【第179回】ミライのためのファイナンシャル・ウェルビーイング戦略④

金融行動がもたらすFWBの違い

2025.03.05

金融行動がもたらすFWBの違い

 ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being、以下FWB)とは、「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることにより、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」のことを指します。ミライ研が「FWBの充足度と年収の相関」について、国内1万人に実施した独自アンケート調査の結果では、年収が高いほどFWB度が高い人の割合が増える傾向がみられます。
 一方、「年収が高いのにFWB度が低い人」や「年収が低いのにFWB度が高い人」も相応の割合で存在しています。今回は同じ年収区分でもFWB度が高い人/低い人はどんな人なのか、その特徴を分析します。

年収とFWBの関係

 調査では、本人の年収を「700万円以上」、「300万円以上~700万円未満」、「300万円未満」の3区分に分けた上で、同じ年収区分でもFWB度が高い人/低い人について、それぞれ金融行動の特性を検証しました。
 具体的な金融行動とは、ミライ研がFWBの向上にむけて重要だと考えている「①学ぶ」「②把握」「③相談」「④行動」の4つのステップにおける、金融教育の経験、家計収支の把握、ライフプランの策定、公的年金の把握、外部知見の活用、収入減少時への備えの6つです。
 まず、「年収が高いのにFWB度が低い人」の特徴を確認すると、【図表1】の左側のようになりました。

  1. ①学ぶ:金融教育を受けた経験がある人が相対的に少ない。
  2. ②把握する:1カ月の収支を把握している人が相対的に少なく、特にライフプランを立てている人は2割弱と圧倒的に少ない。自分が受け取る公的年金の受給水準をイメージできている人は半分以下。
  3. ③相談する:将来設計に外部知見を活用している人が相対的に少ない。
  4. ④行動する:一時的に収入が減少する場合に備えて、生活資金を準備できている人が極めて少ない、

といった特徴がみられます。

 例えば、「ライフプランを立てている」と答えた方は17.4%にとどまりますが、収入が多くても今後の家計設計ができていないことから、現在及び将来の家計状態に不安を覚え、FWB度が低いのではないかと推察します。また、「収入減少に備えた準備がある」割合も16.4%にとどまり、他と比べて極めて低い結果です。
 さらに回答者の年代の分布を踏まえると、興味深い結果が浮かびます。各年収区分における年齢分布を確認すると、「年収300万円未満」ならびに「年収300万円以上~700万円未満」の区分では、18歳から69歳までの年代が大きな偏りなく分布しています。一方、「年収700万円以上」の層は、40~50代がおよそ3分の2を占め、年齢が高い層で構成されています。
 一般的には高年収で年齢も高い人たちは、所得面の余裕を活用して多様な金融行動に取り組む機会が増えそうに思われます。40~50代は住宅ローン返済や子の教育費などで出費がかさむ年代であるため、年収が高くとも家計収入の大半が費消されているような場合は、「稼いでいても資産形成が進まない」状態も想定されます。そうであれば「家計に自信が持てない」ことからFWB度が低くなるのも頷けます。

FWB度が高い人の特徴

 一方、「年収が低いのにFWB度が高い人」の特徴は、【図表1】の右側のデータに表れています。

  1. ①学ぶ:金融教育を受けた経験があると答えた人が相対的に多い。
  2. ②把握する:1カ月の収支を把握できている人が多く、ライフプランを立てている人が約半数と相当多い。自分の受け取る公的年金の受給水準をイメージできている人が半数を超えている。
  3. ③相談する:将来設計に外部知見を活用している人が相対的に多め。
  4. ④行動する:一時的に収入が減少する場合に備えて、生活資金を準備できている人が約6割にのぼる

 特に「年収が低くてもFWB度が高い人」は、家計の「把握」ステップに長けている人が多そうです。例えば、ライフプランを立てている人は47.6%と、FWB度が高くない層に比べ顕著に高くなっています。これは収入が限られていても、将来の見通しを描き、計画的な家計管理に取り組んでいることで、「この生活水準なら何とかやっていける」という安心感を持っているものと推察されます。
 また、「収入減少に備えた準備がある」割合も58.6%と6割近くあります。将来に向けた〝グッドタイム〟だけでなく〝バッドタイム〟も想定し、家計のレジリエンス(頑丈さ)を考えた準備行動をとっていると思われ
ます。

 FWBは、単に資産や収入の客観水準を上げることのみで高まると思われる方もいるかもしれません。しかし調査データには、年収が多いにも関わらずFWBを感じていない人、逆に年収が低くてもFWBを感じている人の金融行動の特徴があらわれています。FWB度を向上させるためのチェックポイントとして、有効であると考えます。

コラム執筆者

清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員

2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。

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