【第20回】保険と資産形成②

ライフイベントにあわせた保険のスマートな使い方

2021.03.15

ライフイベントにあわせた保険のスマートな使い方

井戸社長に伺います。「保険」で備えるべきものと「貯蓄・積立投資」で備えるべきものとは何でしょうか?

 前回のコラムでお話しましたが、昨今は保険の種類も多様化してきています。しかし、「対象とできる」ことと「上手に活用する」とは同じではありません。起こりうるすべてのリスクに保険で備えを講じようと思えばできるかも知れませんが、その際の「保険料」などの費用面を考えると現実的ではないとお伝えしました。具体的には、保険で「カバーしたいリスク」と「そのリスクに相応しい商品」をイメージしていただくことが、ライフイベントにあった保険商品・サービスと出会う近道になります。
 今回は、「保険でカバーすべきリスク」とはどんなリスクなのか、お話したいと思います。
 図表1にイメージをまとめています。横軸に発生確率を、縦軸に経済的負担の大きさをとって、ライフイベントとして生じてくるリスクの種類をプロットしてみました。こうしてみると、「発生確率は低いけれど発生した際の経済的負担が大きくなるものほど、確りと保険で備える必要がある」といえます。

図表1 ライフイベントとして生じてくるリスクの種類(負担と発生確率)

 このイメージを念頭に、個人の主なライフイベントにおけるカバーすべきリスクについて、図表2にまとめてみました。

図表2  主なライフイベントとカバーすべきリスクの関係

 「発生が予測できない」カテゴリーの中で、経済的な負担や必要な費用が高額になるイベントが「保険」の特性が活かせるイベントだといえます。「世帯主が急に死亡された場合」や「世帯主が(怪我や病気で)仕事が続けられなくなった場合」「火災や風水害、交通事故が発生した場合」などが典型的ですが、こういったケースに備えて「定期保険」「収入保障保険」「終身保険」「医療保険」「特定疾病保険」「火災保険・自動車保険」などを上手に活用していくことがスマートな保険の活用術といえます。保険を活用するイベントがイメージできたところで、必要な保障額はいくらか、その保険料コストは適切か、カバーするリスクに対しての保険の重複はないか、などを検討するとよいでしょう。
 保険の検討や見直しの検討は、各世帯における「守る人」「守るもの」が変化した時(結婚する、子供が生まれた、家を購入した、車を購入した、など)がチェックいただくのに良いタイミングです。世帯構成の変化に応じて(たとえば、子供の独立に伴い夫婦2人の生活スタイルに移行など)、保険も組み替えや保障額の減額なども検証してみるとよいでしょう。

  • 図表2の出所:
  •  老後生活費用:厚生労働省「平成30年簡易生命表」、(公財)生命保険文化センター「平成28年度生活保障に関する調査」夫60歳、妻55歳時点の平均余命にて三井住友信託銀行が試算。なお妻1人期間の生活費は2人期間の生活費×70%にて計算。
  •  住宅購入費用:住宅金融支援機構「2018年度フラット35利用者調査」をもとに三井住友信託銀行が作成。土地付注文住宅の購入費用は、建設費と土地取得費を合わせた金額。
  •  教育関連費用:文部科学省「平成28年度子供の学習費調査」、「平成29年度私立大学等入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」、「国公私立大学の授業料等の推移」、日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」(平成30年度)、(独)日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査結果」をもとに三井住友信託銀行が試算。
  •  車購入費用:総務省統計局/小売物価統計調査(2019年)より「普通乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される普通自動車」の本体価格データより当研究所が試算。
  •  結婚費用:(株)リクルートマーケティングパートナーズ「ゼクシィ結婚トレンド調査2018調べ」
  •  死亡保険金支払い額:(公財)生命保険文化センター「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」世帯主の年齢別(30歳~54歳)の世帯主の普通死亡保険金額データから平均値を当研究所が試算。
  •  家屋火災の修繕費用:三井住友海上2019年10月版保険価額評価ハンドブックの新築費単価表「東京都K・H構造」から三井住友信託銀行が試算。
  •  自動車事故の賠償額:三井住友海上GKクルマの保険パンフレットより2005年5月17日名古屋地裁判決事例(バイクと衝突し被害者が後遺障害を負ったケース)

プロフィール紹介

三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長
井戸 照喜さん

 1989年 東京大学大学院工学系研究科修了、同年住友信託銀行入社(現・三井住友信託銀行)。
 年金信託部で企業年金の制度設計・年金ALM等に従事。その後、運用商品の開発・選定、年金運用コンサルティング等に従事。2008年からはラップ口座の運用責任者。2013年からは投信・保険・ラップ口座等の「預り資産ビジネス」全体を統括する投資運用コンサルティング部長を務め、2018年に(銀行ビジネスと保険ビジネスを信託銀行らしく融合させる)トラストバンカシュアランス推進担当役員。2019年 三井住友トラスト・ライフパートナーズ株式会社 取締役社長(現職)。
 日本アナリスト協会検定会員、年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。

【主な著作】
『KINZAIバリュー叢書 銀行ならではの“預り資産ビジネス戦略”──現場を動かす理論と実践』(金融財政事情研究会、2018)