【第12回】住宅ローンと資産形成⑧
2020.10.16
本シリーズ⑥で、持家/住宅ローンあり世帯の資産形成の現状は、総じてみれば「やる気はあれど結果はいまひとつ」と書きましたが、資産形成が進んでいる人が全くいないわけではありません。
例えば、持家/住宅ローンあり世帯の60歳代時点の金融資産保有額は、平均すると1,100万円で、老後資金として必要な目安である2,000万円に遠く及びませんが(シリーズ③図表2ご参照)、3,000万円以上保有する世帯も約1割あります。また、同じく、持家/住宅ローンありで資産形成に取り組んでいる人の年間資産形成額は、平均では91万円ですが、年に200万円以上資産形成できている人も約1割います(シリーズ⑥図表2ご参照)。
今回からは、そんな「住宅ローンがあっても資産形成が順調に進んでいる人」の特徴をさぐっていこうと思います。
まずは、家計面でどんな工夫や努力をしているかについて。
※資産のミライ研究所で実施したアンケートでは、「家計面で実施している具体的な工夫・努力」について、下記【 】内の14の選択肢から複数回答可でご回答いただきました。
【家計簿をつけている(アプリ利用含む)、食費の節約、衣服や嗜好品(酒・タバコほか)代の節約、光熱水費の節約、旅行・レジャー・趣味代の節約、生命保険・損害保険の見直し、住宅ローンの借り替え、住宅ローンの繰り上げ返済、片働きから共働きに変更、転職、副業・複業、ふるさと納税等(税制優遇措置を利用)、ポイントやマイレージの活用、特に何もしていない】
初めに、「持家/住宅ローンあり世帯全体」ではどのような家計面の工夫・努力を行う人が多いのか(実施率が高いのか)をみてみました。結果は図表1のTOTAL欄です。
トップは「ポイントやマイルの活用」で、回答者の4割が実施していました。最近は、「終活」や「婚活」と並び「ポイ活」という言葉も市民権を得た感がありますが、アンケートの結果をみればそれも納得です。
2位と3位は「節約(光熱水費の節約と食費の節約)」、4位が「家計簿をつける」で、いずれも3人に1人強が実施。5位は再び「節約(衣服、嗜好品代の節約)」で、4人に1人が実施しているという結果でした。
「ポイ活」「節約」「家計簿」が、令和時代の日本の家庭が行っている家計の工夫の3本柱と言えるでしょう。
なお、家計面の工夫・努力を「何もしていない」と回答したのは14.4%でおよそ7人に1人。1つの世帯が行っている工夫・努力の数は平均で2.8個した。
続いて、持家/住宅ローンあり世帯を、保有している金融資産の額により「300万円未満」「300万円~1,500万円未満」「1,500万円以上」の3つのグループに分け、各グループが行っている家計面の工夫・努力を比較しました。結果が図表1の右側3列です。
どの金額層のグループでも、トップはやはり「ポイントやマイルの活用」でした。ただし、実施率は、金融資産保有額300万円未満のグループでは35%、300万円~1,500万円未満と1,500万円以上のグループでは45%前後と、300万円ラインを境に差が出ました。
「ポイントやマイルの活用」を除くと、保有額300万円未満のグループでは、まずは日々の「節約」で、次に「家計簿」が来るのに対し、300万円以上の2グループでは「節約」より「家計簿」の方が上位になっています。
ちなみに、節約の中心は「衣・食・住(光熱水費)」で、食費と光熱水費の節約はどのグループでも30~35%前後が実施。家計簿については、金融資産保有額が大きいほど利用率が高く、保有額1,500万円以上のグループでは4割に達していました。
「特に何もしていない」人の比率は、保有額が300万円以上のグループでは1割前後なのに対し300万円未満のグループでは17.9%と高く、1つの世帯が実施している項目数は300万円以上のグループでは平均3.1個なのに対し300万円未満のグループでは平均2.6個と、ここでも300万円未満か以上かによる違いが明らかでした。
住宅ローンを返済しつつある程度の金融資産も保有できている(≒資産形成が進んでいる)人は、総じて家計面の工夫・努力を積極的に行う傾向にあり、特に「ポイ活」の実施率が高く、節約するよりは家計簿を利用する人が多い—といった特徴を持っているようです。
今度は、工夫・努力を7つのジャンルにくくり(例えば、各種の節約をまとめて「支出減」としました。詳細は図表2下の(注)をご参照)、各ジャンルの実施世帯の平均金融資産保有額をみてみました。
まず目につくのは、支出を減らす努力、収入を増やす努力をしている世帯の金融資産保有額は相対的に低く、600万円台に留まっているということ。食費や光熱水費を節約して支出を抑えたり、共働きにして収入を増やすよりも、家計簿をつけたりポイントやマイルを活用する方が資産形成につながりやすいという見方ができるかもしれません。
図表1でも、金融資産保有額が大きいグループでは節約をする人より家計簿をつける人の方が多く、ポイントやマイルを活用する人の比率も高いという結果が出ていましたので、少なくとも、節約よりはポイ活や家計簿利用の方が資産形成を推し進める力がありそうです。
保険の見直しや住宅ローンの見直し(借り換え・繰上げ返済)は、図表1の実施率トップ5入りは逃したものの、実施世帯の金融資産保有額は家計簿やポイ活と同じく800万円を超えていました。
本シリーズのメインテーマである「住宅ローン保有と資産形成」という観点からすると、住宅ローンは確かに資産形成の足かせではあるけれども、裏を返せば、住宅ローン保有者には、借り換えや繰り上げ返済をすることで、資産形成のギアチェンジをするチャンスがある(資産形成のスピードを上げるオプションを1つ余分に持っている)、そんな前向きなとらえ方もできるかと思います。
ふるさと納税等の優遇税制を利用する世帯は、金融資産保有額が1,180万円と飛びぬけて大きくなっていますが、これは、高所得者ほど恩恵が大きい(節税効果が高まる)制度なので「ニワトリが先か卵が先か」という話になるでしょうか。
なお、家計面の工夫や努力を「特に何もしていない」世帯の金融資産保有額は、支出を減らす努力、収入を増やす努力をしている世帯を更に下回り、634万円と最低でした。
以上、金融資産保有額別にみた工夫・努力の実施率(図表1)と、実施している工夫・努力別にみた金融資産保有額(図表2)の両方向からみた結果をまとめますと、
—といったことになるかと思います。
このうち、ポイントやマイルの活用については、キャッシュレス化の時流にもマッチしており、資産形成に結び付く身近な工夫として今後一層加速すると考えられます。