をイメージしていくことと合わせ、それらを実現するために必要となる資金額(経済的なコスト)の確認が不可欠です。ですので、もう一歩進めてライフプランと足元の家計収支を「ライフプラン表&キャッシュフロー表」(図表1)に反映します。
策定にあたっては、表の「上から下へ」空欄を埋めます。まずは、家族の氏名と各時点の年齢を記載します。次に、ライフイベントの欄に、ご自身(ご家族)で策定したライフプランを記入します。
キャッシュフローの欄には、家族全員の年間収支を記入します。その際、収入には昇給・降給、年金受取開始など今後の見通しも踏まえた金額を、支出にはライフイベント実現にかかる費用も含めて記入します。
最後に、年間収支と貯蓄残高を計算して記入します。年間収支は、各年の「収入」-「支出」で算出します。赤字の年は、それをカバーできる貯蓄残高があるか確認しましょう。赤字が続くと貯蓄残高の減少ピッチが早まるため、収支計画を見直す必要があります。
他方、貯蓄残高は「前年末の貯蓄残高」+「当年の年間収支」で算出します。貯蓄残高の推移をみると、家計の金融資産が枯渇する時点、いわゆる世帯の「資産寿命」が確認できます。貯蓄残高がマイナスになる場合はそれをカバーするための計画(マネープラン)を考え、すぐに取り組むことが重要です。最近では、「ライフプラン表&キャッシュフロー表」を作成できるスマホアプリもあります。見直しや再作成を考えると、活用も便利でしょう。
ここまでの過程で、手が止まってしまう場面もあるかと思います。そこで、3つ目のステップ「相談する」に取り組みます。「相談する」とは、信頼できる機関や専門家にお金に関する悩みや疑問を投げかけ、不安を解消し、未来に向けて実践していくべき金融行動を一緒に考えることです。
ミライ研のアンケート調査で「将来の生活設計・資金計画についてFP(ファイナンシャルプランナー)や金融機関、行政の職員などに相談したことがある」と回答された方は15.1%にとどまりますが、金融経済教育推進機構(J-FLEC)が事務局である金融経済教育推進会議が示す「金融リテラシー・マップ」では、「外部の知見の適切な活用」を金融リテラシーの重要な要素の1つとして挙げています。
最終的に判断するのは自分自身ですが、金融分野は専門的で複雑な内容も多く、資産運用などに関しては心理的・感情的な要素に左右される部分もあることから、自身の視点に加え、第三者から客観的なアドバイスをもらうことも大切です。
相談窓口としては、例えば、J-FLECが提供する「J-FLECはじめてのマネープラン」(同機構認定アドバイザーによる無料個別相談窓口)があります。その他、従来からある各金融機関やFPによる相談窓口も役に立ちますので、自分にとって「これがよさそう」という相談先を見つけ、上手に活用していくことが「令和スタイル」となっていくと思われます。
次回は、FWB実現の4つ目の「行動する」において、その方法と留意点をお伝えします。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第181回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑥
2025.03.19
2025.03.18
【トピック】
・長く続いた「変動金利人気」から「長期固定金利」への揺り戻しの気配
・頭金「ゼロ・1割」での住宅購入も今は昔?!「きちんと準備」に回帰の予兆
・35年間で借入金額中央値は1,000万円以上増加、それも限界点に達したか
・借入期間35年超が2023年までは増加していたが、2024年は反転減少
・住宅ローン返済以外のイベントも含めた、ミライの家計をプランニングすることが重要
レポート
2025.03.18
2025.03.17
【トピック】
・NISA認知度は昨年から14%上昇 利用者は7%上昇
・およそ3人に1人が、NISAを“利用している人”もしくは“利用意向がある人”
・昨年から「利用済+利用意向がある人」が増える一方で、「利用しない」人も顕著に増加
・若年層は、保有金融資産額が少ない人もNISAを利用
レポート
2025.03.17
2025.03.12
三井住友信託銀行が年金のお客さまを対象に発行しております「三井住友トラストペンションジャーナル」に、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の清永研究員が「従業員のファイナンシャル・ウェルビーイング実現に向けた企業の対応策とは」、杉浦主任研究員が「公的年金制度改正の方向性」のタイトルで記事を寄稿しました。是非、ご覧ください。
レポート
2025.03.12
2025.03.12
資産のミライ研究所では、ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)向上にのために、以下の4つのステップが重要だと考えています。
これらを家計において実践する方法やポイントについて、順に確認します。
まず「学ぶ」のステップには、「金利とは」「投資信託のメリットとは」といった投資に関する知識習得にとどまらず、「家計管理」や「ライフプランの策定」、「活用すべき金融商品」、「金融トラブルの回避方法」など、幅広い内容の理解が含まれます。その際に大切なのが、情報源の信頼性を確認し、正しい知識を得ることです。各種SNSには、個人が自分なりの見解をもって発信する金融情報も多く、なかには信頼度の低いものも含まれます。金融経済教育推進機構(J-FLEC)や官公庁、各金融業界団体、金融機関などが発信する情報をもとに、理解を深めていくことが重要です。
次に、習得した知識を自身の家計・人生に取り込み、自分ごと化していくのが「把握する」のステップです。把握すべき項目は、①足元の家計収支と②将来の自身(および家族)のライフプランです。
ミライ研が全国1万人へのアンケート調査で家計収支の把握状況についてお伺いしたところ、「把握している・ある程度把握している」が47.6%、「どちらともいえない」が29.2%、「あまり把握していない・把握していない」が23.1%となり、半数近くの人が家計の収支を把握していることが分かりました(図表1)。
「家計の収支管理」において、「収入の把握」では、年収だけでなくそこから差し引かれる税金や社会保険料の金額も確認し、可処分所得、いわゆる手取り収入を把握することが大切です。
他方「支出の把握」では、何にいくらお金を使ったのか、支出を「見える化」することがカギです。従来からある実践方法は紙の家計簿の活用ですが、日々の細かい支出を全て書き出して管理するのは大変です。そこで便利なのがスマホアプリの家計簿です。銀行口座やクレジットカードを登録しておくことで、費目ごとに支出を集計してくれます。
ミライ研のアンケート調査で家計簿の利用(家計簿アプリ含む)についてお尋ねしたところ、「利用している」と答えた人は「20代の43.4%」が最も多く、年齢が上がるにつれて利用率が減少しました。この背景には、若年層における家計簿アプリの活用・浸透があるのではないかと考えています。このように手間をかけずスマートに収支把握し、赤字の解消、黒字の確保を習慣化していくのが理想です。
次に「将来の自身(および家族)のライフプラン」についてです。ミライ研のアンケート調査では、「ライフプランを立てている・ある程度立てている」が23.6%、「どちらともいえない」が40.9%、「あまり立てていない・立てていない」が35.6%と、家計収支の把握よりも取り組み状況がよくないことが確認できました(図表2)。
FWBとは、現在のみならず将来に向けてもお金に関する不安がなく、自律に行動できる状態ですので、足元の家計をきちんと把握をしていても、将来に向けたライフプランを立てて見通しを良好にしておかなければ、不安の解消に十分とはいえません。
また年代別に「ライフプランを立てている・ある程度立てている」の割合を確認すると、40代では18.0%、50代では19.6%と、他の年代よりもやや低めの数値となっています。おそらく、現在ほど学校や職場で金融教育を受ける機会が多くなかった点も影響していると思われます。加えてこれらの年代の方は、「それぞれのライフプランを考え実践してきた」というよりも、「○歳で結婚し、数年後に第1子の誕生、それに伴って自宅を購入、住宅ローンを返済しつつ第2子も誕生……」といったライフステージを、「同年代に遅れることなく足並みをそろえて取り組んできたら今になった」という意識の方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、これらの世代の「ミライ」に目を向けると、長寿化の進展により「他人との比較ではない、自分の人生のあり様を考えいく時代」を歩んでいくこととなります。挑戦したいこと、実現したいことの選択肢が増え、可能性が広がる一方で、それを実現するための方策を具体的に考え、準備し、実践する主体は自分自身となります。その際の航海図となるのが、ライフプランなのです。
次回はライフプランの策定方法とライフプランの効用について解説を進めていきます。
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第180回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略⑤
2025.03.12
2025.03.07
ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)とは、「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることにより、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」のことを指します。ミライ研が「FWBの充足度と年収の相関」について、国内1万人に実施した独自アンケート調査の結果では、年収が高いほどFWB度が高い人の割合が増える傾向がみられます。
一方、「年収が高いのにFWB度が低い人」や「年収が低いのにFWB度が高い人」も相応の割合で存在しています。今回は同じ年収区分でもFWB度が高い人/低い人はどんな人なのか、その特徴を分析します。
調査では、本人の年収を「700万円以上」、「300万円以上~700万円未満」、「300万円未満」の3区分に分けた上で、同じ年収区分でもFWB度が高い人/低い人について、それぞれ金融行動の特性を検証しました。
具体的な金融行動とは、ミライ研がFWBの向上にむけて重要だと考えている「①学ぶ」「②把握」「③相談」「④行動」の4つのステップにおける、金融教育の経験、家計収支の把握、ライフプランの策定、公的年金の把握、外部知見の活用、収入減少時への備えの6つです。
まず、「年収が高いのにFWB度が低い人」の特徴を確認すると、【図表1】の左側のようになりました。
といった特徴がみられます。
例えば、「ライフプランを立てている」と答えた方は17.4%にとどまりますが、収入が多くても今後の家計設計ができていないことから、現在及び将来の家計状態に不安を覚え、FWB度が低いのではないかと推察します。また、「収入減少に備えた準備がある」割合も16.4%にとどまり、他と比べて極めて低い結果です。
さらに回答者の年代の分布を踏まえると、興味深い結果が浮かびます。各年収区分における年齢分布を確認すると、「年収300万円未満」ならびに「年収300万円以上~700万円未満」の区分では、18歳から69歳までの年代が大きな偏りなく分布しています。一方、「年収700万円以上」の層は、40~50代がおよそ3分の2を占め、年齢が高い層で構成されています。
一般的には高年収で年齢も高い人たちは、所得面の余裕を活用して多様な金融行動に取り組む機会が増えそうに思われます。40~50代は住宅ローン返済や子の教育費などで出費がかさむ年代であるため、年収が高くとも家計収入の大半が費消されているような場合は、「稼いでいても資産形成が進まない」状態も想定されます。そうであれば「家計に自信が持てない」ことからFWB度が低くなるのも頷けます。
一方、「年収が低いのにFWB度が高い人」の特徴は、【図表1】の右側のデータに表れています。
特に「年収が低くてもFWB度が高い人」は、家計の「把握」ステップに長けている人が多そうです。例えば、ライフプランを立てている人は47.6%と、FWB度が高くない層に比べ顕著に高くなっています。これは収入が限られていても、将来の見通しを描き、計画的な家計管理に取り組んでいることで、「この生活水準なら何とかやっていける」という安心感を持っているものと推察されます。
また、「収入減少に備えた準備がある」割合も58.6%と6割近くあります。将来に向けた〝グッドタイム〟だけでなく〝バッドタイム〟も想定し、家計のレジリエンス(頑丈さ)を考えた準備行動をとっていると思われ
ます。
FWBは、単に資産や収入の客観水準を上げることのみで高まると思われる方もいるかもしれません。しかし調査データには、年収が多いにも関わらずFWBを感じていない人、逆に年収が低くてもFWBを感じている人の金融行動の特徴があらわれています。FWB度を向上させるためのチェックポイントとして、有効であると考えます。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第179回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略④
2025.03.05
2025.03.05
金融経済教育の推進を目的に4月に設立された金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、ミッションとしてファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)の実現を掲げています。FWBの定義は、「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在および将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」とされています。
FWBが経済的な良い状態だとすれば、家計の資産や収入が多ければ多いほど充足度が高まるように思われがちです。しかし、実際にはどうなのでしょうか。
ミライ研では、FWBの充足状況(FWB度)と年収水準との相関を調査するため、2024年1月に全国18歳から69歳の1万人に対して独自のアンケート調査を実施しました。この調査では、回答者のFWBについて、主観的な評価(現在のスコアおよび将来のスコア)をヒアリングしました。
経済面での満足度を0~10の11段階で尋ね、「現在に対する満足度が7以上かつ将来に対する満足度が8以上」の回答者を「FWB度が高い」、「現在に対する満足度と将来に対する満足度のいずれも0~4」の回答者を「低い」としました。それ以外の回答者は、「中ぐらい」としてグループ分けしました。
そのうえで、対象者の年収区分を「700万円以上」「300万円以上~700円未満」「300万円未満」の3つに分け、FWB度が高い人と低い人が、どのように分布しているのかを調査しました。(図表1)が、その調査結果です。
年収が高くなると、FWB度が高い人の割合が増える傾向がありました。年収区分でみると、年収700万円以上のグループでも、FWB度が低い人が12.8%と相応の割合で存在します。一方で、年収300万円未満のグループでも、FWB度が高い人の比率が1割弱存在しました。
ミライ研では、金融に関する情報や知識を習得し、それを効果的に自分の家計に応用するスキルまでを含めて「金融リテラシー」と位置づけています。金融リテラシーを活用し、家計において実際の金融行動に踏み出すことがFWB向上の鍵になると考えています。
具体的には、金融知識を習得したうえで(①学ぶ)、自分ごととして我が家の収支把握やライフデザインに取り組む(②把握)、必要に応じて信頼できる専門家(金融機関、ファイナンシャル・プランナー、ファイナンシャル・アドバイザ-など)に悩みや疑問を投げかけて解消し(③相談)、実際に家計管理や資産形成などに取り組む(④行動)、という4つのステップをイメージしています。
例えば、「①学ぶ」の中で重要な経験である「金融教育」の受講経験をFWB度別に見てみましょう。本人の年収が700万円以上のグループ1,019人に対して、金融教育の受講経験の有無を尋ねたところ、FWB度の低い人は高い人に比べて、「金融教育を受けたことはない」の回答割合が多くなっていました(図表2)。
金融教育の受講経験以外にも、「FWB向上にむけた4つのステップ」の観点から、年収区分別に「FWBの高い人」と「FWBの低い人」の特徴を分析しています。
一例として、「年収700万円以上のグループの中で、FWB度が低い人はどんな人か」をアンケート調査結果からイメージしたところ、以下のような特徴が浮かび上がってきました。
こういった点を踏まえ、ミライ研では、FWBを高める4つのステップにおける典型的な6つの金融行動の取り組み状況と、FWB度についてのクロス分析を行っています。6つの行動は、金融教育の受講経験の有無、家計収支の把握状況、ライフプランの策定有無、自身の公的年金支給額についてのイメージの有無、外部知見の活用状況、万一収入が減少したときの備えの有無としています。次回はこの結果について解説いたします。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
【第178回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略③
2025.02.26
2025.02.26
ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)は「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることにより、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られる状態」と定義されます。簡単に言うと、「ファイナンシャル」は「お金に関する」という意味ですが、「ウェルビーイング」とは何でしょうか。
一般には「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」を意味します。米調査会社ギャラップ社によると、ウェルビーイングは健康、コミュニティ、人間関係、キャリアなどの概念で構成されており、お金に関するウェルビーイング(FWB)もその中の1つです。
家計におけるFWBのイメージはどのようなものでしょうか。ミライ研では「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消し、未来に向けて自律的に行動できる状態」と考えています。FWBが家計の満足度だとすれば、年収や資産が増えれば実現できそうに思われるかもしれませんが、単にお金が多ければよいというわけではありません。
日本版Well-being Initiativeという組織が、「現在のウェルビーイング」と「5年後のウェルビーイング」についての相関関係と影響要因について調査しています(2022年度)。それによると、自分の現在と5年後の生活のウェルビーイング状態を評価する際に最大の要因となったのは、「所得に対する主観的感情(自分が自分の所得に対してどれくらい満足しているか)」でした。一方で、「(自分の)客観的な所得水準」はそれほど重要ではないことが分かりました(図表1)。
この結果は、自分の生活水準などに照らして、現在の所得や将来の所得が満足かどうかが、ウェルビーイング度全体に影響していることを示してます。
例えば、家計収入が多くなったからといって、その分ぜいたくをして生活水準を上げてしまえば家計支出も増え、家計にとってかえってマイナスになるかもしれません。一方で、資産や所得の多寡に関係なく、「この水準なら暮らしていけそうだ」という感覚を持てていれば、家計の不安なく生活できるでしょう。このように、FWBは生活者本人の「主観(自分自身の感じ方、受け止め方)」によって大きく満足度が変化します。
では、FWBはどうすれば高めることができるのでしょうか。ミライ研は、「自分の生涯キャッシュフローがマネジメントできているという実感を持つこと」が有効だと考えます。個人のライフタイムの中で「ヒト・モノ・お金」の3つの資産をどのように形成するか、金融商品・サービスをどのように賢く活用していくかが重要です。
ヒト資産の形成を考えると、キャリアアップのための自己投資や教育などがあげられます。モノ資産の形成としては住宅取得などが典型例です(図表2)。
「住居購入、子供の教育、老後生活」は、人生の三大費用などといわれます。費用額は千万円単位であり、イベント発生時に手元資金で対応することが難しい場合もあります。このギャップを調整するのが、金融商品・サービスです。
典型的な例が、住宅ローンによる住宅購入です。住宅取得時に物件価格に対し手元資金が不足している場合、住宅ローンを組んで住宅を購入し、将来の収入の一部を長期にわたり返済に充てます。「収入の一部を積み立てて、物件価格まで貯まったら住宅購入する」という「貯めてから買う」の順番を、住宅ローンを利用することで「まず買って、のちに将来の収入で支払う」の形に時系列を入れ替えることができます。
老後費用についても同様です。現役時代には、老後資金を個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)などを活用して準備し、リタイア後は公的年金収入に加えて個人年金も受け取るようなケースは、「現役時代の収入の一部を、(将来の)老後生活費用に充当するための仕送り」と考えることができます。
「将来のお金の不安に、金融商品・サービスを活用して対応する」ことでお金の不安を解消できれば、「お金まわりの満足感」も高まり、その人のFWBの向上につながると考えています。
コラム執筆者
丸岡 知夫(まるおか ともお)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)、『「金利がある世界」の住まい、ローン、そして資産形成』(金融財政事情研究会、2024)がある。
【第177回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略②
2025.02.19
2025.02.19
2022年11月に内閣府が「資産所得倍増プラン」を発表してから2年がたちました。2024年1月には少額投資非課税制度(NISA)が拡充され、多くの人が利用するようになっています。4月には国民への金融経済教育の普及させるため金融経済教育推進機構(J-FLEC)が発足し、本格的に活動を始めました。同機構のミッションには「(国民)一人ひとりが描くファイナンシャル・ウェルビーイングの実現」がうたわれています。
ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)を、J-FLECは「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」と定義しています。キーワードは「多様な幸せ」と「安心感」です。
これまでも家計において「金融リテラシーを高めることはよいことだ」という共通認識がありました。日本で金融リテラシーの普及活動は1950年代から始まりました。20世紀後半までの日本のライフスタイルは今ほど多様化しておらず、「学ぶ-働く-老後」といった単線的なライフプランが一般的で、社会保障制度もモデル世帯(勤労者・既婚・片働き・2人世帯)を基準に設計されていました。
老後生活は公的年金に任せ、現役時代のライフイベント(住居、教育など)の費用準備は勤務先の福利厚生制度などに加入していれば「万事オーライ」だった時代です。金融リテラシーも経済に関する知識や金融商品・サービスについての情報を得ることで十分でした。
しかし、令和の状況は複雑になっています。予想以上のスピードで長寿化が進み、世帯構造の変化やライフスタイルの多様化が顕著になってきているからです。
図表1は、1980年時点と2020年時点の家族の姿の変化を示すデータです。単独世帯割合の大幅に増加(19.8%→38.0%)し、3世代同居世帯割合の大幅に減少(19.9%→7.7%)しています。
2000年以降、情報やコミュニケーションのインフラが劇的に進展し、組織や場所にとらわれない働き方・暮らし方、各家庭における価値観の多様化が大きく進みました。これにより、個人の「生活満足度」にも変化が生じ、「幸せの尺度」が定量的な面だけでなく、「(自分にとって)良い状態であるか」を問う時代になっています。
こうした時代の動きがウェルビーイングへの注目度を高めています。ウェルビーイングとは「多様な個人がそれぞれ身体的・精神的・社会的に良い状態にあること」を表す概念です。米ギャラップ社によると、ウェルビーイングの主要な構成要素は5つあり、その中でも「ファイナンシャル(家計経済面)のウェルビーイング」が他の要素に対する影響度が大きいとされています(図表2)。
これまでの金融経済教育は「投資」に重点を置き、得か損かや、資産を増やす方法を語る部分が多かったかもしれません。しかし、これからの金融経済教育は「生活満足度の向上」というゴールを目指しています。内閣府の資産運用立国実現プランにおいても、NISAなどの「資産形成支援」と「金融経済教育の普及・浸透」を両輪として進めています。これは、資産形成の実践と金融経済教育の普及を通じて、国民一人ひとりが「(自分の)将来に向けてこうありたいという家計経済の状況をイメージし、それに向かって着実に進んでいる状態を自覚することで、生活満足度を高めていくこと」を目指しています。
こうした潮流の中で、個人がFWBを向上させていくポイントは2つあります。
金融リテラシーを身に付け、中長期的な視点で生活設計、家計管理、資産形成に取り組むことが特に重要です。
コラム執筆者
丸岡 知夫(まるおか ともお)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)、『「金利がある世界」の住まい、ローン、そして資産形成』(金融財政事情研究会、2024)がある。
【第176回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略①
2025.02.12
2025.02.12
2025.02.05
本コラムは、現役中学生・高校生から寄せられた「お金」に関する素朴な疑問に分かりやすくお答えする、お金のレッスンシリーズです!今回のテーマは、「銀行って、どこからお金をもらってるの?」について考えていきます。
日本銀行の「資金循環統計(2024年第3四半期)」によると、預金を取り扱う金融機関、いわゆる銀行の保有するお金(預金)は1,721兆円となっていますので、これだけ大きなお金がどこから来て、どこへ行くのかは確かに気になります。そのカギを握るのが、銀行の機能です。
銀行には大きく3つの機能があります。1つ目の機能は、「資金に余裕のある人・企業など」からお金を安全にお預かりし、「資金を必要としている人・企業など」に対して貸し出す、というお金を仲介するというものです(図表1)。
この機能があることで、お金を必要としているところへ、より効率的にお金を届けることができます。
もちろん銀行は、集めたお金を全て貸し出してしまうわけではありません。お金を預けた人が、「預けたお金を引き出したい」といえば、当然、お金をお返ししなければならないからです。ですから、預かったお金の一部を「支払準備金」として日本銀行に預けたうえで、残りのお金を貸出しに回します。このようにして貸し出されたお金は、さまざまな経済活動を通じて、再びどこかの銀行へ預金として預けられます。この循環を何度も繰り返していくと、最初に預かったお金の何十倍ものお金が世の中に生み出されて行きます。この仕組みのことを、「信用創造」といいます(図表2)。
3つ目の機能は、お金を決済する機能です。具体的には、振込み、手形、小切手などによる決済や公共料金の口座振替、クレジットカード利用代金の自動引き落としといったものが挙げられます。この機能を活用することで、現金を確認したり運んだりする手間を省いたり、失くすリスクを回避した入りすることができます。また、経済活動の効率化にも貢献をしています。
ですから、「銀行って、どこからお金をもらっているの?」の答えは、「世の中の人や企業などからお預かりしている」といえます。銀行の役割を理解することで、私たちの生活や経済活動がどのように支えられているのかが見えてきます。次回のレッスンも、お金について楽しく学んでいきたいと思います!
コラム執筆者
矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。
【第175回】みんなで楽しくお金のレッスン
2025.02.05
iDeCoは資産形成の強い味方です。しかし、昨年末ぐらいから、巷で「iDeCoが増税される、改悪だ」といった話を耳にするようになった方も多いのではないかと思います。そこで、今回はiDeCo改悪(?)の本当のところについて見てみたいと思います。
iDeCo(個人型確定拠出年金)を含むDC(確定拠出年金)制度は、「老後(60歳以降)のために給与の一部を使わずにとっておくことによって、給与に税金がかかるのを遅らせることができる制度」です。(NISAにはそのような機能がない点が、全く異なります。)
さらに、DCの掛金として使わずにとっておいたお金をDCの商品を使って運用しますが、その運用益にも税金はかかりません。
さすがに老後に受け取るときには税金がかかります。
これが、「老後のために給与の一部を使わずにとっておくことによって、給与に税金がかかるのを遅らせることができる制度」という意味です。
DCの受け取り方には2種類あります。
DCは年金制度の一種ですので、当然年金で受け取る方法があり、そして、一時金として受け取る方法もあります。
どちらの方法で受け取っても、全額に税金がかかるわけではなく、ある程度税金が軽減されるしくみがあります。
今回改悪(?)という噂の内容は、一時金で受け取る場合の話なので、そちらを詳しく見ていきましょう。
DCを一時金で受け取るときの税金のルールは、退職金を受け取るときと同じルールを使います。
例えば、22歳から60歳まで38年間働いた人が、退職金を2,500万円受け取るときを考えてみましょう。
こんな数式を使います。
(2,500万円 - 2,060万円) × 1/2 = 220万円
はい、ここで、謎の「2,060万円」が出てきました。これが大事です。
この2,060万円というのは、こういう数式です。
まず、38年間を最初の20年間とその後の18年間に分けます。
そして、
40万円 × 20 + 70万円 × 18 = 2,060万円
というように計算します。
つまり、最初の20年間は1年あたり40万円ずつ、その後は1年あたり70万円ずつ、という金額を計算して2,060万円となります。
これが税金を軽減させることができる金額で、「退職所得控除額」と呼ばれます。
退職金は2,500万円もらいましたが、税金の計算上は、2,060万円まではノーカウントとします、ということです。
さらに、「1/2」をかけます。
すると、「220万円」が算出されます。
受け取るときは、なんと、220万円のところにしか税金がかからないのです。税金計算のもととなる220万円を、「退職所得」といいます。(退職所得は、受け取った退職金のうち、退職所得控除額を除いて、さらに半分にした金額で、ここだけに税金がかかります。)
もし、退職金が2,000万円だったら、2,060万円に収まっているので、税金が全くかかりませんね。
22歳から60歳まで38年間働いて退職金を2,000万円もらう代わりに、22歳から60歳までiDeCoに加入して60歳で2,000万円受け取る場合も、同じ計算をします。
つまり、この例だと退職所得控除額の2,060万円に収まっているので、iDeCoの受取時に税金がかからないことになります。
今度は、22歳から60歳まで38年間働きながらiDeCoに加入して、60歳で退職金を2,400万円もらい、同時にiDeCoを2,000万円受け取る場合を考えてみます。
22歳から60歳までの38年間の勤続年数によって得られた退職所得控除額の2,060万円を使って、受取時に税金を軽減できます。
2,400万円+2,000万円=4,400万円を受け取っていますが、
(4,400万円 - 2,060万円) × 1/2 = 1,170万円
をもとに税金を計算することになります。
「退職所得控除額」は、退職金であれば働いていた期間(iDeCoであれば加入していた期間)に応じて決まる金額であり、iDeCoを含むDCと退職金で共通の枠組みを使います。人生は一回きりですので、退職金とiDeCoの両方があっても「退職所得控除額」が2倍になるわけではありません。そのため、退職金とiDeCoなどのDCの両方を同時に受け取る場合には、控除額の競合が起こります。
仮に、上記の例でiDeCoに65歳まで加入して受け取りタイミングをずらしたとしても、60歳までの退職所得控除額は退職金で使用済とされ、iDeCoの加入期間は5年分しか残っていないものとして計算されることになります。
さて、いよいよ、噂の真相に迫っていきましょう。
今の制度には、抜け穴がありました。
実は、iDeCoなどのDCを先に一時金として受け取ってから5年以上後に退職金を受け取ると、「退職所得控除額」をiDeCoで使っていなかったことになる、という制度の“バグ”、通称「5年ルール」があったのです。
例えば、22歳から働き、60歳までiDeCoに加入して、iDeCoを60歳で2,000万円受け取り、その後、65歳で退職金を2,400万円受け取ったとしましょう。
この場合、60歳のときの退職所得控除額は2,060万円です。2,000万円のiDeCoは、退職所得控除額の範囲内に収まっています。
65歳になると、5年前のiDeCoのことは忘れます。
そのため、退職所得控除額は22歳から65歳の43年間で考えることとなります。
43年間を最初の20年間とその後の23年間に分け、退職所得控除額は
40万円 × 20 + 70万円 × 23 = 2,410万円
と計算できます。
2,410万円の退職所得控除額に収まる2,400万円の退職金には、全く税金がかからないことになります。なぜか合計で最大4,470万円まで税金がかからない「抜け穴」状態になっていますね。
この「5年ルール」は、「iDeCo→退職金」の順番のときだけです。
「退職金→iDeCo」の順番のときは、「20年ルール」になっています。退職してから20年後にiDeCoの受け取りをするという人は、あまりいない気がします。
では、この「iDeCo→退職金」の順番の「5年ルール」は、どういう人を優遇するものか、と考えてみると・・・
人にだけ、税金の軽減が過剰に行われていたものと思われます。
税金のルールは、公平・中立・簡素という3つの原則が大事、といわれています。
「iDeCo→退職金」の順番のときの「5年ルール」は、会社の定年が何歳になっているかで使えたり使えなかったりしますので、全然公平ではないですね。
というわけで、「iDeCo→退職金」の順番のときの「5年ルール」は、来年からはひとまず「10年ルール」にしておこう、そうすれば、「退職金の受け取りが70歳以降」の人しか使えなくなり、さすがに抜け穴として使える人はそんなにいないだろう、というように考えられたのだろうと思われます。
コラム執筆者
杉浦 章友(すぎうら あきとも)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
2010年、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。三井住友信託銀行に入社し、企業年金の制度設計・数理計算業務に従事。厚生労働省へ出向し年金に関する公務に従事。2022年10月よりミライ研主任研究員。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、AFP、日本年金学会会員、ウェルビーイング学会会員。翻訳書として『図表でみる世界の年金OECD/G20インディケータ(2019年版)』(明石書店、2021年、岡部史哉(監修)らとの共訳)がある。
【第174回】
2025.01.29
2025.01.29
2025.01.22
前回のコラムでは、年代が上がるに従い保有金融資産額が増えていっても、ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)度が上がっていかないことに注目しました。
今回は、「ではどれだけの資産があれば“FWBな状態”と感じるか?」について、ミライ研が行ったアンケート調査結果から考察してみます。
※アンケート調査の詳細は、下段に掲載しているレポート本編をご覧ください。
将来のライフイベントなども踏まえて、どの程度の資金準備があると「十分だ」と感じるでしょうか。
収入が多い人は資産形成も順調に進みそうですが、一方で生活水準も高く支出も多い傾向があります。そのため、本調査では、保有金融資産が年収の何倍程度準備できているかを“資産の年収倍率”と定義し、その水準を分析しました(図表1)。
まずは、FWB度別の「平均値」を確認してみます。
(図表2)のとおり、FWB度が高い人も低い人も年代が上がるにしたがって“資産の年収倍率”は増えていきますが、その増加幅はFWB度が高い人の方が大きいことが分かります。また、FWB度が高い人ほど“資産の年収倍率”が高く、50代に向けて年収の約4.7倍の資産を保有していることが確認できます。
平均値は、一定の高水準者(資産家など)による影響が考えられるため、「中央値」も算出しています(図表3)。
こちらも同様に、FWB度が高い人は50代に向けて資産所得倍率が上がり、50代に向けて年収の約3倍の資産を保有しています。
一方で、FWB度が低い層は50代までのどの年代でも、“資産の年収倍率”が1倍割れ、つまり金融資産が年収額よりも低い状態のままであることが分かりました。
「家計資産」としては、金融資産だけでなく自宅などの不動産もありますし、世帯構成(単身、二人以上世帯など)も金融資産の形成局面においては変数要因となりますが、本レポートにおいては、「勤務者」に注目し、「FWB度が高い人は50代に向けて、自身の収入の3~5倍程度の金融資産を準備している」ことを示唆しました。
自身が思い描く将来の生活イメージは一人ひとり異なりますが、大きなライフイベントに備えるには、計画的な資金準備が求められます。一般的には、現在の「収入」や「資産状況」によって生活水準がある程度規定されるため、例えば収入が多い人は、生活水準も高くなりやすいため、「思い描く将来の生活」を実現するには、それに見合う水準の資金準備が必要といえます。
一人ひとりが自分らしい「ライフプラン・マネープラン」を立てたうえで、それを実現するための「計画的な資産形成」に取り組むことが重要と思われます。
ミライ研「ファイナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
「働く人のファイナンシャル・ウェルビーイング 向上のカギは“資産の年収倍率”」を公表しています。本レポートにおいて、「ファイナンシャル・ウェルビーイング度」の定義を含む調査全編をご覧いただけます。
【第173回】ミライレポート「働く人のファイナンシャル・ウェルビーイング」より
2025.01.22
2025.01.17
日本において、ファイナンシャル・ウェルビーイング(以下、FWB)に関する取り組みが進んでいます。
これは「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」のことを指し、ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)の主要な要素となっています(FWBの詳細は、こちらのコラムをご覧ください)。
FWBを実現するには、「単に資産があればよい」と考える人もいるかもしれません。しかし、それは本当でしょうか。
ミライ研では、本年1月に全国の18歳~69歳の1万人にFWBに関するアンケート調査を実施しました。そのうち、勤務者(会社員、公務員・団体職員、派遣・契約社員、パート・アルバイト)の約6千人を対象に「働く人のFWB」の実態を分析しましたので、ご紹介します。
※FWB度の算出方法は、下段に掲載しているレポート本編をご覧ください。
まず、保有金融資産別にFWB度が「高い」「中ぐらい」「低い」人の人数分布を確認してみます。すると、保有金融資産が多い方が、FWB度が高い人の割合も高くなりました(図表1)。ただし、金融資産が少なくてもFWB度が高い人、金融資産が多くてもFWB度が低い人が一定割合存在することも、同時に分かりました。
保有金融資産が増えるに従ってFWB度が高くなるのであれば、金融資産額が多い高年齢層になるほど「FWB度が高い」人が増えることになるでしょうか。
事実、金融資産額は年代が上がるにつれて増える傾向にあります。(図表2)のとおり、20代以下は約8割が「500万円未満」であり、「1,000万円以上」の比率は1割未満ですが、60代においては約4割を占めていることが分かります。
FWB度を年代別で分析してみると、金融資産額と年代は、明確な相関はなさそうです。(図表3)。それどころか、40代・50代の所得が多いと想定される層の方が、FWB度に課題がありそうです。
これはなぜでしょうか。
勤労者のうち、40代・50代におけるFWB度が低くなっている背景には、特にライフイベント(例えば住宅購入・子どもの教育・親の介護・老後生活への備え)が多い時期と重なることが挙げられます。
これらの世代のFWB度が相対的に低いのは、単に資産があることよりも、待ち受けているライフイベントなどを想定した際に、そのイベントを乗り越えられるだけの資金準備ができているか、あるいはできるのか、という不安が大きくなっている時期とも推察されます。
次回は、各年代において、将来のライフイベントなども踏まえて、どの程度の資金準備があると「十分だ」と感じるか、考察してみたいと思います。
「ファイナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
「働く人のファイナンシャル・ウェルビーイング 向上のカギは“資産の年収倍率”」を公表しています。本レポートにおいて、「ファイナンシャル・ウェルビーイング度」の定義を含む調査全編をご覧いただけます。
【第172回】ミライレポート「働く人のファイナンシャル・ウェルビーイング」より
2025.01.17
2025.01.08
今回は「職場におけるファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」について考えてみます。
日本の労働力人口は約6,900万人(総務省統計局 2023年)、雇用者数は約6,000万人であることから、単純計算をすれば、労働人口のおおよそ9割は「給与をもらって生活している人」といえます。では、この給与をもらう場所、つまり「職場」において家計のウェルビーイング(FWB)を高めることはできるのでしょうか。
職場において従業員の資産形成をサポートする仕組みの代表例は、企業型確定拠出年金(DC)制度です。企業型DC制度を導入している企業は着実に増えており、2024年3月末時点で5万2千社を超え、加入者も830万人を超えています。
この企業型DCは、将来受け取るDCの資産を従業員自身が運用する制度です。このため、企業型DC制度を導入している企業では、法令上、従業員に向けて必要かつ適切ないわゆる「投資教育」を実施することが「事業主の責務」とされています(確定拠出年金法第22条)。
【図表1】は、ミライ研が1万人規模で実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」において、「DCを活用している」と答えた767人と回答者全体を比較したものです。これを見ると、DCを活用している人の方が、社会人になってから「金融教育を受けた」という割合が高く、自身の「ライフプラン策定」も進んでいます。また、「自分の退職金額の把握」にもつながっていますし、世間平均の約3倍の方が「積立投資を実践している」と回答しています。これらのデータから、企業型DCがDC加入者の「金融リテラシー向上」と「資産形成の実践」を促進していることが確認できます。
企業が従業員の“本質的なFWBの向上”を目指すには、相対的に「金融リテラシーが十分でない人」に対する取り組みを進める必要があります。ただし、ここには支援の提供者(企業)が踏まえておきたい留意点があります。それは、「提供側と受け手側の“ミスマッチ”」が起こるリスクです。
【図表2-1】は、ミライ研の調査において、回答者自身の「金融リテラシー度の自己評価」と、「金融教育に関するニーズ」をクロス分析したものです。「自分は金融リテラシーが高い」と自認している人と、「低い」と感じている人を比較すると、「かなり低い」人における金融リテラシーセミナーの受講ニーズが一番小さいことが確認できました。また、お金に関するアドバイスニーズに関しても、金融リテラシーが「かなり低い人」のアドバイスニーズが一番小さいという結果となりました【図表2-2】。
一般的には、金融リテラシーが低いと自認している人であればあるほど、足りないことを認識しているため、金融リテラシーについて情報を自ら求めたり、お金に関してのアドバイスを第三者に求めたりするのではないか、と想像しますが、上記の結果からは「金融リテラシーが低いと思っている人ほど、金融リテラシーを求めない、第三者にお金に関するアドバイスも求めない」という傾向があるということです。
出所:三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)
この傾向が、企業が従業員のFWBの向上支援策を講じる際に大きな“ミスマッチ”を犯してしまうリスクを示唆しています。
具体的には、企業が従業員に向けた金融教育を実施すると、金融リテラシーの高い層の参加は期待できる一方で、本来「是非受講してほしい」と企業側が願っている金融リテラシーが低い層は、そもそものニーズが低いことから参加率が低くなり、本当に金融教育を届けるべき従業員にリーチできないという“ミスマッチ”が生じる可能性があるということです。
また、教育内容の観点では、低リテラシー層の「金融リテラシーの底上げ」を図る狙いで、「初めの一歩」的なプログラムを提供しても、参加した高リテラシー層にとっては、「こんな初歩的なことは十分に理解している」とレベル感の“ミスマッチ”が生じて、今後の金融教育への参加の妨げになるおそれもあります。
昨今、金融に関しての情報が氾濫しており、一方で投資詐欺や金融トラブルは増加傾向にあります。こういった潮流においては、「自分で金融情報を取得し行動に移せる人」と「そうではない人」のギャップはますます拡大していくものと考えられます。
「職場」という心理的にも安心できるエリアにおいて、健全かつ正確な「金融リテラシー」を学べる機会や「お金のアドバイス」が受けられ、かつ従業員が気軽にそれらを利用できる環境を整えれば、従業員のFWB向上に大きく寄与するものと考えています。
ただし、任意参加による“この指止まれ”型の金融教育を提供するだけでは、真に教育提供側が「教育を受けてほしい」と思っている従業員にリーチできるとはいえないかもしれません。
各従業員の金融リテラシー度や家計のコンディションが様々であることを考慮のうえ、「受講してほしい従業員」に効果的に教育の機会・内容が行き届くようなプログラムの策定・実施が一層重要になってくるものと考えられます。
【第171回】職場のファイナンシャル・ウェルビーイングを考える
2025.01.08
2025.01.08
2024.12.25
シリーズ最終回は、若年層の「負債返済と資産形成の両立」の今後についてです。
まず、「返しながら貯める・増やす」の持続性を考えてみます。
夏場以降の振れ幅が大きい株価動向は、投資初心者にとっては不安を掻き立てる要素となっているかもしれません。ただ、若年層の投資は長期・分散・積み立てが主流です。
新NISAになってからの年齢別データがまだ公表されていないので2023年末の数字になりますが、NISA口座数は20代が231万、30代が370万で合計600万口座を超え、同残高はそれぞれ1兆円、2.7兆円で合計3.7兆円まで増加しました。このうち、口座数の7~8割、残高の6~7割をつみたてNISAが占めています(図表1、図表2)。
また、前回も書いたように、現在の若年層は、老後の生活資金は自らの資産形成でという「自助努力マインド」が高い世代です。
こうした点から、最近の株価変動が若年層の投資行動に与える影響は限定的、というのが一般的な見方のようです。実際に、20~30代勤労者世帯の9月(8月の株価大暴落後)の収支データを見てみたところ、金融資産純増額は前年同月の2割増し(13.6万円/月→16.3万円/月、20.0%増)、うち有価証券純購入額はざっくり2.5倍となっていました(1,795円/月→4,388円/月、144.5%増)1。「貯める・増やす」をいったん休んで、「返済一本」に切り替えている若者は少ないと推測されます。
(資料)図表1、図表2とも 金融庁「NISA口座の利用状況調査」
1 本稿に使用した統計(総務省「家計調査」)の月次データには、年齢別かつ住宅ローンの有無別のデータはないため、勤労者世帯全体(住宅ローンあり世帯、なし世帯合計)での分析結果となっています。
次に、「金利がある世界」への転換の影響で住宅ローン金利、預貯金金利や債券金利ともに上昇しているため、住宅ローンや奨学金の返済負担が増加する可能性がある一方、利子所得の増加も見込めます。従って、「返貯両道」に対する作用はプラスマイナスどちらかに大きく振れるものではないと考えられます。
「返しながら貯める・増やす」が持続するかのカギを握るのは、上記のような株価や金利といった外部環境変化よりも、若年層自身が、今後40代、50代になっても現在と同じような家計行動をとり続けるか(とり続けられるか)どうかではないでしょうか。
子供が成長するにつれ教育費などの支出もかさみ、何かと物入りなライフステージに入ってきます。キャリア延長などに向けた自身へのリスキリング投資が必要になるかもしれません。そんな中でも返貯両道を貫こうとするのか、貫けるのか。こればかりは、正直未知数ですが、賃上げ基調の継続や、103万円の壁の見直し等による働く世代の手取りを増やす機運の高まり、資産所得の増加見通しなどは明るい材料と言えます。
もし、若年層が実践している「負債返済と資産形成の両立」が今後も持続し、更に若い世代にも定着していくとすれば、それは、「住宅ローンの返済が一段落してから資産形成に取り組む」という、長らく続いてきた日本人の行動パターンが変わることを意味します。
この変化は、インフレ社会が到来し、今まで以上に資産形成をしっかり行っていく必要がある日本においては、ある意味望ましいことかもしれません。
これだけ住宅価格が上がり、ローン返済期間が長期化すると、返済が終わってからでは「時間を味方につけた資産形成」がままならず、老後資金の十分な準備が難しくなる可能性もあるからです。
もちろん、資産形成に重きを置くあまり負債の返済が滞っては元も子もないですし、資産形成の手段がリスク資産投資に偏りすぎれば、「負債とキャピタルロスの両抱え」というあまり考えたくないリスクもあり得ます。しかし、バランスに配慮しながらの「返貯両道」は、「老後資金2,000万円問題」軽減へのひとつの解となり得るのではないでしょうか。
この過程で、金融教育の普及→金融リテラシーの底上げ→資産形成へのプラス効果–といった正のスパイラルの発生にも期待したいと思います。
【第170回】負債多めの令和の若者、さてどうする資産形成?⑥
2024.12.25
前回書いたとおり、負債を保有する若年世帯の平均負債残高は2,500万円を軽く超えていますが、負債の返済と並行して、実は貯蓄も着々と増やしています。いったいどのような形で「返済」と「資産形成」を両立させているのでしょう。
20代~30代の住宅ローン保有世帯(以下 「住ロあり世帯」)と住宅ローン非保有世帯(以下「住ロなし世帯」)の家計収支を覗いてみると、下の図表1のようになりました 。
20~30代住ロあり世帯の可処分所得は、世帯主、配偶者両方の勤労収入(給料)が増えたことにより2010年から23年にかけ10万円弱増加しましたが(43.1万円→52.4万円、図表1)、借金純減額(負債返済)は1万円程度の増額にとどめ(6.5万円→7.4万円、同
)、消費もほとんど増やさず(26.4万円→27.3万円、同
)、増加した所得の多くを金融資産の積み増しに回しました(7.9万円→19.2万円、同
)。
預貯金純増額はまだ住ロなし世帯に追い付いていないものの、有価証券純購入額は23年時点では月々5,111円と、非保有世帯の3,028円を上回っています(同)。
1 本稿に使用した統計(総務省「家計調査」)には「負債」の有無別の家計収支のデータはないため、「住宅ローン」の有無別の勤労者世帯の収支を分析しました。
また、20代については、住宅ローン保有世帯の調査世帯数が極めて少なく、統計的な信頼性に欠けるため、20代世帯と30代世帯の合計で分析しました。
所得の増加が「負債返済と資産形成の両立」の土台となっていることは確かです。しかし、両立を実現させたのは、増加した所得を「返済の大幅な増額」ではなく「返済の小幅な増額」と「資産形成への大注入」に振り分け、リスク資産への投資も積極化させる–という今どきの若者の采配と言えるでしょう。
ミライ研が実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)でも、住宅ローンを返済中の若年層(18~39歳)の1/3(33.8%)が、住宅ローン返済中から資産形成に取り組むべき、言い換えれば、返済と資産形成を同時並行で行っていくべきと考えており、3割弱(28.1%)が実際に返済と資産形成を両立しているという結果が出ています(図表2)。
また、NISAやiDeCo、企業型確定拠出年金(企業型DC)といった資産形成のための優遇制度の認知率や利用率も、総じて住ロあり世帯の方が高く、負債を保有する若者の資産形成に関する知識のアンテナの高さや活用意欲の旺盛さがうかがわれます(図表3、図表4)。
(注1)対象は図表3が18~39歳の持ち家購入世帯。図表4が18~39歳の持ち家購入 かつ 資産形成への取り組みありの世帯。
(注2)「住宅ローンなし」は、ローン返済済み+持ち家購入時にローン利用せず。
負債を保有する若年層の間では、文武両道ならぬ「返貯両道」、「ある程度のリスクテイクもOK」が一般的になり、「まずは負債返済、資産形成はその後」とか「所得が増加したら、負債の返済に優先的に充てるので、資産形成にまで回らない」といった考え方は、過去のものになりつつあるのかもしれません。
こうした「負債返済と資産形成」についての意識変化は、現在の若年層が、①老後の生活資金は自らの資産形成でという「自助努力マインド」が刷り込まれている世代であり、②金融教育の受講経験がある人が相対的に多い世代であり、③リスク資産への投資アレルギーを持つ人が少ない世代であるという「世代要因」と、④NISA、新NISA、iDeCoといった資産形成のための優遇税制や、⑤若年層と親和性が高い金融機関のオンライン取引、スマートフォンのポイント投資アプリの整備・拡充といった「外部環境要因」によってもたらされていると考えられます。
次回、最終回は、若年層の「返貯両道」の今後について考えてみたいと思います。
【第169回】負債多めの令和の若者、さてどうする資産形成?
2024.12.18
2024.12.18
2024.12.17
2024.12.11
20代~30代の負債増加と資産形成シリーズの第4回です。ここまで、若年層の負債が急増していること、その要因のメインが「住宅ローン」、サブが「奨学金」であることをお伝えしてきました。
しかし、今どきの若者は、負債の返済に追われてしょんぼりげんなりしているだけではなさそうです。負債が大幅に増加する中で、実は貯蓄も着々と増やしています。
貯蓄残高の年齢別推移を見ると、20代、30代世帯の残高は、40代~60代世帯と同じくらい伸びています。
2人以上世帯の平均貯蓄残高は、20代世帯が1990年時点の353万円から23年には442万円へ、30代世帯が同じく701万円から825万円へと、負債残高が大きく増加する中にあっても1.2~1.3倍に増えました(図表1)。
若年世帯の平均貯蓄残高が増加しているのは、負債のない世帯の貯蓄が大きく伸びて、負債のある世帯の貯蓄残高の低下ないし横ばいをカバーした結果でしょうか。あるいは、負債のある世帯が「負債の返済で貯蓄にまでお金が回らない、貯蓄をあきらめている」状況にはなく、返済と貯蓄を両建てで行っているからでしょうか。
この点を明らかにするために、負債の有無別に20代、30代世帯の貯蓄残高をみたところ、2010年までは20代、30代ともに負債なし世帯が負債あり世帯を上回っていました。しかしその後、負債あり世帯の貯蓄残高が大きく増加する一方(20代は2010年=198万円→2023年=396万円、30代は同490万円→851万円)、負債なし世帯の残高は、20代では相対的に小幅な増加(同319万円→470万円)、30代では減少(同808万円→772万円)となり、負債の有無による貯蓄残高格差は、20代では縮小、30代ではなんと逆転しています(図表2) 。
負債あり世帯における残高の伸びが特に大きいのが株式や投信などの有価証券です。20代は2010年以降、30代も23年には負債なし世帯の残高を上回りました。23年時点の負債あり世帯の残高は、20代が74万円、30代が137万円となっており、負債なし世帯より20万円~40万円多く有価証券を保有しています(図表3)。近年は、負債を抱える若者の方がリスク資産投資に前向きなようです。
2023年時点の平均負債残高は、20代世帯が992万円、30代世帯が1,894万円ですが(本シリーズ第1回 図表1参照)、負債がある世帯に限って集計すると、20代が2,661万円、30代が2,761万円と、2,500万円を大きく超えています。
これだけの負債を抱えていながら、貯蓄残高は負債なし世帯とそん色なく、このうち有価証券残高は負債あり世帯を上回っていることから、近年の負債ありの若年世帯がいかに負債返済と資産形成を両立させているか、いかにリスク資産投資にも踏み込んでいるかがうかがえます。
「負債の返済は資産形成の足かせ」という定説が少しずつ崩れ始めているのかもしれません。
なお、40代以上の貯蓄残高や有価証券残高は、一貫して負債なし世帯が負債あり世帯を上回っており(図表4、図表5)、若年層のような「逆転現象」は見られませんでした。
次回は、負債大幅増加の一方で貯蓄も増えている若年世帯の家計の状況をもう少し掘り下げます。
【第168回】負債多めの令和の若者、さてどうする資産形成?
2024.12.11
【トピック】
・保有する金融資産が多いほど「FWB度が高い」人が多い。一方で、金融資産が少なく(多く)ても「FWB度が高い(低い)」人が一定割合存在する
・金融資産額が2,000万円未満の層は、同じ金融資産額でも、年代が上がるほどFWB度は低くなる傾向
・「FWB度が高い」と答えた人の“資産の年収倍率(=現在の保有金融資産が年収の何倍か)”は、50代に向けておおよそ3〜5倍程度
レポート
2024.12.10
2024.12.10
2024.12.04
前回、前々回でみたように、若者の負債増加の主因が「住宅ローン」の残高増加であることは間違いありませんが、「奨学金」も少なからず影響していそうです。
今回は、奨学金のうち、若者の負債増加につながる「貸与型」の実態をみてみたいと思います。
(独)日本学生支援機構の調査によると、貸与型奨学金の利用者数は、2003年の103万人から16年には160万人まで増加、19年には145万人となっています。1人当たりの利用額(貸与額)も、03年には平均で1年間に61.7万円でしたが、10年以降は年間70万円を超えています(図表1)。
大学進学率がこの20年余りで45.1%→60.8%へと高まり(図表2)、4年間の学費も、国立大で219万円→243万円、私立大では345万円→397万円と上昇する中で(図表3)、親の所得は2015年前後まで下落傾向が続いていた(図表4)ことを考えれば、奨学金の利用増加にもうなづけます。
奨学金の返済負担を抱えて社会人となる人の数は、2003年時点では26万人でしたが、10年以降は40万人前後で推移しています。新社会人(新卒就職者)全体に占める比率は、03年の4割からピーク時10年には6割超に。その後はやや低下していますが、2019年でも5割弱います(図表5)。
住宅ローンを利用する/しない以前の段階で、「奨学金」という借金を背負って社会人となる人が約半数に上るということです。社会人になったのをきっかけに資産形成を始める人も少なくないかと思いますが、「ゼロから」ではなく「マイナスから」のスタートとなる人が約半数いるというのは、なかなか厳しい現実ですね。
奨学金の返済は、ほとんどの場合は複数年にわたるため 1 、奨学金返済負担のある若年層の数は累積で増加していくことになります。
個々の利用者(借入者)の奨学金残高は返済するにつれ減っていくとはいえ、奨学金返済中の人の累積増加は、若年層全体の負債残高の増加、返済負担増大につながっていると推測されます。
ただ、ちょっと明るい話題もあります。自社の社員の奨学金返済を肩代わりする企業が増加しているのです。
2021年に、企業が日本学生支援機構に直接返済する「奨学金返還支援(代理返還)制度」ができたのを契機に増え始め、足下では2,500社を超えたとか(日本学生支援機構の制度利用企業のみ。他団体の奨学金を肩代わりする企業を含めれば更に多くなります)。
奨学金返済の肩代わりは、企業側にとっても、優秀な人材の獲得・定着につながるだけでなく、節税効果のメリットもあるとのことなので、導入企業が更に広がり、若年層の負債返済負担軽減に一役買ってほしいです。
1(独)日本学生支援機構の奨学金の場合、返済期間は最長で20年。同機構の「返還のてびき(令和5年度版)」には下記のような返還例が掲載されています。
例:貸与総額 216万円で定額返還方式・月賦返還の場合‥‥216万円÷15万円(※)=14.4年→14年×12=168ヶ月
※貸与総額により割賦金の基礎額が定められており、216万円の場合は15万円/年
【第167回】負債多めの令和の若者、さてどうする資産形成?
2024.12.04
2024.12.02
「KINZAI Financial Plan(2024年12月号)」にて連載記事「金利がある世界の“住まい”と“資産形成” 第6回:「繰り上げ返済」は住宅ローンの「絶対的エース」か?」が掲載されました
2024.12.02
2024.11.27
今回は、若年層の負債増加の主因といえる住宅ローン残高の増加がなぜ起きたのかを探ります。
背景は大きく3つあります。
若年層の住宅ローン残高急増の背景、一つめは、住宅価格そのものの高騰です。
マンション価格は2013年以降概ね上昇トレンドにあり、首都圏では14年、全国平均でも21年に5,000万円を超えました(図表1)。特に、近年の首都圏マンション価格の上昇には目を見張るものがあります。21年には不動産バブル期の価格を上回り、あれよあれよという間に23年には8,000万円台に乗せました。
この間、20代、30代世帯の年収も増えましたが、住宅価格の上昇には追い付かず、新築マンション価格(全国平均)の対年収倍率は、2000年には20代で7.7倍、30代で5.7倍だったのが23年にはそれぞれ9.7倍、8.5倍へと上昇、不動産バブル期にあたる1990年時点の倍率をも超えています(図表2)。
(資料)(株)不動産経済研究所「全国マンション市場50年史」、「全国 新築分譲マンション市場動向 2023年」
二つめは、若年層2人以上世帯の持ち家率(住宅保有率)の高まりです。
40代以上の世帯の持ち家率はこの30年ほぼ横ばいであるのに対し、若年層の持ち家率は大きく上昇しています。2000年時点では20代で22.6%、30代では44.9%でしたが、23年にはそれぞれ34.7%、70.7%と約2倍に。20代2人以上世帯の1/3強、30代2人以上世帯の7割が自宅を所有するようになっています(図表3)。
図表1、2に示したとおり、住宅価格、対年収倍率ともに上昇しているにも関わらず、若いうちから住宅を取得する傾向が強まったのは、低金利やローン手数料の低下、住宅ローン減税など「借りやすい環境」に後押しされた部分もあるでしょう。
若年層の住宅ローン残高急増の背景の三つめは、若年層の住宅ローンの「借り方」の変化です。
30代以下の時に住宅ローンを利用して住宅を購入した世帯の「頭金比率」と「借入額」を、現在の年齢別に比較すると、頭金比率はより低く、借入額は大きくなっています。
住宅購入資金は、従来は「頭金が1~3割で残りが住宅ローン」が主流でしたが、頭金比率が徐々に低下し、「ゼロ(頭金なし)」も珍しくなくなりました。
住宅ローン借り入れ時の頭金分布を見ると、現在30代以下の世帯では「頭金ゼロ」が35%、「1割」を合わせると全体の6割を超え(60.5%)、頭金を「3割以上」準備して住宅を購入した世帯は2割強(21.4%)にとどまります。一方、現在60代の世帯が30代以下で借り入れた際には、「頭金ゼロ」は13%に留まり、「3割以上」が4割強(42.0%)を占めていました。若い世代ほど頭金の比率は低くなり、住宅を購入する際のローン依存度が高まっていることが明らかです(図表4)。
住宅価格の上昇や頭金比率の低下に、相対的に借入額が大きい「ペアローン」の利用増加も重なって、30代以下での住宅ローン借入時の平均借入額も増加しています。現在30代以下の世帯では2,999万円で、現在40代の世帯が30代以下の時に借り入れた額より約350万円、現在60代の世帯の30代以下時点での借入額より約700万円も多くなっています(図表5)。
(注1) 単独ローン、ペアローン合計。
(注2) 頭金比率の合計は、端数処理の関係で100%にならない場合がある。
(資料)図表4、図表5とも三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)
次回は、若年層の負債増加のサブ要因と考えられる「奨学金」の実態をみてみます。
【第166回】負債多めの令和の若者、さてどうする資産形成?
2024.11.27
近年、20代、30代の若年層の負債が大きく増加しています。
どれくらい増えているのか?なぜ増えているのか?そして、資産のミライ研究所的には、「返済負担が大きくて、資産形成の足かせになっているのではないか?」という点も大いに気になるところです。
今回から6回シリーズで、若者の負債の現状や負債増加の背景、負債が増加する中での資産形成行動について、データに基づき見ていきたいと思います。
初めに、若者の負債増加について、具体的な数字を見てみましょう。
図表1は、家計の負債残高推移を年齢別に示したものです。20代、30代の若年層の残高が長期的に大きく増加していることがわかります。1990年時点の2人以上世帯※1の平均負債残高は、20代が115万円、30代が366万円でしたが、2023年には20代が992万円、30代が1,854万円と、それぞれ8.6倍、5.1倍に拡大しました。
現在20代の人は、自分の親が20代だった頃(負債残高は234万円)の4倍以上の負債を、現在30代の人は、自分の親が30代だった頃(同603万円)の3倍以上の負債を抱えていることになります。
※1 本シリーズでは、若年層のうち、結婚して住宅を購入するケースが増える「2人以上の世帯」を分析対象としました。
(資料)図表1~図表4全て 総務省「家計調査」、「貯蓄動向調査」
この間、各年齢層の年収も増加しましたが、負債の増加に比べればかなり小幅にとどまりました。この結果、20代世帯の負債残高は、1990年には年収の1/4程度(24.0%)でしたが、2023年には年収の1.6倍(162.4%)へ、30代では同6割強(61.4%)から2.7倍(267.1%)へと膨らみました(図表2)。
負債を返済している時の「負担感」は、各世帯の家族状況や考え方(や本人の性格?)などによっても違ってきますが、少なくとも「対年収比」でみれば、現在の若年層の方がひと昔前の若年層より負担感は格段に大きいと言えるでしょう。
20代、30代世帯の負債の中身を「住宅・土地のための負債」「住宅・土地以外の負債」「月賦・年賦」の3つに分けて残高変化をみてみると、図表3、4のようになりました。「住宅・土地のための負債」すなわち住宅ローン残高が驚くほど増加しています。
20代世帯では1990年には79万円でしたが、近年急増して2023年には968万円に(図表3)、30代世帯でも同じく331万円から1,738万円へと大きく増加しました(図表4)。住宅ローン残高が負債残高総額に占める割合も、30代では以前からずっと、20代においてもここ10年くらいは9割を超え、住宅ローン残高の増加分がほぼほぼ負債残高の増加額となっています。どこからどう見ても、若年層の負債残高増加の主因が住宅ローンの増加であることは明らかでしょう。
住宅ローンの急増にかすんでしまっていますが、「住宅・土地以外の負債」も、2010年以降増加傾向にあります。この中には、生活資金借入金(消費者ローン)や奨学金、質入金などが含まれます。
それぞれの金額は明らかになっていませんが、(独)日本学生支援機構の調査によると奨学金の利用者数や利用額が増加しており、これも若年層の負債残高増加に少なからず影響していると考えられます(奨学金についてはシリーズ第3回で取り上げる予定です)。
次回は、若年層の負債増加の主因といえる住宅ローン残高の増加の背景を探ります。
筆者プロフィール紹介
青木 美香(あおき みか)
三井住友信託銀行入社。調査部主任調査役(現職)。
主に家計の金融行動・消費行動、社会現象からみた経済分析などを担当。
2008年~2009年 法政大学大学院 政策経済研究所 客員研究員。
2019年 兼 三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
【主な著作・レポートなど】
著書に「日本経済知っておきたい70の勘どころ」(共著、NHK出版)、「女性が変える日本経済」(共著、日本経済新聞出版社)、 「安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A」(共著、金融財政事情研究会) 他。
主なレポートテーマは、団塊世代の家計収支と貯蓄、女性の金融資産保有力、インフレへの転換と資産運用、家計のインフレダメージ格差、税制改正が相続市場に与える影響、マイナス金利下の家計行動と個人マネー、資産形成層の実態、人生100年時代の金融問題、認知症発症による資産凍結問題、相続に伴う家計資産の地域間移動 など。
【第165回】負債多めの令和の若者、さてどうする資産形成?
2024.11.20
2024.11.20
2024.11.13
前回のコラムでは、賃貸・持ち家それぞれの住居形態を「生活満足度」の切り口から分析しました。調査結果からは年代が上がるにつれて、賃貸派の生活満足度は低下し、持ち家派の生活満足度が向上するといった特徴がみられました。果たして住居形態だけで生活満足度は決まってしまうのでしょうか?
全3回のうち最後となる今回のコラムでは、「住居形態以外」で生活満足度に影響を与える要素について、解説していきたいと思います。
賃貸・持ち家に関わらず「住まいの選択」は、その後の生活に大きな影響を与えることになります。そういった選択の前にこそ、自身のライフプラン策定が大切です。「ライフプランを立てているか否か」を軸に生活満足度を分析したのが【図表1】です。賃貸派・持ち家派に加え、ライフプランを立てている・立てていないグループに分けて生活満足度をみると、いずれの住居形態であっても、「ライフプランを立てている人」は生活満足度が高く、逆に「ライフプランを立てていない人」はその値が大きく劣後していることがわかりました。
この結果から「ライフプランを立てているか否か」は「どのような住まいを選択するか」よりも、生活満足度に対して大きな影響力を持つことが推察できます。
【図表1】の結果から読み取れるように、生活満足度を左右するのは住まいの選択だけでは無いようです。また、住宅購入時にはほとんどの方が住宅ローンを活用されるかと思いますが、その返済負担感と生活満足度の関係はどうでしょうか【図表2】。こちらの結果からも、住宅ローンの負担感が軽いほど現在・5年後ともに生活満足度が高くなるといった特徴がみられました。
「念願の自宅を購入すれば、将来の生活が約束される」というものではなく、先ほどのライフプラン同様に長期的な返済を見据え、無理のない負担感で計画を行うことが生活満足度を高めていくには重要となりそうです。
快適な住環境は、心身の健康や日々の安心感にもつながる生活満足度を高めるにあたって重要な要素と考えられます。一方で、今回の調査結果からは、「住まいの選択」だけではなく、「ライフプランを立てること」や「住宅ローンの返済計画をしっかりと考える」といった、住まい選択の前準備が、生活満足度に対してより大きな影響力を持つ、ということがわかりました。
住まいはあくまで生活基盤の一部であり、人生設計全体のバランスを考えることが大切です。金融リテラシーの向上を図り、自身にとって適切な人生設計を行うことは、家計にもゆとりを持たせるだけでなく心にもゆとりを持たせ、豊かで満足度の高い生活を実現することに繋がるのではないでしょうか。
【第164回】生活満足度を高める住まい選びとは?
2024.11.13
2024.11.06
ミライ研で実施した調査内容をもとに、今回のコラムでは「生活満足度」をベースとした居住形態について考察していきたいと思います。前回のコラムでは、住まいの終着点を「持ち家」としている方が多いことがわかりましたが、賃貸・持ち家それぞれの居住形態でそこに住まう方の生活満足度にはどのような違いがあるのでしょうか。
初めに「生活満足度」についてですが、今回の調査では「ウェルビーイング」に資する5つの項目(キャリア・ソーシャル・ファイナンシャル・フィジカル・コミュニティ)を現在・将来それぞれのスコアをヒアリングし、その平均値を「現在の生活満足度」と「将来(5年後)の生活満足度」として算出しています。まずは年代別での結果をみてみましょう【図表1】。
20歳代は現在(4.90)・5年後(5.41)と、現在・過去どちらの生活満足度も高いことに加え、5年後への期待感が全年代で最も高い結果となりました。逆に30歳代から50歳代では、20歳代と比較して現在・5年後の生活満足度は劣後しています。60歳代では、5年後の生活満足度が現在を下回るものの、現在の生活満足度が全年代の中で最も高くなる結果となりました。
一般的な目線として、20歳代では新たなライフステージ到来への期待感、30歳代以降では公私双方様々なライフイベントに奔走する現実的な目線、60歳代の退職時期を迎え今後の不安は持ちつつも足元の安定感、と各年代の事情が生活満足度に反映されていることが伺えます。
続いては、直近3年以内の住み替えを踏まえた住居形態別の生活満足度を見てみます【図表2】。結果を見ると、住み替えを行っている層は、総じて5年後の生活満足度への期待値が高い傾向がありました。また、個別に見ると直近3年以内に「賃貸→持ち家」に住み替えた「念願のマイホーム取得層」が、現在・5年後ともに生活満足度が最も高い結果となりました。その一方で、マイホーム取得層の未来の姿となる「住み替えなし(持ち家)」層の値を見ると、現在・5年後ともに、思い描くほどの生活満足度になっていないシビアな現実も確認できました。マイホームを新たに取得することで足元の生活満足度として大きな効用があることが推察されますが、その高揚は長期的に続くものではないといった側面も同時に見えてくることとなりました。
最後に、過去3年間で住まいを替えず、今後3年間も住み替え予定のない、「ずっと賃貸派」と「ずっと持ち家派」の2グループの生活満足度が、年代によってどのような変化があるのかを分析しました。すると、双方20歳代では同水準であるものの、「ずっと賃貸派」では年代が上がるにつれて生活満足度が僅かに減少していることがわかりました。その一方で、「ずっと持ち家派」では、年代が上がるにつれて生活満足度が向上しており、両者を比較した際に、逆の動きとなりました。住居形態によらない年代別の生活満足度では、20歳代と60歳代で生活満足度が高いことがわかりましたが、住居形態を踏まえた年代別の生活満足度ではまた、異なった傾向となることも分かりました。
この結果から、年代が上がり退職後の生活に対する解像度があがるほど、自己所有の住まいがある安心感は、生活満足度を下支えする一つの要素となり、「ずっと持ち家派」では年代が上がるにつれて、生活満足度が高くなったと推察することもできるかと思われます。
居住形態は、各々のライフプランやライフスタイルなどによって異なる部分ですが、その居住形態が生活満足度に与える影響をみてみると、年代によって異なる特徴があることがわかりました。
とはいえ、生活満足度に影響を与える要素は居住形態だけ、ということでもなさそうです。次回のコラムでは、生活満足度を高める重要な要素について解説していきたいと思います。
【第163回】生活満足度を高める住まい選びとは?
2024.11.06
2024.11.01
2024.11.01
「KINZAI Financial Plan(2024年11月号)」にて連載記事「金利がある世界の“住まい”と“資産形成” 第5回:金利上昇時に住宅ローン保有世帯はどう対応するのか?」が掲載されました
2024.11.01
【トピック】
・年代が上がるにつれて持ち家率が増加し、同じ住まいに住み続ける傾向
・賃貸派と持ち家派の生活満足度は年代が上がるにつれて異なる特徴
・生活満足度を高めるカギは「ライフプランを立てる」こと
レポート
2024.10.30
「住まい」は私たちが生活していくうえで土台となる重要な要素ですが、その中でも賃貸・持ち家の選択は、経済状況やライフスタイルにも直結するため、多くの方にとって関心の高いテーマかと思います。とはいえこのテーマで議論される多くは「コスト面」を中心に展開されているかと思われます。そこで、今回から全3回のコラムでは、第1回目「賃貸・持ち家の推移」、第2回目「それぞれの住居形態での生活満足度」、第3回「生活満足度を高めるために考えたいこと」と、そこに住まう方の「生活満足度」の視点から「賃貸・持ち家」の居住形態について考察していきます。
まずは、過去からの住居形態の推移をみてみましょう。【図表1】の「持ち家住宅率」は、1993年で59.8%、2023年には60.9%と、その水準に大きな変動が見られないことがわかります。次に、年代別での住居形態の変化はどうでしょうか。【図表2】をみると、20歳代で15.1%だった持ち家率が、60歳代では73.2%と大きく増加していることがわかります
日本全体における住居形態の比率は変わっていないものの、個人ベースで見た場合には、年代が上がるにつれて持ち家を選択する率が高くなる傾向があり、多くの方が理由や経緯は様々あれども、住まいの終着点には「持ち家」を選択しているケースが多いことがわかります。
また、住居形態選択の傾向を把握するために、年代別で過去3年以内にどのように住居形態が変わったのか、または変わらなかったのかを調査しました【図表3】。すると、若年層ほど住み替え比率が高く、特に20歳代ではおよそ2人に1人が過去3年以内に住み替えを行っており、その住み替え先はほとんど「賃貸」であることがわかります。一方で、住み替え比率は年代が上がるにつれて減少していき、50・60歳代の住み替えはおよそ5人に1人となり、大半の方の住まいは過去から現在にかけて変わっていないという結果になりました。
このことからも、住居形態の変化は若年層ほど発生頻度が高く、年代が上がるにつれて現在の住居形態が変わる可能性が少なくなっていることがわかります。
年代が上がるにつれて持ち家比率は増加傾向にありますが、ではその持ち家を取得する理由はどういったものなのでしょうか。現在自己所有の持ち家に居住中の方に、住宅購入の理由を、「直近3年以内に賃貸から持ち家へライフステージが変化したグループ」、「既に持ち家に居住中で、さらに別の持ち家へ住み替えを行ったグループ」、「3年以上前から同じ持ち家に居住しているグループ」に分けて分析をしてみました。
結果としては、どのグループも「自己所有となる点」が最大の理由となっている点は同様ですが、直近3年以内に持ち家を取得した2つのグループでも、「賃貸→持ち家」のグループは「賃貸コストに関する理由」が最大(41.4%)、「持ち家→別の持ち家」のグループでは「夢のため」が最大(32.3%)と、住宅購入時の状況によって最も重視する部分が異なることがわかりました。
初めて持ち家を取得した方は、将来的に賃貸としてキャッシュアウトするコストを意識し、2回目以降の持ち家を取得した方は「より良い住まい」を求める傾向にあることが推察されます。
ここまで、賃貸と持ち家の選択状況やその理由についてみてきましたが、次回コラムではそれぞれの住居形態によって生活満足度がどうなっているのか、探っていけたらと思います。
【第162回】生活満足度を高める住まい選びとは?
2024.10.30
2024.10.30
2024.10.30
「お会計は・・・円になります」「本日の日経平均は・・・」「円安で海外旅行が・・・」など、わたしたちの日々の生活は「お金」であふれています。しかし、実はよくわかっていないことも少なくないのではないでしょうか。「みんなで楽しくお金のレッスン」シリーズでは、現役中学生・高校生から寄せられた「お金」に関する素朴な疑問に分かりやすくお答えしてまいります!
2024年7月に日本銀行は政策金利の引き上げを決定しました。それを受けて「定期預金の利息が増える?」「住宅ローンの金利が○%上がれば、支払う利息は○○円増える!」といった、生活への影響を伝えるニュースを耳にされた方も多いのではないでしょうか。 利息、利子について考える前に、ここで少し発想を飛ばしていただければと思います・・・。
みなさんは、愛媛県へ旅行にいきました。今治市から延びる「しまなみ海道」を、自転車をレンタルして楽しむのが、今回の旅のメインイベントです。自分にぴったりの自転車も見つかって、借りる手続きをしました。お店の人は「自転車を貸し」てくれますが、皆さんは「何かを」支払わなければなりません。さて、何を支払わなければならないでしょうか・・・?
ご想像の通り、自転車を借りるための「料金」です。もちろん借りた自転車も、使った後に返却します。
では、本題です。みなさんは、入り用でお金を借りなければなりません。知り合いで「お金を貸してくれる」という人が見つかりましたが、皆さんは「何か」を支払わなければなりません。さて、何を支払わなければならないでしょうか・・・?先ほどのレンタサイクルの件を踏まえて、考えてみてください【図表2】。
その通りです。お金を借りるための「料金」です。お金を借りる際には、この料金のことを「利息・利子」といいます【図表3】。
また、借り手から貸し手に支払われる利息(利子)が、貸した金額に対して何割かを示すのが「金利」です。例えば、10万円を借りて、1年後に借りた10万円の返済に加えて利息として1,000円を支払った場合、
1,000円÷10万円×100=1.0%、つまり金利は年率1.0%となります。
次回のレッスンは、「銀行って、どこからお金をもらってるの?」です。
【第161回】みんなで楽しくお金のレッスン
2024.10.23
2024.10.23
前回のコラムでは、足元の環境下での繰上返済の実態についてお伝えしました。今回は、繰上返済はファイナンシャル・ウェルビーイング度※向上に寄与するのかどうかについてみていきます。
※「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは、自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態を指す。
繰上返済経験の有無別にファイナンシャル・ウェルビーイング度を確認したところ、「繰上返済経験あり」では「高い」が16.9%、「繰上返済経験なし」では「高い」が10.3%と、前者の方が「ファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い」人が多いことが分かりました【図表1】。
では、繰上返済を行ってなるべく早めに返済してしまうことがファイナンシャル・ウェルビーイングの観点からは取るべき選択肢なのでしょうか。
先ほどの【図表1】に、「将来の生活設計・資金計画についての検討の有無」を組み合わせて確認したところ、【図表2】の結果となりました。
将来の生活設計・資金計画の検討有無、いわゆるライフプラン・マネープランの検討状況を勘案すると、ファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い人の割合は、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」では13.2%となっており、 「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画あり(20.7%)」だけでなく 「繰上返済経験なし×将来の生活設計・資金計画あり(16.1%)」 よりも劣後する結果でした。
実際に、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画あり」の人と「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」の人の繰上返済理由を確認したところ、差がありました【図表3】。
さらに、住宅ローン返済の負担感や資産形成との両立状況について確認をしたところ【図表4、5】の結果でした。
ファイナンシャル・ウェルビーイング度の分布と同様、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」では、住宅ローン返済を負担に感じる方が多く、資産形成と両立のできている人は少ないことが分かりました。
繰上返済を行うことで、返済の負担感や将来支払う利息額の減少が期待できます。一方で、手元資金は減ってしまうので、繰上返済後に、例えば子どもへ結婚費用を援助したい、などまとまった資金が必要となるイベントを想定している場合には慎重な検討が必要です。
またそうでなくとも、趣味への支出、けがや病気といった万が一への備えや自宅の維持管理・修繕費といった費用など、支出として見込まれるものが想定されるはずです。繰上返済に回したお金は、当然ながら取り戻すことはできませんので、「ライフプラン・マネープランの確認」と「繰上返済をすべきか否かの判断」の二刀流で姿勢が大切です。
ここまでのコラムの内容に加えて、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)より
「健全な借入れ」をライフプランに位置付ける -ファイナンシャル・ウェルビーイング度を高める、”二刀流”の繰上返済とは?-
をミライレポートに掲載しています。是非、ご覧ください。
【第160回】“二刀流”の繰上返済とは?より②
2024.10.16
2024.10.16
2024.10.09
第154回のコラムでは、住宅ローン返済中の方に対して「住宅ローン金利が上昇したときに、どうするか」についてお伺いしたアンケート結果をお伝えしました。その中で、金利が上昇した場合に検討する項目として、最も得票が多かったのが「一部繰上返済」でした。
「手元に余裕資金ができたら、住宅ローンの繰上返済に充てる」が1つの掟として言われた時代もありましたが、現状では、世の中の人は繰上返済をしているのでしょうか。また、繰上返済をしている人は、どのような理由からなのでしょうか。ミライ研のアンケート調査をもとに、紐解いてみたいと思います。
まず、住宅ローンを借り入れた時期別に「繰上返済をしたことがあるか否か」についてお伺いしたのが、【図表1】です。住宅ローンを借り入れた時期が1993年以前では64.4%、1994~2003年では65.2%が繰上返済をしたことがあるという結果となりました。一方で、2004年~2013年→2014年~2023年と借入時期が令和に近づくにつれて、「繰上返済をしたことがある」の割合が徐々に減少していることが分かりました。
ただし【図表1】だけでは、借入期間が長くなるほど、結果的に繰上返済をしたことがある人も増える、とも読めます。そこで、さらに、住宅ローンの繰上返済をどのタイミングで行ったかについても複数回答可にてお伺いしたところ、【図表2】の結果となりました。住宅ローンを借り入れた時期が1993年以前では「1990年代(29.1%)」、1994年~2003年では「2000年代(34.5%)」、2004年~2013年では「2010年代(27.8%)」と「住宅ローン借入後、10年前後」をピークとして繰り上げ返済をする“クジラ型”であることが分かりました。
一方で、2014年~2023年をみると、10年前後にはピークのない“ヒラメ型”であり、繰上返済の取り組み姿勢の明確な変化が伺えました。
次に、住宅ローンの繰上返済をした理由についてお伺いしました。理由として、①“利息を減らしたい”や“返済期間を短縮したい”、“当初の返済スケジュールよりも効率的に減らしたい”といった「早期返済起点」の理由、②“「住宅ローン」の心理的負担から早めに解放されたい”、“できるだけ早めに完済し、自身の完全所有物にしたい”といった「心理的起点」の理由は、足元10年(住宅ローンの借入時期:2014年~2023年)で大きく減少していることが分かりました。
一方で、「できるだけ早めに完済し、資産運用に充てる資金を増やしたかったから」の選択割合が増加しており、住宅ローンの返済と資産形成の両立を意識している層が増加していることが、結果から伺えました。
住宅ローンの繰上返済をすることで、毎月の返済額が減少する(もしくはなくなる)、借入期間が短縮される、将来支払う予定であった利息額が減少するなどの効用が生じることが考えられます。では、これらはファイナンシャル・ウェルビーイング度※向上に寄与するのでしょうか。次回は、その点について確認してみたいと思います。
※「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは、自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態を指す。
【第159回】“二刀流”の繰上返済とは?より①
2024.10.09
2024.10.02
【トピック】
・直近10年で、繰上返済の取り組み姿勢に変化
・住宅ローンの繰上返済をする理由、「早く返したい」から「資産形成のため」へ
・「計画的な」繰上返済は、ファイナンシャル・ウェルビーイング度向上に寄与
レポート
2024.10.02
2024.10.01
2024.09.25
過去2回にわたって「ミライ研」の読者の方に向けて一風変わったNISAのお話をしてきました。
「インデックスファンドを少額からコツコツ積み立てていきましょう」といったアドバイスにはもちろん賛成ですが、皆が20代で30年の積立ができる方ばかりではないですよね。すでに一定程度の資産をお持ちだったり、20年や30年の長期積立に抵抗感を感じる方であったりしても、今回の新NISAは積極活用する意義があると思います。
また、つみたて投資枠を先に埋めて、それでも余力のある人だけが年240万円までの成長投資枠を使うのが定石のように言われますが、そんなルールはありません。あくまで「買いたいファンド」から決めるべきです。
もし、つみたて投資枠には買いたい、買うべきと思えるファンドがなければ、NISAは成長投資枠しか使わないということでも良いのです。成長投資枠は積立で使うこともできるので、前回ご紹介したような「未来のリーダー企業」に期待するようなファンドを、月20万円の積立で5年かけて成長投資枠上限の1,200万円まで買っていくといったアイデアです。
月20万円以上の投信積立ができる方は多くないかもしれませんが、もし月20万円以上の積立意向があるのなら、無理に魅力を感じないファンドをつみたて投資枠で積み立てるのでなく、課税口座(特定口座)で同じファンドを買うということを検討すべきかもしれません。
なぜなら、非課税のNISA口座よりも25%以上高いリターンがあれば、税金を払ってでもそちらの方がお金は増えているのです。世の中は「NISAがオトク!」という話ばかりで、あまり言われないことですが、これは事実です。
たとえばNISA口座で100万円の元本に100万円の利益が出て200万円になるのと、課税口座で25%増しの125万円の利益が出て225万円になっていることは同じことですよね。125万円の利益は税引後100万円(復興特別所得税を除く)なのですから。
つまり、「とにかくNISAを使い切らねば!」から考えるのではなく、自分にとって必要と思える、「長く付き合えるファンドは何か?」から考えることが何より重要です。
一般に、日々の変動が小さく上昇していったファンドが「効率的なファンド」として評価されます。しかし投資信託の積立の場合、実は積立期間中の「軌跡」の方がより大切です。
図1のファンドはまったくブレることなく上昇しており、確かに素晴らしい推移です。しかしそのファンドに毎月1万円ずつ60ヵ月(5年)積立をしていった元本60万円の結果は、図2の結果に負けています。図2のファンドは積立中の前半はフラットに推移し、後半に盛り返していますが、前半に安い値段で多くの口数を「仕込んで」いたことが奏功しているのです。
それがよりはっきり出ているのが、前半ずっと下落していった図3のファンド。後半になって切り返し、最後にようやくスタート時点と同じところに戻って終わっていますが、最終的な評価額は図2よりも高い金額です。これは前半の下落していく過程で、安い値段でたくさんの口数を仕込んでいたことが、後半に「ターボ」のように利いた結果です。
投資信託の積立を考える場合は、ぜひこのことを念頭に置いてファンド選びをすると良いと思います。長期での「右肩上がり」を信じで行う積立においては、「途中での下落は当然のこと。でも安い値段で口数を仕込めるチャンスでもあるんだ」と思えるようになれば、きっとNISAに限らず長期にわたる投資を成功させられることでしょう。
NISAをどう使うかの具体論については、私の会社が運営するウェブサイト「20年後ラボ」の中にも詳しく説明してあるので、興味を持たれた方はぜひ一度ご覧になってみてください。
◆20年後ラボ トップページ ◆20年後ラボ ファンド(投資信託)選びの勘所
筆者プロフィール紹介
日興アセットマネジメント株式会社 マーケティンググローバルヘッド
今福 啓之(いまふく ひろゆき)さん
1990年野村證券入社。支店営業、研修部、金融法人部を経て2000年にフィデリティ投信入社。
2007年に日興アセット入社。日本証券アナリスト協会検定会員。
【第158回】スペシャル寄稿コラム①
2024.09.25
2024.09.18
前回はNISAの2つの枠の使い方について簡単に説明しました。今回はもう少し具体的な選び方の話をします。
当然のことですが、利益が大きければ大きいほどNISAの非課税の恩典は大きいですよね。1,800万円の枠を埋めて長期保有した結果が仮に1億円になったとしても、元本1,800万円との差である8,200万円の利益に対する税金(1,600万円超!)がゼロになるのですから。
もちろん、保守的なお金を成長投資枠でマイルドな投資信託に充てるというアイデアを前回ご紹介した通り、そのお金がどの程度のリスクを取れるかが先にあるべきなのは言うまでもなく、NISAだからといって、誰もがむやみに大きなリスクを取るべきではありません。
その理解の上で、「ミライ研」の読者でそうしたチャレンジをしたいという方に持っていただきたい視点は、投資対象の成長性を第一に考えたファンド選びです。
販売会社により異なりますが、NISAのつみたて投資枠のラインアップには海外株式のインデックスファンドなどが多いようです。それらインデックスファンドは、市場を代表する大企業に平均的に投資する、言ってみれば「現在のリーダー企業」を広く押さえる投資です。
しかし株式投資の醍醐味は企業の「変化」の中にあります。私たちが想像する通り、企業には様々な成長フェーズがありますが、株式投資のリターンが大きくなるのは一般に、企業がダイナミックに成長する初期~中期の段階や、世の中の見方や評価がガラリと変わる時です。
たとえば米テスラ社の株価が大きく上昇したのは、皆がテスラのEV(電気自動車)の製造方法や財務状態に対して持っていた懸念が、2020年後半にかけてポジティブに転換していく頃でした。しかし、その大きなリターンを享受できたのは、皆が酷評していた頃の安い株価で買っていた投資家です。
2020年の12月になってようやくテスラはS&P500指数の構成銘柄に採用されますが、S&P500のインデックスファンドに投資する人は、そこからようやくテスラへの投資をしていることになります。
テスラ株はS&P500に採用されたあとにも上昇しましたが、多くの人が期待するような値動きにはなっておらず、どちらかといえば、現在までのS&P500指数の足を引っ張っているとすらいえるかもしれません。
インデックス投資は「現在のリーダー企業」をそのまま広く押さえる投資であって、「未来のリーダー」を早くから押さえておこうという投資ではないので仕方ありません。「いい悪い」ではなく、投資の考え方の2つの「流派」のような話です。
もし、NISAでの長期投資で本当に大きな非課税利益を期待したいと考えるなら、2つめの考え方、つまり「未来のリーダー」に投資するファンドへの投資を検討すべきかもしれません。NISAのつみたて投資枠ではそうしたファンドは選べないことが多いので、年240万円・最大合計1,200万円の成長投資枠のなかで、そうしたファンドへの適切な金額の割り振りを考えるということです。
ただし下図に示したように、それらのファンドの値動きはインデックスファンドに比べて大きくなりがちなことには留意が必要です。また「未来のリーダー」かどうかの見極めや入れ替えも常に怠れないので、投資信託を通じてプロの目利き力を活用すべき投資ともいえます。
「未来のリーダー企業」を早くから押さえる投資の具体例として、「イノベーション投資」という考え方をご紹介します。
ひとことで言うと「社会変革起点」のアプローチで設計された投資信託です。
例えばここ数年で日本でもあっという間にスマートフォンでの決済が浸透し、ATMで現金をおろす頻度が激減した人も多いのではないでしょうか。この動きは単に「キャッシュレスで便利になったね」では終わらず、お金まわりの全てにダイナミックな変革をもたらす可能性があります。お金は「経済活動そのもの」ですから、eコマースなどの消費者の利便性はもちろん、小売業者など供給側のビジネスモデルにも変革をもたらすでしょう。新たな金融プラットフォームの出現と、それを支えるブロックチェーンという技術、その上にあるビットコインの浸透も予想されます。
そうした未来の社会変革を起点として投資を考えると、例えば「フィンテック」というイノベーション投資のファンドが生まれていくーーそんな考え方です。
「イノベーション投資」ついては、私の会社が運営するウェブサイト「20年後ラボ」の中にも詳しく説明してあるので、興味を持たれた方はぜひ一度ご覧になってみてください。
個別銘柄については、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。
また、当社ファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。
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筆者プロフィール紹介
日興アセットマネジメント株式会社 マーケティンググローバルヘッド
今福 啓之(いまふく ひろゆき)さん
1990年野村證券入社。支店営業、研修部、金融法人部を経て2000年にフィデリティ投信入社。
2007年に日興アセット入社。日本証券アナリスト協会検定会員。
【第157回】スペシャル寄稿コラム①
2024.09.18
2024.09.11
同じ三井住友トラスト・グループの資産運用会社である日興アセットマネジメント株式会社(以下、日興アセットマネジメント)の今福さんにご登場いただき、「NISA」について3回シリーズで詳しく語っていただきます!!
