【第102回】住まいに関する『持ち家VS賃貸』問題

〜 支出総額で比べてみると差はわずか?

2023.04.19

〜 支出総額で比べてみると差はわずか?

50年間で比較してみると…

 ミライ研では、2020年に『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(編著:ミライ研、発行:一社)金融財政事情研究会)という書籍を世に出させて頂きましたが、その中のコラムで、住まいに関する命題の1つである「持ち家派VS賃貸派、どちらが得か?」を考察しました。幸い、このコラムに各所よりご意見やコメントを寄せていただくことが多く、関心の高いのテーマであると認識しているところです。
 今回のミライコラムは、現在の諸数値を用いて、「住居費(住まいに関する総支出額)」という切り口で本テーマを再考していきたいと思います。

 考察の前提として、「期間」は50年間(世帯主が30歳代から50年間)とおき、「既婚・子有りの30歳代世帯が、ファミリーで生活する基盤としての住まい」を「首都圏」で準備するケースで考えてみます。

【先攻:賃貸派】

 ファミリー用ということで都内3LDKの賃貸マンション(家賃15万円)を1年目から30年間賃借し、31年目から20年間は、子供が独立したことを契機に都内2LDKの賃貸マンション(家賃10万円)に引越すものとします。
 インフレや家賃の高騰などは想定に含めていませんが、80歳代までの50年間に要する大まかな住居費として、約8,235万円と見込みました。

図表1 賃借派の住宅費用の見込み額(50年間)

【後攻:持ち家派】

 首都圏に土地つき戸建て住宅(物件価格5,100万円 ※住宅金融支援機構「2021年度フラット35利用者調査」を参考)を購入。頭金は物件価格の2割(1,020万円)とし、住宅ローンの借入額は4,080万円とします。
 ローンの返済額に関しては、返済期間や適用する金利水準・金利タイプ(固定か変動かなど)によって総返済額に大きな差が出てきます。
 賃貸派と比較するために、金利(固定)2%、返済期間35年のケースでの「購入時の頭金、諸費用、毎年の税金納付額、修繕費用(外壁塗り替え、躯体防蟻など)、シニア期のリフォーム費用」などを足元の平均な水準で見込み、足し上げてみますと8,310万円となりました【図表2】。

図表2 持ち家派の住宅費用の見込み額(50年間):前提 ローン金利(固定)2%、返済期間35年

 今回の住居費の試算結果としては、持ち家派が総額8,310万円、賃貸派が総額8,235万円となり、その差は75万円となりました。

持ち家派と賃貸派で異なる生涯住居費フローの波形

 今回の試算では、制度変更が多い「住宅ローン減税」の影響を勘案していませんので、現状のローン減税効果を織り込むと、持ち家派の住居費は試算結果より低くなります。一方、持ち家の修繕費なども上昇傾向が続いており、持ち家の状態などによって大きく変動し上乗せしなければならないかも知れません。また、購入時の頭金額、住宅ローンの借入金額、適用金利、返済年数の設定次第で、総支払額は大きく変動しますので、「生涯の住居費」を一概に「損か得か」で語ることは難しいと思われます。

 比較・対照してみますと「持ち家派」「賃貸派」で優劣を競うというよりも、各々の特徴が見えてきました。ポイントは、住居費には様々な『変数』があることです。具体的には、両者におけるライフイベントが異なること(引越し、リフォームなど)、イベントにかかる費用も異なること、などによって、結果として生涯の住居費フローの波形が異なってくる、だといえそうです。
 【図表3】に波形のイメージを掲載していますが、「賃貸派」は期間を通じて住居費フローの波高があまり変動しません。「持ち家派」は初期の購入費用(頭金・諸費用など)や途中のメンテナンス・リフォームで結構、波の高低がありますが、ローン返済完了後は住居費フローとして税金・管理費などが中心となるので、負担が減少し変動も小さくなります。
 ここで「人生100年時代」の視点から考えますと「長寿化」の影響がより明確に出てくるのは「賃貸派」といえそうです。「生きている限り、家賃の支払いが続くので、長寿化により家賃支払い期間も長くなる」という影響です。
 とはいえ、「賃貸派」は住居費フローの変動があまり大きくないので、ライフプランの変更に合わせた住み替えなどが行いやすく、大きな意味での「人生の選択肢」を将来に残しておくこともできます。
 「持ち家派」は「(土地・家屋という)不動産」を保有することで「老後の住み場所」を確保できることから、「老後生活期における住居費フローを小さくするための備え」と考えることもできます。老後の住居費を「家(土地・家屋)の所有という形で担保」するのか、それとも「家賃支払い原資を金融資産で準備」するのか、の違いが「持ち家派VS賃貸派」のポイントだと整理してみると「損か得か」議論から少し離れて、この問題が俯瞰できるように思います。

図表3 持ち家派と賃貸派の生涯住居費のフロー(イメージ)
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