【第21回】保険と資産形成③

「資産形成」における「生命保険」や「損害保険」の位置付け

2021.03.22

「資産形成」における「生命保険」や「損害保険」の位置付け

井戸社長に伺います。「資産形成」のための「金融リテラシー」というと、「投資手法」や「投資タイミング」などが中心で「生命保険」や「損害保険」は“別のジャンル”と捉える人も多いと思いますが、如何でしょうか。

 結論から申し上げますと、私自身は、「資産形成」のための「金融リテラシー」としては「投資、生命保険、損害保険」を3点セットで考える必要があり、決して“別ジャンル”のものではないと考えています。
 確かに「投資」というと「儲かりそうなものを見つけて投資して、タイミングよく売却するもの」という印象が強いと思います。「投資」の世界は幅が広く奥も深いですし、金融機関や企業年金のような「機関投資家」や「(伝説の)相場師」のような」もあれば、そこまでは徹底していなくても、自ら調査・研究して」もあります。
 「保険と資産形成①」で、「予測しやすい事態」(住宅購入の頭金、教育費など)には「貯蓄」や「積立型の投資」がマッチしているというお話しましたが、ここでいう「投資」は、プロフェッショナルとしての「投資」や趣味としての「投資」とは違った、」ともいえるものであると考えています。
 マネープランとしての「投資」は「長期、積立、分散」に代表されるように、将来のキャッシュフローも含めて「積立計画」に基づき実践していくものです。計画どおりの積立投資ができるかには「投資実績(利回り)」も重要ですが、それだけではなく「将来も計画どおり積立資金を捻出できるか」、「それまでに貯めた資金を想定外のイベントで支出するようなことにならないか」いうこともとても大切です。前者であれば「病気やケガで働けなくならないか」(主に生命保険で対応)、後者であれば「地震、火事、事故などで、想定外の支出が発生しないか」(主に損害保険で対応)、といったリスクに「備える」ことが重要になるということです。
 このように考えると、マネープランとしての「投資」を実践していくためには、「(マネープランとして)投資、生命保険、損害保険」の3つが密接不可分で、一人一人のライフサイクルに応じて発生する「予測しやすい事態」と「予測しづらい事態」の両方に備えていくことが「資産形成のために必要な金融リテラシー」のエッセンスであるといえます。
 ビジネス(経営)に必要な要素として「ひと、もの、かね」という言い方をされることが多いですが、個人のマネープランにおいても「ひと、もの、かね」をそれぞれ有効活用またはリスクヘッジすることが重要です。そう考えると「かね」である金融資産にシッカリ働いてもらうこと(マネープランとしての「投資」)は言うまでもないですが、収益を稼ぎ出す「ひと」という資産には「生命保険」で保障をかける必要がありますし、物理的な資産である「もの」、すなわち、住宅、家財、自動車などについては「損害保険」でリスクヘッジする必要があるということになります。
 3回シリーズにお付き合いをいただいた皆さま(人生の経営者である皆さま)のよりよい「マネープランの実践」を願いつつ、「保険と資産形成」の最終回とさせていただきます。

プロフィール紹介

三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん

 1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
 年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
 日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。

【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)