【第193回】令和の老後不安事情①
2025.06.18
ミライ研が2025年1月に実施したアンケート調査の結果では、お金の不安の1位は、年代を問わず「老後資金」となっています【図表1】。なお、同様の調査を毎年、過去6回にわたり実施していますが、この傾向に変わりはありません。
老後資金不安があると回答した人にその理由を複数回答で選択いただいたところ、【図表2】のとおり、年齢層を問わず「老後の生活費の水準がわからないから」との回答が多数ありました。また、若年層では「年金額の水準がわからないから」「年金を貰えるかどうかがわからないから」との回答が多数ありましたが、それらの回答は年齢が上がるにつれて減少傾向が見られました。(なお、公的年金制度について、現行制度が続いたとしても、昨年の財政検証結果からは「年金を貰えるかどうかがわからない」という状況にはならないとミライ研では考えています。)
ミライ研では、「(リタイア時に準備しておきたい)老後資金」は「老後の生活費総額」と「老後の収入総額」の差額【図表3】と想定しています。
アンケート調査では、各項目について深掘りしています。
まず、「老後資金」(公的年金のほかに、自分で準備しておく金額)として必要な金額をたずねると、どの年代においても4割から5割の方が「わからない、見当がつかない」と回答しています【図表4】。
また、老後の生活費の想定に関してたずねたところ、回答者の約半数(49.0%)が「わからない・答えたくない」と回答しています【図表5】。リタイアへの意識が高まってくる50歳代でも「わからない・答えたくない」比率が5割程度あり、年齢が高くなっても「想定できていない」比率が減少していない点が特徴といえます。
なお、50歳代・60歳代に「現時点の生活費」と「老後生活費(見込み)」をたずねています【図表6】。現時点の生活費が25万円以上の区分においては、老後生活費の見込みを現時点の生活費のおおよそ7~8割程度と想定していることが確認できました。リタイア後の生活費について「現時点の生活費から極端に減らさなければいけない」という意識ではないようです。
次に、老後の「収入」についての意識を見てみると、柱である「公的年金」については、公的年金の受給額を「イメージできていない」比率が全年代で58.6%と約半数を占めています。年齢が高くなるにつれて公的年金の受給額がイメージできる割合は高くなりますが、50歳代でも「イメージできていない」比率が多数派となっています【図表7】。
ここまで、老後資金に不安を持つ人が約半数であることと、その理由が、老後に関するお金がわからないためであることを見てきました。
次回は、年金や退職金といった、収入面について更に深掘りします。
コラム執筆者
杉浦 章友(すぎうら あきとも)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
2010年、京都大学大学院理学研究科修士課程修了。三井住友信託銀行に入社し、企業年金の制度設計・数理計算業務に従事。厚生労働省へ出向し年金に関する公務に従事。2022年10月よりミライ研主任研究員。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、AFP、日本年金学会会員、ウェルビーイング学会会員。翻訳書として『図表でみる世界の年金OECD/G20インディケータ(2019年版)』(明石書店、2021年、岡部史哉(監修)らとの共訳)がある。