今年から新しくなったNISAが話題ですね。私は投資信託を運用する会社の社員なので嬉しい限りです。しかし「ミライ研」の読者には、もう一歩先、つまり「具体的にどう活用すべきか」を考えている方も多いのではないでしょうか。または、試しに少しだけ始めてみたという方も多いかもしれません。
新NISA制度の大枠を整理します。年120万円、毎月で割ると月10万円までの投信積立ができる「つみたて投資枠」と、それとは別に年240万円までの投資ができる「成長投資枠」があり、ひとり当たりの投資元本の上限は1,800万円(ただし「成長投資枠」は1,200万円まで)です。
そして将来売却をするときなどに、その投資元本から生じた利益に通常かかる約20%の税金が非課税になるというのがNISAです。
2つの枠をどう使うかの唯一の「正解」はありませんが、いくつかのケースを示してみます。まずは「最短で埋める」ケースから。
つみたて投資枠に上限の年120万円、つまり月10万円の積立、成長投資枠に上限の240万円を毎年入れていくアイデアです。すると「ケース1」の絵の通り、5年で1,800万円の上限に達します。2つの枠ともに最短で埋め切っています。
積立は一般に長い時間をかけるのが良いこととされますが、最速で投資してしまって「そのあと」の方を出来るだけ長くするというのは、実は合理的な考え方といえます。なぜなら、長年に分けて積立をしたとしても、その最後の方のお金はまだ十分に運用されていないわけですから。
ただひとつ気になるのは、この5年間という比較的短い期間に1,800万円ものお金が投じられていることです。あとから振り返った時に、この5年間が投資タイミングとしてどうだったか、という話ですね。
でも、こればかりは事前には分かりません。今の株価が割高かそうでないかを考えることは重要ではありますが、最速で入れてしまって、その5年間が割高だったのか割安だったのかなど気にならないくらいに大きな利益の状態で売却し、非課税で全額を受け取れれば最高!という考え方は決して間違っていません。
このケース1の半分が、「ケース2」の上の絵です。つみたて投資枠は半分の5万円、成長投資枠も年間上限の半分の120万円です。そうするとケース1の倍の10年で1,800万円が埋まります。先ほど指摘した「投資タイミングが5年間に集中してしまう」という点が気になる人も、これなら問題なさそうです。
「ケース2」の下の絵は、つみたて投資枠は5万円だが成長投資枠は年間上限の240万円のままのパターンです。
240万円の方については、リスク度合いのあまり高くないバランスファンドなどを毎年240万円ずつ5年かけて、成長投資枠の上限1,200万円まで買っていくことをイメージしています。
「成長投資枠」という名前だからといって、必ずしも高いリスクを取る必要はありません。もし手元にまとまったお金があり、預貯金に寝かせておくのもどうか、でも株式100%の投資信託を買うような性質のお金ではないという場合には、少しマイルドな投資信託を成長投資枠で年に一度、何らかのタイミングを決めておいて、240万円分買う。5年続けると成長投資枠の上限1,200万円を使い切ることになります。保守的なお金というのは誰にもあると思いますから、一度考えてもいい手法だと思います。
NISAをどう使うかの具体論については、私の会社が運営するウェブサイト「20年後ラボ」の中にも詳しく説明してあるので、興味を持たれた方はぜひ一度ご覧になってみてください。
◆20年後ラボ トップページ ◆20年後ラボ ファンド(投資信託)選びの勘所
筆者プロフィール紹介
日興アセットマネジメント株式会社 マーケティンググローバルヘッド
今福 啓之(いまふく ひろゆき)さん
1990年野村證券入社。支店営業、研修部、金融法人部を経て2000年にフィデリティ投信入社。
2007年に日興アセット入社。日本証券アナリスト協会検定会員。
【第156回】スペシャル寄稿コラム①
2024.09.11
2024.09.04
まず、金融リテラシーセミナーへの参加意向について確認をしたところ、住宅ローン金利が上昇したら返済について何らかの変更を「検討する人」では、セミナーへ今後、参加したいと思っているのが49.1%、反対に「検討しない人」では26.2%と、およそ2倍の差がありました【図表1】。
次に、金融機関やファイナンシャルアドバイザーからのアドバイスを受けたいかどうかについて確認をしたところ、こちらも「検討する人」のうち受けたいと思っている人は66.5%と半数を超える一方で、「検討しない人」では40.5%にとどまりました【図表2】。
では、「検討する人」が受けたいと思っているアドバイスは具体的にどういった内容でしょうか。その点について確認したのが【図表3】です。
最も多かったのは、「マネープラン全体(現在、および、将来)」で62.5%、次いで「マネープランの中の老後資金」が48.2%、「NISA・iDeCoなど、貯蓄・投資に関する優遇制度」が39.0%という結果でした。
住宅ローンは一般的には高額・長期の借入れですので、今後、もし住宅ローン金利が上昇すれば、その影響も大きく、長期に渡ります。その対応を考えるにあたっては、一時的には「一部繰上返済」も有効かもしれません。しかし、自身のライフプラン・マネープランを振り返り、住宅ローンをどのように位置付けるべきかについて、外部の知見も活用しながら検討いただくことが欠かせません。
ここまでのコラムの内容に加えて、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)より
「金利がある世界」はくる?こない?-住宅ローン金利が上昇したとき、あなたならどうする?-
をミライレポートに掲載しています。是非、ご覧ください。
【第155回】「金利がある世界」はくる?こない?より③
2024.09.04
2024.09.01
前回のコラムで、「住宅ローン金利の今後の動向に対する見解」を確認したところ、“現在、持ち家にお住まいで住宅ローンを今まさに返済している方”が最も「住宅ローン金利の動向に対し何らかの見解あり※1」だということがわかりました。
では、それらの方は住宅ローンの金利が上昇をしたらどのような対応を取ろうと考えているのでしょうか。
まず、住宅ローン金利が上昇した場合、住宅ローンの返済について何らかの変更を検討するかどうかについてお伺いしたところ、「検討する人」が67.2%、「検討しない人」が32.8%という結果となりました【図表1】。
では、「検討しない人」はなぜ検討しないのでしょうか?「検討する人」はどのような内容を検討するのでしょうか。
まず、「検討しない人」に対してその理由をお伺いした結果が【図表2】です。
検討しない理由として最も多いのは「検討や手続きが面倒なので何もしない」(49.1%)でした。また、およそ3人に1人は、「金利が上昇しても返済に困らないので何もしない」(32.5%)を選択していました。
確かに、返済について何らかの変更を行おうとする場合、「変更をすることで得られるメリットはどの程度なのか(もしくは変更を行わないことで生じるデメリットはどの程度なのか)」をまずは考えなければなりません。そしてそれを踏まえたうえで、何らかの変更を行うことに決めた場合、少なくとも借入れている金融機関とのやり取りが発生しますので、日々の生活を送りながら並行してこなしていく負担感は相応にあると思われます。
次に、「検討する人」に対し、返済について具体的にどのような変更を検討したいかについてです【図表3】。
具体的な検討内容として、他の選択肢を大きく引き離して多かったのが「一部繰上返済をする」の45.0%でした。一部繰上返済とは、月々の返済以外に、住宅ローンの残高の一部を予定より早く返済することですが、「一部」繰上返済であれば、手数料などは無料としている金融機関が多く、またインターネット手続きで手軽にできるケースが多いため、手軽に取り組みやすいのかと思われます。
またすぐにアクションを起こすのではなく、まずは「金利上昇によって返済にどの程度の差が出るか自分で確認する」(20.1%)、「借入金融機関へ返済計画見直しの相談をする」(19.9%)が選択されているのは、金利上昇が与える影響をまずは知りたいという自然な気持ちの表れかと思われます。
そこで、そのような外部知見の活用という観点から、「検討する人」と「検討しない人」で「金融リテラシーセミナーへの参加希望」や「金融機関・ファイナンシャルアドバイザーからのアドバイス希望」に差が生じるかについて確認した結果について、次回のコラムでご紹介します。
【第154回】「金利がある世界」はくる?こない?より②
2024.08.28
2024.08.28
7月30、31日に行われた日本銀行の金融政策決定会合では、ついに政策金利の引き上げが決定され、いくつかの金融機関では住宅ローン金利の引き上げも発表されています。みなさんは、「今後の住宅ローン金利の動向」についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。ミライ研では2024年1月に実施したアンケート調査を基に、「今後の住宅ローン金利の動向に対する見解」と「今後、住宅ローン金利が上昇した場合の対応」について分析しました。
みなさんは、「今後の住宅ローン金利の動向」についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。アンケート調査では、今後の住宅ローン金利の動向について「現状よりも上がると思う」「変わらないと思う」「現状よりも下がると思う」「わからない」「関心がない」の5つの選択肢で伺いました。
この設問に対する回答を、まず年代別に確認した結果が【図表1】です。
今回、「現状よりも上がると思う」「変わらないと思う」「現状よりも下がると思う」のいずれかを選択された方を「住宅ローン金利の動向に対し何らかの見解あり」として分析を行ったところ、全年代では「住宅ローンの金利動向に対しと何らかの見解あり」が47.0%、「分からない」が30.6%、「関心がない」が22.4%という結果となりました。この割合は、年代によって大きな差はみられませんでした。
次に同様の設問について、現在の居住形態別に確認したところ、【図表2】の結果となりました。
まず、「住宅ローン金利の動向に対し何らかの見解あり」の割合は、「持ち家」が53.0%と最も多く、「賃貸」が45.6%、「その他」が35.3%と徐々に減少をしていました。また、そもそも「関心がない」の割合は、「その他」では29.1%を占めており、「持ち家」のおよそ1.6倍となっていました。
現在の住まいの形によって、今後の住宅ローン金利に対する考え方・関心度合いには差が生じているようです。
そこでさらに、持ち家にお住まいの方について、「現在、住宅ローンを利用しているか否か」で細分化して確認をしました【図表3】。
すると、持ち家にお住まいの方のなかでも、住宅ローンを利用している(現在、住宅ローンの返済中の)方は、71.3%が「住宅ローン金利の動向に対し何らかの見解あり」と圧倒的に多くなっていました。反対に、持ち家にお住まいの方であっても、「住宅ローンを利用していない方」や「相続・譲渡などで現在の持ち家を保有した方」では、およそ4人に1人は「関心がない」を選択されていました。
当然ながら、今まさに住宅ローンを返済している方にとっては、今後の住宅ローン金利の動向次第では自身の家計にダイレクトに影響を及ぼし得ます。そのため、「今後の住宅ローン金利の動向」がどうなるかについての情報収集を行い、「こうなるだろうから、我が家ではこうしていこう」という計画を立てられている方も少なくないのではないかと思われます。
では、「我が家ではどうしていこう」と思われているのでしょうか。次回のコラムでは、その点について確認してみます。
【第153回】「金利がある世界」はくる?こない?より①
2024.08.21
2024.08.21
2024.08.14
7月3日に公的年金の財政検証の結果が公表されました。財政検証は、公的年金にとって5年に一度の大規模な健康診断のようなものです。新聞などでは、「2割低下」といったような見出しで報じられていて、不安になった方も多かったでしょう。特に、若い方は、自分の頃にはほとんど受け取れないのではないか、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。公的年金には「マクロ経済スライド」という仕組みがあり、物価や賃金の伸びよりも年金受取額の増額を抑えることになっているのは事実です。しかし、今回の診断結果は、そこまで悲観するほどのものではありません。その理由について見ていくことにしましょう。
将来の経済環境は誰にも予測ができません。そのため、公的年金の財政検証では、経済がよくなるケースから悪くなるケースまで、複数のケースを想定して計算されています。今回の財政検証では4つのケースで計算されていますが、経済成長率が一番高いケースと一番低いケースはかなり楽観的なものとかなり悲観的なものですので、それらを除いた「成長型経済移行・継続ケース」と「過去30年投影ケース」がイメージしやすいと思います。そこで、この2つを見ていくことにしましょう。
公的年金は、保険料水準が固定されていて、現役人口の減少や高齢化の影響は受取額を抑制することでバランスをとっています。受取額を抑制する仕組みはマクロ経済スライドと呼ばれます。このマクロ経済スライドは、「今の年金生活者にも受取額を少し我慢していただいて、将来のために積立金としてとっておき、将来受け取る世代の年金額を確保する」というコンセプトのものです。将来世代の受取額確保のためには重要な仕組みですが、いつまでも受取額を抑え続けて将来世代が受け取るころにも年金が低くなってしまっては元も子もありませんので、マクロ経済スライドは、年金財政のバランスを見て、必要がなくなればその時点で停止することになっています。財政検証では、マクロ経済スライドで受取額を抑制しても「現役世代の手取り賃金の半分は受取額が確保できるか」を検証しています。
個々人の受取額は働き方・暮らし方や給与によっても異なってきます。そこで、財政検証では、単純化したモデル世帯で計算しています。モデル世帯というのは、20歳から60歳までの40年間平均賃金で働く男性と、その間ずっと専業主婦だった女性で構成される世帯です。この世帯が受け取る年金額自体を見てもご自身の受取額を知るにはあまり役立ちませんが、あくまで受取額の水準変化を見るための物差しとして使われています。モデル世帯の受取額は、2019年度は月額22.0万円、2024年度は月額22.6万円です。現役男性の手取り賃金は、2019年度は月額35.7万円、2024年度は37.0万円です。
昨今、モノの値段が高くなっていく「インフレ」が問題になっていますが、「成長型経済移行・継続ケース」では年率2%のインフレが続くことを仮定しています。インフレが長期化した場合に、年金の受取額の水準はどのようになるかを見てみましょう。なお、インフレ率が2%の世界では、今の20万円は40年後には1.02を40回かけた44.2万円くらいの数字になってしまい、かえってイメージしづらいと思いますので、以下ではすべて現在の価値で表現した金額を記載します。
5年前の2019年の財政検証では、同じような経済前提(インフレ率2%)で計算した場合には、モデル世帯の受取額は2060年度には32.7万円になると計算されていました。今回の財政検証では2060年度には33.8万円まで増えると計算されています。5年前の財政検証での結果に比べて、少し受取額がアップしていますね。これは、働く女性や高齢者が増えたことと年金の積立金の運用がうまくいったことにより、マクロ経済スライドによる給付抑制が短期間で済むようになったからです。公的年金のうち特に老齢年金は、長生きとインフレに備える保険です。年率2%というインフレが継続しても、マクロ経済スライドが長期化しなければ、インフレに備える機能が働いて年金の受取額が増えていくということです。このケースでは、2060年度の現役手取り賃金は58.6万円と計算されていますので、受け取れる年金額(33.8万円)は現役世代の手取り賃金の57.6%であり、50%を上回っていることが確認できます。なお、この比率のことを「所得代替率」と言います。
では、今後も経済が停滞する場合を見てみましょう。5年前の財政検証で同じような前提(実質経済成長率0%)で計算したときは、モデル世帯の2058年度の受取額は20.8万円まで下がると計算されていました。一方、今回の財政検証の「過去30年投影ケース」(実質経済成長率▲0.1%)の計算では、モデル世帯の2060年度の受取額は21.4万円で踏みとどまっています。なお、この経済前提での2060年度の現役手取り賃金は42.5万円ですので、所得代替率は、年金受取額21.4万円÷手取り賃金42.5万円=50.4%となり、このケースでも現役世代の手取り賃金の半分を超える年金受取額が確保できることが確認できます。
このように見てくると、インフレが続いても、失われた30年が継続しても、現在の若者がセカンドライフを迎える頃にも今の受給者とほとんど遜色ない金額の年金が受け取れる計算になっていることがわかると思います。失われた30年が継続しても、年金受取額は2024年度の22.6万円に対して2060年度でも21.4万円で、5%くらいしか減っていません。
それなのに、なぜ新聞報道では「2割低下」と書かれているのでしょうか。これは、「現役世代の賃金が伸びるほどは年金受取額が増えず、年金受取額の伸び率が賃金の伸び率に2割劣後する」という意味です。「過去30年投影ケース」では、2024年度の現役手取り賃金が37.0万円ですが、2060年度には42.5万円と計算されていて、賃金は1.15倍になっています。一方で、年金の受取額は2024年度が22.6万円に対して2060年度が21.4万円で、0.95倍になります。この1.15倍と0.95倍の差をとらえれば、年金の受取額は賃金の伸びに対して相対的に2割劣後しているということになります。別にモデル世帯の年金受取額が2割減るわけではありません。年金の受取額の水準としては、失われた30年が続いても今の0.95倍ですし、もっと経済がよくなれば今の水準よりも高くなるくらいですので、そこまで悲観するほどではないとミライ研では考えています。どうしても賃金の伸びほどは年金の受取額は増えていきませんので、「豊かなセカンドライフ」のためにiDeCoやNISAで備えておくことは意味があると思いますが、決して「公的年金が2割減るから老後に向けて資産形成が必要」ということではないことが、ご理解いただけるのではないかと思います。
今回の財政検証では、モデル世帯の金額に加えて、もう少し現実的な仮定を置いた試算も行われています。特に、モデル世帯の「40年間専業主婦」だと当てはまらない方が多いと思いますので、女性も働く前提での金額を見るのが役に立つと思います。
現実的な仮定を置いた計算では、2024年度に65歳の人(1959年生まれの人)の受取額は、男性で平均14.9万円、女性で平均9.3万円と計算されています。現在30歳の人(1994年生まれの人)が年金を受け取る65歳の時点では、「成長型経済移行・継続ケース」においては男性で平均21.6万円、女性で平均16.4万円、「過去30年投影ケース」でも男性で平均14.7万円、女性で平均10.7万円を受け取れると試算されています。これも単に数字の一例にすぎませんが、独身の方はこの数字の方がイメージに合うと思いますし、共稼ぎ世帯でもこの男女を合計したほうがモデル世帯よりもイメージに合うと思います。
また、働き方・暮らし方や給与水準は人それぞれですので、平均で見るよりも、ご自身の受取額をシミュレーションするほうが役に立ちます。厚生労働省の公的年金シミュレーターを使って無料で簡単に試算できますので、そちらで水準感を確認するのがいいと思います。ただし、将来の「マクロ経済スライド」までは試算できません。でも、このコラムを読んだ方であれば、「マクロ経済スライド」で受取額を「2割」減らして考えるのはやりすぎかもとご理解いただいたと思います。もし「過去30年投影ケース」を念頭において控えめな受取額をイメージしたい場合であれば、例えば結果を5%減らして考えてみるといいかもしれません。そして、ご自身の実現したいセカンドライフに合わせて、どれくらい資産形成で賄うかをイメージするとよいでしょう。
【第152回】
2024.08.14
前回のコラムでは、2024年のNISA制度の抜本的拡充を契機として、国民への新NISAの認知や利用浸透は着実に進んでいることがわかりました。
今回は、調査時点で新NISAを現在利用していない方にフォーカスを当て、新NISAに対して「利用意向がある」方、「利用するかどうかわからない」方、「利用意向がない」方に、どのような経験・意識の差があるのか、ミライ研の調査をもとに紐解いていきます。
まず、調査時点で新NISAを利用していない方たちにおける、「今後の利用意向」はどのような状況なのでしょうか。
新NISAに対して「利用意向がある」方、「利用するかどうかわからない」方、「利用意向がない」方の分布を示している【図表1】を見ると、「わからない層」が約半数を占める最大勢力であることがわかります。
(「NISA意向あり層=19.0%」、「NISAわからない層=47.0%」、「NISA意向なし層=34.0%」)
これらの3つのセグメントにおいて「利用意向がある」層と「それ以外」の層で、「学ぶ機会」の有無を確認してみます。「金融リテラシー向上のためのセミナー」の受講経験をそれぞれのセグメントで集計すると、「NISA意向あり」層はセミナー参加経験者率が18.3%となり、それ以外の層と比べて、顕著にセミナーの参加経験率が高い傾向となりました【図表2】。
また、将来設計の状況にどの程度の差があるのかを調べました。すると、【図表3】のとおり、新NISAの利用意向がある人の方が、「将来の生活設計・資金計画について検討したことはない」回答の割合が相対的に低くなっています。「NISA意向あり層」のうち過半数は、何かしらの将来設計・資金計画の検討をしていることがわかりました。
2024年のNISA制度の抜本的拡充を契機として、国民への新NISAの利用浸透は着実に進んでおり、現時点で新NISA未利用者においても、すでに利用意向がある方が相応にいることがわかりました。一方で、調査時点で新NISAを利用していない層のなかで、今後の利用意向に関して「わからない」と答えている層が約半数と最大勢力でした。
ここまでの調査結果から考察すると、「新NISAの認知者」から「新NISAの利用者」となるきっかけは、金融リテラシー関連の情報に接する機会を持つこと、ならびに自身の人生の将来を考えてみること、といえるかもしれません。「まわりがNISAを始めたから自分もやってみよう」というきっかけで資産形成を取り組み始めることもよいですが、それだけでなく、お金に関する“学び”を得ることや、自身の将来設計を立ててみることで、「人生の経営者は自分」という意識が芽生えることが、生涯にわたって長期で資産形成制度を“活用”していく上で重要と思われます。
【第151回】ミライレポート「新NISAの認知・活用事情」より
2024.08.07
2024.08.07
【トピック】
・「住宅ローン返済中の方」の71.3%は、住宅ローン金利の動向に対する見解(今後の住宅ローン金利は、上がる・変わらない・下がる)あり
・「住宅ローン返済中の方」の67.2%は、住宅ローンの金利が上昇したら返済について何らかの変更を検討する
・「検討をする人」は、金融リテラシーセミナーの参加やアドバイスを受けたい人が多い
レポート
2024.08.01
2024.08.01
2022年11月に岸田内閣から発表された「資産所得倍増プラン」では、7つある柱のうち「第一の柱」として、「家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるNISAの抜本的拡充や恒久化」が打ち出されました。本プランでは、目標の一つとしてNISA口座数を当時の1,700万口座から、5年間で3,400万口座に倍増させる目標が掲げられ、その実現に向けて、2024年より抜本的制度拡充がなされた「新しいNISA制度」(以下、新NISA)がスタートしました。
では、新NISA制度が始まる前後で、NISA口座数はどのくらい伸びているのでしょうか。
2024年6月に金融庁が発表しているNISA利用状況調査によると、【図表1】のとおり、2023年12月末から2024年3月までの3か月で約186.8万口座伸び、2322.8万口座に増加しています。制度の拡充などを経て、NISA口座数は急速に伸びていることがわかります。
では、世間の方々の「NISA」に対する認知度や利用状況、利用意向はどのようなものでしょうか。ここから、ミライ研が2024年1月末に実施したアンケート調査をもとにみていきます。
まず、「資産形成のための制度」としての認知度を確認してみました。
1万人のアンケート回答者に「制度として知っているもの」を複数回答で選択いただいたところ、【図表2】のとおり、新旧NISA制度の認知度がトップとなりました。資産形成の制度における認知度は、NISA制度がトップで、次いでiDeCo(個人型確定拠出年金)が続いています。一方で、どの年代においても「この中にはひとつもない」との回答が約4割弱存在し、認知度の格差がありそうなことがうかがえます。
また、認知度と合わせて新NISAの利用状況も尋ねています。本調査が2024年1月であるため、実際に新NISAでの買い付けをスタートしていない方が含まれることを考慮する必要はありますが、調査時点での新NISA利用率は14.5%でした【図表3】。新NISA制度の「認知」と「利用」のギャップは相応にありそうなことがわかります。
では、新NISAを活用していない方における利用の「意向」はどうでしょうか。
同調査で、新NISAを活用していないと回答した9,360名に対し、「2024年から開始の新NISA制度を今後活用しますか」と聴取しています。すると、「活用する」「おそらく活用する」と答えた方は、「新NISAをすでに利用している」人数とほぼ同じ人数に上り、両者をあわせるとおよそ3割を超える水準になることがわかりました【図表4】。
さらに、新NISA未利用者のうち、今後の利用意向について「わからない」と答えている層が、どの年代も4割前後いることがわかりました。
2024年のNISA制度の抜本的拡充を契機として、国民への新NISAの利用浸透は着実に進んでいるようです。また、現時点で新NISA未利用者においても、すでに利用意向がある方が相応にいることがわかりました。一方で、調査時点で新NISAを利用していない層のなかで、今後の利用意向に関して「わからない」と答えている層が約半数と最大勢力でした。
次回は、調査時点で新NISAを現在利用していない方のうち、新NISAに対して「利用意向がある」方、「利用するかどうかわからない」方、「利用意向がない」方に、どのような経験・意識の差があるのかみていきます。
【第150回】ミライレポート「新NISAの認知・活用事情」より
2024.07.31
2024.07.31
2024.07.25
2024.07.19
【トピック】
・NISA口座数は増加傾向、 2024年に入ってから急伸
・新NISAの“利用者”と“利用意向がある人”を足し上げると、全体で3割を超える
・NISAの利用意向がある人は、金融リテラシー向上セミナーへの参加経験率が相対的に高い
・NISAの利用意向がある人は、相対的に将来の生活設計・資金計画を検討している
レポート
2024.07.19
2024.07.17
これまでのコラムで、過去3年以内に住み替えた方(実態面)、今後3年以内に住み替えを予定している方(意識面)について解説してきました。今回のコラムでは少し視点を変えて、過去3年以内にも、今後3年以内にも住み替えない(予定もない)方に、焦点を当ててみていきたいと思います。
【第147回コラム】の再掲となりますが、今回ミライ研で実施したアンケート調査では、時系列として、過去の住まい(3年前)・現在の住まい・未来の住まい(3年後までの予定)について伺うことで、その間の住み替えを含む住居形態の変化を捉えることができるような構成としています【図表1】。
これまでのコラムでは、そのうち「過去3年以内に住み替えを行った方」、「今後3年以内に住み替えを予定している方」に触れてきましたが、反対に過去も住み替えず、今後も住み替える予定のない方については、どれくらいいらっしゃるのでしょうか。その割合について、過去から未来への時系列における住み替えの選択状況を、年代別に見てみましょう【図表2】。
「過去は同じ住まい、今後も同じ住まいを予定」と回答している、過去も今後も住み替え(予定)なしの方の割合は、20代(18歳-29歳)では、34.9%と最も低く、30代で50.0%、40代で、66.4%、50代以降は80%超と、これまでの住み替えコラムで見てきたグラフより30代~50代での傾斜が大きいものとなりました。
20代では卒業や就職、結婚等を経て、過去3年間・今後3年間のどこかで住み替えを行う可能性が高くなっていることはこれまでのコラムからも同様の傾向となりました。一方、50代では打って変わって、過去も今後も住み替え(予定)なしと回答している方の割合が一段と増加し、以降はその増加率も一定となっています。反対に30代では過去も今後も住み替え予定のない方と、そうでない方(過去か今後で少なくとも1度は住み替えを行った、もしくは予定している方)で割合が半々となり、その後40代では、住み替えをしない方が15%程度増加しています。この調査結果から、基本的には30代~40代にかけて50代以降を長期的に見据えて居住環境を固めていこうとされている方が、全体としては多いということが推察できます。
長期的な住居選択における転換点となりそうな年代の30代・40代の方で、過去も今後も住み替え予定のない方は、どういった理由で住み続ける選択をされているのでしょうか。現在の住居形態を「賃貸」「持ち家(自己所有)」に分けて、その理由について伺ってみました【図表3・4】。
30代での住まいの理由は、賃貸・持ち家の方に限らず「住環境」や「家族構成の変化」が上位になっていますが、特徴的なのは、持ち家にお住まいの方の理由、第1位が「終の棲み処と考えた」(22.2%)とっている点です。40代での結果も30代同様、持ち家にお住まいの方の理由、第1位は、「終の棲み処と考えた」(26.0%)となり、回答者のうちおよそ5人に1人が、30代の時点から現在の住居を、最後の住まいと考えているということがわかりました。
公開済みのレポート「令和の住み替え事情−住まいの高額化時代における選択は?−」の中では、過去3年以内に住み替えを実施した方や、今後3年の間に住み替えを予定している方に、その住み替え理由を伺っています。その結果と比べても、住み替え予定のない30代・40代の方が、現住居を「終の棲み処」と考えている割合は、10%近く高くなっており、早いうちから住まいを長期的に捉える意識が高くなっている様子が伺えました。
ここまで全3回で「住み替え」をテーマとして、住み替えを行った方、住み替えを予定している方、住み替えない方を軸に住まいの選択状況を見てきました。調査結果からは、各年代において生じる「目の前にあるライフイベント」にどう対応していくかという現実的な目線から、自身にとっての住居形態に向き合っていることがうかがえました。
何を重視し、何を優先するかは極めて各人の判断に委ねられる部分ですが、本コラムが、人生100年時代における「我が家の形態に合った住まいのあり方」の吟味・検討の際の一助になれば幸いです。
【第149回】令和の住み替え事情より③
2024.07.17
2024.07.17
2024.07.11
前回のコラムでは、過去3年以内の住み替えに関する実態について解説しました。今回のコラムでは時間軸の視点を未来に向けて、「今後3年以内の住み替え予定」に関する意識面にフォーカスして解説していきたいと思います。
前回コラム同様に、現在の住居形態が、「賃貸」・「持ち家(自己所有)」の方に、「今後3年以内に住み替える予定があるか」を調査しました【図表1】。結果としては、過去の住み替え実態同様に20代が、約半数(46.9%)と、住み替え意識が最も高く、30代で約3割(32.4%)、40代で2割(18.9%)、50代・60代では約1割と、年代が上がるにつれて住み替え意識の割合が低下していることがわかります。
全体の傾向からみると、50代以降くらいから今後の住み替えに対するニーズは、一定の落ち着きが伺えますが、逆に50代・60代で約1割の「住み替える予定」と回答している方は、どのような住み替えを考えているのでしょうか。
【図表1】で「住み替える予定」と回答した方を対象に、住居形態の変化(予定)についても尋ねました【図表2】。20代~40代では住み替え先に「賃貸」を選択される方が過半数となっていますが、逆に50代・60代では住み替え先に「持ち家」を選択される方が過半数(50代:52.3%、60代:77.5%)となっています。またその中でも特筆すべき点として、「現在既に持ち家に居住しているが、今後3年以内に『別の持ち家』へ住み替えを予定している」と回答した方の割合が、50代では37.3%と他年代よりも高く、さらに60代では60.1%と、特に高い結果となりました。
これらの結果から、50代・60代で今後3年以内に住み替える予定と回答している方自体は、全体からすると約1割ではあるものの、その1割の方は、既に持ち家に居住していたとしても、新たに持ち家へ住み替えたい意識が強く、特に60代ではその傾向が顕著であることがうかがえました。
では、この住み替え意識の高さは、どういった要因が考えられるでしょうか。
50代・60代で今後「持ち家」への住み替えを予定している方に、住み替え予定の理由をうかがったところ、どちらの年代も住み替え(予定)の理由、第1位は「終の棲み処と考えて」となりました【図表3・4】。また、その選択割合も、50代では25.9%、60代では39.7%と、次の住まいを最後の住まいとする意識は、50代から60代になることで一層強くなることがわかりました。
その他の理由としては、50代では「住環境を考えて」(21.1%)、「親と同居することになるため」(16.7%)、60代では「住環境を考えて」(14.5%)、「家族構成の変化を考えて」(10.7%)が上位となり、終の棲み処を意識して、自身が心地よく過ごすことができる住環境というところも住み替え(予定)の理由として、重視されている様子がうかがえました。
今回のコラムでは、今後の住み替え意識の中でも50代・60代の「持ち家へ住み替え」を予定している方に着目し解説しました。全体の中で住み替えを予定している同年代の方は、割合としては少数であるものの、それでも住み替えを考えている方は、明確な意識を持たれているように見受けられました。
【第148回】令和の住み替え事情より②
2024.07.11
2024.07.03
資材価格や人件費の高騰、歴史的な低金利環境などを背景に、全国的に住宅価格が上昇しています。昨今では購入後の価格上昇を期待して住み替えを前提に自宅を購入する戦略などにも注目が集まっていますが世間全体での実態や意識はどうなっているのでしょうか。
高額化してきている「住まいの状況」に対して、どのような「住み替えの選択」がなされているのか、2024年1月にミライ研で実施したアンケート調査をもとに3回のコラムでお伝えします。
現在の住居形態が、「賃貸」・「持ち家(自己所有)」の方に、過去3年以内に住み替えたか(実態面)と、今後3年以内に住み替えたいのか(意識面)、両側面から尋ねることで、過去・現在・未来の時系列で住まいをどのように選択しているかを把握できる形で調査を行いました【図表1】。
その中でも本コラムの1本目では、過去3年以内から現在までの住み替えにおける実態面について解説していきたいと思います。
過去3年以内に「住み替えを行った」割合を各年代で見ると、18歳-29歳(以降20代と表記)では就職や転勤などを背景に全体の半数以上(51.7%)、およそ2人に1人が3年以内に住み替えを行っていることがわかりました【図表2】。また、一般的にライフイベントが多く訪れるといわれる30代で約4割、40代で約3割の方が過去3年以内に住み替えを行っています。一方で、50代・60代はともに住み替えしたのは約1.5割と、住み替え比率が減少していることが確認できました。
住み替えをした方に絞って、住居形態の変化も調査しました【図表3】。結果をみると、年代によって傾向が大きく変わり、20代では住み替えた方の9割近く(85.8%)が「賃貸への住み替え」、約1割(14.2%)が「持ち家」へ住み替えているという結果が確認できました(「持ち家→賃貸」や「持ち家→別の持ち家」については、実家からの住み替えも含む)。
住み替え比率の最も高かった20代の「住み替え理由」に注目してみると、賃貸・持ち家への住み替えで、その理由が異なることがわかりました【図表4】。
賃貸への住み替え理由は、第1位が「勤務先への通勤を考えて」、第2位「家族構成の変化」、第3位「進学先への通学を考えて」と、実際のライフスタイルに合わせた住み替えが上位を占める結果となりました。
一方で、持ち家への住み替え理由では、第1位は「家族構成の変化」ですが、第2位に「住居費が高かったため」、第3位に「住宅ローン金利が低かったため」と、ライフスタイルに合わせた住み替えだけでなく、マネープランを軸に持ち家へ住み替えを行っていることが確認できました。
今回のコラムでは過去の住み替えの中でも20代に着目し解説させていただきましたが、次回は今後3年以内の住み替え意識について別の年代に注目してみていきたいと思います。
その他の年代での過去3年以内の住み替え理由については、レポート本編で解説していますのであわせてご参照ください。
【第147回】令和の住み替え事情より①
2024.07.03
2024.07.03
2024.07.03
2024.07.03
5年にわたるミライ研1万人アンケート調査などのデータをふんだんに活用し、金利のある時代において、「高騰しつづける住宅を買うのか借りるのか」「物件ファーストか住宅ローン優先か」「ローン返済と資産形成は両立できるのか」「住まいと老後資金準備はひとつながりのライフイベントとして考えるべき」などについてまとめています。
是非、ご一読いただけますと幸いです。
2024.07.03
2024.06.25
2024.06.25
2024.06.19
前回のコラムは、「年収が高くてもファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)度が低い人」の家計に対する“意識面”を中心にみてきました。今回は、同様に家計の“行動面”についてみていきたいと思います。
FWB度の差は家計に対する意識だけでなく、行動面でも表れています。
まずは、「ライフプランを立てているかどうか」をみていきます。FWB度が低い人は、「ライフプランを立てていない」人が多い結果となりました。「立てていない」「あまり立てていない」と回答した人の割合は合計で53.0%と半数を超える結果となりました【図表1】。
次に、資産形成への取り組み状況を見ていきます。
FWB度が低い130名のうち、資産形成に取り組んでいるのは91名(全体の70.1%)と、全体平均の83.5%よりも低く、資産形成に取り組んでいる人の年間資産形成額は、「年間50万円未満」の回答が45.5%となっており、金額面でも全体平均より低い結果となりました【図表2】。
また、資産形成の取り組み方にも目を向けると、FWB度が低い人は、定期的な資産形成の取り組みの中でリスク資産を保有していない割合が多いことも分かります【図表3】。
これら家計行動に関する結果は、他のどの年収帯でも似たような傾向となりました。
前回のコラムも踏まえると、所得に関わらず、「経済的に良い状態である」と感じるには、自ら金融リテラシーを学んだうえで(①学ぶ)、自分ごととして自らの家計収支把握や将来設計を行い(②把握)、また適宜、信頼できる専門家などに悩みや疑問をぶつけ解消しながら(③相談)、家計管理や資産形成などに取り組む(④行動)というステップが必要だといえそうです【図表4】。
ご自身のファイナンシャル・ウェルビーイングを向上させたい方は、ぜひこの4つのステップを実践してみてはいかがでしょうか。
「ファイナンシャル ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
「年収が高くてもファイナンシャル・ウェルビーイング度が低い人はどんな人?年収が低くてもファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い人はどんな人?」を公表しています。本レポートにおいて、「ファイナンシャル・ウェルビーイング度」の定義や、各年収帯における家計に対する意識や行動の調査全編をご覧いただけます。
【第146回】「ファイナンシャル ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
2024.06.19
2024.06.12
前回のコラムでは、「一定以上の収入を得る」だけでは、“ファイナンシャル・ウェルビーイング”を感じていない人が一定数いることがわかりました。
そこで、ミライ研では「年収が高くてもファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)度が低い人」はどのような家計に対する意識を持ち、どのような家計行動をとっているのか調査しました。すると、様々な家計に対する意識や行動の違いが、FWB度に関係しそうだということが分かりました。
今回のコラムでは、特に家計に対する意識の違いを中心に、その一部をご紹介します。
年収700万円以上の区分で金融教育の受講経験を比べると、【図表1】の右端列のとおり、FWB度の低い人は、高い人に比べて「これまでにそのような授業・教育を受けたことはない」との回答割合が多くなっています。特に、赤枠のとおり社会人(働き出してから)の金融教育受講経験の差が9.9ポイントと一番大きな差になっていることがわかります。
また、同じ年収700万円以上のなかでも、FWB度が低い人は、【図表2】のとおり、1か月の収支を把握していない割合が33.8%と、顕著に多くなっています。さらに、全年代におけるお金の不安要因のトップである「老後資金」に関係する公的年金の水準に関しても、相対的に「イメージできていない」人の割合が高くなっています【図表3】。
自分で考えるだけでなく、適宜外部の知見を借りているかどうかも調べました。すると、【図表4】のとおり、FWB度が低い人は、専門家などに相談をしながら将来設計をしている割合が相対的に低く、16.2%にとどまっていることがわかります。
本コラムでは年収700万円以上の区分を例に挙げましたが、他の年収区分でも同様の傾向が見られました。
今回は、「年収が高くてもファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)度が低い人」の家計に対する“意識面”を中心にみてきました。次回は、同様に家計の“行動面”についてみていきたいと思います。
「ファイナンシャル ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
「年収が高くてもファイナンシャル・ウェルビーイング度が低い人はどんな人?年収が低くてもファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い人はどんな人?」を公表しています。本レポートにおいて、「ファイナンシャル・ウェルビーイング度」の定義や、各年収帯における家計に対する意識や行動の調査全編をご覧いただけます。
【第145回】「ファイナンシャル ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
2024.06.12
2024.06.05
【トピックス】
・過去3年以内に住み替えをしている人は、全年代で3割
・今後3年以内に住み替えを予定している人は、全年代で2割
・住まいの高額化時代においても、年代が上がるにつれて「持ち家」への住み替えが増加
レポート
2024.06.05
内閣府の「新しい資本主義」の取組みのなかで、2022年11月に「資産所得倍増プラン」が発表されてから2年目を迎えています。2024年1月からは少額投資非課税制度(NISA制度)が拡充され、「新NISA」への取組みが急速に広がっていますが、さらに2024年4月には、国民の健全な資産形成を推進する目的で、金融経済教育を普及させていく役割を担う機構(金融経済教育推進機構(J-FLEC))が発足しました。
この機構のミッションには、「私たちは、一人ひとりが描くファイナンシャル・ウェルビーイングを実現し、自立的で持続可能な生活を送ることのできる社会づくりに貢献します。」と謳われており、国家の取組みとして「国民のファイナンシャル・ウェルビーイングの実現」が盛り込まれました【図表1】。
注目が高まっている、この「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは、「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態※」を指し、ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)の主要な要素となっています(ファイナンシャル・ウェルビーイングの詳細は、こちらのコラムをご覧ください)。
※金融経済教育推進機構(J-FLEC)のHPより引用
ファイナンシャル・ウェルビーイングは単純に“客観的な豊かさの水準”で語れるものではありません。
例えば、収入が上がったとしても、その分だけ贅沢をして稼いだだけ使ってしまうようでは、何かあったときに困る状況になってしまっています。一方で、限られた資産・所得でも、堅実に暮らし、コツコツ資産形成なども実践し、「この水準でやっていける」という感覚を持てる状態であれば、家計において満たされた状態で生活できるかもしれません。
ミライ研では、年収水準と「ファイナンシャル・ウェルビーイング度※」の相関性を調査するべく、本年1月に全国の18歳~69歳の1万人にアンケート調査を実施しました。そこから得られた結果を分析し、「年収が同じでもファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い人/低い人とはどんな人か?」についての考察をまとめました。
※ファイナンシャル・ウェルビーイング度の算出方法は、下段に掲載しているレポート本編をご覧ください。
ミライ研では、まず「年収700万円以上」「300万円~700万円」「300万円未満」の3つの区分に分けて、FWB度が高い人/低い人の割合がどのような状況なのか分析しました。結果は【図表2】のとおり、年収が高い人のほうが、FWB度が高い人が多い結果となった一方で、年収が700万円以上でもFWB度が低い人が1割以上存在する結果となりました。
この結果は、一定以上の収入を得ている方の中にも、“経済面におけるウェルビーイング”を感じていない人が一定数いることを示しています。
次回は、この「年収700万円以上の収入があるのにFWB度が低い人」が、そうでない人と比較して、どのような家計への意識なのか、分析してみたいと思います。
「ファイナンシャル ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
「年収が高くてもファイナンシャル・ウェルビーイング度が低い人はどんな人?年収が低くてもファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い人はどんな人?」を公表しています。本レポートにおいて、「ファイナンシャル・ウェルビーイング度」の定義や、各年収帯における家計に対する意識や行動の調査全編をご覧いただけます。
【第144回】「ファイナンシャル ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
2024.06.05
2024.06.05
前回のコラムに引き続き、住宅ローンの利用形態がどのように変遷してきたかについてお伝えします。今回は、まず借入金額について確認します。
借入金額については、単独ローン(住宅ローンの借入に際して、1人で借入れを行うケース)とペアローン(夫婦やパートナーと2人で借入れを行うケース)に分けて確認します。
まず、単独ローンは【図表1】の結果となりました。借入金額3,000万円以上の割合が、1993年以前は14.8%だったのに対し、その割合は徐々に増加し、2014年〜2023年には38.3%と2倍以上となっています。
次に、ペアローンを確認すると、借入金額3,000万円以上は、1993年以前は22.7%でしたが、2014年〜2023年には60.1%とおよそ3倍になっています。また、5,000万円以上に焦点を当てると、2014年〜2023年には17.3%と同時期の単独ローンの割合(6.5%)の3倍以上となっており、単独ローン以上に高額化しているという実態がわかりました【図表2】。
不動産価格は、それほど景気上昇に左右されず継続的に上昇してきていますが、特に直近10年の値上がりはめざましく、それを反映した結果といえます。
借入額が高額化しているということは、家計に占める返済の存在感が増していることが考えられます。
そこで、返済比率(年収に占める「年間返済額の割合」)について確認したのが、【図表3】です。1993年以前は、世帯年収の1割が26.0%、2割が41.1%、3割が25.8%と、ここまでが全体のおよそ92.9%と大層を占めます。次に2014年〜2023年を確認すると、世帯年収の1割が22.6%、2割が38.0%、3割が26.7%で、ここまでが全体の87.3%と先ほどよりは若干、減少しているものの、どの借入時期においても9割前後が1〜3割に納めていることがわかりました。
借入金額が高額化しているにもかかわらず、返済比率にはさほど変化がみられないのはなぜでしょうか。ミライ研では、その背景の1つとして「借入期間」に着目しました。
1993年以前は、借入期間(20年以上)〜25年未満が26.7%、(25年以上)〜30年未満が26.0%と、20年以上〜30年の設定が半数超であり、30年以上の借入れは21.7%でした。一方で、2014年〜2023年では、30年以上の借入れが61.0%と大幅に増加していました【図表4】。
つまり、継続的な不動産価格の高騰や所得の伸び悩みを背景に「借入金額は大きくならざるを得ない、しかし毎月の返済は一定額に抑えたいので借入期間を長期化することで対応したい」、というニーズが増加してきたのではないかと考察しています。
では、借入期間の長さによって、返済はどのように変わってくるのでしょうか。借入金額・金利が同じ条件であれば、借入期間が長い方が月々の返済額は少なくなる半面、総支払い利息は多くなります【図表5】。
こちらのコラムでは、「住宅ローンの負担感」や「住宅ローンの返済と資産形成との両立」について、返済比率別の状況をお伝えしていますが、返済比率が低いほど、負担感は小さくなり資産形成との両立もしやすくなる傾向が見て取れました。とはいえ“返済期間を長期にすることで”返済比率を下げるのは、慎重な検討が必要です。
総支払い利息が多くなることはもちろんのこと、将来的な住まいの形(現在の住まいに住み続けるか、利便性や年齢に応じた住まいに住み替えるか/住み続けるとしたらリフォーム計画をどうするか/住み替えるとしたらその資金はどう準備するか)やその他のライフイベントを考えると、「おおよそ何歳頃までに住宅ローンを返済しておきたいか」という目安が見えてくるかと思います。
今後、「金利ある世界」の到来に向けて、住宅ローンの借入期間は、「借入金利」、「毎月の返済額」、「完済しておきたい年齢」を踏まえたうえで検討することがポイントになってくることと思われます。
今回のコラムに加え、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)より「金利なき日本」において住宅ローン利用はどのように変化したか?を資産のミライレポートに掲載しています。是非、ご覧ください。
【第143回】「金利ない世界」の住宅ローンの変遷は?より③
2024.05.29
2024.05.29
前回のコラムに引き続き、住宅ローンの利用形態がどのように変遷してきたかについてお伝えします。今回は、頭金の割合についてです。
1993年以前の頭金の割合をみると、ゼロ(頭金なし)が16.0%、1割が20.4%、2割が23.5%、3割が20.9%とここまでが全体のおよそ8割を占め、最も多いのは頭金2割、ついで頭金3割という結果でした【図表1】。次に2014年〜2023年を確認すると、ゼロ(頭金なし)が37.1%、1割が23.2%、2割が14.4%、3割が9.5%と、先ほど同様ここまでが全体のおよそ8割強を占ていました、一方で、その構成割合は以下の2点で大きく変化していました。
1点目は、「頭金ゼロ」が大きく台頭している点です。1993年以前の16.0%から徐々に増加し、2014年〜2023年では37.1%とおよそ2.3倍となっており、足元での主流派と言えます。
2点目は、頭金「2〜3割」の減少です。1993年の2〜3割は44.4%でしたが、2014年〜2023年では23.9%と大幅に減少しています。かつて住宅購入に際しては、「頭金の準備目安は2〜3割」と言われ、実際にそれが主流の時代があったものの、現在では「頭金ゼロで借入れ」に変化していることがわかりました。
さらに、頭金の割合を決めた理由についてもお伺いしたところ【図表2】の結果でした。
かつての頭金の決め手は、「借入額を小さくしておきたかったから」が最も多く、次に「金利が高かったから」が選択されていました。一方で今の決め手は、多い順に「手元にお金を保有しておきたかったから」「金利が低かったから」が選択されていました。
前回のコラムでも確認した通り「金利なき日本」を歩んでくる中で、(金利が高いので)借入額を減らすために頭金をしっかりと入れるという行動様式から、(金利が低いので)借入額を減らそうという思考はあまり働かず、手元にある資金は保有しておくという行動様式に変化したものと思われます。
次回は、借入金額とその返済について取り上げます。
【第142回】「金利ない世界」の住宅ローンの変遷は?より②
2024.05.22
2024.05.22
2024.05.17
2024.05.15
【トピックス】
・同じ年収帯でも、FWB度が高い(低い)人は、相対的に社会人(働き出してから)の金融教育受講経験者割合が高い(低い)
・同じ年収帯でも、FWB度が高い(低い)人は、収支を把握している(いない)人が多い
・同じ年収帯でも、FWB度が高い(低い)人は、適宜、専門家などに相談をしながら、将来設計をしている割合が相対的に高い(低い)
・同じ年収帯でも、FWB度が高い(低い)人は、「ライフプランを立てている(いない)」人が多い
レポート
2024.05.15
2024.05.15
2024年3月にマイナス金利政策の解除が日本銀行から発表され、長く続いた低金利時代の転換点に立っています。特に家計の面では、住宅ローン金利の上昇は大きな影響を及ぼす可能性もあり、非常にその動向が注目されています。
ミライ研では2024年1月に実施したアンケート調査をもとに、長く続いた低金利時代で住宅ローンの利用形態がどのように変遷してきたかについて3回のコラムでお伝えします。今回は、金利形態についてです。
1993年以前の借入れの金利形態を確認すると、変動金利が18.2%、固定金利が69.5%、変動金利と固定金利の組み合わせが12.3%と、固定金利での借入れが圧倒的主流でした【図表1】。その後、徐々に変動金利の割合が増加し、2004年〜2013年の借入れでは、変動金利の割合と固定金利の割合がほぼ同等、直近10年である2014年〜2023年の借入れに目を向けると、変動金利が58.5%、固定金利が34.1%、変動金利と固定金利の組み合わせが7.4%と変動金利が主流となっていることがわかりました。
実際に、住宅ローン金利の変遷を確認すると【図表2】となっています。1990年前後をみると、変動金利の基準金利である短期プライムレートは8.0%を超える水準まで上昇しており、住宅金融支援機構基準金利(=長期固定金利の貸出金利)を大きく上回っていることがわかります。そのため、固定金利を選択される方が多く、“固定金利優位時代”だったといえます。その後、短期プライムレートは急速に下落し、1993年に住宅金融支援機構基準金利を下回っていることから、徐々に固定金利から変更金利での借入れへシフトしていったものと思われます。
またその後、日本銀行がマイナス金利を導入した2016年以降は、固定金利も下落していますが、実勢としては変動金利の方が低かったこともあり※、変動金利での借入れが主流として定着したものと思われます。
では今後、マイナス金利政策が解除され「金利ある世界」になった場合、どちらの金利形態を選択すればよいでしょうか。「金利ある世界」への転換点から、それぞれのメリット・デメリットを改めて確認しましょう。
変動金利
メリット:現時点では、最も低い貸出金利で借りられる場合が多い
デメリット:半年に1度、貸出金利の見直しがあるため、今後、金利が上昇した場合には、想定以上に高い金利での借入になっていく可能性がある
固定金利
メリット:歴史的にみると非常に低利の水準であることは間違いなく、今後、長期で借りる前提であれば、比較的低利で金利を固定できたとなる可能性がある
デメリット:借入期間中の金利上昇がそれほど大きくなかった場合、結果的には高い金利で借入れたという可能性が生じうる
いずれにしても、金利の動向を完全に予測することは不可能ですので、それぞれのメリット・デメリットやご自身の借入状況(残高・残期間など)に応じて判断する必要があります。また、変動金利か固定金利かといずれかを狙い撃ちにするのではなく、【図表1】では少数派であったものの「一部は変動金利で、一部は固定金利で」といった柔軟なプランの検討も必要になってくるものと思われます。
次回は、頭金の割合について取り上げます。
住宅ローン借入時期の算出について
【図表2短期プライムレート・住宅金融支援機構基準金利・フラット35借入金利(最低・最高)の推移】について
短期プライムレート
住宅金融支援機構基準金利
フラット35借入金利(最低・最高)
【第141回】「金利ない世界」の住宅ローンの変遷は?より①
2024.05.15
2024.05.08
前回は、令和の住宅ローンの利用形態について確認しました。今回は、借入金額について取り上げます。
借入金額を確認するにあたって、まず単独ローン(住宅ローンの借入に際して、1人で借入れを行うケース)とペアローン(夫婦やパートナーと2人で借入れを行うケース)それぞれの割合を確認したところ、全年代では単独ローンの利用割合が68.3%と多数を占め、ペアローンの利用割合は10.8%にとどまりました【図表1】。しかし年代別に確認してみると20代のペアローン利用率は16.5%、30代では18.6%と全年代のおよそ1.5倍の水準でした。不動産価格の高騰や共働き世帯の増加を背景に、若年世代を中心にペアローンの利用が高まっていることが窺える結果となりました。
では、単独ローン、ペアローンそれぞれの借入金額について確認してみます。
まず、単独ローンの場合、全年代では最も多いのが2,000万円以上〜3,000万円未満の34.5%、次いで1,000万円以上〜2,000万円未満の28.7%で、借入金額の中央値はおよそ2,373万円でした【図表2】。
年代別に見ると、住宅の一次取得者が最も多い30代※では、最も多いのは全年代同様2,000万円以上〜3,000万円未満の30.9%である一方、2番目に多いのは3,000万円以上〜4,000万円未満の30.4%で、中央値も2,858万円と全年代よりもおよそ500万円多いことがわかりました。
※国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査報告書」より
次に、ペアローンについて確認してみます。全年代で最も多いのは2,000万円以上〜3,000万円未満の31.5%、次いで3,000万円以上〜4,000万円未満の23.4%で、借入金額の中央値はおよそ2,833万円でした【図表3】。
先ほどと同様に30代をみると、最も多いのが3,000万円以上〜4,000万円未満の26.6%、2番目に多いのは同率で、2,000万円以上〜3,000万円未満と3,000万円以上〜4,000万円未満の18.8%で、中央値も3,412万円でした。
住宅ローンの借入形態によって、住宅ローンの当初借入金額に差が出るかについて確認をしたところ、いずれの年代においてもペアローンの方が単独ローンよりも当初借入金額が高額化していることが分かりました【図表4】。新築分譲マンションの価格も継続的に上昇しているなど(【図表5】)不動産価格は高騰しており、“世帯として理想とする住まいを手に入れるために、夫婦・パートナー双方が力を合わせて借入れをする”といった取り組みも増えてきているものと思われます。
ペアローンは、
などのメリットが期待できる一方、
という点を、長期の目線で十分に検討しておくことが望まれます。
【第140回】「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)より③
2024.05.08
2024.05.01
前回のコラムでは、持ち家と賃貸の比率について確認しました。では、持ち家を購入する際に住宅ローンを利用している人はどれくらいいるでしょうか。
アンケート調査で持ち家購入時の住宅ローンの利用有無についてお伺いしたところ、【図表1】の結果となりました。全年代では、利用している(返済中)が34.1%、利用していた(返済完了)が42.2%、利用していないが23.7%と、76.3%は住宅ローン利用経験者であることがわかりました。
では、持ち家購入者のおよそ8割の方が利用している住宅ローンの形態について確認してみます。
まず、住宅を購入する際の頭金の割合(住宅購入代金のうち、借入ではなく現金で支払う割合)は、全年代で最も多いのがゼロ(頭金なし)で27.6%、次いで多いのが1割くらいで21.9%という結果となりました【図表2】。また、住宅の一次取得者が最も多い30代※を見てみると、ゼロが37.0%、1割が24.4%と6割が頭金ゼロもしくは1割が主流であることがわかりました。
※国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査報告書」より
次に、返済期間について確認してみましょう。全年代では、10年未満~30年未満までが53.8%と半数超である一方、(30年以上)〜35年未満が38.4%、35年以上が7.8%とかなり長期で返済期間を設定しているケースもみられました【図表3】。特に20代では35年以上が23.1%と全年代のおよそ3倍となっていました。
さらに、金利形態について確認をすると、全年代では変動金利が57.9%、固定金利が33.7%、変動金利と固定金利の組み合わせが8.4%と変動金利が主流であることがわかりました【図表4】。
より低利である変動金利で借り入れ、頭金はゼロ〜1割、返済設定期間も長期に設定し、「とりあえず、借りられるだけ借りておく」というのが、令和の住宅ローンの1つの利用形態として浮かび上がってきました。
次回は、借入金額について確認したいと思います。
【第139回】「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)より②
2024.05.01
日本経済新聞朝刊(2024年4月28日)「夫婦ペアローン拡大」において、ミライ研究所の調査データが掲載されました(同記事は日経電子版にも掲載されています)
2024.04.30
2024.04.25
2024年1月に実施した、1万人を対象としたアンケート調査をもとに、日本における住宅ローン利用の変化についてお伝えします。
【トピックス】
・金利形態は、固定金利から変動金利へ大きくシフト
・頭金の準備割合は、「2・3割が目安」から「ゼロで借入れ」に変化
・返済比率を抑えるために、借入期間の長期化でカバー
・単独ローン・ペアローンともに借入金額は、直近10年で高額化
レポート
2024.04.25
2024.04.24
ミライ研では今年も、「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)という1万人規模の独自アンケート調査を実施しました。その結果をもとに、令和の“住まい”と住宅ローン事情(2024年)を公表しておりますが、ミライコラムでもその内容についてご紹介します。
まず、令和の“住まい”の形は、持ち家と賃貸のどちらが多いでしょうか。現在お住いの住宅について、持ち家(自己所有)、賃貸、その他(親世帯の住居(実家)に同居など)の3つの選択肢でお伺いしたところ、【図表1】の結果となりました。
全年代では、持ち家が45.6%、賃貸が37.6%、その他が16.8%という結果となりました。しかし年代別に確認してみると、20代では持ち家は15.6%ですが60代では74.8%と、年齢が上昇するにつれて持ち家率が上昇していることが分かりました。
また、持ち家の方に対して、住宅を購入された年齢についてお伺いしたところ、【図表2】の結果となりました。購入タイミングとして最も多いのが、30~34歳の時で20.5%、次が29歳以下の時で16.3%と、およそ3人に1人は34歳までに購入しているということが分かりました。加えて、4人に1人は相続・譲渡などで保有したので、「購入」はしていないと回答しました。
住宅は人生の中でも非常に大きな買い物の1つですが、購入するという決断に至った最も大きな理由は何でしょうか。一番選択された理由は、「自分の住宅を「保有」することが夢だったから」の16.4%、次いで「賃貸の家賃を払うなら、自分のものになったほうがいいから」の15.3%でした。
当然ながら、人間どこかには定住地が必要であり、その場所を自身で「保有」すること自体に一定の意義を見出していることが伺えます。
次回は、住宅を購入する手段である「住宅ローン」について紐解いていきたいと思います。
【第138回】令和の“住まい”と住宅ローン事情(2024年)より①
2024.04.24
前回は、ファイナンシャル ウェルビーイング実現のための4つのステップならびに、お金の不安の最大要因である“老後資金”に対してフォーカスしました。
ここまでお読みいただき、「ファイナンシャル ウェルビーイングってあまり聞きなれないけれども、世の中でそんなに取り上げられているのだろうか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、そんなファイナンシャル ウェルビーイングを取り巻く、世の中の流れを紐解いていきます。
最近の大きなイベントとしては、内閣官房に設置された「新しい資本主義実現会議」において2022年11月に決定された「資産所得倍増プラン」があります。その中には、投資経験者の倍増、具体的には、5年間でNISA総口座数を3,400万口座へと倍増させることを目指して制度設備を図ることや、家計における投資額の倍層などが「目標」として盛り込まれました。
このプランで大きな目玉であったのが、第一の柱であるNISA制度(少額投資非課税制度)の抜本的拡充・恒久化です。これは、2024年1月より改正され、国民の「貯蓄から投資」を推進するべく、大きな拡充となっています。また、第二の柱であるiDeCo制度の改革も検討されており、より使いやすい制度への変更が期待されています。
さて、世間では、NISAの拡充をはじめとした「資産形成制度の拡充」がよく話題にあがっているので、資産所得倍増プランといえばこの印象が強いのではないでしょうか。しかし、この倍増プランの柱はこういった「貯蓄から投資」を促す制度拡充だけではありません。
例えば、第三の柱では、「消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設」、第五の柱「安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実」と謳われており、それらを戦略的に実施するための組織として「金融経済教育推進機構」が2024年4月に設立されました。これは、金融広報中央委員会、一般社団法人全国銀行協会、日本証券業協会が発起人となり、昨年11月に改正された「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に基づいて設立されたものです(金融経済教育推進機構の設立認可について:金融庁)。ここでは、機構の役割を「ファイナンシャル ウェルビーイング」の実現と紐づけて定義しています。政府は、2028年度末をめどに、金融経済教育を受けた人の割合を現状の7%から20%程度(米国並み)に引き上げることをKPIとして掲げる方針です。今後、官民による金融経済教育の提供がさらに進むと思われます。
こういった国を挙げて幅広く実効性を伴った形で「金融リテラシーの向上」を実現していく国家施策の実行には、国民一人ひとりに“点”でアプローチするだけでなく、「職域」や「学校」という“面”での取組みがこれまで以上に重要になってくるものと考えられます。特に「職場」での取組みについてフォーカスされているのが、第四の柱「雇用者に対する資産形成の強化」です。【図表3】の通り、雇用者における資産形成支援の推進を「人的資本投資・開示」の観点でも推し進めることが期待されています。
ここまで、国が推し進める「国民一人ひとりが描くファイナンシャル・ウェルビーイング実現」に向けた資産形成制度の拡充・金融経済教育の推進などを整理してきました。これらの施策が正しく世の中に広がることで、国民の資産形成・資産活用がさらに進むものと思われます。
一方で、この流れを踏まえるにあたり忘れてはならないことがあります。それは、「一人ひとりのファイナンシャル・ウェルビーイング実現」が目的であり、「資産形成」はその手段の一つである、ということです。
例えば、「資産形成を上手に行うこと」や、より極端にいえば「どこに投資すれば“より効果的”なのか」をゴールにすることは本末転倒です。ご自身がどのような人生を描き、どんな暮らしをしたいのか、そのために年金制度や健康保険などの社会保障制度がどのように生活を保障してくれているのか、勤め先の制度を含めた有利な制度は何か、という点などが抜け落ちたままでは、家計行動や資産形成の方向性が定まらない可能性もあります。また、住宅ローンを含む借入れや不動産、相続など、家計に関する多岐にわたる要素も、皆さんの人生に大きな影響を与えます。
本来的には一人ひとりにとって、家計行動全体の中で「家計管理」と「生活設計」をどのように行うのか、そのために「貯蓄・投資」「生命保険・損害保険」「住まい」「各種ローン」「相続・贈与」などの金融商品を理解したうえでどのように選択・活用するべきなのか、また適宜、外部知見の適切な活用ができるのか、というのが「金融リテラシー」の全体像です【図表4】。
一人ひとりのライフプランに対応した「マネープラン(資産形成や資産活用の計画)」を策定し、その実践に相応しい金融商品・サービスを、スマートに活用できるように「金融リテラシーの向上」を図っていく必要があり、そのために「金融経済教育」を学んでいくことが重要です。
前回コラムの【図表1】 ファイナンシャル ウェルビーイング実現に向けた4つのステップも参考にしていただきながら、金融経済教育などを機会に、ぜひ皆さん自ら「学び」を得たうえで、ご自身の家計収支・資産負債の状況や将来家計をシミュレーション等により「把握」、家計に関する悩みを適切な相手に「相談」しながら、皆さんの将来設計にあわせた具体的な金融に関する「行動」を実践いただければ、皆さんのファイナンシャル ウェルビーイングな状態(=将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態)に近づくものと思われます。
【第137回】ファイナンシャル ウェルビーイングとは?
2024.04.17
2024.04.17
2024.04.12
2024年1月に実施した、1万人を対象としたアンケート調査をもとに、令和の“住まい”と住宅ローン事情についてお伝えします。
【トピックス】
・持ち家率は年齢とともに上昇
・世帯としての当初借入額、「単独ローン<ペアローン」
・返済設定期間は長く、特に20歳代で顕著
レポート
2024.04.12
前回は、ファイナンシャル ウェルビーイングとは何か、についてお伝えしてきました。これは、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」であり、実現のためには生涯のキャッシュフローをマネジメントすることがカギであることを示してきました。
今回は、そのファイナンシャル ウェルビーイングを実現するための具体的なアクションと、特に“お金の不安”の最大要因の正体を突き止めていきたいと思います。
ファイナンシャル ウェルビーイングは、ただ単に「客観的な資産・所得がふえる」だけでは実現せず、「自律的に家計行動ができている」ことが重要です。では、この「自律的な家計行動」を実現するにはどうすればよいでしょうか。
ここには4つのステップが必要と考えています。「学び」を得たうえで、自身の家計収支・資産負債の状況や将来家計をシミュレーション等により「把握」すること、そして家計に関する悩みを適切な相手に「相談」し、具体的な金融商品やサービスを活用する「行動」にまで結びついて、初めて自律的な家計行動が成立します【図表1】。
これは、心身の健康(Physical Well-being)に向けた取り組みと重ねるとわかりやすいかもしれません。心身の健康についても、健康についての「学び」を得るだけでなく、自身の健康状態の「把握」や、適宜かかりつけ医に「相談」しつつ、健康増進に向けた「行動」をすることで、心身の健康も維持向上されます。
“Financial”に関しても、同様のプロセスを経ることが有効と考えられます。
具体的に、老後資金を例にとってみましょう。
例えば、老後資金に関しては、「公的年金だけでは2,000万円不足する」「国の年金はあてにならないので自助努力が必要だ」「老後資産形成のためには、こういった手法で投資をした方が良い」などの情報は世にあふれています。しかしながら、それらを受けて、安易に皆と同じ「行動」をとることが果たして得策でしょうか。もっと言うと、例えば老後資産形成のために何かに投資をした、という「金融行動の結果」が“お金の不安”を解消できるのでしょうか。
まず、老後不安を考えるにあたって、老後の収支を簡単に想定してみましょう。
構造を単純な数式で示すと、【図表2】のとおりになります。このうち、老後生活費、つまり「支出」の想定は暮らしぶりや、もちろん世帯構成や居住地域、自宅の状況などによっても全く異なります。加えて、老後の「収入」は現在の保有資産状況や収入、はたまた世帯構成によっても異なります。年金収入に関しても、現在が自営業などで国民年金加入者なのか、夫婦で会社員・公務員などで厚生年金保険に加入しているのかなどにより、大きく変わります(厚生年金保険は報酬比例の制度であるため、現役時代の所得水準によって受給額も変わります)。もちろん退職金・企業年金なども勤め先の企業や人により異なります。また、老後資金の準備方法も、お金に関する考え方(例えば、投資に積極的なタイプか、慎重派か、など)によっても変わってきます。
これらを考慮すると、ただ単に外部から画一的な情報を得て「学ぶ」ことだけでなく、それを踏まえて自身のケースで想定してみる「把握」のプロセスにより、「どのような人生を送りたいか」というライフプランニングを行うことが重要といえそうです。そのうえで、単に外部情報を鵜呑みにするのではなく、信頼できる相手に「相談」できることも安心感につながります。
上記のプロセスを経て、自身の家計行動はどうすればよいのか、を考えて「行動」に移すことで、自律的な家計行動につながり、ファイナンシャル ウェルビーイングがもたらされると考えられます。
では、ファイナンシャル ウェルビーイングを実現するうえで「個人が抱えている経済的な不安」の最大要因は何でしょうか。資産のミライ研究所の調査によると、各年代におけるお金の不安の要素は、なんとここまで例にとってお話ししてきた「老後資金」がどの年代でも1位となっています【図表3】。これは、国民全体の不安要因だといっても過言ではないかもしれません。
特に、年金制度に対する不安は大きそうです。厚生労働省の調査(2019年社会保障に関する意識調査)によると、老後の生計を支える手段として、1番目に頼りにするものは、「公的年金(国民年金や厚生年金など)」が最も多く55.9%です。一方で、公的年金が老後生活に十分であるかどうかの不安も53.1%と大きいことがわかります。収入として頼りたいものの、頼れるか不安、というのが正直なところかもしれません。これだけ多くの方が頼りにしている収入源ですので、年金制度に対する“正しい理解(=学び)”も、老後資金不安を解消する一助になるのではないでしょうか。
もちろん、現在の公的年金制度は、老後生活をすべてカバーできる設計ではありません。しかしながら、終身で定期的に受け取れる重要な社会保障制度です。公的年金などの社会保障制度の役割を「セーフティネット」としてしっかり理解し(=学び)、そのうえで、人生100年時代を自分らしく生きるために、収支計画ならびに今後のライフプラン・マネープランを立て(=把握)、適宜信頼できる相手に(相談)しつつ、「長く働く」ことや、公的年金以外の「私的年金」を活用すること、自助努力として「貯蓄/資産運用」を計画的に行う(=行動)ことが重要となります【図表4】。まさに、人生100年という長期の時間軸で、自身の「家計を経営する」観点で考え、自律的に行動することが重要そうです。
世間ではやたらと「年金制度が危ない」という趣旨の発信を目にする機会も多いように思われますが、ミライ研がお届けする、公的年金に関する動画・コラムもご活用いただきながら、ぜひ制度の理解を深めていただき、不安解消にお役立てください。
教えて!信託さん【資産形成編】シリーズの公的年金解説動画
・YouTube#12「意外と知らない!?「貯蓄」と「国の年金」何が違う?」
・YouTube#13「豊かな老後を迎えるには!?「公的年金」と「資産形成」の間柄」
ミライコラムの公的年金解説記事
・公的年金は払い損ではない!
次回はファイナンシャル ウェルビーイングの最終回として、ファイナンシャル ウェルビーイング取り巻く世の中の流れについてご紹介します。
【第136回】ファイナンシャル ウェルビーイングとは?
2024.04.10
2024.04.10
2024.04.03
皆さんは「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。このウェルビーイングとは、簡単に言えば 「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」と定義されています (厚生労働省 雇用政策研究会報告書 概要(2019年)より)。世界幸福度ランキングのデータ元としても有名な米国調査会社ギャラップ社によると、Well-beingは【図表1】に示されている5つの概念で構成されます。
その中で重要な概念の一つとしてファイナンシャル ウェルビーイング(Financial Well-being)があります。ファイナンシャル ウェルビーイングは、具体的には「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」を指します。
ファイナンシャル ウェルビーイングは、単純に客観的な所得や資産を増やすことが重要だと思われるかもしれません。しかしながら、それだけでは実現が困難といえます。
2022年の日本版Well-being Initiativeの調査では、現在と5年後の主観的ウェルビーイングの相関関係と「ドライバー(原動力)」、すなわち影響要因を特定しました。それによると、「現在の生活」「5年後の生活」の評価の最大影響要因は、「所得に対する主観的感情」であったことが分かっています。特筆すべきは、自身の客観的な所得水準は主観的感情に比べてはるか低位にあることです。自身の生活水準などに照らし、現在・将来の所得が満足かどうか、がウェルビーイング全体に影響していることが見て取れます。
例えば、収入が上がったとしても、その分だけ贅沢をして生活水準を上げてしまうと、その分だけ支出も増え、家計状況は良くならないかもしれません。一方で、限られた資産・所得でも「この水準でやっていける」という感覚を持てる状態であれば、満たされた状態で生活できるかもしれません。ファイナンシャル ウェルビーイングというのは、このように、客観的な所得の多寡などだけではない概念です。
では、このファイナンシャル ウェルビーイングはどのようにすれば向上するでしょうか。
ミライ研では、「ファイナンシャル ウェルビーイングの実現に向けては、自身が生涯のキャッシュフローをマネジメントできていることが有効」と考えています。「生涯におけるキャッシュフローマネジメント」の概念は、具体的には、生涯においてヒト・モノ・お金の3つの資産をどのように形成するか、またそこに金融商品・サービスをどのように適切に活用していくかです。例えば、ヒト資産の形成については、キャリアアップのための自己投資や教育を受けること、モノ資産の形成の代表としては住宅の取得などを指します【図表3】。
しばしば、生涯の支出のタイミングと手元資金のギャップが生じることがありますが、それを上手に埋めていくパーツが金融商品・サービスです。具体的には、生涯の収支ギャップを解消するために、「お金」の面では、老後生活資金を例にとると、退職後に生活費より年金収入の方が少なくなることを想定すると、現役時代に積み上げてきた資産の取り崩しを行う「老後資産形成・資産活用」を生涯にわたり行うことがあげられます。「ヒト」資本の形成に関しては、奨学金なども活用しながら人的資本の形成に取り組んだり、ご自身・ご家族の万が一に備えるべく生命保険を活用することなどが該当します。「モノ」資産に関しては、代表的な例として、住宅が必要なタイミングと手元資金のギャップを「住宅ローン」で埋めることが考えらえます。(詳しくは、【第68回コラム】もご覧ください)。
さらに、これら3つの資産は相互に作用し合います。
一例としては、自己投資によりキャリアアップすることで、自身が「お金を稼ぐ力」をつけることが考えられます。また、不動産を裏付け資産として「リバースモーゲージ」などを活用することでモノ資産をお金に変換することも考えられます(リバースモーゲージについて:不動産活用ローン(リバースモーゲージ))。
次回は、この長期におけるキャッシュフローマネジメントを行うにあたり、お金の面での不安の最大要因を探り、その不安を取り除くことを考えてみましょう。それにより、皆さんのファイナンシャル ウェルビーイング実現に一歩近づくヒントになればと思います。
【第135回】ファイナンシャル ウェルビーイングとは?
2024.04.03
2024.03.27
今回のコラムでは、前回に引き続き住宅購入の際に考えておきたいポイントのうち、住宅ローンの金利タイプについてお伝えします。それぞれのタイプには特徴がありますので、調査データなども踏まえて中身を見てみましょう。
住宅ローンの金利タイプとしては主に、市場金利に応じて借入金利が変動する「変動金利」、設定した期間、金利が固定される「固定金利」の2種類があります。それぞれの特徴を見てみましょう。
<変動金利>
市場金利の動向によって適用される金利が、通常半年ごとに見直される金利タイプです。基準金利(店頭表示金利とも呼ばれる)は一般的に、「短期プライムレート」※1に一定幅を上乗せして設定されます。基準金利から優遇幅を差し引いたものが実際の借入金利となり、優遇幅は返済期間中、変わりません。固定金利と比較して、現在は金利水準が低く返済額を抑えることができる特徴がありますが、基準金利が変動すると毎月の返済額も変わる点には留意が必要です。
※1 短期プライムレートとは、金融機関が優良企業向けの短期貸出(1年未満の期間の貸出)に適用する最優遇金利を指します。一部の金融機関では、短期プライムレートではなく市場環境・他社動向などを踏まえ、独自の基準金利を設定しています。
<固定金利>
契約時に定めた期間(全期間もしくは一定期間)は、借入金利が固定される金利タイプです。一般的には、金融市場からの調達金利をベースとして、各金融機関で金利を上乗せして基準金利を設定しています。固定する期間が長くなるほど基準金利が高くなる傾向がありますが、固定期間中はローン返済額が変わらないため、返済計画が立てやすくなるといった特徴があります。固定期間が終了するタイミングでは、再度金利タイプを選択する必要があることには留意が必要です。
また、変動・固定の金利タイプを組み合わせた借入れ方法もあります。例えば、総額4,000万円の借入に対して、2,000万円を固定金利よりも金利の低い変動金利、残りの2,000万円を返済額の見通しが立てやすい固定金利、といった様に将来の金利に対するお考えや、ご自身の返済計画に合わせて設定することが可能です。一方で、住宅ローンの契約本数が増加した分、ケースによっては借入時の手数料や不動産登記費用が追加でかかることには留意が必要です。
それぞれの金利タイプの選択状況を、ミライ研の調査結果で見てみましょう。結果を見ると変動金利を選択された方が全体の57.4%と最も多く、固定金利は33.5%、変動・固定の組み合わせは9.1%になりました【図表1】。これまでは歴史的な低金利を背景に、返済額を抑えることのできる変動金利を選択されている方が、現状では半数以上を占めています。
ちなみに選択されている固定金利のうち、固定期間を選択されている方については、どれくらいの期間を固定する方が多いのかを見てみましょう。住宅支援機構の住宅ローン利用者調査(2023年4月調査)によると、「10年」:30.2%、「10年超」:48.0%と、10年以上の期間を選択される方が全体の約8割になりました【図表2】。固定金利を選択される方は、長期的な固定期間を設定される方が多い傾向にあることがわかります。
変動金利における「5年ルール・125%ルール」※2についても押さえておきましょう。5年ルールとは、変動金利で返済(元利均等返済)している期間中に金利が上昇したとしても、5年間は返済額が一定となる仕組みです。また、125%ルールとは、5年経過時に返済額の見直しが行われる場合、返済額が増加する場合であっても、これまでの返済額の125%を上限として見直される仕組みです【図表3】。
※2 採用していない金融機関もありますので、詳細は各金融機関にご確認ください。
どちらも返済開始時点からの金利上昇に伴う、家計の負担増を抑えるという面では、非常に助けになるルールですが、注意点についても認識しておきましょう。
このルールによる返済額の抑制は、「元本と利息の割合」で調整される仕組みとなっています。本来、金利が上昇すると利息の支払いが増え、返済額が増加しますが、返済額のうち利息支払い部分の割合を高めることで全体の返済額を抑えることになるため、当初計画していた元本の返済ペースが遅くなってしまいます。家計への負担を抑制する点では助けになる反面、こういった注意点があることも覚えておきましょう。
一般的に住宅購入は、人生でそう何度も経験することのない大きなイベントかと思われます。しかし、住宅を購入したらそこで終了、というわけではなくローン返済はむしろ購入時点から開始されます。自動車教習所では「だろう運転ではなく、かもしれない運転を心がけましょう」と教わるかと思いますが、住宅購入についても同じく、「大丈夫だろう」ではなく「大丈夫ではないかもしれない」を念頭に置き、検討されると良いかと思います。
前回のコラムから資金計画、住宅ローン金利と、住宅購入において考えておきたいポイントについて解説させていただきましたが、これらのコラムが皆さまの住まい選びに、少しでも参考になれば幸いです。
【第134回】初めての住まい購入時に考えてみるポイントとは?
2024.03.27
2024.03.26
年度が変わると、ライフスタイルも変化がもたらされることが多くあります。住まいもその1つではないかと思います。
今回のコラムでは、これから住宅購入を検討してみようという方を想定して、「初めての住宅購入時におけるポイント」を購入前・購入後に分けて解説します。
住宅購入を考える際、まず初めに行うことは何でしょう?
「情報サイトでの物件探し→モデルルームの見学」という方が多いのではないかと思います。良い物件情報にめぐり合ったら、即座にGO!・・・という気持ちはよくわかりますが、ファーストステップとしては、自身に合った「資金計画」を立ててみる、から入っていただきたいと思います。「住宅購入は人生で一番大きな買い物」ともいわれるように、人生において大きな比重を占めるライフイベントであるがゆえに、少し遠回りかもしれませんが、しっかりと計画を練る、ことから取り組んでいただくことが大切と考えます。
ミライ研の調査では、住宅ローンを利用して住宅購入される方が住宅購入者の約8割を占めています【図表1】。住宅ローンは長期にわたってローンを返済していくため、返済期間中に、家族構成や生活環境、収入・支出の状況など、変動しうる要素が複数あります。
そうした要素を「自分の場合はどうなのか」とイメージし、そのうえで、ローンの返済が「無理なく」続けられる前提(返済額、収入に占める返済割合など)を、資金計画の中で「見える化」することが重要です。
資金計画を立てる上では、【図表2】のライフイベント・キャッシュフロー表などを活用しながら、現在の家計状況の把握と、今後想定されるライフイベントとそれに必要となる金額を把握したうえで、5年から10年程度の中長期的な時間軸で確認することが重要です。リストアップしてみることで、「何歳の時にどんなライフイベントがあり、どれくらい資金がかかるか」、「各年の貯蓄残高はどれくらいか」、「資金が不足する時期があるのか、どの程度不足するのか」などの見える化ができるようになります。
表を完成させることも大切ですが、その作成の過程で「(私の)ライフプラン」が明確になり、それに相応しい資金計画(マネープラン)を立てることができます。
また、住宅ローンの返済シミュレーションを行う際は、現状の金利だけでなく今後の金利上昇を想定したパターンなど複数のシナリオを立てたうえで行う、といったことも考えてみましょう。
ご自身でこれらの資金計画を立てることが難しい場合は、金融機関やファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談することも、選択肢の1つと思われます。
住宅を購入して新生活をスタートされた後には、ローン返済だけでなく、資産形成に家計を回すことができるのか、ということも考えておきたいポイントとなります。ミライ研で行ったアンケート調査では、住宅ローン返済中の方で、年間で平均95.9万円の資産形成をしているということがわかりました【図表3】。住宅ローンの返済を最優先とすることも1つの考え方ではありますが、ローンの返済と資産形成を「両立させる」ということも、家計全体の柔軟性を高める取り組みとして、ご検討されてみてはいかがでしょうか(詳しくは、【第131回】コラムをご覧ください)。
次回のコラムでは、住宅ローンにおける借入金利タイプについて、解説していきたいと思います。皆さまの前向きな住まい選びの参考になれば幸いです。
【第133回】初めての住まい購入時に考えてみるポイントとは?
