【第85回】
2022.12.21
ここまでのコラムでは、複数回にわたって学校現場における「金融教育」についてみてまいりました。学生が家計経済との向き合い方を覚え、社会人になるときに金融リテラシーをしっかり身に付けておくことは、非常に意義深いものと考えます。
本コラム以降は、職場における金融教育や資産形成の支援に関する事情をみていきます。
ミライ研のアンケート調査によると、職場で金融教育を受けたと答えた方の割合は、おおよそ1割程度です(金融教育を受けた時期の詳細は、【第73回】「金融教育」が資産形成に与える影響は?ご参照)。こちらを見ると、まだまだ職場での金融教育は浸透していない状況であることがわかります。
では、職場で金融教育を受けた方の金融リテラシースコアは、受けていない方と比べてどれだけの差があるのでしょうか。下記データは、職場での金融教育を受けた方と受けていない方における、金融リテラシースコアの分布を「高リテラシー・中リテラシー・低リテラシー」の3つに分けて示したものです。これを見ると、教育を受けた層は受けていない層に比べて、高リテラシーの割合が高く、低リテラシーの割合が低いことがわかります。
職場における金融教育は、そもそも提供している企業・していない企業がありますので、従業員が受けたいと思っても機会がないケースもあるでしょう。一方で、従業員の資産形成に対する意識は高まっており、それは若年層に顕著です。例えば、資産形成を後押しする非課税制度であるつみたてNISAの口座数は、図表3の通り過去右肩上がりに増加しています。
一方で、このような国の制度だけでなく、会社における「資産形成をサポートしてくれる福利厚生制度の充実も、若い世代を中心に重視されている傾向がありそうです。図表4は、会社員・公務員に対し、「資産形成に関する福利厚生制度(財形貯蓄や企業年金、持株会、社内預金など、貯蓄・運用のための制度)の充実度が就職先選定に影響したか。」を問うたものです。調査結果をみると、20歳代では37.6%、30歳代では29.9%(およそ3人に1人)が「影響した」と回答、40歳代以降でもおよそ5人に1人は「影響した」と回答しています。
以上のことから、現状では、職場における金融教育の受講経験者は限られるようですが、受講経験者とそうでない方で、金融リテラシースコア分布にも差がありそうです。従業員の資産形成意識の高まりなどの背景から、職場においても資産形成に向けたサポートが、特に20歳代・30歳代の従業員から求められているようですから、企業として取り組む意義も高まっているといえるのではないでしょうか。
次回は、企業側が従業員の金融教育や資産形成支援に取り組む意義についてご紹介します。