【第93回】シンガポール通信

~ 世界のインフレ事情 ~

2023.02.15

~ 世界のインフレ事情 ~

 今回から3回に亘って、シンガポールの経済・暮らしに着目した“シンガポール通信”をお届けいたします。執筆は昨年からシンガポール支店に赴任しているミライ研の研究員が担当します。

シンガポールはどんな国?

マリーナベイ・サンズとマーライオン

 シンガポールは、東南アジアのほぼ真ん中に位置しており、日本と比べると面積・人口ともコンパクトな国です。面積は約720㎢で東京23区と同程度、人口は約580万人で日本の人口(約1.26億人)の20分の1程度です。また、1965年にマレーシアより分離し、シンガポール共和国として独立してから、2023年に建国58年目を迎えるなど、比較的若い国でもあります。
 ビルに巨大な船が乗るマリーナベイ・サンズや、マーライオンなどの観光スポットが有名ですが、金融経済の観点からみれば、アジアの金融都市として、香港と双璧をなしており、足元の香港での社会的・政治的変化により、さらにアジアの金融ハブとしてシンガポールへの注目が高まっているところです。
 そんなシンガポールですので、GDPを日本と比較してみると、名目GDPは圧倒的に日本が上回っている一方で、一人当たりGDP(ドル)は、日本の1.85倍にもなります。

図表1 GDP(ドル)の比較

 全3回のコラムでは、日本とシンガポールの共通点・相違点をみながら、各種取り組みやシンガポール国民の暮らしに触れていきます。日本と同じように少子高齢化や年金問題を抱えるシンガポールの取組や、国民の資産形成事情などをお届け予定です。
 今回は、世界的に進むインフレに着目します。

世界的に進むインフレ、日本の立ち位置は?

 昨年(2022年)は、世界的な資源価格の上昇や商品市場の高騰などを背景として、各国でインフレーションが進みました。日本も例外ではなく、光熱費や食料品などの生活コストが大きく上昇した年となりました。
 世界のインフレ事情を日本と比較してみましょう【図表2】。
 ここでは、消費者が日常的に購入する商品やサービスの価格に関する指数である「消費者物価指数(CPI)」で、世界と日本の物価を比較しています。

図表2 消費者物価指数(月次、前年同月比)

 英国、米国、シンガポール、日本の消費者物価指数の推移の比較グラフですが、日本と比べてみると2021年初あたりから他国の物価指数は上昇をはじめ、足もとでかなりインフレが進んでいることが確認できます。ちなみに、筆者が住むシンガポールでは、民間住宅賃料がわずか1年で3割強も急騰するなど、インフレを肌で感じています。背景には、コロナ禍での建設の遅れにより物件の新規供給が不足している一方で、各種コロナ規制の緩和に伴い外国人の住宅需要が拡大し、需給がひっ迫していることなどがあげられます。
 欧米よりかは穏やかですが、食料品の値上がりも目立ちます。シンガポールの名物ローカル料理であるチキンライスも、筆者の通うお店では半年前と比べて20%近く値上がりしました。原材料や光熱費や従業員にかかる費用などコストが上昇しているため、様々なお店で値上げはされており、その影響を大きく感じています。
 世界規模でインフレが進展する中、どこまでインフレ基調が続くのか、どの水準で落ち着くのか、は議論がありますが、インフレが個人の(読者の皆さんの)家計に与える影響について考察していきます。

インフレによってお金の価値が目減りする

 インフレが進むと(モノの価値が上がると)、実質的にお金の価値が下がります。例えば、【図表3】のように、インフレが進むと以前は100万円で購入できた宝石も同じ金額では購入できなくなり、「お金を足さないと買えなくなる」状況となります。

図表3 インフレによる変化 / 物価変動により実質的資産価値の変化

 物価が上がったのであれば、家計で使えるお金も増えてくれないと、家計は苦しくなるばかりです。一般的に、「良い」インフレであれば、モノやサービスの値段が上がる→企業の売り上げが上がる→従業員の給与が上がる→消費行動が盛んになる→需要が供給を上回る→モノやサービスの値段が上がる・・・といった循環となるはずですが、足もと日本では、こういった循環サイクルは顕在化してきていないようです。直近、何社か賃上げに取り組む企業がニュースで取り上げられていますが、「従業員の給与が上がる」かどうか、春の賃上げ動向に注目が集まっています。