【第136回】ファイナンシャル ウェルビーイングとは?

ファイナンシャル ウェルビーイングを実現するには?

2024.04.10

ファイナンシャル ウェルビーイングを実現するには?

 前回は、ファイナンシャル ウェルビーイングとは何か、についてお伝えしてきました。これは、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」であり、実現のためには生涯のキャッシュフローをマネジメントすることがカギであることを示してきました。

 今回は、そのファイナンシャル ウェルビーイングを実現するための具体的なアクションと、特に“お金の不安”の最大要因の正体を突き止めていきたいと思います。

ファイナンシャル ウェルビーイング実現のための“4つのステップ”

 ファイナンシャル ウェルビーイングは、ただ単に「客観的な資産・所得がふえる」だけでは実現せず、「自律的に家計行動ができている」ことが重要です。では、この「自律的な家計行動」を実現するにはどうすればよいでしょうか。
 ここには4つのステップが必要と考えています。「学び」を得たうえで、自身の家計収支・資産負債の状況や将来家計をシミュレーション等により「把握」すること、そして家計に関する悩みを適切な相手に「相談」し、具体的な金融商品やサービスを活用する「行動」にまで結びついて、初めて自律的な家計行動が成立します【図表1】。

【図表1】 ファイナンシャル ウェルビーイング実現に向けた4つのステップ

 これは、心身の健康(Physical Well-being)に向けた取り組みと重ねるとわかりやすいかもしれません。心身の健康についても、健康についての「学び」を得るだけでなく、自身の健康状態の「把握」や、適宜かかりつけ医に「相談」しつつ、健康増進に向けた「行動」をすることで、心身の健康も維持向上されます。
“Financial”に関しても、同様のプロセスを経ることが有効と考えられます。

老後資金を例にとった、“4つのステップ”を踏まえたお金との向き合い方

 具体的に、老後資金を例にとってみましょう。
 例えば、老後資金に関しては、「公的年金だけでは2,000万円不足する」「国の年金はあてにならないので自助努力が必要だ」「老後資産形成のためには、こういった手法で投資をした方が良い」などの情報は世にあふれています。しかしながら、それらを受けて、安易に皆と同じ「行動」をとることが果たして得策でしょうか。もっと言うと、例えば老後資産形成のために何かに投資をした、という「金融行動の結果」が“お金の不安”を解消できるのでしょうか。

 まず、老後不安を考えるにあたって、老後の収支を簡単に想定してみましょう。
 構造を単純な数式で示すと、【図表2】のとおりになります。このうち、老後生活費、つまり「支出」の想定は暮らしぶりや、もちろん世帯構成居住地域自宅の状況などによっても全く異なります。加えて、老後の「収入」は現在の保有資産状況収入、はたまた世帯構成によっても異なります。年金収入に関しても、現在が自営業などで国民年金加入者なのか、夫婦で会社員・公務員などで厚生年金保険に加入しているのかなどにより、大きく変わります(厚生年金保険は報酬比例の制度であるため、現役時代の所得水準によって受給額も変わります)。もちろん退職金・企業年金なども勤め先の企業や人により異なります。また、老後資金の準備方法も、お金に関する考え方(例えば、投資に積極的なタイプか、慎重派か、など)によっても変わってきます。

【図表2】 老後必要資金額は人により異なる

 これらを考慮すると、ただ単に外部から画一的な情報を得て「学ぶ」ことだけでなく、それを踏まえて自身のケースで想定してみる「把握」のプロセスにより、「どのような人生を送りたいか」というライフプランニングを行うことが重要といえそうです。そのうえで、単に外部情報を鵜呑みにするのではなく、信頼できる相手に「相談」できることも安心感につながります。
 上記のプロセスを経て、自身の家計行動はどうすればよいのか、を考えて「行動」に移すことで、自律的な家計行動につながり、ファイナンシャル ウェルビーイングがもたらされると考えられます。

経済的不安の最大要因は老後資金だが…

 では、ファイナンシャル ウェルビーイングを実現するうえで「個人が抱えている経済的な不安」の最大要因は何でしょうか。資産のミライ研究所の調査によると、各年代におけるお金の不安の要素は、なんとここまで例にとってお話ししてきた「老後資金」がどの年代でも1位となっています【図表3】。これは、国民全体の不安要因だといっても過言ではないかもしれません。

【図表3】 お金に関する不安(複数回答可) ※上位5項目

 特に、年金制度に対する不安は大きそうです。厚生労働省の調査(2019年社会保障に関する意識調査)によると、老後の生計を支える手段として、1番目に頼りにするものは、「公的年金(国民年金や厚生年金など)」が最も多く55.9%です。一方で、公的年金が老後生活に十分であるかどうかの不安も53.1%と大きいことがわかります。収入として頼りたいものの、頼れるか不安、というのが正直なところかもしれません。これだけ多くの方が頼りにしている収入源ですので、年金制度に対する“正しい理解(=学び)”も、老後資金不安を解消する一助になるのではないでしょうか。

 もちろん、現在の公的年金制度は、老後生活をすべてカバーできる設計ではありません。しかしながら、終身で定期的に受け取れる重要な社会保障制度です。公的年金などの社会保障制度の役割を「セーフティネット」としてしっかり理解し(=学び)、そのうえで、人生100年時代を自分らしく生きるために、収支計画ならびに今後のライフプラン・マネープランを立て(=把握)、適宜信頼できる相手に(相談)しつつ、「長く働く」ことや、公的年金以外の「私的年金」を活用すること、自助努力として「貯蓄/資産運用」を計画的に行う(=行動)ことが重要となります【図表4】。まさに、人生100年という長期の時間軸で、自身の「家計を経営する」観点で考え、自律的に行動することが重要そうです。

【図表4】 公的年金と他収入の位置づけ (イメージ)

 世間ではやたらと「年金制度が危ない」という趣旨の発信を目にする機会も多いように思われますが、ミライ研がお届けする、公的年金に関する動画・コラムもご活用いただきながら、ぜひ制度の理解を深めていただき、不安解消にお役立てください。

 次回はファイナンシャル ウェルビーイングの最終回として、ファイナンシャル ウェルビーイング取り巻く世の中の流れについてご紹介します。

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