2024.03.20
2024.03.20
2024.03.14
三井住友信託銀行が年金のお客さまを対象に発行しております「三井住友トラストペンションジャーナル」に、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の清永研究員が「今、注目されているファイナンシャル ウェルビーイングへの取り組みについて」、杉浦主任研究員が「公的年金制度の法改正の展望(続)」のタイトルで記事を寄稿しました。是非、ご覧ください。
レポート
2024.03.14
2024年からスタートしているNISA制度を活用するにあたって、2023年までの制度である「一般NISA」で運用していたものをどうしていくのかは、考えなければならないポイントです。
「一般NISA」は、年間120万円を上限として、投資した年から5年間、運用益が非課税となる制度でした。例えば、2020年に投資した分は2024年末まで、2023年に投資した分は2027年末までと、投資年によって非課税となる期間が異なります【図表1】。そしてこの非課税枠は、新NISAの非課税枠とは別枠となるため、「一般NISA」での運用資金をどうしていくかを考えていく必要があります。
(出所)三井住友信託銀行作成
【図表2】のように、「一般NISA」で保有している金融商品を非課税期間内に売却し、売却資金を新NISAでの購入資金に充当していく、という方法が考えられます。この方法であれば、「一般NISA」の非課税期間も活かしつつ、新NISAの非課税枠を活用することができます。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
一方で、この方法で「一般NISA」を売却する際、以下3点については意識しておく必要があります。
旧NISAでの売却資金を活用しなくても、新NISAの生涯非課税枠1,800万円を埋められる資金力のある方や、商品の買い直しするのが面倒だという方は、「一般NISA」における5年間の非課税期間が終了後、課税口座に自動移管された状態で商品保有を続けるといった方法もあります。こちらの方法を考える際に大きなポイントとなるのは、「非課税期間終了時点における時価が、課税口座へ移管された後の取得価格になる」ということです【図表3】。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
こちらは、課税口座移管のタイミングで「利益」が出ている場合です。旧NISAでの非課税期間終了し、課税口座移管時の時価が120万円である場合、課税口座における取得価格は120万円となります。そこから更に利益が出た状態で売却すると課税口座ですので、利益の部分には税金がかかります。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
一方でこちらは、課税口座移管のタイミングで「損失」が出ている場合です。損失が出ている場合でも課税口座移管時の時価が課税口座における取得価格となりますので、80万円が課税口座での取得価格となります。その後、課税口座で「当初の投資金額」である100万円に戻った場合、20万円分は「利益」とみなされて課税されます。「一度下がった投資金額が、元に戻った」と感じられると思いますが、税制上はそうではないことに注意しておく必要があります。
2つの方法を紹介しましたが、運用に回す予定の資金状況や、お持ちの金融商品の運用状況など、個別の事情によって左右されるかと思いますので、ご自身にとってどのような選択が望ましいか、本コラムを参考にご検討いただければ幸いです。
2024.03.13
資産運用を「つみたてNISA」から初めて取り組んでみた、という方も多いのではないでしょうか?すでに保有している「つみたてNISA」を、今後どうしていくのがいいのか考えてみたいと思います。
「つみたてNISA」は、年間40万円を上限として、投資した年から20年間、運用益が非課税となる制度でした。【図表1】の通り、例えば、2021年に投資した分は2040年末まで、2023年に投資した分は2042年末まで、と投資年によって非課税となる期間が異なります。また「一般NISA」と異なり、金融庁のお墨付きを得た商品かつ積立形式での購入に限定されるという特徴がありました。この非課税枠は、新NISAの非課税枠1,800万円とは別枠となるため、「つみたてNISA」で運用中の資金をどうしていくかを考える必要があります。
「つみたてNISA」における非課税枠は、2024年以降の新NISAにおける非課税枠とは別枠での管理となります。そのため、「つみたてNISA」の非課税枠を活用したまま、新NISAの非課税枠の利用が可能です。加えて、「つみたてNISA」における非課税期間の残年数も10年以上残っているかと思われますので、商品を売却して、新たな非課税枠に投入するということを急いで検討する必要はありません。
「つみたてNISA」で運用している分は非課税期間が満了するタイミングまで残しておいて、別の資金で新NISAの積立を行っていくことで、非課税のメリットを最大限活用することができます。もちろん、運用している最中に資金が必要になった際は、売却して活用するなど臨機応変に対応することも可能です。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
「10年以上も先の手続きを考えるのは面倒」、「とりあえず管理を一本化しておきたい」など、管理面の手軽さを優先的に考えたい方には、「つみたてNISA」の商品を売却し、新NISAを活用するのがおすすめです。
「つみたてNISA」で運用している資金の売却と同時に、新NISAで売却分だけ購入することで、タイムラグを極力減らしつつ新NISAでの運用一本に絞ることができます。新NISAは、非課税期間に期限はありませんので、「残り何年」といったことを気にする必要なく、使途があれば活用、なければ運用継続と、柔軟に活用することが可能です。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
旧NISA制度の中でも「つみたてNISA」は非課税期間が長く、また、非課税枠は新NISAとは別枠になるため、「つみたてNISA」での運用分は何か、自身のライフイベントで資金が必要になるタイミングまではそのまま運用を継続する人も多いかと思われます。一方で、管理面を優先される場合は、非課税期間満了を待たずに売却をし、新NISAに一本化する方法も考えられます。ご自身の考えに合わせて、対応方法を考えられることをおすすめいたします。
2024.03.13
一般的にNISAを活用して“マネープランとしての投資”を実施するのであれば、長期で積み立てを続けていくことが基本になります。相場変動には一喜一憂せず、長い目でしっかりと取り組むことが重要です。
しかしながら、投資を開始したらその資産を使う時まで何もせずに放置していいわけではありません。そこで今回は、NISAで投資を始めた後に心得ておきたいことをお伝えします。
まず、投資を開始した後に考えたい流れを【図表1】にまとめました。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
基本的には、運用を開始して短期的な値動きがあっても、一喜一憂する必要はありません。しかしながら、定期的に投資については振り返りが必要です。それが、ご自身の運用開始時の計画と乖離していれば、運用プランを修正するなどしていきます。「適度に放置」しつつ、「節目・節目ではチェックと適宜見直し」と覚えておきましょう。
では、何を振り返り、何を見直すべきでしょうか。
そもそも資産形成の計画は、必要な時期に向けて必要な金額を用意するために、
の3つのパラメータを設定されているのではないでしょうか【図表2】。これは、投資を始めるときに意識していようがいまいが、“マネープランとしての投資”を実践されている方は、結果的にこれらのパラメータを設定して運用しているはずです。
このような想定から、何らかのずれが生じている場合、運用計画の見直しが必要になりそうです。例えば、下記の観点が想定されます。無計画に積み立てをするだけでなく、適宜ご自身のライフプラン・マネープランに照らして計画を見直すことは重要です。
とはいえ、必要な積立額と運用収益・積立期間の設定は、人によってさまざまですし、時の経過とともに変わる可能性があります。ある必要な金額を積み立てる際に、例えば【図表3】にあるパターン1(左)のように、「運用収益」に大きく期待した資産形成を想定する場合、「積立額」自体は少なくてすみます。一方で、「運用収益」を大きくするには、リスクの高い運用商品を活用することになりますので、必然的に資産額の変動が大きくなります。リスクを高めすぎるあまり、必要な時期に資産が元本を割り込んでしまう可能性もあります。一方、パターン2(右)のように、運用におけるリスクを抑えた場合、必要な資産を用意するためには「積立額」自体を多くする必要があります。このような、資産形成の計画見直しを定期的に行うことが重要です。
また、上記のような計画の見直しに当てはまらずとも、定期的に運用状況のチェックが必要です。
主なチェックポイントは、「自身の資産配分が想定から大きく乖離していないか」です。同じ資産配分で積み立てを進めていたとしても、例えば株価上昇時には、資産全体における株式の割合は上がります(図表4-Aの時点)。そうなると、期待リターンも上がるものの、取っているリスク自体も当初想定よりも上がっていることになります。株価下落時(図表4-Bの時点)には逆のことが起こります。
このような時価変動による資産配分の変化を、あえて戦略的に放置することも考えられますが、当初の計画通りの期待リターン/想定リスクを考えるのであれば、配分を見直しすることが必要になります。これを“リバランス”と呼びます。例えば、Aの時点では、相対的に割合が増えている株式を売却し、割合が下がっている債券を購入します。Bの時点では、相対的に割合が増えている債券を売却し、株式を購入する、というリバランスとなります。このリバランスは、資産規模が“ある程度以上”になってきた場合などには、特に重要さが増すといえるでしょう。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
【+α】なお、“バランス型”のファンドでは、基本的にリバランス機能が備わっており、定期的にあらかじめ決められた配分※に戻ることになります。そのため、投資している皆さん自身が行う必要はありません。
※運用者が機動的に資産配分を変更するファンド(TAA運用)などもあります。
以上、ここまでご紹介した「積み立て計画の見直し」「運用状況のチェック・リバランス」を意識して、NISAと上手に付き合ってみてください。
2024.03.13
ミライ研のアンケート調査でも、30代を中心に「教育資金の準備」はお金のお悩みにランクインしている項目です【図表1】。
ミライコラムでも取り上げましたが、教育資金は子どもの成長に合わせて「いつ・いくらくらい」必要になるかが比較的見通しの立てやすい資金です。それは一方で、計画的な準備を行っていくことが必要であるともいえます。もちろん進学計画はその時の状況によって変わるものかと思われますが、ある程度の仮定を置いたうえで、毎月いくらくらいを「教育資金」として取り分けておくかを想定し、子どもが小さいうちから準備をスタートするのがおすすめです。
では、毎月取り分けるべき金額を決めたうえで、そのお金の置き場所としてはどのような方法が考えられるでしょうか。大きくは3つの手段が考えられ、それぞれのメリット・デメリットは【図表2】の各点があげられます。
取組み方 | メリット | デメリット | |
---|---|---|---|
預貯金で準備 | 普通預金や定期預金などに、資金を貯蓄していく方法 |
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保険で準備 | いわゆる「学資保険」と呼ばれる商品を活用して、備えておく方法 |
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積立投資で準備 | 毎月積み立てるお金を預金ではなく投資に回しておくという方法(1つ目の預貯金で準備する方法の派生形) |
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(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
教育資金は、その性質上「確実性」といった観点も重要であることはもちろんのこと、一定の時間をかけて準備することができる資金ですので、「インフレに対応できるか」といった観点も確かめておきたいポイントです。もちろんどれか1つの方法だけに絞る必要はなく、複数の手段を組み合わせた準備を検討することも可能です。
ここでは、積立投資で「NISA」を活用した準備方法を考えてみたいと思います。まず、目標とする「期間」と「金額」を検討します。例えば、教育資金として18年後までに880万円貯めたいと目標を設定したとします【図表3】。次に、積立投資を行っていくうえでの、運用の「利回り」と毎月の「積立額」を検討します。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
ご自身の世帯の他のライフプランやマネープランの状況を勘案して、無理のない「利回り」と「積立額」を決めます。仮に【図表3】における、運用の利回り3%、毎月の積立額31,000円を選択した場合の積立資金の推移が【図表4】です(運用商品によっては元本割れのリスクもあります)。
NISAを活用して積立投資を行っていく場合、運用によって得られた利益は非課税となるため非常にお得です。一方で、積立投資には一定の値動きがありますので、“短期間で安く買って高く売ることでうまく儲けよう”とするのではなく、世界経済の成長に沿って長期的な目線で取り組むことがおすすめです。
2024.03.11
住宅ローンの返済をしながら、NISAを活用することはできるでしょうか。「住宅ローンの返済」と「資産形成」の両立について、ミライ研のアンケート調査でお伺いした結果が【図表1】です。
全体では「住宅ローンと資産形成の両立派」が32.7%、「ローン返済優先派」が40.4%となりました。また、年代別に確認をすると60歳代以外の年代においては「ローン返済優先派」が優勢となりました。
住宅ローン控除の適用を受ける等して手元に資金ができた場合、「ローン返済と資産形成を両立」すべきかそれとも「ローン返済を優先(繰上返済を実施)」すべきか、それぞれの主なメリット・デメリットとして【図表2】があげられます。
ローン返済と資産形成を両立 (余裕資金は資産形成に充てる) |
ローン返済を優先 (余裕資金はローンの繰上返済に充てる) |
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---|---|---|
メリット |
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デメリット |
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(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
では、「ローン返済と資産形成を両立」している人たちは、どれくらいの金額を資産形成に充てているのでしょうか。ミライ研のアンケート調査でお伺いしたところ、年間で95万9,000円、毎月およそ8万円という結果となりました【図表3】。
さらに優遇制度の利用状況についても確認をしたところ、58.8%の方は何らかの優遇制度を利用していることが分かりました【図表4】。
その中でも特にNISA制度(※2023年に実施したアンケート調査のため、旧制度の「つみたてNISA」と「一般NISA」の利用状況についてお伺いしています)は、つみたてNISAと一般NISAの利用者が合計で32.3%と3人に1人はNISAを利用していました。
金利上昇ムードも高まってきていますが、改めてご自身の借入内容について見直したうえで、今後の返済計画のみならず他のライフプラン・マネープランの状況も含めて、「ローン返済と資産形成を両立」するのか「ローン返済を優先」するのかを検討することが重要です。
2024.03.11
NISAは恒久化され非課税枠も広がり、かつ再利用も可能となったため、ライフイベントの中でさまざまな資金を準備するために活用できますが、特に、その中でも最も大きな関心事項の1つである「老後の生活資金」を準備する上で、心強いパートナーとなるでしょう。
【図表1】は、投資信託を保有している方に、その保有目的を聞いた調査ですが、「老後の生活資金」のためと答えた方がどの年代も1位となっており、20代以外のどの年代も50%以上という結果になっています。
では、その老後資金のためにNISAを“生涯活用”する際に押さえておきたいポイントを一緒に確認しましょう。
老後資金の準備を投資で行う場合、基本は老後資金として必要となる金額を考え、その金額に向けて給与・賞与などからコツコツ積み立てながら運用を行う“マネープランとしての投資”を実践することが有効です。その場合には、いずれ迎える運用の出口、つまり老後資金として積み立てたお金を「取り崩す」局面も想定しておくことが大切です。
その時に特に考えておきたいのが、「運用リスク」との付き合い方です。“マネープランとしての投資”を実践し、老後資金を計画的に増やしていく場合、資金が積み上がっていくにしたがって、それまで積み上げた資金は「その時点で“一括投資”している」ことと同じ状況になります。このような状況においては、「リタイア年齢が近づく(目標としている金額に近づく)にしたがって、運用リスクを徐々に小さくしていく」ということも考えたほうがよさそうです(詳しくは、【98回コラム】をご覧ください)。
NISAを活用しながら「運用リスクを徐々に小さくしていく」ことを考えるうえでは、NISAが持っている“2つの個性”を踏まえて「計画的」かつ「少し前倒し」に行っていく必要があります。
NISAの1,800万円の非課税枠を使い切った局面で「リスクを落とす」ために運用内容の見直しを行う場合、【123回コラム】でもお伝えした通り、「個性①非課税枠の復活が翌年」である点や「個性②非課税枠の管理は簿価」といった点に留意が必要になります【図表2】。
当該コラムで解説をした“パン生地”の例でみると、売却して切り取ったパンが時価ベースでは大きく上に膨らんでいたとしても、新たに購入資金として入れられるパン生地は、膨らむ前のパンのスペース分だけになるので、切り取ったパンよりも小さくなります。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
つまり、非課税枠を全額活用した状態になってから、「リスクを落としたい」と思ったとしても、「NISA投資枠の余裕」がなければ、思った金額分の資産の入れ替えができないかもしれないのです。
そのため、1,800万円の非課税枠の「満杯直前」ではなく、「枠の余裕があるうち」に見直しをすることで自由度が広がります。例えば、ある時点以降から、債券ファンドやバランスファンドといった安定的な運用が期待できる資産に投資をすることで、非課税枠内全体でのリスク調整を図ることができます。その他にも、年間投資枠(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円)や生涯非課税枠に余裕がある状態※であれば、積極的な運用を行ってきた積み立て部分を一部売却したうえで、その年の枠内で新しい商品を購入するといった、同年内での入れ替えもできそうです。
※制度の詳細は、こちらのコラムをご覧ください。第26回 新NISAの個性を考える ~パン作りと一緒?~ | ミライ研のライフプラン羅針盤 | 三井住友信託銀行株式会社 (smtb.jp)
投資信託の中にはこのようなリスクの段階的な引き下げを自動で行ってくれるものもあります。“ターゲットイヤーファンド”といい、事前にある年(ターゲットイヤー)を定めたうえで、一般的にはターゲットイヤーが近づいてくるにつれて株の組み入れ比率を引き下げ、その分債券等の組み入れ比率を引き上げるような、投資資産の組み換えを行う特徴の投資信託です。こういったタイプの投資信託に関しても事前に学んでおくと良いのではと思われます。
このように、NISAを活用して老後資金の準備を行う場合には、その資金を活用する時期に向けて「運用している資産のリスクを徐々に落とす」ということを、NISAの非課税投資枠1,800万円の枠を使い切る前のタイミングから、「積立計画」と併せて考えていくことが必要になりそうです。
2024.03.11
生涯にわたって利用することのできるNISA制度。ご自身のライフプランやそれに対応するマネープランの中で、上手く活用していきたい制度ですが、「ライフプランが、まだそれほどはっきりしていない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ミライ研の実施したアンケート調査において、「将来の生活設計・資金計画についてこれまでに検討されたことはありますか」とお伺いしたところ、【図表1】の通り、およそ7割の方が「検討したことはない」と回答されました。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)
とはいえ、「ライフプランがはっきりするまでNISAはおあずけ!」というのは、せっかく時間を味方につけて活用できる制度であるにも関わらず少しもったいないですし、ライフプランは、一度決めたらそのまま(という方もいらっしゃると思いますが)ではなく、変わりうるものです。ですから、まずはNISAの活用をスタートし、ライフプラン・マネープランに応じて柔軟にNISAの活用方法を変えていくということが大切です。
では、スタートするにあたって、「いくらくらいをNISAの中で投資すれば良いか」は悩ましいポイントです。まず参考データとして、世の中の人がどれくらい貯蓄をしているのかを確認してみましょう【図表2】。
単身世帯 | 二人以上世帯 | |
---|---|---|
20歳代 | 16% | 16% |
30歳代 | 15% | 14% |
40歳代 | 16% | 12% |
50歳代 | 13% | 13% |
60歳代 | 10% | 11% |
(出所)金融広報中央委員会「令和4年(2022年)家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]、[二人以上世帯調査]をもとに三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
例えば、40歳・二人以上世帯・年間の手取り収入が600万円であれば、600万円×12%=72万円となり、月々6万円が平均の貯蓄額であると分かります。金額に悩まれる方はこのような調査結果も参考にしていただき、ご自身のNISA活用額を検討してみてはいかがでしょうか。
また、よりおすすめの方法としては、ご自身の家計の収入・支出を棚卸しし、1年間の収支状況や支出の見直しを行ったうえで、NISA活用額を検討する方法です。家計の収入・支出の棚卸しを実践するにあたっては、「家計簿」をつけるという方法が有効です。近年では、日常的に使用している銀行口座やクレジットカードを登録しておけば自動的に収支管理をしてくれる「家計簿アプリ」もあります。それらも上手く活用して、検討を進めてみてください。
2024.03.11
給与などの定期的な収入からの資産形成を、NISA制度に限らない全体的な資産形成計画として考えてみたいと思います。
定期的な収入から資産形成を考える際、まず重要なのは「先取り貯蓄」の実践です。収入から生活費を引いた残りを貯蓄するのではなく、先に貯蓄分を取り分け、残った分で生活費をやりくりすると、自動的に積み立てていくことができます。また、併せて、先取りした資金を「何にいくら」積み立てるのかを考えることも大切です。すぐに使うことのできる「預貯金」、「NISA」や「iDeCo」といった税制優遇制度、場合によってはお勤め先の有利な「会社制度」など、資産形成に活用できる器は、目的や内容に応じて使い分けていけるとよいかと思います。以下の【図表1】はあくまでイメージですが、ご自身の活用イメージに合わせて、先取り貯蓄の振り分け先と額を当てはめてみましょう。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
ミライ研のアンケート調査で、各年代の「年間資産形成額」についてお伺いしたところ、全年代の年間資産形成額の平均は、103.8万円、毎月8.7万円という結果となりました。こちらはあくまで回答者全体での平均額となりますので、みなさんの状況にピッタリ当てはまるものではありませんが、先取り貯蓄で取り分ける資金額がわからないという方は、参考にしていただければと思います。
先取り貯蓄からNISAやiDeCoなどを活用した積立投資を行うにあたって、「いつから始めよう」とか「今からでは遅いかな」と考えられる方もいるかもしれませんが、どの年代であっても、今から積立投資を開始して遅いということはありません。【図表3】は毎月3万円を年率3%で運用しながら積立を65歳まで継続した際のシミュレーションですが、確かに25歳の早いタイミングから開始をすると結果として大きな額を積み立てられますが、40歳、55歳のタイミングでスタートをしても運用の効果は十分得られます。
運用の期間が長くなるほど、「複利」の効果を受けられる期間が長くなるため、メリットは大きくなりますが、いつからスタートしても遅すぎるということはありませんので、現状まだ取り組みをされていない方は本コラムをきっかけに積立を開始してみてはいかがでしょうか?
2024.03.08
退職金で上手くNISAを活用するには、どのような点を考えておくべきでしょうか。退職金は相応の規模になりますので、考えておきたいポイントを整理します。
一般的に退職金は、老後資金として老後生活費に充てられることが多いです。退職のお祝いとして大きなものを買ったり、旅行に行ったりするのもよいでしょう。ですが、セカンドライフにおいては「資産収入」として生活費をまかなう重要な資産です【図表1】。
(出所)野尻哲史「60代からの資産『使い切り』法」より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
そうなると、老後取り崩す前提において、資産は「守りながらふやす」ことを考えるとよいでしょう。ギャンブルのように「イチかバチか」に資金を投じるのは、あまり望ましくありません。
では、投資をせずに預貯金・現金で置いておくのがよさそうでしょうか。その場合、退職金はインフレ(物価上昇)リスクに晒されます。将来のインフレの水準はわかりませんが、例えば【図表2】では、
の計画を前提に、「公的年金に毎年プラス100万円の資産収入」をまかなう前提で老後資金の寿命をシミュレーションしています。
図表2の①インフレも0%、利回りも0%ですと、85歳で枯渇しますが、②年3%運用ができた場合、88歳時点では資産は枯渇していません。しかしながら、③年3%で運用できても年2%インフレの影響を加味した場合、資産の減少スピードが上がることで、88歳到達時に0円になっていることが確認できます。このように、インフレにより保有資産はインフレに負けない運用を考える必要があります。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
では、運用益が非課税となるNISAにおける運用はどのように考えればよいでしょうか。
NISAの投資枠は年間360万円(つみたて投資枠:120万円、成長投資枠:240万円)かつ、生涯非課税投資枠が1,800万円です。これまでの自助努力で資産形成をした分と合わせると、枠には収まらないケースも想定されます。ですので、まずは、NISAの枠に過度に囚われず、資産運用の戦略を考えましょう。
その中で退職金を一括でリスク資産(株式・債券など)に投じてしまうと、そのタイミングが高値である可能性もあるため、【図表3】の赤枠のように、資金を投じるタイミングは分散するとよいでしょう。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
NISA口座を活用する場合は、年間非課税投資枠である年間360万円の範囲内での投資になります。1,800万円まで投じることが可能であれば、最短で5年かかります。この枠を意識したうえで、退職金からNISAを活用する金額を考えてみましょう。また、旧NISAの資産やDC/iDeCoの資産、課税口座での資産運用もある場合は、これらも併せた家計資産全体のリスク資産配分や投資方針を考えましょう。
今回のコラムは退職金を元手に新NISAを活用する場合をお伝えしました。しかし前提として、「退職金が入った(入る)から、その資金をどう運用しようか」を考えるのではなく、しっかりと老後の生活において退職金をどう「つかう・ためる・ふやす・そなえる・のこす」のかを位置付けることが大事です。その観点で、退職金が入る時期におけるライフプラン・マネープランを、以下のステップを参考にもしつつ考えてみてください。
「退職金」と一口に言っても、会社は「退職金」として用意している場合もあれば、「企業年金」として確定給付企業年金・確定拠出年金などで用意している場合もあります。その場合、その受け取り方も年金・一時金・併用とさまざまです。また、公的年金もいつから受け取るか(繰り上げ・繰り下げ受給)の選択が可能ですし、就労継続による今後の給与収入もあるでしょう。
一般的には住宅ローン・教育関連の支出は少なくなります。一方で、退職後に“やりたいこと”もあるでしょう。そういったものをある程度想定し、ざっくりでも支出のイメージをつけてみます。
どれくらいを運用に回すのかには、唯一の解はありません。収入と支出の差がマイナス、不足する場合は、資産収入として、退職金と自助努力で積み上げてきた資産を取り崩すことが必要になります。不足部分をカバーしつつ、運用金額と目標を立てます(詳しくは「家計の転換期!?60代の資産運用の心得は?」をご覧ください)。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
2024.03.08
生前贈与の一般的な方法として「暦年贈与」があります。毎年1月1日から12月31日までの間(暦年)に贈与を受けた人の財産の合計が、110万円以下であれば基礎控除の範囲内のため非課税です。
では、贈与をしていればどのような方法でも大丈夫でしょうか。贈与と認められなければ、相続発生時に名義預金※1とみなされ、課税される可能性がありますので、【図表1】のポイントを押さえておきましょう。
※1 形式上は、配偶者や子、孫等の名義で作成された銀行口座およびその預金で、収入や入金経験等から総合的に判断すると、実質的には名義人のものではない預金口座を指します
贈与者と受贈者の意思確認 | 記録化 | 贈与財産の管理 |
---|---|---|
暦年贈与は毎年の契約のため、毎年お互いの「あげた」「もらった」という意思を明確にするため、贈与契約書を作成することが大切です | 贈与者の口座から受贈者の口座へ振込みするなど、しっかりと贈与した事実を確認できる記録を残すことが必要です | 贈与された資金は贈与を受けた方が管理することが大切です そのためには受贈者が「つかう」ことがポイントです |
(出所)三井住友信託銀行作成
特に確認しておきたいのが「贈与財産の管理」です。贈与を受けた受贈者が「つかう」のがより望ましい一方で、無駄遣いなど贈与者の思いとは異なった「使い方」となる可能性があります。
その際の活用を検討したい方法の一つが、NISAの利用です。NISAを利用して投資信託等の金融商品を購入することで、「もらった資金をすぐに使い切ってしまう」ということを防ぐことができます。また、受贈者自身の将来のライフプランを踏まえた資金計画の中に盛り込んでいくことで、そのライフプランが実現した暁には、贈与者の想いを改めて感じることができるのではないでしょうか。
ミライ研のアンケート調査で、これまで相続したおおよその資産額をお伺いしたところ平均で2,346万円という結果になりました【図表2】。
一方で、世代の異なる家族と資産の状況や相続対策について会話することはあるかという質問に対しては、「ない」と回答される方が多数を占め【図表3】、平均で2,000万円を超える大きな相続資金が突然、自身の手元に引き継がれてきたという方も少なくないのではないかと思われます。
2024年以降のNISAでは、1年間つみたて投資枠と成長投資枠を併せて360万円投資ができ、非課税で保有できる金額が1,800万円と大きな器になっています。マネープランには(そこまで)織り込まれていない資金ではあるものの、インフレや金利上昇による先行き不安も高まる中、少しでも有効に活用する(させていただく)という観点では、相続・贈与等で引き継ぐ資金の器としてNISA活用も検討の1つになり得るのではないでしょうか。
2024.03.08
2024年は、「家計の資産形成」において画期的な年になるのは間違いありません。なぜなら、新しいNISA制度のスタートの年だからです。何が「画期的」なのでしょうか?誰にとって「画期的」なのでしょうか?ミライ研ではこう考えています。
『2024年は、日本で暮らす人々にとって「各人の生活の中に資産の形成・運用が伴(とも)にある人生」と「生活の中に資産の形成・運用が含まれない人生」の分岐点となる年かもしれない』と。
「資産の形成と運用が伴にある人生」は「ない人生」よりも「お金に関する不安や不満」が少ない人生になりそうです。「お金に関する不安や不満」が少ないことは、どの年代にあろうとも人生の選択肢を増やし、過去よりも満足度の高い人生になりそうだと考えるからです。
日本は世界に冠たる長寿社会です。すごいスピードで、ファミリーの形や働き方の多様化がどんどん進んでいます。またその結果として、各人の生活に必要かつ十分な「お金のスケール(必要量)」は各人各様、人それぞれになっていくと思われます。
こういった時代において、新しいNISAは、「日本に住んでいる18歳以上であれば誰でも利用できて、どんな目的にも活用可能な資産の形成と運用」の器として位置付けられます。
NISAに取り組むことで「資産の形成と運用が伴にある人生」を始めてみましょう。
2024.02.28
新しいNISAは、従前のNISAと比べて、どう変わったのでしょうか?
「誰でも利用できて、どんな目的にも活用可能な資産の形成と運用の器」としての特徴はどういった点なのでしょうか?
新しいNISA制度の概要はこちらです【図表1】。
これまでのNISA (2023年12月まで) |
新しいNISA (2024年1月から) |
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つみたてNISA | 一般NISA | つみたて投資枠 | 成長投資枠 | ||
対象年齢 | 18歳以上 | 18歳以上 | |||
投資可能期間 | ~2023年12月末 | 恒久化
Point1
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非課税期間 | 20年間 | 5年間 | 無期限
Point2
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年間投資枠 | 40万円 | 120万円 | 120万円 | 240万円
Point3
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併用可否 | 併用不可 | 併用可 | |||
非課税保有限度額 | 800万円 | 600万円 | 1800万円 (うち、成長投資枠は最大1,200万円まで) Point4
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購入方法 | 積立 | 一括投資・積立 | 積立 | 一括投資・積立 | |
投資対象商品 | 積立・分散投資に適した一定の投資信託 | 上場株式・投資信託等(※1) | 現行つみたてNISA 対象商品と同様 |
上場株式・投資信託等(※1) (一部対象除外あり(※2)) |
大きな変更点が4つあります。
これを踏まえて、「NISAさん」という人がいるとすれば、どんな性格の方でしょうか?ミライ研で「こんな方では」と考えたのが【図表2】です。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
NISAさんと仲良くすることで(NISAに取り組むことで)、「資産の形成と運用が伴にある人生」を始めてみましょう。
2024.02.28
みなさんは、日本の歴史上で初めて「家計の資産形成における強力なサポーターと一緒に、ライフプラン・マネープランを始められる第1世代の人々」といえます。おめでとうございます。
強力なパートナーとは誰のことでしょうか?その人の名は「NISA」です。
NISAは税制優遇が適用される「投資枠」が一生涯使える制度です。みなさんは、これからの人生において、NISAの投資枠の中で「投資をして、必要なタイミングで売却して、また将来に向けて再投資をする」という取り組みを生涯通して行っていくことができます。具体的には、「一人ひとり、個別のライフイベント」に対して、NISAの器を活用して積み立て、増やし、イベントを実現するために売却(現金化)をして、消費し、また次のイベントに向けて積み立てていく、ができるということです。このような活用方法ができる点が、「NISAは生涯のパートナー」と私たちが考える背景です。
NISAは、自宅の購入費用や子供の教育費用、リスキリング費用や転職時の家計予備費などの準備に活用できる便利な器です。また、日本が「人生100年時代」に向かう中で、とりわけ大きなライフイベントである「老後生活費」の創出でも、NISAは心強いパートナーとなってくれます。
日本の家計における平均的な生涯収入は約3.8億円です(ミライコラム【第121回】より)。こう考えると、NISAの生涯投資枠である1,800万円を、個人の生涯収入の中で上限まで活用しようと考えると「生涯収入の5%程度」をNISAの積み立てに振り分けるとよいことになります。
若い世代のみなさんは、自分で稼げるようになったら毎月の収入の「5%以上」を目安にしてNISAの「つみたて投資枠」で積立て投資を始めてみてはどうでしょうか。
NISAを開始したら、1年ごとに投資状況を確認してみましょう。その際にはNISAで運用しているお金の使い途も一緒に考えてみるようにしてみましょう。その検討の中で「運用についての知識」も少しずつ身に付けていくとよいでしょう。
2024.02.28
20代のみなさんは、とてもラッキーです!働き始めて資産形成をスタートしようと検討したタイミングで、すでにさまざまな優遇制度がみなさんを待ち受けています。時間を味方につけて早くから資産形成に取り組んでいただきたいところですが、まず取り組むにあたって一緒に身に付けてほしいのが「金融リテラシー」です。
例えば、資産形成の初めの一歩は何でしょうか?NISAの制度内容について知ること?儲かりそうな株を調べること?・・・・・・いえいえ、ご自身の収入と支出をきちんと把握し、収入が支出を上回るように(収支が黒字になるように)家計管理を行うことです。適切な家計管理を行うことで、毎月、どの程度、資産形成にお金を回していけるかの見通しを立てることができます。
その見通した金額とみなさん自身のライフプラン・マネープランを照らし合わせて、お金をどこに置いておくかということを考えることが次のステップです。
お金の置き場所には、大きく分けて「貯蓄」と「投資」があり、その2つの違いを理解しておく必要があります。また「投資」に似た言葉で「投機」がありますが、投資とは全く異なる行為です。
貯蓄 | 投資 | 投機 |
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(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
また、「投資」と一口に言ってもさまざまな取り組み方があります【図表2】。
プロフェッショナル としての投資 |
趣味としての 投資 |
マネープランとしての 投資 |
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(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
「投資」と聞くと、日夜、株式の動向に目を凝らし、常に金融の専門的な知識をインプットし続けないと取り組めない大変で難しいものとイメージされがちです。しかし、若いみなさんに“まず”取り組んでいただきたいのは、「マネープランとしての投資」です。世界経済の成長に沿って成長をする「株式」や「債券」といった資産に長期・分散投資をし、長い目線で自身の資産も成長させていきましょう。
また、資産形成を実践していくうえで、忘れてはならないのはお得で便利な制度です【図表3】。
積立貯蓄・ 積立投資 |
毎月、普通預金口座から自動的に定期預金口座へ振り替えるといったサービスや、あらかじめ指定された金融商品を定期的に購入するといったサービス 取り扱いのある各金融機関で申し込みを行う |
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財形貯蓄 制度 |
勤務先が所属員の資産形成のために設けている制度 毎月、積み立てたい金額を設定しておけば、勤務先が給与や賞与などの支給時に指定の金額を天引きし、財形への積み立てを行ってくれる |
持株会 | 勤務先が所属員の資産形成のために設けている制度 毎月、積み立てたい金額を設定しておけば、勤務先が給与や賞与などの支給時に指定の金額を天引きし、積み立てを行ってくれる 多くの企業では拠出金額に対して一定の「奨励金」が上乗せされるため、その分だけ多くの株数を積み立てることができる |
NISA 制度 |
株式や投資信託などの金融商品に投資をした際に、本来であれば配当や売却益に対してかかる税金が非課税となる制度 |
確定拠出 年金制度 |
セカンドライフの資金作りのための制度 勤務先が設けている「企業型確定拠出年金制度(企業型DC)」と個人で実施する「個人型確定拠出年金制度(iDeCo)」がある ①掛金全額が所得控除となる ②運用益が非課税で再投資される ③将来、年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金の場合は「退職所得控除」の対象になる という3つの税優遇がある |
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
2024年からスタートしたNISA制度が世の中的には非常に注目されていますが、それだけではありません。ご自身が活用できる制度を確認し、ライフプラン・マネープランに沿った形での利用を検討してみましょう。
2024.02.28
30代・40代は、生活様式や、ライフスタイルの幅が広がり、大きなライフイベントを経験する方も多くなる年代かと思います。ですので、目的に応じた資産形成手段をより真剣に考える必要が出てくるタイミングといえます。同年代の方々がどういった資産形成を行っているのか、ミライ研のアンケート調査から見てみましょう。
世の中の同年代は、どれくらいの金額を資産形成しているのでしょうか?もちろん、家族構成や生活様式によって収支バランスには大きな幅があるかと思いますが、ミライ研で実施したアンケート調査によると、30代・40代の方の年間資産形成額は、平均で年間約112万円、毎月約9万円であることが分かりました【図表1】。あくまで参考ですが、資産形成に回す金額イメージがわかない場合は、こちらの金額を目安に検討されるのもひとつかと思います。
また、実際にはどういった方法で資産形成を行っているのでしょうか?注目を集めているNISA制度はどの程度利用されているのでしょうか?ミライ研のアンケート調査で「資産形成制度の認知度と利用状況」について30代・40代の方にお伺いしたところ、NISA制度など各種制度について、認知はしているものの、実際の利用者はまだまだ少ないということが分かりました【図表2】。現状では、まだまだ資産形成制度を上手に活用できているとは言えない状況にあるかと考えられます。
1年間で一定の金額が資産形成されているにもかかわらず(【図表1】)、お得な資産形成制度はそこまで活用されていないことがわかりました(【図表2】)。結果として、預貯金をベースとして資産形成を行っているケースも現状では多いことが想定されます。一方で、現在の日本における預貯金利率は低水準であり、ライフイベントに備える資金の準備や、長期的な資産形成を行っていくためには、資産形成制度を上手く活用していくことが重要です。非課税期間が無期限で、途中で取り崩しを行っても枠の再利用が可能なNISA制度は、ライフイベントが多い30代・40代の方が、将来の目的に合わせて資産形成を行う器としても最適です。
9万円を「預貯金(年率0.01%)のみ」で運用した場合と、「預貯金4万円(年率0.01%)+NISA(年率5.0%)5万円」で運用した場合を比較したのが【図表3】です。30年後には、預貯金のみでは「3,245万円」、預貯金+NISAの組み合わせでは「約5,519万円」と大きな差になることが分かります。
30代・40代は、共働き世帯も多いことから、仕事、子育て、介護など忙しく、とりあえず資産形成には取り組んではいるものの、「資産形成制度の利用」まで考える時間や余裕がない、という方も少なくないと思われます。そのような場合は、自分だけで思い悩むのではなく、金融機関やFPなどの専門家に相談してみることも、有効な手段の一つと思われます。
2024.02.28
今後、就労期間が長くなってくる(定年引上げ・雇用継続など)ので、50代でもNISAへの積立投資期間が十分にとれる時代になりつつあるといえます。
住宅ローン、教育資金など、まだまだマルチなイベント支出がつづく年代といえますが、まずはご自身のリタイア年齢を考えるとともに、公的年金や退職金/企業年金を研究して「自助で準備する老後資金目標」を考え、それに向けたNISAでの積み立てに取り組んでみるのはいかがでしょうか。
まず、NISAによる資産形成を考えるにあたり、世間ではどれくらいの金額を資産形成に回しているか、データを確認してみましょう。年収によりばらつきはありますが、ミライ研の調査によると、図表1の通り、平均では105.3万円となりました。年間の資産形成額であるため、臨時収入も含むものの、単純計算した月額換算は8.8万円となっています。
自身の年収 (回答者数) |
TOTAL (1,671) |
収入なし (111) |
1〜 300万円 (388) |
300〜 500万円 (242) |
500〜 700万円 (216) |
700〜 1,000万円 (192) |
1,000〜 1,500万円 (75) |
1,500〜 2,000万円 (26) |
2,000〜 3,000万円 (3) |
3,000万円 以上 (3) |
わからない 答えたくない (415) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年額平均 (万円)…① |
105.3 | 50.5 | 67.7 | 60.6 | 81.8 | 152.6 | 179.1 | 482.7 | 665.8 | 941.4 | 64.2 |
月額換算 (万円)①÷12 |
8.8 | 4.2 | 5.6 | 5.1 | 6.8 | 12.7 | 14.9 | 40.2 | 55.5 | 78.5 | 5.4 |
ただし、この資産形成額は世帯によるばらつきも大きくなります。特に、この年代は「通った(ている)ライフイベント」の状況により、相当程度変わってくるはずです(具体的には婚姻有無、配偶者の就労状況、子どもの有無、持ち家・ローンの状況など)。そのため、同年代と単純に比べるのではなく、「ご自身の状況においてはどうか」という点をしっかり確認しておきましょう。
さて、本コラムはNISAに関するコラムではありますが、ここでは、今注目の資産形成の器であるNISAとDC/iDeCoの特徴をそれぞれ見てみましょう。
DC/iDeCoについては制度が若干複雑なので、制度の詳細は以下のコラムやYouTube「教えて!信託さん」で学習いただけます(今回は企業型DCのマッチング拠出とiDeCoを想定しています)。
そのうえで、NISAとDC/iDeCoについて、「税制面における優遇度」と「利用面における自由度」で比較してみます。ざっくり申し上げると、DC/iDeCoは60歳までは払い出し不可であり自由度が低い反面、税制面は所得控除などメリットが大きい点があります。NISAはいつでも引き出し可であり自由度は高いものの、所得控除などはなく運用益が非課税のみとなります。
DC/iDeCo (確定拠出年金) |
NISA | |
---|---|---|
税制面における優遇度 | ◎ | ○ |
買付時 | 掛金:金額所得控除 | 特になし |
運用時 | 運用益:非課税 | 運用益:非課税 |
売却・受取時 | 課税の対象 ただし各種控除あり | |
利用面における自由度 | △ | ○ |
売却時の制限 | 原則、60歳まで払い出し不可
ミライの自分に「仕送り」できる制度 |
いつでも払い出し可 |
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
特に50代の方について考えると、DC/iDeCoの所得控除は「所得が高い人」ほど税効果がありそうです。加えて、60歳まで引き出せないデメリットは若年層に比べると少なそうです。そのため、老後資産形成という前提に立てば、50代はNISAだけでなく、DC/iDeCoを合わせて活用する選択肢を考えてみるのもよいでしょう。
参考までに、2023年1月にミライ研が調査した、資産形成の“器”(税制優遇制度)の活用状況をご覧ください。資産形成の器は、若年層ほどNISA(青+緑)の活用が多いですが、40代・50代はDC/iDeCo(赤点線)の活用が進んでいることがわかります。ぜひ両方の制度の特徴を相互に補完しあいながら、かしこく資産形成ができるとよいですね。
さて、NISAとDC/iDeCoを両方考えてみることが重要ですが、NISAでの積み立てはどう考えればよいでしょうか。
この時期は、収入水準やライフイベントの状況などにより、投資に回す資金余力も人それぞれです。また、給与収入だけでなく60歳以降で退職金/企業年金が出るケースがありそうです。さらに、DC/iDeCoで積み立てた資金は60歳以降、75歳までの間に受給するため、DC/iDeCo資産を受け取った後の資金計画も考える必要が出てきそうです。
よって、まずは現在の給与からの積み立てだけでなく、退職前後時期のストック(資産)・フロー(収入・支出)の変化を踏まえることが必要です。(図表4)のように、ざっくり将来のお金のストック・フローがどうなるのか、下記のイメージを参考にしながら、考えてみましょう。「NISAの生涯投資非課税枠が1,800万円あるから」「周囲の同年代の投資方法がこうだから」…などの情報に過度に流される必要はありません。将来の給与収入や退職金・企業年金によって、ご自身の家計資産がどうなるのか、そのうちどれだけを投資に回そうか、という点を把握したうえで、ご自身の運用計画を考えてみてください。
2024.02.28
新NISAは恒久化され、生涯非課税投資枠が1,800万円となったことにより、セカンドライフにおいても「運用しながら取り崩していく」ことができる器となりました。
新NISAの解説は“資産形成期”の積立投資にフォーカスしたものが多いですが、セカンドライフにおいて新NISAで運用する資産の役割と運用戦略を考えましょう。
まず、押さえておきたいのが、現役時代と家計収支が変わることです。一般的には、住宅ローンや教育資金などの支出が減り、リタイア時に退職金が入り、家計のバランスシートでは資産が大きくなる年代です。また、現在は、定年引上げや雇用継続などで60代前半の就業率が7割超、60代後半でも5割を超える※ので給与収入も引き続きありつつ、65歳からは公的年金の受給も始まる、という方も多いでしょう。どのような収支になるのか、現役時代と比較して想定しておくことが必要になりそうです。
※統計局ホームページ/令和4年/統計トピックスNo.132 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/2.高齢者の就業
長寿時代においては、長生きによって資産が枯渇するリスクに備える必要が出てきます。大きな柱は、終身の収入源である公的年金であり、この受け取り戦略を考えることが必要であることは大前提ですが、それを踏まえたうえで、ゆとりあるセカンドライフのために必要な生活費を賄うためには、【図表1】の通り「資産収入」に必要な水準感を考えます。
(出所)野尻哲史「60代からの資産『使い切り』法」より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
【図表1】の【退職後時代】の収支構造になったときに、資産収入において考えるべきは、インフレリスクです。インフレリスク自体は現役時代・退職後時代ともにさらされるのですが、その影響度は変わってきます。その理由は【図表2】の通り、資産活用期は資産形成期に比べて、相対的に①収入が小さく賃金の上昇の影響を受けづらいこと、かつ③資産が多いため、③資産の目減りによる影響が相対的に大きくなることが挙げられます。この点を資産の取り崩し計画にどのように織り込むべきか、考えていく必要があります。
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
つまり、インフレにより資産の引出額が増加することに伴い、枯渇するスピードが早まるため、資産活用期にはインフレを織り込んだシミュレーションを実施しながら運用計画を策定することが必要となります。
ここまでの話を受けて、必要な資産収入をまかなうためには、「とにかく“期待リターン”の水準を高くすればよいのではないか」と思われる方もいるかもしれません。考えはそれぞれですが、老後に生活資金として活用するためにマネープランとしての投資をするならば、期待リターンだけでなく資産寿命を考えた“リスク”にも目を向けることが大切です。具体的には、安易に「リスク・リターンを高め」に設定するのではなく、「リスクを考慮した安定運用」を検討してみましょう。
具体的な例を考えてみます。資産2,000万円を保有していて、毎年100万円を取り崩す場合、運用をせずに元本が0円になるのは20年後です。一方、期待リターン9%、想定リスク19%の運用を実践したとすると、期待リターン(ここでは確率が一番高い水準)は“50%”の線の通り、取り崩すどころか増えているということになります。一方で、リスクに目を向けると、同じ条件でもかなり市場が悪かったケースで想定すると、資産寿命は元本のみだった時よりも早く枯渇していることがわかります(【図表3-①】)。
一方で、期待リターン5%、想定リスクを10%においた運用を実践すると、期待リターンとしてはほぼ横ばい、つまり資産寿命はしっかり延びていることが確認できますし、リスク目線でも、かなり市場が悪かったケースでも、元本の減少よりも早い枯渇にはならない結果となりました(【図表3-②】)。
期待リターンを高めることで資産寿命を延ばす期待は高まりますが、一方で、リスクに対する目線を持つことの重要性が高まりそうです。現役時代と比べて、勤労収入が下がる・もしくはなくなるセカンドライフにおいては、一般的に「運用の結果で資産収入が減少するリスク」を、「勤労収入などの他の収入」でカバーすることが難しくなります。
また、具体的なリスクを抑えた運用については、「リスクの大きい商品を少し保有し、残りをキャッシュ資産で置く」ことで、家計全体のリスク調整を行うことも考えられます。それ自体は、有効な運用戦略の一つと考えられます。一方で、上記の【図表3-①】でご覧いただいたように、値動きのぶれの大きい資産から取り崩しを行うことは、取り崩す時点の相場の影響も大きくなるため、一般的に難易度が高くなります。ご自身の認知・判断能も今後は低下していく可能性があることなども踏まえると、例えばさまざまな資産クラスに分散された「バランス型ファンド」を活用するなど、リスクを抑えた、かつシンプルな運用戦略を実践することには、相応のメリットがありそうです。
退職後は、資産形成期とは家計収支の構造が変わり、資産を取り崩して「資産収入」を得ることが必要になってきます。そのため、「インフレリスクも考慮した運用」を行うことの必要性がより高まりそうです。一方で、資産形成層と違い、将来の稼ぎなどで相場の下落をカバーすることが難しい時期といえます。そのため「リスクを抑えた運用戦略」の目線がいっそう重要となりそうです。
2024.02.28
日本経済新聞朝刊(2024年1月18日)「住宅ローン金利、頭金積めば低く」において、ミライ研究所の調査データが掲載されました(同記事は日経電子版にも掲載されています)
2024.01.18
2024.01.01
2023.12.01
2023.11.29
11月30日は何の日かご存知でしょうか。そうです。11月30日は「年金の日」です。厚生労働省が“国民お一人お一人、「ねんきんネット」等を活用しながら、高齢期の生活設計に思いを巡らしていただく日”として、毎年11月30日(いいみらい)を「年金の日」と定めているそうです。
今回のコラムは、その「年金の日」にちなんで、実際に年金額を把握できている方がどれくらいいらっしゃるか、その把握の仕方、把握時の感想などについて、ミライ研が行ったアンケート調査の結果をもとに見てみたいと思います。
実際、年金額を把握されている方はどれほどいらっしゃるのでしょうか。ミライ研が実施したアンケート調査によれば、公的年金の受給月額をイメージできている方の割合は、18~29歳では27.6%、30~39歳では34.8%、40~49歳では44.2%、50~59歳では56.3%、60~69歳では78.4%でした。やはり、年齢が上がるとともにイメージがわいてくるようです。
受給額をイメージできている方に対しては、受給額の感想も尋ねてみました。すると、金額が「想定よりも少なかった/やや少なかった」と感じる方の割合が高いことが分かりました。
受給額をイメージされている方について、把握手段別に受給額に対する感想が異なる傾向を示すことが分かりました。図表3は、受給額の把握手段別に公的年金額に対する感想を分析したものです。「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」の試算などで把握された方々や、新聞・テレビなどの情報源から把握されている方々は、概ね「少ない」との感想に偏っていますが、FPや金融機関などの第三者に相談して把握された方々は、「金額は想定通りだった」との感想が最も多く、想定とのギャップが小さかったことがうかがえます。「ねんきん定期便」や報道等からの情報の場合だと、もしかすると示されている金額に対してどう捉え、どう判断すればいいのかが難しいということもあるのかもしれません。FPや金融機関などの専門家の助言を受けることで、公的年金に関する情報が正確かつ理解しやすい形で得られます。これにより、公的年金額に対する冷静な解釈ができるようになり、感想がより客観的に形成されるのではないかと考えられます。近年、金融リテラシーや金融経済教育が話題ですが、公的年金額を自分事として適切に把握し理解するには、専門家のサポートが重要であることが示唆されます。
図表4はライフプランを立てている度合い別に、公的年金額に対する感想を分析したものです。ライフプランを立てていらっしゃる方は、公的年金の金額に対して「想定通りだった」と答えている割合が高く、ライフプランを立てている度合いが低くなるにしたがって、金額が「想定よりも少なかった」「何も思わなかった」と感じる割合が増加する傾向にあります。
ライフプランを立てることで、将来のライフスタイルや収支の計画が具体的になります。これにより、公的年金と現役期の収支や資産形成などとの調和が図られ、公的年金額への理解が深まるものと考えられます。公的年金の位置づけがクリアになると、想定とのギャップが縮小されるのではないかと考えられます。
このように、FPや金融機関などに相談された方やライフプランを立てていらっしゃる方は、公的年金額とともに他の収支や資産額も把握されていらっしゃると思われます。公的年金額を単体でお考えなのではなく、自分のライフプラン・マネープランのなかでの公的年金の位置づけをしっかり「想定」されているということなのでしょう。
特に若い方はまだ年金額をイメージできていないとお答えになった割合が高いですが、最近は公的年金シミュレーターで手軽に年金額を把握できるようになっていますのでおススメです。今後の働き方・暮らし方を変えてみたときに年金額がどう変化するかも簡単に分かりますので、ライフプランを立てる際にも役立ちそうです。
また、年代を問わず「年金は想定より少ない」との感想をお持ちの方が多いようですが、「公的年金は払い損ではない」ということを解説したこちらのコラムも、もしよろしければ参考にしてみてください。
さて、11月30日は「年金の日」ですが、世の中的なトレンドに流されず、一人ひとりのライフプランやそれに応じたマネープランのなかで、公的年金の位置づけを「想定」いただくことをお勧めします。
【第132回】
2023.11.29
2023.11.29
2023年1月にミライ研が1万人を対象に実施したアンケート調査をもとに、公的年金額に対するイメージについて考察しました。
【トピックス】
・公的年金の受給額は年齢が上がるとともにイメージがわいてくる
・公的年金の受給額を知って想定よりも少ないと感じる人が半数以上
・FP相談等で年金受給額を把握している人は想定とのギャップが小さい
・ライフプランを立てている人は年金額と想定とのギャップが小さい
ぜひご覧ください。
レポート
2023.11.29
2023.11.22
前回まで、「住宅ローン」を自身のライフプランとそれに対応したマネープランの中でのどのように位置づけていくかについて「頭金の準備割合」と「返済比率」から考えてきました。今回は、住宅ローンの返済と資産形成との両立についてもう少し深掘りしてお伝えしたいと思います。
住宅ローン返済中に余裕資金が生じた場合、住宅ローンの繰上返済に充てるべきなのでしょうか、それとも資産形成に充てるべきなのでしょうか。ミライ研のアンケート調査で、住宅ローン返済中に資産形成(家計での積立て:貯蓄や投資など)に取り組むかどうかについてお伺いしたところ、【図表1】の結果となりました。
全体では「住宅ローンと資産形成の両立派」が32.7%、「ローン返済優先派」が40.4%となりました。また、年代別に確認をすると60歳代以外の年代においては「ローン返済優先派」が優勢となりました。
どちらが正解なのかは判断しづらい問いですが、それぞれのメリット・デメリットとして下記のような点が挙げられるかと思います。
それぞれのメリット・デメリットを検討する際、ご自身の住宅ローンの借入金利タイプや利率、返済期間、また運用環境の見通しなどの状況によっても、評価度合いは大きく異なります。余裕資金が生じた際に、繰上返済も資産形成も対応できるように準備しておくことが必要かと思われます。
では、「資産形成」に向けて具体的には何に取り組めばよいでしょうか。ミライ研のアンケート調査で、いくつかの具体的な資産形成の手段を選択肢として並べ、「現在取り組んでいること」を選択いただいたところ、【図表3】の結果となりました。グレーの棒グラフはアンケート調査全体の回答、青色の棒グラフは“今まさに住宅ローンを返済している方”の回答を示しています。
取り組んでいることとして選択が多かったものから順に、「預貯金」「財形貯蓄・社内預金」「満期金のある生命保険(定額型)」「投資信託」で、これらはアンケート回答者全体の傾向と同様ではあるものの、それぞれの選択割合は住宅ローン返済中の回答者の方が高い結果となりました。
また【図表3】の最下部にある「資産形成に向けてやっているものはない」を選択した人は、アンケート回答者全体では33.5%であるところ、住宅ローン返済中の回答者では21.3%となっており、住宅ローンを返済しながらも資産形成への取り組み意識が高いことがわかりました。
ちなみに、先ほどの【図表3】で何かしらの取り組みをしている人が、金額としてどれくらい資産形成をしているかの回答が【図表4】となっています。
金額については、それぞれのライフプランとそれに対応したマネープラン次第かと思われますが、「これだけの金額を資産形成していく(している)」といった意識があるという点が重要かと思われます。
さらに、【図表3】で資産形成に向けて何らかの取り組みをしている方に対して、優遇制度の利用状況についても確認したところ【図表5】の結果となりました。
「この中にはひとつもない」の選択は、住宅ローン返済中の回答者が41.2%と、つまり約6割は「何らかは活用している」という結果となりました。その中でも特に国の設けた優遇制度であるNISA制度については、NISAとつみたてNISAの利用者が合計で34.1%と3人に1人は利用していました。2024年からは新しいNISAがスタートします。より一層、利用者に優遇された制度となりますので、「上手く活用できていないな」とお感じになっていらっしゃる方は、是非チェックいただければと思います。
さて、ここまで4回にわたって「お金を借りること」についてお伝えしました。是非、みなさんのファイナンシャルウェルビーングを実現する中での各種ローンの活用についても改めて考えてみてください。
※2023年1月にミライ研が1万人を対象に実施したアンケート調査をもとに、ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)の見地から「健全な借入れ」について考察したレポートをこちらに掲載しております。あわせてご覧ください
【第131回】「健全な借入」をライフプランに位置付ける④
2023.11.22
finasee(フィナシー)セミナーに、「【篠原光×ミライ研スペシャル対談/本プレゼント】『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』を徹底解説」が掲載されました。「安心ミライへの『金融教育』ガイドブックQ&A」製作の裏側など“本音トーク”満載で書籍の読みどころをお伝えします。
2023.11.21
前回のコラムに引き続き、「住宅ローン」を自身のライフプランとそれに対応したマネープランの中でのどのように位置付けていくかについて、今回は「返済比率」に着目して考えてみました。
返済比率とは、年収に占めるローン年間返済額の割合です。返済比率(%)=年間ローン返済額÷年収×100で算出することができますので、例えば、年収400万円の方が年間80万円ローン返済をしているケースだと、返済比率は20%=2割となります。つまり、年収に対して年間返済額が多くなるほど、返済比率が高くなります。
この返済比率を借入金額別に確認したところ、借入金額2,000万円以上になると返済比率3割以上の割合が増加しており、借入金額2,000万円~3,000万円未満で39.5%、3,000万円~4,000万円未満で39.6%、4,000万円以上で38.7%となっています【図表1】。
物件価格の高騰もあり、理想の住まいを手に入れるために返済比率の観点からみると少し背伸びをして購入(借入れ)を行っていることが伺えます。
では、理想の住まいを手に入れた後はどうでしょうか。意識面と行動面で見てみたいと思います。
まず意識面として、返済に対する負担感についてお伺いしたのが【図表2】です。「負担に感じる」「かなり負担に感じる」と回答された方は、返済比率が高まるほど多くなっており、返済比率4割では半数超(61.2%)となっています。
次に行動面としてはどうでしょうか。住宅ローン返済中の資産形成状況についてお伺いしたところ、【図表3】の結果となりました。
返済比率1割では「住宅ローンの返済があるものの、資産形成には取り組んでいる(取り組んでいた)」と回答された方が49.7%と約半数となり、ローン返済と資産形成の両立ができている方が比較的多いことが分かりました。
また、返済比率が高くなるほど「ローン返済と資産形成の両立派」が減少しています。返済比率3割を境に「住宅ローンの返済があるものの、資産形成には取り組んでいる(取り組んでいた)」と「住宅ローンの返済を優先している(優先した)ので、資産形成への取り組みは難しい(難しかった)」の回答の多寡が逆転し、返済比率4割を超えると「住宅ローンの返済を優先している(優先した)ので、資産形成への取り組みは難しい(難しかった)」の回答が半数を超えました。
しかし、そもそも、手元に余裕資金ができた際に「資産形成に充てるべきなのか」「繰上返済に充てるべきなのか」は悩ましいポイントかと思われます。次回コラムでは、その点についてお伝えしたいと思います。
【第130回】「健全な借入」をライフプランに位置付ける③
2023.11.15
2023.11.15
2023.11.08
前回のコラムでは、「借入」に対するイメージや利用状況、また「お金を借りること」についての基本的な取り組み姿勢についてお伝えしました。今回はそれらを踏まえ、世の中的にも利用者の多い「住宅ローン」を自身のライフプランとそれに対応したマネープランの中でどのように位置づけていくかについて、「頭金の準備割合」に着目して考えてみました。
自宅購入に際しては、ミライ研の調査でも、およそ8割程度の方が住宅ローンを利用します。このとき、住宅購入代金のすべてを借り入れるのではなく、一部を現金で支払うケースがあります。この現金で支払う部分のことを指して、頭金と呼びます。
この頭金を住宅ローン借入金額に対してどの程度準備しているか、頭金の準備割合について借入金額別に確認をしたところ、頭金「ゼロ」「1割」の比率は、借入金額2,000万円~3,000万円未満と、3,000万円~4,000万円未満で段階的に上昇していることが分かりました【図表1】。
また頭金「3割以上」の比率は、借入金額1,000万円未満では58.5%と半数を超える一方で、3,000万円~4,000万円未満では15.7%まで減少していることが分かりました。
住宅ローンを申し込むうえで「頭金を何割にしなければならない」といった決まりはありません。では、住宅ローンを利用している人はどのような理由で頭金の準備割合を決めているのでしょうか。頭金の準備割合別に、その理由をお伺いしたのが【図表2】です。
頭金の準備割合に関しては、「低金利環境」や「住宅ローン減税の活用」の影響から、その割合が低くなっている、と語られることが多くあります。しかし、実際に住宅ローンを借りた人が最も意識しているのは、「手元の資金を頭金として使うか・使わないか」という点であることが分かりました。
また、「手元の資金を頭金として使うか・使わないか」については、頭金の準備割合によってその多寡が推移していることが分かりました【図表3】。頭金「ゼロ」では、手元の資金を頭金として「使わない派」が大きく優勢、頭金「1割」「2割」では「使わない派」「使う派」の両者が拮抗、頭金「3割以上」では「使う派」が優勢でした。
では、頭金の準備割合によって、意識面や行動面には違いがあるでしょうか。まず意識面として、住宅ローン返済に対する負担感についてお伺いした結果が【図表4】です。
頭金「ゼロ」では、「負担に感じる」「かなり負担を感じる」の比率が45.2%と約半数となりました。反対に頭金を「5割以上」では、4人に1人が「まったく負担に感じない」と回答しました。
また行動面として、住宅ローン返済時の資産形成の取り組み状況についてお伺いしたのが【図表5】です。
頭金の準備割合のいかんによらず30~40%の人は、住宅ローンの返済と資産形成の両立ができていることが分かりました。一方で、頭金ゼロに目を向けると「住宅ローンの返済を優先している(優先した)ので、資産形成への取り組みは難しい(難しかった)」と回答された方が約半数となり、頭金ゼロ→毎月の返済金額の増加→家計収支上、資産形成に回す資金的余裕の減少という状況が生じていると思われる結果も見られました。
歴史的な低金利環境や物件価格の高騰などを背景に、「頭金はあまり入れずに、なおかつ長期で借り入れる」といった住宅ローンへの取り組みも見受けられます。しかし、頭金ゼロでは、返済の負担感が大きいケースや、ローン返済と資産形成の両立も難しいケースが少なくないことも調査結果からはうかがえました。
次回コラムでは、「返済比率」に着目して考えてみたいと思います。
【第129回】「健全な借入」をライフプランに位置付ける②
2023.11.08
2023.11.01
2023.11.01
「お金貸す・借りる」という行為の日本におけるルーツは、通貨としての「お金」の誕生をさかのぼり、弥生時代ともいわれています。「金の貸し借りは不和の基」「貸し借りは他人」「負わず借らずに子三人」など、お金の貸し借りに関することわざも多くあることからも、古くからお金を借りるという行為は人々の生活の中にあり、また現代においてもそうであるかと思います。
一方で、お金を借りることに対する価値観や行動様式についてはその行為の特性上、「隣の人はどうしているのか」謎に包まれている部分も少なくないかと思います。この点について、ミライ研のアンケート調査をもとに紐解き、ファイナンシャル ウェルビーングの見地から「健全な借入」について考えてみたいと思います。
2023年1月にミライ研が1万人規模で実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)では、新たな設問として「お金を借りる(ローンを使う、借金をする)」ことに対するイメージについてお伺いしました。すると、61.7%と半数以上の方が「できれば借金はしないほうが良い」を選択しました【図表1】。
では、借入れの利用状況はどうでしょうか。本アンケートの中では借入れのなかでも、住宅ローンの利用経験【図表2】と、毎月の生活費を補うためのキャッシング等の利用経験【図表3】についてお伺いしました。
「自身もしくは配偶者・子どもが居住する住宅を、自身で購入された方」のうち、約8割の方が住宅ローンを利用しているもしくは利用していたと回答され、利用経験があることがわかりました。
また、毎月の生活費が不足するときに、「キャッシング」といった比較的短期の借入れを利用し埋め合わせたことがあるかについてお伺いしたところ、利用経験がある選択肢としては、「定期的に利用している」が2.9%、「たまに利用している」が4.8%、「何度か利用したことがある」が14.8%である一方、「一度も利用したことがない」と回答された方が77.5%と大半を占め、キャッシングに関しては【図表1】の「できれば借金はしない方がよい」の意識を反映しているともいえる結果でした。
生活の中で借入れを少なからず活用しているにもかかわらず、「できれば借金はしないほうが良い」のイメージにつながるのは、なぜでしょうか。改めて【図表1】の選択肢に目を向けてみると、選択肢の背景を青塗りしている「~は良い借入だ」の選択率は1割~2割弱とあまり高くありません。
お金を借りると、利息の支払いが必要であるのはもちろんのこと、返済できなくなったらどうするかといった不安感があったり、返済が滞るとペナルティが課されたりするなど、「金融資産があるなら借金はしないほうが良い」かもしれません。一方で「お金を借りる」という行為は、「保有している金融資産」と「必要な支出の金額・時期」のギャップを埋めるという機能も有しています。例えば、自宅を購入したいと考えた際、現金一括で購入しようとすると、住宅購入に必要な金融資産を準備するまでに、一般的にはかなりの年月が必要となりますが、住宅ローンを利用することで自分のライフプランに合ったタイミングで購入をすることができます。
近年、関心の高まっているファイナンシャル ウェルビーイングを実現するには、自身のライフプランとそれに対応したマネープランを考え、金融商品・サービスをうまく活用していくことが不可欠です。「金融商品・サービス」には、投資に関するもののみならず、もちろん「借入れ」に関するものも含まれます。投資に関する商品が千差万別であり、みなさん自身の考えによって取り入れるべきものが異なるのと同様に、「借入れ」に関するものもさまざまですので、借入れについての理解を深め、「どのような場面であれば借入れをうまく活用できるか」という点を、戦略的に考える必要があります。
「借入れ」に関しては、
といった目線で取り入れることが重要かと思われます。
次回コラムはより具体的に、「住宅ローン」を自身のライフプランとそれに対応したマネープランの中でどのように位置付けていくかについてお伝えします。
【第128回】「健全な借入」をライフプランに位置付ける①
2023.11.01
三井住友トラスト・資産のミライ研究所(以下、ミライ研)では2023年1月に約1万人を対象に「金融リテラシー度とファイナンシャル ウェルビーイングに関する実態調査」(2023年)を実施しました。その中で、家計と金融リテラシーに関する設問を伺い、回答内容に応じて「家計把握力」・「知識と判断力」・「行動力」を測定したうえで、その総合得点から「金融リテラシー度」を三段階(良好・順調・不足気味)として算出し、スコア化しました。「金融リテラシー度」の分布としては「不足気味: 42.0%」・「順調:51.7%」・「良好:6.3%」という結果となりました【図表1】。
スコア化した「金融リテラシー度」をその他の設問とクロス集計することで、「金融リテラシー度」が高い人の特徴を分析しました。まずは金融教育経験と「金融リテラシー度」についてですが、「金融教育あり」と回答した人は、「金融教育なし」と回答した人よりも「金融リテラシー度:不足気味」の割合が14.3%少ない結果となり、全体的に金融教育経験がある人はない人に比べて「金融リテラシー度」が高い傾向となりました【図表2】。
こちらの結果に「リスク資産の保有有無」を加えて分析を行ってみたところ、どちらもありと回答した人と、どちらもなしと回答した人では「金融リテラシー度」に大きな差が見られました【図表3】。
また、リスク資産の保有有無以外にも「住宅ローンの利用」や「確定申告経験」といったお金周りの経験有無においても、同様の傾向を確認することができました。
続いて、「年間の資産形成額」と「金融リテラシー度」について分析してみると、年収区分に関係なく「金融リテラシー度」が高い人ほど、年間の資産形成額が「100万円以上~200万円未満」「200万円以上~300万円未満」「300万円以上」と回答した人の割合が高くなる結果となりました。この結果から、同年収帯であっても「金融リテラシー度」が高い人ほど、年間の資産形成額が多くなっている傾向がみられました【図表4】。
続いて、回答者の「住まいの選択」と「金融リテラシー度」を分析してみたところ、住まいを「持ち家」と回答している人の割合は「金融リテラシー度」が「良好:58.7%」、「順調:50.8%」、「不足気味:38.2%」となり、結果として「金融リテラシー度」が高い人ほど、持ち家を選択する人の割合が増加している傾向がみられました【図表5】。
住まいの選択に関連して、「年収に占める住宅ローン返済割合」を住宅ローン利用中(または過去に利用経験あり)の方に伺ってみたところ、「わからない」と回答している人の割合に特徴がみられました。「金融リテラシー度」が高くなるにつれて返済割合が「わからない」と回答した人の割合が大きく減少しており、「金融リテラシー度」が高い人ほど、自身の住宅ローンの返済内容をきちんと認識している傾向がみられました【図表6】。
高等学校教育における金融教育の必修化や、NISA制度の非課税期間無期限化や非課税枠の拡大といった大幅改正などを背景として、金融リテラシーへの注目は各方面でも高まりをみせていますが、加えて金融リテラシーを高めることで得られる効用を訴求することも大切になると考えられます。今回の分析結果では、直接的に金融リテラシーの効用を明示できているものではありませんが、「金融リテラシー度」が高い人の特徴や傾向といった部分で、金融リテラシーをより身近に感じてもらえますと幸いです。
今回のコラムで解説させていただいた内容に加えて、更に多くのデータをまとめたレポートをミライ研HP上にて公表しておりますので、本テーマに興味を持っていただいた方は『ミライレポート「令和の“金融リテラシー”事情」』についても併せてご覧ください。
【第127回】令和の金融リテラシー事情
2023.10.25
2023.10.25
前回のコラムでは、資産形成意識の高まりがみられる中、お金の不安の最大要因である老後資金に対する想定度合いを考察しました。不安は多いものの、老後における年金などの収入、生活費想定、そこから導き出される老後の必要想定額については、いずれも「把握」する取り組みがいっそう必要そうでした。今回のコラムでは、そのような状況下、皆さんがどのように資産形成を行っているのか、税制優遇制度の活用状況を考察してみます。
2024年からの新しいNISA制度スタートなど、「貯蓄から資産形成へ」の機運が高まりつつありますが、ミライ研では、1万人に対し資産形成への取り組み状況を調査しました【図表1】。「取り組んでいる人」の内訳を見ると、全体では「預貯金」が50%超で第1位となっており、2位の「投資信託」(14.3%)を大きく引き離しています。年代ごとに見てみると~20歳代、30歳代、60歳代ではいずれも「投資信託」が2位となっており、「株式」や「国債」などを上回る結果になっています。その一方で、年代によらず約3割の人は「取り組んでいない」との回答でした。
では、資産形成に取り組んでいる人の資産形成額はどうでしょうか。【図表2】では、資産形成に何かしら取り組んでいると回答した人の年間の資産形成額を示しています。どの年代を見ても、「1万円~50万円」の回答割合が多い結果となっています。また、その平均金額は103.8万円となっています。
資産形成を後押しする「税制優遇制度」の利用状況をみてみると(図表3-1)、制度の「未利用」が75.7%と最多であり、制度の普及・活用面で大きな余地がありそうです。年代ごとの制度の利用状況を見てみると(図表3-2)、若年層はNISA制度中心ですが、年齢が上がるに従いDC制度の活用割合が上がっていることがわかりました。また、両制度を併用している割合は24.8%ですが、30歳代までの若年層では3割を超えていることが確認できました。
現在、「貯蓄から資産形成」に向けた国家的な取り組みが進行中です。調査では、「何かしら資産形成に取り組んでいる人」は10人中7人と「過半数を超えてきている」のですが、一方で、年間の資産形成額は100万円程度と現行の一般NISA枠で収まるぐらいの規模です。
本調査時点での税制優遇制度の利用割合は約24%となっており、制度利用の意識・実態の両面において「今後の取り組み余地が大きい」状況です。2024年以降、NISAやiDeCoの制度拡充が予定され、ますます情報発信がなされることが想定されますので、より一層、国民の資産形成行動が進んでいくことが期待できますね。
なお、前回のコラム並びに今回のコラムは、ミライ研のアンケート調査結果「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)より、「令和の資産形成事情」を基に作成しています。より多くのデータを確認したい方は、当研究所HPの「ミライレポート」のページにレポートを掲載していますので、是非ご覧ください。
【第126回】令和の資産形成事情②
2023.10.18
2023.10.18
ここ数年、若年層の資産形成意識の高まりや、特にNISA制度の改正などを背景として、各種メディアなどでも資産形成に関するトピックスが多く取り上げられるようになりました。しかし、資産形成への意識の向上や、「資産運用」についてポジティブなイメージを持つ人が増えている反面、将来のお金に対する不安も見て取れます。2023年1月にミライ研が1万人規模で実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」では、各年代のお金に対する不安をたずねていますが、どの年代でも「老後資金」に関する不安が、他の不安項目を大きく引き離して第1位となりました【図表1】。
そこで、ミライ研では、「(リタイア時に準備しておきたい)老後資金」は「老後の生活費総額」と「老後の収入総額」の差額【図表2】と想定し、各項目についての意識を調査しました。
まず、「老後資金」(公的年金のほかに、自分で準備しておく金額)として必要な金額をたずねると、どの年代においても4割から5割の方が「わからない、見当がつかない」と回答しています【図表3】。
また、老後の生活費に関してたずねたところ、回答者の約半分(47.9%)が「イメージ出来ていない(わからない・答えたくない)」と回答しています【図表4】。リタイアへの意識が高まってくる50歳代でも「わからない・答えたくない」比率が5割程度あり、年齢が高くなっても「イメージ出来ていない」比率が減少していない点が特徴といえます。
なお今回、50歳代・60歳代に「現時点の生活費」と「老後生活費(見込み)」をたずねています【図表5】。現時点の生活費が一定以上の区分においては、老後生活費の見込みを現時点の生活費のおおよそ7-8割程度と想定していることが確認できました。リタイア後の生活費について「現時点の生活費から極端に減らさなければ」という意識ではないようです。
次に、老後の「収入」についての意識を見てみると、柱である「公的年金」について「ねんきん定期便」などで受給月額をイメージしている人が、全体では45%、50歳代では54%を占めました。【図表6】。
また、企業・団体に勤める方にとって「退職金・企業年金」はリタイア後の収入を支える柱の1つです。【図表7】のとおり、勤め先の退職金・企業年金について、18歳~39歳の約半数が「制度」としては知っており認知度は高いようです。一方で、退職金・企業年金の「支給水準」のイメージは、40歳代までは3割程度、50歳代でも4割程度と高くないことがわかりました。公的年金は「ねんきん定期便」などで個人別に通知されますが、退職金・企業年金に関しては、一般的に事前の個人別の通知がなされていないことが多いため、支給水準を含めて自分から「知っておく・調べておく」取り組みが望まれます。
ここまでの結果を踏まえて、「老後資金」がどの世代にとっても「お金の不安」のトップになっている背景として、「老後資金」をイメージするための「大切な数字」についての認識が十分ではないからではないか、という点が想起されてきました。必要な情報の取得が簡便に行える環境の整備も求められてくると思われます。
今後、国の重要な取り組みとして金融経済教育の普及・推進が期待されていますが、「(自分に関する)重要な数字」が何かについて「学び」、その情報を「把握」し、自分自身のマネープランを「計画」していくことは益々重要になってくるものと考えられます。
次回コラムは、その資産形成意識がどのような行動に結びついているのか、特に税制優遇制度(DC/iDeCo、NISA)の活用にフォーカスしてお伝えします。
【第125回】令和の資産形成事情①
2023.10.11
2023.10.11
2023.10.04
前回のコラムでは、新NISAの使い勝手が良くなったこと、また、知っておきたい“個性”がある、というお話しをしました。改めてですが、新NISAの恒久化によって、ライフタイムにおける「投資して、売却して、再投資して・・・」という生涯投資非課税枠1,800万円の再利用ができるようになりました。これにより、一人ひとりの様々なライフイベントに対して、NISA枠で必要資産を積み立て、増やし、イベント実現で活用し、また次のイベントに向けて積み立てていく・・・という“生涯のパートナー”として利用できるようになったということです。
新NISAはライフイベントの中でも大きなイベントである「老後資産」を準備する上で、心強いパートナーとなります。一方、ここで留意したいのが、「運用リスク」との付き合い方です。“マネープランとしての投資”を実践し、老後資産を計画的に増やしていこうとする場合、「リタイア年齢が近づくに従い、運用リスクは徐々に小さくしていきたい」という方もいると思われます。以前のコラム98の②でご紹介したとおり、「積立投資は資産が積み上がっていくに従い“一括投資化”していく」ことを踏まえ、企業年金の運用などでよくみられる「リスクを徐々に逓減させていく」運用手法を参考にしています。
こういったケースでは、新NISAの2つの“個性”が、留意点として浮かび上がってきます。徐々にリスクを下げていく場合に、リスクをコントロールするのは「計画的」かつ「少し前倒し」に行っていくことが肝要です。具体的にみてみましょう。
「リスクを落とそう」と運用内容を見直すタイミングが、1,800万円の非課税枠を使い切った後や枠いっぱいという局面で生じたら、前回コラムの通り、「①非課税枠の復活が翌年」である点や「②非課税枠の管理は簿価」といった特徴に留意が必要です【図表1】。
(前回コラムの“パン生地”の例でみると、切り取ったパンが時価ベースでは大きく上に膨らんでいたとしても、新たに購入資金として入れられるパン生地は、膨らむ前のパン分のスペースだけですので、切り取ったパンよりも小さくなります)
NISA枠を最大限に活用することを念頭におくと、 “資産を守る”ことを検討するタイミングは、1,800万円の非課税枠の「満杯直前」ではなく、“枠の余裕があるうち”に見直しをすることで自由度が広がります。余裕をもって見直し計画を立てることができれば、今後の投資額(フロー)を、債券ファンドやバランスファンドなどに投資することで、非課税枠内でのリスク調整を図ることができます。枠に余裕がある状態であれば、年間の投資上限枠(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)や生涯非課税枠の範囲内で、ストック部分も入れ替えることができそうです。
このようなリスクの段階的な引き下げを自動で行ってくれる投資信託もあります。“ターゲッイヤーファンド”といい、事前にある年(ターゲットイヤー)を定めたうえで、一般的にはターゲットイヤーが近づいてくるにつれて株の組み入れ比率を引き下げ、その分債券等の組み入れ比率を引き上げるような、投資資産の組み換えを行う特徴の投資信託です(ターゲットイヤー型 用語集 – 投資信託協会)。こういったタイプの投資信託に関しても学んでおくと良いかもしれません。
また、これ以外にも、現行NISAを活用されている方は、資産形成期・資産活用期のいずれであっても、現行NISAで運用していた資産を新NISAに移すことを検討するタイミングが来ようかと思います。特に、一般NISAを使われている方の中には、2023年で非課税枠が終了し課税口座に移される方もいられると思われます。現行NISAの資産は新NISAへはロールオーバーできませんので、いったん売却をし、その資金を持って新NISAの非課税枠を利用する形となります。そのため、時価ベースで膨らんでいる資産を入れる際にも、枠の消費を考えておく必要があります(もちろん、非課税で売却した資金を支出に充てることも一つの戦略です)。
以上を踏まえると、なるべくNISA口座内で運用したい、また資産活用期に向けてリスクを徐々に落とすことを考えた場合には、1,800万円の枠を使い切ってから見直しを考えるのではなく、資産形成期の間からの見直し計画も必要になりそうです。また、現行NISAの資産も移してくることを考えておく必要もありそうです。
もちろん、これ以外にも、
…などの事情は考慮が必要です。また、ここまでの話はあくまで“ケーススタディ”として申し上げてきたものであり、記載の戦略を推奨するものではありませんので、その点はお含みおきください。
本コラムでお伝えしたいのは、ご自身の生涯における枠の活用を考えた場合には、上記の“個性”を積立段階から踏まえておかないと、「あれ、こんな活用がしたかったのにうまくできない…」と後から気づく可能性があることです。資産形成に様々な考え方を持っている方もいられると思いますが、NISAにおいてはそもそも「利益が出ていないと意味がない」「利益は確定させないとメリットがない」ことは改めて踏まえつつ、ご自身なりの活用法を考えてみられるとよいと思われます。
このコラムを一つのきっかけに、皆さん一人ひとりがNISAと生涯付き合う術を考えていただければ幸いです。
【第124回】
2023.10.04
2023.10.01
2024年から新NISAが始まりますね。この制度は従前と比べて飛躍的に進化し、かつ恒久化されることになりました。我々が「生涯を通じて付き合う制度」になったといえるのではないでしょうか。そこで、2024年を迎える前に、新制度の“ユニーク”な点をおさえておきましょう。
新NISA制度の概要は第97回コラムでも触れましたが、改めて復習しましょう。
新制度の変更点で特に注目される点は投資枠の拡大と非課税期間の無期限化です【図表1】。また、投資枠はこれまで併用できなかったつみたて投資枠と成長投資枠が併用できるようになりますので、合計360万円(生涯非課税投資枠1,800万円)まで拡大します。制度が恒久化されたことにより、今後は生涯にわたって非課税の効果を享受できることになります。
ここで、もう一つ押さえておきたいのが、図表1の最下段、「生涯投資枠の再利用」です。
現行制度ではNISAで運用している資産を売却したときに、売却した分の非課税枠は再利用できませんので、新NISAでの大きなメリットです。一方、非課税枠の再利用については、2つの“ユニークな個性”があります。それは、
という点です。それぞれ見ていきましょう。
「非課税枠の復活が翌年になる」についてですが、具体的には、1,800万円の非課税枠をフルに活用している場合、NISA口座内で「ファンドを売って・別のファンドに乗り換える」ような手続きが“同年内”では行えません。
【図表2】のように、当年の②の時点で300万円の資産を売却した場合、翌年まではその枠は復活しません。そのため、③の通り、当年末までNISAに新たな投資資金を投じることはできないことになります。
次に「非課税枠の管理は簿価」ですが、NISA口座で運用収益が出ているファンドを売却する際は「売却額>(売却したファンド分の)非課税投資枠」となります。
【図表2】に「時価の変動」を加味したものが【図表3】です。非課税枠のルールとして「年間の投資限度額」によって「投資可能な金額」を管理していますが、運用によって資産時価が増加しても(運用益が生じても)、その部分は「非課税枠」には影響を及ぼしません。
食パン作りに例えると、パン生地を入れる焼き型(NISAでいえば非課税枠)は、パン生地が焼けて上に膨らんでも焼き型自体は変化しないように、購入したファンドの運用益が大きく膨らんでもNISAの非課税枠には影響を及ぼさない、ということです。ファンドの売却時は、「パンを輪切りにする」イメージになりますので、「売却によって空きができる非課税枠」は、もともとパン生地が入っていたスペースになる、ということです。
具体的なケースで見ていきましょう。【図表3】の①では、1,800万円の投資資金(簿価)に20%の運用収益が生じて2,160万円になっています。時価ベースで360万円分(簿価ベースで300万円)を売却すると、使用中の非課税枠は1,500万円になりますが、当年中は枠が復活しません。翌年の④になると、300万円分の枠が復活します。運用益がある資産を売却したことで手元に360万円持っていても、翌年に手元の360万円全額をNISAの非課税枠に投じることはできない、ということです。
上述の特徴から、生涯非課税枠の上限(1,800万円)に投資額が近づいてきているケースや、運用益が生じているファンドを売却して新たにファンドを購入したいというケースにおいて、「売却、そして即時に、再投資」といった機動的な投資行動は難しく、留意が必要です。
今回は、新NISAの“個性”について紹介しました。次回のコラムでは、生涯にわたり新NISAを上手に活用する際のヒントと留意点についてお届けします。
【第123回】
2023.09.27
2023.09.27
2023.09.20
皆さんも実感されているところかと思いますが、このところ食品価格やガソリン価格、電気・ガス利用料金など、様々なモノやサービスの値段が上がってきていますよね(わたし自身も数か月前の電気代請求額に驚愕しました)。では、なぜモノの値段は変動するのでしょうか?
