【第216回】すそ野が広がる金融教育①
2025.11.26
日本における金融教育は、近年急速に制度化と体系化が進んでいます。
2024年4月に設立された金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、金融庁の方針に基づき、全国で講師派遣や無料相談、認定アドバイザー制度などを展開し、若年層から壮年層まで幅広い国民の金融リテラシーの向上と行動変容を目指す活動を推進しています。また、学生向けには、2022年に高校の学習指導要領が改訂され、高校家庭科や公民科において、家計管理、ライフプラン、資産形成、金融トラブルへの対応など、金融に関する学習内容が大幅に拡充されました。
果たして、国民に金融教育は浸透しているのか、また、金融教育の成果として家計行動に結びついているのか、ミライ研では2025年1月に全国1万人規模の調査を行い、金融教育の実態を調査しました。
金融教育の受講経験率は全年代でおよそ3割でした。
特に、若年層ほど高い傾向となり、18-29歳では48.5%と顕著に高い結果となりました(図表1)。

18-29歳に絞ると、25-29歳の受講経験が40.0%に対して、18-24歳は60.7%と大きな差がありました(図表2)。
特に18-21歳で顕著に高い傾向にあり、18歳では約9割に上ります。
これは、2022年の学習指導要領改訂により、高校での金融教育授業が拡充した影響と推察されます。
この流れが続くと仮定すれば、12年後の18-29歳の受講経験率は約9割まで引き上がることが予想されます。

若年層は、学校での金融教育により受講経験率が上がっていますが、社会人において金融教育を受ける経験はどこがあるでしょうか。
自身で学ぶ事も可能ですが、顕著に受講率に違いが出ているのが「企業型確定拠出年金(DC)」の加入経験の差です。
企業型DCの加入経験者は、そうでない人に比べて、社会人になってからの受講経験率が約3倍となりました(図表3)。
企業型DCでは、法令上、事業主が加入者に対し適切な所謂「投資教育」を行うことが努力義務となっています。そのため、企業型DCの加入経験者では「金融」について学んだと認識している人が多いものと想定されます。

金融教育の受講経験率は全年代で3割ですが、特に2022年の学習指導要領改訂により若年層の受講経験者が顕著に増加しています。今後も、若年層が牽引するかたちで国民の金融教育は浸透していくでしょう。
一方で、学校教育に加え、社会人向けの継続的な学習機会の整備が求められます。社会人における金融教育の機会としては、企業型確定拠出年金(DC)制度が重要な役割を果たしており、DC加入経験者は受講経験率が高いことが明らかになりました。
次回は、さらに一歩踏み込んで、学んだ経験がある人における「学んだ内容」にフォーカスしたいと思います。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。
