【第209回】 勤労者は金銭的報酬に満足しているのか①
2025.10.08
2025年の日本における賃上げ動向は、連合(日本労働組合総連合会)の春季生活闘争(春闘)において、歴史的な高水準を記録しました。
連合の最終集計によると、定期昇給分を含む賃上げ率は平均5.25%に達しました1)。
5%を超える水準は2年連続であり、連合の結成(1989年)以降では、1990年・1991年に次いで3番目の高さです。
また、石破首相は2025年1月の施政方針演説で、「賃上げこそが成長戦略の要」と明言し、物価上昇を上回る賃上げによって、国民の所得と経済全体の生産性向上を図ると表明しました2)。
また、内閣府「令和7年度 年次経済財政報告」では、米国トランプ政権の関税リスク等に言及されているものの、「我が国において、賃金と物価の好循環は回り始め、定着しつつある。」と指摘3)しており、労使双方の合意と政府の後押しによる賃上げが着実に定着へと向かう流れになっているといえます。
このように国内で賃上げが浸透しつつあるなか、働いている人達はそもそも「会社からの報酬」に満足しているのでしょうか。
ミライ研では、2025年1月に全国1万人規模の調査を行い、そのうち約7,600人の勤労者における「金銭的報酬4)」に対する満足度を調査しました。
アンケート調査では、勤労者の報酬水準への満足度を5段階(とても満足・満足・どちらでもない・不満・とても不満)で調査しました。
すると、報酬に満足している人の割合は全年代で21.6%にとどまり、不満を持つ33.5%に比べて少ないことが分かりました。
年代別では、若年層ほど満足度が高く、18~29歳は「満足」の回答割合が、「不満」の回答割合を上回る結果になりました。一方で、年代が上がるにしたがって、報酬満足度は減少傾向となりました(60代を除く)。
年収が高ければ、報酬満足度は上がるのでしょうか。
個人年収別で分析したところ、図表2のとおり、年収1,000万円付近までは、年収と満足度は比例して上昇していました。
しかしながら、「とても満足」「満足」の割合は年収1,000万円の層で頭打ちとなり、それ以上では、ほぼ横ばいとなりました(ただし、「とても満足」の回答者は増加しました)。
勤労者が報酬に満足している/いない原因は、単に金額の問題だけでなく、人事評価や業務内容など様々な要因が複雑に絡み合っていることが考えられます。
しかしながら、年代では40-50代における報酬満足度は低く、年収別では年収1,000万円程度で「満足」と答えた割合が横ばいになっている傾向が見て取れました。
次回は、報酬に対して「とても満足」「程度」との回答者を「満足している群」、「不満」「とても不満」との回答者を「不満がある群」と称し、この両者の「家計行動」の違いを考察していきます。
上記の記事に加え、より多くのデータをまとめたミライ研のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2025年)より
勤労者は金銭的報酬に満足しているのか −満足度向上のカギは金融教育と退職金水準の把握?−
を資産のミライ研究所のHPに掲載しています。
是非、ご覧ください。
コラム執筆者
清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。