どういったメカニズムでモノの値段が決定されているのか、モノの値段が変動することで私たちの生活にどういった影響があるのか、今回の寄り道コラムはそんな「物価変動とお金」をテーマに、解説していきたいと思います。
世間で消費するモノの値段(=物価)は、そもそもどうやって決まっているのでしょうか?基本的には現在の競争市場においては、需要(そのモノの人気や欲しがる人がどの程度いるのか)と供給(そのモノがどれくらいの量、消費者に届けられるのか)のバランスが重要になります。これが値段の決まり方の基本原則で、値段の背後にはこのメカニズムが働いています。
例えば、スーパーに並ぶ野菜などは、その年の天候によって収穫できる量が大きく変わったりします。天候が良く豊作の年となると「供給」が多くなり、需要と供給のメカニズムが働いて値段は安くなります。逆に天候が悪く不作となり、消費者に届けられる供給量が少なくなれば、野菜の値段も高くなります。
また、毎年新製品が発表される家電製品などでは、最新型のものが発売されると、それまでに発売されていたものは型落ちとして人気が落ちてしまい結果として「需要」が下がるため、値段も下がります。
需給バランスに加えて、経済環境の状況も物価動向と深く関わっています。
物価が全体的に上昇していく経済状態を「インフレ」といい、モノがたくさん売れることで企業の利益や雇用が増え、従業員の所得が増え、消費や需要が旺盛になることで更に企業の売り上げも増加していくといったサイクルが発生します。消費者心理としても、「高くなる前に買っておこう」と考える人も増えるため、購買行動が増加しやすくなるといった特徴もあります。その一方で、過度にインフレが進むと個人の所得の増加が物価上昇に追いつけず、モノを買うのにたくさんのお金が必要になってしまうといった側面もあります。
インフレとは逆に、物価が全体的に下落していく経済状態を「デフレ」といいます。経済環境が不調となり、企業の業績は下がり、雇用も増えず、所得も上がらず、結果として、消費が落ち込み全体的に物価は下がっていきます。消費者心理としても、「もう少し待てばさらに下がるかも」と考えることで購買行動も控えめになるといった傾向にあります。
インフレ・デフレについて紹介しましたが、ではどういった経済状況が私たちにとって望ましい状態なのでしょうか?現在、日本銀行では年間2%の緩やかなインフレ実現を目標に掲げて政策方針を決定しています。インフレをゆったりとしたペースで進めることで、先ほどの説明の通り、企業の売上が増え、収益力も向上し、賃金が増え、消費が増えるといった、好循環のメカニズムを発生させることができます。
一方で、現実では「円安」の影響や、世界的な資源価格の高騰によって、それ以上のペースでインフレが進行してしまっているため、当初の目標である年間2%のインフレを実現するために、日銀が今後どういった政策をとるかについては注目する必要がありそうです。
物価変動を考える際に忘れてはならないのは、「お金の価値」についてです。貨幣の金額そのものが時間の経過とともに変わる、ということはありませんが、物価が変動することによって実質的なお金の価値は変動します。
例えば、日銀の想定通りインフレが年間で2%ずつ進行していくと仮定した場合のイメージが【図2】です。現在10万円の商品は、単純計算すると5年後には11万円になっています。一方で、その商品を買うために用意した10万円のお金は、現在であればその商品を購入することができますが、5年後には商品の値段は11万円に値上がりしているため、購入することができません。5年間の預金金利が仮に0.2%の水準だったとしても、インフレによる物価上昇スピードには追い付けず、お金を追加しなければ商品を購入することはできません。
お金の額面そのものは変わっていませんが、実質的な価値は、インフレ環境下においては目減りしていくということを理解しておく必要があります。
例ではインフレを取り上げていますが、デフレ環境下においては、逆にお金の価値が上がっていくことになります。
何気ないスーパーで買い物や、車への給油で、想定以上に費用が掛かるということもインフレ環境下では想定されますので、日々の生活に関係する物価動向については家計をやりくりする上でも、定期的にチェックしておく必要がありそうです。
ここまで物価変動の仕組みや、お金の実質的な価値についてお話ししてきましたが、現状の日本では物価は上昇傾向にあり、目指すべき政策方針としてもインフレを実現させる方向に動いています。こうした環境下では、インフレ率を上回る資産運用を目指すことは、自身のお金の価値を守る手段の一つにつながると思われます。「うちの家計ではまだ…」という方は、家計防衛の策として是非取り組んでみられてはいかがでしょうか?
【第122回】《寄り道コラム》
2023.09.20
2023.09.14
2023.09.13
前回コラムでは、日本の「お金」の歴史についてお伝えしました。物々交換の不便さを解消する便利な道具として誕生した「お金」は、現代を生きる私たちには必要不可欠なものの一つで、日常のさまざまな場面で使われています。
では、いったい人は、一生のうちにどのくらいのお金が必要なのでしょうか・・・・・・?お一人おひとり思い描くライフプランとそれに対応するマネープランはそれぞれですので、当然ながら実際には一人ひとり異なりますが、今回は《寄り道コラム》としてこのテーマを深掘りしてみたいと思います。
「人の一生」はそもそもどれくらいの長さなのでしょうか。ご存じの通り、日本は世界に冠たる長寿大国です。日本の平均寿命をみてみると、2022年時点で、男性81.05歳、女性は87.09歳となっており、今後も延びていくと推計されています。また、国によって平均寿命は異なりますが、世界全体としても今後、延びていくと推計されています【図表1、2】。
長寿化は日本に限らず世界のトレンドであり、高齢期の健康面や資産面での課題をクリアすることは、世界中誰もが取り組まなければならない点として注目されています。
また、平均寿命は0歳時点での平均余命(確率的にあと何年生きるか)を示したものですので、最も亡くなる人が多い年齢=「死亡年齢最頻値」とは乖離があります。日本における死亡年齢最頻値は、2022年時点で男性は88歳、女性は93歳となっていますので、「一生のうちにどのくらいのお金が必要なのか?」を考えるにあたっての「人の一生」は、平均寿命よりも死亡年齢最頻値の方がより実感のある値になるかと思います。
ここでは想定をしていくにあたり、次の前提を置いて考えたいと思います。
(この前提を見て、「自分には全く当てはまらない!」と思われた方。そうですね、だからこそ自分なりのライフプランとそれに対応するマネープランが大切だということが、一層、お分かりいただけるのではないでしょうか。)
そのうえで、総務省の家計調査のデータから各世代の収入と支出の平均額をつなぎ合わせ、合計したのが【図表3】です。
収入の合計は、3億7,808万円、支出の合計は2億9,261万円という概算値となりました。単純な収支差だけを見ると、「8,547万円のプラス」ですが、以下の点を考慮する必要があります。
収入面では…
支出面では…
実際、金融広報中央委員会が実施している「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」の2022年調査を見ると、世帯で保有している金融資産の平均額は、50歳代で1,253万円、60歳代で1,819万円という結果となっており、やはり上記の概算値は収支ともにより保守的にみる必要があると思われます。
ただし、いずれにしてもみなさんの人生において“億円単位”でお金が必要になることには間違いありません。これだけ大きなお金をただ漫然と使っていくだけではなく、自らの幸福感や充実感につながる「お金との付き合い方」を見つけることが大切なポイントかと思われます。
【第121回】《寄り道コラム》
2023.09.13
今回の「寄り道コラム」は、みなさんの身近にある「お金」についてのコラムです。
現在の日本のお金(通貨)ですが、「現金通貨」としては、中央銀行発行の紙幣(銀行券)と、政府発行の硬貨の2つがあります。
(参考ですが、金融機関に預けている「預金通貨(普通預金・当座預金)」を上記の「現金通貨」に合算して「広義の通貨」と呼んでいます。)
政府は、2024年度に日本銀行券である1万円、5千円及び千円について新しく発行することを発表しています。デザインも一新し、お札の表面に描かれる人物も変更になります。
※参照元:財務省HP 新しい日本銀行券及び五百円貨幣を発行します : 財務省
新1万円札の肖像画は渋沢栄一(しぶさわ えいいち)です。「日本の資本主義の父」「日本経済の父」などと呼ばれる人物で、日本で最初の銀行である第一国立銀行(現みずほ銀行)を設立しました。
新5千円札は津田梅子(つだ うめこ)が肖像画となります。明治政府が欧米に派遣した「岩倉使節団」に加わった女子留学生の1人で、1900年に日本で最初の私立女子高等教育機関である「女子英学塾(現津田塾大学)」を設立しました。
新千円札の肖像には北里柴三郎(きたざと しばさぶろう)が描かれます。感染症医学の発展に貢献し「近代日本医学の父」とも呼ばれる人物です。1894年にペスト菌を発見しています。「北里研究所」を設立したほか、慶応大学医学部の創設にも尽力しました。
では、日本において通貨としての「お金」はいつごろ生まれたのでしょうか?
古代の「物々交換の経済」においては、米・塩、布などが「モノと交換する機能」を担っていました。国内で初めてつくられた銭貨(金属のお金)は、中国の銭貨を手本に7世紀後半に鋳造された「富夲銭(ふほんせん)」だといわれています(※この貨幣が実際に流通したのか、まじない用に使われる銭貨だったのかについては学説が分かれているようです)。
708年(和銅元年)には武蔵国秩父郡(現・埼玉県秩父市)から国内初の自然銅が発見され「和同開珎(わどうかいちん)」が鋳造されました。この「和同開珎」以降、平安時代まで12種類の銭貨(皇朝十二銭)が鋳造されました。
しかし、国内における銅不足や国家の財政難から、銭貨は新発行の度に品質が落ちていき、経済的な信用が失われていきました。その結果、958年を最後に国内での鋳造が打ち切られ、再び米や絹などが「モノの交換」に使われるようになりました。その後、国内での通貨発行は、江戸時代の「寛永通寳」まで待つこととなりました。
では、その間、経済取引にとても便利な「お金」はどうしていたのでしょうか。
国内でお金は鋳造されませんでしたが、それに代わって流通したのが中国から輸入された「渡来銭(とらいせん)」でした。10世紀に宋が建国されると日宋貿易が盛んになり、日本の砂金などと引き換えに「宋銭」が国内に大量に流入しました。そして宋銭が人々の間で広く流通するようになりました。
鎌倉幕府・室町幕府は銭貨の官鋳を行わず、外国から銭貨を輸入し国内で流通させました(銅地金を輸出して銭貨を輸入したようです)。室町時代には「渡来銭」として「明銭(みんせん)が広く流通しました。とりわけ、中心部に正方形の穴が開き、表面には「永樂通寳」の文字が上下右左の順に刻印されている「永楽通宝(えいらくつうほう)」がよく知られています(ちなみに戦国時代の武将である織田信長は「永楽通宝」のデザインを織田家の旗印として用いていました)。15世紀になると、個人が国の許可なく鋳造した銭貨も多く出回りました。中国の銭貨を型取った鋳型で造られた「私鋳銭(しちゅうせん)」のほか、独自のデザインを用いた「模鋳銭(もちゅうせん)」も鋳造されました。
江戸時代になって徳川家康により国内が統一されると、再び国内発行のお金が登場し、貨幣制度が統一されました。1601年には大判、小判、一分金、丁銀、豆板銀の五種類の金銀貨が発行され、1636年(寛永13年)には徳川家光によって銅銭「寛永通寳(かんえいつうほう)」が鋳造されました。ここに金・銀・銅(銭)による三貨制度が確立しました。これによって1670年に渡来銭の使用が禁止されました。
明治時代になると、政府は政府紙幣(せいふしへい)を発行しました。この時に新しいお金の単位として「円」が創られました。偽造防止のために、政府は外国の印刷会社に紙幣の製造を発注し、模様が細密で色も美麗な紙幣(明治通宝札(めいじつうほうさつ))を発行します。
1876年に国内で初めて人物の肖像が入った紙幣が製造されました。西南戦争が勃発し戦費調達の目的で紙幣が大量に発行されたことで価値が下落したことから、政府は紙幣の発行数を減らしました。こういった経緯を経て、通貨の価値を安定させるために統一したお金を発行できる中央銀行が求められるようになり「日本銀行」が設立されました。紙幣の発行は「日本銀行」だけが行うことになりましたが、当時は紙幣を金貨や銀貨と引き換えるしくみ(兌換紙幣)になっていました。しかし1942年の日本銀行法で金貨や銀貨と引き換えることをやめ(不換紙幣)、現在のように政府や日本銀行が経済状況に応じて通貨発行量を管理・調整するしくみになりました。
【第120回】《寄り道コラム》
2023.09.06
2023.09.06
2023.08.30
三井住友トラスト・資産のミライ研究所では「金融リテラシー度とファイナンシャル ウェルビーイングに関する実態調査」(2023年)を実施しています。前回コラムでは「金融リテラシー度」と「働き方」の関係について確認してみましたが、同研究所がミライレポートとして公表している「令和の“金融リテラシー”事情」の分析内容を踏まえて、もう少し詳しく「金融リテラシー度」が高い人の特徴を確認してみます。
「ヒト、モノ、お金」の要素で考えてみた場合に、前回コラムで確認した「働き方」については「ヒト」に関わるものでしたが、「モノ」に関わる項目として(図表1)は「金融リテラシー度」と「住まいの選択」の関係をクロス分析したものです。このグラフからは、「金融リテラシー度」が高いほど「住まいの選択」は「持ち家」の割合が高くなっていることが解ります。また、住宅ローン経験者について、「金融リテラシー度」と「年収に占める住宅ローン返済割合」の関係をクロス分析したものが(図表2)です。このグラフからは、「金融リテラシー度」が高いほど、自身が組んだ住宅ローンの返済内容を正確に認識している傾向があることが解ります。
(図表3)は「お金」に関わる項目として「金融リテラシー度」と「年間資産形成額」の関係をクロス分析したものです。このグラフからは、年収区分に関係なく「金融リテラシー度」が高いほど、年間の資産形成額が多い傾向にあることが解ります。
以上の調査結果から、「金融リテラシー度」が高い人は、「モノ」(住まい)、「お金」(資産形成)のそれぞれに対して、自身で意思決定・実践している傾向があるように思えます。そう考えますと、「ヒト」(働き方)の要素についても、「金融リテラシー度」が高い人ほど主体的に意思決定して仕事をしている傾向が強いこととなり、「お金を得るために働く」よりも、「働き甲斐」に繋がる回答(社会の一員として務めを果たすために働く、自分の才能や能力を発揮するために働く、生きがいを見つけるために働く)が多くなる傾向にあることにも納得感があるように思えます。
「金融経済教育」の重要性を別の視点で捉えてみますと、勤労収入や金融資産をベースに、日常生活の消費、住宅ローンを活用した住宅取得という(モノへの)投資、奨学金や教育ローンを活用した“学び”という(ヒトへの)投資、iDeCoやNISAを活用したセカンドライフへの“備え”という(お金の)投資というように、金融商品・サービスを活用していく知識・実践力を養っていけることであるといえます。そう考えますと、「金融経済教育」には、長い生涯を見据えて「ヒト、モノ、お金」への投資全体をマネージしていく「人生の経営者」としての自分という意識(経営者マインド)を醸成する側面があり、職域における「金融経済教育」の推進は、「人的資本経営」で企業に求められる「自律型人材」の育成とも通底しているように思えます。
民間企業の中でもとくに金融機関は、行職員への「金融経済教育」の実施が「働き甲斐」向上や「自律型人材」の育成に繋がる可能性があることに加えて、本業を通じてお客様や社会への良質な「金融経済教育」の提供にも繋がるということになります。そう考えますと、国民全体の「金融経済教育」の充実という社会課題に対して、金融機関こそ、行職員への「金融経済教育」に率先垂範して取り組む覚悟・決意が必要であるように思えます。また、「ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)」向上に資するこうした取組みを、「人的資本経営」の実践項目の1つとして有価証券報告書等を通じて開示していくことが内外の投資家から求められています。
岸田文雄内閣が掲げる「資産所得倍増プラン」で、2024年度に「金融経済教育推進機構」を設立するとうたわれています。「金融経済教育」には、これまで日本銀行・金融庁・日本証券業協会・全国銀行協会・各金融機関等が様々な形で取り組んできました。金融経済教育推進機構には、現場感覚を持って全体状況を把握・分析し、実効性の高い取組みを官民一体となって推進していく「司令塔」となることが期待されています。その役割の要諦は、「金融庁・日銀(金融広報中央委員会)に加えて、文部科学省、経済産業省、厚生労働省、内閣府等の幅広い官の連携」や「洗練された教育内容の整備」、本格的な「金融経済教育」の継続実施を担保していけるような「仕組み」作りにあると考えます。その際には、こうした仕組みを支える「ヒト、モノ、お金」を時間軸も踏まえて揃えていく「構想力」と、これら複雑な「連立方程式」を解きほぐして推進していく「突破力」が求められると考えます。
本コラム(3回シリーズ)では、金融教育の本格スタートから1年、この時点で検討が避けられないと想定する重要課題や課題解決の方向性について考察いたしました。金融経済教育推進機構の設立に向け、どこまで踏み込んだ全体像(グランドデザイン)を描き、明快に国民に示していけるか、ここからまた「勝負所の1年」が始まると考えており、この「金融経済教育」に関する3回シリーズが、お付き合いをいただいた皆さまに少しでもご参考になるところがあればと願いつつ、最終回とさせていただきます。
※本コラムの見解・意見に係る部分はすべて筆者個人のものであり、所属する組織の見解を示すものではありません。
井戸 照喜 上席理事 資産形成層(職域)横断領域
1989年 東京大学大学院 工学系研究科修了。住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。企業年金制度の設計・年金ALM、運用商品の開発・選定等に従事後、2008年からラップ口座、投信・保険等の推進担当、トラストバンカシュアランス推進担当役員、2019年三井住友トラスト・ライフパートナーズ取締役社長、2022年資産形成層(職域)横断領域 副統括役員を経て、23年より現職。
22年より「老後資産形成に関する継続研究会 研究会委員」を兼任(公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構)。
日本証券アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)、
『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)(共著)
【第119回】学校・職場等での「金融経済教育」を巡り浮上する課題とその対応 ③
FOR FINANCIAL WELL-BEING
2023.08.30
2023.08.23
本格的な「金融経済教育」の継続実施を支えるためには、前回コラムでご説明したような「ライフプランに応じたマネープラン」(いわゆる「個人版年金ALM」)や「ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)」等を専門的に研究する「パーソナルファイナンス学科」を主要大学の経済学部・経営学部等に設置していく必要があると考えています。また、このようにして得られるパーソナルファイナンスに関わる知見を適切に学習指導要領に反映させ、教育現場で教えていける人材の計画的な育成に資するように、主要大学の教育学部には「金融経済教育学科」を設置していくことも必要になります。このような仕組みが整えば、社会経験を積んだ後に「金融経済教育」や「中立的なアドバイザー」の「担い手」を志す人材の「学び直し(リカレント)」の場となることも期待できます。そうしたことが本格的に機能するまでの時間軸を考慮すると、国家戦略としての「金融経済教育」を担う人材育成の体系的かつ重層的な仕組み作りにすぐにでも着手することが「当面の課題」といえます。
官民一体となって国民全体に「金融経済教育」を浸透させるには、高度な教育基盤の構築も欠かせません。政府と「学校、職場、地域」が一体となって取り組んだ事例として記憶に新しいのは「コロナワクチンの接種」です。当初、欧米に比べて周回遅れと言われましたが、数か月でキャッチアップできた背景には、日本の健康診断の優れた「仕組み」があります。大義名分と仕組み作りが表裏一体となるとき、日本社会は大きな推進力を発揮します。
いま「ウェルビーイング(すべてが満たされた状態)」という用語が国内外で幸福度指標として定着しつつあり、日本政府も重要政策としてしばしば言及しています。ギャラップ社はその構成要素を「キャリア、ソーシャル、ファイナンシャル、フィジカル、コミュニティ」の5つに分類しています。フィジカルが「心身の健康」、ファイナンシャルが「お金の健康」に関する領域で、「お金の健康」が「ウェルビーイング向上」の礎の1つであることが解ります。そう考えますと、日本が先行している健康診断の仕組みをモデルに「お金の健康診断」として「金融経済教育」を国民全体に浸透させるという「仕組み」が有効なアプローチになります。また、一人ひとりの状況を「お金の健康診断」として継続的に計測し、その診断結果も踏まえて専門的なアドバイスを受けられる「相談窓口」を設置することがインフラとして欠かせないものとなります。
三井住友トラスト・資産のミライ研究所では「金融リテラシー度」を診断する「資産のミライ健康診断」というツールを作成しています。同研究所が実施したアンケート調査で、この診断結果と「何のために働いているか」という質問に対する回答をクロス分析したものが(図表1)です。
年収区分によらず「金融リテラシー度」が良好なほど「お金のために働く」という回答が減少していることが解ります。これらに相関関係があるということならば、「働き甲斐」を感じて欲しい企業にとり、同じ年収水準でも従業員の「金融リテラシー度」を向上することができれば、「働き甲斐」を感じる従業員の割合の増加が見込めることになります。「金融経済教育」を浸透させる「仕組み」作りを後押しするという意味では、このような「金融経済教育」の副次的な効果に関する研究、データ集積や分析に注力していくことも極めて重要であると考えています。
今回は、「金融経済教育」の「担い手育成」や「基盤整備」の方向性などについて考えてみました。次回コラムでは、「金融リテラシー度」の向上がもたらす効用について、もう少し詳しく確認してみるとともに、これら課題に対して金融機関や政府が果たすべき役割について考えてみます。
※本コラムの見解・意見に係る部分はすべて筆者個人のものであり、所属する組織の見解を示すものではありません。
井戸 照喜 上席理事 資産形成層(職域)横断領域
1989年 東京大学大学院 工学系研究科修了。住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。企業年金制度の設計・年金ALM、運用商品の開発・選定等に従事後、2008年からラップ口座、投信・保険等の推進担当、トラストバンカシュアランス推進担当役員、2019年三井住友トラスト・ライフパートナーズ取締役社長、2022年資産形成層(職域)横断領域 副統括役員を経て、23年より現職。
22年より「老後資産形成に関する継続研究会 研究会委員」を兼任(公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構)。
日本証券アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)、
『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)(共著)
【第118回】学校・職場等での「金融経済教育」を巡り浮上する課題とその対応 ②
FOR FINANCIAL WELL-BEING
2023.08.23
2023.08.16
政府が2022年に策定した「資産所得倍増プラン」では、その「第5の柱」の中で「官民一体となった効率的・効果的な金融経済教育を全国的に実施する」としています。
それに先立ち、高等学校では、2022年度の「学習指導要領の改訂」で金融商品・サービスの内容や特徴(メリット、デメリット)にも触れることとなりました。三井住友信託銀行に対しても全国の高等学校から沢山のサポート要請があり、2022年度末までに45校(7000名超)で出張授業を実施し、殆どの学校で2023年度も継続実施することとなっています。「資産所得倍増プラン」の「第1の柱」では「NISAの抜本的拡充や恒久化」、「第2の柱」では「iDeCo制度の改革」がうたわれており、職場(従業員)に対する「金融経済教育」の重要性も高まっています。
今後の課題は、この流れを加速・拡大し、本格的な「金融経済教育」を継続実施できるような「仕組み」作りにあると考えています。この取組みは、最近、注目が高まってきている「ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)」向上にも資することから、今回から3回シリーズで、本テーマを取り上げて参ります。
教育現場では「自信がない」「投資は危険だと本音では思っている」という先生もいらっしゃる一方で、積極的に取り組む学校・先生も増え、日本銀行・金融庁・日本証券業協会・全国銀行協会・各金融機関等が連携して官民で「担い手」不足を補完する等、学校における金融教育の浸透が加速する流れとなっていることは大きな前進といえます。
しかしながら、具体的な実施内容にまで踏み込むと「全体像は踏まえているが表面的」「一部の分野に偏っている」というように「帯に短し襷に長し」となることも多いと感じています。また、学校外の「担い手」による授業は「教育実習の先生」のように新鮮味があり歓迎され易いことは確かですが、「きっかけ作り」にはなっても「本当の実力がつくか」という点では冷静に考える必要があるようにも思えます。
「金融経済教育」の「担い手」不足については、1980年代中盤から90年代前半のバブル期入社層が厚い金融業界の特性から、今後5年程度は相応の人材供給が見込める可能性が高いと考えられますが、国民全体に対する「金融経済教育」の継続的な実施という観点では5~10年後を見据えた対応が不可欠といえます。今度こそ、関係者が英知を結集し、継続的かつ本格的な「金融経済教育」の実施を担保していけるような「仕組み」を作れるか、官民双方の覚悟が問われています。
2022年度の「学習指導要領の改訂」で金融商品・サービスのメリットやデメリットも説明するようになったことは、国民全体の「金融経済教育」の充実という社会課題に向き合う上で極めて大きな意味を持ちます。その一方で、個別の商品・サービスまで説明するとなると、「貯める=貯蓄」「増やす=投資」「備える=保険」と順番に説明していく必要があり、本来知っておくべき全体像はかえって分かりづらくなるという弊害もあります。全体像を把握し易くする工夫として、例えば、ビジネスで「ヒト、モノ、お金」といわれるように、個人のライフプランも「ヒト、モノ、お金」の3つの要素で捉えて説明する方法もあります。長い生涯を通じて「ヒト、モノ、お金」それぞれについて、進学や住宅取得といったような各ライフイベントが発生する時点で「金融資産」と「支出」のギャップが発生します。そのギャップを解消することが金融商品・サービスの役割だという全体像と、その中での個別の金融商品・サービスの位置関係を大まかに捉えた上で、個別に説明していくという流れの方が理解し易いと思われます(図表1)。
例え話になりますが、「金融経済教育」全体が「茶筒(円柱)」であるとするならば、(図表1)のように全体像(円柱)を説明したうえで、横から眺めれば「長方形」、上から眺めれば「円」であるというように説明する方が理解し易いということです。
金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」では「顧客のライフプラン等を踏まえた目標資産額や安全資産と投資性資産の適切な割合を検討し、それに基づき、具体的な金融商品・サービスの提案を行うこと」とされていますが、パーソナルファイナンスの分野で「安全資産と投資性資産の適切な割合」を検討する際の「リスク許容度」の考え方のフレームワークが十分に確立されていない状況で、例えば「ゴールベースアプローチ」といった言葉が独り歩きしてはいないだろうか。証券投資理論、コーポレートファイナンス、機関投資家の資産運用などの研究と比較して、個人の資産形成・資産活用分野における研究面に遅れはないのか。といった問題意識があります。
公的年金・企業年金の資産運用も、当初は理論的な研究が遅れていたものの、1980年代から1990年代にかけて理論面・実践面の骨格が形成され、年金ALM(Asset and Liability Management:資産と負債の総合管理)による政策アセットミクスの策定(資産配分の基本方針)・PDCAサイクルの確立へと発展してきた経緯があります。
パーソナルファイナンスの分野でも、公的年金や企業年金を補完する「自助」による資産形成・資産活用の重要性が益々高まっていることを考え合わせると、年金運用が高度化してきた流れも踏まえて、個人の「ライフプランに応じたマネープラン」を体系的に研究し、その成果を「教育内容の改善」「より洗練された商品・サービスの開発」「個人向けのアドバイス業務」に活かしていくような体制整備が望まれますし、このことは「顧客本位の業務運営に関する原則」のよりよい実践にも繋がっていくはずであると考えています。
今回は「金融経済教育」に関わる課題について考察してみましたが、次回コラムでは、その「担い手育成」や「基盤整備」の方向性などについて考えてみます。
※本コラムの見解・意見に係る部分はすべて筆者個人のものであり、所属する組織の見解を示すものではありません。
井戸 照喜 上席理事 資産形成層(職域)横断領域
1989年 東京大学大学院 工学系研究科修了。住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。企業年金制度の設計・年金ALM、運用商品の開発・選定等に従事後、2008年からラップ口座、投信・保険等の推進担当、トラストバンカシュアランス推進担当役員、2019年三井住友トラスト・ライフパートナーズ取締役社長、2022年資産形成層(職域)横断領域 副統括役員を経て、23年より現職。
22年より「老後資産形成に関する継続研究会 研究会委員」を兼任(公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構)。
日本証券アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)、
『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)(共著)
【第117回】学校・職場等での「金融経済教育」を巡り浮上する課題とその対応 ①
FOR FINANCIAL WELL-BEING
2023.08.16
2023.08.10
2023年1月にミライ研が1万人を対象に実施したアンケート調査をもとに、ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)の見地から「健全な借入れ」について考察しました。
【トピックス】
・「できれば借金はしないほうが良い」が61.7%
・借入金額2,000万円以上では、「5人に2人」が返済比率3割以上
・頭金「ゼロ」では、「ローン返済」と「資産形成」の両立が困難な人が約半数
ぜひご覧ください。
レポート
2023.08.10
「金融教育の資産形成効果」について考えるシリーズの後編です。
前回は、学校や職場で金融教育を受けたことが「ある」人と「ない」人で金融資産保有額にどれぐらいの差が生じるのかを見ました。今回は、受けたことが「ある」人の中で、受講した時期によって保有額がどれぐらい違うかを見てみます。
図表1は、金融教育を受講した時期別の金融資産保有額(金額は世帯ベース)を、年齢階層別にみたものです。
受講時期がいつであっても、金融資産保有額は20歳代から60歳代にかけて増加しています。途中の増え方は一様ではありませんが、概ね40歳代以降に尻上がりに伸びています。
また、受講時期による保有額の差をみると、20歳代時点では220万円強でしたが60歳代時点では990万円弱まで拡大しています。
60歳代時点の保有額を比べると、受講の時期が「小学生の時」の人(2,595万円)と「社会人になってから」の人(2,568万円)が頭一つ抜きんでており、ともに2,500万円を超えています。受講時期が「中学生の時」の人(2,281万円)と「大学生の時」の人(2,250万円)が2番手グループで、保有額は2,200万円台。「高校生の時」に金融教育を受けた人の保有額はおよそ1,607万円にとどまり、唯一、老後資金準備の目安とされる「2,000万円」に届いていません。
続いて、金融教育を受講した時期によって、金融資産保有額が「2,000万円以上」の人の比率にどれぐらい差があるかを、やはり年齢階層別に見てみましょう。
先ほど見た金融資産保有額と同様、受講の時期に関わらず、同比率は20歳代から60歳代にかけて上昇し、また、受講時期による差は20歳代時点の4.8%ポイントから60歳代時点には21.5%ポイントと4倍以上に広がりました。
60歳代時点で保有額が「2,000万円以上」の人の比率が最も高いのは、受講の時期が「小学生の時」の人で、半数(49.5%)が2,000万円以上の金融資産を保有。以下、受講時期が「社会人」の人(43.9%)、「中学生の時」の人(39.9%)と続きます。
60歳代時点の金融資産の平均保有額も、保有額が「2,000万円以上」の人の比率も、最も高いのは「小学生の時」に金融教育を受けた人でした。小さい頃から金融・経済情報に触れることで自然と資産形成意識が育まれ、ノウハウも蓄積されてきた結果でしょうか。
ただし、金融教育の資産形成効果は受講の時期が早いほど(若いほど)大きいのか、若いうちに受けなければ意味がないのかいうと、そんなことはありません。「大学生」や「社会人になってから」受講した人でも、60歳代時点の平均金融資産保有額は2,000万円をゆうに超え、保有額が「2,000万円以上」の人の比率も4割前後に上るなど、「中学・高校時代」に受講した場合と同等かそれ以上の資産形成効果が確認できます。
金融教育の受講に「遅すぎる」とか「もう手遅れ」ということはなく、今からでも受ける価値は十分あるということを、アンケート結果が示してくれています。
※金融教育が資産形成「意識」や資産形成「行動」に与える影響についてご興味がある方は、当コラム第73回~第77回をご覧ください。
【第116回】金融教育の資産形成効果を考える
2023.08.09
2023.08.09
2023.08.08
2023.08.08
「金融教育」、「金融経済教育」という言葉が、世の中に広く浸透し始めています。
岸田首相肝いりで策定された「資産所得倍増プラン」にも、7つの柱の1つとして【安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実】が掲げられ、ますます注目度が上がっているようです。
そこで、今回から2回にわたり、「金融教育の資産形成効果」についてお伝えしようと思います。学校や職場での金融教育の受講経験の有無や、受講した時期によって生じる「資産形成格差」はどれぐらいなのか。アンケート調査の結果からみてみました。
まず今回は、金融教育を受けたことが「ある」か「ない」かによる差についてです。
結論から申し上げますと、学校や職場で金融教育を受けたことが「ある」人と「ない」人では、60歳代時点で、金融資産保有額に500万円以上の差がつきます。
図表1は、金融教育の受講経験が「ある」人と「ない」人の金融資産保有額(金額は世帯ベース)を、年齢階層別にみたものです。どの年齢階層でも、受講経験が「ある」人の方が「ない」人より金融資産保有額は大きく、また、年齢が上がるにつれその差が広がっていることがわかります。
20歳代では、受講経験が「ある」人の保有額は409万円、「ない」人の保有額は314万円で、その差は95万円ですが、60歳代になると、受講経験が「ある」人では2,234万円、「ない」人では1,717万円と、差額は500万円以上(516万円)まで拡大。しかも、老後資金として準備しておくべきひとつの目安とされる「2,000万円」を軸に考えると、受講経験が「ある」人はこのラインを超えているのに対し、「ない」人はまだ超えていない—という形になっています。
ちなみに、1年間に資産形成できた平均金額をみると、金融教育の受講経験が「ある」人では115.3万円/年、受講経験が「ない」人では100.8万円/年と、約15万円の差がありました。仮に、25歳~60歳までの35年間資産形成を続けたとすると、最終的な保有額の差は15万円×35年で525万円となります。前述した「受講経験の有無による60歳代時点の金融資産保有額の差は516万円」と、まずまず平仄が合うと言えるかと思います。
続いて、金融教育の受講経験が「ある」人と「ない」人で、金融資産保有額が「2,000万円以上」の人の比率にどれぐらい差があるかを、やはり年齢階層別に見てみました。
どの年齢階層でも、受講経験が「ある」人の方が「ない」人より比率が高いのは、先ほどの金融資産保有額と同じです。そして、受講経験が「ある」人も「ない」人も、40歳代を過ぎると、保有額「2,000万円以上」の人の比率が2倍、2倍と急上昇し、両者の差が拡大していきます(図表2)。
60歳代では、受講経験が「ある」人で4割(39.4%)、「ない」人では3割(29.4%)と、ちょうど1割の差がつきました。年金生活を間近に控えた年齢でのこの差。金融教育は、「老後資金2,000万円問題」を考える上でも重要なファクターとなりそうです。
ただ、金融教育を受けたことが「ない」人でも、保有額が「1,500万円以上2,000万円未満」の層、言わば「2,000万円クリア予備軍」は7.9%と、ある程度厚みがあります(図表3)。金融教育を味方にしてのもうひと頑張りに期待したいところです。
金融教育を受講することの資産形成効果をまとめると、
①60歳代時点の平均金融資産保有額が500万円以上アップ
②「保有額が2,000万円以上」の人の比率も1割アップ
—ということになります。
「金融教育を受ける」というと、個々の金融商品の特徴や、「NISAについて」「年金制度について」「ドルコスト平均法について」といった個別具体的な知識の取得をイメージされる方が少なくないかもしれません。それはそれで非常に大切ですが、受講をすることで、「将来に向けて自分のお金を自分でマネージしていく」という自覚・意識が芽生える(人が多い)という点も見逃せません。
意識の覚醒と具体的なノウハウの習得という2つの意味で、金融教育が老後のための資金づくりに果たす役割は大きいと言えるでしょう。
次回は、金融教育の受講経験が「ある」人の中で、受講した時期によって金融資産保有額にどれぐらいの差が生じるのかをみてみます。
【第115回】金融教育の資産形成効果を考える
2023.08.02
2023.08.02
2023.07.26
前回のコラムでは、自分が支払った保険料は今年金を受け取っている人のところにわたっている(仕送りの制度である)ということや、自分が支払っている保険料のほかにも、会社が負担する保険料、積立金、税金によって給付が賄われているということを見てきました。
高齢者の長寿化が進み、若い方の人数はどんどん減ってきています。そのため、特に若い方の中には、「若者から高齢者への仕送りの制度なのに、このままで自分が受け取るときに年金は大丈夫なのだろうか」という不安もあるのではないかと思います。今回はそのあたりの仕組みを詳しく見ていきたいと思います。
高齢者の長寿化はどんどん進んでいます。65歳以降に平均的に何年生きるかを表す「65歳平均余命」の推移を見てみると、図表1のとおりどんどん長くなっていますし、今後もさらに長生きになる見込みです。「65歳平均余命」は、老後の年金を65歳から受け取る場合の平均的な年金支給期間と考えることもできます。長生きすればそれだけ長い期間年金を受け取れるということは、個々人から見れば、「長生きしたときにお金が足りなくなるリスクに備えられる」という意味では良いことなのですが、その反面、年金の財源の観点では不安要素かもしれません。
また、図表2のとおり、65歳以上の人口と比べて20~64歳の人口の割合はどんどん少なくなっていっています。「明日の安心 社会保障と税の一体改革を考える」という政府広報パンフレットからとってきましたが、これを見ていると、何だか「安心」というより「不安」になる感じがしますね…。
一方で、昔の60代と今の60代では健康状態が全く異なりますし、労働環境の面でも高齢者が長く働けるようになってきています。また、女性も昔と比べれば就業を続けやすい環境になってきています。こういったことも背景に、就業者数と非就業者数の比率でみれば、実は昔と今とではそれほど変化がありません。図表3で見ると、結構違う印象を持つのではないでしょうか。
65歳以上1人に対する20~64歳の人数を見ると、確かに急速に1人あたりの負担感が高まっていますが、非就業者1人に対する就業者の人数で見ると、ほぼ変化がありません。保険料を支払う人と年金の給付を受け取る人のバランスは、単純に年齢で区切るよりも、就業者か非就業者かで考えるほうが実態を表していると考えられますので、年金制度に対してはそこまで急速な変化は起こらないという見方もできるのではないでしょうか。
それでも用心深い人にとっては、高齢者の長生きも現役世代の人数減少も心配かもしれません。そこで、高齢者が長生きしたり、若者の人数が減少したりすることに合わせて、給付の上昇を抑える仕組みがありますのでご紹介します。この仕組みは「マクロ経済スライド」と呼ばれます。具体的な数字で確認してみましょう。
第91回のコラムでご紹介したとおり、65歳から受け取れる基礎年金額は、2022年度でいえば年額777,800円、2023年度でいえば年額795,000円でした。年金の受け取り額は物価や賃上げに連動して増えるのが基本です。本来、65歳から受け取る年金額は、賃上げに連動して毎年増額改定されるのですが、賃上げが2.8%相当であったところ、「マクロ経済スライド」によって増額幅が0.6%分(現役世代の人数減少率に高齢者の長寿化を加味した率)だけ抑制されて、結果的に2.8%-0.6%=2.2%の増加幅になりました。つまり、777,800×1.022≒795,000というわけです。受取額が抑制されるとはいっても、賃金や物価の伸びに追いつかないということであって、去年の金額より低くするものではありません。
現在の日本の年金制度では、保険料水準を固定して、その代わり、給付水準を調整することによって収支のバランスをとっています。「マクロ経済スライド」はいわば、「将来若者が年金を受け取るときのために、今の受給者にも少しだけ我慢していただいて、積立金として取っておく」ものです。世代を分断する仕組みではなく、むしろ、すべての世代で人口の変化を乗り切るためによく工夫された仕組みだと思います。
また、この「マクロ経済スライド」という給付抑制は永遠に行われ続けるわけではありません。財源(保険料、国庫負担(税金)、積立金)と給付について将来の約100年間のバランスを厚生労働省が検証し、給付抑制の必要がなくなれば「マクロ経済スライド」を止めることになっています。さらに、「マクロ経済スライド」により年金額が低くなりすぎないかも厚生労働省は検証していて、この検証は5年に1度行われています。このように、ある程度の給付水準を保ったままで制度が維持できるよう、様々な工夫がされています。
全3回にわたって年金制度の仕組みを解説してきました。個々人の視点で見れば、支払う保険料を上回る年金を老後に受け取れることのほか、自分が支払う保険料以外にも会社が支払う保険料や積立金・税金といった財源があること、人口のバランスに対応して給付額を調整する仕組みがあることなど、年金制度が破綻しないための仕組みが二重三重に整えられていることがお分かりいただけたかと思います。
【ご参考】年金については、当社公式YouTubeチャンネルの「教えて!信託さん 資産形成編」でも解説しています
【第114回】
2023.07.26
2023.07.19
第112回のコラムでは、個人単位で見たときに、どうやら保険料よりも給付のほうが多く受け取れそうという話をしました。でもそうすると、国全体として財源は足りるのだろうかと心配になる方もいらっしゃるかもしれません。
図表1は、国全体で見たときの1年あたりのお金の流れです。保険料約39.6兆円に対して年金給付が56.7兆円です。しかも、この保険料というのは、第2号被保険者の場合は半分が事業主負担です。国全体で見てもやはり給付のほうが多いことが分かります。
その分、保険料以外の財源として、積立金や国庫負担もあります。では、国全体での年金に関するお金の流れがどのような仕組みになっているのか詳しく見ていきましょう。
図表2のように、将来の自分のために自分で積み立てる方式を文字どおり積立方式といいます。例えば、iDeCoは自分のお金を拠出して運用し、自分で受け取りますので、積立方式の一種と考えられます。諸外国には、第95回のコラムでご紹介したシンガポールのほか、オーストラリアやチリなど、公的年金を積立方式で運営している国も少数ながらあります。
一方で、日本の公的年金は、自分の保険料を自分で受け取る積立方式ではありません。図表3のように、今若い方々が働いて支払っている保険料は、今年金を受け取っている方々にわたっています。この方式を賦課方式といいます。言ってみれば、働く世代から受給世代への「仕送り」の一種と考えることができます。第91回のコラムで、公的年金はインフレに備える保険の機能があるという話をしましたが、賦課方式ではその時々の現役世代の(給与からの)保険料を原資として直接年金の給付に充てますので、賃金水準の変化に応じた給付にしやすいという特徴があります。この賦課方式という仕送り制度を採用している国は、日本だけではありません。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンなど、主要先進国で広く用いられている方式です。
また、過去の世代が支払っていた保険料が全て使われてしまったわけではありません。過去に給付に充てられなかった保険料は積立金として積み立てられていて、図表1で見たように現在約200兆円の余裕があります。それこそ保険料を誰も支払わなくても3~4年間は給付に困らないような金額の積立ができているのです。その多額の積立金は、将来の給付に向けて資産運用されています。国内外の資産に分散投資が行われており、年金積立金管理運用独立行政法人「2022年度業務概況書」によれば、2001年以降の収益率は年率3.59%、累積収益額は約108.4兆円にのぼります。
保険料だけでなく、この積立金自体や、積立金の運用で得られる運用収益も給付に充てることができます。ですので、純粋な賦課方式ではなくて、修正賦課方式と呼ばれることもあります。
さらに、普段皆さんが買い物をして支払う消費税のうち一部は、基礎年金の財源にもなっています(「国庫負担」といいます)。現在、各財源からのお金の流れは先程の図表1のようになっていますが、このバランスは徐々に変化していく見通しです。具体的には、保険料(事業主負担含む)、積立金、国庫負担は、図表6のようなバランスで給付に充てられる見通しです。
このように、自分で支払う保険料以外にも、会社が負担する保険料や、積立金、国庫負担という安定した財源があって、支払った保険料以上の給付が受け取れるというわけです。
しかし、そうはいっても、やはり日本では長寿化が進んでいて、しかも若者の数が減っているという現状があります。「保険料の他に税金や積立金があるといっても、仕送りをしている以上は、保険料を支払う人が減るとやはり破綻してしまうのでは?」と不安に思われている方もいらっしゃるかもしれません。そのあたりについては、次回のコラムにて。
【ご参考】年金については、当社公式YouTubeチャンネルの「教えて!信託さん 資産形成編」でも解説しています
【第113回】
2023.07.19
第92回のコラムでは、公的年金は老後だけでなく障害年金や遺族年金も含めたトータルの保険制度であるということを見てきました。ですが、やはり多くの人の関心事は老後の年金だろうと思います。なかでも、公的年金は払い損なのではないかとか、破綻してしまうのではないかという不安を持っている方もいらっしゃると思います。本来、公的年金は保険制度ですので損得で考えることは馴染みませんが、それでも敢えて今回は、公的年金は払い損ではないということを数字で確認してみたいと思います。(※以降の計算において端数は四捨五入)
まず、国民年金のみに加入する第1号被保険者の場合です。2023年度の保険料は月額16,980 円です。本当は世間の賃金水準に応じて毎年保険料は改定されますが、計算を簡単にするために40年間この金額だったとします。そうすると、支払う保険料の総額は、
16,980(円/ケ月)×12(ケ月/年)×40年=約800万円
となります。
一方、2023年度に65歳から受け取る基礎年金の給付額は年額795,000円(月額66,250円)です。何歳まで生きるかは分かりませんが、仮に65歳から90歳までの25年間に受け取る額を単純計算すると、
795,000(円/年)×25(年)=約2,000万円
となり、支払った保険料を上回る給付を受け取る計算になります。
しかし、実際には保険料も年金額も改定されるので、2倍受け取れるわけではありません。厚生労働省の2019(令和元)年財政検証結果レポート(ケースⅢ、人口中位)を参考に、2020年に20歳の方について、インフレや賃上げのほか、将来の人口減少や長寿化による給付抑制を考慮したシミュレーションに基づいて概算を行ってみました。すると、保険料総額(物価調整後)は約1,300万円、25年間の年金給付総額(物価調整後)は約2,300万円となりました。これでもやはり年金給付は保険料を上回ります。
今度は、厚生年金保険にも加入している第2号被保険者の場合です。第2号被保険者は、厚生年金保険に加えて国民年金にも加入していますが、支払う保険料は厚生年金保険料のみで、受け取る給付額は基礎年金+厚生年金となります。
ここでは、第91回のコラムで例示した平均月収30万円で40年間厚生年金保険に加入する場合で考えます。保険料は、月収に対して会社と本人が半分ずつ合計18.3%負担するので本人の分は9.15%ということになります。40年間の保険料としては単純計算では、
30万(円/ケ月)×9.15%×12(ケ月/年)×40(年)=約1,300万円
となります。
一方で、65歳から90歳までの25年間の給付額を単純計算すると、基礎年金と厚生年金の合算で
132,022(円/ケ月)×12(ケ月/年)×25年=約4,000万円
ですので、支払った保険料を大きく上回る計算になります。
実際には保険料も年金額も改定されますので、先程と同様の概算を行うと、保険料総額(物価調整後)は約2,200万円、25年間の年金給付総額(物価調整後)は約5,200万円となりました。これでもやはり年金給付は保険料を上回ります。
今後の経済環境にも左右されますので、複数の経済前提のもとで給付と保険料を比較してみました。図表1の3つのケースではいずれの場合も、保険料総額(物価調整後)よりも25年間の年金給付総額(物価調整後)のほうが多くなりました。
このように、公的年金は決して払い損ではなさそうに見えるのですが、支払った保険料よりも受け取る給付額が多いなんて、「そんな制度を維持できる財源はあるのか?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。財源がどうなっているのかについては、次回のコラムで解説します。
【ご参考】年金については、当社公式YouTubeチャンネルの「教えて!信託さん 資産形成編」でも解説しています
【第112回】
2023.07.12
2023.07.12
2023.07.10
2023.07.07
令和の金融リテラシー事情を探るべく、2023年1月、ミライ研は1万人を対象にアンケート調査を実施しました。
【トピックス】
・1万人分の「金融リテラシー度」をスコア化
・金融教育、資産形成、住まい、働く目的の観点から「金融リテラシー度」が高い人の特徴を分析
ぜひご覧ください。
レポート
2023.07.07
前回のコラムに引き続き、ミライ研レポート「令和の“住まい”と住宅ローン事情」で取り上げたデータについて考えてみたいと思います。
今回の調査では、住宅ローンを利用して自宅を購入した人に対し、「住宅ローンの返済期間(当初の設定期間)」と「金利形態」を尋ねました。
「返済期間」については、全年代では「25年以上~35年未満」が約4割、「35年以上」は約2割、という結果でしたが、30代に注目すると「25年以上~35年未満」が4割という点は全年代と変わらないものの、「35年以上」も4割(39.5%)を占めており、この比率は全年代平均の2倍となっていることがわかりました【図表1】。
「金利形態」については、本アンケート調査(過去3回実施)で、初めて「単独の設問」として尋ねたものですが、全年代では変動金利が約6割、固定金利は3割強、変動と固定の組み合わせが1割弱と、「変動金利が主流」の構図が確認できました【図表2】。
年代別に変動金利の利用率を見ていくと、20代で64.4%、30代で66.3%となっており、若年層で利用率が高くなっていることがうかがえる結果となっています。
また、「金利形態」と「借入金額(当初設定額)」のクロス分析を行ったところ、住宅ローンを現在利用中している人(1,154人)について、全体の変動金利の利用率と借入金額区分別の利用率とを比較してみると「借入金額3,000万円」を境に変動金利の利用率が上昇していることが確認できました。具体的には、「借入金額区分2,000万円~3,000万円未満 ⇒ 変動金利利用率は55.0%」より大きな金額区分の変動金利の利用率は順に62.4%、70.2%、64.3%と「6割から7割」に上昇しています【図表3】。
住宅ローンにおける変動金利の基準金利は、長らく店頭表示金利ベースで年2.475%の水準が続いています。適用金利(各金融機関の金利優遇対応を織り込んだ金利)は、インターネットなどで確認をすると2023年6月時点で実勢で年0.5%~1.0%の水準であり、歴史的にも極めて低い水準です。一方、現在の固定金利水準も、過去の金利の変遷から見て極めて低い水準(返済期間35年で実勢は年1.2%~2.0%)です。
住宅価格が高騰してきていることを背景として、住宅取得時に高額の借入金額を設定するケースでは、変動/固定双方の当初返済額(月額・年額)などを見て「変動と固定の差分」が「家計の逼迫感」に及ぼす影響を勘案し金利形態を選択しているのではないかと考えられます。
参考として、前提(借入金額:3,000万円、返済期間:35年、変動金利でも期間中の金利変動がないものとした)をおいて新規借入の試算を行ってみた結果が以下です(ミライ研にて試算)【図表4】。
「変動金利は金利上昇局面において返済負担が大きくなる」というリスクは認識しているものの、返済開始当初において「(金利上昇リスクはあるものの)目先の返済金額は可能な限り抑えておきたい」との気持ちが高まる分水嶺が「借入金額3,000万円ライン」ではないかと考察しています。
【第111回】令和の“住まい”と住宅ローン事情
2023.07.05
2023.07.05
2023.07.03
2023.06.28
ミライ研では毎年、1万人規模の独自アンケート調査を実施しています。今年も令和の住宅ローン事情についてアンケート結果を公表しています。注目度が高い“住宅ローン事情”について2回にわたってお届けさせていただきます。
今回の調査結果では、住宅ローンを利用して自宅を購入した人(2,964人)のうち、全年代では単独ローン利用率が72.0%、ペアローン利用率は8.9%となっており、単独ローンが多数派であるものの、年代別に利用率をみてみると【図表1】、20代・30代でのペアローン利用は約2割を占めており、全年代での比率の2倍の水準でした。また、当初借入額では「単独ローン<ペアローン」の構図が鮮明となっており、20代・30代では、700万から900万円程度ペアローンの方が高額で、単独ローンと比較すると20代で138%、30代で127%の水準となっていました【図表2】。
若い世代を中心に広く定着しているペアローンですが、その背景には共働き世帯の増加や、住宅費用を夫婦で「応分に負担しようという意識」と「負担できる環境」が進んだことが考えられます。
総務省の統計データをみると【図表3】、40年前(1983年)の共働き世帯数は専業主婦世帯数の約7割でしたが、30年前(1993年)に初めて専業主婦世帯数を上回り、直近2022年では1,262万世帯と専業主婦世帯数の2.3倍に達しています。
内閣府によれば女性が職業を持つことに対する意識についての2019年の調査(*1)では「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」の割合は男女ともに6割前後まで上昇してきています。
また、総務省の統計データ(*2)から2021年における女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)をみてみると、25~29歳が86.9%、30~34歳が79.4%と以前よりもM字カーブの底が浅くなってきています。こういった「世帯における働き手の意識と環境の変化」がペアローン需要を支えていると分析しています。
一般的に、ペアローンは「共働き世帯」で利用されますが、20年、30年といった返済期間において「共働き状態」が継続することが前提になっています。利点として、
などが期待できる一方で、「子育て」や「転職」といったライフイベントなどの発生時にパートナーの収入が大きく減少した場合でもローン返済を継続できるかどうか、という点を世帯の「ライフプラン」「キャリアプラン」の中で十分に検討しておくことが望まれます。
住宅価格が過去最高を更新している昨今、「2馬力が前提」の計画だけでなく「2馬力→1馬力」への変更があってもローンの返済ができる借入額で検討する、言い換えると「夢と希望の物件ファースト」ではなく「安定的な返済計画ファースト」での住まい購入を考えるスタンスが重要になってきていると思われます。
次回コラムでは、住宅ローンにおける金利形態(変動金利・固定金利)の利用状況についてお届けいたします。
【第110回】令和の“住まい”と住宅ローン事情
2023.06.28
2023.06.26
令和の資産形成事情を探るべく、2023年1月、ミライ研は1万人を対象にアンケート調査を実施しました。
【トピックス】
・老後資金は4割〜5割が「金額の想像がつかない」と回答
・退職金・企業年金は「制度」としては知っているが「支給水準」は知らない
・資産形成への取り組みは、1位が預貯金、2位が投資信託
・資産形成に関する税制優遇制度の活用は4人に1人
ぜひご覧ください。
レポート
2023.06.26
2023.06.22
2023.06.21
現在50歳代の人はおおむね1960年代に生まれた世代です。日々豊かになっていくことが当たり前の高度成長期(1954〜1973年)に育ったこともあって、戦中・戦後のモノ不足を経験した世代とは感覚にギャップがあり、若い頃には「新人類」などと呼ばれました。
この世代の特徴は、3つの点で「最後の世代」であるということです。
現在50歳代の人たちの中核は、バブル景気に沸く1990年前後に社会人となった「バブル世代」です。入社後しばらくは、「24時間戦えますか?」のCMでおなじみの栄養ドリンクを飲みつつ長時間労働にいそしみ、勤務時間外にも接待ゴルフや接待麻雀で縛られるのが当たり前という日々でしたが、その代わり所得面ではバブルの恩恵を存分に受けました。【図表1】をみると、初任給が10年間で5万円以上上がった時代に就職し、その後も数年間給与が上がり続けたことがわかります。
新車やブランド品をためらわずに買い、休暇のたびに海外旅行に出かけ、1年前からクリスマスの高額ディナーを予約するなど、とにかく積極的でパワフルなこの世代の消費行動は、こうした恵まれた雇用所得環境のもとで生まれたといえるでしょう。
この世代は、1986年の男女雇用機会均等法施行後に就職した最初の世代ですが、男性と同じように働き続ける女性はまだ少数派だったようです。この世代が20歳代の頃の女性有業者比率は62.9%でしたが30歳代になると58.1%へと低下、とりわけ正規職員比率は47.3%から27.2%へと大きく低下しました。平均初婚年齢が25歳台、第1子出産年齢が26〜27歳であった時代であり、結婚・出産のタイミングで退職する(少なくとも正社員は辞める)という、今となっては死語の「寿退社」が少なくなかったと考えられます。
この世代の20歳代時点の平均貯蓄残高は348万円と、10歳下の世代より25万円低くなっています。旺盛な消費意欲を発揮した裏返しでもあるのでしょうが、「若いころから頑張って資産形成した」とは言えそうにありません。
しかし、その後の貯蓄の積増しはまずまず順調だったといえます【図表2】。
理由としては、40歳代まで賃金が大きく伸びていたこと【図表3】が大きいでしょう。
バブル崩壊や大手金融機関の破綻、リーマンショックなどを経て30歳代以降にはこの世代の雇用所得環境にも陰りが出始めましたが、正規雇用者比率が高いこともあって、平均値でみると下の世代ほど深刻な事態には陥らなかったといえます。
また、20歳代の頃から資産形成を始めていた人には、株高・高金利の恩恵もあったでしょう。
足元50歳代時点の貯蓄残高は1,429万円であり、今後も同じペースで積増しを続けた場合、60歳代時点の予想残高は1,814万円となる見込みです【図表2】。10歳下、20歳下の世代の60歳代時点の予想残高よりは心持ち余裕があるものの、老後資金目安額である2,000万円を確保にはもうひと頑張りといったところでしょうか。
【第109回】安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&Aより
2023.06.21
2023.06.14
現在40歳代の人たちが生まれたのは1970年代です。2度の石油ショックに見舞われはしたものの、高度成長期(1954〜1973年)の余韻が残り、基本的に右肩上りの経済環境のなかで子供時代を過ごしました。
その後、高校生〜大学生の頃にバブル経済とその崩壊を経験、企業が新卒採用を絞るなかでの就職を余儀なくされ、「就職氷河期世代」「ロスジェネ(ロストジェネレーション)」と呼ばれるようになりました。社会人になってからも長期にわたり景気停滞が続いたため、「とりあえず」のつもりだった非正規雇用から抜け出せずに現在に至り、経済的に独立できず親元暮らしを続ける人も少なくありません。
住宅取得については年上世代と比べると若干早く始めたようです。この世代の2人以上世帯の平均負債残高は、30歳代時点で898万円、40歳代時点では1,106万円で、10歳年上の世代(残高は30歳代で780万円、40歳代で969万円)と比べ30歳代からローン借入を行う人が多かったと推測されます。住宅価格もローン金利も低く、住宅取得等資金贈与に関する特例も手厚かったなど、恵まれた取得環境を背景に、比較的若いうちから住宅取得に着手した人が多かったことは、この世代の特徴の1つといえるでしょう。40歳代となった現在は、この住宅ローンの返済に加え、中学生〜高校生の子供を持つ親として教育費がかさむ時期を迎えており、資産形成の元手を捻出するのに苦労しているところかもしれません。
そうした事情もあってか、この世代の資産形成はあまり順調に進んでいるとはいえません。足元の平均貯蓄残高は938万円であり、今後も同じペースで積増しを続けた場合、60歳代時点の予想残高は1,553万円と、老後資金の目安額である2,000万円には届かない可能性が高いのです【図表1】。
その基本的な理由として考えられるのは以下の3点です。第一に、この世代の賃金は親世代を含めた年上世代と比べるとかなり伸び悩んでいます【図表2】。90年代末の大手金融機関の破綻や2008年のリーマンショックをはさみながら低成長時代が続き、企業はコスト削減・リストラを敢行、この影響を真っ向から受けたかたちです。
第二に、税金や保険料などの社会保障負担が大きく増加しています。給料がさほど上がらないのにとられるものは増えているわけです。
そして第三に、親世代が資産形成をしていた頃と違って運用環境が芳しくありません。彼らが社会人になって以来、金利はゼロ近辺、株価も長らく2万円以下と低迷が続いていたため【図表3】、給料が伸び悩みローン返済や教育費などの支出がかさむなかで何とか貯蓄や投資に回すお金をひねり出したとしても、その元手は思うようには増加してくれないという期間が長く続きました。
さらに、退職金や親からの遺産が資産形成を後押しする力も弱まっており、資産形成の「最後の切り札」とはなりそうにありません。退職金給付制度がない企業が増加しており足元では2割を超えていますし、制度がある企業においても給付額は2003年2,499万円→2018年1,788万円と15年間で700万円も減少しています【図表4】。
また親から受け取る遺産についても、親世代が保有する資産額が1994年9,260万円→2014年4,759万円と20年間で半額近くまで減っているうえ、2015年に相続税制改正があり、2019年にはさらに減って、4,205万円と25年前の半分以下にまで減ってしまっています。
今後に目を転じると、団塊ジュニア世代(1971〜74年生まれ)を内包するこの世代は人数が多いため、公的年金や健康保険など社会保障制度を変更する節目の対象となりやすく、将来的な給付減や負担増は不可避という声も少なくありません。必要な老後資金が2,000万円より大きくなることも十分考えられます。
現在40歳代の世代の老後資金準備が厳しい状況にあることは否めません。ただ、明るい材料も出始めています。確定拠出年金(DC)は期間延長や加入要件緩和などの制度変更が実施されましたし、2024年からは内容が拡充・恒久化されたNISA(少額投資非課税制度)がスタートする予定です。また「働き方改革」の一環として、高齢者の就業拡大に向けた法改正や副業・兼業を後押しする体制整備も進みつつあります。資産形成の王道である積立貯蓄・投資に加え、副業や就業継続による労働収入の引上げ、住宅などの実物資産のキャッシュ化も含め、トータルな老後資金づくりが可能になってきています。
次回コラムでは、50歳代の人たちの特徴について取り上げてみたいと思います。
【第108回】安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&Aより
2023.06.14
2023.06.09
令和の”住まい”と住宅ローン事情を探るべく、2023年1月、ミライ研は1万人を対象にアンケート調査を実施しました。
【トピックス】
・頭金は「ゼロもしくは1割」が主流
・20歳代、30歳代の2割がペアローンを利用
・住宅ローン金利形態−変動金利が主流
ぜひご覧ください。
レポート
2023.06.09
前回のコラムでは、30歳代以下の方が歩んできた時代背景についてお伝えしました。それらは「お金まわり」の考え方に、どのような影響を与えているのでしょうか。
この世代の経済的な豊かさへの欲求や消費意欲は、年上世代、とりわけバブル世代などと比べると低いようです。これは家計収支のデータにも現れています。
前回のコラムでもお伝えした通り、共働き夫婦が多いこととも関連しますが、現在30歳代の世帯の収入は、年上の世代が30歳代だった頃より月4〜5万円多く、近年増加している税金や社会保障負担を差し引いた可処分所得ベースでも月2〜4万円上回っています。
しかし、収入が多いからといってその分消費も増やしているわけではありません。月々の消費支出は28.3万円で10歳上の世代とは同額、20歳上のバブル世代と比べると1万円以上少ないのです。可処分所得のうち消費に回した割合である平均消費性向も、10歳上、20歳上の世代が30歳代だった頃には68%前後であったのに対し、現在の30歳代世帯は62.2%とかなり低めです。逆に、月々の貯蓄純増額(預入額−引出額)は15.8万円と、年上世代より6万円以上多くなっています【図表1】。
また、消費の中身も、食費や社会インフラともいえる通信費などの比率が高く、衣服や靴、カバンなどの身の回り品やレジャーへの支出比率は相対的に低くなっており、消費意欲旺盛なバブル世代とは対照的です。30歳代以下の若い世代は、消費にはさほど重きを置いておらず貯蓄志向が高いことがみてとれます。
30歳代世帯の平均貯蓄残高は575万円で、年上世代が30歳代の時と比較すると、今のところ特に資産形成が進んでいるとはいえません【図表2】。
仮にこれまでと同じペースで貯蓄積増しを続けるとすると、60歳代になった時の平均予想残高は1,349万円であり、老後の生活に必要な資金の目安である2,000万円には到底届きません。
とはいえ、共働き、しかも夫婦ともに正規雇用者の比率が高い世代なので、40歳代になり夫婦ダブルで所得が増えてくれば、もともと貯蓄意識が高い世代なだけに資産形成ペースの加速が期待できます。バブル崩壊やリーマンショックで自身の投資に痛手を受けた経験がないことや、長期投資の恩恵を受けられる「時間」があることから、預貯金一辺倒ではなく投資運用に目を向ける可能性もあるでしょう。
環境問題や気候変動問題が深刻化するなかで育ち、シェアリングエコノミーや個人間取引をすでに実践している人も多いこの世代は、資産形成に関しても、クラウドファンディング、SDGs関連投資など従来の型にはまらない多様な方法で行う素地を持っていそうです。他方、スキルアップや資格取得、さらには学習時間確保のための家事外注といった「自分への投資」のほうが運用よりも資産形成への確実な道だと考える人も少なくないと考えられます。
30歳代以下の方たちが歩んできた時代背景やお金まわりの考え方はいかがだったでしょうか。次回コラムでは、40歳代の人たちの特徴について取り上げてみたいと思います。
【第107回】安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&Aより
2023.06.07
2023.06.07
2023.05.31
「バブル経済」「インターネット」「携帯電話」「SNS」「人工知能」「ウェルビーイング」……。人類は絶えず進化を続けており、その流れは世の中における価値観や特徴を生み出し、その時代を生きる人々に意識的・無意識的に大きな影響を与えています。2023年においては、価値観は多様化し、一人ひとりが自分らしさを追求する時代に突入していますが、それを考えるにあたっても、これまでに歩んできた時代の価値観や経験を完全に切り離すことは難しいのではないでしょうか。
ここからの4回シリーズでは、現在30歳代、40歳代、50歳代の方が歩んできた時代背景や各世代の特徴をマクロ的な視点からお伝えしたいと思います。是非、「確かにそんな時代もあったよね~」「話には聞いていたけれど、本当にそんな時代だったのね!」など、ご自身のこれからをイメージしていただくにあたって少し振り返って眺めてみてください。
(本シリーズは、安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&Aに掲載した内容を再構成しお伝えさせていただきます。)
現在30歳代以下の世代は、1980年以降、日本において少子化が進行するなかで生まれ育ちました。いわゆる「1.57ショック」の年である1990年に生まれた人を含む30歳代の人口は1,366万人で、現在40歳代の人口1,741万人のおよそ5分の4にとどまります。また、20歳代の人口は1,267万人とさらに少なくなっています。
この世代には、育ってきた時代背景や受けてきた教育を反映したいくつかの特徴がみられます。
この世代は、少なくとも物心がついて以降は右肩上りとはほぼ無縁の経済環境のもとで、多くが「ゆとり学習」を受けて成長しました。そのせいか、総じてガツガツしたところがなく物事を達観してみる傾向があり、「ゆとり世代」「さとり世代」と呼ばれます。
この世代は、「デジタルネイティブ」という側面も持ち合わせています。現在30歳代半ばの人たちが中学〜高校生の頃、20歳代の人たちが幼稚園に通っていた頃にはインターネット普及率が5割を超えており【図表1】、これに関連したメディア・サービスを子供の頃からごく当たり前に利用してきました。
彼らが社会人になる頃には、終身雇用や年功序列の賃金制度など日本的経営慣行からの脱却が始まっていました。また、エンジェル税制の拡充など資金が潤沢でない若者でも起業しやすい環境が整いつつあります。このため、「スキルと知識によっては新入社員で年収1,000万円」など、年上世代と比べ若いうちから稼げる人も現れており、比較的早い時期から世代内における経済格差がつきやすい世代となる可能性があります。
就業観についても、1つの企業で働き続けるという意識が薄かったり、勤務地も東京にこだわらなかったりなど、過去の世代と比べ柔軟な人が多いようです。
就業に関しては、共働き夫婦比率、なかでも2人揃って正規雇用者として働く夫婦の比率が高いことも特徴です。現在30歳代の夫婦の64.7%が共働きであり、うち26.5%は夫婦ともに正規雇用者として働いています。10年前、現在40歳代の人たちが30歳代だった頃の共働き夫婦比率は51.1%、正規雇用者夫婦の比率は17.7%であり、共働き化の進展が明らかです【図表2】。
共働き夫婦の増加は、経済的な必要性や法制面の整備による部分も大きいですが、教育制度の変化も影響しているでしょう。女子のみの必修科目であった家庭科が、中学校では1993年度から、高等学校では1994年度から男女共修となったため、現在40代半ばより下の世代は男女ともに家庭科を学んでおり、ジェンダーギャップ意識が相対的に希薄といわれます。
さて、このような時代背景を持つ30歳代以下の世代は「お金まわり」にはどのような特徴がみられるのでしょうか。そちらに関しては次回コラムにて。
【第106回】安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&Aより
2023.05.31
2023.05.17
前回のコラムで若年層における資産形成事情を「意識」と「行動」の側面から見てきましたが、全3回最後となる今回のコラムでは少し観点を変えて、若年層における「金融リテラシー」にフォーカスして見ていきたいと思います。
※本コラムにおいても、前回同様、「若年層=20歳代(18-19歳の回答含む)」を前提としています。
そもそも「金融リテラシー」が若年層に対して、どの程度浸透しているのかを見てみましょう。ミライ研にて実施した「金融リテラシー度とファイナンシャル ウェルビーイングに関する実態調査」(2023年)において【図表1】「金融リテラシーと聞くとどういった内容をイメージしますか」と伺った項目では、それぞれイメージする内容は異なりながらも全体平均を上回っていることに加え、「『金融リテラシー』という言葉を聞いたことはない」と回答した割合は全年代で最も低い結果となりました。この結果からも若年層の間で「金融リテラシー」は比較的浸透が進んでいると見ることが出来そうです。
では、実際に若年層における金融リテラシーの状況についてはどうでしょうか。同調査では金融リテラシー度を「主観的」・「客観的」の双方から確認しています。主観的な評価に関して【図表2】「あなたは同年代と比較して金融リテラシーが高いと思いますか」の結果を見ると、「高いと思う」と回答した割合が全年代の中で最も高くなったのは若年層となりました。一方で客観的な評価については、各設問の回答結果を基に金融リテラシー度「良好」・「順調」・「不足気味」の三段階で計測しており、【図表3】「年代別金融リテラシー度」で見てみると、若年層で「良好」の割合は全体平均を僅かに下回り、「不足気味」の割合が高くなるという結果となりました。
そこで「主観的な評価」と「客観的な評価」をクロス集計して、評価のギャップを確認してみました。【図表4】「金融リテラシー度の主観的評価と客観的評価」の結果を見ると、赤点線で枠囲みをした部分が「自己評価>客観評価」となった割合を示していますが、若年層ではこちらの値が全年代平均よりも高くなるという結果となりました。全体平均でみるとやや自信過剰?な側面を本結果から伺うことができます。
とはいえ、「金融リテラシー」は社会経験や様々なライフイベントを経ることで、次第に形成されていく側面も多分にあると考えられます。前回コラム「行動編」において、「資産形成に関心はあるもののまだ行動には移せていない」という方も多くいることを確認していたので、若年層における「金融リテラシー」の形成についても、まだ「発展途上段階」にあるといえるのではないでしょうか。
「金融教育」の普及や2024年に控えた「NISA制度の改正」といった背景に加え、SNSやWEB媒体を通して資産形成に関する情報へのアクセスも容易な現代において、今後も若年層における資産形成への関心は高い水準で推移すると考えられますので、私どもミライ研としても引き続き調査・研究を行っていきたいと思います。
【第105回】
2023.05.17
前回のコラムでは、若年層の資産形成事情「意識編」ということで、資産形成や将来設計に関する考えを中心にお話させていただきました。本テーマ2回目となる今回のコラムでは、「行動編」ということで、実際に若年層の方々が、資産形成に向けてどういった取り組みを行っているのか、を中心に見ていきたいと思います。
※本コラムでは「若年層=20歳代(18-19歳の回答含む)」として進めさせていただきます。
ミライ研にて実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)において、「定期・不定期に関わらず、資産形成に向けて行っている取り組みはありますか」【図表1】の項目を見てみると、「ある」と回答した若年層の割合は62.5%と、他年代と比較して大きな差は見られませんでした(むしろ全年代平均を少し下回っていました)。この項目の結果を見ると、資産形成に対しての関心は高いものの、まだ具体的な行動には至っていない方も一定数存在することがわかります。
資産形成に向けた取り組みが「ある」と回答いただいた方は、実際どういった取り組みを行っているのでしょうか。同調査にて【図表2】「資産形成のため利用している制度について」を伺った項目では、若年層取り組み人気No.1は「つみたてNISA」(31.4%)となり、全体平均を大きく上回る結果となりました。逆に「つみたてNISA」以外の制度利用に関しては「個人型確定拠出年金(iDeCo)」を除き、全年代平均を下回る結果となり、若年層の資産形成に向けた取り組みにおける「主役」は「つみたてNISA」となっていることが読み取れます。
実際に若年層における「つみたてNISA」の利用件数はここ数年で大きく上昇しています。金融庁が公表している【図表3】「『つみたてNISA』口座件数の推移」で2018年9月から直近データの2022年9月までの「増加率」を見てみると20歳代が10.2倍となり、全年代のなかでトップとなっていることがわかります。2024年には、NISA制度の大幅改正が予定されているため、今後も若年層の資産形成に「NISAを活用して積立」、という流れは一層拡大していくものと思われます。
本コラムを読んでいただいている若年層の方で「資産形成に取り組みたいけど何から始めればいいかよくわからない」という方は、「NISAの活用」を検討からはじめてみてはいかがでしょうか。次回のコラムでは、若年層の資産形成事情を「金融リテラシー」と絡めながら見ていきたいと思います。
【第104回】
2023.05.10
2023.05.10
日本経済新聞(2023年4月22日)の「くらしの数字考 ペアローンは夢もリスクも1.5倍? 夫婦で住宅、借入増」において、ミライ研究所・丸岡所長のコメントおよび調査データが掲載されました(同記事は日経電子版にも掲載されています)
2023.05.09
2023.05.09
待望のミライ研編著書籍第二弾を刊行いたしました!
本書では、世の中的に関心の高まっている「金融教育」をテーマとし、「ライフプランニング」「マネープランニング」への取組みを土台としつつ、「人生の資産」を「ヒト・モノ・お金」の3つの要素からとらえ、それらを活用しながら、「ファイナンシャル ウェルビーイング(個人の経済面における“良い状態”・お金まわりに関して不安がない状態)」の実現に向けた取り組みについて学ぶことができるようにまとめています。
学校で「金融教育」について学ぶ学生のみなさま、指導される高等学校教諭のみなさまだけでなく、人生100年時代における自分らしいミライを実現したいと考えているみなさまにも、是非ご一読いただけますと幸いです。
2023.05.09
昨年(2022年)に岸田内閣から打ち出された「資産所得倍増プラン」や、NISA制度の大幅見直しをはじめとして、個人家計の資産形成に対する注目は一層の高まりを見せています。併せて「成年年齢の引き下げ」や「高校教育における金融教育必修化」の施行、自助努力意識の高まりなども相まって、「若年層における資産形成」に関するニュースや記事をよく目にするようになりました。そこで今回のコラムでは、若年層に焦点を当てつつ、資産形成に対する意識や取り組みについて、全3回にわたって紐解いてみてみようと思います。
※本コラムでは「若年層=20歳代(18-19歳の回答含む)」として進めさせていただきます。
まずは若年層における資産形成に対する意識を見ていきたいと思います。その前段として、まずは皆さんがお金に関して、どのような不安を抱えているのかを確認してみたいと思います。ミライ研にて実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)アンケートにおける「将来の不安」を伺う項目では、若年層を含めた全年代で「老後資金」に関しての不安がトップとなっています。
また、同アンケート調査「将来の生活設計や資金計画の検討」の項目を見てみると、20歳代の回答は、各項目で全年代平均を僅かに上回る結果となり、中でも「何歳でどんな人生イベントがあるか自分でシミュレーションした」においては、全体の中で最も高い水準となりました。これらの結果から、若年層において、「人生100年時代」で長期化する人生を見据えながら、今後のライフイベントを想定する、という意識も高まっているのではないかと考えられます。
資産形成に向けた金融・経済情報に対する姿勢についても見てみましょう。同アンケート調査「ライフプラン・資産形成に関するセミナーへの参加意向」を伺う項目において20歳代の回答結果は、以下【図表3】の通り「お勤め先の会社・団体から機会提供があれば参加してみたいと思う」で18.0%、「個人で(お勤め先の会社・団体以外の場で)参加してみたいと思う」で29.2%となり、全年代の中で最も高い水準となりました。
続いては情報収集に関する項目を見てみましょう。同アンケート調査で「金融商品(預金、有価証券、保険など)を選択する際に、誰かに話を聞いたり、新たに情報を探したりしますか」と伺った項目では、「している(している・たまにしている計)」と回答した20歳代が31.4%となり、こちらも全年代の中で最も高い水準となりました。
これらのアンケート調査結果から、実際に「若年層における資産形成」に対する意識は、他年代に比べて高いことがわかります。
では、実際に資産形成への取り組み状況はどうなっているか、うまく情報を活用できているか、次回のコラムでは「行動編」ということで更に深堀りしてみていこうと思います。
【第103回】
2023.04.26
2023.04.26
ミライ研では、2020年に『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(編著:ミライ研、発行:一社)金融財政事情研究会)という書籍を世に出させて頂きましたが、その中のコラムで、住まいに関する命題の1つである「持ち家派VS賃貸派、どちらが得か?」を考察しました。幸い、このコラムに各所よりご意見やコメントを寄せていただくことが多く、関心の高いのテーマであると認識しているところです。
今回のミライコラムは、現在の諸数値を用いて、「住居費(住まいに関する総支出額)」という切り口で本テーマを再考していきたいと思います。
考察の前提として、「期間」は50年間(世帯主が30歳代から50年間)とおき、「既婚・子有りの30歳代世帯が、ファミリーで生活する基盤としての住まい」を「首都圏」で準備するケースで考えてみます。
【先攻:賃貸派】
ファミリー用ということで都内3LDKの賃貸マンション(家賃15万円)を1年目から30年間賃借し、31年目から20年間は、子供が独立したことを契機に都内2LDKの賃貸マンション(家賃10万円)に引越すものとします。
インフレや家賃の高騰などは想定に含めていませんが、80歳代までの50年間に要する大まかな住居費として、約8,235万円と見込みました。
【後攻:持ち家派】
首都圏に土地つき戸建て住宅(物件価格5,100万円 ※住宅金融支援機構「2021年度フラット35利用者調査」を参考)を購入。頭金は物件価格の2割(1,020万円)とし、住宅ローンの借入額は4,080万円とします。
ローンの返済額に関しては、返済期間や適用する金利水準・金利タイプ(固定か変動かなど)によって総返済額に大きな差が出てきます。
賃貸派と比較するために、金利(固定)2%、返済期間35年のケースでの「購入時の頭金、諸費用、毎年の税金納付額、修繕費用(外壁塗り替え、躯体防蟻など)、シニア期のリフォーム費用」などを足元の平均な水準で見込み、足し上げてみますと8,310万円となりました【図表2】。
今回の住居費の試算結果としては、持ち家派が総額8,310万円、賃貸派が総額8,235万円となり、その差は75万円となりました。
今回の試算では、制度変更が多い「住宅ローン減税」の影響を勘案していませんので、現状のローン減税効果を織り込むと、持ち家派の住居費は試算結果より低くなります。一方、持ち家の修繕費なども上昇傾向が続いており、持ち家の状態などによって大きく変動し上乗せしなければならないかも知れません。また、購入時の頭金額、住宅ローンの借入金額、適用金利、返済年数の設定次第で、総支払額は大きく変動しますので、「生涯の住居費」を一概に「損か得か」で語ることは難しいと思われます。
比較・対照してみますと「持ち家派」「賃貸派」で優劣を競うというよりも、各々の特徴が見えてきました。ポイントは、住居費には様々な『変数』があることです。具体的には、両者におけるライフイベントが異なること(引越し、リフォームなど)、イベントにかかる費用も異なること、などによって、結果として生涯の住居費フローの波形が異なってくる、だといえそうです。
【図表3】に波形のイメージを掲載していますが、「賃貸派」は期間を通じて住居費フローの波高があまり変動しません。「持ち家派」は初期の購入費用(頭金・諸費用など)や途中のメンテナンス・リフォームで結構、波の高低がありますが、ローン返済完了後は住居費フローとして税金・管理費などが中心となるので、負担が減少し変動も小さくなります。
ここで「人生100年時代」の視点から考えますと「長寿化」の影響がより明確に出てくるのは「賃貸派」といえそうです。「生きている限り、家賃の支払いが続くので、長寿化により家賃支払い期間も長くなる」という影響です。
とはいえ、「賃貸派」は住居費フローの変動があまり大きくないので、ライフプランの変更に合わせた住み替えなどが行いやすく、大きな意味での「人生の選択肢」を将来に残しておくこともできます。
「持ち家派」は「(土地・家屋という)不動産」を保有することで「老後の住み場所」を確保できることから、「老後生活期における住居費フローを小さくするための備え」と考えることもできます。老後の住居費を「家(土地・家屋)の所有という形で担保」するのか、それとも「家賃支払い原資を金融資産で準備」するのか、の違いが「持ち家派VS賃貸派」のポイントだと整理してみると「損か得か」議論から少し離れて、この問題が俯瞰できるように思います。
【第102回】住まいに関する『持ち家VS賃貸』問題
2023.04.19
2023.04.19
2023.04.12
前回(第100回)の当コラムでは、平成時代の「住宅ローンの借入額」「平均所得」「消費者物価」「不動産価格の動向」の推移を見てみました。データからは、
という傾向が読み取れました。
平成時代は、世帯の所得は伸びなかったものの、消費者物価が安定していたことで家計面での逼迫感は緩和されていたと考えられますが、その中で住宅価格は上昇し続けていました。少し俯瞰してみてみると、ライフイベントとしての「住まいの購入」は、他のライフイベントと比べて、個人の家計にとって「より大きなイベント」となってきているといえそうです。
では、ライフイベントとして従来よりも存在感が大きくなってきた“住まい”に対して、どう向き合っていけばよいのでしょうか。
家計における「住まいの購入」の比重が大きくなってくると、通常であれば、「高額物件の販売が鈍化し、価格も適正化に転じる」という流れになりそうですが、平成時代の日本においては、景気後退とデフレの環境下で、「歴史的な低金利水準(ゼロ金利水準)の継続」や「経済対策としての住宅ローン控除(住宅ローン減税)拡充」によって、「住宅価格の上昇」と「住宅購入力の維持」が両立してきたと考えられます。
本連載シリーズでも「住まいの取得状況」として、住宅ローンの頭金の主流が「ゼロもしくは1割」になりつつあること【図表1】や、若い世代の住宅ローンで「ペアローンの活用によるローン枠拡大」が増加中であること【図表2】などを報告してきましたが、これらのデータは、「所得が伸びない中での住宅価格高騰への対抗策」としてとらえることもできそうです。
住宅価格については、世界的なインフレと円安を背景とした建築費の上昇、新築物件価格の高止まりが予想されていますので、住まい購入にかかる住宅ローン借入額も高止まりすると思われます。
今後、国内経済におけるインフレやゼロ金利政策解除などが想定される中で、「30歳~40歳代の住宅ローンあり世帯」にとって「初めてのインフレ、初めての金利上昇」があらわれてくるかも知れません。
これまで住宅ローン金利は歴史的な低水準でしたが、今後、金利上昇局面に転じてくるとどうなるでしょうか?
