【第51回】資産形成と取り崩し①

「貯蓄から投資へ」と「貯蓄から資産形成へ」の違いとは?

2022.03.02

「貯蓄から投資へ」と「貯蓄から資産形成へ」の違いとは?

 資産のミライ研究所では、同じ三井住友トラストグループの保険販売会社である三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社(以下、LP社)と情報交換や意見の交流を図っており、コラボセミナーなどを開催しています。2021年3月の『保険と資産形成』の3回シリーズに続いて、LP社の井戸社長に登場いただき、今年は『資産形成と取り崩し』というテーマでお話いただきます。今回は、その第1回目として『「貯蓄から資産形成へ」と「貯蓄から投資へ」の違い』についてです。

井戸社長に伺います。「貯蓄から投資へ」は20年以上前から使われてきましたが、ここ数年、使われだした「貯蓄から資産形成へ」との違いはあるのでしょうか?

 これらのフレーズは同じ意味で使用されることもあれば、少し異なる意味合いで使われることもありますが、私はそれぞれを区別して考えた方が「自分が志向しているものがどういうものなのか」が理解し易いように感じています。
 2021年3月のコラムで、「・・・「投資」の世界は幅が広く奥も深いですし、金融機関や企業年金のような「機関投資家」や「(伝説の)相場師」のようなプロフェッショナルとしての「投資」もあれば、そこまでは徹底していなくても、自ら調査・研究して趣味として楽しむような「投資」もあります。「保険と資産形成①」で、「予測しやすい事態」(住宅購入の頭金、教育費など)には「貯蓄」や「積立型の投資」がマッチしているというお話しましたが、ここでいう「投資」は、プロフェッショナルとしての「投資」や趣味としての「投資」とは違った、マネープランとしての「投資」ともいえるものであると考えています。」というお話をしました。
 ここで言う「投資」の中では、趣味として楽しむような「投資」は「貯蓄から投資へ」というフレーズが想定している「投資」だと考えています。つまり、何らかの理由により既にまとまった金融資産を保有している個人に対して、「貯蓄」だけではなく一部は「投資」に回しましょう、あるいは「投資」の割合を増やしましょう、というのが「貯蓄から投資へ」というフレーズの意味合いということです。「投資」を行う目的は、趣味のように楽しむこと以外にも、投資を通じて社会との繋がりを感じることかも知れませんし、(インフレを予想して)既に保有している金融資産の実質的な価値を維持したいといったことかも知れません。
 これに対して「貯蓄から資産形成へ」はマネープランとしての「投資」に当たるもので、何らかの目的に対して十分な金融資産は保有していない個人が「貯蓄や投資」を組み合わせて「目標資産額」を積み上げていくものだと考えています。何らかの目的というのは、住宅購入であったり、教育資金であったりと人それぞれですが、「人生100年時代」にあって、どの個人にも大切になるマネープランとしての「投資」と言えば、やはり、公的年金を補完する「自助」を想定した計画的な老後資金の積立ではないでしょうか。また、老後資金の積立というならば「資産形成だけではなく取り崩しも含めた計画」を策定する必要があるということになります。では、公的年金を補完する「自助」を想定した「資産形成&取り崩しの計画」とはどのようなものなのか、次回コラムでお話したいと思います。

プロフィール紹介

三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん

 1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
 年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
 日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。

【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)

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