【第135回】ファイナンシャル ウェルビーイングとは?

幸せとお金の関係

2024.04.03

幸せとお金の関係

 皆さんは「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。このウェルビーイングとは、簡単に言えば 「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」と定義されています (厚生労働省 雇用政策研究会報告書 概要(2019年)より)。世界幸福度ランキングのデータ元としても有名な米国調査会社ギャラップ社によると、Well-beingは【図表1】に示されている5つの概念で構成されます。

図表1 “Well-being”の5つの概念

 その中で重要な概念の一つとしてファイナンシャル ウェルビーイング(Financial Well-being)があります。ファイナンシャル ウェルビーイングは、具体的には「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」を指します。

 ファイナンシャル ウェルビーイングは、単純に客観的な所得や資産を増やすことが重要だと思われるかもしれません。しかしながら、それだけでは実現が困難といえます。
 2022年の日本版Well-being Initiativeの調査では、現在と5年後の主観的ウェルビーイングの相関関係と「ドライバー(原動力)」、すなわち影響要因を特定しました。それによると、「現在の生活」「5年後の生活」の評価の最大影響要因は、「所得に対する主観的感情」であったことが分かっています。特筆すべきは、自身の客観的な所得水準は主観的感情に比べてはるか低位にあることです。自身の生活水準などに照らし、現在・将来の所得が満足かどうか、がウェルビーイング全体に影響していることが見て取れます。

図表2 現在と5年後の生活指数の影響要因(影響度によるランキング)

 例えば、収入が上がったとしても、その分だけ贅沢をして生活水準を上げてしまうと、その分だけ支出も増え、家計状況は良くならないかもしれません。一方で、限られた資産・所得でも「この水準でやっていける」という感覚を持てる状態であれば、満たされた状態で生活できるかもしれません。ファイナンシャル ウェルビーイングというのは、このように、客観的な所得の多寡などだけではない概念です。

ファイナンシャル ウェルビーイング向上のカギは“生涯のキャッシュフローマネジメント”

 では、このファイナンシャル ウェルビーイングはどのようにすれば向上するでしょうか。
 ミライ研では、「ファイナンシャル ウェルビーイングの実現に向けては、自身が生涯のキャッシュフローをマネジメントできていることが有効」と考えています。「生涯におけるキャッシュフローマネジメント」の概念は、具体的には、生涯においてヒト・モノ・お金の3つの資産をどのように形成するか、またそこに金融商品・サービスをどのように適切に活用していくかです。例えば、ヒト資産の形成については、キャリアアップのための自己投資や教育を受けること、モノ資産の形成の代表としては住宅の取得などを指します【図表3】。
 しばしば、生涯の支出のタイミングと手元資金のギャップが生じることがありますが、それを上手に埋めていくパーツが金融商品・サービスです。具体的には、生涯の収支ギャップを解消するために、「お金」の面では、老後生活資金を例にとると、退職後に生活費より年金収入の方が少なくなることを想定すると、現役時代に積み上げてきた資産の取り崩しを行う「老後資産形成・資産活用」を生涯にわたり行うことがあげられます。「ヒト」資本の形成に関しては、奨学金なども活用しながら人的資本の形成に取り組んだり、ご自身・ご家族の万が一に備えるべく生命保険を活用することなどが該当します。「モノ」資産に関しては、代表的な例として、住宅が必要なタイミングと手元資金のギャップを「住宅ローン」で埋めることが考えらえます。(詳しくは、【第68回コラム】もご覧ください)。

図表3 金融商品・サービスの役割 ~生涯を通じて発生する「金融資産」と「支出」のギャップを解消~

 さらに、これら3つの資産は相互に作用し合います。
 一例としては、自己投資によりキャリアアップすることで、自身が「お金を稼ぐ力」をつけることが考えられます。また、不動産を裏付け資産として「リバースモーゲージ」などを活用することでモノ資産をお金に変換することも考えられます(リバースモーゲージについて:不動産活用ローン(リバースモーゲージ))。

 次回は、この長期におけるキャッシュフローマネジメントを行うにあたり、お金の面での不安の最大要因を探り、その不安を取り除くことを考えてみましょう。それにより、皆さんのファイナンシャル ウェルビーイング実現に一歩近づくヒントになればと思います。

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