【第122回】《寄り道コラム》
2023.09.20
皆さんも実感されているところかと思いますが、このところ食品価格やガソリン価格、電気・ガス利用料金など、様々なモノやサービスの値段が上がってきていますよね(わたし自身も数か月前の電気代請求額に驚愕しました)。では、なぜモノの値段は変動するのでしょうか?
どういったメカニズムでモノの値段が決定されているのか、モノの値段が変動することで私たちの生活にどういった影響があるのか、今回の寄り道コラムはそんな「物価変動とお金」をテーマに、解説していきたいと思います。
世間で消費するモノの値段(=物価)は、そもそもどうやって決まっているのでしょうか?基本的には現在の競争市場においては、需要(そのモノの人気や欲しがる人がどの程度いるのか)と供給(そのモノがどれくらいの量、消費者に届けられるのか)のバランスが重要になります。これが値段の決まり方の基本原則で、値段の背後にはこのメカニズムが働いています。
例えば、スーパーに並ぶ野菜などは、その年の天候によって収穫できる量が大きく変わったりします。天候が良く豊作の年となると「供給」が多くなり、需要と供給のメカニズムが働いて値段は安くなります。逆に天候が悪く不作となり、消費者に届けられる供給量が少なくなれば、野菜の値段も高くなります。
また、毎年新製品が発表される家電製品などでは、最新型のものが発売されると、それまでに発売されていたものは型落ちとして人気が落ちてしまい結果として「需要」が下がるため、値段も下がります。
需給バランスに加えて、経済環境の状況も物価動向と深く関わっています。
物価が全体的に上昇していく経済状態を「インフレ」といい、モノがたくさん売れることで企業の利益や雇用が増え、従業員の所得が増え、消費や需要が旺盛になることで更に企業の売り上げも増加していくといったサイクルが発生します。消費者心理としても、「高くなる前に買っておこう」と考える人も増えるため、購買行動が増加しやすくなるといった特徴もあります。その一方で、過度にインフレが進むと個人の所得の増加が物価上昇に追いつけず、モノを買うのにたくさんのお金が必要になってしまうといった側面もあります。
インフレとは逆に、物価が全体的に下落していく経済状態を「デフレ」といいます。経済環境が不調となり、企業の業績は下がり、雇用も増えず、所得も上がらず、結果として、消費が落ち込み全体的に物価は下がっていきます。消費者心理としても、「もう少し待てばさらに下がるかも」と考えることで購買行動も控えめになるといった傾向にあります。
インフレ・デフレについて紹介しましたが、ではどういった経済状況が私たちにとって望ましい状態なのでしょうか?現在、日本銀行では年間2%の緩やかなインフレ実現を目標に掲げて政策方針を決定しています。インフレをゆったりとしたペースで進めることで、先ほどの説明の通り、企業の売上が増え、収益力も向上し、賃金が増え、消費が増えるといった、好循環のメカニズムを発生させることができます。
一方で、現実では「円安」の影響や、世界的な資源価格の高騰によって、それ以上のペースでインフレが進行してしまっているため、当初の目標である年間2%のインフレを実現するために、日銀が今後どういった政策をとるかについては注目する必要がありそうです。
物価変動を考える際に忘れてはならないのは、「お金の価値」についてです。貨幣の金額そのものが時間の経過とともに変わる、ということはありませんが、物価が変動することによって実質的なお金の価値は変動します。
例えば、日銀の想定通りインフレが年間で2%ずつ進行していくと仮定した場合のイメージが【図2】です。現在10万円の商品は、単純計算すると5年後には11万円になっています。一方で、その商品を買うために用意した10万円のお金は、現在であればその商品を購入することができますが、5年後には商品の値段は11万円に値上がりしているため、購入することができません。5年間の預金金利が仮に0.2%の水準だったとしても、インフレによる物価上昇スピードには追い付けず、お金を追加しなければ商品を購入することはできません。
お金の額面そのものは変わっていませんが、実質的な価値は、インフレ環境下においては目減りしていくということを理解しておく必要があります。
例ではインフレを取り上げていますが、デフレ環境下においては、逆にお金の価値が上がっていくことになります。
何気ないスーパーで買い物や、車への給油で、想定以上に費用が掛かるということもインフレ環境下では想定されますので、日々の生活に関係する物価動向については家計をやりくりする上でも、定期的にチェックしておく必要がありそうです。
ここまで物価変動の仕組みや、お金の実質的な価値についてお話ししてきましたが、現状の日本では物価は上昇傾向にあり、目指すべき政策方針としてもインフレを実現させる方向に動いています。こうした環境下では、インフレ率を上回る資産運用を目指すことは、自身のお金の価値を守る手段の一つにつながると思われます。「うちの家計ではまだ…」という方は、家計防衛の策として是非取り組んでみられてはいかがでしょうか?