【第90回】
2023.01.25
第70回のコラムでもご紹介したとおり、ミライ研が実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)において、お金の不安は、世代を問わず、1位が「老後資金」でした。
では、実際に高齢者はお金に困っているのでしょうか。政府統計をもとに確認してみましょう。
60歳以上の2,435人へのアンケートである「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」(2022年6月、内閣府)では、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」とした方は12.4%、「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」と答えた方は、55.3%いらっしゃいます。この2つを合計すると67.8%ですので、多くの高齢者は「心配なく」暮らしていることがわかります。ただし、ゆとりがある暮らしをしていると答えた方は全体の約1割にとどまっています。
老後の収入の主なものといえば年金です。「2021年 国民生活基礎調査」(2022年9月、厚生労働省)をみると、公的年金を受給している高齢世帯のうち、収入の8割以上が公的年金という方々が過半数にのぼります。
そもそも公的年金は、あくまで「貧困に陥るのを防ぐ」ものです。ゆとりある生活を送るには、いくらかの備えもしておく必要があると思われます。
では、公的年金でいくらくらい受け取れるのでしょうか。加入していた制度や期間、現役時代の収入にもよりますが、令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(2022年12月、厚生労働省)によれば、会社員だった方の平均でみると、厚生年金と基礎年金の合計で月145,665円となっています。
しかしこれはあくまで平均です。ゆとりある生活のために今から準備するには、ご自身の公的年金の金額を知ることが重要です。厚生労働省が公的年金シミュレーターというものを公開しています。もしお手元に、「ねんきん定期便」という日本年金機構から年1回お誕生日頃に届くハガキと、スマートフォンの2つがあれば、簡単に公的年金の金額を試算できますので、試してみてはいかがでしょうか。
世代を問わず不安材料となる「老後資金」ですが、実際、多くの高齢者は公的年金によって「心配なく」暮らしていて、一定程度は公的年金の収入で老後の生活費を賄っていることがわかりました。とはいえ、暮らしにゆとりがある高齢者は少ないこともわかりました。老後の収入や支出は一人ひとり異なりますので、ゆとりある老後生活のためには、公的年金の給付見込み額を把握して、ご自身のライフプランに応じた備えをしておくことが大切です。ただやみくもに資産を増やせば不安が解消するというわけではなく、将来を見据えて行うことが重要です。老後不安の解消のために、まずは公的年金のことを学ぶところから始めてみましょう。具体的な年金制度のお話は、次回のコラムにて。