【第190回】金利上昇がもたらす住宅ローン利用の変化①

「変動金利・頭金ゼロ戦略」も終焉?!

2025.05.28

「変動金利・頭金ゼロ戦略」も終焉?!

 1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本の住宅ローン金利は「低下局面」を経て「金利なき時代」が長く続きました。しかし、2024年に日本銀行がゼロ金利政策を解除したことで、「金利がある世界」に戻りつつあります。このような状況下で、住宅ローンの利用についてミライ研のアンケート調査で確認をしたところ、「家計としてどのような選択をするか」に変化の兆しがみられました。

1. 長く続いた「変動金利人気」から「長期固定金利」へ揺り戻しの気配

 まず、過去35年の流れを確認すると、金利なき時代を経て、変動金利を選択する人が大幅に増加しました(図表1)。1990年までの借入れのうち、変動金利は24.1%でしたが、2021年~2024年には60.4%と約2.5倍に伸びています。

図表1 住宅ローンの金利形態(1990年~2024年)

 しかし、足元5年をみると「変動金利人気」から変化が見られます。2023年までは、変動金利が6割以上と「金利なき時代」のトレンドが続いていましたが、2024年には変動金利が50.0%に減少しています(図表2)。それに対し、「固定期間31年以上」や「全期間固定」といった、長期の固定金利の選択が増加しています。
 金利上昇の流れを受け、「今後、上昇が予想される変動金利」ではなく「歴史的には低水準の長期固定を利用し、長期的にお得な選択をしたい」という心理がうかがえます。

図表2 住宅ローンの金利形態(2020年~2024年)

2. 頭金「ゼロ・1割」での住宅購入も今は昔?!「きちんと準備」に回帰の予兆

 頭金とは、住宅購入価格から住宅ローン借入額を引いた、現金で支払う部分のことを指します。かつては、「頭金を2~3割準備する」というのが一般的な考え方でしたが、借入金利が下がるにつれて「頭金をゼロ・1割にして、借りられるだけ借りる」という考え方が主流となりました。
 実際、ミライ研の調査においても、1990年までは、頭金がゼロ・1割のケースが28.1%、2・3割のケースが56.0%でしたが、2021年~2024年では、頭金がゼロ・1割のケースが59.8%、2・3割のケースが24.1%と逆転しています(図表3)。

図表3 住宅ローンの頭金割合(1990年~2024年)

 しかし、頭金の割合についても足元5年を確認すると、2020年~2023年までは、頭金ゼロ・1割が半数を超えて主流派でしたが、2024年は、頭金ゼロ・1割が44.9%と減少し、2割以上が増加しています(図表4)。
 これも先ほどの金利形態同様、今後の金利上昇を考慮して「借入金額を減らす=頭金を増やす」といった行動をとる人が出始めたと考えられます。

図表4 住宅ローンの頭金割合(2020年~2024年)

 「変動金利・頭金ゼロ戦略」も、金利上昇に伴って転換が生じているものと思われます。次回は、借入金額・期間について確認します。

コラム執筆者

矢野 礼菜(やの あやな)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員

2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。ウェルビーイング学会会員。

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