【第39回】

確認しておこう!遺言の活用法

2021.12.01

確認しておこう!遺言の活用法

 今回のコラムでは「遺言の活用法」をみていきたいと思います。
 現在において、どれくらいの方々が「遺す」意識を「形」にされているのでしょうか?
 遺言には、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人に作成してもらう「公正証書遺言」の2つの方式があります【図表】。

図表

遺言の普及率:遺言を書く人は10人に1人?

 では、「遺言の利用状況」をみてみましょう。実際に遺言を書く人は、どのくらいいるのでしょうか?
 日本公証人連合会が公表している統計資料によれば、令和元年度に全国で作成された遺言公正証書は、11万3,137件です。同じく令和元年度に亡くなった方の数は約138万人ですので、公正証書遺言を書いた人の割合は、8%程度といえます。自筆証書遺言については、「司法統計年報」で公表されている「遺言書の検認件数」の令和元年度件数が18,625件でした。これを合わせても全体の9.5%であり、遺言の普及率は、10人に1人程度という状況です。

 前回のコラムで、遺言は財産を残す方の意思を尊重するためのルールであり、「亡くなる方の最後の想いを尊重する」ことが、遺言の制度趣旨だと紹介しました。
 「人生100年時代」においては、人生のマルチステージ化が更に広がっていくものと思われます。世帯構成(ライフスタイル)でみても、2018年の日本の核家族世帯の比率は60.4%、単身世帯比率は27.7%、三世代同居世帯比率は5.3%、となっており、50年間で三世代同居比率は10%以上減少し、その分、単身世帯や核家族世帯が増加してきています(厚生労働省公表「国民生活基礎調査(2018年)」)。最近では、法定相続分がない同性カップルの世帯も増えてきています。今後、「想い」を込めた財産承継のために、遺言の果たす役割は一層高まってくると思われます。
 こういったニーズや、相続争いや所有者不明土地などへの対策として、国が遺言書の普及を促進したい狙いから、2020年7月に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行されています。今まで、自筆証書遺言書には、自分で気軽に作成できる反面、保管場所に困る、紛失して死後に発見されない、内容が不利な相続人が書き換える恐れがある、等のデメリットがありました。そこで、「遺言者の最終意思の実現」と「相続手続きの円滑化」を進めるため、公的機関(法務局)にて自筆証書遺言書を保管する制度が創設されたわけです。法務局で保管することで、全国一律のサービスを提供することができ、プライバシーも確保しつつ、相続登記の促進にもつながるなどの効果が期待できます(法務局における遺言書保管制度の利用については、1件につき3,900円の手数料がかかります。その他、閲覧や証明書の交付についても手数料がかかります)。また、自筆証書遺言書は遺言者が亡くなった後、家庭裁判所に持ち込み確認を受ける「検認」という手続きが必要でしたが、この制度を活用すれば「検認」を省略することができます。

遺言内容はだれが実現してくれるの?

 遺言書の内容を実現するためには、様々な手続きがありますが、遺言では、それを執行する遺言執行者を指定できます。第三者を指定することもできますので、専門知識を持った行政書士や司法書士等に依頼するケースも多くあります。
 また、遺言書を作成したいと思ったときに、遺言書の作成・支援、遺産の整理(相続財産の名義変更手続きなど)その執行までを、相談しながら進めたいというニーズも高まってきていると思われます。そういうニーズに対応する目的で、民間の金融機関でも信託銀行などを中心に、遺言書作成の相談から、遺言書の保管、そして遺言書の執行まで一貫したサポートを提供するサービスがあります。これが「遺言信託」といわれているサービスです。
 特徴は、金融機関が提供するサービスであり安心感があることや、遺言作成にあたり事前に相談をすることができること(遺言書作成にあたって、遺言者の意向、相続人や受遺者の関係性、財産の内容を把握したうえで、アドバイスを受けることが可能)があげられます。サービス提供に関して、遺言信託手数料と執行時の報酬が生じることには留意が必要です。また、信託銀行等ができることは、法律によって「財産に関する遺言の執行」だけに限定をされていますので、認知や未成年者後見人の指定といった身分行為の遺言執行者となることなどはできないことも確認しておくべきでしょう。
 一般社団法人信託協会・信託統計便覧が公表しているデータでは、令和元年度(1年間)の信託銀行における「遺言書の保管および執行業務(いわゆる遺言信託)」の受託件数は14万9,693件となっており、ここ数年は毎年1万件以上増加している傾向にあります。

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