【第86回】
2022.12.28
前回のコラムでは、職場における金融教育が従業員の資産形成意識の高まりなどの背景から、職場においても資産形成に向けたサポートが従業員から求められている背景についてみてきました。
今回は、“企業目線”で、金融教育や資産形成支援に関する取り組み意義をみていきます。
昨今は企業においても「人的資本経営(Well-being(ウェルビーイング)経営)」が注目されていますが、その一環で従業員の経済的不安解消・資産形成支援の観点も取り入れられているケースが徐々に増えてきています。
経済協力開発機構(OECD)では、加盟各国に向けたOECD/INFE 職域における金融教育の実施手引を公表、職場で従業員に金融教育を提供することの重要性とともに、当該取り組みが企業活動においても好影響がありそうなことが示唆されています。
“Policy Handbook on financial education in the workplace”より
実際、欧州では取り組みが進んでおり、例えば、英国では2020年に「Financial Well-beingのための英国国家戦略」を策定、「金融教育」「貯蓄」「借入額の減少」「ローンのアドバイス」「ライフプラン設計」の5項目について、2030年までの数値目標を掲げ、行政だけでなく事業者等も協働して取り組んでいます。
また、上記英国の取り組みにも出てきましたが、“Well-being(ウェルビーイング)”の観点でも家計経済の支援を行うことの有効性がわかる事実があります。
この“Well-being”とは、簡単に言えば「個人の権利や自己実現が保証され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」とされています(厚生労働省 雇用政策研究会報告書 概要より)。世界幸福度ランキングのデータ元としても有名な米国調査会社ギャラップ社によると、Well-beingは下記の5つで構成され、もっとも重要な概念の一つとしてFinancial Well-being(ファイナンシャルウェルビーイング)があります。
このFinancial要素については、同社の調査において下記の事実があります。経済的な自立は、従業員の幸福度のみならず、その人の業務に対する姿勢にも波及することが示唆されていることがわかります。
(出所)『職場のウェルビーイングを高める』(日本経済新聞出版) ジム・クリフトン、ジム・ハーター著
Financial Well-being自体は、決して単純に“稼ぎが多い”“資産の保有額が多い”状態を示しているのではありません。当社では、「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定により、お金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」であると考えています。
日本においてはどうでしょうか。ミライ研では「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」において、「Financial Well-beingの重要性はどれほどか」を1万人にヒアリングしています。すると、下記の通り74%が「とても重要」「重要」「まあ重要」と答えており、経済的幸福度は重要度が高い要素であることがわかります。
また、フィデリティ社が行った日本を対象としたフィデリティ・フィナンシャル・ウェルネス・サーベイ調査によると、「経済的に安定していないと幸せでない」と答えた割合が73%に上っています。
以上のことを踏まえると、人的資本経営の中で、従業員のFinancial Well-being向上の取り組みは、企業にとっても有益であることがいえ、俄かに注目を浴びつつあります(関連リンク:ファイナンシャル ウェルビーイングが日本で注目され出している背景)。
次回はこのトレンドが“投資家”からみても注目されている観点にも触れていきます。さらに、本シリーズの最終回として、具体的な職場における金融教育の取り組み内容、今後の方向性についてお話しします。