住宅金融支援機構の2022年の実態調査では、住宅ローンの借入れ形態は「変動金利型が7割」と公表されています。過去において、金利が低い状況から上昇していく局面では、住宅ローン保有者は金利が立ち上がり始める前の比較的低い金利状況で、「変動金利型」から「固定金利型」の住宅ローンに切り替える「住宅ローンの借り換え」を利用するケースが見られました。これは、金利上昇による「ローン返済額の膨張」を回避する方策の1つといえます。
現在ローンを利用している世帯も、今後ローンで住まいを取得しようという世帯も、ローン返済に関するリスク増加(金利上昇や所得の減少など)への対応について、より一層、リテラシーを高めておくことが重要になってきていると思われます。
原点に立ち返ってみますと、現在、「住まいをローンで購入する」というイベントは、30年以上にわたる返済期間を伴うものです。「長い返済期間を通じて、(世帯としての)収入を安定的に維持できるか」の検証や、検証してみて不安がある場合には、「借り入れ額を減らす工夫や取り組み」も考えてみることが大切です(例えば、購入予定の物件価格の再考や、ローンの頭金をしっかり貯めてから住まいを購入する、など)。
将来における環境変化に対して「対応策」が発動できるよう、メディアの記事などに関心を持ち、情報を集めておくなど、「ローンリテラシー」を高めておくことが一層重要になってくると考えられます。
【第101回】家計における“住まい”の比重②
2023.04.12
おかげさまを持ちまして、今回で、当コラム(ミライコラム)は第100回を迎えることができました。お読みいただいております読者のみなさまに厚く御礼申し上げます。人間で「100歳」ですと「百寿(ひゃくじゅ・ももじゅ)」の年祝いとなりますが、当コラムは「週次更新で2年経過」という状況です。大河ドラマは週次ドラマで今年60年を迎えるそうですので、ミライコラムも第100回は「通過点」とさせていただき、200回、300回を目指してまいりたいと思います。
さて、今回のテーマは、今、注目度が高い“お住まい事情”についてです。平成から令和で、どんな変化が見られたのか、を2回にわたってお届けさせていただきます。
当研究所が実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査(2022年)」アンケート調査において、住宅ローンを利用して自宅を保有した2391人に、「住宅の購入時期」と「購入時の当初ローン借入額」について尋ねたところ【図表1】の結果となりました。
今の40歳代で1992~2001年に住宅を購入した人の借入額は平均2,412万円でしたが、2012~2021年に購入した人の借入額は平均2,725万円と約300万円増加しています。
現在30歳代で住宅購入した人の借入額でみても、2002年~2011年に住宅を購入した人の借入額は平均で2,532万円でしたが、2012~2021年では平均3,079万円で、約500万円の増加が確認できました。
現在の30歳代、40歳代は平成時代に社会人として世に出た年代です。
おおよそ30年間の平成時代において、「世帯所得」と「不動産価格の動向」の変化を10年ピッチで眺めてみたのが【図表2】です。
1世帯あたりの平均所得金額をみると2000年は平均616.9万円でしたが、2018年は552.3万円と金額で64.6万円、比率で約1割減少しています。一方、首都圏の新築分譲マンションの1戸あたり平均価格は、2001年に4,026万円だったものが、2021年は6,360万円と2,334万円も上昇しており、2001年比で1.6倍となっています。
一方、消費者物価の平成時代の動きを見てみますと、1998年から2013年の消費者物価の上昇率は、15年間のうち10年間がマイナスであり、全国消費者物価指数(1998年=100)は2013年に96.53にまで低下しています。2013年3月、日銀総裁に黒田氏が就任し、超異次元金融緩和をスタートさせ2014年には 2.7%の急上昇を見せましたが、その後はおおよそ0.3%~0.8%の上昇で推移してきました。
「平成」は、世帯の所得は伸びなかったものの、消費者物価が安定していたことで家計面での逼迫感は緩和されていたと考えられます。しかし、その中で住宅価格は上昇し続けてきています。こういう視点でみますと、「住まいの購入」は他のライフイベントと比して、個人の家計にとっては「より大きなイベント」となってきていることがうかがえます。
次回のコラムでは、ライフイベントとして従来よりも重くなってきた“住まい”にどう向き合っていくかについてお届けいたします。
【第100回】家計における“住まい”の比重①
2023.04.05
2023.04.05
2022年度は高等学校/新学習指導要領スタートの年度で、家庭科における「金融教育」の内容の充実が図られたという点がメディアなどでも注目されました。では一方で、家庭においては「お金」についての会話がなされているのでしょうか。
ミライ研が毎年実施している1万人を対象としたアンケート調査で「お金についてご家族と会話をするか」についてお伺いしたところ【図表1】の結果となりました。
「お金について」といっても、具体的にどのような内容についてかは世代によって、個々人によってイメージされるものは異なるかと思います。しかし、いずれの世代においても、「会話している・たまに会話している」を回答された方よりも、「あまり会話していない・会話していない」と回答された方が多く、後者が約半数という結果となりました。「家族間であっても、お金の話をあまり大っぴらにはするのは気が引ける」といった価値観をお持ちの方も多いかもしれません。
しかし、お金をめぐる環境は日々、目まぐるしく変化しており、老若男女問わずトラブルに巻き込まれる機会が増えています。また、長寿化・多様化の時代においては、「どのような人生を送りたいかを考える=ライフプラン」と、それに基づいた「お金の面での準備は大丈夫かを考える=マネープラン」に個々人が主体的に取り組むことが非常に重要です。
もちろんこれらを踏まえた内容が、冒頭にお伝えした学校教育の中で裾野広く学ばれており、そのこと自体は非常に意義深いことではありますが、金融教育で教わった内容の実践の場は「家庭」が中心になろうかと思います。学校での学びをもう一歩「生きた力」に近づけるためには、祖父母・父母から子どもたちへ「家庭」というリアルな場でやり取りすることが大切かと思われます。
とはいえ、「お金」といっても何から伝えればよいかに悩まれるのではないでしょうか。であれば「お金」だけを切り出して語るのではなく、まずは人生における資産にはどのようなものがあるかについて親子で話してみるのはいかがでしょうか。
人生における資産は、大きく【図表2】の3つに分けられます。
一つ目がヒト=人的資本です。将来、仕事を始めた際にお金を生み出す源となる資産です。人的資本を形成するためには、新たな知識を身に付けたり、学校へ通って新たな仲間と出会ったり、能力の開発に努めたりする必要があります。
二つ目がモノ=物理的資産です。自宅や車、楽器といった形のあるもの(有形資産)を所有することはもちろんのこと、近年であれば、情報やデータといった形のないもの(無形資産)もあります。これらを所有することがすなわち、物理的資産を形成することになります。
三つ目がお金=金融資産です。金融資産を形成するためには、大人であれば仕事に就いて収入を得、それを基に形成していくことが基本となります。子どもにおいては、お小遣いやお年玉というケースが多いかと思います。
このように3つの資産でとらえると、「無駄遣いをせず、とにかくお金を貯めることが良い」のでなく、例えば「お金は使うけれども、大学に行って学ぶこと」など、ヒトやモノの形成につながるお金の使い方は、生きたお金の使い方と伝えることができます。もちろん「ゲームに課金をする」といった、ヒト・モノ・お金の形成のいずれにもつながらないお金の使い方も人生の楽しみとしては重要ですが、お金は無限にあるわけではないので、そればかりではダメだということは子どもにも理解できるかと思います。
これら3つの資産をバランスよく形成していくことが大切だという点を踏まえたうえで、「実現したいことを、お金をやりくりして叶えていく」ということを考えるステップに進みましょう。考え方は大人がライフプラン、マネープランを計画する場合と同様ですが(ご参考:ライフプラン羅針盤第10回)、表の項目を子ども版とした【図表3】をまず活用してみてください。
まずは各月ごとにやりたいことや買いたいものをあげ、それらに必要となるお金(費用)を表の上二行に記載します。この項目をできるだけ明確にしておくことで、各項目に向けたお金の準備(例:6月に友達に誕生日プレゼントを買いたいから、4、5月は○○円手元に残しておこう)や各項目の優先付け(例:7月に本を3冊買い、8月にキャンプへ行く計画は予算オーバーだから、どちらかにしよう。3つの資産の観点から考えると…)を考えることができます。
表の下部には、①に月初に手元にあるお金の額、②に今月のお小遣いなどの収入の額を記載します。③は「家族のサポート」という欄を設けていますが、「その目的にお金を使うのであれば、毎月のお小遣とは別に臨時収入を渡そう」といったケースには、その金額をここに記載します。④にその月に実際に使ったお金、⑤に月末に手元にあるお金の額(⑤=①+②+③-④)を記載します。また、この表をノートに書くとついつい三日坊主…なんてこともありますので、少し大きめの紙に書いて目に留まる場所に貼っておき家族で共有するというのも一つの手かもしれません。
先ほどもお伝えした通り、大人になって自身のライフプラン、マネープランを考えようとなった際には、計画を立てる期間を5~10年と少し引き延ばせば、【図表3】と考えるべきエッセンスは変わりません。お子さまが表を完成させた後は、世帯のライフプラン、マネープランについて家族で会話してみるのも楽しいかと思います。是非、ご家庭でもお金について話し合ってみてください。
【第99回】
2023.03.29
2023.03.29
前回のコラムは、資産形成の器としてDC/iDeCoとNISAについてお伝えしました。
これらの有利な器は、是非両方とも活用いただきたいのですが、取り組むにあたって留意すべき点もあります。そこで今回は、長期的な資産形成をゴールベースで行う場合に心得ておきたいことを解説します。
1点目は、“器別”でなく“資産全体”でリスク資産割合を考えることです。両制度を活用することに主眼を置くと、それぞれの器の中で別個に運用方針を考えがちです。そうではなく、自身の資産全体における「投資する資産(=リスク資産)の割合」を制度横断で考えましょう。そのうえで、“器”をどう使いこなすか考えましょう。給与からどう振り分けるか、という観点で図にすると下記のようなイメージです。
(1)積立投資は「ストック」+「フロー」の2要素から構成されること
上記のように配分を決めて積立投資を開始していくとします。ここで踏まえておきたいのは、積立投資は「(a)積立投資(済)額(ストック)」+「(b)今後の積立予定額(フロー)」の2要素から構成されることです。このように聞くと当たり前かもしれませんが、積立投資を実践する際には忘れてはならないことです。
よく、定期的に一定額を購入する方法(ドルコスト平均法)では、「単価が安いときに多く購入できて、単価が高いときには少なく購入すること」になり、「積立投資はリスクを分散させる“コツ”」として語られます。確かに購入単価については想定通りの結果が得られるはずです。一方で、そのときまでに購入して積み上がっている「ストック」の資産については、その時点で「一括投資」したことと同じ状態になっています。
毎月1万円の積立投資を50年間継続する場合を例に、シミュレーションしてみましょう。この時、積立開始時の資金計画は下記になります。
(a)積立投資(済)額 ・・・0円
(b)今後の積立予定額 ・・・600万円
では、運用利回りが2%と仮定し10年間積立投資をしたとするとどうなるでしょうか。
(a)積立投資(済)額 ・・・131万円
(b)今後の積立予定額 ・・・480万円(=12万円×40年)
…と見込まれます。これは見方を変えれば、10年後の時点で、「約131万円の一括投資と、その後は毎年12万円の積立投資を40年計画している」ことと同じこととなります【図表2】。
このように考えると、初期投資額0円で開始した「積立投資」は、積立開始後は、(a)積立投資(済)額つまり“一括投資”部分が大きくなり、その後の(b)今後の積立予定額は小さくなっていき、50年後には完全に“一括投資”部分のみになります。
さらにこの現象を具体的な数値で検証してみましょう。
(c)積立投資割合を(b)/{(a)+(b)}と定義すると、積立開始前は(c)積立投資割合が100%、50年後の(c)積立投資割合は0%、つまり、50年後は原資の100%を“一括投資”したことと同じことになります。【図表2】の緑点線からも、(c)積立投資割合は徐々に低下していき、どんどん“一括投資”している状態に近づいていく様子を確認できます。
(2)積立投資が進むと「運用リスクの量」が拡大する
ではこの現象が起こると、どのような影響があるのでしょうか。積立投資において時間の経過とともに(a)積立投資(済)額の部分が拡大していくことは、「運用リスクの量が拡大」することに他なりません。
仮に、「1年間の運用による損失として、10万円までは我慢できる」というAさんがいた場合、(a)積立投資(済)額が100万円のときに1年間のリターンが▲5%となっても、損失額は5万円(=100万円×5%)で我慢できる範囲内ですみますが、これが300万円のときには、損失額は15万円(=300万円×5%)となってしまいます。
このようなことから、積立予定額を定めて計画的に積み立てていく「マネープランとしての投資」である場合には、積立投資を開始した段階では、ハイリスク・ハイリターンの投資対象(例えば、株式)の割合を高めに運用して、少ない積立額で多くの資産を積み上げることを狙いつつ、その後、順調に資産が積み上がって「目標とする金額」に近づいてくればくるほど、徐々にハイリスク・ハイリターンの投資対象(例えば、株式投資)の割合は低下させていった方がよい、ということになります。
ちなみに、この「積立投資の心得」に関しては、YouTube動画でわかりやすく解説しているので、是非チェックしてみてください。
以上のように、資産形成に有利な制度を活用することを主眼におき積立投資を進める際には、まずは「①“器別”でなく“資産全体”でリスク資産割合を考える」こと、「②積立投資は時間の経過とともに運用リスクが拡大することを踏まえる」ことが重要です。iDeCo・NISAを始めた後、当初の投資資産(例えば株式100%)のまま何十年もほったらかしにするのではなく、積立計画に対し大きく下振れするリスクが想定以上に膨らんでいないかなどを定期的にチェックしていくことも考えておきましょう。
【第98回】資産形成の最適な器を求めて
2023.03.22
2023.03.22
2023.03.16
三井住友信託銀行が年金のお客様を対象に発刊しております「三井住友トラストペンションジャーナル」に、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の丸岡所長が「令和の金融経済教育〜企業の職場(職域)に期待される『金融経済教育』と『資産形成支援』」、杉浦主任研究員が「公的年金制度の法改正の展望」のタイトルで記事を寄稿しました。是非、ご覧ください。
レポート
2023.03.16
2023.03.15
前回のコラムは、資産形成の器としてDC/iDeCoの概要をお伝えしました。
一方で、もう一つのメジャーな器といえば、“NISA”がありますね。こちらは、2024年に新NISAが予定されていることで、最近ではNISA関連の報道や記事が増えていると感じます。今回は、このDC/iDeCoとNISAの比較についてお伝えします。
まずは、DC/iDeCoとNISAの違いを見てみたいと思います。
DC/iDeCoについては、前回のコラムの通り、年金制度の3階部分“私的年金”として、税制上のメリットを得つつ、自身で資産運用しながらセカンドライフ資金を準備することができる制度としてご紹介しました。
一方、NISAについては、現時点での制度内容を過去のコラムでご紹介していますので、詳細は下記の2本をご覧ください。簡単にいえば、下記です。
通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかります。NISAは、「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる、つまり、税金がかからなくなる制度です(金融庁HPより)。
第65回 NISA制度(少額投資非課税制度)について詳しく!①
第66回 NISA制度(少額投資非課税制度)について詳しく!②
さて、DC/iDeCoとNISAの制度について簡単に比較してみたのが下記の表です。こちらをご覧いただくと、各制度は一長一短であり、ざっくりいえば「“節税効果”を得つつ、“専ら老後”に向けた資金を準備するのであればDC/iDeCo」であり、「“引き出しの自由度”も勘案しつつ、“税制上有利に投資”を実践するのであればNISA」、というように考えられると思います。
一方で、「令和5年度税制改正の大綱等」において2024年以降のNISA制度の抜本的拡充・恒久化の方針が示されました(上記表の黄色マーカー部分の項目が変更となります)。この新NISAは現行よりさらにパワーアップする予定ですので、よりNISAの使い勝手が上がると考えられます。
「どちらを使うべきか」は、制度のメリット・デメリットを踏まえて各人でお考えいただくものであり、普遍的な“正解”があるものではありません。
例えば、新入社員などで収入が相対的に低く、老後まで資金引き出しができないことが大きなリスクである場合は、NISAを優先で実施したほうが良さそうですし、一方で、会社に十分な退職金制度などがなく、自身で老後に向けた年金原資を有利に進めた方が良さそうであれば、途中で使ってしまう恐れがなく節税メリットも高いiDeCoをしっかり活用することなどが考えられます。
世間の実態はどうでしょうか。ミライ研の約1万人を対象とした「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」では、DCを(企業型DC・iDeCo問わず)実施している方におけるNISAを活用している割合を分析しています。すると、「DCを実施していると答えた方の54%がNISAも活用している」と答えていることがわかっています。つまり2人に1人以上の方が、「DC or NISA」ではなく「DC and NISA」で資産形成をしている方が多いことがわかります。
上記結果は「DC加入者」を分母においてみました。DCは「自発的に入っている」人もいれば、会社制度として「受動的に入っている」人もいるため、“能動的・受動的に関わらず”という点でいえば、上記結果は“結構多い”ともいえるのではないでしょうか。
皆さまの中には両方ともやるのは資金的に難しい…という方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、iDeCoについては最低5,000円から、NISAについても金融機関によっては100円単位等少額から実施できます。両制度は一長一短ありますから、“ライバル”というより、互いを補完し合える“友達”のような関係かもしれません。しなやかにどちらも使って、有利に資産形成を進めたいですね。
次回は、これらの「資産形成の器」を使った“積立投資”を行うにあたって留意しておきたい事項をご紹介します。
【第97回】資産形成の最適な器を求めて
2023.03.15
皆さんは「税制優遇がある資産形成の“器”」というと、何を思い浮かべるでしょうか。各メディアなどで主に取り上げられるものとして代表的なものが「NISA」と「DC(iDeCo)」です。
まずはDC(iDeCo)についてご説明します。この制度に関しては、色々な表現があり(確定拠出年金・DC・企業型DC・個人型DC・iDeCo・401k)、定義がごちゃごちゃになる方も多いので最初に整理しましょう。
【定義】
まず定義の説明です。確定拠出年金はDC(Defined Contribution Plan)とも呼ばれる「私的年金制度」です。このDC制度は「企業型DC」と「個人型DC」の2種類に分けられます。
企業型DCは会社制度として加入するものですが、事業主が掛金を出す「事業主掛金」と、加入者が給与天引きなどで自身の掛金を出す「加入者掛金(マッチング拠出)」があります。個人型DCは個人が金融機関に申し込むなどして加入するものです。特に個人型DCは“iDeCo(イデコ)”の別称で呼ばれています。
ちなみに、DCはもともと米国の401kという制度をベースに、2001年に確定拠出年金法を根拠としてできました。そのため、「日本版401k」という呼称で聞いたことがある方もいるかもしれません。
詳細の図は下記の通りです。一部、説明不足のワードもありますが、概観としてご覧いただければと思います。
【制度の仕組み・メリット】
しかしながら、上記メリットについては、若干違和感を覚えるところもあるのではないでしょうか。企業型DCの事業主掛金に関しては(一部選択型DCなどを除き、)会社の「退職給付制度の一部(または全部)」として位置づけられていることが結構多いです。そうなると、これは「会社が退職給付制度をDCで積み立てて自分で運用する」と言い換えることができます。
しかしながら、少々乱暴にいえば、退職金を勤めている期間にもご自身で運用することで、その退職金を運用収益で増やすこともできる可能性がある、という意味においては、“資産形成”の側面もあるといえます。
また、企業型DCの加入者掛金(マッチング拠出)と個人型DC(iDeCo)は、完全に加入者本人が給与天引きなどでDCに積み立てることで、上記税制上のメリットを受けながら積立ができますので、純度100%、まさに「資産形成の器」といえるのではないでしょうか。
いずれにせよ、会社からの掛金ないし、自身の給与を原資に、「ご自身で資産運用する」ということには変わりないので、どのように積立資金を運用するのか、という観点は非常に重要です。
上記制度の概要をご説明しましたが、iDeCoについては、所属企業が加入している企業年金制度によって掛金額の上限が決まっています。また、加入者掛金を実施している方は入れないなどの条件もあります。そのため、ご自身のケースではどうか、ということを必ず確認いただくことが必要です。
加入をするにあたっては、下記の通り、iDeCoを運営している「国民年金基金連合会」のHPに、加入診断と手続きの流れが出ていますので、ご確認ください。
iDeCo公式サイト
iDeCo(イデコ)をはじめるまでの5つのステップ|iDeCoをはじめよう|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】 (ideco-koushiki.jp)
今回は、DC/iDeCoについての基礎知識をお伝えしてきました。企業型であれ、個人型であれ、ご自身で資産運用を行って老後資金の準備を有利に進められる点をご理解いただけましたでしょうか。
一方で、資産形成の有利な器として、もう一つホットなものが“NISA制度”です。
次回は、このiDeCoとNISAの比較をしていきたいと思います。
【第96回】資産形成の最適な器を求めて
2023.03.08
2023.03.08
日本経済新聞(2023年2月25日)の「くらし探検隊 『持ち家か賃貸か』精緻に試算」において、ミライ研究所・丸岡所長のコメントおよび調査データが掲載されました(同記事は日経電子版にも掲載されています)
2023.03.07
2023.03.01
3回に亘ってお届けする、シンガポールの経済・暮らしに着目した“シンガポール通信ですが、今回が最終回です。執筆は昨年からシンガポール支店に赴任しているミライ研の研究員が担当します。
シンガポール人(ここでは、シンガポール国民と永住権保持者を指します)の資産形成状況をのぞいてみましょう。金融立国のイメージが強いシンガポール、日本人と比べてリスク性資産への投資が多いかと思いきや、そうとも言えない状況でした。
政府統計データによると、2022年第三四半期では、家計金融資産の14.9%が有価証券や株式に投資されていました。一方で、日本では、株式等・投資信託の合計で14.1%となっています。日本では「資産所得倍増プラン」によって、国民に貯蓄から投資へ、貯蓄から資産形成へと、投資経験者や投資額を倍増させるべく、5年後のKPIを明示した取り組みが開始されています。シンガポールでは、中央積立基金(とCPF呼ばれています。後述ご参照)の中でも投資が可能ですし、預金金利水準が相対的に高いことなどもあって、日本と状況が異なるため単純比較はできないのですが、日本とさほど変わらない数値となっています。
投資額自体は年々増加しているものの、金融資産に占める投資割合に大きな変化は見られませんでした。シンガポール人の多くは、日本人と同様にリスクを好まない・リスクを避ける傾向にあるのかもしれません。
また、シンガポール人の資産形成として特徴的なものは、家計の金融資産のうち、30%近くを占める中央積立基金(CPF:Central Provident Fund)です。
CPFは、シンガポールの社会保障制度の一つであり、事業主と従業員から拠出金を出し、「強制的に」個人ごとに積み立てをしていく積立方式の基金です。使い道は、現役時代は、住宅購入・教育費・投資や保険積立・医療費で活用し、退職後には、老後生活資金に活用に充てられます。
拠出率は決して低い水準ではなく、55歳未満で従業員拠出率は20%となっています。黄色で色付けした部分は昨年からの改正点で、55歳から70歳未満の従業員のCPF拠出率が、老後資金確保のために引き上げられました。55歳以上70歳未満の層も就労人口と数える姿勢もうかがえます。というのも、シンガポールでは再雇用年齢が段階的に引き上げられており、健康上の問題がなく本人が再雇用を希望するなど一定の条件を満たす労働者には、68歳まで再雇用を申し込むことが雇用主に対して義務付けられています。なお、この再雇用年齢も、68歳(2022年)から、70歳(2030年まで)に段階的に引き上げられていく予定です。
CPFを活用してしっかり貯めているから大丈夫か、というとそうとは言えず、#1シンガポール通信~世界のインフレ事情~のとおり、インフレが加速する今、現状の積立額だけでは安心した老後が送れないかもしれない、とシンガポールでも警鐘がならされています。老後不安は、日本だけでなくシンガポールでも同様の悩みとなっており、前述のとおり、中央積立基金(CPF)の拠出率引き上げなど、対策が進められています。
今後も、情報アップデートしながらシンガポール通信をお届けできればと思います。3回シリーズをお読みいただき、ありがとうございました。
【第95回】シンガポール通信
2023.03.01
2023.02.27
3回に亘ってお届けする、シンガポールの経済・暮らしに着目した“シンガポール通信”の2回目です。執筆は昨年からシンガポール支店に赴任しているミライ研の研究員が担当します。
個人、家計で実施できる範囲で、インフレへの対策はどうすればよいのでしょうか?インフレでモノの値段が上昇すれば、家計を圧迫します。最初に思い浮かぶのは、節約・節制ではないでしょうか。つまり「支出を抑制する」ことです。とはいえ、奢侈品ならまだしも、生活費を抑制するには限界があります。
もう一つは、「収入を増やす・資産を増やす」という方法です。副業やキャリアアップで収入を増やしたり、物価上昇に応じて価値が変動する資産を持ったりすることです。
日本では昨年11月に 「資産所得倍増プラン」が公表され、12月には倍増プランの「第一の柱」であるNISAの抜本的拡充や恒久化が発表されました。資産形成への学びや取組み意欲が高まってきている読者の方々も多いのではないでしょうか。
資産形成のはじめの一歩を踏み出すために、ミライ研ではYouTube動画も配信していますので、コラムとあわせてぜひご覧ください。
シンガポールにおいては、政府として、家計として、どのようなインフレへの対応策がとられているのでしょうか。シンガポールでは、政策として、インフレ影響を緩和するために、金融引き締め(政策金利ではなく、自国通貨の為替レートの誘導目標を定める金融政策)が行われています。同時に、総額15億シンガポールドル(約1500億円、1S$=100円)規模で法人・個人向けの支援が実施されています。以下は一部抜粋ですが、電力価格の高騰に対する支援や、給与引き上げに向けた各種支援がなされています。
現金支給もさることながら、注目したいのは累進給与補助金制度(Progressive Wage Credit Scheme)です。これは、国民(永住権者含む)の昇給の一部を政府が負担する、企業の賃上げを政府がサポートする制度となっています。
低所得者累進賃金モデル※の導入移行に向けて、昨年2022年に導入され、2026年まで継続される予定です。(※シンガポール政府は、低所得者の給与底上げのために、低所得者層の多い職業についてそれぞれ最累進賃金モデル(Progressive Wage Model、実質的には最低賃金モデル)を設定しています。)
日本と単純比較することは当然できないですが、インフレは生活への影響が非常に大きいので、賃上げで対応しようとする政府の本気度がうかがえます。
日本では、春闘の時期を迎えていますが、物価上昇に負けない賃上げ実現が望まれます。次回は、寄り道コラムでシンガポール人の資産形成事情をお届けします。
【第94回】シンガポール通信
2023.02.22
2023.02.22
2023.02.15
今回から3回に亘って、シンガポールの経済・暮らしに着目した“シンガポール通信”をお届けいたします。執筆は昨年からシンガポール支店に赴任しているミライ研の研究員が担当します。
シンガポールは、東南アジアのほぼ真ん中に位置しており、日本と比べると面積・人口ともコンパクトな国です。面積は約720㎢で東京23区と同程度、人口は約580万人で日本の人口(約1.26億人)の20分の1程度です。また、1965年にマレーシアより分離し、シンガポール共和国として独立してから、2023年に建国58年目を迎えるなど、比較的若い国でもあります。
ビルに巨大な船が乗るマリーナベイ・サンズや、マーライオンなどの観光スポットが有名ですが、金融経済の観点からみれば、アジアの金融都市として、香港と双璧をなしており、足元の香港での社会的・政治的変化により、さらにアジアの金融ハブとしてシンガポールへの注目が高まっているところです。
そんなシンガポールですので、GDPを日本と比較してみると、名目GDPは圧倒的に日本が上回っている一方で、一人当たりGDP(ドル)は、日本の1.85倍にもなります。
全3回のコラムでは、日本とシンガポールの共通点・相違点をみながら、各種取り組みやシンガポール国民の暮らしに触れていきます。日本と同じように少子高齢化や年金問題を抱えるシンガポールの取組や、国民の資産形成事情などをお届け予定です。
今回は、世界的に進むインフレに着目します。
昨年(2022年)は、世界的な資源価格の上昇や商品市場の高騰などを背景として、各国でインフレーションが進みました。日本も例外ではなく、光熱費や食料品などの生活コストが大きく上昇した年となりました。
世界のインフレ事情を日本と比較してみましょう【図表2】。
ここでは、消費者が日常的に購入する商品やサービスの価格に関する指数である「消費者物価指数(CPI)」で、世界と日本の物価を比較しています。
英国、米国、シンガポール、日本の消費者物価指数の推移の比較グラフですが、日本と比べてみると2021年初あたりから他国の物価指数は上昇をはじめ、足もとでかなりインフレが進んでいることが確認できます。ちなみに、筆者が住むシンガポールでは、民間住宅賃料がわずか1年で3割強も急騰するなど、インフレを肌で感じています。背景には、コロナ禍での建設の遅れにより物件の新規供給が不足している一方で、各種コロナ規制の緩和に伴い外国人の住宅需要が拡大し、需給がひっ迫していることなどがあげられます。
欧米よりかは穏やかですが、食料品の値上がりも目立ちます。シンガポールの名物ローカル料理であるチキンライスも、筆者の通うお店では半年前と比べて20%近く値上がりしました。原材料や光熱費や従業員にかかる費用などコストが上昇しているため、様々なお店で値上げはされており、その影響を大きく感じています。
世界規模でインフレが進展する中、どこまでインフレ基調が続くのか、どの水準で落ち着くのか、は議論がありますが、インフレが個人の(読者の皆さんの)家計に与える影響について考察していきます。
インフレが進むと(モノの価値が上がると)、実質的にお金の価値が下がります。例えば、【図表3】のように、インフレが進むと以前は100万円で購入できた宝石も同じ金額では購入できなくなり、「お金を足さないと買えなくなる」状況となります。
物価が上がったのであれば、家計で使えるお金も増えてくれないと、家計は苦しくなるばかりです。一般的に、「良い」インフレであれば、モノやサービスの値段が上がる→企業の売り上げが上がる→従業員の給与が上がる→消費行動が盛んになる→需要が供給を上回る→モノやサービスの値段が上がる・・・といった循環となるはずですが、足もと日本では、こういった循環サイクルは顕在化してきていないようです。直近、何社か賃上げに取り組む企業がニュースで取り上げられていますが、「従業員の給与が上がる」かどうか、春の賃上げ動向に注目が集まっています。
【第93回】シンガポール通信
2023.02.15
2023.02.08
前回のコラムでは、公的年金制度の基本的な仕組みを見てきましたが、前回の続きとして、「実は公的年金の受け取りは65歳からだけじゃない」ことを見ていきましょう。
前回のコラムでは、基本的な場合として65歳から受け取る場合を説明しましたが、いつから引退生活に入るかは人それぞれだと思います。実は、公的年金は個々人の選択によって、65歳より早く受け取り始めることもできますし、遅く受け取り始めることもできます。早く受け取り始める場合には一番早くて60歳から、遅く受け取り始める場合には一番遅くて75歳から※1受け取れます。ただし、早く受け取り始めると1か月あたりに受け取れる金額は少なくなり、遅く受け取り始めると1か月あたりに受け取れる金額は多くなります。具体的には、早める場合は1か月あたり0.4%少なくなり※2、遅くする場合は1か月あたり0.7%多くなります。
具体的な金額イメージを見てみましょう。前回のコラムで例示した厚生年金月額65,772円+基礎年金月額66,250円=年金月額合計132,022円の場合で考えます。いつまで生きるかは誰にもわからないものですが、第59回のコラムで「死亡年齢最頻値」(男性88歳、女性92歳)をご紹介しましたので以下では間をとって90歳まで生きた場合のイメージを考えてみます。税・社会保険料は考慮しない単純計算では概ね以下のようになります。
上記は一例にすぎませんが、こうやって見てみると、受け取り始めるのを遅らせる選択肢も有力であることがお分かりいただけると思います。例えば、ご自身で準備した資産を引退後の当面の老後資金として充てることにより、厚みをもたせた公的年金でゆとりある暮らしを送るというのもアリかもしれません。もし公的年金以外に会社から退職金や企業年金(会社が支払う年金)が受け取れる方の場合には、退職金や企業年金も引退後の当面の老後資金としてプラスすることができます。もちろん、企業年金が終身で受け取れる場合には企業年金を終身で受け取ることも有力な選択肢ですので、会社から受け取れるお金がある場合には各会社の制度内容に合わせてご検討ください。
また、働けるうちはなるべく長く働くことによって、年金額を増やすこともできます。上記の計算では考慮していませんが、働く期間を長くすれば厚生年金の金額を増やすことができますので、なるべく長く働くこと自体が老後の備えにもなるのです。
なお、詳細は割愛しますが、早く受け取り始める場合には金額以外にも様々不利な条件がありますので、よくよく検討が必要です。一方、遅く受け取る場合には1年間に受け取る金額が多くなることで税や社会保険料などの負担が増えるなどの注意点もあります。ただし、老後が何十年も先となる方にとっては、老後の税や社会保険料についてはもしかしたら制度改正もあるかもしれません。また、そもそも寿命がいつまでかもわかりません。ですので、一番トクする条件を詳細に調べるというよりは、いつぐらいまで働き、自助でどれくらい備える、といった大まかなプランを立てることのほうが大事です。
ここまで、公的年金が老後の生活の支えになることを見てきましたが、公的年金は「老後」以外にも受け取れます。「障害年金」といって、「病気やケガで一定の障害が残ったときに受け取れる年金」や、「遺族年金」といって、「生計を立てていた方が亡くなったときに残された遺族の方が受け取れる年金」があります。まさに「保険」という感じがしますね。「老後」以外の年金については、計算方法も受給資格も異なっています。細かい条件はいろいろあるのですが、ざっくり言えば、「きちんと保険料を納めていたこと」が受け取りの条件になります。
老齢年金だけでなく、障害年金も遺族年金も、請求しないと受け取れません。公的年金というとどうしても「老後」のイメージが強いのですが、「万一」のときには、加入している「保険」の一つとして、公的年金もぜひ思い出していただき、請求いただければと思います。
ここまで、公的年金について3回にわたり解説してきました。これらのコラムをとおして、「公的年金も結構役立つじゃん」と思われたのではないでしょうか。やみくもに「老後が不安だから資産形成して備えないといけない」と悲壮な感じで資産形成するのはおすすめしません。ミライ研としては、公的年金のことを知ることにより、「公的年金もある程度は支えになるけど、ゆとりある老後のために資産形成しよう」と前向きに捉えていただきたいと思っています。
このコラムではお伝えしきれなかったのですが、公的年金について学んでいくと、少なくとも今の日本の公的年金は破綻してしまうようなことはないということがわかります。「公的年金について学ぶ」といっても、「学校では年金についてあまり教えてくれなかったし、年金って難しくてよくわからない」という方が多いと思います。実は厚生労働省が様々なわかりやすい教材を用意していますので、公的年金を学ぶための一助として活用してみてください。
わたしとみんなの年金ポータル
厚生労働省が、よくある年金制度の疑問をQ&A形式で説明し、具体的な内容が掲載されているページのリンクを紹介しているものです。
年金のひみつ
小学生高学年~中学生向けのマンガの電子書籍です。
厚生労働省の提供により、Web上(学研キッズネット)で無料公開されています。
全国の小中学校や公立図書館にも紙の本として無償配布されています。
年金について日本一わかりやすく説明しようとしたらこうなった
QuizKnockのYouTube動画の形で公的年金について楽しく学べます。
厚生労働省の提供により、Web上で無料公開されています。
いっしょに検証!公的年金
厚生労働省が自ら公的年金について可能な限りわかりやすく解説したマンガです。
マンガにはなっているものの、結構本格的ですので、さすがに「年金のひみつ」よりは難しいですが、公的年金が破綻しないようになっている仕組みなどはよくわかると思います。
公的年金シミュレーター
「細かい仕組みはいいから、自分が受け取れる金額だけざっくり知りたい」という方向けです。
老後に公的年金を受け取り始める年齢を何歳からにするか、いつまで働き続けるか、といった条件を変えた場合に、いくらぐらい受け取れるかが概算できます。
【第92回】
2023.02.08
前回のコラムでは、公的年金が老後生活を支えていることを見てきましたが、公的年金はどういう仕組みになっているかについて、2回に分けて見ていきましょう。
公的年金には、国民年金と厚生年金保険という2つの制度があります。20歳~59歳の方は、働き方や暮らし方によらず皆さんが国民年金に加入しています。さらに、会社員や公務員等、雇われて働いている方々は、基本的には厚生年金保険にも加入しています。図にするとこんな感じです。「第1号被保険者」の方は国民年金のみに加入、「第2号被保険者」の方は、国民年金と厚生年金保険の両方に加入しているというのがポイントです。なお、よく「第3号被保険者」=「専業主婦(夫)」といった説明を耳にするかもしれませんが、実は、「第1号被保険者の配偶者であって、専業主婦(夫)である」という方は「第3号被保険者」ではなく「第1号被保険者」になります。ですので、下の図では「第3号被保険者」の説明をより正確に「第2号被保険者の被扶養配偶者」って書いています。ちょっとした豆知識です。
では、どんな保険料をいくら支払うのでしょうか?
第1号被保険者の方は、毎月「国民年金保険料」をご自身で支払います。2022年度(2022年4月~2023年3月)は月額16,590円です。基本的には17,000円くらいなのですが、2023年度は月額16,520円、2024年度は16,980 円といったように、毎年度、世間の賃金水準に応じて変動します。なお、保険料を支払うのが難しい方のために、手続きをすることで保険料の支払いを先延ばしにすることができる制度がいろいろあります。例えば、学生の方であれば、学生納付特例制度というものがあります。但し、先延ばしにした保険料を後で(10年以内に)支払わないと、受け取れる年金額に影響してしまいますので、注意が必要です。
一方で、第2号被保険者の方は、「国民年金保険料」は支払いません。毎月「厚生年金保険料」として、お給料やボーナスの18.3%相当を支払います。ただし、「厚生年金保険料」の半分は会社が負担してくれますので、自己負担は9.15%相当です。また、ご自身の負担分(9.15%相当)は給与天引きとなり、会社が会社負担分の9.15%相当とまとめて納めてくれています。なお、給与水準によって金額の高さが違うのをなんとなく表すために、図では高さを一定にせず斜めにしてあります。
なお、第3号被保険者の方は、毎月の保険料を負担しません。第3号被保険者の配偶者は第2号被保険者ですので、世帯としては負担済みと考えて、結果として厚生年金保険制度全体で、給付のための必要経費を賄います。
では、どんな給付を受け取れるのでしょうか?
まず、国民年金に加入していた方は、基礎年金が受け取れます。つまり、第1号~第3号被保険者で共通して、基礎年金が受け取れます。ただし、老後に基礎年金を受け取るには、最低でも10年間は保険料を支払っている必要があります。20歳から59歳までの40年間、ずっと保険料を支払っていた場合に、老後に(65歳から死ぬまで)受け取れる年金額は、2022年度でいえば年額777,800円(月額64,816円)です。保険料を支払っていた期間が40年よりも短い場合は、支払っていた期間に応じて金額が少なくなります。
なお、物価や世間の賃金水準に合わせて毎年度調整があるほか、現役世代の人数や長寿化も加味して金額が決まります。2023年度であれば、上記の金額は年額795,000円(月額66,250円)です。2022年度よりも多くなっていますね。このように、公的年金は一定程度インフレに対応しています。また、死ぬまで受け取れますので、長生きによるリスクにも対応しています。つまり、公的年金には、インフレや長生きに備える「保険」の役割があるのです。
さらに、厚生年金保険にも加入していた方は、厚生年金も受け取れます。老後に(65歳から死ぬまで)受け取れる厚生年金の金額は、基本的には現役時代に支払った厚生年金保険料に比例しますので、図も厚生年金保険料と同じ形にしてあります。つまり、給与水準に応じた金額になるということです。いろいろな特例もありますが、原則の場合をご説明します。保険料はお給料やボーナスの18.3%相当でしたが、保険料のもととなったお給料とボーナスについて、月平均の額を算出して、現在の貨幣価値に換算したものを考えます。これを「平均標準報酬額」といいます。厚生年金の年額は、
平均標準報酬額×5.481/1000×厚生年金保険に加入した期間(月数)
で計算されます。例えば、40年間厚生年金保険に加入していて、その間月収が平均で30万円(現在の貨幣価値に換算してこの金額だとします)の場合は、厚生年金の年額は
30万円×5.481/1000×40×12=789,264円
となり、月額だと65,772円です。これと基礎年金66,250円を合計すれば、132,022円というように計算できます(実際には所定の端数処理を行います)。
なお、物価などに応じて毎年の金額が調整されることや死ぬまで受け取れることは、基礎年金と同様であり、一定程度インフレや長生きによるリスクに対応した「保険」の仕組みといえます。
給付のお話はまだまだ続きますが、少し長くなってきましたので、今回はここまでとします。次回のコラムでは、「実は公的年金の受け取りは65歳からだけじゃない!」ということをご説明します。
【第91回】
2023.02.01
2023.02.01
第70回のコラムでもご紹介したとおり、ミライ研が実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)において、お金の不安は、世代を問わず、1位が「老後資金」でした。
では、実際に高齢者はお金に困っているのでしょうか。政府統計をもとに確認してみましょう。
60歳以上の2,435人へのアンケートである「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」(2022年6月、内閣府)では、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」とした方は12.4%、「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」と答えた方は、55.3%いらっしゃいます。この2つを合計すると67.8%ですので、多くの高齢者は「心配なく」暮らしていることがわかります。ただし、ゆとりがある暮らしをしていると答えた方は全体の約1割にとどまっています。
老後の収入の主なものといえば年金です。「2021年 国民生活基礎調査」(2022年9月、厚生労働省)をみると、公的年金を受給している高齢世帯のうち、収入の8割以上が公的年金という方々が過半数にのぼります。
そもそも公的年金は、あくまで「貧困に陥るのを防ぐ」ものです。ゆとりある生活を送るには、いくらかの備えもしておく必要があると思われます。
では、公的年金でいくらくらい受け取れるのでしょうか。加入していた制度や期間、現役時代の収入にもよりますが、令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(2022年12月、厚生労働省)によれば、会社員だった方の平均でみると、厚生年金と基礎年金の合計で月145,665円となっています。
しかしこれはあくまで平均です。ゆとりある生活のために今から準備するには、ご自身の公的年金の金額を知ることが重要です。厚生労働省が公的年金シミュレーターというものを公開しています。もしお手元に、「ねんきん定期便」という日本年金機構から年1回お誕生日頃に届くハガキと、スマートフォンの2つがあれば、簡単に公的年金の金額を試算できますので、試してみてはいかがでしょうか。
世代を問わず不安材料となる「老後資金」ですが、実際、多くの高齢者は公的年金によって「心配なく」暮らしていて、一定程度は公的年金の収入で老後の生活費を賄っていることがわかりました。とはいえ、暮らしにゆとりがある高齢者は少ないこともわかりました。老後の収入や支出は一人ひとり異なりますので、ゆとりある老後生活のためには、公的年金の給付見込み額を把握して、ご自身のライフプランに応じた備えをしておくことが大切です。ただやみくもに資産を増やせば不安が解消するというわけではなく、将来を見据えて行うことが重要です。老後不安の解消のために、まずは公的年金のことを学ぶところから始めてみましょう。具体的な年金制度のお話は、次回のコラムにて。
【第90回】
2023.01.25
2023.01.25
前回のコラムでは、「金融」って何?ということその成り立ちからお話させていただきました。
今回はもう少し内容を深堀し、金融機能の代表的な分類である「直接金融」・「間接金融」について、その概要をご紹介させていただきたいと思います。
「直接金融」とは、自分が持っているお金を、お金の受け手に対して直接供給する仕組みのことを指します。株式や債券などの取引を通じて、お金の出し手とお金の受け手が経済的に直接のつながり(契約関係)を持つことになります。
一方で「間接金融」とは、お金の出し手と受け手の間に金融機関が入り、お金の流れを仲介する仕組みのことを指します。金融機関は預金等の方法でお金の出し手から集めたお金を、必要とする受け手に対して、融資という形で貸し出す形態となり、お金の出し手・受け手から見ると、間接的なつながりとなります。皆さまが日常的に、銀行口座にお金を預けたり、引き出したり、ローンを組んだりすることは、金融機能における「間接金融」に分類されています。
「直接金融」・「間接金融」の違いをもう少し深堀してみましょう。
「直接金融」では、資金をどの受け手に渡すかは資金の出し手自身が決めます。「直接金融」の具体例として、株式や債券を購入することが挙げられますが、株式や債券には預金と違って一般的に時価が変動する性質などがありますので、資金の出し手自身がその点も理解したうえでお金を出す必要があるといえます。また、高いリターンを得ようとする場合、高いリスクをとる必要があるということは、「金融」においては基本的な考え方となりますので、「低いリスクで高いリターンの投資商品がありますよ」といった勧誘は、「怪しい!」と察知するようにしましょう。
「間接金融」は、間に金融機関を挟むことで預金の安全性が保たれていることが大きな特徴となります。金融機関が融資している企業が仮に倒産してしまったとしても、金融機関が破たんしない限りお金を預けている預金者に対して影響が及ぶことはありません。また、預金者がお金をいつでも引き出すことができる、と言われると当たり前のことに感じるかもしれませんが、お金の流動性を確保するといった部分も間接金融の特徴となります。一方でリスクが抑制されている分、利息で得ることのできるリターンは相対的に少なくなるということも特徴の一つとなっています。
「直接金融」・「間接金融」の部分でも触れさせていただいた通り、お金の使い方は、その目的に応じて「どう使うか」を考えることが重要となります。目的を把握するためにもまずは、皆さまの家計において多様にあるお金の使い方から【図表2】の通り、目的に応じて分類してみましょう。「つかう」「そなえる」「のこす」「ふやす」用途に分けることで「直接金融のサービス」・「間接金融のサービス」をどう使うべきか、という点が考えやすくなります。例えば、前述したように「間接金融」ではお金を融通する際のリスクを直接とらないので、すぐに「つかう」資金や有事の際に「そなえる」資金のような、「安全性」が必要な部分に適しているといえます。一方、「直接金融」では、出資先や投資先のリスクを負うことにはなるものの、期待できるリターンは相対的に高くなるはずですので、すぐには使わない「ふやす」ことを目的とした資金に適しているといえます。このようにご自身のライフプランや目的に応じて、お金の分類を行うことで、それぞれの金融サービスが持つ特徴を、賢く利用することができるかと思います。難しいと思われがちな「金融」ですが、お金の用途に合わせて上手に利用することで皆さまの「金融リテラシー」の向上だけでなく、資産形成においてもきっとお役に立てるかと思いますので、是非一緒に学んでいきましょう!
これまでの2回で「金融」の機能や特徴、そのルーツを含めた金融に関する情報をお届けさせていただきました。
「金融リテラシー」「金融教育」などのテーマが各種のニュースやメディアでも取り上げられている様に、日本における「金融」への関心はますます高まることが想定されます。私たち「ミライ研」としても、皆さまのお役に立てる情報を引き続き発信させていただきますので、是非今後ともチェックいただけますと幸いです!
【第89回】
2023.01.18
2023.01.18
2023.01.11
2022年は「金融」に関するトピックが非常に多い1年間となりました。4月に高校家庭科・公民科の授業において「金融教育」が必修として取り扱われるようになり、岸田内閣からは「資産所得倍増プラン」が発表されました。「人生100年時代」を迎え資産形成の必要性の高まりを背景として、「金融リテラシー」というワードを耳にする機会がかなり増えてきたように感じますが、実際、世間での「金融リテラシー」に対しての認知度はどれくらいなのでしょうか?
ミライ研が実施した第3回「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)アンケート調査によると、【図表1】の通り「金融リテラシー」という言葉を聞いたことはあるが、意味は知らないと回答した方、「金融リテラシー」という言葉を聞いたことはないと回答した方は、合計「65.1%」と7割近い数字となりました。「金融リテラシー」って何!?という方は是非、過去に掲載させていただいたコラム(第56回~第58回コラム)をご参照ください!
この結果を踏まえながら、今回のコラムでは「金融リテラシー」を考える前に、一度原点に立ち返って「金融」ってそもそも「何だっけ」?という内容を「金融」の成り立ちや歴史も交えつつ触れていきたいと思います。
「金融」という単語を聞いてまず、最初にどういったことを想像するでしょうか?銀行で働いている人のことをイメージする方もいれば、某ドラマ作品のことを連想する方もいるでしょうか?
「金融」とは、お金を持っている人(資金余剰者)と、お金を必要としている人(資金不足者)を結び付け、お金を融通することを略して「金融」といい、その両者の間に入り必要な場所にお金を届けるサービスを幅広く提供している業種を、「金融業」といいます。
「金融」サービスで取り扱う物はお金に限らず、株式や債券などの有価証券や保険、投資信託、外貨など、お金に換えることのできるモノ・サービスなど、多種多様な商品を取り扱っています。
さて話は少し変わりますが、息抜きもかねて日本における「金融」のルーツを少し遡ってみたいと思います。
時はなんと、平安・南北朝時代にまで遡ります。主流だった物々交換の時代から、宋銭の流通による「貨幣経済」が社会の文化として浸透してきた時代です。当時、特権階級となっていたのはお寺や神社で、お布施等により「お金」が潤沢に集まっていたといわれています。いわゆる富裕層です。そんな中、お金に余裕のある人が、お金を必要としている民衆にお金を貸し与える生業が現れ、そういった人々を「貸上(かしあげ)」と呼び、日本における金融業の元祖となったといわれています。
およそ700年近く前には「金融」機能の基礎は出来上がっており、現代まで引き継がれてきているという非常に古い歴史を誇っているようです!
日本における「金融」の成り立ちを少しお話させていただきましたが、お伝えしたかったこととしては、お金を通して人を繋ぐ、という根っこの部分は、現在までほとんど形を変えず残ってきているということです。
皆さまがお金を銀行に預ける、銀行はそのお金を管理して、企業へ融資したり個人に住宅ローンを貸出したりしながら、社会全体のお金の流通量を増やしています。この関係は大半の預金者の方からしてみると、「銀行に預金をしているだけ」と感じるかもしれませんが、そのお金が社会をめぐりながら、社会経済の下支えを担っている、それが「金融」なのです!
「金融」とひと口にいっても、前述したとおり、持っている機能や提供しているサービスは多岐にわたります。そんな幅広い金融業務ですが、代表的な金融機能として「直接金融」と「間接金融」に分類することが可能です。あまり聞きなれないワードかとは思いますが、知らず知らずのうちに私たちの暮らしにも深く関わっているものですので、「金融」につながる知識として次回のコラムでは、「直接金融」「間接金融」の意味や特徴、日常のどういった場面で登場しているのか、についてご紹介させていただけたらと思います!
【第88回】
2023.01.11
前回のコラムでは、職場における金融教育が企業にとっても重要かつ有効であることについてお伝えしてきました。
今回は「職場×金融教育」の最終回として、投資家の視点などから眺めつつ、現在の企業の取り組み状況のご紹介や今後の方向性について考えてみたいと思います。
昨今の企業投資をめぐる環境は、「利益を上げている企業」=「投資される企業」とは結びつかない構図になってきています。かつては企業価値の源泉は有形資産(モノ)でしたが、グローバルな潮流で無形資産に拡大されています。このような産業構造の変革において、「イマ出している利益」だけではない「サステナブルな企業価値」が投資家から問われています。
その企業価値向上の観点において重要な位置づけとされているのが“人材戦略”です。企業の付加価値の根幹は「人」と位置付けられ、企業においては設備投資など「モノ」への投資だけでなく「人材への投資」も重視されつつあります。この考え方の指針とも位置付けられている、2020年に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート」には、このように記載されています。
この価値観の転換により、人材戦略も、人事部による「管理」という考えから、人材の成長を通じた「価値創造」という経営戦略へとシフトし、人材に投じる資金は価値創造に向けた「投資」とみなさるようになってきています。
さらに、この人的資本の最大化に向けた取り組みとして注目されているのが、従業員の“ウェルビーイング(Well-being)”向上です。“Well-being”向上への取り組みが、企業において人的資本の強化になり、また投資家からは昨今のESGの“S(Social)”の観点で注目されています。こちらも2022年に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営に向けた取り組みの工夫として、下記を挙げています。
これらの報告書は、企業の人材戦略を策定し実行する経営陣、経営陣を監督・モニタリングする取締役会に加えて、機関投資家のエンゲージメント活動にも参照されることを期待されている内容とされています。
また、日本における直近の行政の動きをみると、金融庁から下記のパブリックコメントが発出されているように、投資家に開示する有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、人的資本に関する開示も追加の流れとなっています。(「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について:金融庁 (fsa.go.jp))
実際に国内外の投資家は、人的資本強化の重要性を訴求しています。世界最大級の機関投資家であるブラックロック社のCEO/ラリー・フィンク氏は、過去に自身の企業向けレターの中で、下記の趣旨を綴っています(Letter to CEO 2019 企業理念と収益)。
このように、退職後に向けた準備に関するサポートも含めた人的資本経営に対する評価姿勢を問うていることがわかります。
さて、前回コラムでお伝えの通り、人的資本強化の中においては、従業員のFinancial Well-being向上に向けた取り組みに有効性がありそうなことを示しました。では現在、従業員への金融教育支援はどのように行われているのでしょうか。金融庁で金融研究センターのレポートに、各種の金融教育機会が取りまとめられています。(金融リテラシーと家計の消費行動 P.37~)
主要な機会としては、
などが挙げられます。特に①の投資教育は、2018年のDC法改正により従業員への継続投資教育が法令上“努力義務”となったこともあり、取り組みが進んでいます。DCの導入企業は2021年3月末時点で約4万社、加入者数は750万人(確定拠出年金制度|厚生労働省 (mhlw.go.jp))ですので、投資教育の機会が従業員の資産形成支援につながる貴重なチャネルであるといえます。その他、ライフプランセミナーなどを企業が実施したり、社内FPに相談することができたり、様々な形で従業員のFinancial Well-being向上に向けた取り組みが行われているといえます。
一方で、実際に社会人の金融教育受講経験は第83回コラムに記載の通り、1割程度にとどまっているのが実情であり、まだまだ道半ばといえます。
今後は、個人・企業・投資家を取り巻く環境変化により、個人においては多様化する価値観と長寿化などの影響、企業や投資家は、上記の通り従業員の資産形成支援によるFinancial Well-being向上が人的資本強化にもつながることから、取り組みの強化と開示の促進による好循環が生まれていくのではないでしょうか。
【第87回】
2023.01.04
2023.01.04
2023.01.01
2022.12.28
前回のコラムでは、職場における金融教育が従業員の資産形成意識の高まりなどの背景から、職場においても資産形成に向けたサポートが従業員から求められている背景についてみてきました。
今回は、“企業目線”で、金融教育や資産形成支援に関する取り組み意義をみていきます。
昨今は企業においても「人的資本経営(Well-being(ウェルビーイング)経営)」が注目されていますが、その一環で従業員の経済的不安解消・資産形成支援の観点も取り入れられているケースが徐々に増えてきています。
経済協力開発機構(OECD)では、加盟各国に向けたOECD/INFE 職域における金融教育の実施手引を公表、職場で従業員に金融教育を提供することの重要性とともに、当該取り組みが企業活動においても好影響がありそうなことが示唆されています。
“Policy Handbook on financial education in the workplace”より
実際、欧州では取り組みが進んでおり、例えば、英国では2020年に「Financial Well-beingのための英国国家戦略」を策定、「金融教育」「貯蓄」「借入額の減少」「ローンのアドバイス」「ライフプラン設計」の5項目について、2030年までの数値目標を掲げ、行政だけでなく事業者等も協働して取り組んでいます。
また、上記英国の取り組みにも出てきましたが、“Well-being(ウェルビーイング)”の観点でも家計経済の支援を行うことの有効性がわかる事実があります。
この“Well-being”とは、簡単に言えば「個人の権利や自己実現が保証され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」とされています(厚生労働省 雇用政策研究会報告書 概要より)。世界幸福度ランキングのデータ元としても有名な米国調査会社ギャラップ社によると、Well-beingは下記の5つで構成され、もっとも重要な概念の一つとしてFinancial Well-being(ファイナンシャルウェルビーイング)があります。
このFinancial要素については、同社の調査において下記の事実があります。経済的な自立は、従業員の幸福度のみならず、その人の業務に対する姿勢にも波及することが示唆されていることがわかります。
(出所)『職場のウェルビーイングを高める』(日本経済新聞出版) ジム・クリフトン、ジム・ハーター著
Financial Well-being自体は、決して単純に“稼ぎが多い”“資産の保有額が多い”状態を示しているのではありません。当社では、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定により、お金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」であると考えています。
日本においてはどうでしょうか。ミライ研では「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」において、「Financial Well-beingの重要性はどれほどか」を1万人にヒアリングしています。すると、下記の通り74%が「とても重要」「重要」「まあ重要」と答えており、経済的幸福度は重要度が高い要素であることがわかります。
また、フィデリティ社が行った日本を対象としたフィデリティ・フィナンシャル・ウェルネス・サーベイ調査によると、「経済的に安定していないと幸せでない」と答えた割合が73%に上っています。
以上のことを踏まえると、人的資本経営の中で、従業員のFinancial Well-being向上の取り組みは、企業にとっても有益であることがいえ、俄かに注目を浴びつつあります(関連リンク:ファイナンシャル ウェルビーイングが日本で注目され出している背景)。
次回はこのトレンドが“投資家”からみても注目されている観点にも触れていきます。さらに、本シリーズの最終回として、具体的な職場における金融教育の取り組み内容、今後の方向性についてお話しします。
【第86回】
2022.12.28
2022.12.27
2022.12.21
ここまでのコラムでは、複数回にわたって学校現場における「金融教育」についてみてまいりました。学生が家計経済との向き合い方を覚え、社会人になるときに金融リテラシーをしっかり身に付けておくことは、非常に意義深いものと考えます。
本コラム以降は、職場における金融教育や資産形成の支援に関する事情をみていきます。
ミライ研のアンケート調査によると、職場で金融教育を受けたと答えた方の割合は、おおよそ1割程度です(金融教育を受けた時期の詳細は、【第73回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?ご参照)。こちらを見ると、まだまだ職場での金融教育は浸透していない状況であることがわかります。
では、職場で金融教育を受けた方の金融リテラシースコアは、受けていない方と比べてどれだけの差があるのでしょうか。下記データは、職場での金融教育を受けた方と受けていない方における、金融リテラシースコアの分布を「高リテラシー・中リテラシー・低リテラシー」の3つに分けて示したものです。これを見ると、教育を受けた層は受けていない層に比べて、高リテラシーの割合が高く、低リテラシーの割合が低いことがわかります。
職場における金融教育は、そもそも提供している企業・していない企業がありますので、従業員が受けたいと思っても機会がないケースもあるでしょう。一方で、従業員の資産形成に対する意識は高まっており、それは若年層に顕著です。例えば、資産形成を後押しする非課税制度であるつみたてNISAの口座数は、図表3の通り過去右肩上がりに増加しています。
一方で、このような国の制度だけでなく、会社における「資産形成をサポートしてくれる福利厚生制度の充実も、若い世代を中心に重視されている傾向がありそうです。図表4は、会社員・公務員に対し、「資産形成に関する福利厚生制度(財形貯蓄や企業年金、持株会、社内預金など、貯蓄・運用のための制度)の充実度が就職先選定に影響したか。」を問うたものです。調査結果をみると、20歳代では37.6%、30歳代では29.9%(およそ3人に1人)が「影響した」と回答、40歳代以降でもおよそ5人に1人は「影響した」と回答しています。
以上のことから、現状では、職場における金融教育の受講経験者は限られるようですが、受講経験者とそうでない方で、金融リテラシースコア分布にも差がありそうです。従業員の資産形成意識の高まりなどの背景から、職場においても資産形成に向けたサポートが、特に20歳代・30歳代の従業員から求められているようですから、企業として取り組む意義も高まっているといえるのではないでしょうか。
次回は、企業側が従業員の金融教育や資産形成支援に取り組む意義についてご紹介します。
【第85回】
2022.12.21
前回のコラムで続くとなっていた、アメリカの調査での、「受ける機会があり、自分は受けた」と回答した2割の方に更に問いかけた設問が以下です。
○いつ「金融教育」を受けましたか
○合計で何時間「金融教育」を受けましたか
まず、いつ「金融教育」を受けたかは以下の結果となっています。
アメリカでもやはり若い年代は、高校でとの回答が高くなっています。アメリカでは1990年代前後から「金融教育」に関する様々に取り組みがなされてきましたが、2003年に金融リテラシー向上を目的とした政府横断の組織「金融リテラシー委員会(FLEC:Financial Literacy and Education Commission)」が設立しています。ただし「教育」に関しては、日本のように文部科学省が「学習指導要領」という方針を決めて全国に統一された基準を示すのではなく、各州等に権限がありそれぞれに非営利団体等の協力のもと基準を決めて取り組んでいます。有名な団体としてはジャンプスタート(Jump$tart)が挙げられます。
また金融教育を受けた時間に関しては以下の結果となっています。
いずれの年代においても、半数以上の方が「10時間以上」と回答されている点には驚きました。一方で、金融教育はライフステージやその時の環境に応じて必要となる内容やレベル感が異なってきますので、数時間学んで終わりというよりは学び続け、結果として10時間以上というのは当然のことともいえます。
さらに、この時間数について高校時代における金融教育の時間数を確認する意図で、「高校時代にのみ金融教育を受けた人」について調べてみたところ、【図表3】の結果となりました。
先ほどもお伝えした通り、「教育」に関してはアメリカ国内全体で統一された基準はなく、各州が基準を設けているため幅が出るかと思いましたが、やはり半数以上が「10時間以上」と回答しました。
日本の高校における金融教育は、家庭科のなかに主として位置付けられ進んでいます。高校家庭科は「家庭基礎」と「家庭総合」の2つのいずれかを選択して実施することとなっており、高校1~2年生の過程の中で家庭基礎は週2時間、家庭総合は週3もしくは4時間となっています。当然、家庭科の科目の中で学ぶ内容は衣食住を柱とし保育や高齢者問題など多岐に渡りますので、実際に2年間の中で消費者教育を含めた「金融教育」に占める時間数は、目安として家庭基礎は6時間程度、家庭総合は10時間前後となっています。アメリカの水準にはやや及ばないかもしれませんが、高校生のうちに土台を作るという意味で、量の面ではベターな水準といえるのではないかと思います。
ただし「金融」については、高校の授業で学んで終わりではなく社会人になってからも学び続けることが重要かと思われます。社会人になってからのお話は、次回コラムにて。
【第84回】日本の金融リテラシー事情
2022.12.14
2022.12.14
2022.12.07
今回ご紹介するのは、アメリカの調査との比較です。比較した設問は【図表1】の8問です(前回同様、回答は本コラムの最終部分に掲載しております)。
これらを比較したところ、【図表2】の結果となりました。
金融知識に関するQ1~Q6の正答率を比較すると、平均こそ日本が下回るものの、Q1の設問を除けばそこまでアメリカには大差はつけられていないのではという印象を受けられるのではないでしょうか。また日本においてもアメリカにおいても、年代が高くなるにつれ正答率が高くなる傾向にあります。年齢を重ねていく中で、様々なライフイベントやそれに対応するお金の面での経験値が上がっていくことで正答率も上昇するのだと思われます。つくづく金融に関する知識というのは、生きる力だと感じます。
またミライ研として注目したいのは、Q8です。こちらの設問の日本における回答結果は【図表3】です。
金融教育を「受ける機会があり、自分は受けた」という人は、日本では7.1%であるのに対し、アメリカでは20.0%と約3倍の差となっています。また「受ける機会があり、自分は受けた」と回答した人の年代別の割合は、【図表4】となっています。
年齢の切り方は少し異なりますが、日本は18-29歳の若年層の割合が高くなっています。ご参考に、ミライ研が独自に実施しているアンケート調査でも、金融教育経験の有無についてお尋ねしたところ、やはり若い年代の割合が高くなっており、そのような若い年代の方が「いつ金融教育を受けたか」という点を確認すると、【図表5】となりました。
特に20代では、小・中・高での受講経験者が一定の割合となっています。遡ること2005年に金融広報中央委員会(※日本銀行に事務局を置く組織)が「金融教育元年」と位置付けて学校での金融教育の推進に重点を置いた活動を展開、さらに2009年の学習指導要領改訂の際には、高等学校の家庭科・公民科などに金融教育の内容が盛り込まれました。それらの活動が、(実は?)ひたひたと浸透していたといえるようにも思われます。第55回コラムでは、2022年4月より高校における金融教育の内容拡充が図られたという点をお伝えしましたが、今回の変更は各種メディアでも取り上げられるなど過去の取組みよりもインパクトがありますので、5年後10年後にはこの割合が高まっていくのではと期待しつつ注視していきたいと思います。
さて、アメリカの調査では、「受ける機会があり、自分は受けた」と回答した人に更に設問を設けています。そちらに関しては長くなりますので、次回コラムにて。
【第83回】日本の金融リテラシー事情
2022.12.07
第55回~第58回のコラムで、内容が拡充された高校生向け金融教育の取り組みについてご紹介しました。その中でお伝えしきれなった、日本の現状での金融リテラシーや金融教育に関して、他国との比較の観点も絡めながら考えてみたいと思います。
日本と他国の「金融リテラシー」を比較した調査は様々にあるかと思いますが、金融広報中央員会が実施している「金融リテラシー調査」で公表されているものから2つご紹介したいと思います。
まず1つ目が、金融広報中央員会が実施している「金融リテラシー調査」とOECDが実施している「Adult Financial Literacy Competencies」の中から、共通して(同じような意図で)聞いている設問の正答率等を比較しているものです。
比較結果がどのような状況か…を確認する前に、是非、みなさんにもその共通設問をご覧いただき回答いただければと思います。
いかがでしたでしょうか。回答は本コラムの最終部分に掲載しておりますので、ご確認いただければと思います。では、これら9つの設問の回答結果状況を示したものが【図表2】となっています。
2020年に実施されたOECD調査に参加したのは24の国・地域となっており、そのなかに日本を位置づけると調査参加国平均よりもわずかに下回るものの8位相当となっています。この調査参加国のなかでのポジションとしてどうかというのは評価が難しいところですが、細かく見ていくと平均を下回っている設問があります。
金融知識に関する設問では、③リスクとリターンを問う設問、④インフレについて問う設問、⑤分散投資について問う設問、金融行動に関する設問では②お金への注意を問う設問が平均を下回る(中には10%以上下回る)結果となっています。
特に④インフレについて問う設問はOECD調査の中に位置づけると下位から2番目、②お金への注意を問う設問は下位から5番目と、この30年近く日本のデフレが続きインフレ(モノの値段が上がる)実感がない、モノの値段が下がっていくためお金の運用・管理についても場合によっては検討しなければというような切迫感がなかったとの世相を反映しているようにも感じられます。
またミライ研として気になったのは、金融行動に関する設問の④長期計画の策定が50%にとどまる点です。ミライコラム第67回~第69回でもお伝えした通り、資産形成を行っていく基礎となるのが「みなさん自身のライフプラン、マネープラン」です。お金を貯めるにせよ、使うにせよその場限りの判断をするのではなく、人生を見通したうえで意思決定を行っていくことが、みなさんのファイナンシャルウェルビーイング実現にもつながります。この点に関しては、今後の高校生向けの金融教育のみならず、あらゆる方が知って実践していくべきポイントかと思われます。
わずか9つの設問でしたが、他国に比べて強化すべきポイントだけでなく、世界全体での水準はさておいても高めていくべきポイントも見えてきたように思われます。次回は、他の調査結果をみてみたいと思います。
【第82回】日本の金融リテラシー事情
2022.11.30
2022.11.30
2022.11.23
以前【第40回】《寄り道コラム》「信託銀行ってなにもの?」にて私たちが働いている信託銀行の業務内容、その商品について紹介させていただきました(是非そちらも併せてご覧ください!)。
そして本年は、日本において「信託法」と「信託業法」が制定されて100周年となる節目の年に当たりますので、改めて「信託」が持っている機能や「信託銀行」としての役割、「信託」を活用した商品・サービスについてお話させていただきたいと思います。
信託とは、「信じて託す」と記載する通り、自分が持っている大切なお金や土地等の財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために管理・運用・処分を行ってもらう、という制度となります。
全容を触れさせていただくにあたって、その起源についても紹介させていただきたいと思います。信託の発祥については、様々な説がありますが現状有力とされているのは、13世紀頃、イギリス十字軍が戦地へ赴く際に、残していく家族のために、自身の領地や財産の管理や運用を第三者に託し、そこで生まれた利益を家族のために給付してもらっていたこととされています。その後19世紀頃にイギリスで信託法が制定され、日本でも1900年頃から、信託会社が設立されていったという非常に古い歴史を持っています。日本では1922年に「信託法」が制定されており冒頭でもお話したように、今年2022年が「信託法」制定100周年、となるわけです。
もともとは信託財産の管理や承継を目的として成り立った制度ですが、現在では財産を管理する機能だけでなく、「転換機能」、「倒産隔離機能」といった複数の機能を持ち、個人の資産管理のための「信託」から、社会貢献にも活用される「信託」と、活躍の幅が非常に広くなってきています。
「転換機能」「倒産隔離機能」と聞いても、初耳という方も多いかと思いますので内容を噛み砕き紹介させていただきます。
「転換機能」とは、信託された財産を「信託受益権」という一つの権利に転換し、その目的に応じて形を変えたり分けたりまとめたりする機能です。具体的にはこの機能により、信託された小口のお金をまとめて大きなお金として運用することや、不動産などを権利化することで流通しやすくさせる、といったことが可能となります。
「倒産隔離機能」とは、信託された財産は委託した人の倒産の影響を受けず、委託された人の相続財産や借金の強制執行の対象にもならないという機能です。この機能により、信託された財産は外部の影響から守られ、委託した人の想いをきちんと残していくことが可能となります。
これらの機能を活用しながら、「信託」は様々な商品・サービスに形を変えながら、私たちの生活に深く関わっています。
日常生活において「信託」が関わっている場面を少し覗いてみたいと思います。皆さまが資産を貯めたり、増やしたりする際には、小口の資金をまとめて大きな資産として運用する、「投資信託」として信託が利用されています(こちらは比較的言葉馴染みがあるかもしれません)。また、皆さまの資産を管理する信託として、その仕組みは企業年金などにも活用されています。皆さまの大切な資産や想いを次の世代につないでいく際には、「遺言信託」や、「教育資金贈与信託」として信託の機能が活用されています。その他にも、ご自身での意思判断が困難となった際には成年後見人を支えるための「後見制度支援信託」、家族間での資産管理や承継をスムーズにする「家族信託」、社会貢献サービスとしての「特定寄附信託」など、「人生100年時代」といわれる中、様々な社会課題に対するソリューションを提供できる金融機能を持った、現代にマッチする形の「信託」が数多く登場しています。
ちなみに、三井住友信託銀行としてはさらに、「おひとりさま信託」、「ハウジングウィル」、手続代理機能付信託である「人生100年応援信託(100年パスポート)・(100年パスポートプラス)」といった複数の商品・サービスラインナップを取り揃えながら皆さまの想いにお応えしております!
「信託」と聞くと、一見馴染みの薄いようなイメージを持たれるかもしれませんが、社会の中では意外とたくさんの場面で「信託」が登場しています。多様化するライフステージの中で、皆さまの大切な財産や想いを形にして守っていくために、様々な機能を兼ね備えながら活用される、それが「信託」が持つ力というわけです(我々信託銀行も管理を任される身として、非常に大きな責任感を持って日々働いております)。
皆さまも、一度ご自身の回りでも「信託」という言葉に注目されてみると、意外なところで発見されるかも・・?
また、「信託」に関するより詳細な内容や、当社での「信託商品・サービス」ラインナップの詳細ついては、ミライレポートとしても掲載させていただいておりますので、是非併せてご覧いただけますと幸いです!
【第81回】
2022.11.23
2022.11.22
2022年が信託法・信託業法が制定されて100年目となる節目の年であることにあわせ、「KINZAI Financial Plan(2022年11月)」において「信託」について特集されました。
第2章では、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の田村主任研究員が、信託銀行の多種多様なサービスについて取り上げながら、金融包摂・高齢者との取引に関する足元の動向についてお伝えしております。是非、ご覧ください。
レポート
2022.11.22
2022年が信託法・信託業法が制定されて100年目となる節目の年であることにあわせ、「KINZAI Financial Plan(2022年11月)」において「信託」について特集されました。
第1章では、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の丸岡所長が、信託及び信託銀行のこれまでの歴史と令和における世帯や家計を信託がどの様に支えていくことができるかについてお伝えしております。是非、ご覧ください。
レポート
2022.11.22
2022.11.22
2022.11.22
2022.11.16
前回のコラムでは、少若多老の時代における「資産の受け取り方」について、資産のミライ研究所のアンケート調査から、相続や生前贈与を受けた経験の有無、受けた年齢についてご覧いただきましたが、今回は続編として、「相続」に焦点をあて、相続時の「資産の規模」「資産の形態(金融資産、不動産など資産種別)」についての調査結果をご紹介します。
三井住友トラスト・資産のミライ研究所(以下、ミライ研)が実施したアンケート調査(2022年 対象年齢20歳~69歳)において、「相続を受けたことがある」と回答された1,766人に対して、相続した資産の規模について尋ねたところ、【図表1】の結果となりました。
相続資産額の全体平均は2,346万円となりました。世代別の平均値をみてみると、相続資産額1億円以上の比率の多寡によって、平均額にも差が生じているようです。各年代の回答者数が大きくないこともあり、相続資産の高額者比率が年代別の平均額の多寡に影響していると考えられます。
ただ、受け継いだ資産の平均額の大小は関心を集める「数字」ではありますが、その起点が「相続」であることもポイントです。相続時に年齢が若くとも「1人の相続人」として資産を受け継ぎますので、「相続時年齢の老若」に関わらず、相応の相続資産規模になっていると考えられます。
また、相続した資産の規模と合わせて「形態(金融資産、不動産など資産種別)」についても尋ねています【図表2】。
相続した資産種別に「現預金」が含まれていた方が約7割、不動産(住居)、不動産(土地)などが含まれていた方がそれぞれ約4割という結果になっています。
年代別の回答分布をみてみると、40歳代以降では現預金が約6割~7割、不動産(住居・土地)が3割~4割となっています。20歳代・30歳代では、現預金は6割~7割で全体平均とほぼ同じ比率ですが、不動産(住居・土地)の比率は全体平均よりも低い比率になっています。
これは、ミライ研のアンケート調査の別の設問で「誰からの相続か」を調査していますが、20歳代・30歳代においては実祖父母・実父母からの比率が双方とも高く、40歳代以降では実父母からの相続の比率が7割以上だったことが確認できていますので、実祖父母からの相続資産種別としては「現預金」のケースが多く、実父母から相続する資産種別には「現預金」とともに「不動産」も受け継ぐケースが多いのではないかと考えています。
日本の社会構造をみると少若多老(若年層が少なく高齢層が多い)が顕著となってきています。少子化により若年層は兄弟姉妹の数が少なく一人っ子のケースも多いと考えられます。現在の若年層の将来を想像してみると、職務のジョブ化や労働の流動化、副業・兼業化などの進展に伴い、同じ企業や組織に所属し続け、その中で右肩上がりの収入曲線をイメージしていくような単線的なライフステージは少数派になってくるかもしれません。一方で、世代間の資産承継という観点では、「大相続時代」を迎えることになりますので、自分の上の世代からまとまった資産を受け取るケースが増えることも考えられます。
例えば、図表1の「相続資産の平均額」規模で資産を受け継いだと想定しますと、ご自身の「老後資金2,000万円問題」に対する不安は和らぐように思いますが、同時に、ご存命の父母世代の「老後資金」についての責任の増大や、不動産(土地・住居など)の相続があれば、その管理やリフォームなどに関する支出についても考えていく必要が生じてくるかも知れません。「相続」は資産だけを受け継ぐのではなく、家族・親族の関りの中で、「役割や責任」も受け継ぐものとも考えられます。
受け取った資産を自身のライフプラン、マネープランの中で、どう位置付け、管理していくのか、また、それを自身の老後資金やライフイベントにどう活用していくのか、に対応していく観点で、相続時における「ライフプランやマネープランの策定(もしくは見直し)」が、今後、一層重要になってくると考えられます。
【第80回】令和の「資産受け継ぎ事情」その②
2022.11.16
「2025問題」というワードを目にする機会が増えてきているようです。これは、来る2025年において、日本の人口構成で最も厚みを持つ「団塊の世代」(約800万人)全員が75歳以上に到達し「後期高齢者」となることによって、社会にあらわれる様々なインパクトのことを指します。
団塊の世代のみなさんは、第1次ベビーブーム期に生まれ、さまざまな分野で日本の成長を牽引してきました。この世代全員が75歳以上となることで、総人口(約1億2500万人)のうち、後期高齢者人口は約2200万人に達することから、「国民の5人に1人は後期高齢者」という時代になってくるものと予測されています。
一方、若い世代に目を向けますと、1990年の出生率「1.57ショック」により、厳しい少子化の現状が強く認識されるようになったものの、最初の総合的な少子化対策である「エンゼルプラン」がまとめられたのは1994年、少子化社会対策基本法が制定されたのは2003年であり、1970年代から整備された高齢者向け社会保障制度と比較すると、少子化対策は今後の改善に期待せざるを得ない状況です。今回は、こういった「少若多老」の時代における「資産の受け取り方」について、データから考察してみたいと思います。
相続というと縁遠いと感じる人が多いかもしれませんが、実は誰しもが1度、もしかしたから2度以上経験するかもしれない身近な問題になってきているかもしれません。日本はこれから「大相続時代」に入ります。2025年問題の1つは、この「大相続」であり、これから10~20年内に高齢者が保有する多くの金融資産や不動産が、子世代以降に引き継がれていきます。
今回、ミライ研の1万人アンケート調査(対象年齢20歳~69歳)では、令和の資産「受け継ぎ事情」を探るべく、資産を受けとる側の実態を調査しました【図表1】。
11197人からの回答のうち、「生前贈与を受けたことがある」「相続を受けたことがある」への回答を「受贈経験あり」とし、年代毎に、受贈経験比率をみてみると、20歳代:10.9%、30歳代:11.7%、40歳代:14.4%、50歳代:28.4%、60歳代:46.7%、と年齢が上がるにしたがって受贈経験比率も上昇しています。特に、40歳代から50歳代でのアップ、50歳代から60歳代での大幅アップが特徴的です。「想像していたとおり」と思われる結果ではありますが、数字としてみることで、「相続・贈与」に身近になってくる年齢の確認ができたように思われます。
今回のアンケート調査では、「受贈経験の有無」と「受贈を受けた年齢」だけでなく、受贈それを「どなたから」「どんな資産を(金融資産、不動産など資産種別)」「どれくらい」受け取ったかを調査しました。
まず、生前贈与を受けたことがある方797人に、どなたから受贈されたかを尋ねたところ、【図表2】の結果を得ました。
また、相続経験のある方1766人を対象として、どなたから相続されたかを尋ねていますが、結果は【図表3】となりました。
生前贈与を年代別にみてみると、20歳代の受け方としては実祖父母からの比率が高く、30歳代以降になると実父母からの受贈比率が高まることがわかります。一方、相続の方は、20歳代・30歳代で実祖父母・実父母からの比率が高く、40歳代以降では実父母からの相続の比率が7割以上を占めていることが確認できました。
次回は、「令和の受贈事情 その②」として、資産の受け取り方でも「相続」に焦点をあて、受け取った「資産形態(金融資産、不動産など資産種別で)」「資産規模」についての調査結果をご覧いただきます。
【第79回】令和の「資産受け継ぎ事情」その①
2022.11.09
2022.11.09
2022.11.07
2022.10.19
金融教育の受講経験が資産形成にどんな影響を与えているのかをみるシリーズの最終回です。
これまで5回にわたり、資産形成に対する「意識・関心」や、資産形成のための「行動」そのものに与える影響をみてきました。
今回は、資産形成の「結果」ともいえる、実際の「年間資産形成額」と「金融資産保有額」に焦点を当てます。
ミライ研のアンケート調査によると、回答者全体の「1年間の資産形成額」の平均は105.8万円と、100万円を超えていました(図表1)。
ただし、最も多かったのは、年間資産形成額が「1万円以上~50万円未満」の人たちで、全体の4割(40.1%)に上ります。1割弱(8.6%)を占める「差し引きゼロ」の人と合わせると、約半数が年間資産形成額が「50万円未満」の人ということになります。
学校や職場における金融教育の受講経験の有無別に見ると、年間資産形成額の平均は、受講経験が「ある」人で115.3万円、「ない」人で100.8万円と、受講経験の有無で15万円の差がつきました。
金額別の構成比をみても、年間資産形成額が「500万円以上~1,000万円未満」や「1,000万円以上」の高額資産形成層の比率はほぼ同じですが、「50万円未満(「差し引きゼロ」+「1万円以上~50万円未満」)」の人の比率は、受講経験「あり」の人が4割強(42.9%)、「なし」の人が5割強(51.7%)と約1割違います。
金融教育は、資産形成への意識を高め、行動を起こす人を増やしただけでなく、資産形成の成果にもつながっている可能性があります(もちろん、金融教育を受ければ自動的に資産形成額が増えるというわけではありませんが)。
「金融教育を受けた時期」別にみると、年間資産形成額の平均が最も高いのは受講時期が「小学校に入る前」の人たちで173.4万円(図表2)。資産形成額の平均が最も低い「高校生の時」に受講した人たち(108.1万円)とは65万円の差がついています。先ほど、金融教育の受講経験の有無によって年間資産形成額に15万円の差があると書きましたが、受講経験が「ある」人の中でも、受講した時期の違いによって資産形成額には結構な開きが出ています。
受講時期が「小学校に入る前」の人たちの資産形成金額別の構成比をみると、1年間に「50万円未満」しか資産形成できなかった人は4割以下(37.5%)に留まり、年間「500万円以上」が1割強(11.5%)、うち4%は「1,000万円以上」と、他の時期に金融教育を受けた人と比べ明らかに高額資産形成層の比率が高くなっています。
彼らの8割以上(83.0%)を「資産形成真っ只中」の20歳代~40歳代が占めていることが影響していると思われますが(図表3)、年齢構成だけをみるなら、例えば受講時期が「中学生の時」の人の資産形成も、もう少し進んでいてよさそうなものです。
本シリーズ第73~77回で見えてきた「資産形成における『三つ子の魂百まで』説」は、資産形成に対する意識や行動の面だけでなく、成果についても成り立っていると言えるのではないでしょうか。
年間資産形成額の平均が2番目に高かったのは、「大学生の時」に受講した人たちです。平均で1年間に150.2万円資産形成しており、年間「200万円以上」の人が2割弱(18.8%)、「1,000万円以上」の人が4.8%と最も多くなっています。金融教育の記憶が新しい(受講の内容を覚えている)うちに、積み立て貯蓄/投資を始めたり、NISA口座を開いたり、iDeCoや企業型DCに加入したりと資産形成行動を活発化させたのかもしれません。
金融教育の受講時期が「社会人になってから」の人は、「小学校に入る前」の人と同じかそれ以上に資産形成意識が高く(第73回、第74回参照)、資産形成行動そのものにも積極的でしたが(第75回、第76回、第77回参照)、年間資産形成額は平均118万円と意外と低め。「資産形成真っただ中」をやや過ぎた50歳代以上の人が半数弱(46.3%)、うち60歳代の人が2割超(21.2%)を占めることと無関係ではないでしょう。
最後に、金融教育の受講経験の「金融資産保有額」への影響をみてみましょう。
回答者全体の金融資産保有額の平均は931.3万円でした。保有額が「300万円未満」の人が過半数(52.1%)を占め、うち保有額「ゼロ」の人(金融資産非保有者)が2割強(22.5%)います。「老後資金として保有しておくべきひとつの目安」と言われる「2,000万円以上」の金融資産を保有している人は、7~8人に1人(13.4%)でした(図表4)。
金融教育の受講経験の有無別に見ると、平均保有額は、受講経験が「ある」人で1,001.4万円、「ない」人で901.0万円と、100万円の差がつきました。
金融資産保有額が「ゼロ」の人の比率は、受講経験「あり」の人では19.3%、「なし」の人では23.9%、保有額が「2,000万円以上」の人の比率は、同じく「あり」では14.5%、「なし」では12.9%と、金額別の構成比からも、金融教育の受講経験が資産形成の成果である「金融資産保有額」を押し上げる方向に働いていることが明らかです。
金融資産保有額は年齢により大きく異なるので(一般的には年齢とともに増加)、「年齢」と「金融教育の受講経験有無」を掛け合わせたデータもみてみました。図表5です。
20歳代~60歳代のどの年齢層においても、受講経験が「ある」人の方が「ない」人より平均金融資産保有額は高くなっていました。受講経験の有無による保有額の差は、20歳代時点では95万円、30歳代時点では182万円と年齢が上がるにつれ拡大し、60歳代時点では500万円以上(516万円→※)となります(図表5)。
もう少し詳しく見ると、20歳代では、平均保有金額は前述の通り金融教育の受講経験が「ある」人の方が多いですが、保有額が「ゼロ」の人の比率は受講経験があってもなくてもほぼ同水準です(図表5)。保有額「ゼロ」の人が3割いる一方で「1,000万円以上」の人も1割弱(9.4%、図表5
)いるなど、金融教育を受けたことが「ある」20歳代の人は、金融資産保有額のばらつきが大きいようです。
30歳代以上なると、金融教育の受講経験が「ある」人は、「ない」人と比べ、平均保有金額が多いだけでなく、保有額が「ゼロ」の人の比率も低くなります。60歳代では、金融教育の受講経験「あり」の場合、保有額が「ゼロ」の人の比率は9.5%と1割を切ります(図表5)。
また、60歳代時点の平均金融資産保有額は、受講経験が「ある」人で2,234万円、「ない」人で1,717万円と、「老後資金として保有しておくべきひとつの目安」である「2,000万円」を挟む形となっており、「2,000万円以上」保有している人の比率も、受講経験が「ある」人では4割、「ない」人では3割と、1割の差が生じています(図表5)。
年金生活をまぢかに控えた年齢でのこの差……資産形成にとっての金融教育の重要性が改めてうかがわれる結果です。
「金融教育を受けた時期」別にみると、平均金融資産保有額が最も高かったのは、受講時期が「社会人になってから」の人で1,307.8万円。以下、「大学生の時」に受講した人(1,039.9万円)、「小学生の時」に受講した人(998.3万円)と続きます(図表6)。
受講時期が「社会人になってから」の人は、平均保有額が高いだけでなく、保有額が「2,000万円以上」の人が2割約(19.8%)、「5,000万円以上」の人も8.1%と高額保有層の比率も高いのですが、これは、金融資産の蓄積が進んだ50~60歳代の人が半数近くを占めている(図表3)ことを考えれば納得です。
一方、「大学生の時」に金融教育を受けた人は、20歳代が4割強、30歳代が2割強と若年層の比率が高いのですが、それでも平均保有額が1,000万円を超えているのは、受講で得た知識・情報を覚えているうちに資産形成行動を活発化させた結果とみることができるのではないでしょうか。(実際、「大学生の時」に受講した人たちの年間資産形成額は平均金額でみても、金額別構成比でみても相対的に高めでした。図表2参照)
年間資産形成額が最も高かった「小学校に入る前」に受講した人は、いかんせん金融資産の蓄積が進んだ50~60歳代の人が少ないため、金融資産保有額に関してはブービー賞という結果でした。
「金融教育の受講経験」が資産形成に与える影響をみるシリーズはこれにて終了です。
続編として、「相続・贈与の経験」が資産形成に与える影響をみるシリーズを考え中です。気長にお待ちください。
【第78回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?
