【第128回】「健全な借入」をライフプランに位置付ける①
2023.11.01
「お金貸す・借りる」という行為の日本におけるルーツは、通貨としての「お金」の誕生をさかのぼり、弥生時代ともいわれています。「金の貸し借りは不和の基」「貸し借りは他人」「負わず借らずに子三人」など、お金の貸し借りに関することわざも多くあることからも、古くからお金を借りるという行為は人々の生活の中にあり、また現代においてもそうであるかと思います。
一方で、お金を借りることに対する価値観や行動様式についてはその行為の特性上、「隣の人はどうしているのか」謎に包まれている部分も少なくないかと思います。この点について、ミライ研のアンケート調査をもとに紐解き、ファイナンシャル ウェルビーングの見地から「健全な借入」について考えてみたいと思います。
2023年1月にミライ研が1万人規模で実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)では、新たな設問として「お金を借りる(ローンを使う、借金をする)」ことに対するイメージについてお伺いしました。すると、61.7%と半数以上の方が「できれば借金はしないほうが良い」を選択しました【図表1】。
では、借入れの利用状況はどうでしょうか。本アンケートの中では借入れのなかでも、住宅ローンの利用経験【図表2】と、毎月の生活費を補うためのキャッシング等の利用経験【図表3】についてお伺いしました。
「自身もしくは配偶者・子どもが居住する住宅を、自身で購入された方」のうち、約8割の方が住宅ローンを利用しているもしくは利用していたと回答され、利用経験があることがわかりました。
また、毎月の生活費が不足するときに、「キャッシング」といった比較的短期の借入れを利用し埋め合わせたことがあるかについてお伺いしたところ、利用経験がある選択肢としては、「定期的に利用している」が2.9%、「たまに利用している」が4.8%、「何度か利用したことがある」が14.8%である一方、「一度も利用したことがない」と回答された方が77.5%と大半を占め、キャッシングに関しては【図表1】の「できれば借金はしない方がよい」の意識を反映しているともいえる結果でした。
生活の中で借入れを少なからず活用しているにもかかわらず、「できれば借金はしないほうが良い」のイメージにつながるのは、なぜでしょうか。改めて【図表1】の選択肢に目を向けてみると、選択肢の背景を青塗りしている「~は良い借入だ」の選択率は1割~2割弱とあまり高くありません。
お金を借りると、利息の支払いが必要であるのはもちろんのこと、返済できなくなったらどうするかといった不安感があったり、返済が滞るとペナルティが課されたりするなど、「金融資産があるなら借金はしないほうが良い」かもしれません。一方で「お金を借りる」という行為は、「保有している金融資産」と「必要な支出の金額・時期」のギャップを埋めるという機能も有しています。例えば、自宅を購入したいと考えた際、現金一括で購入しようとすると、住宅購入に必要な金融資産を準備するまでに、一般的にはかなりの年月が必要となりますが、住宅ローンを利用することで自分のライフプランに合ったタイミングで購入をすることができます。
近年、関心の高まっているファイナンシャル ウェルビーイングを実現するには、自身のライフプランとそれに対応したマネープランを考え、金融商品・サービスをうまく活用していくことが不可欠です。「金融商品・サービス」には、投資に関するもののみならず、もちろん「借入れ」に関するものも含まれます。投資に関する商品が千差万別であり、みなさん自身の考えによって取り入れるべきものが異なるのと同様に、「借入れ」に関するものもさまざまですので、借入れについての理解を深め、「どのような場面であれば借入れをうまく活用できるか」という点を、戦略的に考える必要があります。
「借入れ」に関しては、
といった目線で取り入れることが重要かと思われます。
次回コラムはより具体的に、「住宅ローン」を自身のライフプランとそれに対応したマネープランの中でどのように位置付けていくかについてお伝えします。