【第53回】資産形成と取り崩し③

「資産形成&取り崩しの計画」を実践する際に注意すべきことは?

2022.03.16

「資産形成&取り崩しの計画」を実践する際に注意すべきことは?

井戸社長に伺います。「資産形成&取り崩しの計画」を実践する際に、どのようなことに注意すればよいでしょうか?

 1つ目に注意したいのは、どのようなものを「投資対象」に選べばよいかということです。投資の入門書のようなものには、債券、株式、金、FX、暗号資産 … と様々な投資対象が出てきたりします。この「投資対象」を考える際には「投機と投資」の違いを意識すればよいのではないかと考えています。「投機と投資」の違いについて明確な定義がある訳でもないと思いますが、投機は刺激があって面白い、【図表1】にも記載の通り、「リスクをとったからといって、それに見合うリターンが期待できる訳ではない(誰かが儲かれば、誰かが損をするゼロサムの世界)」ということだと考えており、FXや暗号資産はこちらに近いように思います。それに対して、投資はじっくりと「リスクを上手に取り続けること」で、それに見合うリターンを積み重ねていくイメージです。
 そう考えると、ブレはあっても中長期的には世界経済の成長に伴って上昇が期待できる「株式」や「債券」が「投資対象」として相応しいということになります。また、手っ取り早く儲けようとするのではなく「投資をじっくり続けることも含めて、リターンに繋がるリスクを取る総量を増やす」という意識も大切です。

図表1 「投機」と「投資」の違い − 「投資」の対象として相応しいものは? −

 2つ目の注意点は、資産形成を実践する際に「貯蓄」と「投資」をどのように組み合わせていくかということです。一般的に、若齢期は「投資」に回せる資産の割合が大きく、年齢を重ねるにしたがって「投資」に回す割合を低くする方がよいといわれ、個人投資家の株式投資割合は「(100-現在年齢)%程度」という考え方もあります。若齢期は、個人が将来稼ぐ所得が大きいと見込まれ、これを「人的資本」と考えると、個人が保有する資産を「金融資産」と「人的資本」の合計と考えることができます。この「人的資本」が年齢とともに減少していくと考えれば、金融資産の中で「投資」に回せる割合も年齢とともに減少していくという考え方に合理性があるといえます。若齢期は投資経験が乏しいかも知れませんが、「投資の基本」を身に付け、若いうちからシッカリと計画的に「投資」を始めておくことが重要であるといえます。

※ライフプラン等を踏まえた目標資産額や安全性資産と投資性資産の投資割合の検討についての詳細は、「ライフプラン等を踏まえた目標資産額と投資割合の設定・フォローアップについて」(証券アナリストジャーナル2021年9月号)をご参照

 3つ目の注意点は、「資産形成&取り崩しの計画」を実践していくためには「投資、生命保険、損害保険」が密接不可分の関係にあるということで、この点は「保険と資産形成③」をご参照いただければと思いますが、先程の「人的資本」との関係でいえば、想定外の理由で「人的資本」が毀損する(働けなくなる)リスクには生命保険や損害保険の仕組みを活用して備えておくことが大切であることがお分かりいただけると思います。
 3回シリーズにお付き合いをいただいた皆さまの、よりよい「資産形成&取り崩しの計画」の実践を願いつつ、「資産形成と取り崩し」の最終回とさせていただきます。

プロフィール紹介

三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん

 1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
 年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
 日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。

【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)

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