2022.10.19
金融教育の受講経験が資産形成に向けての「行動」にどう影響するかの最終回です。節約やポイ活(ポイントやマイルの活用)に代表される「家計面の工夫・努力」と、NISAやiDeCoなどの「資産形成のための優遇制度の利用」について見てみます。
食費や光熱費を節約する、ポイ活をする、家計簿をつけるといった「家計面の工夫・努力」は、直接的な資産形成行動ではありませんが、日々の家計にゆとりを持たせることは資産形成の元手作りの第一歩、そして「家計コンシャスな生活」への第一歩でもあり、資産づくりのための大切なアクションと言えるでしょう。
ミライ研が実施したアンケート調査によると、こうした家計面の工夫・努力を行っている人は、回答者全体の8割弱(78.2%)に上り、行っていることの数は平均で2.4個でした(図表1)。
学校や職場における金融教育の受講経験の有無別に見ると、受講経験が「ある」人では、工夫や努力の実施者比率は85.7%。約半数(48.4%)の人が3つ以上の工夫・努力をしており、6つ以上の工夫・努力をしている人も1割強(11.2%)いました。
受講経験が「ない」人では、実施者比率が75.4%と、受講経験が「ある」人より約10%ポイント低くなっています。行っている工夫や努力の数も、受講経験が「ある」人は2.7個、「ない」人では2.3個と受講経験の有無により差がつきました。
とは言え、金融教育を受けたことがない人でも、4人中3人はなんらかの家計面の工夫・努力を行っており、またその数が平均で2つを超えていることをみれば、節約やポイ活は、金融教育云々を抜きにして、私たち日本人の生活にかなり根付いていると言えるでしょう。
「金融教育を受けた時期」別にみると、受講時期が「小学校に入る前」の人を除けば、9割弱の人が家計面の工夫・努力を実施しており、実施している工夫・努力の数は平均で2.8~3.0個という結果でした(図表2)。
受講時期が「小学校に入る前」の人のみ、家計面の工夫・努力を「何もしていない」人が2割を超え(22.3%)、平均実施個数は2.4個と、他の時期に金融教育を受けた人を大きく下回っています。
金融教育を「小学校に入る前」に受けた人は、これまで、資産形成に対する意識の高さや老後資金の準備開始の早さ、リスク資産の保有者比率や生活設計・資金計画の検討者比率などのいずれにおいてもトップクラスで、「三つ子の魂百まで」説が当てはまりっぱなしだっただけに、家計面の工夫や努力で後れを取っている(相対的にみて明らかに消極的)のは面白い発見でした。
続いて、NISAやiDeCoなどの「資産形成のための優遇制度の利用」についてみると、回答者全体の利用者比率は4割(39.6%)で、うち1割強(11.3%)が2つ以上の制度を利用しているという結果でした(図表3)。
金融教育の受講経験が「ある」人では、制度利用者比率は46.0%まで上がり、うち複数制度利用者は13.7%。受講経験が「ない」人では同じく36.9%、10.3%と、前述の「家計面の工夫・努力をしている人」と同じく、受講経験を持つ人の方が利用者比率が約10%高くなっていました。
「金融教育を受けた時期」別にみると、最も優遇制度の利用者比率が高かったのは、「社会人になってから」受講経験がある人で、半数(50.2%)が利用しており、うち15.5%は複数の制度を利用していました。これに続くのは「大学生の時」に受講した人で、利用者は半数弱(46.7%)、うち複数制度利用者は13.5%でした(図表4)。
大学生や社会人向けの金融教育では、たいていの場合、NISAやiDeCo、企業型DCなどの紹介・解説をするので、この時に得た知識が利用者比率を高めている一因と考えられます。
受講時期が「小学校に入る前」の人の優遇制度の利用者比率は、受講時期が「小学生」~「高校生」の人よりは高いものの、受講経験が「ある」人全体(図表3の中段)の利用者比率を下回っていました。また、複数制度の利用者比率は10.3%と、「金融教育を受けた時期」別の6グループ中最低でした。
前述の「家計面の工夫・努力」と同じく、優遇制度の利用に関しても、「三つ子の魂百まで」説の当てはまりは今一つです。
個別の優遇制度についてみても、金融教育の受講経験が「ある」人の方が利用者比率が高くなっていました。受講経験の有無による差が相対的に大きいのは企業型DCで、小さいのはiDeCoでした(図表5)。
「金融教育を受けた時期」別にみると、受講時期が「小学校に入る前」の人は、「NISA」の利用者比率だけは31.9%と際立って高い(受講経験「あり」の人全体=21.6%も大きく上回る)ですが、「つみたてNISA」は16.8%で他の受講時期の人と大差なく(受講経験「あり」の人全体とも等しく)、「ジュニアNISA」「iDeCo」「企業型DC」の利用者比率は他の受講時期の人より低くなっています(受講経験「あり」全体も下回る)。
対照的に、「大学生時代」や「社会人になってから」金融教育を受けた人は、まんべんなく全ての優遇制度の利用者比率が高くなっていました。
資産形成に対する「意識」は高いけれども、「家計面の工夫・努力」や「優遇制度の利用」といった「行動」面になるとさほどでもない(受講時期が「大学生時代」や「社会人になってから」の人ほど積極的ではない)ことが、「小学校に入る前に受講した」組の特徴と言えます。
「意識編」「行動編」と5回にわたりみてきた金融教育の受講経験が資産形成に与える影響も次回が最終回です。
「結果編」として、実際の「金融資産保有額」と「年間資産形成額」に差がついているのかをご報告します。
【第77回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?
2022.10.12
2022.10.12
2022.10.05
金融教育の受講経験が資産形成に向けての「行動」にどう影響するかの2回目です。今回は、「将来の生活設計や資金計画の検討」を取り上げます。
将来の生活設計・資金計画について、FP(ファイナンシャルプランナー)などに相談したり、自分で今後の収支を計算するなど、何らかの方法で検討したことがある人は、回答者全体の約1/3(32.3%)にあたります(図表1)。
学校や職場での金融教育の受講経験の有無別に見ると、受講経験が「ある」人では5割弱(48.9%)、「ない」人では1/4(26.0%)と、受講経験の有無により、将来の生活設計・資金計画を検討したことがある人の比率には約2倍の差が生じました。前回みた「リスク資産を保有している人の比率」(受講経験が「ある」人が25.6%、「ない」人が19.6%)や「老後資金の準備を始めている人の比率」(同62.8%、50.4%)と比べてもかなり大きな差です。
「金融教育を受けた時期」別にみると、「小学校に入る前」に受けた人(54.2%)と、「社会人になってから」受けた人(53.4%)が双璧で、いずれも半数を大きく超える人たちが生活設計や資金計画の検討をしたことがあると回答しています(図表2)。
「社会人になってから」受けた人については、既に将来の見通しを立ててもおかしくない年齢ですし、社会人向け金融教育の内容自体にも「将来の資金シミュレーション」等が入ることが少なくないので納得の結果ですが、「小学校に入る前」に受けた人の検討者比率が高いことについては、「三つ子の魂百まで」ということになるのでしょうか。
具体的にどのようにして検討しているのかをみると、回答者全体で最も多かったのは「自分で今後の支出を計算」で14.8%。「自分で今後の収支とやりくりを計算」(12.7%)、「自分で人生イベントをシミュレーション」(11.5%)がこれに続きます。
「FPに相談」(6.6%)と「金融機関や行政の職員などに相談」(3.3%)は合計しても1割以下に留まり、将来の生活設計や資金計画の検討については「セルフ派」が主流と言えそうです(図表3)。
具体的な検討方法のいずれについても、金融教育の受講経験が「ある」人の方が実施率が高く、自分で支出計算や人生イベントのシミュレーションをする人の比率は、受講経験「あり」の人が2割前後(18.4%~21.6%)、受講経験「なし」の人が1割前後(8.7%~12.2%)でした。
また、金融教育の受講経験が「ある」人では、他者への「相談派」も結構いて、8人に1人(12.5%)が「FPに相談」しています。
「金融教育を受けた時期」別にみると、大きく3つのグループに分かれました(図表4)。
受講時期が「小学校に入る前」の人の実施率が群を抜いて高いのが「FPに相談」と「自分でイベントをシミュレーション」で、受講時期が遅い(受講時の年齢が高い)ほど実施率が上がる傾向にあるのが「金融機関や行政の職員などに相談」と「自分で今後の支出を計算」、受講時期が早い人と遅い人の両端の比率が高いのが「自分で今後の収支とやりくりを計算」でした。
次回は、金融教育の受講経験が資産形成に与える影響の「行動編」の最終回です。
「家計面の工夫・努力」と「NISA、iDeCoなど資産形成のための優遇制度の利用」についてみてみたいと思います。
【第76回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?
2022.10.05
2022.09.28
前回、前々回では、金融教育の受講経験が資産形成に対する「意識・関心」を高めること、また、その効果が特に大きいのは、「小学校に入る前」に金融教育を受けた場合であることをお伝えしました。
では、資産形成に向けての「行動」自体に対しては、金融教育の受講経験はどんな影響を与えているのでしょうか。3回にわけてみてみたいと思います。
今回は、「老後資金の準備を始めた時期」と「リスク資産の保有」についてです。
まず、「老後資金(公的年金以外に自分で準備しておく資金)」の準備を何歳ぐらいで開始したかについて。
回答者全体では、5割強(53.8%)の人が準備を開始しており、開始した年齢は、20歳代~50歳代までがほぼ均等で(11.5%~13.4%)、60歳代になってから始めた人は3.4%と少数派でした(図表1)。
前回見たように、老後資金について「意識している」人は回答者全体の7割(70.5%)ですので、「意識してはいるけれど実際の準備にはまだ取り掛かっていない」人が16.7%(70.5%-53.8%)いることになります。
学校や職場での金融教育の受講経験有無別に見ると、受講経験が「ある」人では、6割強(62.8%)が老後資金の準備を始めており、開始時期で最も多いのは20歳代の約2割(19.8%)。40歳代までには半数(49.5%)が開始しています。金融教育を受けたことが「ある」人には、いわゆる「退職前後層」になるよりも前から老後資金の準備に着手する人もかなりいることがわかります。
また、受講経験「あり」で、老後資金について「意識している」人は75.8%だったので(前回コラムご参照)、「意識はしつつ、まだ着手していない」人の比率は13.0%(75.8%-62.8%)と、回答者全体よりやや低いです。金融教育を受けたことが「ある」人は、ほんの少しだけ、資産形成に対する意識が実際の資産形成行動に結び付きやすい人と言えるかもしれません。
一方、金融教育の受講経験が「ない」人では、老後資金の準備を開始している人は半数(50.4%)に留まります。20歳代で開始した人は1割(10.4%)、30歳代までに始めた人でも2割強(22.0%)と、金融教育の受講経験が「ある」人よりかなりのんびりしています。
受講経験「なし」で、老後資金について「意識している」人は68.5%だったので(前回コラムご参照)、「意識しつつもまだ着手はしていない」人は18.1%(68.5%-50.4%)。そもそも意識する人が少ないのに加え、相対的にみて意識が行動に結び付きにくい人が多いようです(あくまでも「資産形成」に関しての話)。
金融教育の受講経験の有無で、老後資金の準備を開始している人の比率には1割以上の開きが出ており、これはほぼそのまま30歳代以下の比較的若いうちから準備を始めている人の比率の差となっています。
「金融教育を受けた時期」別にみると、老後資金の準備を「開始している」人の比率が最も高いのは「社会人になってから」受けた人で約7割(71.2%)が開始済み。「小学校に入る前」に受けた人が6割(59.1%)でこれに続きます(図表2)。
ただ、「老後資金についての意識」に関しても同様だったのですが(前回コラムご参照)、準備を開始した年齢は、「小学校に入る前」に受講した人の方がずっと若く、4割弱(37.0%)が20歳代で、30歳代までにはほぼ半数(48.2%)が老後資金の準備を始めています。
「社会人になってから」受講した人では、30歳代までに準備を開始した人は1/3(34.4%)に留まり、50歳代以上になってから始めた人も2割弱(18.6%)います。
低金利時代の資産形成においては、投資信託や株式といったリスク資産の保有も重要な選択肢のひとつでしょう。
ミライ研のアンケートで、日常の(定期的な)貯蓄投資行動におけるリスク資産保有の有無を聞いたところ、保有している人の比率は回答者全体では2割強(21.3%)でした。
金融教育の受講経験の有無別にみると、受けたことが「ある」人では保有者は4人に1人(25.6%)、受講経験が「ない」人では5人に1人(19.6%)と、受講経験の有無によりリスク資産保有者比率には約5%の差がつきました(図表3)。
「金融教育を受けた時期」別では、「大学生時代」や「社会人になってから」など、大人になってから受講した人のリスク資産保有者比率が特に高く、いずれも3割強でした。
「小学校に入る前」に受講した人のリスク資産保有者比率は3割弱(28.2%)で、小学生~高校生時代に受講した人よりは高いですが、大人になってから受講した人にはかないません(図表4)。
前述の「老後資金の準備」についても、「リスク資産の保有」についても、「小学校に入る前」に金融教育を受けた人の優位性は、金融リテラシーや老後資金に対する意識の有無、年金受給額の把握において見られたほど突出したものではなく(前回前々回コラムご参照)、資産形成の「意識面」と比べると「三つ子の魂百まで」説の当てはまりが若干弱い感じです。
次回は、資産形成行動の中の「将来設計や資金計画の検討」についてみてみたいと思います。
【第75回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?
2022.09.28
金融教育の受講経験が資産形成に対する「意識・関心」面に与える影響の2回目です。
前回は「金融経済情報を見る頻度」、「金融経済用語の認知度・理解度」という資産形成意識の土台・根底とでもいうべき部分を取り上げました。
今回は、もっとストレートに「老後資金について意識し始めた時期」と「自分がもらう年金金額の把握」についてみてみます。
まず、「老後資金(公的年金以外に自分で準備しておく資金)」について、何歳ぐらいから意識しているのかをみてみましょう。
回答者全体では、「意識している」のは7割(70.5%)で、残り3割(29.5%)はまだ意識していないという結果でした。20~30歳代の若いうちから意識し始めたという人が3割強(32.5%)いる一方で、50歳代以上になってから意識し始めた人も2割(19.7%)いました(図表1)。
学校や職場での金融教育の受講経験の有無別に見ると、受講経験が「ある」人では、4人中3人(75.8%)が老後資金について意識しており、うち1/4(24.9%)が20歳代で意識し始め、4割強(42.6%)が30歳代までに意識し始めたとのこと。
一方、金融教育の受講経験が「ない」人では、老後資金について意識している人の比率が7割弱(68.5%)と、受講経験が「ある」人よりやや低くなっていました。意識し始めた年齢も、受講経験「あり」の人より遅めで、50歳代以降に意識し始めた人が2割を超え(21.3%)、20歳代で意識し始めた人は1割強(13.0%)30歳代までに意識し始めた人は3割弱(28.9%)に留まります。
受講経験がある人の方が、老後資金について意識している人が多いだけでなく、早いうち(若いうち)から意識し始めていると言えます。
「金融教育を受けた時期」別にみると、老後資金について「意識あり」の人の比率が最も高いのは「社会人になってから」受講した人で83.5%。「小学校に入る前」に受けた人が79.3%でこれに続きます(図表2)。
ただ、意識し始めた年齢は、「小学校に入る前」に受講した人の方が格段に若く、4割強(41.9%)が20歳代で、30歳代までには6割(60.4%)が老後資金について意識し始めたと回答しました。
受講時期が「社会人になってから」の人は、30歳代までに意識し始めた人は4割(40.2%)に留まり、50歳代以上になってから意識し始めた人が2割(20.0%)います。
前回、「三つ子の魂百まで」は金融リテラシーにも当てはまると書きましたが、「老後資金に対する意識」においてもこの説は健在のようです。
次に、自分の年金受給額をイメージできる人の比率をみると、回答者全体では4割強(43.0%)でした。金融教育の受講経験が「ある」人では5割を超え(51.5%)、「ない」人では4割弱(39.8%)と、受講経験の有無で1割強の差がつきました(図表3)。
年齢が上がるにつれ、年金受給時期が近づいてくるので、受給額をイメージできる人の比率も当然上がり、さすがに60歳代では受講経験がなくても7割以上(72.2%)の人が受給額を把握しています。
とはいえ、20歳代の受講経験「あり」の人の比率が30歳代の受講経験「なし」の人の比率を上回っていたり(図表3)、40歳代の受講経験「あり」の人の比率と50歳代の受講経験「なし」の人の比率があまり変わらなかったり(同
)と、金融教育の受講経験が年金受給額把握を促す効果はあなどれません。確かに、筆者が唯一受けたことがある金融教育=勤務先のDC教育でも、「皆さんの誕生月に『ねんきん定期便』というものが送られてくるので、いくらぐらいもらえるか1度確認してみましょう」と言っていたような……
ちなみに、「金融教育を受けた時期」別では、イメージできるの人の比率が最も高いのは「小学校に入る前」に受講した人で3人に2人(67.7%)、2番目が「社会人になってから」受けた人で6割(59.4%)でした(図表4)。
小学生以下を対象とした金融教育で、「皆さんがお爺さん、お婆さんになった時にもらえる年金について考えてみましょう!」という展開はよもやなかろうと思いますが、幼少期に金融教育を受けた人は、金融や資産に対する意識・アンテナの高さが大人になってからも保たれていて、「ねんきん定期便」などもしっかりチェックする人が多いのかもしれません。
次回からは、「老後資金の準備を始めた時期」、「投信や株式などのリスク資産の保有」、「NISAやiDeCoなどの優遇制度の利用」といった「資産形成に向けての実際の行動」に、金融教育がどう影響しているかをお伝えします。
【第74回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?
2022.09.21
2022.09.21
資産形成を行う上で必要な知識を得るため、増加が続く金融犯罪や消費者トラブルから身を守るためなど、様々な理由から「金融教育」の重要性が高まっています。金融広報中央委員会の『金融リテラシー調査(2022年)』でも、「金融教育を行うべきだ」と回答した人は72%と過去最高でした。
また、この4月には、成人年齢が18歳に引き下げられたことに合わせる形で学習指導要領が改訂され、高校での金融教育も内容が拡充されました。(ミライ研でもお手伝いさせていただいています。)
では、「金融教育」の受講経験は、資産形成にどのような影響を与えているのでしょうか。
ミライ研が実施した第3回「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)の結果を基に、意識編、行動編、結果編にわけてご紹介します。
初回は、資産形成に対する「意識・関心」面に対する「金融教育」の影響についてです。
金融教育の受講経験がある人とない人で、金融経済情報を見る頻度は違う?金融経済用語の認知度・理解度に差はある?
結果は以下のようになりました。
本題に入る前に、日本人の金融教育の受講状況を簡単にご紹介しておきます。
アンケート調査で、学校や職場で金融教育を受けたことが「ある」と答えた人は4人に1人強(27.2%)。
年齢別にみると、20歳代では4割、30歳代では3割強、40歳代以上では2割台と、若い人の方が受講経験者比率が高くなっており、20歳代と60歳代では約2倍の差がついています(図表1)。
また、男性と女性では男性の方が受講経験者比率がやや高く、地域別では三大都市圏よりその他の地域(地方圏)の方が少しだけ高いという結果でした(図表2、図表3)。
金融教育を受けた時期については、総じて「社会人になってから」の人が多いですが、若い人ほど「小学校に入る前」や「小学生時代」、「中学生時代」など低年齢の時に受けた人が多く、20歳代では「小学生時代」が14.9%で最も多くなっていました(図表4)。
金融教育の低年齢化が進んでいることは間違いなさそうです。
「社会人になってから」受講した人の比率が高い点については、企業型確定拠出年金(企業型DC)制度の導入企業に対し「従業員に対する継続的な投資教育の実施」が努力義務として課せられていることが関係しているでしょう。
さてここからは、金融教育の受講経験の有無や、受講した時期によって、金融経済情報を見る頻度や金融経済用語の認知度・理解度に差が生じるのかをみていきます。
アンケートで「金融経済情報を見る頻度」について訊いたところ、回答者全体では、「ほぼ毎日」見る人と「週に1回程度」見る人が約2割ずつ(20.2%、19.3%)、「月1回程度」が1割(11.6%)、「月1回以下」が半数(49.0%)という結果でした(図表5)。
これを金融教育の受講経験の有無別にみると、受講経験が「ある」人では、金融経済情報を「ほぼ毎日」見る人と「週に1回程度」見る人の比率がそれぞれ1/4(25.2%、24.5%)まで上がって合計5割に。「月1回以下」の人の比率は1/3強(36.0%)まで下がります。
一方、受講経験が「ない」人では、「ほぼ毎日」見る人が5人に1人もおらず(18.4%)、「月に1回以下」が5割を大きく超えます(53.8%)。
次に、10個の経済・金融用語の認識度・理解度を答えて頂き、結果をポイント化しました(→※)。10の用語の合計ポイントを「金融リテラシーポイント」とし、回答者各人の点数を集計したところ、20点満点中「5点以下」の人が2割弱(18.9%)、「6~10点」が4割弱(37.6%)、「11点以上」が4割強(43.5%)で、平均点は10.1点でした(図表6)。
金融教育の受講経験の有無別にみると、受講経験が「ある」人では、金融リテラシーポイントが「11点以上」の人が5割を超え、うち2割強(22.2%)が「16点以上」。「5点以下」の人は15%に留まり、平均点は11.1点でした。
受講経験が「ない」人は、金融リテラシーポイントが「11点以上」の人が4割と、受講経験が「ある」人より1割以上少なく、「5点以下」の人が2割(20.4%)、平均点は9.7点でした。
金融教育の受講経験が「ある」人は、金融経済情報に接する頻度が高く、知識も豊富であることがわかります。
「金融教育を受けた時期」別にみると、金融経済情報を見る頻度が高い人、金融リテラシーポイントが高い人ともに、最も多いのは「小学校に入る前」に金融教育を受けたことがある人でした(図表7、図表8)。
金融経済情報を「ほぼ毎日」見る人と「週に1回程度」見る人がおよそ1/3ずつ(32.6%、34.1%)、金融リテラシーポイントが「11点以上」の人が2/3弱で、うち「16点以上」の人が4割(39.9%)に上り、平均点は12.4点と、他の時期に金融教育を受けた人とはかなり差がついています。
「三つ子の魂百まで」という諺は、金融リテラシーにも当てはまると言えそうです。
今回は、「資産形成に対する意識」の中でも土台・根底に当たる部分に対して、金融教育の受講経験がどう影響するのかをみました。次回は、資産形成意識のもう少し具体的な部分「老後資金について意識し始めた時期」と「自分がもらう年金金額の把握」についてみてみたいと思います。
【第73回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?
2022.09.14
2022.09.14
2022.09.12
「 KINZAI Financial Plan( 2022 年9月号)」にて「思わず人に話したくなる 人生設計への真剣度は2倍?「持家×金融教育経験者」VS「賃貸×金融教育未経験者」」が掲載されました
2022.09.12
2022.09.07
前回は、老後不安の要因についてみてみました。
特に若い方の老後不安は「(資産を)持っていないから不安/持っているから安心」という結論にはなりませんでした。やはり、「先のことがわからないから不安」という、先行きの見通しが立たないことも大きな要素であることです。
今回は、この“自身の人生の先行きを見通す”ことについて掘り下げてみます。
不安に思っている人は、不安に思うだけで何もやっていないのでしょうか?下記の通り「老後不安あり」と答えた方々を対象に資産形成の取り組み状況を聞くと、下記の通り、何かしら実践している人が7割以上の結果です。単に不安に思うだけでなく、アクションをしている方が大半ということです。
では、この資産形成の取り組みを行っている人を対象に、将来設計について尋ねてみました。すると、「将来の生活設計・資金計画について検討したことはない」回答が54.9%と過半であることがわかります。つまり、老後資金の不安を抱え、自ら資産形成のアクションを取っているものの、将来の設計はせずに行っていることがわかります。
老後資金計画は、自ら立てることは難しいかもしれません。しかしながら、例えば住宅ローンを借りるタイミングでは長期的な資金計画を立てるので、自然と生活設計を相談するケースも多いようです(事実、住宅ローン利用者とそうでない人は、FP(ファイナンシャルプランナー)などに生活設計・資金計画について相談したことがある旨の回答率が約2倍)。
不確実な部分が多くあったとしても、統計データなどのある一定の前提を置けば、算出自体は可能であり、ライフイベントごと(結婚・引っ越し・出産・転職・自宅購入・進学など)にそれを修正していく、その“ライフプランの羅針盤”を携えておくことで、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定により、お金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」、つまり“ファイナンシャル ウェルビーイング”の実現に近づくのではないでしょうか。
【第72回】第3回1万人アンケート調査
2022.09.07
2022.09.05
2022.09.05
2022.08.31
前回は、老後の生活は平均像では語れないことを見てみました。
今回は、この老後不安事情を様々な切り口で分析していきたいと思います。
老後の不安は、資産があるほど解消されるでしょうか?
下記は年代ごとに、保有金融資産別の“老後不安”回答率を示したものです。
年代が上がるにしたがって、持っている人と持っていない人の老後不安に差が出てきていることがわかりますが、若い方々は、ある程度の資産があれども老後不安を軽減しているわけではなさそうです。
では今度は、保有不動産という観点で見てみましょう。自身の住まい(持ち家)があるとないで不安は変わるでしょうか。
図表2を見ると、どの年代も、持ち家の方より賃貸の方のほうが、老後不安を持っている方は多そうです。現在の持ち家を終の棲家にするかはさておき、住まいが現時点で確保されていることは将来不安の解消につながっていそうです。若い方はさほど差はないものの、高齢になるほど、この不安の差が大きくなっているようです。高齢になるほど賃貸物件を借りづらくなっていきますので、そのことも不安の大きさに反映されていることが想定されます。
いかがでしたでしょうか。自身の金融資産・不動産などの有無における老後不安の差についてみてまいりました。年齢を重ねるほど、金融資産・不動産を持っているほど不安が減り、持っていないと不安を感じるようです。また、若い年代では金融資産・不動産を持っていても、不安度にそこまで差はないようです。
ここで考えたいのが、老後不安は「(資産を)持っていないから不安」だけでなく、「先のことがわからないから不安」という、先行きの見通しが立たないことも大きな要素であることです。若い方の不安も、ここに拠る部分が多分にありそうですね。
次回は、この“自身の人生の先行きを見通す”ことについて掘り下げてみます。
【第71回】第3回1万人アンケート調査
2022.08.31
2022.08.24
令和はほとんど新型コロナウイルス感染症との闘いとなっている状況ですが、職場環境だけでなく、生活スタイルとそれに伴う消費行動・資産形成行動も相当変わり、ご自身の資産形成を見つめなおした方も多いと思います。その中で“お金に関する不安”は尽きないことと思いますが、今回はこの不安についてみていきます。
まずは、何に不安を感じているかを見ていきます。年齢ごとに、お金に関する不安の項目を聞いていますが、見事なまでに「老後資金」がトップです。若い人も半数弱が老後不安を挙げています。それほどまでに、若いうちから自助努力で老後準備しなくてはいけない、という意識が浸透しているのでしょう。
ここまで老後不安が広がっている要因のひとつに、2019年に話題となった「老後資金2,000万円問題」があるのではないでしょうか。この試算は、金融庁の金融審議会が“統計データ”を基にすると、夫婦2人の場合、公的年金だけでは毎月約5.5万円の赤字になるので、老後を30年と想定すると、
5.5万円 × 12か月 × 30年 = 1,980万円
という計算になります。これが“老後資金が公的年金では2,000万円不足する”というニュアンスで大々的に取り上げられることになったものです。
ですが、この金額、皆が同様に当てはまるものでしょうか。
収入は現役時代の収入に影響受けるうえ、共働き/片働きによっても年金受給額が変わります。またそもそも二人以上世帯/独身世帯によっても全く違うものとなるでしょう。
一つ、ミライ研の調査をご紹介します。現在の支出額を伺ったうえで、老後支出額の想定を同様に伺っています。50-60代の回答で見比べてみると、下図のようになります。
想定通りではありますが、50-60代において、現役生活費の平均と老後生活費の平均を比較すると、正の相関が確認できます。現在の生活費が一定額以上になると、老後には生活費が下がると考える層が増える結果になり、おおよそ現役時代の生活費の7割~8割くらいの生活費を想定していることがわかります。
世間のデータは“参考にする”として、平均像では語れない“自身のケース”はどうか、という部分をしっかり考えてみることが大切です。
【第70回】第3回1万人アンケート調査
2022.08.24
前回コラムで、生涯を通じて発生する「金融資産と支出のギャップ」の中でも、とくに「長期」「多額」のものとして「住宅ローン」と「自助年金」があることについてお話しました。長い生涯を通じて想定される「金融資産と支出のギャップ」の中には「次の給料日までの遣り繰り」といった短期のものもありますが、「長期」で「多額」という観点での両横綱は「住宅ローン」と「自助年金」に関するものです。
「住宅ローン」については、住宅購入の際に頭金をどの程度とするか、また、借入後も、余裕資金ができた場合に繰上げ返済に充てるのか、「貯蓄・積立投資」との両建てにするのか、といったことが悩ましい問題になります。頭金については、「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)では、30歳代では「頭金なし」「頭金1割」の合計が65.5%となっており、一昔前とは違って「頭金はなしでも住宅購入する」という時代になってきているように思えます。頭金に充当しないで、手元資金を置きつつ「貯蓄・積立投資」と両建てする人が増加している背景には、現在、「住宅ローン」金利が極めて低水準で、個人として資金調達をする場合に、これほどの低金利でできる手段が他にないということもあるように思えます。
「住宅ローン」の特別減税の期間中はもちろんのこと、終了後も現状は極めて低金利で、「住宅ローン」は一般的には「団体信用保険」という形の死亡保障がついているという特徴もあります。ご自身の健康状態によっては、新たに死亡保障の定期保険を契約しようとしてもできないケースもありますので、余裕資金ができた場合には、金利環境、「住宅ローン」という商品・サービスの特徴、ご自身の健康状態なども踏まえて「住宅ローン」の繰上げ返済に充てるのか、「貯蓄・積立投資」と両建てするのかを検討してみるのがよいと考えています。
「貯蓄・積立投資」との両建てという話をしましたが、「貯蓄」の場合には、お勤めの方であれば、職場に財形制度など会社の支援がついた有利な制度がないか、「積立投資」であれば、企業型の確定拠出年金(DC)や個人型の確定拠出年金(iDeCo)で利用可能な枠は残っていないか、家計全体で少額投資非課税制度(NISA)をフル活用できているか、というように「会社の何らかの支援制度」や「国の税制優遇制度」を上手に活用することがポイントになります。もちろん投資は自己責任で、住宅ローン金利以上の成果が見込めるかどうかは分かりませんが、例えば、個人にとって利用しやすい「投資信託」でいうと、図表のとおり、10年以上の運用実績がある投資信託1676本の中で、10年間の年率リターン3%以上のものが1264本と約75%となっていることも確かです。
「貯蓄・積立投資」について、セカンドライフに向けた備えである「自助年金」という位置付けの場合には、毎月どのぐらいを「貯蓄・積立投資」に振り向ければよいのかということがポイントとなります。当面の収入と支出の状況から、取り敢えず「毎月2万円」は「貯蓄・積立投資」に回すというのも立派な資産形成ですが、やはりセカンドライフに向けた「貯蓄・積立投資」ということならば、セカンドライフで取り崩していく金額から逆算して「毎月●万円を積み立てる」というような計画を立てることが大切になります(詳細は【第52回】資産形成と取り崩し②をご参照)。
日本でも注目されだしている「ファイナンシャル ウェルビーイング」について考えてきましたが、この3回シリーズが、お付き合いをいただいた皆さまの「ファイナンシャル ウェルビーイング」向上に少しでも繋がることを願いつつ、「ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)とは?」の最終回とさせていただきます。
プロフィール紹介
執行役員 資産形成層(職域)横断領域 副統括役員
井戸 照喜
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からラップ口座の運用責任者。2013年から投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年5月に三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社取締役社長。2022年4月から現職。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【執筆協力】
『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)
【第69回】ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)とは? ③
2022.08.17
2022.08.17
前回コラムで、お一人お一人がご自身の価値観・ライフスタイルに応じて、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定により、お金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」(ファイナンシャル ウェルビーイング)であることの重要性が高まってきているという話をしました。
もう少しかみ砕いてみますと、資産形成期、退職前後、セカンドライフと、一人一人に様々なライフイベントがあります。よくビジネスの3大要素は「ヒト、モノ、カネ」という言い方がされますが、お一人お一人もご自身の「人生の経営者」として、やはりビジネスと同様に「ヒト、モノ、カネ」という3つの要素で、生涯を通じて発生する「金融資産と支出のギャップ」に対応していくことが必要になります。
全体像(図表)をご覧ください。「カネ」の観点では、「金融資産と支出のギャップ」の中でも典型的なものとしては、人生100年時代、長くなったセカンドライフで公的年金だけでは不足が見込まれる収入を「自助年金」としてどれぐらい準備しておくかを想定し、資産形成期から計画的に積み立てておく、といったことがあげられます。
「モノ」の観点では、「金融資産と支出のギャップ」の中でも典型的なものとして、住宅購入時の住宅ローンと、その後のローン返済があげられます。持ち家派の場合には、住宅ローン返済があるため、賃貸派よりも資産形成期の貯蓄や積立投資に充てられる資金が少なくなるかもしれませんが、その一方で、持ち家を裏付け資産として、セカンドライフでキャッシュフローを創出する商品・サービスの活用(リバース・モーゲージ)も考えられます。更に、住宅・家財といった「モノ」が火災や自然災害で喪失した場合に発生する「金融資産と支出のギャップ」に備えるような商品・サービスの活用(火災保険)も考えられます。
「ヒト」の観点では、自分自身の稼ぐ力をアップするための就学・資格取得に必要となる資金を確保する商品・サービスの活用(例えば、奨学金、自己啓発・教育ローン)や働けなくなったときに備えるような商品・サービス(所得補償保険)も考えられます。
このように「ヒト」「モノ」に関するものも、金融商品・サービスを介して「カネ」と密接に関係しており、これらをトータルで賢く活用していくことが、益々、大切になってきていると言えます。長い生涯を見通して、この「ヒト、モノ、カネ」に関して発生するお金の過不足、とくに「長期」「多額」の過不足を把握して、それぞれに相応しい金融商品・サービスをスマートに活用して、お金に関する不安を解消していくことがファイナンシャル・ウェルビーイングにとっては大切なのではないかと考えています。
一人一人が「それぞれに相応しい金融商品・サービスをスマートに活用」していくためには、「金融リテラシーの向上」が非常に大切なポイントとなります。世の中で幅広く実効性を伴った形で「金融リテラシーの向上」を実現していくには、コロナワクチン接種でも効果を発揮したような「職域」という“場”での取組や、「学校」という“場”での取組がこれまで以上に重要になると考えています。この点については「金融審議会 市場制度ワーキング・グループ 中間整理」でも言及されています。
次回は、生涯を通じて発生する「金融資産と支出のギャップ」の中でも、とくに「長期」「多額」である「住宅ローン」と「自助年金」について考えてみます。
プロフィール紹介
執行役員 資産形成層(職域)横断領域 副統括役員
井戸 照喜
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からラップ口座の運用責任者。2013年から投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年5月に三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社取締役社長。2022年4月から現職。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【執筆協力】
『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)
【第68回】ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)とは? ②
2022.08.10
2022.08.10
2022.08.03
最近、ファイナンシャル ウェルビーイングという言葉を耳にする機会が増えてきましたが、この背景には「先進国では、住宅価格や教育費などの生活費が上昇する一方、社会経済を支える中間層の所得は伸び悩み、経済的なストレスや不安が高まっている。そうした中、経済的健全性を確保し、将来の安定を図るFinancial Well-beingという概念が注目」(SOMPO 未来研レポート「Financial Well-beingと金融機関の取組」)されてきているということがあるようです。
日本でもファイナンシャル ウェルビーイングが注目されだしている背景には、「個人の生活設計の変化」と「企業を取り巻く環境の変化」ということもあるのではないかと考えています。
「個人の生活設計の変化」では、「昭和」「平成」「令和」という時間軸で考えてみると、やはり価値観やライフスタイルの多様化、ということが大きいのではないかと考えています。「昭和」のライフスタイル(夫婦と子供2人、世帯主の夫と専業主婦が「標準家庭」)から、「平成」を経て「令和」となった現在では、ご夫婦で働くことが当たり前となる一方で、ずっとシングルの方、同性パートナーと過ごす方など、まさに多様なライフスタイルが一般的となってきています。
また、このような変化と同時に進行している「人生100年時代」ということも、大きな影響があると思えます。少し脇道にそれますが、現在、50歳代以上の世代は、サザエさんのような「波平は54歳、会社定年は55歳、平均寿命は60歳ぐらい、しかも3世代同居」というライフスタイルを見て育ってきた訳ですが、この設定のように「セカンドライフが5年ぐらいで3世代同居」ということならばセカンドライフを強く意識することもなかったのかもしれません。しかしながら、お勤めの方の場合、これから定年を迎える50歳代の社員の定年年齢は60歳か65歳ぐらい、それに対して「人生100年時代」と考えると、セカンドライフは40年か35年となり、30年以上も伸びている、そういう時代の変わり目であるということを意識する必要があるように思えます。
日本では、セカンドライフの期間が大きく伸びている一方で(家庭内での)世代間の補完関係は希薄化しており、更に「昭和」の標準家庭といったようなモデルパターンがなくなっていることも背景として、お一人お一人がご自身の価値観やライフスタイルに応じて「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定により、お金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」(ファイナンシャル ウェルビーイング)であることの重要性が高まってきているという側面があると考えています。
「企業を取り巻く環境の変化」では、定年延長への対応が「待ったなし」となってきており、その「定年延長」には「健保財政の悪化」という副作用に繋がる可能性が高まるといった側面もあります。最近では40~50歳代でのキャリアップを伴う転職の増加が目立つなど、働く期間が長くなったゆえの「優秀な人材の確保」も喫緊の課題となってくるなど、生き生きと長く働いてもらえる環境整備が企業の大きな課題になってきています。
更に、投資家サイドでも、変化が激しい時代の中で付加価値を生み出す人材育成(リスキリング等)に経営として真正面から取り組んでいるか、すなわち「人的資本への投資」に関する注目度がアップしてきており、この「人的資本への投資」の状況を統合報告書に掲載する企業も増えてきています(ご参考:SMTHの統合報告書 P52~61 人材戦略)。
そう考えると、社員の「ファイナンシャル ウェルビーイング向上」への取組みは、企業の人事ラインだけの問題ではなく「経営課題そのもの」へとクローズアップされてきていると言えますし、金融機関に対しては「個人の金融リテラシーの向上と資産形成行動を支援すること」が、より強く期待されているのだと考えています。
次回は、もう少しかみ砕いて「ファイナンシャル ウェルビーイング」とはどういう状態か、それを向上させていくためのポイントは何かについて考えてみます。
プロフィール紹介
執行役員 資産形成層(職域)横断領域 副統括役員
井戸 照喜
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からラップ口座の運用責任者。2013年から投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年5月に三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社取締役社長。2022年4月から現職。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【執筆協力】
『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)
【第67回】ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)とは? ①
2022.08.03
今回のコラムでは、つみたてNISAの制度についてご紹介したいと思います。つみたてNISAの概要は【図表1】の通りです。
つみたてNISAは年間の投資非課税枠は40万円と一般NISAに比べると少額にはなりますが、非課税期間は最長20年間設けられています。また、投資可能商品は「一定の条件を満たした投資信託のみ」となっています。この一定の条件には、「販売手数料は0円で信託報酬も低く設定されている」ことや「頻繁に分配金が支払われない」といった項目が定められています。現在、世の中には投資信託だけでもおよそ6,000本ありますが、このつみたてNISAの対象となっている銘柄は183本(2022年4月26日時点)です。ですので、例えば投資を始めたばかりでどこから探し始めたらよいか悩んでいらっしゃる方やお仕事等が忙しくたくさんの銘柄を比較して探すのは大変といった方は、このつみたてNISAを利用し、この銘柄の中から投資対象を選択するのも一つの方法かと思われます。
1年毎に一般NISAかつみたてNISAかを選択することができます。では、世の中の人はどちらの口座を選択されている方が多いのでしょうか。
制度のスタートが一般NISAの方が4年ほど早かったこともあり、総口座数としては一般NISA口座の方が多くなっていますが、伸び率としてはつみたてNISAの方が高くなっています。また特に20代、30代のつみたてNISA口座数の伸びは他年代に比べても目覚ましく、非課税のメリットを享受しながら、長期・積み立てで資産形成に取り組もうとする姿勢がうかがえます。
しっかり“優遇制度を活用“することで、よりスマートな資産形成に取り組めると思われます。是非、本コラムをご参考にしていただければと思います。
【第66回】
2022.07.20
2022.07.20
今回のコラムでは、世の中的にも注目が高まっているNISA制度についてお伝えしたいと思います。そもそも、NISA制度はどういった面で“優遇”制度なのでしょうか。
通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかります。しかし、「NISA口座(非課税口座)」内で購入した金融商品から得られる利益に対しては、本来かかる税金がかからない=非課税になるため、“優遇”制度といわれています。
NISA制度は、成年が利用できる一般NISA・つみたてNISA、未成年が利用できるジュニアNISAの3種類があります。
ジュニアNISAは、いわば子ども用のNISAで、運用や管理は原則として親権者や祖父母が代理して行います。ただし2024年以降はジュニアNISAでの新規購入はできなくなるため、もし利用できるお子さま・お孫さまがいらっしゃる場合は、2022年、2023年が残された機会となります。
一般NISAは、2024年以降、制度の内容が見直されます。変更点を含めて簡記したものが、【図表2】です。
【図表2】をご覧いただければ、年間非課税枠と投資可能商品が大きく変わっているというのがお判りいただけるかと思います。2024年以降は、いわゆる「2階建て」のNISA制度になります【図表3】。
この制度変更は、より多くの方に長期・積立・分散投資をはじめてもらうために行われたため、原則として1階部分での積立投資を行わなければ、2階部分を利用することができません(注1)。また1階部分の投資対象については、つみたてNISAと同様、一定の基準を満たした投資信託のみとなっています。
(注1)ただし、過去にNISA口座を有していたなど投資経験を有する方のうち、2階部分で上場株式のみを購入する方については、1階部分を利用せずに2階部分のみ利用することができます。
これからNISA口座を活用してみよう!と思われている方には、やや制度設計としては複雑かもしれません。しかしご承知の通り、成人の方が利用できるものにはもう一つ「つみたてNISA」があります。次回コラムでは、このつみたてNISAについて詳しく説明してまいりたいと思います。
【第65回】
2022.07.13
2022.07.13
ミライ研が2022年1月に実施したアンケート調査で、「資産形成に向けて現在何か取り組んでいることはあるかどうか」、また資産形成に向けて何らか取り組んでいる人のうち、「国が設けた税制優遇制度を活用しているか否か」についてお伺いしたところ、【図表1】のような結果になりました。全体では、68.4%の人は資産形成に向けて何らかの取組みを行っており、うち27.1%の方はその取組みの際に優遇制度を活用していました。
さらに、優遇制度を活用している全体のおよそ3割の方に、どのような優遇制度を活用しているかについてもお伺いしました【図表2】。
選択肢の中では、やはりNISA(ニーサ)(少額投資非課税制度)を活用している方が最も多い結果となりました。NISAは2014年1月にスタートした少額からの投資を行うための非課税制度です。その後、”ジュニアNISA”の導入(2016年1月スタート)、”つみたてNISA”の導入(2018年1月スタート)と拡充され、2024年以降は制度の見直しが行われることとなっています。「NISAって名前はよく聞くけれど、中身はよくわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
次回のコラムからは、このやや複雑なNISA制度について紐解いてお伝えしたいと思います。
【第64回】
2022.06.29
2022.06.29
ミライ研では、全国各地の高校向けに金融教育を提供していますが、今回、2022年6月4日に、私立灘中学校・高等学校(神戸市)で「世界+私のミライをつくる~SDGsと金融~」をテーマに、当研究所/丸岡所長と当社サステナビリティ推進部/稲葉部長が出張授業を実施しました。
授業の模様を掲載した記事がございますので、是非ご覧ください。
コラム第55回から4回連載で、2022年度からスタートした新学習指導要領に基づく高校生向け金融教育についてお届けしておりますので、そちらも是非、ご覧ください。
【号外】高校生向け金融教育への取組み
2022.06.28
2022年6月20日、私立淳心学院高等学校(姫路市)にて、ミライ研作成のテキストを用いて、三井住友信託姫路支店の職員が講師となり、高校生向け金融教育の出張授業が実施されました。NHK 関西NEWS WEBに取材記事が掲載されていますので、是非、ご覧ください。
2022.06.28
若い世代を中心に利用が増えてきているペアローンですが、
などが期待できる一方で、
といった留意点も確認しておくことが望まれます。
通常、ペアローンは「共働き世帯」で利用されますが、20年、30年といった返済期間において「共働き状態」が継続することが前提になっています。「子育て」や「転職」といったライフイベントなどの発生時にパートナーの収入が大きく減少した場合でもローン返済を継続できるかどうか、という点を世帯の「ライフプラン」「キャリアプラン」の中で検討しておくことが望まれます。
また、将来においてペアを解消(離婚など)することになった場合、選択肢としては「住宅を売却する」と「所有を続ける」に大別できると思われます。
購入した住宅が共有名義の場合、パートナー双方の「売却同意」が必要になります。片方が売却を拒否する場合は、売却ができません。
売却に同意した場合でも、「物件売却 ⇒ ローン完済」ができればよいのですが、それでも債務が残るケースでは、返済が困難になることもあります(オーバ―ローン)。
ペア解消後も2人で所有を継続し、それぞれローンを返済していくという選択肢もありますが、引き続き「自身が債務者」であり、「元パートナーの連帯保証人」であることに留意が必要です。片方の返済が滞った場合、2人分の返済を求められることも想定しておくべきです。
これまで住宅ローンの金利は歴史的な低水準でした。一方で、今後、上昇局面に転じてくるとどうなるでしょうか?過去においても、金利が低い状況から上昇していく局面では、住宅ローン保有者は金利が立ち上がり始める前に、比較的低い金利状況で「固定性の住宅ローン」に切り替える「住宅ローンの借り換え」をローン返済額の膨張回避策として利用するケースが見られました。
住宅ローンの利用にあたって借入形態を含め「選択肢」が増えてきていますが、将来における環境変化などに対して「対応策」が発動できるよう、メディア記事などで関心を持っておくとともに、「ローンリテラシー」を高めておくことが重要と考えられます。
【第63回】第3回1万人アンケート調査
2022.06.22
2022.06.22
2022.06.15
今回のアンケートでは、住宅ローン利用者における「単独ローン利用」と「ペアローン(*)利用」の現状も調査しました。(*ペアローン:一つの物件に対して、一定の収入がある複数の人がそれぞれに住宅ローンを契約し、互いに連帯保証人になる借入れ方法)
住宅ローンを利用して自宅を購入した人(3,101人)のうち、全年代では、単独ローンが77%(n=2,393人)、ペアローンは9%(n=286人)となっており、現状は「単独ローンが多数派」となっています。
ただ、年代別に利用率をみてみると【図表1】、20歳代では、単独ローンの比率が7割と多数派であるが、ペアローン利用も2割を占めており、全年代のペアローン利用比率に対して2倍以上となっていることが判りました。
また、当初借入額では、単独ローンよりもペアローンのほうが高額となっており、特に20歳代では差分が大きく、ペアローンの借入額は、単独ローン比で150%の水準となっていることも確認できました【図表2】。
若い世代を中心に利用が増えてきているペアローンですが、その背景として、「共働き世帯」の比率が増加していていることが考えられます。ペアローンの特徴として
などがあります。
利用が増加傾向にあるペアローンですが、次回コラムでは、利用にあたっての留意点も確認しておきたいと思います。
【第62回】第3回1万人アンケート調査
2022.06.15
日経ヴェリタス 第743号(2022年6月5日発行)の「40代の家計『三重苦』のリスク」において、資産形成層(職域)横断領域 副統括役員 井戸執行役員、ミライ研究所・丸岡所長のコメントが掲載されました(同記事は日経電子版にも掲載されています)
2022.06.14
共同通信(2022年6月4日配信)「灘中・高生徒に金融教える 三井住友信託銀が出前授業」および他複数紙(ニッキン、奈良新聞、中日新聞、静岡新聞ほか)において、灘中学校・高等学校での出張授業実施が取り上げられました
2022.06.14
2022年6月4日に、私立灘中学校・高等学校(神戸市)で「世界+私のミライをつくる~SDGsと金融~」をテーマにミライ研究所・丸岡所長が出張授業を実施しました
2022.06.14
三井住友トラスト・資産のミライ研究所(以下、ミライ研)では、20歳~60歳代の1万人を対象とした独自アンケート調査を毎年実施していますが、本年も1月に実施しました。
令和4年度(2022年度)の税制改正で、住宅ローン控除も改正され、控除率ならびに所得要件が変わりました。控除率は1%から0.7%に、適用対象者の適用を受ける年分の所得要件も、3,000万円から2,000万円に引き下げられました。今回の改正が市況に与える影響は、今後、各種統計で確認されてくると思われますが、令和3年度(2021年4月~2022年3月)の首都圏新築分譲マンションの平均価格は6,260万円(不動産経済研究所調べ)と、3年連続で上昇しバブル期を超えて過去最高を記録しています。
こういった環境の中、ミライ研の1万人アンケート調査では、自宅をご自身で購入した方3,947人に「自宅購入時のローン利用の有無」を尋ねました。「住宅ローン利用中」「住宅ローンで購入したが返済完了した」世帯の比率は、全体では78.6%、特に30歳代では高く84.0%となっており、30歳代の住居購入はローンに拠っていることが確認できました。
また、ローンを組んで住まいを購入した方3,118人に対して、ローン設定時の頭金(対物件価格比率)について尋ねていますが【図表1】、全体では「頭金はゼロ」が24.3%、「頭金は1割」が19.7%、となっており、44%の世帯では「頭金ゼロ もしくは 1割程度」で自宅を購入、という結果となりました。特に、30歳代の「頭金ゼロ」「頭金1割」の比率は、合せて65.5%となっており、2/3を占めていました。
この背景としては、「物件価格は高止まりしていて、待っていても安くなりそうにない」「借入金利が上昇する前にローンで自宅を購入しておきたい」「住宅ロ―ン減税のメリットを利用したい」「頭金を貯めていると、いざローンを組んだ際の返済完了時が高齢になってしまう」など、各世帯での切実なニーズの表れと考えられます。
次回のコラムでは、住宅ローン利用者における「単独ローン利用」と「ペアローン利用」の現状について見ていきたいと思います。
【第61回】第3回1万人アンケート調査
2022.06.08
2022.06.08
2022.05.30
2022.05.25
一般的に、セカンドライフのプラニングにおいては、「寿命までに老後資産が枯渇するリスク(資産寿命リスク)」に備える観点から、平均寿命より長めに計画することが望ましいといわれています。
最近は「死亡年齢最頻値」が使われるケースが増えてきました。「死亡年齢最頻値」は、厚生労働省の簡易生命表データの中で「最も死亡者数が多かった年齢」のことです。令和2年(2020年)で男性88歳、女性92歳であり、平均寿命よりも4年~6年程度、高齢になっています。「死亡年齢最頻値」は、自分の周りを見回して「そういえば…」との実感を得やすい数字といえます。
一方で、平均寿命よりも長いということは、その分、生活費やライフイベントへの備えが多くなるともいえます。現役時代は「勤労収入」が家計収入の中心ですが、セカンドライフにおいては「勤労収入」の比率が小さくなり、公的年金を主とした「年金収入」が収入の柱になってきます。しかし「公的年金」の受取額は一律ではなく、現役時代のライフスタイルや働き方によって「個人差がある(幅がある)」ことから、各個人・各世帯における「安心できる老後生活」をイメージした上で、それを維持するための生活費を具体化し、「必要な支出」よりも「収入」が安定的に上回っていくように計画(プラニング)することが重要です。その際に、「セカンドライフの収入」を構成する要素が「年金収入」と「資産収入(自助努力で準備した老後資金からの取り崩し)」です。
「せっかく、ためて、ふやしてきた資産を取り崩すなんて」「資産が減るのは心配だ」と思われる方も多いと思われます。しかし、「老後資金を準備したのは、老後を豊かに、安心して、過ごすため」でした。「金銭面のゆとりを保持しつづける」だけでなく、「年金収入に資産収入を加味して、将来のキャッシュフローのコントロールを確りとプラニング」することで、「セカンドライフで取り組みたいイベントや選択肢に対し、お金の面で不安を抱くことなく、自ら決定をしていく」ことができると考えられます。こういった視点から、充実した老後生活を送るために「セカンドライフプラン(実践編)」の策定が重要だといえます。
実践編の柱は、「老後資金の取崩し計画」を考えてみることです。まずリタイア年齢を設定します。この年齢が、公的年金にプラスで上乗せする「自助で準備する老後キャッシュフローの受け取り開始年齢」になります。老後キャッシュフローの「受け取り最終年齢」も考えます。「生きている限り」として、「死亡年齢最頻値」で考えておく、のもよいと思われます。
日本の公的年金は、現役時代の全期間での平均年収に対して約50%程度の給付額を将来にわたって維持できるように制度設計されています。言い換えると、公的年金の給付水準は現役世代の平均年収の半分程度ということになります。一方で、65歳以降の家計における老後生活費用は、一般的には「現役時代の年収の約7割程度」ともいわれていますので、公的年金がそのうち「5割」を代替するならば、残りの「2割(20%)」を「自助」で準備するという考え方もできます。
実際には、退職金や企業年金、あるいは、場合によっては相続資金なども想定されるかも知れませんが、まずは、「公的年金+自助」で安心できる水準を確保できるという計画をたてておくことで、気持ちに余裕を持つことができ、セカンドライフで取り組みたい「自分の人生の選択肢」を広げることもできるように思います。
支給開始を65歳、受取り終了を88歳とした場合、平均年収500万円で、「上乗せ比率20%」とすると、「公的年金に毎年プラス100万円のキャッシュフロー」をプラニングする、ということになります。この前提で、今、65歳で老後資金として1800万円お持ちの方を想定し、老後資金の寿命(資産寿命:取り崩していくと何歳でゼロになるか)をシミュレーションしたのが【図表1】です。
運用せずに取り崩していくパターン①だと資産寿命は83歳ですが、年3%運用を加味するパターン②では、88歳到達時点で307万円の資金余裕となります。こういった形で自分の「老後資金の取崩し計画」を具体化してみてください。
また、その際の留意点は「将来のインフレ(物価上昇)」を見込むことです。2000年以降、デフレ(物価の下落)が継続してきたことで、こういったシミュレーションにおけるインフレの影響は限定的でしたが、今後のシミュレーションでは留意すべきです。インフレは、言い換えると「お金の価値が目減りすること」ですので、インフレが進むと資産価値の目減りピッチが早まることになります。【図表2】のパターン③は、年3%運用に、インフレ(年2%)の影響を加味していますが、資産の実質価値で見ると資産寿命が85歳になっていることを確認ください。
「老後資金の取崩し計画」が出来たら、次は、もう一度、セカンドライフにおけるイベントを考えていただくことが大切です。セカンドライフにおける「日常支出(生活費)」と、「趣味」「交際」「介護」「医療費」といった「イベント支出」とを確認して、これまでのライフプランをアップデートいただくことをお奨めします。
【第60回】セカンドライフ
2022.05.25
2022.05.19
令和の”住まい”と住宅ローン事情を探るべく、2022年1月、ミライ研は1万人を対象にアンケート調査を実施しました。
【トピックス】
・頭金は「ゼロもしくは1割」が主流
・返済設定期間は長い-特に30歳代が顕著-
・住宅ローン借入額-20代の2割がペアローンを利用-
ぜひご覧ください。
レポート
2022.05.19
2022.05.18
「人生100年時代」という言葉は、今の日本において、かなり定着してきた言葉のように思います。2017年に首相官邸において、当時の安倍首相を議長とする「人生100年時代構想会議」が発足し、これ以降、政府だけでなく民間においても「人生100年時代」という考えやワードが広まってきました(余談ですが、その後、岸田内閣において、内閣官房の分室であった「人生100年時代構想推進室」は2021年11月に廃止されています)。
ライフプランを考える上でも「自分はいったい何歳まで過ごせるのだろうか?」というライフエンドに向けたイメージを持つことは、とても大切な要素です。そういった際に、よく使われるのは「平均寿命」ですが、最近は「死亡年齢最頻値」という数字も使われることが多くなってきています。今回の寄り道コラムは、この「平均寿命」と「死亡年齢最頻値」について考えてみたいと思います。
まず、平均寿命をみてみます。【表1】【表2】は、厚労省が2021年に公表している「令和2年簡易生命表」のデータです。【表2】に令和2年(2020年)の平均寿命が掲載されていますが、男性は81.64歳(前年比+0.23歳)、女性は87.74歳(同+0.29歳)となっています。ここ50年間で、ともに約12~13年、伸びてきており、過去の最高値を更新中です。
ここで、「平均余命(へいきんよみょう)」について確認しておきたいと思います。「平均余命」とは「ある年齢の方が、この年齢以降に生きる年数の平均」です。【表1】は主な年齢における平均余命ですが、「0歳時点の平均余命(令和2年)」を見ていただくと、男性:81.64歳、女性:87.74歳となっています。「あれれ、どこかで見たような数字では。。。」と思われた方、その通りです。先ほど【表2】でチェックした「令和2年の平均寿命」と一緒です。つまり、いわゆる「平均寿命」とは、「0歳時点の平均余命」のことなのです。「平均」ですので、平均寿命以上に存命される方も半分いるということを表しています。こう考えますと「今●歳である人は、あと何年くらい存命なのか」を考える際の目安としては、「平均寿命」よりも「平均余命」の方が相応しいと言えるでしょう。
例えば、現在60歳の男性の平均余命は、【表1】をみると「24.21年」ですので、平均としては「60歳+24年」で「84歳あたり」でお亡くなりになる、ということを表しています。
一方で、生活の中において、周りの「亡くなった方の年齢」を拾い上げていくと、ともすれば「平均寿命より長生き」された方が多いかも知れません。
「平均寿命」は「若くして亡くなる人」も含めての「平均」ですので、生活の中での寿命イメージよりも短く感じることはあると思われます。そこで最近は「死亡年齢最頻値」が使われるケースが増えてきました。「死亡年齢最頻値」は、厚生労働省の簡易生命表データの中で「最も死亡者数が多かった年齢」のことです。「平均」は「分布」なのですが、その分布の「山」となっている部分は何歳かをデータ上で表しているのが「死亡年齢最頻値」であるとも言えます。足もとで男性88歳、女性92歳となっていますので、平均寿命よりも4年~6年程度、高齢になっていますが、生活の中での実感とすると、こちらの方が近いのではないかと考えられます。
では、ライフプランやマネープランを考える際に、こういった数字をどう使えば良いのでしょうか?
一般的に、ライフプラニングにおいては、「寿命までに老後資産が枯渇するリスク(資産寿命リスク)」に備える観点から、平均寿命より長めに計画することが望ましいといわれています。一方で、「人生100年時代」だからといって「100歳まで計画する」ことに対して(ちょっと長いのでは?)という肌感を持つ方も多いように思います。そういった際に、「死亡年齢最頻値」は、自分の周りを見回しても「これくらいで亡くなられているな」との実感を得やすい数字といえます。
ライフプラン、マネープランを立てる上では、お一人おひとりが「自分ごと」として考えることがとても大事なことです。そういった観点で「死亡年齢最頻値」は「老後資金について計画してみよう」と思っていただきやすい数字であり、老後資金準備に向けたマインドセット(心構え)を促す数字であると考えられます。
【第59回】《寄り道コラム》
2022.05.18
2022年5月7日の日本経済新聞「「平均」プラス4年以上 日本人に長寿のリスクあり?-くらしの数字考」にて、ミライ研究所・丸岡所長のコメントが掲載されました
2022.05.17
2022年4月29日放送「羽鳥慎一モーニングショー」において、ミライ研1万人アンケートの調査結果をもとにしたニュースが放送されました
2022.05.17
2022.04.27
さて、前回のコラムは、あらゆる金融知識を身に付けることが困難な場合にどうすればよいかという点で終わっておりました。それはまさに、「金融リテラシー」の項目の4つ目に関連します。
そりゃそうだ、と思われましたでしょうか。ただし、これはご自身で金融に関する知識を身に付けることと同じくらい大切な項目になるかと思います。「適切な機関から適切な情報を得る」ことが重要ですが、そもそも「適切な機関」にはどういった機関があるのでしょうか。
一例としては、下記の公的な機関が挙げられるかと思います。
またわたくしどもミライ研も、中立かつ客観的な立場で資産形成・資産活用に関する情報を幅広に発信しておりますので、是非、今後も引き続きご覧いただければ幸いです。
ここまで全3回にわたって少し具体的な内容を見ていただきましたが、いかがでしょうか。すでにご自身の生活を営んでいらっしゃる方からすると「こんなの知っていて当然ではないの」といったお気持ちになられた方もいらっしゃるかもしれません。まさにそのお気持ち通り、「知っていないと生活できない最低限の知識」といえるかと思います。こういった内容が教育の場で学ぶことができるというのは、この内容を学ぶ高校生一人一人の「ミライ」のみならず、今後の日本の「ミライ」にとって素晴らしい第一歩かと思います。
また、第55回コラムで少し触れた「諸外国に比べて日本の金融リテラシー低い」という点にご関心のある方もいらっしゃるかと思います。その内容に関しては、改めて取り上げてみたいと思います。
【第58回】高校生向け金融教育
2022.04.27
前回のコラムに引き続き、「金融リテラシー」の具体的な内容についてお伝えさせていただければと思います。
近年、実に多様なライフプランが広がってきています。みなさま、ご自身が実現したい「ミライ」について考えたことはございますか。さらにはその「ミライ」が資金面で実現できるかどうか、誰かに相談したことはございますか。ミライ研が2022年1月に実施したアンケート調査で、「将来の生活設計・資金計画について、これまで検討されたことはありますか」とお伺いしました。【図表1】。
実に67.8%の方は将来の生活設計・資金計画について検討したことはないと回答しました。第55回でもお伝えした通り、「人生100年時代」ではライフイベントやキャリアの選択肢が広がっていき、どういったミライを目指すかも多様なものになっていくと思われます。結果的に来る「ミライ」を待つのではなく、能動的に「ミライ」を形成していく…そのためには、事前の生活設計・資金計画が必要不可欠です!
ここはまさにみなさまが「金融教育」という言葉からイメージする部分かと思います。例えば、契約にかかる基本的な姿勢であったり、金利や為替といった金融経済の基礎的な内容、また前回のコラムでも挙げた預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託といった金融商品やローンに関する知識に関する部分です。
ではここで、みなさまに質問です。次の言葉についてどのくらいご存知ですか。
①マイナス金利政策
②インフレ/デフレ
③リバースモーゲージ
次の3段階でどれが当てはまりますか?
内容までおおよそわかる/言葉は聞いたことがあるが、内容はよくわからない/この言葉を聞いたことがない
いかがでしょうか。こちらもミライ研のアンケートでお伺いしており、以下の様な結果になりました。
みなさまと照らしあわせていかがでしたでしょうか。もちろん知っているに越したことはありませんが、この言葉に限らず、あらゆる金融知識の全てを自分で把握するというのは難しいのではないでしょうか。では、ご自身の知識を伸長させることに加えてどの様に対処すればよいのでしょうか。
それにつきましては、次回のコラムにて…。
【第57回】高校生向け金融教育
2022.04.20
2022.04.20
2022.04.13
前回のコラムでは、学校において金融教育がより本格的に取り組まれるようになった背景、「金融教育」の十分な理解には基本的な金融リテラシーの向上が不可欠と認識されつつある点についてお伝えいたしました。今回のコラムでは、その具体的な内容についてみてまいりたいと思います。
さて、拡充が図られた高校生の「金融教育」の授業。一部、内容を抜粋してお伝えしておきたいと思います。
“ 家計管理については、収支バランスの重要性とともに、リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。その際、生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする。”
出所:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭科編」より一部抜粋のうえ三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成
例えば、生涯を見通した経済計画の基点として教育資金、住宅取得、老後の備えに加えて、事故や病気、失業などのリスクへの対応が必要と具体的に示されています。また基本的な金融商品についても、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託などと具体的にあげられています。この様に「金融教育」の内容は単に学んで終わりではなく、具体化して考え、ご自身の生活に落とし込んで考えていくことが必要といえそうです。
では、学校で金融教育の中核をなす「金融リテラシー」について詳しく見てまいりたいと思います。金融庁は「最低限身に付けるべき金融リテラシー」として、【図表1】の①~④の分野を挙げています。
まずは「家計管理」についてです。突然ですが、みなさまご自身の世帯の家計管理=世帯の収入と支出の管理はどのように行ってらっしゃいますか。実際にミライ研が2022年1月に実施したアンケート調査で、「あなたやあなたの世帯で、家計面で実行している努力や工夫をお選びください」という設問の中で「家計簿をつけている(家計簿アプリ含む)」かどうかについてお伺いしました【図表2】。
結果は、20代で43%、30代で39%の方が、家計把握のため家計簿をつけていると回答いただきました。最近では非常に便利な家計簿アプリがありますので、そういった影響もあろうかと思います。また20代と50代では13.5%の差があり、若い方のほうがより堅実なマインドなのかもしれません。
もちろん家計管理は家計簿のみならず、通帳の入出金額やクレジットカードの利用明細で確認するといった方法もあります。いずれにせよ、前回のコラムでもお伝えした通り「人生100年時代」という長い人生を豊かに過ごすためには、家計管理は不可欠です。もし本コラムをお読みの方の中で「収入額も支出額もすぐには思い浮かばない…」という方がいらっしゃったら、まずは収入、特に実際に自分の手元に届く手取り収入がいくらなのかを家計管理の検討のスタート地点として把握するようにしましょう。その金額をおさえたうえで、支出(そのお金を使うのか貯めるのか)を考えてみてください。支出を考える際のポイントとしては、「今の満足のための消費なのか」「将来に向けた貯蓄・投資なのか」も意識されるとよいかと思います。もちろん「将来のため」だけを考えてひたすら今は我慢、というのも味気ないと思いますので、個々人の価値観に基づいて両者のバランスをうまくとっていく必要があります。
少し長くなりましたので、他の項目につきましては次回のコラムにてお伝えしたいと思います。
【第56回】高校生向け金融教育
2022.04.13
暖かい春が近づいてまいりました。春といえば、新生活が始まる方も多いのではないでしょうか。またこの春、2022年4月1日からは民法の改正により成年年齢が20歳から世界的な標準でもある18歳へ引き下げられましたので、新成人になられた方もいらっしゃるかと思います。
さて実は、この4月から高校生の授業において内容の拡充が図られたものがあります。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、その内容とは「金融教育」です。先日、みんなのマネーコラムでも本内容について簡単に取り上げましたが、少し詳しく見てまいりたいと思います。
ところでみなさん、「金融教育」と聞くとどういった内容をイメージされますか。具体的に想像がつかない方も多いのではないでしょうか。実際にミライ研が2022年1月に1万人の方に対して実施したアンケート調査で、以下のような内容をお伺いしたところ、「お金について」とかなり間口を広げてお伺いしたにもかかわらず、受けたことがあると回答された方は極めてわずかで、7割超の方は受けたことがないと回答されました【図表1】。
これまで、社会人に対する「金融リテラシー」を備えるようにする教育は金融業界を中心に様々なされてきたものの、学生に対して本格的には取り組みがなされていなかった「金融教育」。そこにこのタイミングで日の目が当たり、拡充が図られることとなったのはなぜなのでしょうか。その底流には大きく3つの理由があると考えられます。
1つ目は、冒頭にもお伝えした通り成年年齢が引き下げとなり、「成年年齢」について改めて意識されたことにあります。民法が定める成年年齢には、①一人で契約をすることができる年齢 ②父母の親権に服さなくなる年齢 という2つの意味があります。特に注意すべきは①の点です。例えば、高額商品の購入やクレジットカードの作成、ローンを組むといった行為も、成年になりさえすれば法律上は自身の意思のみで正式に契約することができるようになります。しかし成年年齢が18歳であれ20歳であれ、一般的には「契約」に対する知識や経験は十分とは言えません。トラブルを回避するためにも、学生のうちに消費者教育を含む「守り」の金融教育を受けておくことが重要だと改めて捉え直されました。
2つ目は「人生100年時代」の到来です。今まで以上に多様な価値観、働き方、人生観等が認められるようになった今節の社会においては、人生100年時代をどの様に彩っていくのかは各人が考えるべき大きな課題となっています。また、日本人の平均寿命が延びいわゆる老後生活が長くなる一方で、公的年金への不安やかつての様な経済成長や賃金の上昇が見込まれないとなると、これからを生きる若い人たちは早いうちから計画的に資産形成に取り組む必要性が高まっています。主体的な人生設計を行いそれに沿ったマネープランの形成やお金とのかかわり方を認識しておくことは、個々人の「生きる力」を高め、ひいては社会の豊かさにもつながるといった「攻め」の金融教育が、これからはより求められる時代となっています。
3つ目は諸外国に比べて日本の金融リテラシー度は低いという結果が出ている点です。先に挙げた「守り」「攻め」の金融教育の十分な理解には、基本的な金融リテラシーの向上は必要不可欠と認識されつつあります。
では、実際に学生たちはどの様な内容を学んでいるのでしょうか。次回のコラムでは学校で金融教育の中核をなす「金融リテラシー」について、詳しく取り上げてみたいと思います(今まで「金融教育」を受けたことのない方、必見です!)。
【第55回】高校生向け金融教育
2022.04.06
2022.04.06
大雨、洪水、大型の台風、地震…近年、みなさまの周りでも自然災害の発生が、身近になってきているように感じられているのではないでしょうか。
こういった自然災害リスクが高まりつつある環境変化を背景として、2022年秋に改正が予定されているものがあります。それが、「火災保険」です。今回のコラムでは、「想定外の出来事」への備えである火災保険に関する改正内容について、ご一緒に見ていきたいと思います。
今回の改正で、影響が大きいと思われるものは、以下の2点です。
1点目が、火災保険の保険料を決める基準となる数値(参考純率)の引き上げです。参考純率とは、損害保険料率算出機構(損害保険会社を会員とする業界団体)が発表している指標で、この指標が全国平均で10.9%引き上げられました。こちらをご覧になられている方の中には、「あれ、少し前にも火災保険料が値上がりするっていうニュースがなかったっけ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ご記憶の通り、ここ10年間ですでに参考純率は3回引き上げが行われています【図表1】。
ちなみに、「保険料率」は純保険料率と付加保険料率に分けられます。このうち、損害保険料率算出機構では、純保険料率部分を算出しており、その算出された純保険料率を「参考純率」といいます。
出所:損害保険料率算出機構「火災保険参考純率 改定のご案内(別紙)」
もちろん、この改訂された参考純率をそのまま使用することも、自社の保険設計等に応じて修正して使用することもできるため、同保険料を値上げするかは各保険会社の判断に委ねられています。ここで注意したい点は、先ほどお伝えした10.9%というのはあくまで全国平均の数値ということです。どういうことかと申しますと、先ほどの損害保険料率算出機構は【図表2】のような例示も併せて発表しています。
この例示を見ると、大阪府の築10年以上の木造物件の場合、+30.9%の引き上げと示されています。この様に実際には「都道府県ごと」リスクの算定が行われますので、改定率が高く見積もられている地域においては、一定程度の値上げは避けられないものと思われます。
また、2019年、2020年に発生した自然災害について「被害の状況や保険金支払額」はタイムラグがあり十分には反映されていませんので、今後も参考純率の引き上げが見込まれます。
2点目として、火災保険の契約期間です。大規模な自然災害のリスクは将来にわたり大きく変化していくと見込まれており、長期的なリスク評価が難しくなっています。そういった背景から、火災保険を契約できる期間が、現在の最長10年間から5年間へと短縮される見込みです。一般的に火災保険料は、長期契約ほど保険料が安くなります。しかし契約できる期間がそもそも短くなることで、長期契約することで受けられる割引率の効果は小さくなりますし、建物は経年劣化していきますのでトータルでの保険料が高くなる可能性があります。
万が一のことが発生した場合や契約の更改のタイミングでなければ、あまり意識されない火災保険。ご自身の契約はどういった契約だったか覚えていらっしゃいますか。是非、次の2点を改めて確認してみてください。
1点目が、現在のご自身の契約内容の確認です。いつまでの契約となっているのか、補償内容で不足しているものはないかについて点検してみてください。もし追加したい補償があれば、10月までに手続きをするのかおすすめです。
2点目が、保険料がどれくらい値上がりするのかの確認です。お伝えした通り、実際にどの程度の値上がりとなるかは各保険会社によって異なります。ですので、例えば「10月以前に契約を更改した場合の保険料」と「10月以降に契約を更改した場合の保険料」の見積もりを取ってみてください。ケースによっては、現在の保険契約を中途解約したうえで「10月以前に」新たな契約を結ぶことで長期割引のメリットを享受でき、結果的にはお得といったこともあろうかと思います。
一般的には、改定の数か月前になれば保険代理店で(改定後の)火災保険料の見積もりが可能になります。是非、契約内容の確認を実施してみてください。
(監修)三井住友トラスト・ライフパートナーズ
【第54回】
2022.03.23
2022.03.23
2022.03.16
1つ目に注意したいのは、どのようなものを「投資対象」に選べばよいかということです。投資の入門書のようなものには、債券、株式、金、FX、暗号資産 … と様々な投資対象が出てきたりします。この「投資対象」を考える際には「投機と投資」の違いを意識すればよいのではないかと考えています。「投機と投資」の違いについて明確な定義がある訳でもないと思いますが、投機は刺激があって面白い、【図表1】にも記載の通り、「リスクをとったからといって、それに見合うリターンが期待できる訳ではない(誰かが儲かれば、誰かが損をするゼロサムの世界)」ということだと考えており、FXや暗号資産はこちらに近いように思います。それに対して、投資はじっくりと「リスクを上手に取り続けること」で、それに見合うリターンを積み重ねていくイメージです。
そう考えると、ブレはあっても中長期的には世界経済の成長に伴って上昇が期待できる「株式」や「債券」が「投資対象」として相応しいということになります。また、手っ取り早く儲けようとするのではなく「投資をじっくり続けることも含めて、リターンに繋がるリスクを取る総量を増やす」という意識も大切です。
2つ目の注意点は、資産形成を実践する際に「貯蓄」と「投資」をどのように組み合わせていくか※ということです。一般的に、若齢期は「投資」に回せる資産の割合が大きく、年齢を重ねるにしたがって「投資」に回す割合を低くする方がよいといわれ、個人投資家の株式投資割合は「(100-現在年齢)%程度」という考え方もあります。若齢期は、個人が将来稼ぐ所得が大きいと見込まれ、これを「人的資本」と考えると、個人が保有する資産を「金融資産」と「人的資本」の合計と考えることができます。この「人的資本」が年齢とともに減少していくと考えれば、金融資産の中で「投資」に回せる割合も年齢とともに減少していくという考え方に合理性があるといえます。若齢期は投資経験が乏しいかも知れませんが、「投資の基本」を身に付け、若いうちからシッカリと計画的に「投資」を始めておくことが重要であるといえます。
※ライフプラン等を踏まえた目標資産額や安全性資産と投資性資産の投資割合の検討についての詳細は、「ライフプラン等を踏まえた目標資産額と投資割合の設定・フォローアップについて」(証券アナリストジャーナル2021年9月号)をご参照
3つ目の注意点は、「資産形成&取り崩しの計画」を実践していくためには「投資、生命保険、損害保険」が密接不可分の関係にあるということで、この点は「保険と資産形成③」をご参照いただければと思いますが、先程の「人的資本」との関係でいえば、想定外の理由で「人的資本」が毀損する(働けなくなる)リスクには生命保険や損害保険の仕組みを活用して備えておくことが大切であることがお分かりいただけると思います。
3回シリーズにお付き合いをいただいた皆さまの、よりよい「資産形成&取り崩しの計画」の実践を願いつつ、「資産形成と取り崩し」の最終回とさせていただきます。
プロフィール紹介
三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【第53回】資産形成と取り崩し③
2022.03.16
例えば、家計全体を見直して、毎月、貯蓄や投資に回せる金額を2万円捻出できたので、この2万円を「年金財形」と「iDeCo」に振り向けるというのも老後資金のための立派な資産形成だと思います。しかしながら、この毎月2万円の「貯蓄と投資」が自分にとっての「老後資金」のための資産形成として十分なのか、また、例えば5年後にはどれだけの資産になっていればよいのかといったことが分からなければ、何となくスッキリしないこともあるのではないかと思います。
前回のコラムで「… 老後資金であるならば『資産形成だけではなく取り崩しも含めた計画』を策定する必要がある …」というお話をしました。公的年金を補完する「自助」として積み立てるということであれば、その「自助」で備える取り崩し額の水準をイメージすることで、リタイア時にどの程度の「目標資産額」を積み立てればよいのかということを評価することができます。また、このリタイア時の「目標資産額」が定まれば、今から毎月いくらぐらいの積立を実施すれば、その「目標資産額」を積み上げられるのかを算出することもできます。これらは企業年金制度で給付内容から掛金率を算出する手順と同様ですが、言葉だけではイメージが湧きづらいと思いますので、ここでは「取り崩し」から「資産形成」の計画を策定する簡易ツール(play with PENSION PLAN)がありますので、それに基づいた計算例をご紹介します【図表1】。
この計算例では、以下の条件を前提としています。
こういった想定をした場合、希望の金額を取り崩すために必要な資産額は2,000万円となっています。この「目標資産額」の2,000万円を65歳時点で積み立てるために必要な毎月の積立額は「26,000円」というように「取り崩し」から「資産形成」の計画が作成できることが分かります。
【図表1】の青いグラフが「資産形成&取り崩しの計画」ですので、5年後10年後にいくら積み立てていれば計画どおりなのかもチェックすることができます。また、オレンジのグラフは全く「投資」を行わなかった場合のもので、この場合には「資産寿命」が79.1歳となっており、「投資」を行う場合の資産寿命100歳と比較すると、「投資」をすることで20.9年(=100-79.1)も「資産寿命」が延びていることが分かります。
では、次回のコラムでは、このような「資産形成&取り崩しの計画」を実践する際に注意すべきことについてお話したいと思います。
プロフィール紹介
三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【第52回】資産形成と取り崩し②
2022.03.09
2022.03.09
2022.03.02
資産のミライ研究所では、同じ三井住友トラストグループの保険販売会社である三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社(以下、LP社)と情報交換や意見の交流を図っており、コラボセミナーなどを開催しています。2021年3月の『保険と資産形成』の3回シリーズに続いて、LP社の井戸社長に登場いただき、今年は『資産形成と取り崩し』というテーマでお話いただきます。今回は、その第1回目として『「貯蓄から資産形成へ」と「貯蓄から投資へ」の違い』についてです。
これらのフレーズは同じ意味で使用されることもあれば、少し異なる意味合いで使われることもありますが、私はそれぞれを区別して考えた方が「自分が志向しているものがどういうものなのか」が理解し易いように感じています。
2021年3月のコラムで、「・・・「投資」の世界は幅が広く奥も深いですし、金融機関や企業年金のような「機関投資家」や「(伝説の)相場師」のようなプロフェッショナルとしての「投資」もあれば、そこまでは徹底していなくても、自ら調査・研究して趣味として楽しむような「投資」もあります。「保険と資産形成①」で、「予測しやすい事態」(住宅購入の頭金、教育費など)には「貯蓄」や「積立型の投資」がマッチしているというお話しましたが、ここでいう「投資」は、プロフェッショナルとしての「投資」や趣味としての「投資」とは違った、マネープランとしての「投資」ともいえるものであると考えています。」というお話をしました。
ここで言う「投資」の中では、趣味として楽しむような「投資」は「貯蓄から投資へ」というフレーズが想定している「投資」だと考えています。つまり、何らかの理由により既にまとまった金融資産を保有している個人に対して、「貯蓄」だけではなく一部は「投資」に回しましょう、あるいは「投資」の割合を増やしましょう、というのが「貯蓄から投資へ」というフレーズの意味合いということです。「投資」を行う目的は、趣味のように楽しむこと以外にも、投資を通じて社会との繋がりを感じることかも知れませんし、(インフレを予想して)既に保有している金融資産の実質的な価値を維持したいといったことかも知れません。
これに対して「貯蓄から資産形成へ」はマネープランとしての「投資」に当たるもので、何らかの目的に対して十分な金融資産は保有していない個人が「貯蓄や投資」を組み合わせて「目標資産額」を積み上げていくものだと考えています。何らかの目的というのは、住宅購入であったり、教育資金であったりと人それぞれですが、「人生100年時代」にあって、どの個人にも大切になるマネープランとしての「投資」と言えば、やはり、公的年金を補完する「自助」を想定した計画的な老後資金の積立ではないでしょうか。また、老後資金の積立というならば「資産形成だけではなく取り崩しも含めた計画」を策定する必要があるということになります。では、公的年金を補完する「自助」を想定した「資産形成&取り崩しの計画」とはどのようなものなのか、次回コラムでお話したいと思います。
プロフィール紹介
三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【第51回】資産形成と取り崩し①
2022.03.02
2022.02.16
前回は、コロナ禍による「時間的なゆとり」の変化と「資産形成意識」の変化を年齢を軸にして分析し、どちらついても変化が最も大きかったのは20歳代の人たちだったことをお伝えしました。
今回は、「資産形成に向けた行動」と「現実の資産形成額」の変化について、やはり年齢別にみてみたいと思います。
まず、コロナ禍における資産形成に向けた行動の変化を年齢別にみてみましょう。
食費の節約やポイ活などの「家計面の工夫・努力」、預貯金や投資信託の購入などの「資産形成行動」、NISAやiDeCoなどの「優遇制度の利用」の3つの家計行動いずれについても、コロナ禍をきっかけに始めたことが「ある」と答えた人の比率は20歳代で最も高く、年齢が上がるほど低下していく傾向が見られました。
コロナ禍をきっかけに始めた「家計面の工夫・努力」が「ある」と答えた人は、20歳代では5人に2人強(43.2%)、30歳代以上では30~35%と10ポイント前後の差がついています(図表1の)。
コロナ禍をきっかけに始めた「資産形成行動」が「ある」人は、20歳代では4人に1人強(27.0%)いますが、30歳代以上では徐々に比率が下がり、60歳代では1割に(同)。
コロナ禍をきっかけに利用を開始した「優遇制度」が「ある」人は、20歳代では6人に1人(16.4%)ですが、同じく30歳代以降比率が低下し、60歳代ではわずか3.3%となっています(同)。
「食費の節約」、「預貯金」、「NISAの利用」といった個別の行動に分けてみても同様で、全ての項目(行動)において20歳代の比率が他の年代を引き離してトップとなっています。
例えば、20歳代では、コロナ禍をきっかけに食費の節約を始めた人が15.7%(図表2の)、ポイ活や預貯金を開始したり、家計簿をつけ始めた人も1割以上いました(同
)。
つみたてNISAを利用し始めた人は8.0%に上り、第5回でお伝えした「20歳代における口座開設数の激増(1年間で2倍に)」と平仄が合う結果となっています(同)。
とは言え、20歳代はそもそも家計運営をスタートして日が浅く、コロナ禍以前から家計簿をつけたりNISAを利用していた人はあまりいないはずだから、コロナ禍をきっかけに開始した人が多くなるのは当たり前なのでは?という思いもよぎりますよね。
アンケートの結果データを確認したところ、「資産形成行動」と「優遇制度の利用」については確かにその通りでしたが、「家計の工夫・努力」については、コロナ禍以前から行っていた人の比率も相対的に高くなっていました(20歳代の実施者比率は、食費の節約と家計簿はトップ、ポイ活は30歳代に次いで2位)。バブル崩壊後に生まれ、右肩上がりとは無縁の経済環境で育ってきたこの世代、文字通り「お若いのになかなかしっかりしてはる」ようです。
話を元に戻します。
前回、「20歳代には、他の世代と比べ資産形成意識が高まった人が多い」とお伝えしましたが、意識が高まっただけで終わらず、資産形成に向けた実際の行動も最も活発化した世代であると言えるでしょう。
次に、コロナ禍以前からの資産形成額の変化について、やはり年齢別にみてみます。
年間資産形成額がコロナ禍以前より「増えた」人の比率は、20~30歳代の若い世代で15%前後と相対的に高く、40歳代以上では年齢が上がるにつれ低下していき、60歳代では1割を切っています【図表3】。
これまで本シリーズでご紹介してきたアンケート調査の結果や、つみたてNISAの口座開設数にも表れているように、20~30歳代の若い世代では、コロナ禍で資産形成意識が高まった人や資産形成に向けた行動(資産形成の種まき)が活発化した人が相対的に多いことが明らかであり、これが年間資産形成額の増加に結び付き始めている可能性があります。
中でも、20歳代の人たちは、コロナ禍によって資産形成の意識・行動両面を後押しされた代表格ともいえ、彼らの資産形成額の今後の動向は要チェックと思っています。
【第50回】1万人アンケート調査より⑦
2022.02.16
2022年2月5日に、龍谷大学の公開講座として、三井住友信託銀行提供 龍谷講座「知っておきたい!“今日から使える”資産形成リテラシー講座」が開催されました
2022.02.09
本シリーズではこれまで、コロナ禍が私たちの暮らしにもたらした「時間的なゆとり」の変化や「資産形成意識」の変化、「資産形成に向けた行動」の変化、「現実の資産形成額」の変化をみてきました。
今回と次回は、こうしたコロナ禍によって生じた様々な変化を「年齢切り」でみてみようと思います。コロナ禍から受けた影響が大きかったのは若者?それともシニア世代?
