【第68回】ファイナンシャル ウェルビーイング(FINANCIAL WELL-BEING)とは? ②

向上のカギは「長期」「多額」のキャッシュフローマネジメント

2022.08.10

向上のカギは「長期」「多額」のキャッシュフローマネジメント

 前回コラムで、お一人お一人がご自身の価値観・ライフスタイルに応じて、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定により、お金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」(ファイナンシャル ウェルビーイング)であることの重要性が高まってきているという話をしました。
 もう少しかみ砕いてみますと、資産形成期、退職前後、セカンドライフと、一人一人に様々なライフイベントがあります。よくビジネスの3大要素は「ヒト、モノ、カネ」という言い方がされますが、お一人お一人もご自身の「人生の経営者」として、やはりビジネスと同様に「ヒト、モノ、カネ」という3つの要素で、生涯を通じて発生する「金融資産と支出のギャップ」に対応していくことが必要になります。
 全体像(図表)をご覧ください。「カネ」の観点では、「金融資産と支出のギャップ」の中でも典型的なものとしては、人生100年時代、長くなったセカンドライフで公的年金だけでは不足が見込まれる収入を「自助年金」としてどれぐらい準備しておくかを想定し、資産形成期から計画的に積み立てておく、といったことがあげられます。

図表

 「モノ」の観点では、「金融資産と支出のギャップ」の中でも典型的なものとして、住宅購入時の住宅ローンと、その後のローン返済があげられます。持ち家派の場合には、住宅ローン返済があるため、賃貸派よりも資産形成期の貯蓄や積立投資に充てられる資金が少なくなるかもしれませんが、その一方で、持ち家を裏付け資産として、セカンドライフでキャッシュフローを創出する商品・サービスの活用(リバース・モーゲージ)も考えられます。更に、住宅・家財といった「モノ」が火災や自然災害で喪失した場合に発生する「金融資産と支出のギャップ」に備えるような商品・サービスの活用(火災保険)も考えられます。
 「ヒト」の観点では、自分自身の稼ぐ力をアップするための就学・資格取得に必要となる資金を確保する商品・サービスの活用(例えば、奨学金、自己啓発・教育ローン)や働けなくなったときに備えるような商品・サービス(所得補償保険)も考えられます。
 このように「ヒト」「モノ」に関するものも、金融商品・サービスを介して「カネ」と密接に関係しており、これらをトータルで賢く活用していくことが、益々、大切になってきていると言えます。長い生涯を見通して、この「ヒト、モノ、カネ」に関して発生するお金の過不足、とくに「長期」「多額」の過不足を把握して、それぞれに相応しい金融商品・サービスをスマートに活用して、お金に関する不安を解消していくことがファイナンシャル・ウェルビーイングにとっては大切なのではないかと考えています。
 一人一人が「それぞれに相応しい金融商品・サービスをスマートに活用」していくためには、「金融リテラシーの向上」が非常に大切なポイントとなります。世の中で幅広く実効性を伴った形で「金融リテラシーの向上」を実現していくには、コロナワクチン接種でも効果を発揮したような「職域」という“場”での取組や、「学校」という“場”での取組がこれまで以上に重要になると考えています。この点については「金融審議会 市場制度ワーキング・グループ 中間整理」でも言及されています。
 次回は、生涯を通じて発生する「金融資産と支出のギャップ」の中でも、とくに「長期」「多額」である「住宅ローン」と「自助年金」について考えてみます。

プロフィール紹介

執行役員 資産形成層(職域)横断領域 副統括役員
井戸 照喜

 1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
 年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からラップ口座の運用責任者。2013年から投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年5月に三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社取締役社長。2022年4月から現職。
 日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。

【主な著作】
『銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)

【執筆協力】
『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)

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