【第115回】金融教育の資産形成効果を考える

~ その① 「受講経験の有無」によって生じる資産形成格差 ~

2023.08.02

~ その① 「受講経験の有無」によって生じる資産形成格差 ~

 「金融教育」、「金融経済教育」という言葉が、世の中に広く浸透し始めています。
 岸田首相肝いりで策定された「資産所得倍増プラン」にも、7つの柱の1つとして【安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実】が掲げられ、ますます注目度が上がっているようです。
 そこで、今回から2回にわたり、「金融教育の資産形成効果」についてお伝えしようと思います。学校や職場での金融教育の受講経験の有無や、受講した時期によって生じる「資産形成格差」はどれぐらいなのか。アンケート調査の結果からみてみました。
 まず今回は、金融教育を受けたことが「ある」か「ない」かによる差についてです。

金融教育の資産形成効果は500万円以上?!

 結論から申し上げますと、学校や職場で金融教育を受けたことが「ある」人と「ない」人では、60歳代時点で、金融資産保有額に500万円以上の差がつきます。
 図表1は、金融教育の受講経験が「ある」人と「ない」人の金融資産保有額(金額は世帯ベース)を、年齢階層別にみたものです。どの年齢階層でも、受講経験が「ある」人の方が「ない」人より金融資産保有額は大きく、また、年齢が上がるにつれその差が広がっていることがわかります。
 20歳代では、受講経験が「ある」人の保有額は409万円、「ない」人の保有額は314万円で、その差は95万円ですが、60歳代になると、受講経験が「ある」人では2,234万円、「ない」人では1,717万円と、差額は500万円以上(516万円)まで拡大。しかも、老後資金として準備しておくべきひとつの目安とされる「2,000万円」を軸に考えると、受講経験が「ある」人はこのラインを超えているのに対し、「ない」人はまだ超えていない—という形になっています。

図表1 金融教育の受講経験有無別 金融資産保有額

 ちなみに、1年間に資産形成できた平均金額をみると、金融教育の受講経験が「ある」人では115.3万円/年、受講経験が「ない」人では100.8万円/年と、約15万円の差がありました。仮に、25歳~60歳までの35年間資産形成を続けたとすると、最終的な保有額の差は15万円×35年で525万円となります。前述した「受講経験の有無による60歳代時点の金融資産保有額の差は516万円」と、まずまず平仄が合うと言えるかと思います。

「老後資金2,000万円」を準備できた人の比率に1割の差

 続いて、金融教育の受講経験が「ある」人と「ない」人で、金融資産保有額が「2,000万円以上」の人の比率にどれぐらい差があるかを、やはり年齢階層別に見てみました。
 どの年齢階層でも、受講経験が「ある」人の方が「ない」人より比率が高いのは、先ほどの金融資産保有額と同じです。そして、受講経験が「ある」人も「ない」人も、40歳代を過ぎると、保有額「2,000万円以上」の人の比率が2倍、2倍と急上昇し、両者の差が拡大していきます(図表2)。
 60歳代では、受講経験が「ある」人で4割(39.4%)、「ない」人では3割(29.4%)と、ちょうど1割の差がつきました。年金生活を間近に控えた年齢でのこの差。金融教育は、「老後資金2,000万円問題」を考える上でも重要なファクターとなりそうです。

図表2 金融教育の受講経験有無別 金融資産を2,000万円以上保有する人の比率

 ただ、金融教育を受けたことが「ない」人でも、保有額が「1,500万円以上2,000万円未満」の層、言わば「2,000万円クリア予備軍」は7.9%と、ある程度厚みがあります(図表3)。金融教育を味方にしてのもうひと頑張りに期待したいところです。

図表3 金融教育の受講経験有無別 60歳代の金融資産保有額

 金融教育を受講することの資産形成効果をまとめると、
①60歳代時点の平均金融資産保有額が500万円以上アップ
②「保有額が2,000万円以上」の人の比率も1割アップ
—ということになります。
 「金融教育を受ける」というと、個々の金融商品の特徴や、「NISAについて」「年金制度について」「ドルコスト平均法について」といった個別具体的な知識の取得をイメージされる方が少なくないかもしれません。それはそれで非常に大切ですが、受講をすることで、「将来に向けて自分のお金を自分でマネージしていく」という自覚・意識が芽生える(人が多い)という点も見逃せません。
 意識の覚醒と具体的なノウハウの習得という2つの意味で、金融教育が老後のための資金づくりに果たす役割は大きいと言えるでしょう。

 次回は、金融教育の受講経験が「ある」人の中で、受講した時期によって金融資産保有額にどれぐらいの差が生じるのかをみてみます。