まず、コロナ禍における時間的なゆとりの変化を年齢別にみてみます。
時間的なゆとりが「増えた」人の比率は、30歳代以上ではだいたい2割前後で横並びですが、20歳代だけは3割を超えています【図表1】。
20歳代の人たちは、リモート授業やテレワークへの移行に支障がない「デジタルネイティブ世代」です。
また、学生や派遣・契約社員、パート・アルバイトといった「おうち時間」の増加ポテンシャルが高い人が他の年代と比べ多くなっています(20歳代アンケート回答者の36.6%)。
更に、未婚者が多いので (同 77.4%)、増加したおうち時間が、同じようにおうち時間が増えた家族の世話などで潰れることなく、そのまま自分自身のゆとり時間となりやすいと考えられます。
こうした特徴を踏まえれば、20歳代において時間的なゆとりが増えた人の比率が高くなるのは自然な流れ、20歳代の時間的なゆとりは「増えるべくして増えた」といえるかもしれません。
続いて、資産形成について考える機会(時間)の変化を、やはり年齢別にみてみます。
コロナ禍前と比べ時間的なゆとりが「増えた」人のうち、資産形成について考える機会が「増えた」人の比率は、若い世代ほど高くなっています。
先ほど見た時間的なゆとりが増えた人の比率が、「20歳代」と「30歳代以上」の間で段差がつく形になっていたのに対し、こちらは、年齢が上がるにつれ徐々に比率が低下していく形となっていますが、最終的には、20歳代では2人に1人(「増えた」「少し増えた」の合計で48.1%) ⇔ 60歳代では3人に1人弱(同30.1%)と結構な差がついています【図表2】。
みてきたように、ゆとり時間が増加した人の比率、資産形成について考える機会(時間)が増えた人の比率ともに、最も高いのは20歳代です。時間的なゆとりが増えた人が3割強(31.0%)いて、このうち、資産形成について考える機会が増えた人が5割弱(48.1%)ですから、
31.0%×48.1%=14.9%
で、20歳代全体の約15%が、コロナ禍をきっかけに資産形成について考える機会が増えた、言い換えれば資産形成意識が高まったとみることができます。
シリーズ第1回で、アンケート回答者全体(全年齢層)では、時間的なゆとりが増加した人が2割強、その中で資産形成について考える機会が増加した人が4割弱であり、両比率を掛け合わせた「8.6%」が資産形成意識が高まった人の比率であるとお伝えしましたが、20歳代の同比率はこれを大きく上回る「14.9%」となっており、他の年代を大きく引き離しています(図表3)。
次回は、「資産形成に向けた行動」の変化と「現実の資産形成額」の変化をやはり年齢別にみてみます。資産形成意識が高まった人がダントツで多かった20歳代ですが、果たして「行動」や「資産形成額」においても年上世代をリードしているのでしょうか?
【第49回】1万人アンケート調査より⑥
2022.02.09
2022.02.09
2022.02.02
前回は、コロナ禍前後の年間資産形成額の変化についてお伝えしました。今回は、この変化が、コロナ禍における「時間的なゆとりの変化」や「資産形成意識の変化」と関係しているのかをみてみます。
本シリーズ第3回では、時間的なゆとりの増加や資産形成意識の高まりが、資産形成に向けたアクションの活発化に結び付いていることが明らかになりましたが、年間資産形成額に対してはどう影響しているのでしょうか?
コロナ禍による「時間的なゆとり」や「資産形成について考える機会(時間)」の増加と、「コロナ禍前からの年間資産形成額の変化」の関係を示すと図表1のようになります。
1年間に資産形成できた金額が、コロナ禍以前と比べ「増えた」人の比率(図表1のブルー系部分)は、回答者全体では12.4%、およそ8人に1人でしたが、「時間的なゆとりが増えた人」(回答者全体の2割強が該当)に限ってみると16.3%、更に絞り込んで「資産形成について考える機会が増えた人」(同 1割弱が該当)では22.1%まで上昇します。
一方、1年間の資産形成額がコロナ禍以前と比べ「減った」人の比率(図表1のオレンジ系部分)をみますと、全体では25.1%、「時間的なゆとりが増えた人」では36.6%、「資産形成について考える機会が増えた人」では40.8%と、こちらも比率が上がっていきます。
1年間の資産形成額が「増えた」人の比率、「減った」人の比率ともに
【 回答者全体 < 時間的なゆとりが増えた人 < 資産形成について考える機会(時間)が増えた人 】
になっているわけです。
本シリーズ第3回では、コロナ禍による時間的なゆとりの増加や、それに伴う資産形成意識の高まりが、資産形成に向けたアクションの活発化につながっていることをお伝えしましたが、実際の金額面(年間資産形成額)となると、増えた人の比率も、減った人の比率も上がるので、現時点では、「時間的なゆとりの増加」や「資産形成意識の高まり」が、「年間資産形成額の増加」という結果に結びついていると言えるかは微妙なところです。
年間資産形成額の増加という「金額的な成果」まで行きついているとは言えないにしても、コロナ禍で時間的なゆとりが増え、資産形成意識が高まる中で、「資産形成の種まき」が着実に進んでいることは間違いないと思います。
NISAの口座開設数(一般NISA、つみたてNISA合計)の推移をみると、2019年3月末時点では1,283万口座でしたが、2021年6月末には1,655万口座まで増加しています(図表2の折れ線グラフ)。
前期末比の口座増加数(3ヶ月間の口座開設数と思ってください)をみても、感染拡大が始まった2020年3月以降、3ヶ月ごとに約40万口座ずつコンスタントに開設が進んできたことがわかります。2021年に入ってからは更にピッチが上がり、1~3月には60万口座、4~6月にはなんと70万口座が開設されました(図表2の棒グラフ)。
NISAの中でも特に口座開設が加速している「つみたてNISA」の動きを年齢別にみたものが、図表3です。この1年間で、20歳代では41万口座→81万口座と約2倍に、30歳代では65万口座→118万口座と1.8倍に増加しており、まさにこれから資産形成の主役となる人たちにおいて、つみたてNISAの利用が急速に進んでいることがわかります。
こうしたデータを見ますと、現在は、コロナ禍をきっかけに資産形成意識が高まり、「資産形成の種まき=資産形成に向けたアクション」が進行中の段階にあり、金額的な成果が出てくるのはこれから–と考えてもよいのではないでしょうか。
資産形成額の増加という「果実」がなるのはいつ頃か、期待しつつ待ちたいと思います。
次回からは、コロナ禍が資産形成にもたらした様々な変化を「年齢切り」でみていきます。
【第48回】1万人アンケート調査より⑤
2022.02.02
2022.01.26
今回のお題は、コロナ禍における「資産形成額」です。コロナ禍に明け暮れた2020年1年間に、どれぐらい資産形成できたか、コロナ禍以前と比べどう変わったかについて、アンケート調査の結果を元にまとめました。
ミライ研が実施した1万人アンケートで、「1年間にどれぐらい資産形成できたか」を訊いた結果が図表1です。
1世帯当たりの年間資産形成額は、平均するとおよそ112万円でした。
金額階層別の分布をみると、最も多かったのは「1万円以上50万円未満」ゾーンの世帯で全体の4割弱(38.0%)、続いて「50万円以上100万円未満」世帯が2割強(22.6%)となっていました。「差し引きゼロ」、つまりこの1年資産形成が進まなかった世帯も1割弱(9.5%)ありました。
中には1年間に「500万円以上1,000万円未満」とか「1,000万円以上」資産形成したというツワモノ(?)世帯もあり、これらに引っ張られて「平均」の資産形成額は3ケタ(100万円)をゆうに超えていますが、実際に年間資産形成額が3ケタに届いている世帯は3割に留まり、5割弱の世帯が「50万円未満」となっています。
次に、年間資産形成額がコロナ禍以前と比べてどう変化したかをみてみました。結果が図表2です。「増えた」人と「少し増えた」人の合計が12.4%で8人に1人、「減った」人と「少し減った」人の合計が25.1%で4人に1人、「変わらない」人は62.6%となっていました。
つまり、コロナ禍に見舞われ、以前より年間資産形成額が「減った」人が「増えた」人の約2倍いたということです。
ただ、2020年の日本の家計の年間貯蓄総額は、過去にもほとんど例がないほど急増したことがわかっています。
内閣府の発表によると、2020年1年間の家計貯蓄総額(貯蓄残高の増加額)は35.8兆円で、前年の約5倍。貯蓄率も11.3%に急上昇しました【図表3】。
どちらの数字も、1995年以降では最高(過去最高は1994年の37.1兆円、12.3%)。2020年は、実は四半世紀ぶりの「貯蓄大増加イヤー」だったということです。
読者の皆様の中には、なぜ資産形成額が「増えた」人より「減った」人の方がずっと多いのに、マクロ統計ではこんな結果になっているのか?と違和感を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。
このカラクリを一言でいうと、「意図せざる貯蓄増加の発生」ということになろうかと思います。
「一律10万円の定額給付金の支給」に「コロナ禍における消費控え」が重なって、使われないでそのまま預金口座に残っているお金が増加し、能動的・積極的に「資産形成をしている」という自覚がないままに、無意識のうちにお金が貯まっている—これが35.8兆円、11.3%という数字を生んでいると考えられます。
もちろん、資産形成額が「増えた」人には100万円、200万円単位でどーんと増えた人が多く、「減った」人には5万円とか10万円程度減った人が多かった可能性もあり、これが家計貯蓄総額の増加を後押ししたという推測も「あり」かもしれませんが、アンケートでは具体的な「増減金額」まではお訊ねできておらず……ウラ取りできずに歯噛みする刑事の心境であります。
【第47回】1万人アンケート調査より④
2022.01.26
今回は、コロナ禍における「時間的なゆとりの増加」や「資産形成意識の高まり」<シリーズ第1回ご参照>が実際の「資産に向けた行動」<シリーズ第2回ご参照>にどう結び付いているのかをみてみます。
アンケートの結果によると、コロナ禍をきっかけに開始した「家計面の工夫・努力(節約やポイ活など)」がある人は、回答者全体ではおよそ3人に1人(34.5%)でしたが、「時間的なゆとりが増えた」と答えた人に限ると2人に1人(51.9%)に、更に、「資産形成について考える機会(時間)が増えた」と答えた人まで絞り込むと3人に2人(66.4%)まで増加します【図表1】。
同じく、コロナ禍きっかけで始めた「資産形成行動(預貯金や投資信託購入など)」がある人は、回答者全体では6人に1人(17.3%)でしたが、「時間的なゆとりが増えた」人では4人に1人(24.1%)、「資産形成について考える機会(時間)が増えた」人に限ると更に増えて5人に2人(39.7%)となります【図表2】。
NISAなどの「優遇制度の利用」についても同様で、回答者全体では12人に1人(8.4%)でしたが、「時間的なゆとりが増えた」人では7人に1人(14.9%)、「資産形成について考える機会(時間)が増えた」人に限ると4人に1人(25.6%)まで増加します【図表3】。
このように、コロナ禍をきっかけに資産形成に向けたアクションを起こした人の比率は、【 回答者全体 < 時間的なゆとりが増えた人 < 資産形成について考える機会(時間)が増えた人 】であることが明らかです。
「資産形成について考える機会(時間)が増えた」人においては、コロナ禍がきっかけで資産形成に向けてのアクションを起こした人の比率が、回答者全体でみた場合の2倍~3倍まで上がります。
ゆとり時間の増加や、それに伴う資産形成意識の高まりは、資産形成に向けたアクションの活発化に少なからずつながっていると言ってよいでしょう。
「食費の節約」、「預貯金」、「NISAの利用」といった資産形成に向けた1つ1つの行動についても、コロナ禍をきっかに開始した人の比率が【 回答者全体 < 時間的なゆとりが増えた人 < 資産形成について考える機会(時間)が増えた人 】–という傾向は変わりません。
例えば、コロナ禍をきっかけに食費の節約やポイ活を始めた人は、回答者全体でみると10人に1人前後(比率で言うと11.1%と8.9%)ですが、コロナ禍において「資産形成について考える機会が増えた」と答えた人においては、4人に1人(23.9%)が食費の節約を、5人に1人(19.7%)がポイ活を開始しています【図表4の】。
また、コロナ禍をきっかけに投資信託を購入した人や、NISA、つみたてNISAの利用を始めた人も、回答者全体では3.5%程度に留まりますが、「資産形成について考える機会が増えた」人に限ると、それぞれ1割前後がいます【図表4の)。
コロナ禍により資産形成について考える機会が増えた人の中には、どうやって元手を確保するか(節約?ポイ活?)、どのような手だてで貯める/増やすか(預貯金?投資信託?財形?)、どうやって賢くお得に資産形成するか(「つみたてNISA?」「iDeCo?」)–といったことを、頭の中で考えるだけで終わらず、自分がチョイスした行動に踏み切った人もかなりいたことがわかります。
次回は、1年間に資産形成できた金額がコロナ禍前後でどう変わったかについてです。
【第46回】1万人アンケート調査より③
2022.01.19
2022.01.19
2022.01.12
前回は、アンケート調査の結果をもとに、コロナ禍をきっかけとして約1割の人の資産形成意識が高まったことをお伝えしました。
では、「意識」ではなく、資産形成に向けた実際の「行動」は、withコロナの世の中でどのように変化したのでしょう。
節約やポイ活(ポイントやマイルの活用)などの「家計面の工夫・努力」、預貯金や投資信託の購入などの「貯蓄投資行動」、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの「資産形成のための優遇制度の利用」—の3つに分けてみていきます。
まずは、節約やポイ活、家計簿をつけるといった「家計面の工夫や努力」について。ダイレクトな資産形成行動ではありませんが、日々の家計に少しでもゆとりを持たせることは、資産形成の元手作りの第1歩です。
アンケートで、「コロナ禍をきっかけに始めた家計面の工夫・努力がありますか」と訊いたところ、「ある」と答えた人は3人に1人強(34.5%)でした【図表1】。
具体的にどんな工夫・努力を始めた人が多いかというと、一番多かったのは食費の節約や光熱費の節約など「支出減の工夫・努力」で、2割強(23.3%)の人がコロナ禍をきっかけに始めたと回答。以下、「ポイ活」を始めた人が8.9%、「家計簿をつける」ようになった人が6.0%でした(【図表2】のブルーの部分)。
「支出減の工夫・努力」については、もともとコロナ禍以前から行っていた人も3割以上(32.2%)いたので(図表2の黄緑色の部分)、コロナ禍をきっかけに始めた人が加わり今や半数を大きく超える人(55.5%)が実施していることになります。
次に、預貯金や投資信託購入といったダイレクトな「資産形成行動」についてですが、これも同じようにアンケートで「コロナ禍をきっかけに開始した資産形成行動があるか」を訊ねたところ、6人に1人(17.3%)が「ある」と回答しました【図表3】。
「預貯金」を始めたという人が9.5%と圧倒的に多く、2位以下の「投資信託購入」3.6%、「株式投資」2.8%、「財形や社内預金」2.2%に大きく水をあけています【図表4】。
日本人の「預貯金好き」は世界にも知れ渡っているところですが、コロナ禍においてもそれは変わらない、、、どころか、むしろ不安感が高まっている時期なので、一層リスク資産を回避し預貯金LOVEに拍車がかかっているとも言えそうな結果です。
最後は、「NISA」や「iDeCo」といった資産形成のための「優遇制度の利用」についてです。
コロナ禍をきっかけにして利用を始めた優遇制度が「ある」と答えた人は、12人に1人強(8.4%)いました【図表5】。
制度別にみると、コロナ禍をきっかけに利用を始めた人が相対的に多かったのは「NISA」と「つみたてNISA」で、利用を開始した人の比率はそれぞれ3.5%。コロナ禍をきっかけに「iDeCo」の利用を始めた人は1.7%とさほど多くありませんでした(【図表6】のブルーの部分)。
コロナ禍以前からの利用者(【図表6】の黄緑色の部分)も合わせると、現在の各優遇制度の利用者比率は、「NISA」が最も高くて17%、「つみたてNISA」と「企業型DC」がともに1割前後。コロナ禍きっかけで利用者が増加した「つみたてNISA」が、「iDeCo」を追い抜き、「企業型DC」に肉薄する形になっています。
次回は、前回お伝えしたコロナ禍における「時間的なゆとりの増加」や「資産形成意識の高まり」と今回お伝えした「資産形成に向けた行動の変化」の関係についてです。
【第45回】1万人アンケート調査より②
2022.01.12
2022.01.11
2022.01.05
ミライ研では、昨年に続き、20歳~64歳の男女約1万人の方を対象とした独自アンケート調査:「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2021年)を実施しました。今回の調査では、前回調査の質問項目をおおむね継続しつつ、追加で、コロナ禍における家計行動の変化などについてもお訊きしました。
この結果をベースに、「コロナ禍における時間的なゆとりの変化と資産形成」について分析しましたので、7回シリーズでご紹介します。<分析結果のプレスリリースはコチラ>
初回は、コロナ禍において、「時間的なゆとり」や「資産形成について考える機会(考える時間)」がどのように変化したかについてです。
まず、コロナ禍によって、私たちの暮らしの中の「時間的なゆとり」がどのように変化したかをみてみます。
アンケート調査で、コロナ禍における時間的なゆとりの増減を、「1日当たり3時間以上増えた」~「1日当たり3時間以上減った」の7択(図表1の凡例ご参照)でおたずねしたところ、「変わらない」が7割(70.7%)と圧倒的に多く、「増えた」が合計で2割強(22.1%)、「減った」が同1割弱(7.1%)という結果でした。「増えた」人の中には、「1日当たり3時間以上増えた」人も8.7%いました。
お読み下さっている皆さんは、この結果(この比率)をどのように感じられたでしょうか。
筆者自身は、時間的なゆとりが「増えた」人が2割強というのは、「予想していたより少なかったな」というのが正直なところです。
テレワークやリモート授業の普及で、多くの人の通勤・通学時間が減ったことは間違いないですし、これにプライベートでの外出自粛も加わり「おうち時間」が増加したことは広く認識されているところでしょう。
また、内閣府が6月に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」でも「今回の感染症の影響下において、労働時間はどのように変化しましたか」という問いに対し、「増えた」が8.9%、「減った」が47.0%、「変わらない」が40.2%という結果が出ています。
こうした点を考え合わせると、個人的には、時間的なゆとりが「増えた」人が少なくとも3割、なんなら4割近くいてもおかしくないと思っていたのですが、アンケートの結果をみると、必ずしも「おうち時間の増加=時間的ゆとりの増加」ではなかったことがうかがわれます。
実際、周囲にヒアリングをしたら、「自分だけでなく家族も在宅時間が増えたので、全員分の食事の支度をして、子供の面倒を見て、配偶者にもかまってあげて、、、でかえってゆとりが減った」という人もいました。
さて、コロナ禍の下で生じた「時間的なゆとり」は、「資産形成について考える機会(時間)」の変化-「資産形成に対する意識」の変化と言ってもよいかもしれませんが-にどう結び付いたのでしょうか。
アンケートで、時間的なゆとりが「増えた」と回答した人に対し、「資産形成について考える機会(時間)」がどう変化したかを「増えた」~「減った」の5択(図表2の凡例ご参照)でおたずねしたところ、最も多かったのは「変わらない」で半数以上(56.8%)を占めましたが、「増えた」と「少し増えた」も合計で4割近く(38.7%)に上りました。【図表2】の赤く囲ったところです。
時間的なゆとりが増えた人が2割強(22.1%)いて、このうち、資産形成について考える機会が増えた人が4割弱(38.7%)ということなので、
22.1%【図表1】×38.7%【図表2】=8.6%
で、アンケート回答者全体の1割弱が、コロナ禍をきっかけに資産形成について考える機会が増えたとみることができるでしょう。
コロナ禍で、テレワークへの移行や外出自粛などにより「時間的なゆとり」が生まれ、この結果、約1割の人の資産形成意識が向上したということです。不自由な生活、経済的な打撃、医療の逼迫など負の側面が目立つコロナ禍ですが、この部分については一定の評価をしてよいのではないでしょうか。
次回からは、コロナ禍における「家計行動」の変化についてみていきます。
【第44回】1万人アンケート調査より①
2022.01.05
2021.12.29
前回のコラムでは、エンディングノートに記した希望の実現について、死後事務委任契約や遺言の活用を採り上げました。今回は、終活準備をしていない場合の死後の手続きの一連の流れを確認しながら、終活準備の効果を概観します。
死後に発生する一連の手続きは、大きく分けて「手続きのこと」と「財産のこと」があり、これらは家族や友人等の遺された人が負担します。
まず、死後の具体的な「手続きのこと」について、「終活準備をしていない場合」の一般的な時系列の流れからご紹介します。
あなたが亡くなった後、遺された人は、「医師が作成した死亡診断書」を受け取ります。もし、突然死や事故死であった場合には、死体検案書が発行されます。そして、「葬儀社の手配」をして、「遺体の搬送」をしてもらったのち、一般葬や家族葬、直葬等のうちの何れにするか、葬儀の方針を定めます。
死後7日以内には、役所へ「死亡届を提出」し、「火葬許可証の申請と受け取り」を行いますが、これらは葬儀社が代行してくれる場合が殆どです。同時並行で、関係者へ訃報を連絡します。
葬儀を行い、火葬が終了したら、埋葬許可書を受け取り、お墓が決まっている場合は納骨します。
その後、14日以内に役所で「健康保険証や介護保険証の返却」、年金事務所や年金相談センターで「未支給年金の請求」等をします。
多岐に亘る手続きをご紹介しましたが、遺された人はこれらをわずか2週間で対応しなければなりません。その混乱たるや、容易にご想像いただけるかと思われます。
前回、前々回のコラムでは、死後の希望を残しておくこと、そしてその実効性を担保する死後事務委任契約の重要性をご紹介しましたが、もし、あなたがそれらの終活準備をしていたら、遺された人の負担を大幅に軽減することができます。また、死後事務委任契約まで至らなくとも、例えば、葬儀や埋葬、お墓の希望、訃報連絡に備えた関係者のリストアップ、健康保険証や年金証書等の書類の保管場所の明示をしておくだけでも、遺された人の負担はだいぶ軽くなります。
続いて、死後の具体的な「財産のこと」について、「終活準備をしていない場合」の一般的な時系列の流れをご紹介します。
あなたが亡くなると、ローン等の消極財産も含めた全財産は相続人に承継されますが、何もせずに自動的に承継されるのではなく、さまざまな作業があります。
遺された人は、相続が発生すると、相続人の確定、遺言書の有無の確認、相続財産のリストアップなどの作業に追われます。
そして、遺言書がない場合は、相続人全員が参加する遺産分割協議で財産の分け方を決め、問題なく協議が整えば、遺産分割協議書を作成し、金融機関で預貯金・有価証券などの名義変更や払出しの手続きをしたり、法務局で不動産の名義変更等をしたりします。
相続税がかかる場合には、納税資金を準備し、相続開始を知った日(通常はあなたが亡くなった日)の翌日から10ヵ月以内に、申告と納付を済ませます。なお、特例を用いて相続税がかからなくなる場合にも、申告は必要です。
以上のように、財産の承継には多岐に亘る作業や確認事項があるうえ、遺産分割協議で相続人同士が揉めることや、相続税の納税資金が足りないリスク等もあり、終活準備による遺された人の負担軽減余地は実に大きいものがあります。遺言を準備し、死後は遺言執行者に手続きを任せることが最も効果的ですが、金融機関の取引明細や保険証券、固定資産税納税通知書等の役所からの通知をまとめて保管しておくだけでも遺された人は助かります。
死後の流れと終活準備を対比することで、終活が及ぼす遺された人への負担軽減効果を確認いただけたかと思います。
今回、第41回から3回にわたって、主に死後の領域に関する終活の概要をご紹介してきましたが、本コラムが読者の皆さまやそのご家族の将来の負担軽減に繋がれば幸いです。
【第43回】
2021.12.29
週刊エコノミスト(2022合併号)および週刊エコノミストOnlineの -不動産コンサル長嶋修の一棟両断- において、ミライ研1万人アンケート調査結果をもとにした記事が掲載されました。是非、ご覧ください。
2021.12.23
朝日新聞(2021年12月19日発刊)の「なるほどマネー」において、ミライ研1万人アンケート調査結果をもとにした記事が掲載されました。
2021.12.23
NHKみみよりくらし解説(NHK総合2021年12月15日放送) -どう変わる? 住宅ローン減税- において、ミライ研1万人アンケート調査結果をもとにしたニュースが放送されました。NHK HP解説アーカイブスに解説記事がございますので、是非、ご覧ください。
2021.12.23
日経ヴェリタス 第713号(2021年11月7日発行)~第717号(2021年12月5日発行)の「達人が伝授」において、「令和の資産づくり意識を読み解く」と題しミライ研究所・丸岡所長、青木研究員の記事が連載されました。
2021.12.23
日経電子版記事(2021年11月29日配信) -頭金ゼロ、変わる住宅ローン 銀行も個人もリスク蓄積- において、ミライ研1万人アンケート調査結果をもとにしたニュースが配信されました。是非、ご覧ください。
2021.12.23
日経電子版ポッドキャスト「REINAのマネーのとびら」(2021年11月11日配信) -音声で学ぶ住宅ローン 低金利で頭金の常識が変わった?- において、ミライ研1万人アンケート調査結果をもとにしたニュースが配信されました。是非、ご視聴ください。
2021.12.23
前回のコラムでは、安心できる終活のポイントとして、終活やることリストの作成を採り上げました。今回は、終活やることリストのうちの死後の手続きと財産の承継について、エンディングノート、死後事務委任契約、遺言書の活用をご案内します。
あなた自身が死後の事務手続きや直接的に財産の承継対応を行うことはできませんので、お元気なうちにこれらの希望をアウトプットしておく必要があります。アウトプットの手段はさまざまあり、例えば家族や友人に口頭で伝えておくこともその一つですが、考えを整理し、必要なポイントを押さえておくには、やはりエンディングノートを活用するのが良策でしょう。
エンディングノートの書式は自由なため、さまざまなタイプのものが市販されていますが、ネットでダウンロードできる無料のものもあり、手軽に利用できます。
可能であれば、複数のエンディングノートを比較し、遺された人に何を伝えたいのかを整理したうえで、ご自身の目的にあったものを選びましょう。
なお、エンディングノートを上手に書くポイントは、あまり気合いを入れ過ぎないことです。はじめから全部書き切ろうとせず、気になったところから徐々に埋めて、定期的に見直したり書き足したりしていくと良いでしょう。
考えを整理するのに大変便利なエンディングノートですが、エンディングノートには、あなたの死後に家族や周りの人々を従わせるほどの強制力はなく、無視されるリスクがあることも想定されます。
もちろん、エンディングノートの記載内容が尊重される効果も期待できますが、のこされた人々の善意次第ということになります。そもそも、エンディングノートが発見されないという根本的なリスクもあるでしょう。
そこでポイントとなるのが、エンディングノートの記載内容の実効性を担保する死後事務委任契約の締結と遺言書の作成です。
死後事務委任契約とは、あなたが亡くなった後のさまざまな手続き(死後事務)を誰かに代行してもらうための契約です。通常、委任契約は当事者の死亡によって終了しますが、死後事務委任契約では、「委任者の死亡によっても委任契約を終了させない旨の合意」をすることで、死後も有効な契約として活用することができます。
なお、死後事務委任契約の対象範囲は死後の手続きに関してです。財産に関することは、民法において遺言と相続の制度が定められているため、死後事務契約の対象とすることはできません。一部、家財整理の際の動産の形見分けなどのグレーゾーンもありますが、ケースバイケースで対応されているようです。
エンディングノートの記載事項のうち、葬儀、埋葬、家財の整理、クレジットカードや公共料金の整理、未払金の精算などの死後の手続きは、死後事務委任契約を締結しておくと安心です。
なお、死後事務委任契約の委任先の候補は弁護士、司法書士、事業会社、団体などさまざまですが、手続の分野によって契約主体を分けても管理が複雑化するため、できるだけ広い範囲を取り扱っている先に纏めて委任する方が簡便でしょう。
遺言書は、あなたの死後の財産を誰にどのように配分したいかという意思を伝えるものです。遺言書がある場合には、原則としてあなたの意思に従った財産の配分が行われます。なお、実際に遺言書の内容に従った財産の配分実務を行う者を「遺言執行者」といいますが、予め信頼できる遺言執行者を指定しておくことは、安心できる財産の承継を実現するうえでの重要ポイントです。
遺言についての詳細は、以下のコラムもご参照下さい。
第38回 確認しておこう!遺産と遺言
第39回 確認しておこう!遺言の活用法
以上のように、終活においては、如何にしてエンディングノートに記した希望の内容を実現させるのかという視点を持つことが必要です。
次回のコラムでは、実際に死後に発生する手続きを概観しながら、終活準備をしている場合としていない場合とを見比べます。
【第42回】
2021.12.22
2021.12.22
2021.12.21
家族が集う年末年始。コロナ禍でのオンライン帰省も話題ですが、家族間の会話では、お墓や相続の話が出ることもしばしば。話を通じて自分自身の終活への意識が高まる高齢者もおられるようです。そこで、今回のコラムでは、知っておくと安心できる終活のポイントをご案内します。
終活というと、死亡時や死後の手続きだけを想像される方もおられますが、終活の射程はもっと広く、晩年の生活への備えが含まれます。今後のご自身の晩年や死後に、ご自身以外の家族も含めた周囲の方に生じる困りごとを先回りして考えると、自ずと終活として何をすべきかが分かってきます。
終活を円滑に進めるポイントとなるのが、晩年(生前)と死後、手続きと財産とに区分けされた「終活やることリスト」の作成です。これらをエンディングノートなどに書き出していきましょう。
あなたの緊急時に家族や周囲の方が円滑に対応したり、あなた自身が入院や介護生活を快適に過ごしたりしていくためには、持病やアレルギー、主治医の情報といった身体のことや趣味嗜好などを書き出して周囲の方に知ってもらう必要があります。自分で思っているほど、ご家族や周囲の方はあなたのことを知らないケースが多いものです。
終末期にあなたが意思表示をできなくなっていた場合、家族や周囲の方は、最期の場所や延命治療について、心理的な負担の大きな難しい決断を迫られることになります。しかし、これらを事前に決めて話しておけば、家族や周囲の方も、本人の意思を尊重した対応ができます。
保有資産等を洗い出し、特に、使える金融資産がどの程度あるのかを確認することは、今後の生活水準を考えることにも繋がります。お金が足りない場合には、不動産の売却やリバースモーゲージといった選択肢も確認しておきましょう。また、介護や認知症など、自分自身でお金を使うことが難しくなることに備えて、信託や任意後見などの財産管理の仕組みを活用していくことは、家族や周囲の方の経済的ストレスの軽減に繋がります。
死後の事務手続きで、家族や周囲の方に迷惑を掛けたくないと思っていても、あなた自身に死後の事務手続きはできません。しかし、生前のうちに必要な情報や書類などの所在を明らかにしておけば、家族や周囲の方の負担を軽減できます。以下は、生前のうちに準備できるものの代表例です。
「葬儀はどうしたいのか」「誰を呼んでほしいのか」「菩提寺の連絡先と宗派」や「遺影のための写真の保管場所」、「お墓はどうしたいのか」などが書き残してあると、家族は助かります。ただし、これらは見送る側の気持ちも考えることが大切です。家族のためによかれと思ったことが逆に作用することもあります。希望を伝えるなら理由も添えておきましょう。
相続対策には、さまざまな目的と手段がありますが、例えば、遺言書を作成し、③で洗い出した保有資産等の承継先を定めておくことは、遺された相続人の手続き負担の軽減や、相続争いの防止に有効です。また、遺言書で自身の築いてきた財産を思い通りに配分していくことは、最期まで自分らしくあることにも繋がります。なお、遺言書には主に以下のような種類があります。
以上のように、「終活やることリスト」の中身は多岐にわたります。
次回のコラムでは、これらを実現するためのエンディングノートや死後事務委任契約、遺言書の活用について概観します。
【第41回】
2021.12.15
2021.12.15
わたくしたち三井住友トラスト・資産のミライ研究所は、「三井住友信託銀行」の組織ですが、皆さん「信託銀行」とのお取引はございますか?「信託銀行ってあまり街中でも見かけないし、普通の銀行と何か違うの…?」その様にお感じになっている方も多いのではないでしょうか。
例えば皆さんがよく見かける普通の銀行は、「銀行業務(①預金業務、②貸付業務、③為替業務)」を主に行っている金融機関です。一方、信託銀行は、この「銀行業務」に加えて「信託業務」と「併営業務」を行うことができる金融機関です。「信託業務」とは、個人や企業から各種の「信託」を引き受け、管理・運用する業務です。「併営業務」とは、不動産の売買仲介や鑑定などを行う不動産関連業務、株主名簿管理などを行う証券代行業務、遺言の保管や執行などを行う相続関連業務のことです。
普通の銀行の場合「お金の相談をする」というイメージがあるかと思いますが、信託銀行はお金の相談だけではなく、株式や不動産、さらには遺言や相続のことも相談できる守備範囲の広い金融機関なのです!
さて、信託銀行らしさの1つの大きなポイントとして「信託業務」を行っている点を挙げましたが、そもそも「信託」とは何でしょうか。「信託」とは、ある人(委託者)が信託契約や遺言によって、信頼できる人(受託者)に対して自身が持っている金銭や土地といった財産を名義ごと移転し、受託者が委託者の設定した目的(信託目的)に従って委託者の指定する人(受益者)のためにその財産(信託財産)の管理・運用・処分などをする制度です。一見、難しそうな印象があるかもしれませんが、実は仕組みはシンプルです【図表1】。
ここでの「信託する」という行為、銀行に預金する場合との違いを考えていただくと分かりやすいかと思います。銀行に預金をする場合であれば、銀行は預けられた資金を、預け入れ時に約束した利息をつけて返せばよいので、資金をどの様に活用するかについて基本的に制約はありません。その一方、「信託をした」場合、信託された財産に委託者が目的を設定していますので、その目的に従って管理・運用・処分などをする必要があります。この点が「信託する」ことの最も大きい特徴といえます。
具体例として、例えば「教育資金贈与信託」を見てみましょう。教育資金贈与信託は、信託した財産を「子・孫・ひ孫」などの「学校や塾などの教育機関への資金」へ充てることが目的とされています。ですから受託者が信託財産を払出す際には、教育機関の領収書などの提出と受益者からの申し出を確認することが必要となります。また受益者も、お小遣いの様に自由に信託財産を使える訳ではありません。教育資金贈与信託が設定されるのは、大切な財産を「教育資金として将来にわたり十分な教育が受けられるように」との委託者の目的と想いがあるからです。
また、金銭的価値のあるものであれば何でも「信託する」ことができますので、お金だけではなく有価証券、不動産、遺言などいろいろな種類の信託があります。社会構造や時代に応じて、信託は様々な課題解決の手段として用いられてきました【図表2】。
財産を信託すると、その財産の所有権は委託者から受託者へ移ります。ただし、「信託された財産」は“受託者自身の財産や他の信託財産とは分別して管理しなければならない”と法律で定められています。そのため信託された財産は、受託者において「安全に管理」されますが、万が一、委託者や受託者が破産(倒産)したとしても、「信託された財産」は影響を受けません。またこの他にも様々な厳しい義務が「信託法」によって課せられています。
この様に信託をした「財産とその想い」を裏切らないために、管理を託される信託銀行には大きな責任と義務が発生します。そういった責任感(受託者精神)を胸に刻みつつ、時代の変化、社会的ニーズに対応して、日々「信託」の更なる価値創造に挑戦する金融機関が、信託銀行なのです…!
【第40回】《寄り道コラム》
2021.12.08
2021.12.08
2021.12.01
今回のコラムでは「遺言の活用法」をみていきたいと思います。
現在において、どれくらいの方々が「遺す」意識を「形」にされているのでしょうか?
遺言には、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人に作成してもらう「公正証書遺言」の2つの方式があります【図表】。
では、「遺言の利用状況」をみてみましょう。実際に遺言を書く人は、どのくらいいるのでしょうか?
日本公証人連合会が公表している統計資料によれば、令和元年度に全国で作成された遺言公正証書は、11万3,137件です。同じく令和元年度に亡くなった方の数は約138万人ですので、公正証書遺言を書いた人の割合は、8%程度といえます。自筆証書遺言については、「司法統計年報」で公表されている「遺言書の検認件数」の令和元年度件数が18,625件でした。これを合わせても全体の9.5%であり、遺言の普及率は、10人に1人程度という状況です。
前回のコラムで、遺言は財産を残す方の意思を尊重するためのルールであり、「亡くなる方の最後の想いを尊重する」ことが、遺言の制度趣旨だと紹介しました。
「人生100年時代」においては、人生のマルチステージ化が更に広がっていくものと思われます。世帯構成(ライフスタイル)でみても、2018年の日本の核家族世帯の比率は60.4%、単身世帯比率は27.7%、三世代同居世帯比率は5.3%、となっており、50年間で三世代同居比率は10%以上減少し、その分、単身世帯や核家族世帯が増加してきています(厚生労働省公表「国民生活基礎調査(2018年)」)。最近では、法定相続分がない同性カップルの世帯も増えてきています。今後、「想い」を込めた財産承継のために、遺言の果たす役割は一層高まってくると思われます。
こういったニーズや、相続争いや所有者不明土地などへの対策として、国が遺言書の普及を促進したい狙いから、2020年7月に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行されています。今まで、自筆証書遺言書には、自分で気軽に作成できる反面、保管場所に困る、紛失して死後に発見されない、内容が不利な相続人が書き換える恐れがある、等のデメリットがありました。そこで、「遺言者の最終意思の実現」と「相続手続きの円滑化」を進めるため、公的機関(法務局)にて自筆証書遺言書を保管する制度が創設されたわけです。法務局で保管することで、全国一律のサービスを提供することができ、プライバシーも確保しつつ、相続登記の促進にもつながるなどの効果が期待できます(法務局における遺言書保管制度の利用については、1件につき3,900円の手数料がかかります。その他、閲覧や証明書の交付についても手数料がかかります)。また、自筆証書遺言書は遺言者が亡くなった後、家庭裁判所に持ち込み確認を受ける「検認」という手続きが必要でしたが、この制度を活用すれば「検認」を省略することができます。
遺言書の内容を実現するためには、様々な手続きがありますが、遺言では、それを執行する遺言執行者を指定できます。第三者を指定することもできますので、専門知識を持った行政書士や司法書士等に依頼するケースも多くあります。
また、遺言書を作成したいと思ったときに、遺言書の作成・支援、遺産の整理(相続財産の名義変更手続きなど)その執行までを、相談しながら進めたいというニーズも高まってきていると思われます。そういうニーズに対応する目的で、民間の金融機関でも信託銀行などを中心に、遺言書作成の相談から、遺言書の保管、そして遺言書の執行まで一貫したサポートを提供するサービスがあります。これが「遺言信託」といわれているサービスです。
特徴は、金融機関が提供するサービスであり安心感があることや、遺言作成にあたり事前に相談をすることができること(遺言書作成にあたって、遺言者の意向、相続人や受遺者の関係性、財産の内容を把握したうえで、アドバイスを受けることが可能)があげられます。サービス提供に関して、遺言信託手数料と執行時の報酬が生じることには留意が必要です。また、信託銀行等ができることは、法律によって「財産に関する遺言の執行」だけに限定をされていますので、認知や未成年者後見人の指定といった身分行為の遺言執行者となることなどはできないことも確認しておくべきでしょう。
一般社団法人信託協会・信託統計便覧が公表しているデータでは、令和元年度(1年間)の信託銀行における「遺言書の保管および執行業務(いわゆる遺言信託)」の受託件数は14万9,693件となっており、ここ数年は毎年1万件以上増加している傾向にあります。
【第39回】
2021.12.01
2021.11.29
2021.11.24
今回のコラムでは、「遺産の分けかた」についてみていきたいと思います。
「遺産」という字は「産(財産)」を「遺す(のこす)」ことだと解釈できますが、現代の日本の風潮として、「財産ありき」で、「遺す」部分については、(意識面では)やや疎かになっているとの指摘があります。
疎かというよりも、まずは「法定相続」ありきで、被相続人(亡くなられた方)の意思へのリスペクトが薄くなってきているのでは、というトーンかと思います。
一方で、どれくらいの方々が「遺す」意識を形にされているのでしょうか?「遺したい想い」を明確な形にすることが「遺言」だと思います。意外と知られていないのですが、「遺言制度の趣旨」は、財産を残す方の意思を尊重するためのルールであり、相続人のための制度ではないということです。「亡くなる方の最後の想いを尊重する」が、遺言の制度趣旨となっています。
特に、相続人が複数になる場合には、「遺産の分けかた」がとても重要です。ここで揉めますと「相続」が「争族」になってしまいます。そうならないためにも、遺産分割協議による分割と、遺言による分割とでは、どういった点が違っているのか、【図表1】で確認しておきましょう。
たとえば、次のような事例があったとします。
長年、仕事の関係で環境問題に取り組まれてきたAさんは、「私の財産の全てを、地球温暖化防止に携わっている公益社団法人に遺贈する」という遺言書を遺していたとします。相続人は子であるBとCです。この遺言は、相続人であるBとCの「法定相続分」を考慮していない内容ですが、このような遺言も有効です。遺言は、Aさんの生前の最後の意思を尊重するための制度だからです。ここで「B・Cの権利はまったく無い」のかというとそうではありません。遺留分という制度があります。
遺留分は、相続人に保障される最低限度の財産のことです。遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額の請求権を行使することができます。ただし、遺言を無効とする権利ではありません。遺留分制度は、あくまでも「遺言をのこした人の意思」と「相続人の法定相続分に対する期待」を調整するために設けられているからです。法定相続分と遺留分の割合は【図表2】を参考にしてください。
翻って(ひるがえって)みて、現在、どれくらいの方々が「遺す」意識を形にされているのでしょうか?
次回のコラムでは「遺言の活用法」をみていきたいと思います。
【第38回】
2021.11.24
毎年、秋が深まってきますと、お勤めされている皆さんにとっては「年末調整の季節」の到来です。1年の中でもっとも「税金」を意識するイベントかも知れません。今回のコラムでは、「相続に関する税金」についてみていきたいと思います。
相続が発生すると、切っても切れないのが「相続税」です。
2015年1月に施行された税制改正で、相続税は増税になりました。相続税の改正点は大きく分けて2つありました。1つは、基礎控除額が4割引き下げになったこと、もう1つは、最高税率が55%に引き上げられたことです。この税制改正で、相続税を払わなければならない相続人(課税対象者)数は大幅に増加しました。
国税庁「統計年報」によると、税制改正前の2014年では、相続税の課税対象者割合は4.4%でした。国税庁公表の令和元年分相続税の申告事績データをみますと、被相続人数(亡くなられた方)138万1,093人に対して、相続税の申告に関わる被相続人数が11万5,267人と課税対象者割合は8.3%と倍増しており、亡くなられた方12人のうち1人は相続税の申告書の提出に関わる状況になっています。
相続税の納税者数でみても、税制改正前は約13万人だったものが、令和元年度では約25万人と約2倍の水準になっています(ちなみに、相続税の納税額は被相続人1人あたり平均で1,714万円となっています)。
相続税は、相続発生後10カ月以内に、遺産分割が必要であれば協議を済ませ、預貯金や不動産等の名義変更を終わらせ、相続税の申告と納付を行う必要がありますので、納付までが一大イベントともいえます。
しかし、相続税を納付しても「完了」とならないケースもあります。
提出した申告書の内容について、税務署の職員が確認にくる「税務調査」に該当するケースです。これは、申告した方すべてが調査を受けるわけではありません。
相続税の税務調査は、通常、申告書を提出した年度の翌年(もしくは2年後)の9月から12月までに行われるのが一般的といわれています。税務署では過去の確定申告書について、申告内容や大きなお金の流れ等を確認・調査した後に、納税者のもとに実地調査にきます。
一般論ですが、税務調査に該当しやすいといわれるケースは、
などがあげられます。
では、相続税の申告をした人が税務調査を受ける割合はどれくらいでしょうか?
国税庁が公表している相続税に関する調査データによると、令和元年度に税務調査が行われた件数は10,635件です。それに対して相続税の申告が必要な方(前述)は、11.5万件でしたので、おおよそ10人に1人の割合で税務調査の対象となっているようです。
税務調査の目的は、提出した申告書に記載されていない財産についての確認といわれています。調査の結果、申告が漏れていた財産等の指摘があった場合、多くは、修正申告を行うことになります。
相続税の修正申告を行って、税金を追加で納める場合には、正しい税額での納付が遅れたことになりますので、「延滞税」と「過少申告加算税」が課されます。これが修正申告におけるペナルティーといわれるものです。
安心して相続を行うためには、やはり「事前の準備」が重要だと思われます。特に、相続の対象となる財産(遺産)の内容確定と、相続人の確定、そして相続人が複数存在する場合には「遺産の分割」が整うか否かが大きなポイントです。
次回のコラムでは、このうち最も「揉めそう」な、「遺産分割」についてお話させていただきます。
【第37回】
2021.11.17
2021.11.17
前回に引き続きまして、「寄り道コラム」にお付き合いいただければと思います。
現在の核家族世帯中心の時代において、「従来型の三世代同居世帯」のマネープラン機能は廃れたのか、否か、という問題に対して、「安心できるミライ」に向けて、家計において「信託のパワー」で世代をつなぐことはできるのでしょうか? ここで前回のコラムは終わっていましたが、続きをスタートさせていただきます。
核家族世帯・単身世帯の増加(反面、三世代世帯の減少)は、地方から都市部への人口集中傾向や個人のプライバシー概念の変化などを考えると、かつてのような三世代同居型の家族構成の復活は難しい時代になりました。
また、ライフスタイルの多様化の進展で、今後、単身世帯数が増加していく反面、三世代世帯の比率がさらに減少することも考えられる中、今から『サザエさん』の磯野家モデルを復活させましょう、といっても現実的とはいえません。
では、発想を変えて「従来の三世代同居世帯で行っていた家計面での金融補完機能」を復活させることはできないのでしょうか。
この視点から三世代同居世帯における世代間支援機能を考えてみたいと思います。まず、世代から次の世代への資産の移転機能から考えてみます。
たとえば、第1世代が取得した住宅に第2、第3世代が住み続けることで、第2、第3世代における生涯の住居費の節約が可能となります。その分、第2、第3世代の資産形成を助けることになります。第1世代終了時に「相続」という形で次世代へ資産移転するケースも多くありますが、その前に先んじて資産移転を世代間で行っているともいえそうですね。下の世代が子供の教育費で困っている時には、上の世代が金銭面の支援をする、ということでイメージしやすいと思われます。
また、従前は、第1世代がシニア世代となって、徐々に判断能力や身体機能が低下してきた時には同居している第2世代や第3世代が第1世代に代ってお金の管理をしたり介護したりしていました。こういう意思決定能力や資産管理能力をサポートする機能も三世代同居世帯で発揮されていた機能といえます。
こうして考えてみると、物理的には「三世代同居」の復活は難しいかもしれません。しかし、当時、発揮されていた機能は、核家族世帯や単身世帯が増加している現在においても、やはり必要とされている機能だといえます。
そこで、金融の面でこのような機能を発揮し、利用価値が高まってきているのが「信託」の機能です。
「信託」は、そこにある財(ザイ:資産として価値のあるもの)に対して、所有者の「想い」をその運用や管理の形に反映することができるスキームです。世代をまたぐ住宅取得費用や教育資金の支援、相続時でのスムーズな資産移転、認知症など自身の意思決定能力などが低下してくることに対する準備など、様々な目的に対して「信託」で解決を図ることができます。
具体的な例ですが、第34回のコラムでご紹介した「結婚・子育て支援信託」は、経済的不安から結婚・出産を躊躇している若年層へ、両親や祖父母の資産を早期に渡すことを通じて、子や孫の結婚・出産・子育てを支援することを目的とした税制上の特例措置の活用が目的ですが、「信託」の機能では、資金を預かるだけではなく事務手続きのサポートまでをパッケージして提供することができます【図表】。
第1世代から、「自己完結的にライフプランを立て準備していく第2、第3世代」へ信託機能を上手に活用した「世代間支援」を図ったり、認知症への備えを整えたりすることが一般的な取組みになれば、日本の特徴と言われている「高齢者層の金融資産保有割合が大きい」点についても、次の世代、その次の世代への上手な引き継ぎが期待できると思われます。
【第36回】信託のパワーとは?②《寄り道コラム》
2021.11.03
2021.11.03
2021.11.03
今回と次回は、久しぶりの「寄り道コラム」にお付き合いいただければと思います。
2000年代に入ってから、総選挙の際は「少子高齢」への政策が必ず問われるようになりました。
WHO(世界保健機関)では国の高齢化率が21%以上となった国を「超高齢社会」と定義しています。日本は2007年に超高齢社会に仲間入りし、2020年の総務省調査では28.7%となり、世界で一番の高齢社会になっています(2位は23.3%のイタリア、3位は22.8%のポルトガル)。
日本が特徴的なのは、金融資産保有状況を年齢別に見た場合、高齢者の資産保有割合が著しく高いことです。
例えば、金融庁が2019年6月に公表した「高齢社会における資産形成・管理」報告書においては、2035年にはその比率は約7割に達するという見込みが示されています。
一方、世帯構成(ライフスタイル)をみてみますと、2019年時点では、核家族世帯59.8%、単身世帯28.8%、三世代世帯5.1%、その他6.3%、となっています。実は、この50年で「三世代家族(祖父母・父母・子(孫))」の比率は10%ポイント以上減少し、その分、単身世帯や核家族世帯が増加しているのです。この変化は、個人のライフプラン、マネープランにおいて、どんな影響を及ぼしているのでしょうか?
昔は「親の面倒は子がみるのが当然」でした。今はどうでしょうか?
どうも「親の面倒は親世帯で自己完結、自分の世帯家計は自身で自己完結」という形へ変化してきているように思えます。
従来、多くみられた「三世代同居」世帯と、現在、世帯構成で比率が増えてきている核家族世帯をライフイベントの観点から眺めてみたのが【図表1】です。
三世代同居世帯では、第1世代においては結婚、住宅購入、子供の教育、子供の独立、リタイア、シニア生活といった「典型的なライフイベント」が現われてきます。ところが、第2世代では(世帯同居を前提としていますので)第1世代では若年期の一大イベントであった「住宅購入」が生じません(とはいっても戸建て等であればリフォームや増築といったイベントは想定されます)。その分を資産形成や子供の教育費、また自分の老後資金に充てることが可能となります。昔の平均寿命は70歳代でしたので、第3世代(孫子世代)が成人し結婚するころには、第1世代から第2世代への家計上の世代交代が完了しており、実質的に第2世代が第1世代に繰り上がり、第3世代は結婚後、子供の誕生、住宅建替えといったライフイベントに向っていきます。第1世代は「住宅(土地・家屋)の購入」でしたが、第3世代は「家屋の建替え」で資金負担は比較的軽くなります。
このように見ていくと、従来型の三世代同居世帯は、完全に生計を一にしていないにしても、ライフイベントの出現時期が時間的にずれることが多いため、各世代の家計におけるキャッシュフローや資産形成進捗度に応じて、余裕のある世代から余裕がなくなってきた世代へ世代間で金銭面の不足を補い合えることが特徴といえます。特に、現役世代の一大イベントである「住宅購入」への費用負担を、第2世代以降は比較的小さな負担で乗り越えることができる点は、資産形成の観点からはメリットだといえるでしょう。
これに対し、核家族世帯が中心となった現在においては、物理的にも家計的にも前の世代から独立することから、各世代の中でそれぞれ「人生の3大イベント(住宅取得・教育費・老後資金準備)」が生じてきます。特に世代が第2、第3とくだっていけばいくほど、「人生100年時代」の本質である「長寿化」が進行すると思われますので、老後資金準備の負担額は前の世代よりも大きくなっていくことが予想されます。
「各世代で自己完結的にライフイベントに対して資産形成を図らねばならない」というのが現在の核家族世帯中心の時代における基本原則だと思われますが、このように考えていくと、「従来型の三世代同居世帯」の方がマネープラン的には安心できたのではないか、という思いも湧き出てきそうです。
では、そんな時代に「安心できるミライ」に向けて、家計の面で世代をつなぐ「信託のパワー」について考えていきたいと思いますが、それは、次回のよりみちコラムで。
【第35回】信託のパワーとは?①《寄り道コラム》
2021.10.27
前回の「もらって準備」の続きからです。
結婚・子育て資金を「もらって準備」する場合に活用したいのが、「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」でした。この特例は、経済的不安から結婚・出産を躊躇している若年層へ、両親や祖父母の資産を早期に渡すことを通じて、子や孫の結婚・出産・子育てを支援することを目的とした特例措置です。
この特例の適用を受けるにあたっての条件は以下の通りです。
金融機関で専用口座を開設した後に、贈与された金額の預け入れが必要です。また、このとき、受贈者から所定の申告書(結婚・子育て資金非課税申告書)を金融機関に提出します。口座を開設する前に贈与者と受贈者の間で、書面による贈与契約を締結しておく必要があります。
開設可能な専用口座は、受贈者1人につき1つです。一度に全額ではなく分割して預け入れることも可能です。
信託は資金を預かるだけではなく事務手続きのサポートも行うことができるのが特徴です。結婚・子育て資金贈与も信託で取り組むことができます(名称は、「結婚・子育て支援信託」が一般的です)。
結婚・子育て支援信託の仕組みについて、ここでは三井住友信託銀行の提供しているサービスを例としてみてみましょう。
当初預け入れ金額は金融機関によって異なります(三井住友信託銀行の場合、5,000円以上1,000万円以下 1円単位)。また、現在、このサービスの利用に関しては、利用者に手数料がかからない扱いが一般的となっています。
このようなパッケージ化されているサービスを活用して、「もらって準備」を検討してみてはどうでしょうか。
【第34回】結婚資金・子育て資金③
2021.10.20
ミライ研1万人アンケート調査結果をもとにしたニュースが、2021年10月11日(月)NHK「おはよう日本」で放送されました。
「NHK NEWS WEB」にて、ニュースの内容が記事化されています。是非、ご覧ください。
−“頭金1割以下で住宅ローン” 20〜30代で60%以上−
2021.10.14
2020年10月に公表されたリクルートブライダル総研の「ゼクシィ結婚トレンド調査2020」によると、結婚前カップルの結婚資金の貯金総額は全国平均で約312万円でした。金額帯別の割合が【図表1】です。100万円以上500万円未満で全体の約73%を占めています。
前回コラムは、「結婚費用」「出産・子育て費用」についてでしたが、図表1のような数字を目にすると、「ちょっと準備が不足するかも」「今から資金準備にスパートを」というカップルもあるのでは?と思われます。
思い立ったが吉日、の諺もありますので、今から給与からの天引きで毎月一定額を「結婚資金」として貯蓄し始める又は増額する、ボーナスの大半を「貯蓄」に回す、共同の「結婚資金準備口座」を開設し協働で資金準備を進める、など取り組み開始は早い方がベターです。
ここで、プロポーズから入籍までの期間についての調査結果を見てみます【図表2】と、最も多かったのが「約半年」で、2番目に多い「約1年」と合わせると、カップルの約半数は半年から1年の期間で入籍されるようです。ただし「結婚資金の準備期間」としては比較的短いかも知れません。そんな場合には、「もらって準備」を検討してみるのも1策です。
「もらって準備」する場合に活用したいのが、租税特別措置法で設けられている「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」です。この特例は、将来の経済的不安から結婚・出産を躊躇している若年層について、両親や祖父母の資産を早期に移転することを通じて、子や孫の結婚・出産・子育てを支援することを目的とした特例措置です。
2015年4月1日から2019年3月31日までの期限付き措置でしたが、2019年の税制改正で適用期限が延長され、更に2021年税制改正で2023年3月31日まで適用期限が再延長されました。
制度としては、受贈者(贈与を受ける子、ひ孫など)は20歳以上50歳未満で(2022年4月1日以降は18歳以上50歳未満)、50歳になった時点で贈与金が残っているとその残額に贈与税がかかります。また、2019年の税制改正で、受贈者の所得が1,000万円を超えると適用は受けられないものとなりました。これは、この特例の目的が、将来の経済的不安から結婚・出産を躊躇している若年層に対して親、祖父母が費用を一括贈与することで、不安を取り除き、背中を押すことにあるからと思われます。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例の非課税限度額は子や孫1人につき1,000万円です。このうち結婚費用に充てられるのは300万円までです。なお、結婚・子育て資金の「結婚」の費用とは、婚礼、披露宴費用、新居の住居費などが該当し、「子育て」は不妊治療費、妊娠中の通院費、子どもの医療費、保育料などが該当します。
注意点としては、贈与者(両親や祖父母)が亡くなると、その時点で特例の適用が消滅してしまうという点です。贈与者が亡くなると、受贈者が50歳未満であっても、残額はすべて相続または遺贈で受け取った財産とみなされて、相続税が課税されることになります。教育資金の一括贈与の特例では、贈与者が亡くなっても適用が消滅しないので、この点が違いです。
また、受贈者が50歳になった時点で、贈与金額が残っていると、その残額に贈与税がかかります。受贈者が50歳になる前に亡くなった場合には、残額に贈与税は課税されません。
次回のコラムでは、「信託」を活用した「もらって準備」する方法をご紹介します。
【第33回】結婚資金・子育て資金②
2021.10.13
2021年2月に公表された厚生労働省の人口動態統計速報によると、2020年1月~12月の日本の婚姻件数は約54万組と、前年比で▲約8万組、率では▲12.7%と大きく減少していることが判りました。
また出生数は前年比で2.6万人減った87.3万人で、過去最低となっています。米国でも2020年の出生率は、前年から4%低下し、約40年ぶりの低水準となりました。
この背景として、新型コロナの影響で結婚に繋がる出会いが少なくなっており、結婚式も行いにくい状況があるのではないか、との見方も出てきています。「少子化」への影響を考えると、家庭生活の「結婚」「出産」というイベントを支援する各種制度の役割は重要になってきていると思われます。
そこで、10月のコラムでは「結婚資金」「出産・子育て資金」に注目したいと思います。
リクルートブライダル総研の「ゼクシィ結婚トレンド調査2020」によると、2019年4月から2020年3月の間に結婚(挙式、披露宴・ウエディングパーティ)をした人が、結納・婚約から挙式・新婚旅行にかけた総額は平均で約469万円でした【図表1】。
費用を項目別に見ていくと、「挙式、披露宴・ウエディングパーティ」の362万円が最も大きく、費用総額の約77%を占めています。
最近の傾向としては、人前式の挙式も増加してきており、披露宴などの規模も近親者中心のコンパクトな形態が好まれてきているようです。
とはいえ、結構大きな金額ですので、結婚費用(結納、挙式、披露宴・ウエディングパーティ、二次会、新婚旅行を合わせたもの)に対しては約79%の人が親・親族から援助を受けており、その額は平均で約192万円でした。
新生活を始めるお二人の自己負担額としては「結婚費用総額」から「頂いたご祝儀金額」と「親・親族からの援助額」を差し引いた金額が目安と考えられますので、おおむね50万円から150万円程度といわれています。「これなら」と思える水準かも知れません。
ただ、「新婚生活実態調査2020(リクルートブライダル総研調べ)」によると、新婚生活準備にかかった費用の総額は平均で約59万円(インテリア・家具の購入や家電製品の購入など)となっていますので、結婚準備の自己資金としては、この費用も含めて考えておきたいところです。
出産費用については、公益社団法人 国民健康保険中央会が公表していますが、年度によって多少の変動はあるものの、全国平均では、おおよそ50万円程度(正常分娩の場合)です【図表2】。
出産の平均費用は都道府県によって変わってきます。都道府県別の平均では、東京都が62.2万円と最も高く、最も低いのは鳥取県で39.6万円となっています。
では、出産費用の自己負担額はどれくらいを想定しておけばよいのでしょうか。
出産費用は原則として自費となります。妊娠、出産は病気ではないので健康保険が適用されないからなのですが、経済的負担を軽減させる公的支援制度が用意されています。
代表的な制度の1つである「出産一時金」は、加入している健康保険に申請をすると一律で42万円が支給される仕組みです。申請期限は出産日の翌日より2年となっています。
また、妊娠した女性が出産のために勤め先を休んだ場合は、勤務先が加入している健康保険から「出産手当金」を受け取ることができます。出産手当金は、産休中の給与支払いがない期間でも、家族の生活を保障して、安心して休養・子育てができるように設けられた制度です。パートやアルバイトの方でも勤務先が加入している健康保険の被保険者であれば受け取ることができます。
【第32回】結婚資金・子育て資金①
2021.10.06
2021.10.01
「貯めて準備」「借りて準備」と続いてきた本シリーズも最終回です。今回は「もらって準備」という観点でお伝えいたします。
まず、「もらう」=「贈与」について税金面をみてみましょう。通常、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産には以下のとおり贈与税がかかります。
贈与税は1年間で受けた贈与をまとめて翌年に申告し、納付すべき金額を納税します。ただし、相続税法21条の3において「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」については贈与税の非課税財産として取り扱う旨が定められています。
ですので、父母や祖父母、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産には贈与税はかかりません。生活費とは「その人にとって通常の日常生活に必要な費用」、教育費とは「学費や教材費、文具費など」をいいます。
ただし注意点があります。ここで贈与税の非課税財産として取り扱うには「必要な都度直接これらに充てるためのもの」である必要があります。つまり、贈与を受けた資金が、生活費や教育費に充てられず預貯金となっている場合や、目的外の支出に利用した場合には、課税対象となります。
しかし、教育資金を「必要な都度」贈与するのは贈与する側・受ける側ともに手間がかかります。2023年3月31日までは「教育資金の一括贈与にかかる贈与税非課税措置」を利用することができます。概要は以下の通りです【図表1】。
1,500万円まで非課税なのは「学校等に支払われる金額」であって、スポーツクラブや習い事の月謝などはそのうちの500万円が上限となっています。また「学校等」には小・中・高・大だけではなく幼稚園や保育所、外国にある学校も含まれますし、「教育資金」には通学定期代や留学渡航費なども含まれます。具体的に知りたい方は、文部科学省のQ&Aをご確認ください。また、受ける額が1,500万円以内であれば非課税となりますので、例えば一人のお孫様に対し祖父から1,000万円、祖母から500万円贈与を行うなど、贈与をする方は複数名でも問題ありません。
教育資金贈与信託の仕組みについてお示しします【図表2】。
【第31回】教育資金④
2021.09.29
現在の奨学金制度は、1943年に創設された財団法人大日本育英会の奨学金事業からスタートしました。奨学金とは、憲法や教育基本法に定める「教育の機会均等」「人材育成」の理念のもと学生へ経済的支援を行うもので、現在では様々な組織や団体が奨学金制度を設けています。
奨学金の制度は大きく分けて二種類あります。
一つ目は給付型の奨学金です。様々な団体が給付型の奨学金を実施していますが、2020年4月から高等教育の就学支援新制度として独立行政法人日本学生支援機構による、給付型奨学金の支給と各学校等の授業料・入学金の免除・減額を合わせた制度がスタートしています。
二つ目は貸与型の奨学金です。こちらは支給を受けた奨学金を、一般的には学校を卒業したのち、数年~数十年かけて支給を受けた本人自身で返還していく必要があります。利子については、「無利子」のものと「有利子」のものがあります。
実際に奨学金を借りている学生数はどのくらいいるのでしょうか。独立行政法人日本学生支援機構が、奨学金の受給状況について調査しています【図表1】。
大なり小なり何らかの奨学金を受給している学生は大学(昼間部)で47.5%、修士課程で48.0%とおよそ半数にのぼります。高等学校などの卒業生のうち大学・短期大学への入学する人は年々増加しているため、「資金面で進学を断念するよりも奨学金で」と考える人も多いのではないでしょうか。
独立行政法人日本学生支援機構が行う奨学金が広く一般的に知られていますが、その他にも様々な団体が実施しています【図表2】【図表3】。
地方公共団体が実施している制度は、奨学金を受給する学生や、その保護者が当該地方公共団体に住所を持つことが条件となっているケースが多くみられます。貸与型が中心ですが、「無利子」が多い傾向にあります。また各学校でも新入生・在校生向けに様々な奨学金制度を設けています。給付型も多くありますが、成績が選考の条件となっているものが多くみられます。
各団体がどの様な制度を実施しているかは、独立行政法人日本学生支援機構のHPで簡単に検索することができます。
奨学金の受給を検討する際には、本当に「必要な額」はいくらなのかを考えることが重要です。特に貸与型では注意が必要です。貸与型で受け取った奨学金は卒業後に返還していく必要がありますので、将来の返還負担を考え、真に必要な金額の範囲内で奨学金を受けることが重要です。また、独立行政法人日本学生支援機構の場合、奨学金の返還が一定期間滞ってしまうと、個人信用情報機関に登録され、住宅ローンや自動車ローンといった他のローンを検討する際に、影響が出る場合がありますので注意が必要です。
奨学金を返還していくのは子ども自身になりますが、教育ローンであれば返済をしていくのは保護者ですので、子どもの将来負担を減らすことができます。教育ローンは大きく分けて国(株式会社日本政策金融公庫)が提供するものと、民間の金融機関が提供するものがあります。民間の金融機関から借入れをする場合は「一定の収入」もしくは「安定した収入」が条件となりますが、一方、国の教育ローンは「一定以下の収入の世帯」が対象となるのが大きく異なる点です。国の教育ローンの概要は以下の通りです【図表4】。
奨学金、教育ローンそれぞれの特徴をふまえ、親子間でよく相談することが重要です。
【第30回】教育資金③
2021.09.22
子供の教育資金を準備しようと思われた際、まず思いつくのが「学資保険」ではないでしょうか?
学資保険とは、保険料を毎月払い込み、数年をかけて積み立て、子どもの進学などのタイミングに合わせてまとまった資金を受け取ることのできる保険商品です。受取りタイミングは、「大学入学時に一括で受け取る」や「中学・高校・大学入学時の3度のタイミングに分けて受け取る」といった選択ができます。学資保険を検討する際の3つのポイント見ていきましょう。
<ポイント① 返戻率は?>
返戻率とは、支払い保険料の総額に対し、受け取れるお祝い金や満期保険金の合計額がいくらになるかを割合で示したものです。返戻率が100%未満の場合は「受取保険金<払込保険料」、100%の場合は「受取保険金=払込保険料」、100%超の場合は「受取保険金>払込保険料」となります。
近年は超低金利であるため、昔ほど高い返戻率は設定されていません。また、商品によっては学資保険の「保険」部分に死亡保障などの手厚い保障がついているため、返戻率が100%未満のものもあります。他に加入されている保険に同様の保障がある場合には、あわせて検討する必要があります。
<ポイント② 万が一の際の保障は?>
一般的な学資保険では、契約者(=保護者)の死亡や高度障害状態になった際には、その時点で以後の保険料の払い込みが免除されます。また、払込み免除となっても契約時に決めた受取りタイミングで保険金を受け取ることができます。この点はまさに、保険によって予測できないリスクをカバーするという機能をうまく活用することができます。
<ポイント③ 解約した場合には?>
保険金を受け取ると決めたタイミングよりも以前に資金が必要となり、積み立ててきた保険を解約する必要が生じた場合は要注意です。保険を解約することで、一定の金額は手元に返ってきますが、場合によっては払い込んだ保険料よりも大幅に減ってしまうケースがあります。
以上のポイントをまとめると、将来、発生する可能性が高いイベント(例えば大学入学)を目的として貯蓄していくなかに「保護者が亡くなるリスク」を織り込んで備えることができる良い方法といえそうです。
とはいえ、お子様が小さいうちは本人がどの様な進路を希望するか不確定な要素が大きいかと思います。そういった観点で自由度が高いのは、金融機関の定期積立や勤務先の財形貯蓄制度を活用した預貯金での積み立てです。この方法であれば、学資保険の考慮ポイントで上げた中途解約のデメリットは防ぐことができます。
ただし現在の日本は「ゼロ金利」環境が続いていることから、「貯める」ことはできても「増やす」に期待するのは難しそうです【図表1】。
預貯金での積立てだけでは目標金額に到達するのが厳しいと思われる場合には、一部は預貯金で積み立て、一部は投資に回すという方法もあります。
保護者名義で積み立てた資金の一部を運用に回すのであれば、是非「NISA」や「つみたてNISA」といった少額投資非課税制度の活用も検討しましょう。どの様な点で優遇されているのかについて以下まとめました【図表2】。
「貯めて準備」を検討する際に、選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。
【第29回】教育資金②
2021.09.15
2021年も新型コロナウイルス感染拡大に対して全世界で取り組みが続いています。この様なコロナ禍の中での変化について、1万人アンケート調査に基づくミライ研レポート(2021年7月30日公開)でお伝えさせて頂きました。アンケート調査では、各世帯が実施している「家計面の工夫・努力」についてお尋ねしました【図表1】。
1位は「支出減の工夫」とやはり節約をされている方が多くなっています。ところで、こういった家計面の工夫・努力を行っているのはどの様な目的があってのことでしょうか?ミライ研の1万人アンケート調査では、「家計面の工夫」を行う目的についてもお尋ねしました【図表2】。
特徴的なのはやはり30-40歳代で「子供の教育費の準備、支払いのため」を目的にあげる人が多いことです(※具体的な内訳については、本コラム末の参考資料をご覧ください)。そこで、入学に向けた対策が本格化してくる9月のコラムでは「教育資金」に着目したいと思います。
「小学校から大学までだと○○円かかる!」と様々な情報が世の中では展開されています。必要となる金額は、地域や進学に対する考え方に応じて様々です。しかしいずれにしても「教育資金」にはまとまった資金が必要です。その様な資金を実際にどうやって準備しているのでしょうか?株式会社日本政策金融公庫がインターネットで実施したアンケートによると以下のようになっています【図表3】。
節約といった日々の支出減の工夫や共働きの開始といった収入増の工夫はもちろんのこと、預貯金や保険を取り崩し(=「貯めて準備」)、奨学金や各種借入の活用(=「借りて準備」)、親族からの援助や教育資金贈与の利用(=「もらって準備」)を行っていることが分かります。
様々な方法のなかで、いずれの策をとることが“good choice”になるのでしょうか。次回以降のコラムでは、教育資金を「①貯めて準備する」「②借りて準備する」「③もらって準備する」についてお伝えしていきます。
~ご参考資料~
【第28回】教育資金①
2021.09.08
2021.09.01
2021.08.01
2021.07.30
1.コロナ禍における時間的な変化
2.コロナ禍における家計行動の変化
3.コロナ禍における資産形成額の変化
4.変化が大きかったのはどの世代?
