【第25回】新型コロナショックと資産形成④
2021.04.28
「新型コロナショックは、資産形成の追い風?逆風?その2、その3」では、公募投資信託への資金流入の活発化や、NISA口座開設数の増加と、そうした動きの背景となった新型コロナショックによる社会的な変化をお伝えしましたが、株式市況も資産形成を始めるきっかけの1つになったことでしょう。こちらもコロナショックの影響を少なからず受けています。
新型コロナショックによる世界的な景気後退を受け、日経平均株価は2週間で5,000円弱急落して3月半ばには16,000円台に<図表1>、公募追加型株式投資信託の価格指数も、同じく3月に大きく落ち込みました<図表2>。
前述した公募投資信託への資金流入の活発化やNISA口座開設数の増加などは、急落した株式相場を資産づくりのチャンスと捉えた個人投資家の動きを反映したものですが、この中には、「投資へのハードルが大きく下がった」ことに背中を押された資産形成への新規参入者も相当数含まれていたとみられます。
前掲の株価指数と株式投資信託の価格指数は、ともに3月に底を打ったあと上昇に転じ、秋口にはコロナショック前の水準をほぼ回復。11月以降は、米国での政権交代、新型コロナワクチンの有効性や早期実用化見込みに関する報道、その後の摂取開始などによりさらに急騰しました。
資産形成への1歩を踏み出したあと、早いタイミングで成果が出れば、資産形成へのモチベーションが上がり継続の意思も強まるのが人間の心理。
つみたてNISAや企業型DC、iDeCoは、始めてしまえば自動的に積み立てが継続されていく仕組みなので、成果がマイナスになったからといってすぐに解約するケースは稀かもしれませんが、資産形成を成功体験からスタートできたという意味で、今回の株価の動きは理想的だったと言えます。
上記のように、最近の資産形成への動きに「コロナ効果」が関与していることは明らかです。ただ、1996年に「貯蓄から投資へ」が掲げられて以来、投資優遇制度の創設、投資商品の小口化、低手数料商品の増加など、投資や資産形成を推し進めるための制度や環境が少しずつ整えられてきたことも見逃せません。
制度面では、2001年にDC(確定拠出年金)、2012年1月に企業型DCにマッチング拠出制度が導入され、2017年には個人型DC= iDeCoの加入対象が拡大。また、2014年にNISA(少額投資非課税制度)、2018年につみたてNISAがスタートされるなど、制度の拡充も進んでいます。
投資商品の小口化については、2001年の商法改正で株式投資単位の引下げが簡易化され、以後、多くの企業が投資単位を引き下げています。また、投資信託の最低購入額も、足下では銀行窓口が1万円、インターネットバンキングや総合証券が1,000円、ネット証券が100円と、小口化も最終局面まで来ている感があります<図表3>。
手数料に関しては、ネット証券の出現・台頭を軸に引き下げが進行中です。手数料ゼロのいわゆるノーロード投信の残高は年々増加しており、つみたてNISAの投資対象商品となる要件のひとつが「ノーロード」であることなどからも、この傾向は続くとみられます。
こうした、資産形成への一歩を踏み出しやすくする「下地」に、新型コロナショックによる社会的な変化(時間的なゆとりの出現やオンライン化の進展)が重なったからこそ、資産形成世代のマインドが「いつか始めたい」「始めなければ」から「今始められる」に変わったのではないでしょうか。
もちろん、現時点で資産形成を始めていない人も少なくないと思われますが、「機会を逸した」とあきらめる必要はありません。株価の底値は逃したかもしれないですが、各種優遇制度はもともと中長期にわたる資産形成を意図した設計になっていますし、投資商品の小口化やテレワークを含むオンライン生活への移行も、「ニューノーマル」として定着する可能性が高い(逆戻りはしにくい)と考えられるからです。
好条件の多くは、少なくとも当面は継続する見込みですし、マクロ環境的にみても、これからスタートしても決して遅くはないでしょう。テレワークへの移行で仕事帰りの1杯が減り、自粛生活で友人と会う機会も減ったこの1年で、「外食が減ればその分浮く→資産形成の原資が捻出しやすくなる」ということを体感した人も少なくないでしょう。こうした経験則も活かしながら、新型コロナショックをきっかけに、家計を「資産形成体質」に変えるチャンスかもしれません。