【第13回】住宅ローンと資産形成⑨《寄り道コラム》
2020.10.30
最近何かと話題の「おひとり様」。前回2015年の国勢調査で単身世帯(ひとり暮らしの世帯)が初めて全体の3分の1を超えたあたりから、その行動や思考に対する注目度も急速に上がっています。特に、おひとり様の老後の暮らし方や、その資金を確保するための資産形成については、おひとり様本人たちも「他の人はどうしているんだろう?」と大きな関心を持っているようです。
そこで今回と次回は、「住宅ローン」からは少し離れ、おひとり様の資産形成について、男女比較をしながら見てみたいと思います。
※三井住友トラスト・資産のミライ研究所で実施したアンケートでは、既婚/未婚について①「結婚している・パートナーがいる」、②「独身である(未婚・離婚・死別)」の2択でお答えいただいており、本レポート内の「独身」「おひとり様」に関する分析結果は、②とご回答いただいた男性2,669名、女性2,211名のデータを用いたものです。
まず、独身男女の金融資産保有額が年齢とともにどう変化していくかを見てみると、男性は、20歳代:291万円→60歳代:1,163万円と40年間で約870万円の増加、女性は同じく169万円→1,410万円と1,240万円の大幅増加となっていました(図表1)。
増加額もさることながら、増加のプロセスも男女で大きく異なっていました。
「今回のアンケート調査の結果によれば」という限定付きではありますが、着実に保有額を伸ばしているのは意外にも男性の方で、女性は40歳代でいったん減少、50歳代から60歳代にかけての10年間で800万円の急増という「山あり谷あり型」となっており、最終的には一気に男性の保有額を追い越します。
なぜ、独身女性の資産形成が50歳代以降に加速するのか。はっきりした理由は今回のアンケート結果からは見出せませんでした(独身女性の年収が50歳代以降に急増しているわけでもありませんでした)。
ただ、住宅を購入した女性が、若いうちはローンを返す(貯蓄を増やすよりも借金を減らす)ことを優先させ、返済完了後に貯蓄に本腰を入れている可能性はあるでしょう。実際、ローンを利用して住宅を購入した独身者のうち既に返済済みの人の比率をみると、40歳代では男性が33.9%、女性が31.9%とほぼ同じでしたが、50歳代になると男性55.4%、女性71.0%と、女性の返済完了者は一気に7割を超えます(図表2)。
ところで、おひとり様の老後資金必要額を、高齢単身世帯の家計収支を元に計算すると、だいたい1,500万円くらいになります(「老後資金2,000万円問題」の“2,000万円”は、夫婦2人世帯の必要額です)。アンケート回答者の60歳代時点の平均金融資産保有額は、前述のとおり独身男性が1,163万円、独身女性が1,410万円なので、女性は必要額まであと一息、男性は必要額到達がかなり難しいということになります。
続いて、独身男女の金融資産保有額別の分布をみると(本シリーズ①の時と同じく、「300万円未満」「300万円以上1,500万円未満」「1,500万円以上」の3つの層に分けました)、男性は年齢が上がるにつれ300万円未満の層が少しずつ減少、1,500万円以上の層が増加し、中間層の比率はあまり変わらないのに対し、女性は30歳代~50歳代の間は構成比がほとんど変化せず、60歳代になると300万円未満層と1,500万円以上層の両サイドが急激に膨らんで中間層が薄い形になっており、60歳代おひとり様女性の金融資産格差が大きいことが目につきます。(図表3)。
おひとり様女性は、60歳代時点で老後資金必要額1,500万円に近い額の金融資産を持っているので、老後の資金面の心配はそれほどしなくて大丈夫—と思いたいところですが、これはあくまでも平均値でみた場合の話。金融資産を1,500万円以上保有し、老後はひとまず安泰のおひとり様が4割弱いる一方で、保有額が300万円未満でうかうかしてはいられないおひとり様も4割強いるのです。
おひとり様男性については、金融資産格差は女性ほど大きくないものの、老後資金必要額である1,500万円をクリアできている人は3割に満たず、こちらはこちらで「資産形成待ったなし!」の人が大勢いると言えます。
では、今現在、資産形成に取り組んでいるおひとり様男女はどれぐらいいるのか、そして具体的にはどんな取り組みをしているのか。紙面が尽きてきましたのでこのあたりの話は次回に。