ぜひご覧ください。
レポート
2021.07.30
今年(2021年)4月に改正・施行された「高齢者雇用安定法」によって、70歳までの就労機会の確保が企業の努力義務とされました。企業の人事領域における大きなトピックです。これにより企業は、①70歳への定年引き上げ②70歳まで雇用継続する制度の導入③定年制の廃止、などの措置を検討していくことになりました。
今回のミライ研のアンケート調査で、「家計(世帯)における『老後資金の必要額(概ね65歳以降の生活資金で公的年金の支給以外に自分で準備する金額)』」について尋ねています。結果は、全世帯平均で約1,800万円でした。回答結果を各年代別にみてみると、必要金額は「1万円以上」から「5,000万円未満」の選択肢に対し、1,500万円~2,500万円を頂点として、おおむね、なだらかに分布していることが確認できました【図表1】。
各世帯の家族構成(既婚/単身)や働きかた(共働き/片働き、フルタイム/パート、兼業/副業/フリーランスなど)が多様化してきており、それに伴って、各世帯が受給する公的年金の種別(国民年金、厚生年金)や受給額にも幅が生じてきています。こういった背景から「自助努力で備えておく老後資金の必要額」も世帯事情に応じてバラつきが生じてきていると考えられます。
リタイア後のセカンドライフの収入面での支えは、公的年金などの「年金収入」と、自身で準備した資産の取り崩しなどによる「資産収入」です。「定年引上げ・雇用延長」により現役時代が延びることで、老後資産形成の時間も伸び、マネープランを実践できる期間も長くなることから、「今から老後資金準備を始めても間に合う」という方々が多くなると思います。しかし、ポイントとなるのは、家計面での負債サイド(住宅ローン、教育ローンなど)と資産サイドのマッチング(突き合わせ)管理です。
負債サイドに目を向けますと、「借りたお金(負債)は、いつかは返さないといけないもの」なので、リタイア後に「勤労収入」が減り「年金収入」が生活資金の中心となっていくことを思うと、リタイア時の金融資産で住宅ローンなどの返済を完了させて、セカンドライフに「スッキリと向かいたい」という気持ちが出てくるのは自然な心理だと思います。
そういった意識を調査すべく、今回、「家計におけるローン利用(ローン予定)の有無」「リタイア時点(概ね65歳)での家計の負債(住宅ローンや教育ローンなどの残債)をどうするか」を尋ねています。結果としては、「現在ローンは利用していない、これからもローンは利用しない」が6割、「ローンを利用している、利用する予定」が4割となりました。
ローン利用者世帯を見てみると、約8割の世帯が「老後生活費を圧迫するので、現役時代にできるだけ繰り上げ返済などでローン残額を減らしたい」「リタイア時の退職手当(会社からの退職金など)で、ローン残債を一括返済したい」と回答しており、現役時代の負債はリタイア時には無くしておきたい意向が強いことが確認できました【図表2】。
この調査結果から、【図表1】で確認した「公的年金以外に必要と考える老後資金額」を検討する際には、「リタイア時のローン残債を、保有金融資産額(退職金を含む)で返済した後に、どの程度資産が残るか」も考えておくことが重要だと考えられます。
一方、見落としがちなのが、「リタイア後もローン返済を継続」する選択肢です。ここ10年の住宅ローン金利は、ゼロ金利政策及びマイナス金利政策の影響で歴史的にも低い金利水準で推移してきました。現在返済中のローン金利や完済までの期間などを勘案した上で、「家計の資産を運用することで得られる果実(収益)で、ローンの返済(もしくはその補填)ができるのであれば、資産と負債を両建てで管理していく」選択肢も考えられます。ただし、その際は、運用期間と流動性には特に留意が必要です。また、リタイア時にいきなり「運用」を始めるのではなく、現役時代から積立投資などで投資経験や運用リテラシーを習得しておくことが望まれます。
重要なことは、「資産サイドのみ」で老後資金準備を考えないということだといえそうです。この観点から、家計における「資産と負債のマネジメント(総合した管理)」は、今後、重要性を増してくると考えられます。
【第27回】
2021.07.09
令和3年度(2021年度)の税制改正では、住宅ローン減税の13年間の控除期間適用の要件が延長・拡充され、住宅購入を検討中の世帯にとっては朗報になりました。国交省は、この改正の背景について「コロナ禍の影響で落ち込んだ経済の、住宅投資の喚起による回復」と説明していますので、「改正をコロナが後押し」した面もあると思われます。
こういった変化の中、今回、ミライ研の1万人アンケート調査では、自宅をご自身で購入した方3,546人に「住宅購入時のローン利用」を尋ねました。結果をみると、「住宅ローン利用中」「住宅ローンで購入したが返済完了した」世帯の比率は、全体では78.9%、特に30歳代では高く88.2%となっており、30歳代の住居購入はローンに拠っていることが数字にもはっきり表れていました【図表1】。
また、ローンを組んで住まいを購入した方2,797人に対して、ローン設定時の頭金(対物件価格比率)について尋ねていますが【図表2】、結果は、全体では「頭金はゼロ」が27.0%、「頭金は1割」が21.7%、となっており、約半数の世帯では「頭金無し もしくは 1割程度」で自宅を購入、という実態が判りました。特に、30歳代の「頭金なし」「頭金1割」の比率は、合せて67.0%となっており、実に2/3を占めていました。
かつては「住宅ローンを組む時の頭金は、物件価額の2割~3割を目安に、自助努力で準備するもの(それが世帯主の務め)」といわれていました。しかし、「新築住宅価格の高止まり」「住宅ローンの低金利水準の継続」「住宅ローン減税の延長」といった現在の環境をみると、現状の低いローン金利水準であれば、当初10年間(もしくは13年間)は支払利息よりも税控除メリットが大きくなりそうなので、「当初借入額が高額だとしても、税控除も比例して大きくなるから今が買い時」と考えて、住宅取得に踏み切る世帯も多いと思われます。
また、「頭金を貯めていると、いざローンを組んだ際の返済完了時が高齢になってしまう」「物件価格は高止まりしていて、待っていても安くなりそうにない」「住宅ロ―ン減税の改正メリットを利用したい」などの各世帯におけるリアルなニーズの表れとも考えられます。
令和時代においては「頭金はなくとも、ローンで住まいを購入する」ことも、合理的な選択肢の1つになってきたといえるかもしれません。
【第26回】
2021.07.02
2021.07.01
2021.06.11
2021年3月に、全国の20歳〜64歳の男女1万人にアンケート調査を実施しました。
I.住宅購入と住宅ローン
住まいは「頭金を貯めてから買うか」「とにかく買うか」
II.負債と資産のマネージメント
リタイア時に、住宅ローンは「返すか」「返さないか」
上記切り口で各世代の住まいや住宅ローンに対する考え方をまとめています。ぜひご覧ください。
レポート
2021.06.11
「新型コロナショックは、資産形成の追い風?逆風?その2、その3」では、公募投資信託への資金流入の活発化や、NISA口座開設数の増加と、そうした動きの背景となった新型コロナショックによる社会的な変化をお伝えしましたが、株式市況も資産形成を始めるきっかけの1つになったことでしょう。こちらもコロナショックの影響を少なからず受けています。
新型コロナショックによる世界的な景気後退を受け、日経平均株価は2週間で5,000円弱急落して3月半ばには16,000円台に<図表1>、公募追加型株式投資信託の価格指数も、同じく3月に大きく落ち込みました<図表2>。
前述した公募投資信託への資金流入の活発化やNISA口座開設数の増加などは、急落した株式相場を資産づくりのチャンスと捉えた個人投資家の動きを反映したものですが、この中には、「投資へのハードルが大きく下がった」ことに背中を押された資産形成への新規参入者も相当数含まれていたとみられます。
前掲の株価指数と株式投資信託の価格指数は、ともに3月に底を打ったあと上昇に転じ、秋口にはコロナショック前の水準をほぼ回復。11月以降は、米国での政権交代、新型コロナワクチンの有効性や早期実用化見込みに関する報道、その後の摂取開始などによりさらに急騰しました。
資産形成への1歩を踏み出したあと、早いタイミングで成果が出れば、資産形成へのモチベーションが上がり継続の意思も強まるのが人間の心理。
つみたてNISAや企業型DC、iDeCoは、始めてしまえば自動的に積み立てが継続されていく仕組みなので、成果がマイナスになったからといってすぐに解約するケースは稀かもしれませんが、資産形成を成功体験からスタートできたという意味で、今回の株価の動きは理想的だったと言えます。
上記のように、最近の資産形成への動きに「コロナ効果」が関与していることは明らかです。ただ、1996年に「貯蓄から投資へ」が掲げられて以来、投資優遇制度の創設、投資商品の小口化、低手数料商品の増加など、投資や資産形成を推し進めるための制度や環境が少しずつ整えられてきたことも見逃せません。
制度面では、2001年にDC(確定拠出年金)、2012年1月に企業型DCにマッチング拠出制度が導入され、2017年には個人型DC= iDeCoの加入対象が拡大。また、2014年にNISA(少額投資非課税制度)、2018年につみたてNISAがスタートされるなど、制度の拡充も進んでいます。
投資商品の小口化については、2001年の商法改正で株式投資単位の引下げが簡易化され、以後、多くの企業が投資単位を引き下げています。また、投資信託の最低購入額も、足下では銀行窓口が1万円、インターネットバンキングや総合証券が1,000円、ネット証券が100円と、小口化も最終局面まで来ている感があります<図表3>。
手数料に関しては、ネット証券の出現・台頭を軸に引き下げが進行中です。手数料ゼロのいわゆるノーロード投信の残高は年々増加しており、つみたてNISAの投資対象商品となる要件のひとつが「ノーロード」であることなどからも、この傾向は続くとみられます。
こうした、資産形成への一歩を踏み出しやすくする「下地」に、新型コロナショックによる社会的な変化(時間的なゆとりの出現やオンライン化の進展)が重なったからこそ、資産形成世代のマインドが「いつか始めたい」「始めなければ」から「今始められる」に変わったのではないでしょうか。
もちろん、現時点で資産形成を始めていない人も少なくないと思われますが、「機会を逸した」とあきらめる必要はありません。株価の底値は逃したかもしれないですが、各種優遇制度はもともと中長期にわたる資産形成を意図した設計になっていますし、投資商品の小口化やテレワークを含むオンライン生活への移行も、「ニューノーマル」として定着する可能性が高い(逆戻りはしにくい)と考えられるからです。
好条件の多くは、少なくとも当面は継続する見込みですし、マクロ環境的にみても、これからスタートしても決して遅くはないでしょう。テレワークへの移行で仕事帰りの1杯が減り、自粛生活で友人と会う機会も減ったこの1年で、「外食が減ればその分浮く→資産形成の原資が捻出しやすくなる」ということを体感した人も少なくないでしょう。こうした経験則も活かしながら、新型コロナショックをきっかけに、家計を「資産形成体質」に変えるチャンスかもしれません。
【第25回】新型コロナショックと資産形成④
2021.04.28
前回のコラム「新型コロナショックは、資産形成の追い風?逆風?その2」では、各年代でのNISA口座が急伸していることなど、資産形成が活発化している動きがみられる背景として、新型コロナショックをきっかけとした①経済的不安感の高まり、②「おうち時間」の増加、③オンライン社会への秒速転換–の「3つの社会的変化」があることをお伝えしてきました。
今回は、このうち③オンライン社会への秒速転換について、少し詳しくデータをみていきます。年代別のデータですので、同じ年代の方の特徴を、自分と照らし合わせてみていただいてもいいですね。
まずはじめに、インターネットで情報検索や金融取引を行っている人の比率をみてみましょう。これは、資産形成世代にあたる50歳代以下と60歳代以上で大きく異なります。
情報検索については、50歳代以下では7割を超える人が実施していますが、60歳代以上では、急速にその比率が低下しています。金融取引についても、50歳代以下では20~25%が実施しているのに対して、60歳代になると半減し、70歳代ではさらに半減します<図表1>。
また、三井住友信託銀行が2020年8月に実施した調査でも、若年層ほどオンライン利用度、オンライン志向が高いことが伺われる結果が出ていますので、いくつかご紹介します。
まず、投資や金融についての情報収集で参考にするものを年齢別にみたところ、30歳代を中心に若い世代では、「インターネット記事」「比較サイト、ランキングサイト」「ネット掲示板やSNSの書き込み」などオンライン関連の媒体を参考にする比率が高く、年齢が上がるにつれ、「新聞の記事」「テレビ・ラジオの番組」「金融機関の担当者の勧め」といった昔ながらの情報源を参考にする比率が高まる傾向がありました(図表2の)。
話が少しそれますが、30歳代以下では、オンライン系の情報源だけでなく、「家族や友人・知人、同僚の勧め」-いわゆる「口コミ」-を参考にする比率も相対的に高くなっています。溢れるほどの情報をオンラインで瞬時に取得できる世代なだけに、信頼できる人からの口コミに頼りたい場面もあるのかもしれません。「金融機関の選択」や「相談先の検討」の場面では、オンライン系情報源より口コミを参考にする比率の方が高いことから(図表2の)、知識・情報を収集する時にはネット記事やSNS、実際に係わる取引先や相談先を選ぶ時には口コミと、情報源をうまく使い分けている可能性もあるでしょう。
次に、「ライフプランや家計設計の相談時の対面/非対面意向(窓口を希望するか、オンラインを希望するか)」について訊いたところ、若いほど「オンライン派」の比率が高く、高齢になるにつれ「窓口派」の比率が上昇するという結果が得られました。30歳代以下では「オンライン派(「絶対オンライン」と「できればオンライン」の合計)」が1/3を超えています<図3>。
同調査ではさらに、「コロナ禍における金融面でのオンライン相談の増減」と、「コロナ収束後の金融面でのオンライン利用意向」についても訊ねています。こちらも、若年層ほどコロナ禍でオンライン利用を増やした人の比率が高くなっていました<図表4の左端列>。
また、コロナ収束後に関しては、20歳代~50歳代までは大差なく、55%前後の人が「(コロナ禍で引き上げた)オンライン利用比率をそのまま維持する」意向であることがわかりました<図表4の帯グラフ>。
オンライン社会への急速な転換は、新型コロナショックが世の中にもたらした最も大きな変化のひとつでしょう。そして、上記の各種調査結果から、この転換は、情報収集・知識拡充と実際の金融取引の両面から、オンラインリテラシーが相対的に高い若年層の資産形成を確実に後押しすると思われます。
【第24回】新型コロナショックと資産形成③
2021.04.20
前回は、新型コロナショックをきっかけに、
●「守り」の家計行動で消費が伸び悩んでいること
●給付金10万円をきっかけに、「意図せざる貯蓄の増加」が発生していること
をお伝えしました。結局、新型コロナショックは資産形成にとって追い風なのでしょうか、逆風なのでしょうか。
新型コロナショック下、資産形成・資産運用を意識した資金の動きが伺えるデータがいくつかあります。1つずつみていきましょう。
まずは、投資信託の資金増減額(設定額-解約額-償還額)からみてみましょう。
2020年3月~5月の3ヶ月連続で1兆円以上の純増となりました<図表1>。新型コロナの感染拡大が本格化したタイミングで投資信託への資金流入が活発化していたことがわかります。
NISAの口座開設数も、2020年に入って以降増加が加速しています。これまでは4半期ごとに25万~30万口座程度の増加でしたが、2019年12月末~2020年9月末にかけて、3期連続で約40万口座ずつ増加し、足もとでは1,500万口座到達が目前となっています<図表2>。
とりわけ、資産形成世代にあたる20歳代~50歳代のつみたてNISAの口座開設数の伸びが目立ちます<図表6>。2019年12月末~2020年9月末にかけて、各年代で以下のように急伸しています。
●20歳代で1.6倍
●30歳代で1.5倍強
●40歳代、50歳代では1.4倍に増加
なぜ資産形成に向けた動きが活発化したのか、その背景には新型コロナショックがもたらした「3つの社会的変化」と「株式相場の変化」があります。今回は「3つの社会的変化」をみてみましょう。
一つ目には、経済的不安感の高まりが考えられます。新型コロナの影響による飲食店の閉店やパート・アルバイトの解雇を目の当たりにし、多くの国民が失業リスクや所得減少リスクを身近に感じたことでしょう。内閣府の調査でも、「収入の増え方」と「雇用環境」に関する消費者の意識は、2020年3月、4月と連続して「悪くなる」方向に大きく落ち込みました。その後上昇に転じてはいますが、半年が経過してもまだコロナ以前の水準には戻っておらず、昨年末の感染拡大第三波の到来より、再度下落しています<図表4>。
2019年に大きな話題となった「老後資金2000万円問題」以降、老後資金について不安を抱く国民はもともと増加していたところに、コロナによる雇用・所得不安の高まりがダメ押しの形で、人々の貯蓄意識を一層引き上げたと言えます。
二つ目には、「おうち時間」が増えたことが背景にあげられます。
感染拡大防止のためにテレワークが強力に推奨され、プライベートでも外出自粛を余儀なくされた数ヶ月で、多くの人の「おうち時間」が増えたことも、コロナショック下の大きな特徴です。
テレワーク実施者比率は、地域や職種、企業規模などによりバラツキはありますが、4月の緊急事態宣言発出後は平均で25%前後と、発出前の2倍程度の水準で推移しています。
データの出どころは異なりますが、2019年時点の実施者比率が8.4%(総務省「令和元年通信利用動向調査」)、ビフォーコロナとの比較でいうと、テレワーク実施者は約3倍に増えたとみることができるでしょう。
「おうち時間」が増えたことで、お金のことや資産計画について、じっくり考えることができ、これまでは時間がなくて後回しにしていたけれども、「今ならできる!」と資産形成へのアクションを起こした結果が、前述のNISA口座開設数の増加につながっていると考えられます。
資産形成に向けた動きが活発化した背景の三つ目としては、オンライン社会への秒速転換があげられるでしょう。
新型コロナ感染拡大防止のポイントは「接触を避ける」ことでしたから、あらゆる場面でオンライン化が急速に進みました。テレワークを筆頭に、学校の授業から、企業の営業活動や採用活動、会議やセミナー、イベント、飲み会まで、様々な分野において実施されました。
オンライン社会への急速な転換は、新型コロナショックが世の中にもたらした最も大きな変化の一つでしょう。この転換の恩恵を受けやすいのは、オンラインリテラシーが相対的に高い若い世代ではないでしょうか。この点について、次回「新型コロナショックは、資産形成の追い風?逆風?その3」で具体的なデータをみながら掘り下げていきます。
【第23回】新型コロナショックと資産形成②
2021.04.08
2020年は、新型コロナウイルス感染症の流行により、私たちの生活が一変した年でした。感染拡大防止のポイントは「接触を避ける」こと。これにより、テレワークを筆頭に、学校の授業から、企業の営業活動や採用活動、会議やセミナー、イベント、飲み会まで、様々な分野においてオンライン化が急速に進んだ年だったと思います。
資産形成や金融行動に関係するところでは、オンラインセミナーの急増や、オンラインでの資産運用相談、リモートでの手続きの充実などが一般化してきました。給付金10万円も支給されましたが、思わぬ臨時収入?で、資産運用を始められた方も多いかもしれません。
そんな世の中の変化や家計行動をヒントに、新型コロナショックが資産形成にどんな影響を与えたのか、追い風になっているのか、はたまた逆風になっているのかをみていきましょう。
新型コロナショック下、家計は総じて財布のひもを引き締め気味でした。「一律10万円の給付金が消費に回り、経済が活性化する」という政府の期待通りには進んでいないことが、図表1から分かります。
家計の収入は、2017年なかば以降、一貫して前年の同じ月を上回ってきました。さらに、2020年5月~7月にかけては、給付金支給の影響で10~15%の大幅プラスになっています。
一方で、消費支出は、3月~9月まで7ヶ月連続で前年同月を下回りました。食料品や調理家電、ゲーム類、テレワーク製品など、巣ごもり関連消費の伸びはみられたのですが、レジャーや外食など外出を伴う消費の減少がそれ以上に大きいものでした。先行き不安だから…との思いから、節約志向や消費抑制マインドが働いたことも影響しているのでしょう。
消費の伸びが、収入の伸びを下回る傾向は、2019年10月頃から続いていましたが、新型コロナショックの影響で両者のギャップは一層拡大しました。
消費控えの裏返しで、家計の貯蓄率(預貯金、保険、有価証券の純増額合計が可処分所得に占める比率)は、例年よりかなり高い水準で推移しました。
例えば5月は、賞与支給の手前に大型連休で支出が増加するため、通常は1年のうちで最も貯蓄率が低く、プラスになること自体珍しいのですが、2020年5月は24.9%の大幅プラスとなりました。また、6月は、サラリーマンにとって賞与月であることもあり、例年貯蓄率は40%前後まで上がるのですが、2020年6月はこれをはるかに上回る62.4%となり、6月としては過去最高を記録しました<図表2>。
この結果、特に意識して貯蓄に励んだわけではないけれども、結果として家計貯蓄が増加するという「意図せざる貯蓄増加」が発生しました。
貯蓄増加の主体は「普通預金口座に振り込まれたものの、使われずに残った給付金」で、日本銀行の「資金循環統計」の中では「流動性預金」というものの増加として表れます。データを確認すると、2020年6月末の流動性預金残高は、前期比で30兆円増加し、初めて500兆円を突破しました。金融資産全体に占める流動性預金の比率も、過去最高を更新し、3割に迫る勢いになっています。超低金利環境の継続により、ずいぶん前から「定期性預金(≒定期預金や定額貯金)から流動性預金(≒普通預金や通常貯金)へ」の資金シフトは続いていましたが、2020年3月末~6月末にかけては、定期性預金の減少は僅かで、純粋に流動性預金が急増しています。この点からも、「消費を控えた分が普通預金口座に残った」ことによる意図せざる貯蓄(流動性預金)の増加が確認できます。
新型コロナショック下における家計貯蓄の増加は、主として、消費抑制の結果としての流動性預金の積み上がりによるものでしたが、一部では資産形成・資産運用を意識した資金の動きも見られています。
どんなところから、その傾向がみてとれるのか、続きは次回「新型コロナショックは、資産形成の追い風?逆風?その2」でみていきましょう。
【第22回】新型コロナショックと資産形成①
2021.04.01
2021.03.31
結論から申し上げますと、私自身は、「資産形成」のための「金融リテラシー」としては「投資、生命保険、損害保険」を3点セットで考える必要があり、決して“別ジャンル”のものではないと考えています。
確かに「投資」というと「儲かりそうなものを見つけて投資して、タイミングよく売却するもの」という印象が強いと思います。「投資」の世界は幅が広く奥も深いですし、金融機関や企業年金のような「機関投資家」や「(伝説の)相場師」のようなプロフェッショナルとしての「投資」もあれば、そこまでは徹底していなくても、自ら調査・研究して趣味として楽しむような「投資」もあります。
「保険と資産形成①」で、「予測しやすい事態」(住宅購入の頭金、教育費など)には「貯蓄」や「積立型の投資」がマッチしているというお話しましたが、ここでいう「投資」は、プロフェッショナルとしての「投資」や趣味としての「投資」とは違った、マネープランとしての「投資」ともいえるものであると考えています。
マネープランとしての「投資」は「長期、積立、分散」に代表されるように、将来のキャッシュフローも含めて「積立計画」に基づき実践していくものです。計画どおりの積立投資ができるかには「投資実績(利回り)」も重要ですが、それだけではなく「将来も計画どおり積立資金を捻出できるか」、「それまでに貯めた資金を想定外のイベントで支出するようなことにならないか」いうこともとても大切です。前者であれば「病気やケガで働けなくならないか」(主に生命保険で対応)、後者であれば「地震、火事、事故などで、想定外の支出が発生しないか」(主に損害保険で対応)、といったリスクに「備える」ことが重要になるということです。
このように考えると、マネープランとしての「投資」を実践していくためには、「(マネープランとして)投資、生命保険、損害保険」の3つが密接不可分で、一人一人のライフサイクルに応じて発生する「予測しやすい事態」と「予測しづらい事態」の両方に備えていくことが「資産形成のために必要な金融リテラシー」のエッセンスであるといえます。
ビジネス(経営)に必要な要素として「ひと、もの、かね」という言い方をされることが多いですが、個人のマネープランにおいても「ひと、もの、かね」をそれぞれ有効活用またはリスクヘッジすることが重要です。そう考えると「かね」である金融資産にシッカリ働いてもらうこと(マネープランとしての「投資」)は言うまでもないですが、収益を稼ぎ出す「ひと」という資産には「生命保険」で保障をかける必要がありますし、物理的な資産である「もの」、すなわち、住宅、家財、自動車などについては「損害保険」でリスクヘッジする必要があるということになります。
3回シリーズにお付き合いをいただいた皆さま(人生の経営者である皆さま)のよりよい「マネープランの実践」を願いつつ、「保険と資産形成」の最終回とさせていただきます。
プロフィール紹介
三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【第21回】保険と資産形成③
2021.03.22
前回のコラムでお話しましたが、昨今は保険の種類も多様化してきています。しかし、「対象とできる」ことと「上手に活用する」とは同じではありません。起こりうるすべてのリスクに保険で備えを講じようと思えばできるかも知れませんが、その際の「保険料」などの費用面を考えると現実的ではないとお伝えしました。具体的には、保険で「カバーしたいリスク」と「そのリスクに相応しい商品」をイメージしていただくことが、ライフイベントにあった保険商品・サービスと出会う近道になります。
今回は、「保険でカバーすべきリスク」とはどんなリスクなのか、お話したいと思います。
図表1にイメージをまとめています。横軸に発生確率を、縦軸に経済的負担の大きさをとって、ライフイベントとして生じてくるリスクの種類をプロットしてみました。こうしてみると、「発生確率は低いけれど発生した際の経済的負担が大きくなるものほど、確りと保険で備える必要がある」といえます。
このイメージを念頭に、個人の主なライフイベントにおけるカバーすべきリスクについて、図表2にまとめてみました。
「発生が予測できない」カテゴリーの中で、経済的な負担や必要な費用が高額になるイベントが「保険」の特性が活かせるイベントだといえます。「世帯主が急に死亡された場合」や「世帯主が(怪我や病気で)仕事が続けられなくなった場合」「火災や風水害、交通事故が発生した場合」などが典型的ですが、こういったケースに備えて「定期保険」「収入保障保険」「終身保険」「医療保険」「特定疾病保険」「火災保険・自動車保険」などを上手に活用していくことがスマートな保険の活用術といえます。保険を活用するイベントがイメージできたところで、必要な保障額はいくらか、その保険料コストは適切か、カバーするリスクに対しての保険の重複はないか、などを検討するとよいでしょう。
保険の検討や見直しの検討は、各世帯における「守る人」「守るもの」が変化した時(結婚する、子供が生まれた、家を購入した、車を購入した、など)がチェックいただくのに良いタイミングです。世帯構成の変化に応じて(たとえば、子供の独立に伴い夫婦2人の生活スタイルに移行など)、保険も組み替えや保障額の減額なども検証してみるとよいでしょう。
プロフィール紹介
三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【第20回】保険と資産形成②
2021.03.15
資産のミライ研究所では、同じ三井住友トラストグループの保険販売会社である三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社(以下、LP社)と情報交換や意見の交流を図っており、コラボセミナーなどを開催しています。今回は、『保険と資産形成』というテーマの中から、『ライフイベントにあわせた保険のスマートな活用法』について、LP社の井戸社長に登場いただきます。
ライフイベントにあわせた保険の活用を考える前に、まず、「保険」で備えることの意味を考えてみたいと思います。
「備える」という意味では「貯蓄」にも「保険」にも「準備する」という意味合いがあるように思いますが、その違いはどこにあるのでしょうか。大きく分けてみると、将来の「予測しやすい事態」には「貯蓄」や「積立型の投資」で、「予測しにくい事態」には「保険」で備えるのが事態の特性にあった活用方法だと考えています。
よく「貯蓄は三角、保険は四角」と呼ばれますが(図表1)、「貯蓄」は徐々に積み上げていく必要がありますが、「保険」はすぐに大きな保障が立ち上がりますので、特徴と活用イメージを端的にあらわしている言葉だといえます。
昨今は保険の種類も多様化してきていますので、各種保険が対象とする「個人の生活で起こりうるリスク」も拡がってきています。しかし、「対象とできる」ことと「上手に活用する」とは同じではありません。たとえば、起こりうるすべてのリスクに保険で備えを講じようと思えばできるかも知れませんが、その際の「保険料」などの費用面を考えると現実的ではないと思われます。
保険で「カバーしたいリスク」と「そのリスクに相応しい商品」をイメージしていただくことが、ライフイベントにあった保険商品・サービスと出会う近道といえます。
では、「保険でカバーすべきリスク」とはどんなリスクなのか、次回コラムでお話したいと思います。
プロフィール紹介
三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん
1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。
【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)
【第19回】保険と資産形成①
2021.03.08
2021.02.28
「住宅ローンと資産形成」シリーズの最終回です。ポイントを振り返り、「ローンを返済しながら資産形成も進んでいる人」の人物像をおさらいしたいと思います。
住まいと住宅ローンの保有状況によって、資産形成の進み方に差は出るのでしょうか?アンケート回答者を、「持家/ローンあり世帯」「持家/ローン返済済み世帯」「持家/ローンなし世帯」「借家・親と同居/ローンなし世帯」の4つのグループに分け、各グループの金融資産が年齢とともにどのように積み上がっていくかをみてみました。結果が図表1です。
40歳代あたりから、世帯あたりの金融資産保有額の差がぐんぐん広がり始め、60歳代では持家/ローン返済済み世帯(図表1の)と持家/ローンなし世帯(同
)が2,000万円強、持家/ローンあり世帯(同
)と借家・同居/ローンなし世帯(同
)が1,000万円前後となっています。持家と住宅ローンの有無によって、老後生活の入り口付近では、家計の金融資産保有額に2倍もの開きが生じるわけです。
20歳代~60歳代にかけての金融資産の増加額が4つのグループの中で最も少なかったのは、持家/ローンあり世帯です(図表1の)。家という資産は手に入れたにせよ、金融資産に関しては40年間で510万円しか増やすことができず、「金融」資産形成は最も進まなかった世帯といえます。
この理由を最もシンプルに考えれば、住宅ローン返済というプラスアルファの出費があるので、資産形成に回せるお金がなかった(少なかった)ということでしょう。「ローン返済が足かせとなって資産形成が進まない」という「住宅ローン足かせ説」です。
一方で、単純に「足かせ」と片付けてよいのかな?と思いたくなる材料もあります。
実は、持家/ローンあり世帯の平均世帯年収は775万円と4つのグループ中最高で、年間ローン返済額137万円(アンケート結果より算出した平均金額です)を差し引いても639万円と、持家/ローン返済済み世帯の平均年収732万円に次ぐ水準になっているのです(図表2の)。
60歳代時点の金融資産保有額が2,000万円を超えているローン返済済み世帯や持家/ローンなし世帯の年収との比較感からすれば、持家/ローンあり世帯には資産形成にむけた「余力」がもう少しあってもよさそうな気がします。
となると、「住宅ローン返済で余裕がないから資産形成できなくて当たり前」「あまり進まなくてもしょうがない」といった思い込みや諦め、あるいは言い訳できるという気の緩みが資産形成の進捗を鈍らせている可能性もなきにしもあらず。持家/ローンあり世帯の資産形成が伸び悩むもう一つの理由=「住宅ローン言い訳説」の浮上です。
「足かせ説」か、「言い訳説」か、、、白黒はっきりつける必要はないと思いますが、「言い訳説」を持ち出されてドキッとする住宅ローン保有者が多いとすれば、世界の中心で「mottainai!!」と叫びたいです(自分のことは棚の上段)。
前出の4つのグループ別に資産形成に取り組んでいる世帯(※)の比率をみると、持家/ローンあり世帯が約8割と最も高くなっていました。(図表3の左端)
住宅ローン保有者には、返済に追われて資産形成にまで気が回らない人や、返済中だから資産形成できなくてもしょうがないと諦めている人が多いはず–というのは外野の勝手な思い込み。5人中4人は、返済と並行して資産形成のために何かしらのアクションを起こしているのです。
※「定期・不定期を問わず、過去1年間に下記【 】内の資産形成に向けた取り組み(保有)を行っているか」をたずね、1つ以上行っていれば「取り組みを実施している」とした。【国内預金、財形・社内預金、生命保険、日本国債・地方債、外貨預金、FX、投資信託、社員持ち株会、株式投資、不動産投資、暗号資産、商品先物取引、その他】
ただし、資産形成に取り組む人の比率が高いことと、実際に1人1人の資産形成が進んでいることはまた別の話のようで、持家/ローンあり世帯が1年間に資産形成できている金額はあまり多くありませんでした。
持家/ローンありで資産形成に取り組んでいる世帯の年間資産形成額の分布をみると、半数が50万円未満で、うち1割は差し引きゼロ(資産形成に向けた取り組みはしたが、事後的に引き出したり運用でマイナスになったりして結局トントンというケース)となっています。平均金額でみても年間91万円と、ローン返済済み世帯の137万円や持家/ローンなし世帯の127万円と比べかなり見劣りします。(図表3)
「足かせ説」ゆえか「言い訳説」ゆえかはさておき、持家/ローンあり世帯の資産形成の現状は、総じてみれば「やる気はあれど結果はいまひとつ」ということになるでしょう。
もちろん、住宅ローンを返済しながら資産形成も進んでいる人が皆無というわけではありません(図表3のグラフ右端の方の人たち)。例えば、1年間に200万円以上資産形成できた世帯は持家/ローンあり世帯全体の1割弱で、うち約5%は年間500万円以上金融資産を蓄積したとのこと(何者だ?!)。
最後に、こうした人たちの人物像をまとめてみました(図表4)。
● 家計面の努力や工夫をしている
家計面の工夫や努力をすれば、それなりに報われる、資産形成にプラスに働くことは間違いありません。
ただし、どんな工夫・努力をするかにより効果には濃淡があって、節約したり共働きにする(該当世帯の平均金融資産保有額は600万円台)よりは、ポイントやマイルを活用したり家計簿をつける(同800万円台)方が効果的だし、ふるさと納税や住宅ローンの見直しができれば更に良いようです。
<詳しくは⇒シリーズ⑧「ローンを返済しながら資産形成している人は家計面でどんな工夫・努力をしている?」>
● 金融リテラシーが高い
金融・経済情報を見る頻度が上がれば上がるほど、金融・経済用語をよく知っていれば知っているほど、資産形成が進む傾向がみられました。
例えば、金融・経済情報を見る頻度が「ほぼ毎日」の人の金融資産保有額は1,191万円で、「1ヶ月に1回以下」の人の保有額457万円のなんと2.6倍です。
<詳しくは⇒シリーズ⑪「ローンを返済しながら資産形成している人の金融リテラシーの状況は?」>
● NISA、DC、iDeCoなどの優遇制度を利用している
金融リテラシーとお金の貯まり具合には密接な関係がありましたが、知識や情報を持っているだけではなく実際にアクションを起こしているかどうかも資産形成の進捗を大きく左右するようです。
資産形成のための優遇制度を何も利用していない人の金融資産保有額は622万円なのに対し、NISAやiDeCo利用者の保有額は1,300万円~1,400万円台と、2倍以上の差がつきました。
<詳しくは⇒シリーズ⑪「ローンを返済しながら資産形成している人の金融リテラシーの状況は?」>
● 夫婦の経済的力関係が対等
夫婦の経済的な力関係(ここでは2人の「年収」を比較しました)が「夫=妻」の世帯の金融資産保有額は1,140万円であるのに対し、「夫>妻」の世帯と「夫<妻」の世帯の保有額はともに700万円台前半でした。実現できるかは別として、ローンを返済しながら資産形成も着々と進めるためには、経済的な力関係が対等な夫婦がベストかもしれません。
<詳しくは⇒シリーズ⑬「ローンを返済しながら資産形成している夫婦の経済的な力関係や家計管理はどうなっている?」>
● 家計管理は「夫主導」か「別々」
家計の管理については、夫が主導 もしくは夫婦別々に管理にしている世帯(該当世帯の平均金融資産保有額は850万円~950万円)が、夫婦で半々の世帯(同800万円弱)や妻が主導している世帯(同600万円前後)と比べ資産形成が進みやすいようです。
<詳しくは⇒シリーズ⑬「ローンを返済しながら資産形成している夫婦の経済的な力関係や家計管理はどうなっている?」>
こうして資産形成が進んでいる人の特徴をおさらいすると、「ポイ活に力を入れる」とか、「家計簿をつける」とか、「こまめに金融経済情報を見る」など、そんなに難しいことをやっているわけではなさそうです。(「夫婦の経済的力関係を対等にする」のだけは、さすがにおいそれとはできないかもしれませんが…)
コロナ禍の影響で図らずも得ることができた時間的なゆとり(おうち時間)や、劇的に増えたオンラインセミナー、オンライン相談会なども味方にして、1人1人がちょっとした家計面の工夫や金融リテラシーの向上に取り組めば、2021年は日本の家計にとって「資産形成体質」に変わるチャンスの年となるかもしれません。
【第18回】住宅ローンと資産形成⑭
2021.02.26
今回は、既婚者に絞った分析結果をお伝えします。住宅ローンを返済しながら資産形成をしている夫婦の「経済的な力関係」はどうなっているのか、家計を管理しているのは誰か、そして、実際に資産形成が進んでいるのはどちらの力が強くて、誰が家計管理をしている夫婦なのか。
既婚者の皆様はご自身のご家庭と比べながら、シングルの方もお知り合いご夫婦を思い浮かべながらお読みいただければ幸いです。
※資産のミライ研究所で実施したアンケートでは、既婚/未婚について①「結婚している・パートナーがいる」、②「独身である(未婚・離婚・死別)」の2択でお答えいただいており、本レポート内の「既婚者」に関する分析結果は、①のデータを用いたものです。
夫婦の経済的な力関係をどう計るかは難しい問題ですが、ここでは「年収」という客観的な数字を使うことにします。
住宅ローンを保有する既婚世帯の夫と妻の年収を比較し、夫の年収の方が妻の年収より多い場合を経済的な力関係が「夫>妻」、夫婦の年収が同じ場合を「夫=妻」、妻の年収の方が夫の年収より多い場合を「夫<妻」として集計したところ、「夫>妻」の世帯が全体の85%と大半を占め、「夫=妻」の世帯が6.6%、「夫<妻」の世帯が8.5%という結果になりました。(図表1)
夫婦の経済的な力関係別に金融資産の保有状況をみると、「夫=妻」の世帯が抜群に良好でした。平均保有額は1,140万円と全体平均の約1.5倍で、およそ15%の世帯が住宅ローンを返済しながら2,000万円以上の金融資産を保有しており(図表2の)、5,000万円以上保有する世帯も4.2%に上ります。
一方、経済的な力関係が「夫>妻」の世帯と「夫<妻」の世帯の平均金融資産保有額は、それぞれ745万円、728万円で、いずれも住宅ローンを保有する既婚世帯の平均である769万円を下回っています。また、「夫<妻」の世帯では、6世帯に1世帯(16.7%)が保有額ゼロ、つまり金融資産を持っていません(図表2の)。
ちなみに、住宅ローンを返済済みの世帯や借家住まいでローンを借りていない世帯も含めた既婚世帯全体で集計すると、「夫>妻」の世帯が8割を占め平均金融資産保有額は1,043万円、「夫=妻」の世帯は6%で同1,143万円、「夫<妻」の世帯は15%で同973万円(全体の平均保有額は1,038万円)という結果でした。保有額のトップが「夫=妻」世帯であることには変わりありませんが、住宅ローン保有世帯の時のような大差はつきませんでした。
今回の結果をみると、住宅ローンという足かせがないのならともかく、ローン返済と資産形成を両立させようと思ったら、「二人でガンガン稼ぐ経済的な力関係が対等な夫婦」を目指すのが一番かもしれません。ただ、この「夫=妻」グループは、現状は6.6%と少数派であり、「そうカンタンに言ってくれるなヨ」という声が聞こえてきそうではありますが。。。
続いて、住宅ローンを保有する既婚世帯に対して、「誰が家計管理を行っているか」をたずねたところ、ざっくり、「夫主導(「夫のみが管理」+「主に夫が管理するが妻も若干関わる」)」が3割、「妻主導(「妻のみが管理」+「主に妻が管理するが夫も若干関わる」)」が5割、「夫婦で半々」が1割、「夫婦別々」が1割弱となりました。(図表3)
家計管理者別に金融資産の保有状況をみると、「妻主導」で管理する世帯より、「夫主導」で管理するか、「夫婦別々」に管理する世帯の方が資産形成が進む傾向が見られました。(図表4)
「夫のみが管理」「主に夫が管理するが妻も若干関わる」「夫婦で別々に管理」のいずれの世帯も、金融資産の平均保有額は住宅ローンを保有する既婚世帯の平均を上回っており(860万円~930万円)、住宅ローンを返済しつつ2,000万円以上の金融資産を蓄積している世帯の比率も1割を超えています(図表4の)。
逆に、最も金融資産の保有状況が芳しくなかったのは、「妻のみが管理」している世帯で、平均金融資産保有額は600万円に満たず、5世帯に1世帯(20.7%)は保有額ゼロでした(図表4の)。
もっとも、住宅ローンの有無に関係なく既婚世帯全体で集計した場合は、誰が家計管理をしていても平均金融資産保有額は900万円~1,000万円でほぼ横並びでしたので、お金が貯まる家計管理は「夫主導」か「夫婦別々」、できれば避けたい「妻任せ」—というのは、あくまでも「ローンを返済しながら」という条件付きの話ということになります。
【第17回】住宅ローンと資産形成⑬
2021.02.10
2021.02.01
今回は、資産形成をしている夫婦の力関係などについてご報告する予定でしたが、前回の「ローンを返済しながら資産形成している人の金融リテラシーの状況は?」の中に出てきた「金融リテラシーポイント※」について、「回答者の平均点はどれくらいだったの?」「“マイナス金利政策” とか“リバモゲ(リバースモーゲージ)”を知っている人ってどれぐらいいたの?」「認知度が高かったのはどの言葉?」といったご質問をいただきましたので、寄り道させて頂きます。
※金融リテラシーポイント‥‥下記【 】内の10個の金融・経済用語について、「言葉を聞いたことがない」→0ポイント、「言葉は聞いたことがあるが、内容はよくわからない」→1ポイント、「内容までおおよそわかる」→2ポイントとし、10の用語のポイントの合計を金融リテラシーポイントとした。全ての用語について「内容までおおよそわかる」場合が満点の20ポイントとなる。
【「マイナス金利政策」「インフレ/デフレ」「キャッシュレス決済、キャッシュレス還元」「SDGs」「老後資金2000万円問題」「リバースモーゲージ」「プライマリーバランス」「可処分所得」「プライベートバンキング」「TPP」】
まず平均点から。今回のアンケート調査では、10個全ての金融・経済用語について「内容までおおよそわかる」場合が満点の20ポイントとなりますが、回答者全員の平均点はこの約半分、9.8ポイントでした。
ポイント別の分布をみると、最も多かったのは7ポイントの人で(全体の9.1%)、ここを頂上とした山型の分布になっていました(図表1)。
全体の約5割が5~10ポイントレンジに集中しており、15ポイント以上は2割弱。この上位2割弱の人たちは、相対評価で「金融リテラシー優等生」と言えるでしょう。ちなみに、満点の20ポイントの人は2.7%、0ポイントの人は1.4%でした。
続いて、個々の用語についての認知度/理解度をみてみましょう。各用語の認知度/理解度別の構成比と平均ポイント(0ポイント~2ポイントの間になります)をまとめたものが図表2です。
構成比、平均点のどちらからみても、今回たずねた10の金融・経済用語の中で最もよく知られているポピュラーワードは「キャッシュレス決済・還元」で、およそ8割の人が「内容までおおよそわかる」と回答し、平均点は1.8ポイントでした(図表2-①)。
これに続くのは、「老後資金2000万円問題」(「内容までおおよそわかる」人が6割弱、平均点が1.5ポイント)と「インフレ/デフレ」(「内容までおおよそわかる」人が5割強、平均点は同じく1.5ポイント)ですが、「キャッシュレス決済・還元」との間にはだいぶ差があります(図表2-②)。
「キャッシュレス決済・還元」の強さ(?)のヒミツは、ほぼ全ての人にとって、他の用語と比べるとずっと身近で、しかも「おトク系」の言葉である点にあるのではないでしょうか。また、本アンケート調査の実施時期が2020年1月で、前年10月の消費税引き上げのタイミングで導入された「キャッシュレス・ポイント還元制度」がちょうど浸透・定着してきた頃だったことも影響しているかもしれません。
反対に、認知度/理解度が低かった金融・経済用語をみると、「SDGs」と「リバースモーゲージ」がワースト2で、「内容までわかる」人は1割にとどまり、「言葉を聞いたことがない」人が7割前後、平均点は0.4ポイントでした(図表2-③)。「プライマリーバランス」と「プライベートバンキング」も、「言葉を聞いたことがない」人が6割弱を占め、世間一般にはまだあまり知られていないようです(図表2-④)。
特徴的だったのが「マイナス金利政策」で、「言葉は聞いたことがあるが、内容はよくわからない」が5割超と際立って多くなっていました(図表2-⑤)。確かに、日ごろよく見聞きする言葉ではありますが(ちなみに2019~2020年の全国紙+日経新聞への登場回数は619回で、「2000万円問題」の約3倍)、正確に説明できる人は意外と少ない気がします。
最後に、年齢による金融・経済用語の認知度/理解度の違いをみてみます。
初めに書いたとおり、回答者全体の金融リテラシーポイントの平均は9.8ポイントでしたが、年齢別では高齢になるほど平均点が上がり、20歳代の8.4ポイントから60歳代の11.4ポイントまで3ポイントの開きがありました(図表3の最下段)。
一般に金融リテラシーは年をとるにつれて高くなると言われていますが、今回のアンケート結果もこの通説に沿うものだったわけです。
用語別にばらしてみても、年齢が上がるにつれ「内容までおおよそわかる」人の比率が高まる傾向がみられました。
ただ、年齢による認知度/理解度の「差のつき具合」は、用語によって違っていました。
例えば、「キャッシュレス決済・還元」と「SDGs」と「TPP」は認知度/理解度の年齢差が比較的小さく(図表3の)、しかも、「SDGs」に限っては、10の用語の中で唯一若年層の方が認知度/理解度が高くなっていました(図表3の
)。「若者はSDGsへの関心・意識が高い」と言われていますが、まさにそれを裏付ける結果です。
他にも、「リバースモーゲージ」を「内容までおおよそわかる」人の比率は、30歳代までは5%台だったのが40歳代で9%、50歳代で13%まで上がるのは、自分の家のこととして考えるのはまだ早いけれど、親の家がリバモゲ適齢期に入ったと考えれば納得できる等、色々想像しながらみていくとちょっと面白かったです。
【第16回】住宅ローンと資産形成⑫《寄り道コラム》
2021.01.29
新型コロナショックが資産形成にどんな影響を与えているかについてまとめました。ポイントは以下の4つです。
・「守り」の家計行動で意図せざる貯蓄増加が発生
・一部では資産形成を意識した資金移動の兆しも
・背景には新型コロナによる社会的変化が
・地味に進んでいた資産形成のための制度整備も貢献
ぜひご覧ください。
レポート
2021.01.08
2021.01.08
2020.12.17
「おひとり様」をテーマとした寄り道コラムが2回続きましたが、本シリーズのメインテーマである「住宅ローンと資産形成」に戻ります。
今回は、資産形成を進めるうえでの必要性・重要性がしばしば指摘される「金融リテラシー」を取り上げます。アンケート調査の結果をもとに、①金融・経済情報の入手頻度、②金融・経済用語の認識度・理解度、③実際の知識や情報の活用度–の3つの面から、住宅ローンを返しながら資産形成を進めている人の金融リテラシーの実情をみてみました。
初めに、金融・経済情報を入手する頻度について。アンケートで、「マスコミやインターネットなどを通じて、金融・経済情報をどのくらいの頻度で見ているか」を4択で回答してもらったところ、住宅ローン保有者全体の1/4が「ほぼ毎日」、2割強が「週に1回程度」、1割強が「月に1回程度」、4割弱が「月に1回より少ない頻度」という結果でした。(図表1)
情報入手の頻度別に金融資産の保有状況をみると、情報を「ほぼ毎日」見るグループでは、金融資産保有額が5,000万円以上の比率が4.9%と相対的にみてかなり高く、保有額がゼロ、つまり金融資産を持っていない人の比率は8.1%と全体平均の半分、そして平均保有額は1,200万円弱と群を抜いて高くなっていました。(図表2)
情報の入手頻度が下がるにつれ、保有額ゼロの比率が上昇、平均保有額は低下してゆき、「月に1回より少ない頻度」で金融・経済情報を見るグループでは、4人に1人以上(26.3%)が保有額ゼロ、平均保有額は457万円で、「ほぼ毎日」見るグループとは2倍以上の差がついています。(図表2)
切り口を逆にして、金融資産の保有額別に金融・経済情報の入手頻度をみたものが図表3です。保有額が300万円未満の層では「ほぼ毎日」が17.7%で「月に1回より少ない」が49.3%、300万円~1,500万円の層では「ほぼ毎日」が27.6%で「月に1回より少ない」が31.9%、1,500万円以上の層では「ほぼ毎日」が45.6%で「月に1回より少ない」が19.7%となっており、図表2同様、同じ住宅ローン保有者なら、情報入手頻度が高い人の方が低い人より金融資産保有額が大きい(≒資産形成が進んでいる)ことがクリアに出ました。
続いて、金融・経済用語の認識度・理解度が資産形成の進み具合と関係しているかをみてみます。
10個の金融・経済用語(→※)について、「言葉を聞いたことがない」、「言葉は聞いたことがあるが、内容はよくわからない」、「内容までおおよそわかる」の3択で回答してもらい、結果をポイント化し(認識度・理解度が低い順に0ポイント、1ポイント、2ポイントとしました)、10の用語の合計ポイントを「金融リテラシーポイント」としました。全ての用語について「内容までおおよそわかる」場合が満点の20ポイントです。
※「マイナス金利政策」「インフレ/デフレ」「キャッシュレス決済、キャッシュレス還元」「SDGs」「老後資金2000万円問題」「リバースモーゲージ」「プライマリーバランス」「可処分所得」「プライベートバンキング」「TPP」
金融リテラシーポイント別に金融資産の保有状況をみると、多少の凸凹はありますが、高ポイント、つまり金融・経済用語をよく知っている人ほど金融資産保有額が高い層の比率が高く、平均保有額も大きくなっていました。(図表4)
金融・経済用語の理解度が最も高い層(金融リテラシーポイントが満点の20ポイントだったグループ)では、保有額5,000万円以上が1割以上を占め、保有額300万円未満は2割以下に留まります。一方、金融・経済用語をほとんど知らない層(リテラシーポイントが0~2ポイント)では金融資産を2,000万円以上保有する人は皆無で、300万円未満の人が6~8割、うち4割前後は保有額ゼロでした。
平均保有額は、リテラシーポイントが20ポイントの層では2,033万円と2,000万円を超えているのに対し、0ポイントの層では322万円と、実に6倍以上の開きがありました。
以上、わかりやすいのでリテラシーポイントが高い層と低い層の両端を比較しましたが、間の層についても、ポイントが高くなれば金融資産保有額も確実に増え、特に17ポイント以上になると平均保有額は一気に1,300万円を超えていました。
金融経済の知識や情報をただ持っているだけでなく、実際に資産形成に向けて活用できているかも、広い意味では「金融リテラシー」と捉えることができるでしょう。アンケートでは、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった「資産形成のための優遇制度の利用」についてもお答えいただいていますので、これを「金融リテラシー/実践編」としてみてみました。
アンケート結果によると、住宅ローン保有者が相対的によく利用している優遇制度はNISAと企業型DC(確定拠出年金)で、それぞれ2割弱の人が利用、つみたてNISAとiDeCoは1割弱が利用しています。また、いずれの制度も利用していない人は6割弱でした。
各制度の利用者別に金融資産の保有状況をみると、高額保有層の比率が最も高く平均保有額も大きいのはジュニアNISAの利用者で、以下、NISA利用者、iDeCo利用者と続きます。「毎月」で「少額投資」という制度の特性が似ているつみたてNISAと企業型DCの利用者の資産の貯まり具合はほぼ互角で4位タイ。
いずれの優遇制度も利用していない人は、7人に1人(14.4%)が保有額がゼロで、平均保有額も622万円とダントツで低くなっていました。逆に、制度の種類を問わずいずれかの優遇制度を利用している人においては、金融資産保有額がゼロの比率は全体平均(10.4%)を大きく下回り、平均保有金額は全体平均を大きく上回っていました。(図表5)
こうした結果をみると、知識や情報をもとにアクションを起こせば、結果(資産形成の成果)はついてくることが明らかです。NISAでもiDeCoでも、「使わにゃ損損」は言い過ぎかもしれませんが、いずれの制度も利用していない人が6割もいるというのは実にもったいない話。
ただ、裏を返せば、金融リテラシーを高めていく中で、こうした優遇制度の情報をキャッチし、理解を深め、実際に利用することによって、ローン返済や資産形成が進む可能性がある人が相当数いるということでもあるのでしょう。
金融・経済情報の入手頻度、金融・経済用語の認識度・理解度、知識や情報の活用度のどの面からみても、同じ住宅ローン保有者なら金融リテラシーが高い方が資産形成が進みやすいことは間違いなさそうです。
でも、「こんなに差がつくのか、こりゃ何としても金融リテラシーを高めなければ!」などと肩に力を入れるのも疲れますよね。
幸いなことに(と、あえて書いてしまいますが)、今回のコロナショックは金融リテラシーを高めるうえではなかなか「良い仕事」をしてくれています。
まず、ウェブ形式の各種セミナーや講演会が急増しています。わざわざ出掛けるとなると億劫、挙手して質問するのはちょっと、、、という人でも、ウェブなら気軽に参加できます。
また、テレワークにより時間的なゆとりを感じられるようになった方、家族と過ごす時間が増えた方も多いのではないでしょうか。朝ごはんのあとの5分10分に経済ニュースをチェックするクセをつける、家族と「SDGsって何の略か知ってる?」など金融・経済用語クイズを出し合ってみる、そんな小さなことも、金融リテラシーのアップにつながっていくのだと思います。
やる気スイッチが入った方のために、金融・経済や資産形成のことを学べる代表的なWEBサイトをご紹介しておきます。いくつか覗いてみて、自分とそりが合う情報源を選ばれるのもよいのでは。
【第15回】住宅ローンと資産形成⑪
2020.12.17
2020.12.11
2020.12.01
おひとり様の資産形成の現状をみる2回目です。前回は、独身男女の金融資金保有額が年齢とともにどのように推移し、資産格差がどのように変化するかをみました。今回は、実際の資産形成行動について、アンケート調査の結果もとにご報告します。
資産形成に取り組んでいるおひとり様の比率は、男女ともに65%前後と大差はありませんでした。(図表1)
既婚者の同比率は男性が75.2%、女性が72.2%なので、おひとり様は既婚者と比べると資産形成に取り組む人がやや少ないといえます。「人間、身を固めるとそれなりに蓄えについて考えるようになる」という定説(?)を裏付ける結果です。
話を「おひとり様」に戻しますと、資産形成に取り組む人の比率は男女ほぼ同じなのに、最終的に60歳代時点の平均金融資産保有額は独身女性の方がかなり高くなっている(男性1,163万円、女性1,410万円、シリーズ⑨図表1ご参照)という点が、ちょっと引っかかります。
ひとつの仮説として、一般的に、女性の方が男性よりも老後について(「老後について」に限らないのかもしれませんが)不安感を抱く人が多く、あえて「資産形成をしている」という自覚はなくても、常に無意識にちょこちょこ貯蓄しているという考え方もできそうです。
男女の不安感の違いについて、少し数字をご紹介しておきます。
こうした老後資金不安の強さから、「貯めておかねば」という潜在意識が芽生え、「隙あらば預金」が習慣になっている女性が少なくないのかもしれません。
ちなみに、男性より女性の方が老後に関する不安や心配が大きいのは、資金面に限った話ではないようです。各種調査をみると、健康や住まい、介護面から、いわゆる「終活」まで、おおよそ全てのジャンルで女性の方が「不安」と答える人が多いという結果でした。
(男女の意識差については、掘り下げれば色々面白いファクトが出てきそうなのですが、あまりのめりこむと本筋から外れて収集がつかなくなりそうなので、涙を呑んでこの辺に留めます。)
図表1でみたとおり、資産形成に取り組んでいるおひとり様の比率は男女ともに65%前後でほぼ同じでしたが、具体的な手立てには男女差が見られました。
まず、男女の違いがハッキリしているのが、資産形成におけるリスクテイク度。
資産形成の手立てとして株式や投資信託、外貨預金といったリスク資産を選択している人の比率は、定期/不定期を問わず独身男性の方が高くなっています(図表5の)。一般に男性の方がリスクをとる傾向にあると言われますが、この点はおひとり様の資産形成行動にも当てはまるようです。
もう1つの違いは、「不定期に(余裕がある時に)」国内預貯金を行っている人の比率です。
国内預貯金は、男女を問わずおひとり様の資産形成の具体策のダントツトップであり、「定期的に」国内預貯金をしている人の比率は男女全く同率の66.8%でした。
ただ、「不定期に」預貯金をしている人については、独身女性が2人に1人(50.3%)、独身男性は3人に1人強(37.4%)と差がありました(図表5)。先ほど、女性は相対的に老後資金に対する不安感が強く、「隙あらば預金」が習慣化しているのかもしれないと書きましたが、この仮説とも平仄の合う結果です。
他方、ボーナスなどが入った時にエステ、グルメ、ショッピングなどの「自分へのご褒美」消費に向かうのも、女性の行動特性としてよく知られるところ。預金派とご褒美派(消費派)とに別れるのだろうか?と思って何人かに聞き取り調査したところ、「全部は使わないよ~、貯金もするよ~」「ご褒美も預金も。比率はその時々で違う」とのお答え。(中には「御行のキャンペーン定期にも預けたよ」という声もありました。謝謝!)
ご褒美も預金も、そしてローンがある人は返済も‥‥おひとり様女性、なかなかしっかりされているようで。
【第14回】住宅ローンと資産形成⑩《寄り道コラム》
2020.11.13
2020.11.01
最近何かと話題の「おひとり様」。前回2015年の国勢調査で単身世帯(ひとり暮らしの世帯)が初めて全体の3分の1を超えたあたりから、その行動や思考に対する注目度も急速に上がっています。特に、おひとり様の老後の暮らし方や、その資金を確保するための資産形成については、おひとり様本人たちも「他の人はどうしているんだろう?」と大きな関心を持っているようです。
そこで今回と次回は、「住宅ローン」からは少し離れ、おひとり様の資産形成について、男女比較をしながら見てみたいと思います。
※三井住友トラスト・資産のミライ研究所で実施したアンケートでは、既婚/未婚について①「結婚している・パートナーがいる」、②「独身である(未婚・離婚・死別)」の2択でお答えいただいており、本レポート内の「独身」「おひとり様」に関する分析結果は、②とご回答いただいた男性2,669名、女性2,211名のデータを用いたものです。
まず、独身男女の金融資産保有額が年齢とともにどう変化していくかを見てみると、男性は、20歳代:291万円→60歳代:1,163万円と40年間で約870万円の増加、女性は同じく169万円→1,410万円と1,240万円の大幅増加となっていました(図表1)。
増加額もさることながら、増加のプロセスも男女で大きく異なっていました。
「今回のアンケート調査の結果によれば」という限定付きではありますが、着実に保有額を伸ばしているのは意外にも男性の方で、女性は40歳代でいったん減少、50歳代から60歳代にかけての10年間で800万円の急増という「山あり谷あり型」となっており、最終的には一気に男性の保有額を追い越します。
なぜ、独身女性の資産形成が50歳代以降に加速するのか。はっきりした理由は今回のアンケート結果からは見出せませんでした(独身女性の年収が50歳代以降に急増しているわけでもありませんでした)。
ただ、住宅を購入した女性が、若いうちはローンを返す(貯蓄を増やすよりも借金を減らす)ことを優先させ、返済完了後に貯蓄に本腰を入れている可能性はあるでしょう。実際、ローンを利用して住宅を購入した独身者のうち既に返済済みの人の比率をみると、40歳代では男性が33.9%、女性が31.9%とほぼ同じでしたが、50歳代になると男性55.4%、女性71.0%と、女性の返済完了者は一気に7割を超えます(図表2)。
ところで、おひとり様の老後資金必要額を、高齢単身世帯の家計収支を元に計算すると、だいたい1,500万円くらいになります(「老後資金2,000万円問題」の“2,000万円”は、夫婦2人世帯の必要額です)。アンケート回答者の60歳代時点の平均金融資産保有額は、前述のとおり独身男性が1,163万円、独身女性が1,410万円なので、女性は必要額まであと一息、男性は必要額到達がかなり難しいということになります。
続いて、独身男女の金融資産保有額別の分布をみると(本シリーズ①の時と同じく、「300万円未満」「300万円以上1,500万円未満」「1,500万円以上」の3つの層に分けました)、男性は年齢が上がるにつれ300万円未満の層が少しずつ減少、1,500万円以上の層が増加し、中間層の比率はあまり変わらないのに対し、女性は30歳代~50歳代の間は構成比がほとんど変化せず、60歳代になると300万円未満層と1,500万円以上層の両サイドが急激に膨らんで中間層が薄い形になっており、60歳代おひとり様女性の金融資産格差が大きいことが目につきます。(図表3)。
おひとり様女性は、60歳代時点で老後資金必要額1,500万円に近い額の金融資産を持っているので、老後の資金面の心配はそれほどしなくて大丈夫—と思いたいところですが、これはあくまでも平均値でみた場合の話。金融資産を1,500万円以上保有し、老後はひとまず安泰のおひとり様が4割弱いる一方で、保有額が300万円未満でうかうかしてはいられないおひとり様も4割強いるのです。
おひとり様男性については、金融資産格差は女性ほど大きくないものの、老後資金必要額である1,500万円をクリアできている人は3割に満たず、こちらはこちらで「資産形成待ったなし!」の人が大勢いると言えます。
では、今現在、資産形成に取り組んでいるおひとり様男女はどれぐらいいるのか、そして具体的にはどんな取り組みをしているのか。紙面が尽きてきましたのでこのあたりの話は次回に。
【第13回】住宅ローンと資産形成⑨《寄り道コラム》
2020.10.30
本シリーズ⑥で、持家/住宅ローンあり世帯の資産形成の現状は、総じてみれば「やる気はあれど結果はいまひとつ」と書きましたが、資産形成が進んでいる人が全くいないわけではありません。
例えば、持家/住宅ローンあり世帯の60歳代時点の金融資産保有額は、平均すると1,100万円で、老後資金として必要な目安である2,000万円に遠く及びませんが(シリーズ③図表2ご参照)、3,000万円以上保有する世帯も約1割あります。また、同じく、持家/住宅ローンありで資産形成に取り組んでいる人の年間資産形成額は、平均では91万円ですが、年に200万円以上資産形成できている人も約1割います(シリーズ⑥図表2ご参照)。
今回からは、そんな「住宅ローンがあっても資産形成が順調に進んでいる人」の特徴をさぐっていこうと思います。
まずは、家計面でどんな工夫や努力をしているかについて。
※資産のミライ研究所で実施したアンケートでは、「家計面で実施している具体的な工夫・努力」について、下記【 】内の14の選択肢から複数回答可でご回答いただきました。
【家計簿をつけている(アプリ利用含む)、食費の節約、衣服や嗜好品(酒・タバコほか)代の節約、光熱水費の節約、旅行・レジャー・趣味代の節約、生命保険・損害保険の見直し、住宅ローンの借り替え、住宅ローンの繰り上げ返済、片働きから共働きに変更、転職、副業・複業、ふるさと納税等(税制優遇措置を利用)、ポイントやマイレージの活用、特に何もしていない】
初めに、「持家/住宅ローンあり世帯全体」ではどのような家計面の工夫・努力を行う人が多いのか(実施率が高いのか)をみてみました。結果は図表1のTOTAL欄です。
トップは「ポイントやマイルの活用」で、回答者の4割が実施していました。最近は、「終活」や「婚活」と並び「ポイ活」という言葉も市民権を得た感がありますが、アンケートの結果をみればそれも納得です。
2位と3位は「節約(光熱水費の節約と食費の節約)」、4位が「家計簿をつける」で、いずれも3人に1人強が実施。5位は再び「節約(衣服、嗜好品代の節約)」で、4人に1人が実施しているという結果でした。
「ポイ活」「節約」「家計簿」が、令和時代の日本の家庭が行っている家計の工夫の3本柱と言えるでしょう。
なお、家計面の工夫・努力を「何もしていない」と回答したのは14.4%でおよそ7人に1人。1つの世帯が行っている工夫・努力の数は平均で2.8個した。
続いて、持家/住宅ローンあり世帯を、保有している金融資産の額により「300万円未満」「300万円~1,500万円未満」「1,500万円以上」の3つのグループに分け、各グループが行っている家計面の工夫・努力を比較しました。結果が図表1の右側3列です。
どの金額層のグループでも、トップはやはり「ポイントやマイルの活用」でした。ただし、実施率は、金融資産保有額300万円未満のグループでは35%、300万円~1,500万円未満と1,500万円以上のグループでは45%前後と、300万円ラインを境に差が出ました。
「ポイントやマイルの活用」を除くと、保有額300万円未満のグループでは、まずは日々の「節約」で、次に「家計簿」が来るのに対し、300万円以上の2グループでは「節約」より「家計簿」の方が上位になっています。
ちなみに、節約の中心は「衣・食・住(光熱水費)」で、食費と光熱水費の節約はどのグループでも30~35%前後が実施。家計簿については、金融資産保有額が大きいほど利用率が高く、保有額1,500万円以上のグループでは4割に達していました。
「特に何もしていない」人の比率は、保有額が300万円以上のグループでは1割前後なのに対し300万円未満のグループでは17.9%と高く、1つの世帯が実施している項目数は300万円以上のグループでは平均3.1個なのに対し300万円未満のグループでは平均2.6個と、ここでも300万円未満か以上かによる違いが明らかでした。
住宅ローンを返済しつつある程度の金融資産も保有できている(≒資産形成が進んでいる)人は、総じて家計面の工夫・努力を積極的に行う傾向にあり、特に「ポイ活」の実施率が高く、節約するよりは家計簿を利用する人が多い—といった特徴を持っているようです。
今度は、工夫・努力を7つのジャンルにくくり(例えば、各種の節約をまとめて「支出減」としました。詳細は図表2下の(注)をご参照)、各ジャンルの実施世帯の平均金融資産保有額をみてみました。
まず目につくのは、支出を減らす努力、収入を増やす努力をしている世帯の金融資産保有額は相対的に低く、600万円台に留まっているということ。食費や光熱水費を節約して支出を抑えたり、共働きにして収入を増やすよりも、家計簿をつけたりポイントやマイルを活用する方が資産形成につながりやすいという見方ができるかもしれません。
図表1でも、金融資産保有額が大きいグループでは節約をする人より家計簿をつける人の方が多く、ポイントやマイルを活用する人の比率も高いという結果が出ていましたので、少なくとも、節約よりはポイ活や家計簿利用の方が資産形成を推し進める力がありそうです。
保険の見直しや住宅ローンの見直し(借り換え・繰上げ返済)は、図表1の実施率トップ5入りは逃したものの、実施世帯の金融資産保有額は家計簿やポイ活と同じく800万円を超えていました。
本シリーズのメインテーマである「住宅ローン保有と資産形成」という観点からすると、住宅ローンは確かに資産形成の足かせではあるけれども、裏を返せば、住宅ローン保有者には、借り換えや繰り上げ返済をすることで、資産形成のギアチェンジをするチャンスがある(資産形成のスピードを上げるオプションを1つ余分に持っている)、そんな前向きなとらえ方もできるかと思います。
ふるさと納税等の優遇税制を利用する世帯は、金融資産保有額が1,180万円と飛びぬけて大きくなっていますが、これは、高所得者ほど恩恵が大きい(節税効果が高まる)制度なので「ニワトリが先か卵が先か」という話になるでしょうか。
なお、家計面の工夫や努力を「特に何もしていない」世帯の金融資産保有額は、支出を減らす努力、収入を増やす努力をしている世帯を更に下回り、634万円と最低でした。
以上、金融資産保有額別にみた工夫・努力の実施率(図表1)と、実施している工夫・努力別にみた金融資産保有額(図表2)の両方向からみた結果をまとめますと、
—といったことになるかと思います。
このうち、ポイントやマイルの活用については、キャッシュレス化の時流にもマッチしており、資産形成に結び付く身近な工夫として今後一層加速すると考えられます。
【第12回】住宅ローンと資産形成⑧
2020.10.16
2020.10.06
本書は、人生100年時代における個人のみなさまの資産形成の悩みに対して、安心できるミライの処方箋となるようQA方式でまとめたものです。
おかげさまで、多くの方にお手に取っていただいており、出版から4か月で、累計発行部数1万部を突破しております。
なお、各世代が経験してきた出来事を振り返ることができる「できごと年表」は、書籍でも一部触れていますが、以下PDFファイルでぜひ詳細をご覧ください。
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できごと年表<詳細>
2020.10.06
2020.10.01
前回、日本人の7割が資産形成に向け何らかの取り組みを行っているとお伝えしましたが、具体的には何をしている人が多いのでしょうか。
資産形成に向けての具体的な取り組み13項目【国内預貯金、財形・社内預金、生命保険、日本国債・地方債、社債・外国債券、外貨預金、FX(外国為替証拠金取引)、投資信託、勤務先持ち株会、株式投資、不動産投資、暗号資産、商品先物取引】について、過去1年間に行った人の比率をグラフ化したものが図表1です。
トップはご推察のとおり国内預貯金でした。3人中2人が「定期的に」、5人中2人以上が「不定期に(余裕がある時に)」行っていると回答しており、日本人の資産形成の王道中の王道と言えるでしょう(図表1の)。
資産形成のための具体策の2番手は生命保険、3番手は財形貯蓄・社内預金ですが、トップの国内預貯金とは大きな開きがあります。
この2つ、もう少し熾烈な2番手争いをするのかと思いきや、定期的に行っている人の比率は生命保険が3割で財形が2割と、意外と差がつきました(図表1の)。
財形を行っている人の比率が2割というのは、入社時にほぼ自動的に加入した記憶がある筆者などからすると低い感じがしますが、勤務先に制度がない場合もあることや、「一般財形」は税制上のメリットがなく払い出しも自由なので、手元不如意の時に未練なく引き出しやすいことなどが影響しているのかもしれません。
逆に、4、5番手の投資信託と株式投資(持ち株会を除く)は、投信の方が保有者のすそ野が広そうなイメージがありますが、定期的に取り組む人の比率は約1割(投信が11.7%、株式が10.3%)でほぼ横並びとなっていました(図表1の)。
日本人の資産形成の王道が国内預貯金であることは予想できましたが、それにしてもここまで突出しているとは!
2番手の生命保険でさえ実施者比率は半分にも及びませんし(国内預貯金66.6%、生保29.1%)、6番手以降の各項目の実施者比率は5%以下に留まっており、日本人の資産形成が、よく言えば「選択と集中を極めている」、悪く言えば「ややバリエーションに欠ける」ことは否めません。
この点は、他の国と比較するとよりわかりやすいでしょう。図表2は、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの高齢者に対して、「老後の生活費を準備するために50代までに行ったこと」を聞いたアンケート調査の結果です。
米国やドイツは、日本以上に預貯金を行う人の比率が高いですが、日本のように突出してはいません。個人年金に加入したり株式・投信を保有している人も多く、資産形成の手立てをいくつも(しかも、リスク資産も交えて)持つ社会であることがうかがえます。
スウェーデンは、個人年金への加入が6割弱でトップですが、株式・投信の保有や預貯金を行っている人も3~4割いて、こちらも1つの方法に極端に偏ることなく資産形成を行っていると言えるでしょう。
このように、日本人の資産形成には、「預貯金1本足打法」で株式・投信といったリスク資産の保有者比率は相対的に見てかなり低い(図表1でも、4番手に初めて投信が登場します)という特徴があります。
これで老後資金をしっかり準備できていればとやかく言う話でもないのですが、実際には、シリーズ②でみたように、60歳代時点で老後資金必要額の目安とされる2,000万円を保有できている人は3人に1人に留まります。
また、他の国と比べても、日本の高齢者が感じている「老後資金の不足感」は非常に高くなっています。現在保有している資産が老後の備えとして「足りない」と答えた人の比率は、米・独・スウェーデンの高齢者では2割前後なのに対し、日本の高齢者では6割弱(うち2割強は「全く足りない」)と大差があります(図表3)。
もちろん、各国の社会保障制度や国民性の違いも関係しているでしょうし、「不足感の高さ」の原因を全て「預貯金一本足打法」に負わせるわけにはいきません。
とはいえ、この超低金利下にあって、「人生100年時代」を生きてゆくための資産形成の手立てがここまで預貯金に偏っていることには、やはりいくらか危うさを感じます。そろそろ「一本足打法」からの脱却を考えてみてもよいのではないでしょうか。
「人は預貯金のみにて貯めるに非ず」新約聖書マタイ伝(嘘)
【第11回】住宅ローンと資産形成⑦《寄り道コラム》
2020.09.09
2020.09.01
本シリーズの第3回、第4回では、持家と住宅ローンの状況により分類した「持家/ローンあり世帯」、「持家/ローン返済済み世帯」、「持家/ローンなし世帯」、「借家・親と同居/ローンなし世帯」の4グループの資産形成の進捗格差を見ましたが、今回からは、このうちの「持家/ローンあり世帯」にスポットを当てます。
住宅ローンを返済しながら資産形成にも取り組んでいる人はどれぐらいいて、それはどんな人なのか、取り組んでいるだけでなく実際に資産形成が進んでいる(成果が上がっている)のはどんな人なのか、そんなところを明らかにしていきたいと思います。
アンケートの結果によると、資産形成に向けて何らかの取り組みを実施している世帯(※)の比率は、全世帯ベースでは7割ですが、持家/ローンあり世帯に限定するとこの比率は8割まで上がります。4つのグループの中でも最高です。(図表1)
ローンの返済に追われて資産形成にまで気が回らない人が多いはず—というのは外野の勝手な思い込み。5人中4人は、返済と並行して資産形成のために何かしらのアクションを起こしているのです。
※「定期・不定期を問わず、過去1年間に下記【 】内の資産形成に向けた取り組み(保有)を行っているか」をたずね、1つ以上行っていれば「取り組みを実施している」とした。
【国内預金、財形・社内預金、生命保険、日本国債・地方債、外貨預金、FX、投資信託、社員持ち株会、株式投資、不動産投資、暗号資産、商品先物取引、その他】
確かに、「住宅ローンを借りて家を買う」人は、まがりなりにも自分の資産(住宅などの不動産であれ金融資産であれ)に関心を持つだろう、少なくとも頭の片隅にはあるだろう–と考えれば、ローン保有者の資産形成への取り組み比率が非保有者より高くても、それほど不思議ではありません。
ちなみに、取り組み比率が最も低かったのは借家・親の家に同居世帯で、取り組んでいる人は3人中2人に留まります。
資産形成への取り組み比率は高かったものの、持家/ローンあり世帯が実際に1年間に資産形成できている金額はあまり多くありませんでした。
持家/ローンありで資産形成に取り組んでいる世帯の年間資産形成額の分布をみると、5割が50万円未満で、うち1割は差し引きゼロ(資産形成に向けた取り組みはしたが、事後的に引き出したり運用でマイナスになったりして結局トントンというケース)、1年間に200万円以上資産形成できた世帯は1割以下でした。
また、平均金額でみても年間91万円と、ローン返済済み世帯の137万円や持家/ローンなし世帯の127万円と比べかなり見劣りします。(図表2)
【第10回】住宅ローンと資産形成⑥
2020.08.19
50歳代や60歳代になれば、住宅ローンを返し終わった人や、今まで貯めてきたお金で(住宅ローンを利用せずに)家を買った人がいてもさほど驚かないけれど、40歳代以下の若さで既にローン返済済み、あるいは元からローンを借りずに自分の家を保有できている人って、いったいどんな人?と思って、アンケートデータを見てみました。
まずは年収データを確認しました。
40歳代以下の「持家/ローン返済済み世帯」の世帯年収は761万円。相対的にみれば高いですが「持家/ローンあり世帯」(750万円)とさほど変わりません。同じく40歳代以下の「持家/ローンなし世帯」の年収は408万円で、「借家・親の家等に同居/ローンなし世帯」(401万円)と最下位を争っています。(図表1)
データを見る限り、若くして家を持っていてローンはない人の正体は、単純に「リッチな人」というわけでもなさそうです。
そこで、アンケートの基本項目の結果から、「40歳代以下で家を持っていてローンがない人(返済済みの人と、元から利用していない人)」の特徴を集めてみたところ、
・持家/ローン返済済み世帯は、地域でいうと近畿圏、中京圏に比較的多く、職業別では会社員や会社役員・経営者、公務員が多く、既婚者が多い
・持家/ローンなし世帯は、中京圏と地方に多く、パート・アルバイトと自営業の人が多く、独身者が多い
—ことがわかりました。(図表2~図表4)
若くして住宅ローンを返済済みの人については、首都圏と比べ住宅価格が安い、言い換えれば元々のローン借入額が少ない近畿圏や中京圏に住んでいることや(図表2)、会社員、会社役員・経営者、公務員といったいわゆるサラリーマンで(図表3)、安定した定期収入があるので計画通りに着々と返済を続けやすかったことが、早期完済につながった可能性があります。もっとも、サラリーマンが多いのはローン保有者も同じなので、職業よりも居住地域の方が貢献度は高そうですが。
更に、住宅ローン返済を終えた人は、まだローンを抱えている人と比べ、
・住宅購入時の頭金が多め=総返済額が少ない
・購入時の親からの支援も多め=自己負担が少ない
・年収に占める返済額の割合も高め=「さっさと返す!」をモットーに返済重視の家計運営をした人が多い
—など、返済が進みやすい条件も揃っていました。(図表5)
若くして住宅ローンを返済済みの人は、「返し終わるべくして返し終えた」と言えそうです。
続いて、若くして持家、しかも元から住宅ローンを利用していない人について。
すぐに思い浮かぶのは、「親が死亡して実家を相続」、「超お金持ちでマンションをキャッシュ買い」といったケースですが、住んでいるのが地方や中京圏で(図表2)、仕事は自営業(≒家業を継いだ人)やパート・アルバイト(≒いずれ継ぐけれどその前にアルバイト生活をしている人)が多く(図表3)、そして年収は平均でみると決して高くない(図表1)—などの特徴からすると、地元で家業を継ぐのと引き換えに親が家を買ってくれた、親の家の敷地内に建ててくれた、あるいは親の家を譲り受けた、そんなパターンが意外と多いのではないでしょうか。
半数以上が独身者なので(図表4)、「家を建ててやるから結婚して店継げやぁ!」的な世界もあるのかもしれません(筆者が遠い昔 家庭教師をしていた少年が、数十年後、まさにこのパターンとなりました)。
【第9回】住宅ローンと資産形成⑤《寄り道コラム》
2020.08.06
2020.08.01
「持家や住宅ローンの有無によって資産形成の進み具合は違う」という話題の2回目です。
前回のポイントは、持家や住宅ローンの有無で資産形成の進捗に差が生じ、60歳代時点では保有する金融資産の額に約2倍の開きが出ること、「持家/住宅ローンあり世帯」においては、ローン返済負担が資産形成の足かせのひとつとなっていること–の2点でした。
住宅ローンの返済が資産形成の足を引っ張るのなら、返済負担がない「借家・親の家等に同居/ローンなし世帯」は相対的に金融資産を積み上げやすいはずです。しかし実際には、4つのグループ(持家/ローンあり世帯、持家/ローン返済済み世帯、持家/ローンなし世帯、借家・親と同居/ローンなし世帯)の中で最も資産形成が進んでおらず、60歳代時点の平均金融資産保有額は983万円と1,000万円にも届いていません。
この理由のひとつとして考えられるのは、年収の低さです。アンケート調査では「世帯年収」をたずねており、ここから年間ローン返済額を差し引いた「資産形成のための元手(軍資金)」も算出できます(実際には、この元手から更に税・社会保障負担や生活費などの必需的支出を除いた金額が資産形成への投入可能額となるわけですが)。4つのグループ別にまとめたものが下の図表1です。
借家・同居/ローンなし世帯の年収は408万円と相対的に低いため(図表1)、ローン返済負担がなくても資産形成が進みにくくなっていると思われます。
また、アンケートでは「将来の生活設計」や「老後資金に対する意識」についても訊いていますが、借家・同居/ローンなし世帯においては、4人中3人が将来の生活設計・資金計画を立てたことがなく(図表2)、10人に1人以上が「特別な老後資金は不要」と考えている(図表3)など、他の3つのグループと比べ老後資金についての危機感・切迫感が低く、資産形成意識が薄いようにもみえます。こうした点も、借家・同居/ローンなし世帯の資産形成が進みにくい一因ではないでしょうか。
図表1を見ていて気になることがひとつ。持家/ローンあり世帯の話に戻って恐縮ですが、このグループの平均世帯年収は775万円と実は4グループ中最高で、年間ローン返済額137万円(アンケート結果より算出した平均金額です)を差し引いても639万円と、持家/ローン返済済み世帯の平均年収732万円に次ぐ水準です(図表1)。ローン返済済み世帯や持家/ローンなし世帯の年収との比較感からすれば、持家/ローンあり世帯には資産形成にむけた「余力」がもう少しあってもおかしくないように思います。
「住宅ローン返済で余裕がないから資産形成できなくて当たり前」「あまり進まなくてもしょうがない」といった思い込みや諦め、言い訳できるという気の緩みが資産形成の進捗を鈍らせているとしたら、ちょっと残念な気がします。
「言い訳は、進歩の最大の敵である」byソクラテス(嘘)。
【第8回】住宅ローンと資産形成④
2020.07.28
本シリーズ初回には、アンケート調査の結果をもとに、年齢が上がるにつれ同じ年代の中での金融資産格差が拡大していくことをお示ししました。
家計の金融資産に格差が生じる理由は色々考えられますが、ミライ研が実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」では持家の有無や住宅ローンの状況をバッチリ訊いていますので、今回はこの観点から金融資産格差について考えてみたいと思います。
まず、アンケートの「持家」と「住宅ローン」に関する集計結果から、回答者を「持家/ローンあり世帯」「持家/ローン返済済み世帯」「持家/ローンなし世帯」「借家・親と同居/ローンなし世帯」の4つのグループに分けました(図表1)。
そして、各グループの20歳代~60歳代の世帯当たり金融資産保有額を算出すると、40歳代あたりからグループごとの保有額の差がぐんぐん広がり始め、60歳代では持家/ローン返済済み世帯(図表2の)と持家/ローンなし世帯(同
)が2,000万円前後、持家/ローンあり世帯(同
)と借家・同居/ローンなし世帯(同
)が1,000万円前後となりました。
持家と住宅ローンの保有状況によって、老後生活の入り口付近では家計の金融資産保有額に2倍もの開きが生じるわけです。
各グループの保有額の推移をもう少し詳しくたどってみます。
まず見ていただきたいのは青い線、持家/ローンあり世帯の保有額です。20歳代から60歳代にかけての増加額が510万円と4つのグループで最も少なく、60歳代時点の平均保有額は1,100万円となっています。住宅ローンの返済負担があることで、なかなか資産形成にまでお金がまわっていかないことがうかがえ、よく耳にする「ローン返済が足かせとなって資産形成が進まない」という説と合致する結果です。
持家/ローン返済済み世帯と持家/ローンなし世帯では、年齢が上がるにつれ金融資産の増加が加速し、60歳代時点の平均保有額は2,000万円を超えています。50歳代から60歳代にかけて資産形成のギアが一段上がっていることから、ローン返済負担がない世帯においては教育費負担の減少や退職金の受け取りがダイレクトに金融資産の増加に結び付きやすいとみてよいでしょう。家を持ったうえで2,000万円以上の金融資産を保有しているこの2つのグループは、「老後資金2,000万円問題」を比較的冷静に受け止められる人たちかもしれません。
一方、借家・親と同居/ローンなし世帯の金融資産保有額は20歳代から一貫して低く、 60歳代での平均保有額は980万円と持家/ローンあり世帯さえも下回っています。(ローン返済負担がないのになぜ?と思われた方、次回をお楽しみに。)
というわけで、今回のお題「持家や住宅ローンの有無で資産形成の進み方に差が出る?」に対する答えは、「出る。それもちょっとやそっとではなくて2倍の差!」でした。
【第7回】住宅ローンと資産形成③
2020.07.15
昨年、ラグビーWCと並んで話題となったのが「老後資金2,000万円問題」。金融庁の金融審議会が「高齢世帯の家計収支データをもとに計算すると、公的年金だけでは毎月約5万円生活費が不足し、老後30年間生きる場合で約2,000万円の資金が必要になる」と指摘したのをきっかけに、多くの人々の「うちは大丈夫か?」意識、「資産形成しなくちゃ!」意識が覚醒し、とりあえず貯金通帳をかき集めて残高を確認した人も少なくなかったとか。
さて、この2,000万円という金額は、現行の年金制度が続く中で夫婦揃って死ぬまで健康に暮らすという前提で算出されているので、要介護・要支援状態になって追加的な費用が発生したら?年金制度改革で給付金額が下がったら?—と考えると3,000万円くらいあった方が安心といえば安心です。
本シリーズ①では、金融資産保有額をざっくり3つに区分し、60歳代で保有額1,500万円以上の世帯は約4割と書きましたが、より細かい分布をみると、保有額が2,000万円以上の世帯は34.0%、3,000万円以上の世帯は21.8%でした。
本アンケートの回答者で、金銭面で老後生活が「本当に安泰」なのは5人に1人くらい、「条件付きで安泰」なのは3人に1人、というところでしょうか。
一方、2,000万円の半分(1,000万円)も持っていない世帯は、なんと5割を超えていました。住んでいる地域や家族構成、非金融資産の保有状況などによっては、老後資金がさほど潤沢でなくても十分暮らしていけるのかもしれませんが、自分のことを棚に上げ、ちょっと心配になってしまいました。
【第6回】住宅ローンと資産形成②《寄り道コラム》
2020.07.15
三井住友トラスト・資産のミライ研究所では、今年1月に「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」というウェブアンケート調査を実施し、住宅やローンの保有状況や、金融資産保有額をはじめとした資産形成の状況などについて、20歳~64歳の男女約1万人の方からご回答を得ました。
先日、この分析結果の一部を公表させていただきましたが(プレスリリースはコチラ)、今回から数回にわたり、「ミライコラム」の中でもご紹介したいと思います。
初回は、「家計の金融資産は年齢とともにどう変化していくか」という基本的なところから。
※メインテーマからは少し外れるけれど興味をそそられたネタをおすそ分けする「寄り道コラム」も随時掲載します。こちらも併せてお読みいただければ幸いです。
アンケートを集計してみると、1世帯あたりの平均金融資産保有額は20歳代から60歳代まで一貫して増加しており、「年齢が上がるにつれ資産形成が進んでいく」という、まあまあ予想通りの結果となりました。(ここでの「金融資産」は、現預金だけでなく債券・株、投資信託、生命保険のうち満期金のあるもの、貸出金も含みます。)
では、実際にどれぐらい増えるのか、どんなふうに増えていくのか。
平均保有額は20歳代では270万円、60歳代では1,828万円なので、約40年間で6.8倍に増加したことになります。
10歳刻みの変化を追うと、40歳代までは比較的緩やかな伸びであるのに対し、50歳代から60歳代にかけては700万円以上増加していました。住宅ローン返済の終了や教育費負担のピークアウト、退職金や人によっては親からの遺産受け取り—といったことを背景に、金融資産の増加スピードが上がったと考えられます。
次に、個々の世帯の金融資産保有額のバラツキが年齢とともにどう変化するのかをみてみます。
金融資産保有額を300万円未満・300万円以上1,500万円未満・1,500万円以上の3つの層にわけ、20歳代~60歳代それぞれの金額層別の分布をみたものが図表2です。
20歳代では3/4を占めた300万円未満の層が60歳代では1/3まで減少、逆に、20歳代では約2%にすぎなかった1,500万円以上の層が60歳代では4割まで増加しています。また、300万円以上1,500万円未満の中間層は、30歳代以上では年齢とともに減少していき、60歳代では保有額300万円未満の世帯が3割強を占める一方、1,500万円以上の世帯も約4割と、両サイドに厚みがある形になっています。「寄り道コラム」
家計の金融資産の分布は、年齢が上がるにつれて、①高額寄り(図表2でいうと右寄り)にシフトするとともに、②中間層が薄くなり高額・低額両サイドへのバラツキが大きくなっていく、言い換えれば同じ年代内における金融資産格差が拡大していく傾向があるといえます。
【第5回】住宅ローンと資産形成①
2020.07.15
2020.07.01
2020年1月に全国の20歳~64歳の男女1万人を対象とした「住まいと資産形成」に関するアンケート調査を実施しました。
今回は、各世代における住まいや住宅ローンに対する考え方や資産形成の方法についてまとめました。
レポートサマリー
レポート
2020.06.22
2020.06.22
現在の生活の充実とともに、10年後、20年後、そしてもう少し長めの視点を持って、仕事・家庭・自分などを含めた人生設計を考えていくこと、これが「ライフプラン」といえるでしょう。ライフプランが「将来の人生のイベントを想定すること」だとすれば、マネープランは「人生のイベントに取り組むための費用をイメージし準備をしていくこと」となります。
最近、ライフプラン、マネープランがより注目されるようになってきている背景には、日本の構造的な少子・超高齢社会の急速な進行、グローバル化や情報化の進展、就業構造や世帯構成(ライフスタイル)の多様化など、社会環境の変化が大きくかかわっていると考えられます。
特に、ライフスタイルの変容は、家族のあり方や働き方に関する人々の意識の変化を表していると思われます。たとえば、女性の就業継続・復帰支援や家計状況などから「片働き世帯」の比率が下がり「共働き世帯」が伸びてきている点。また近年、未婚率が増加してきており、「シングル世帯」での生活を楽しむことも選択肢の1つとして広まってきていること。結婚後もお子様をもたないという世帯も増えてきており「だれと一緒に過ごすのか」という人生の過ごし方も多様化し、今後、さらに様々な可能性があらわれてくると思われます。
その中から自分(そして一緒に歩むパートナー達)にとって進むべき計画を立て共有していくことがこれまで以上に大切なこととして認識されつつあります。もちろん、先のライフプランを検討するにあたって、はっきりと決まっていないこと・分からないことも多いでしょう。ただ、プランニングを通じて、様々な選択肢を具体的に検討することは、今後の可能性をより一層広くとらえることにつながるのではないでしょうか。
そう考えると、ライフプラン、マネープランは人生のイベントを選び取っていくための航海図というように考えておくと良いかも知れません。航路を選ぶ際に『海図(地形や寄港地、海峡や海流などをあらわした海のマップ)』があれば、航海はさらに楽しく、また行き先の変更や冒険も可能になります。また、激しい海流を回避して安心・安全な航海を続けていく上でも役立つはず。そういったライフプランの策定にあたっての「海図」としての役割を果たすのが、金融機関やファイナンシャル・プランナーからの情報発信であり、コンサルテ-ションです。人生100年時代のライフプラン、マネープランはご自身だけの「プラン(計画)」ではなく、一緒にこれからの人生を歩まれる方々にとっても重要な「プラン」となっています。すでに、ライフプラン、マネープランを考えることを通じて「人生100年」を「デザイン」する時代の幕は上がっています。
【第4回】今、なぜ「資産形成・活用」が大切なの?④
2020.03.19
現在、いわゆる「天寿を全うする」という生物学的な意味での「生命寿命」とは別に「健康寿命」という言葉を耳にする機会が増えてきていませんか。健康寿命とは、心身ともに自立し、健康的に生活できる期間を指します。今後、生命寿命が延びていくことは、人生の選択肢と可能性が広がる一方で、思考能力、身体能力という観点では、(当然個人差は大きいものの)十分にその機能が自立的に発揮できる「健康寿命」の期間と、周りからのサポートを受けながら生活していく「要支援・要介護期間」とに分かれてきます。
現在、医学的な見地から日本における健康寿命は男性は約72歳、女性は約75歳といわれています。健康寿命期を過ぎ「要支援・要介護期間」に入って自立度が低下してくると、老後生活を支えていく資産はさらに重要になってきます。この「要支援・要介護期間」は、男性は約9年、女性は約12年となります。
できるだけ健康寿命を延ばすことが望ましいですが、要支援・要介護期間が延びることも想定しておいたほうがよいでしょう。そうすると、現役時代に「老後のために」準備した資産に、今度はできるだけ長く働いてもらい、「生命寿命」をカバーしていくことが求められています。
老後生活では、現役時代と違って「勤労による収入」を大きくは見込めませんから、準備した老後資産を取り崩しながら「資産寿命」を延ばしていくことが求められます(資産寿命=老後生活を営むにあたり、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間)。老後生活の収入の柱となるのは、国民年金や厚生年金保険といった国からの年金ではあるものの、2019年6月公表の金融庁金融審議会市場ワーキング・グループ報告書をきっかけとして、老後資産について、自助努力での準備が重要であることが認識されつつあります。
早いうちから、老後資金を自助部分も含めて準備し、取り崩しを先に延ばす場合はシニア時代での就労継続を検討し、形成した資産にも必要に応じて「資産運用」面で働いてもらう…など、一人ひとりが「計画」と「準備」、そして「行動」することが大切です。
【第3回】今、なぜ「資産形成・活用」が大切なの?③
2020.03.19
日本は「人生100年時代」といわれる、過去に遭遇したことのない「超高齢社会」を迎えています。「人生100年時代」では、一個人の人生において「健康で活動できる時間」が長くなり、ライフスタイルや仕事、社会への取組みスタンスも多様化する時代が到来すると考えられています。
たとえば、「仕事」の面で考えると、新しい職種とスキルがあらわれ、働き方の多様化が進む、といった兆候は、すでにいくつもの業種において副業・複業が解禁されてきたことや、「ギグワーク」と呼ばれる個人事業主的な働き方(例:ウーバーなど)があらわれてきたことからもうかがい知れます。「人生100年時代」、それは人生における「可能性」が広がり「選択肢」が広がる時代の到来とも考えられます。
多様な選択肢が広がる「人生100年時代」では、
①学び期間の延長
②学び直し新たな仕事に就労
③仕事のペースを落とし社会貢献活動等に従事
など、リカレントな教育と新しいステージが複数回、あらわれてくる、これが、「人生のマルチステージ化」と呼ばれています。
「マルチステージ化」により、個人が「どんなことをしたいのか」「誰と一緒にしたいのか」「その実現のためにどうすればいいのか」を主体的に考えることがより一層重要になってきています。様々な選びえる可能性の中から自分にとって(そしてパートナー達にとって)進むべき計画を立て共有していくことが、これまで以上に大切なことと思われます。
【第2回】今、なぜ「資産形成・活用」が大切なの?②
2020.03.19
統計データ(厚生労働省「平成30年簡易生命表」)をみてみると、日本の平均寿命は男性81.25歳、女性が87.32歳と、実態に照らした現状は「人生85年時代」程度と言えそうです。しかし今、「人生100年時代」と言われるのは、やはり、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授とアンドリュー・スコット教授の『ライフ・シフト-100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社刊、原題“THE 100-YEAR LIFE”)が2016年に刊行され、世界中でベストセラーとなったことが大きいと考えられます。特に同書の中で「2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想される」との記述があったことで、2017年には内閣府に「人生100年時代構想推進室」が設置、同年「人生100年時代構想会議」(議長:安倍晋三首相)がスタートしました。その有識者議員としてリンダ・グラットン教授が招かれたことなどもあって、一気に日本人の中に「100歳まで生きる人生」という認識が広がったと言われています。
WHO(世界保健機関)が定める定義では、人口に占める65歳以上比率の上昇に応じて「7%以上:高齢化社会」「14%以上:高齢社会」「21%以上:超高齢社会」としていますが、日本はというと、1970年に「高齢化社会」、1994年に「高齢社会」、2007年に「超高齢社会」に突入しています。注目すべきは、「高齢化社会」から「高齢社会」までには、24年間かかっていましたが、「高齢社会」から「超高齢社会」まではわずか13年で到達している点です。この急ピッチな長寿化の進展は、少子化傾向と相まって「少子高齢化」と呼ばれ、政策課題として幅広く取り上げられています。
世界的にも長寿化が進んでいる日本は、「人生100年時代のフロントランナー」として、今後の取り組みが世界から注目されていますが、私たち個人にとっても、次の世代、次の次の世代の「人生」を考えると、「人生100年時代」の人生設計は、「今」から考えておくことが極めて重要となっていると考えられます。
【第1回】今、なぜ「資産形成・活用」が大切なの?①
2020.03.19
2019.09.18